一ヶ月以上更新していなかったので何か記事をと思ったところ、サカ・チナさんの『R.O.D』シナリオ書き起こし記事が面白かったので、
以前期間限定で無料公開されていた、人気シットコム『ウレロ』シリーズの舞台版第一弾『ウレロ 未公開少女』の台本を自分で書き起こしておいたものを載せてみます。面白さが伝わって宣伝になれば幸い。
文字数の都合上3つの記事に分割しましたが、結果として三幕構成が浮かび上がってきました。
一幕目・23時間テレビ開幕
・各キャラクター紹介
・ハプニング発生への対処
二幕目・23時間テレビ続行中
・あかりと充希を中心に人間関係のこじれ
・ハプニングの加速と、事件の予兆
三幕目・23時間テレビ佳境へ、事件勃発
・すべての黒幕が明らかに
・クライマックス
伏線に満ちながらアドリブの多さも魅力の舞台なので、一部流れがおかしい箇所もありますが面白かったので残しました。
『ウレロ 未公開少女』
作 オークラ
土屋亮一(シベリア少女鉄道)
登場人物
川島 川島プロ・社長(劇団ひとり)
升野 ハイパーメディア総合クリエイター(バカリズム)
飯塚 川島プロ・マネージャー(東京03・飯塚)
角田 川島プロ・作曲家(東京03・角田)
豊本 川島プロ・アルバイト 兼探偵(東京03・豊本)
あかり 川島プロ・事務員 兼マンガ家(早見あかり)
充希 みちのくササヒカリテレビ・AD(高畑充希)
オニゾウ みちのくササヒカリテレビ・マスコットの着ぐるみ
ここまでのあらすじ
アイドルグループUFI(ユフィー。演じるはももいろクローバー。メンバーの一人でキャバ嬢のゴリナは社長川島の愛人)の売り出しに成功した弱小芸能事務所・川島プロこと『アットマーク川島プロ』だが、その成功の立役者・プロデューサーかつ超能力者でもある升野は川島プロを去っていた。残された社長川島、マネージャー飯塚、作曲家角田、アルバイトでいて特殊工作活動に従事する探偵でもある豊本、事務員でいて人気少女マンガ家早乙女ニャン子としても活躍するあかりは、東京を飛び出し地方のテレビ局まで出張にやって来たが......?
〇 みちのくササヒカリテレビ・控室
真っ暗なステージ。
背景にデジタル時計が表示され、カウントは今16時ジャストを迎える。
飯塚の声「もしもし社長? どういうことですか、ちゃんと説明してくださいよ」
照明点くと、ここは地方テレビ局の控室。
向かって右側(上手)にエレベーター、
左側(下手)にスタジオへの扉があり、
扉の上からは2階の通路が伸びている。
テレビ番組の内容を確認する「モニターチェック」時だけ、
1階の照明が暗転してこの2階の通路がスタジオになる。
マネージャー・飯塚がケータイで通話して立っているのはステージ中央。
その右側にテレビモニターを乗せた簡易な会議机とパイプ椅子。
ステージ後方には楽屋へ続く仕切り板と、弁当の積まれた机、長椅子。
その隣りにおにぎりの顔をした着ぐるみ・オニゾウが放置してある。
飯塚「なんでUFIがこんな仕事しなきゃいけないんですか?、僕何も聞いてないんですけど。て言うか社長今どこにいるんですか?、あ」
飯塚、電話を切る。
飯塚「クソ、なんで留守電なんだアイツ。どこ行ったっ」
飯塚、エレベーター前の上手からはける。
入れ違いにエレベーターが開き、携帯で通話中の社長・川島が登場。
川島「そんなにガミガミ怒るんじゃないよ。仕方がないだろ、男には男の付き合いってもんがあるんだ。聞いてるのか、ゴリナ。え?、お前がそういう態度ならな、こっちにも考えがあるんだっ」
と怒気を強めるが、急に弱気に。
川島「え?、ごめんごめん言い過ぎた。え?、いつもの罰?、わかったよ。大至急ね、ハイハイ」
電話を切る。
飯塚、上手から戻ってきて川島と目が合う。
飯塚「あ、社長っ」
川島、スタジオへ逃走。
飯塚「待てっ」
追って飯塚もスタジオへ駆け込む。
しばらくして、へとへとの飯塚がスタジオから出てくる。
飯塚「なんて逃げ足が速いんだ」
疲れて長椅子に座り込み、手にしていた台本に目を落とす。
飯塚「しっかし、大丈夫かこの番組」
するとオニゾウが動き出し、飯塚の隣りに黙って腰を下ろす。
気配を感じて振り返る飯塚。しばしオニゾウを凝視。
飯塚「……えっ、何?」
驚いて長椅子を離れる。
飯塚「なに、不審者?、ねえ」
オニゾウ、横柄に長椅子にもたれかかる。
飯塚「超ふてぶてしいよお。なんだよコイツ。テメエなんなんだよコラ、怖くなんかねえぞオラ」
飯塚が声を荒げて近づくと、立ち上がるオニゾウ。
飯塚(ビビって)「うわあっ、おおう......あっち行けよ。あっち行けってんだよっ」
オニゾウ、ふてぶてしく立ち上がり、下手へ向かう。
飯塚「行けよオラ。いつでもやってやんぞオラっ」
オニゾウ、パッと振り返りファイティングポーズ。
飯塚(ビビって)「うわー......怖っ、あっち行けよ、早く出てけよオラっ」
オニゾウ、ふてぶてしくスタジオへの扉の手前、下手へはける。
飯塚、オニゾウの退場を確認すると、スタジオに向かって遠吠え。
飯塚「いつでもやってやっかんなっ」
スタジオから、紙袋を抱えたAD充希が出てくる。
飯塚「ぶち殺すぞオラアっ」
充希、紙袋を落とす。
飯塚「あ、ごめんなさい、すいません。違います違います。なんか不審者みたいな人がいたから」
充希、硬直して飯塚を凝視。
飯塚「怯えないで」
充希「......ヤクザですか?」
飯塚「ヤクザじゃないです。なんてストレートな質問してんだよ。や、違います。UFIの、UFIの」
飯塚、紙袋を拾おうとするが、充希が先に拾い上げる。
飯塚「UFIのマネージャーの飯塚です。こちらのスタッフの方ですか?」
充希、未だヤクザを見るような目。
飯塚「や、あのヤクザじゃないから。社長見ませんでした?、社長」
充希「社長?」
飯塚「黒いスーツを着た、リーゼントの、マフィアみたいな......」
充希「マフィアっ!?」
飯塚「いや違う違う違う」
充希「私知りません、私何も知りませんっ」
充希、過剰に怯えて、スタジオへ逃走。
飯塚「違うの。例えで言っただけで、ヤクザでもマフィアでもないからっ」
飯塚も追ってスタジオへ駆け込む。
2階の通路に川島が出てくる。
周囲に誰もいない事を確認するとおもむろに脱衣を始める。
パンツ一丁になって携帯のカメラを自分の尻に向ける。
そこへ飯塚が入ってくる。
飯塚「何してんすかっ」
川島「うわああっ」
川島、逃げ出し、中央の階段を伝って1階へ降りる。
飯塚も追って降りて来ると、川島はパンツ一丁のまますっ転ぶ。
飯塚「何やってんのっ?」
川島、パンツ一丁のまま泣きそうな顔。
川島「......」
飯塚「早く履けよっ」
川島、立ってズボンを履く。
飯塚「なんで、あんなとこで急に脱ぎだしたんだよ」
川島「ちょっとゴリナを怒らせてしまってな。その罰として、今からケツの穴の写真撮って送らなきゃいけないんだ」
飯塚「どんな罰だ」
川島「相手に完全に負けた時ケツの穴を見せるのは、動物として当然だろ?」
飯塚「それ本当にゴリラの話だろうよ。ていうかなんでケンカしたんですか」
川島「ちょっと、チンチロの件でなぁ」
飯塚「チンチロ?、もう次から次へとわけわかんねえなあ。そんなことより社長、なんすかこの仕事。説明してくださいよ」
川島「説明も何も、普通の仕事だろ?」
飯塚「いやいやいや、普通じゃないでしょ。これ台本読みました?」
飯塚、手元の台本の題を読み上げる。
飯塚「『みちのくササヒカリテレビ、開局23周年記念番組、23時間テレビ。ササヒカリの伝説見せまっせ』。なんすか、これ」
川島「だから、UFIの出る番組だよ。いい番組だろ?」
飯塚「いやいやいや。そもそも23時間テレビってなんだ、あと1時間がんばれよ」
川島「そりゃお前、開局23周年記念だからだろ」
飯塚「23周年は別に記念じゃねえよ。23を記念にしてたらもう毎年やんなきゃいけねえわ。あとこのサブタイトルなんなんですか。『ササヒカリの伝説見せまっせ』。なんで急に関西弁なんだよ。見せまっせ、じゃねえんだよみちのくのクセによ、俺大っ嫌いだこういうのっ。で、23時間放送すんのにこのうっすいペラペラの台本なんすか」
飯塚、ペラペラの台本をめくる。
飯塚「成立しないでしょ。6ページだぞ!。これじゃMCやる人地獄でしょうね。で、そのMCを務めるのが?」
川島「UFIだ」
飯塚「出来る訳ねえだろお前っ、絶対ムリだよ。て言うか、UFI本人はこれやるって言ったんですか?」
川島「言ってない。これから伝える」
飯塚「は?、23時間テレビのMCを今日の今日でいきなり言われて、出来るわけないでしょ。オメ、バカかよっ」
川島「バカとはなんだバカとは」
川島、机を叩いて席を立つ。
川島「そもそもお前が体調不良で一週間も休んで入院するからこんなことになるんだろうが」
飯塚「はあ?、升野さんがクイーンステージ行って以降、UFIの管理全部俺が一人でやって来たんだぞ?。そりゃ体調も崩すだろうがっ」
川島「だーかーら、高いメロン持ってお見舞いしたでしょう?、そしたらお前、『うまぁい、メロンうまぁい、社長もう一生ついて行きますぅ』ってお前そう言ってきたじゃないかよ」
飯塚「......言ったよっ」
川島「もう無理だぞ、引き受けちゃったんだから」
川島、会議机の椅子に座る。
飯塚「もう何してくれてんですか。ここのテレビ局ちょっとおかしくないですか?、いくら地方局とは言え人けが無さ過ぎますし、なんか不審者みたいなのいたし」
川島「不審者?」
仕切り板の向こうから、アコギの音色。
角田の声「せい、せい、せやっ」
長淵調の歌声が伴奏に乗る。
角田の声「♪ ここでこのまま野垂れ死にたい
何も出来ぬなら 野垂れ死にたい
腹をすかして野垂れ死ぬ
腹をすかして野垂れ死ぬ
野垂れ 野垂れ 野垂れ 野垂れて
死にたい 」
飯塚「うるせーっ」
仕切りの向こうの小部屋から、作曲家・角田がギターを手に登場。
角田「うるせーってなんだお前は」
飯塚「え、角田さんずっとそこにいたんですか?」
角田「当たり前だろ。俺はこの23時間テレビ、メインテーマの作曲家だぞ」
飯塚「は?」
角田「台本見てみろよ」
飯塚、台本をめくる。
飯塚「『視聴者からFAXを募集。それを詞にして、エンディングで出演者一同で大合唱』。なんですか、これ?、パクリじゃないですか」
角田「とにかくこの栄誉ある詞の作曲に、UFIの作曲家である俺が選ばれたんだよ。いや、まいったぜ。こんな田舎にまでよ、俺の名前が轟いてるとはなあ」
飯塚「完全にUFIのバーターだろ」
角田「升野っ、俺はいつかお前を越えてみせるっ」
飯塚「ちょっとまだ怒ってるんですか角田さん。升野さんが角田さんをクイーンステージに一緒に連れて行かなかったのは、あの人なりに考えがあったんですよ」
角田「そんなことはどうだっていいんだよ。それよりよ、さっきの曲どうだった?」
飯塚「さっきの曲?」
角田「うん。あれをな、23時間テレビのメインテーマにと思ってんだよ」
飯塚「あの、野垂れ死にたいとかいう?」
角田「そうそう、♪ここでこのまま」
飯塚「うるさいよ、お前は」
角田「途中で止めんなよ。で?、ここまで聞いてどう思ったんだよ」
飯塚「だから、うるさいよ」
角田「うるせえってなんだよお前」
飯塚「お前が感想聞いてきたんだろ」
角田「......あ、『うるさい』が感想なの?。言ってたの?、ずっと」
飯塚「ずっと。で、歌詞は視聴者の募集なんでしょ?、今のでいいわけ無いじゃないですか」
角田「ちょっと勘弁してくれって、お前。俺この曲作るのにさ、一昨日から泊まり込みさせられてんだぞ?、しかも社長からよ、曲が出来るまではメシ抜きだとまで言われちゃっててさ。もういい加減この辺でOKもらわねえと、俺 ♪死んじまうよ」
角田、歌いだす。
角田「♪野垂れ 野垂れ」
飯塚「流れでいくな。うっとうしいな」
川島「角田!」
川島、席を立つ。
川島「お前の歌はその程度か?、いいか、歌ってのは魂の叫びだ。お前の魂、出してみろ」
角田「OKわかったよ、魂見せてやるよ」
川島「見してみろよ、おら」
角田「♪ここでこのまま 野垂れ死にたい」
川島「出せんのか、魂」
角田「♪何も出来ぬなら、野垂れ じ~」
川島「ほお?」
角田「♪に~」
川島「おお?」
角田「♪いいい~」
飯塚「なんなんすか、その出す/出さないのくだり」
川島「だったらよ......もっと早い段階で、出せないのかい?」
飯塚「もういいよ、その発注なんだよ」
角田「出してやるよっ、♪ここでこのまま の~ お~ たあ~っ」
飯塚「出さなくていいよ、なんなんだよこれ」
川島「結構早かったな、今」
角田「早く出しました」
飯塚「意味わかんねえよ」
川島「しかし角田よ、歌ってのは心の中の真実、そういうのを吐き出すもんだろ?」
角田「心の中の真実?、そうか……そうだ。俺が歌いたい歌は、こんなんじゃねえっ」
飯塚「......歌詞は募集だっつってんだよっ」
角田「俺が歌いたいのは、あかりちゃん、君への想いだ」
角田がギターをかき鳴らすと同時に、
上手から事務員兼漫画家のあかりが登場。
角田「俺は、あかりちゃんが ♪大好きなーんだ~ せいやっ」
あかり、ギターの弦を鷲掴み。
角田「?!」
あかり「邪魔なんでどいてください」
飯塚「なんて無残な止め方なんだ」
あかり「社長、はい」
あかり、買い物袋を川島に渡す。
川島「悪いな」
あかり「はーい」
飯塚「あかりちゃん、どこ行ってたの?」
あかり「社長に頼まれて胃腸薬買いに行ってたんです。昨日、ゴリナと社長と夜ご飯食べに行ってたんですよ。折角地方に来たんだから何か美味しいもの食べようって。ここの、ササヒカリってお米知ってます?」
飯塚「いや知らない」
あかり「すっごく美味しいんですよ。それで、社長食べ過ぎちゃったんですよね?」
飯塚「社長と3人で?」
あかり「違いますよ、ここMSTの社長さんと一緒で、凄いおごってもらっちゃいました。3軒もハシゴしたんです。社長なんて、何万もする高いお酒頼んでもらって」
川島「おいおいあかり。もう、その辺でいいだろう」
飯塚「ちょっと待ってください。社長......それってもしかして」
角田「そっから先は俺に言わせてくれ」
角田、前に出てくる。
角田「で、何が一番うまかったんだ?」
飯塚「どうでもいいわ、入ってくんなそんなことで。社長、そんなことよりこの仕事、そんな接待で引き受けた仕事じゃないでしょうね」
川島、口ごもる。
あかり「飯塚さん、どういうことですか?」
飯塚「いやおかしいと思ったんだよ、こんな番組にUFIの出演はおろかMCまでさせるなんて。アンタ、ここのテレビ局の社長に相当な接待受けたな?」
川島「......」
飯塚「駄目ですよ、こんな仕事断りますからね?」
川島「いや、そういう訳にはいかないんだよ。ここの社長にはもう随分と接待受けちゃってな?、それこそゴリナのキャバクラで色々とお金落としてもらったり。あかりとゴリナと俺と3人で銀座の高級料亭で御馳走になるわ、高い土産もらうわ。あかりなんてさ、その社長が早乙女ニャンコのファンだってわかった途端だよ?、高級画材一式買ってもらったりしたんだから、今さら断れないだろう?」
あかり「社長最低です。UFIを接待に売ったんですかっ」
飯塚「お前が言うなよ。画材買ってもらってんだろうが」
あかり「あれは仕方なかったんです。新連載の為にあの画材は必要だったんです」
飯塚「言い訳になってないから。確信犯じゃないか」
角田「あかりちゃんの為なら、俺も全財産投げ打つぜ?」
飯塚「角田さん、邪魔」
角田「邪魔なのか......」
飯塚「とにかく、この仕事断りますからね」
川島「今さら断れないって。な、あかり?」
あかり(手もみ)「ま、そうなりますよね」
飯塚「ふざけんな、これはUFIに対する裏切り行為だっ」
あかり「裏切りなんかじゃありません。そこにはゴリナもいました」
川島「はーい、逆転逆転。UFIも共犯♪」
あかりと川島、調子に乗る。
あかり「はーい、私たちUFIのこと裏切ってなっいー」
川島「裏切ってなっいーっ」
飯塚「うるせえっ、断るっつってんの」
エレベーターが着き、みちのくササヒカリテレビの社長・江田島が登場。
江田島「やあ、昨日の夜は楽しんでいただけましたか?、これから23時間、よろしくお願いします」
江田島と川島・あかり、互いにお辞儀。
川島「お願いします」
江田島「こちらの方(飯塚)は?」
川島「あ。UFIのマネージャーの飯塚です」
江田島「あー、病気で入院していたという。みちのくササヒカリテレビ社長の江田島です」
江田島、飯塚に手を差し出す。
飯塚「あ、どうも初めまして」
飯塚が握手すると、手にすがるようにおでこを擦りつける江田島。
江田島「このたびはもうありがとうございますぅ、UFIさんにMCやって頂けるなんてビックリしちゃってもう嬉しくて嬉しくて、飯塚さん、ああ飯塚さん飯塚さん」
飯塚「ああ飯塚さんとかやめてください。で、あの、この仕事……」
江田島、手を離すと川島に近寄る。
江田島「それにしても、東京の夜は楽しかったですね。川島社長、あの銀座の料亭、すげえ高けえっ、ビックリしちゃった。ニャンコ先生、あの画材は使っていただけていますか?、あのバカみたいに高かったあの画材っ、ねえ。あでも全然気にしないでください、もうUFIさんの為ならなんてこと無いんですよ?」
飯塚「その仕事なんですけども」
江田島「あ、そうだ。(飯塚に)メロン食べていただけましたか?」
飯塚「......メロン?」
川島、うなずく。
江田島「病気で入院したって聞いたんでね。10万円もする。10万ですよっ?、メロンがっ!、領収書くださーいって叫んじゃった。いかがでしたか?、最高級のメロンは」
飯塚「あのメロン、ですか?」
川島「食べましたよー、メロン。そりゃもう美味しそうに食べてましたなー、飯塚」
飯塚「あー......食べました」
江田島「なら良かったあ、よろしくお願いしますよ」
江田島、引き返しがてら川島に、
江田島「うまくいったら、チンチロですからね?」
川島「チンチロですよね?」
江田島「じゃあ、後ほど」
江田島、上手からはける。
川島「飯塚、これでお前も共犯だ。この仕事」
川島とあかり、揃って飯塚に振り向く。
川島・あかり「断るわけにはいかない」
飯塚「汚いやり方しやがってっ」
椅子に座って話を聞いていた角田が立ち上がる。
角田「ちょっと待ってくれ。俺は?......俺はその接待の中に入ってないぞっ」
あかり「社長、チンチロってなんですか?」
角田「会話の中にも入っていない」
川島「チンチロか、わからん。多分こっちの方言だと思うんだが。あの社長何かと言えばチンチロって言うんだ。これは俺の勘だが、きっとエロいことに間違いない。田舎の接待と言えばエロは基本だからな。『上手くいったらチンチロ』、これはきっと番組が成功したらチンチロなお店に連れていってくれると言うことだ」
飯塚「長々なんの説明してんだよ。そんなんどうだっていいんですよ、どうするんですか23時間こんなペラペラの内容で。UFIのMCどうやって成立させるんですか?」
川島「大丈夫だっ」
川島、キメ顔の後で、
川島「だいじょうぶだあ」
飯塚、思わず吹いて笑う。
あかりも笑っている。
飯塚「いい加減にしろよお前」
川島「俺だってバカじゃない、考えがある」
エレベーターが着き、アルバイト兼探偵・豊本が登場。手には資料。
豊本「社長、調べて来ました」
川島「よくやった豊本。この町の調べは着いたのか?」
豊本「俺をナメるな。いかに知らない土地と言えども、この豊本探偵事務所にかかればお茶の子さいさい」
川島に資料を手渡す。
飯塚「まさか社長、豊本にこの地方の情報を調べさせて、UFIのMCに活かそうと」
豊本「違―うっ、俺は社長に依頼され、この辺にあるチンチロっぽい店を徹底的に調べ上げただけ」
飯塚「何してんだお前は」
豊本「OHシット!」
飯塚「やかましいわ」
豊本「チンチロシット!」
飯塚「何?、チンチロシットって」
豊本「大人のシット!」
飯塚「うるさいわ」
川島「よーし、よくやったぞ豊本。この仕事成功させて、一緒に、ヘルス行こうぜ」
飯塚「いや、チンチロって言っとけよ」
飯塚、思わず笑ってしまい、川島をはたく。
飯塚「チンチロで統一しろやあっ」
あかり「社長最低です。ゴリナっていうものがありながら、何がチンチロですかっ」
飯塚「いや、あかりちゃん」
あかり「チンチロ、チンチロ、チンチロっ」
飯塚、あかりを抑えに入る。
飯塚「あかりちゃん、やめよう」
あかり「チンチロっ、最低ですっ」
飯塚「違う、あかりちゃんがチンチロって言っちゃ駄目。一旦席外して。もう『ヘルス』って出ちゃってるから」
あかり、堪えきれず笑う。
川島「大丈夫だ、ゴリナにはちゃんと話した。そしたらえらいブチ切れてな、それでケツの穴の写真を送って来いと」
飯塚「なんでそれでチャラなんだよ」
角田「ねえ社長。そのチンチロの件、俺も乗っかれんのかよ」
川島「もちろん、いい曲が出来たらな」
角田「よっしゃよっしゃ、今夜はチンチロじゃーっ、最高の曲書くからな。でも俺さ、流石に腹減ってんだよ、あの弁当食わしてくれよ、頼むよ。いいだろ?」
角田、弁当に近寄る。
角田「これ全部種類一緒だよな?」
スタジオから充希が飛び出して、
弁当に手を伸ばした角田の腕にチョップ。
充希「せいっ」
角田「痛ってっ、何すんだお前はっ?」
充希「すいませんっ」
角田「すいませんじゃねえよお前、誰なんだよっ」
川島「あー、この子はね、ここで働いてる、ADの高畑充希ちゃん」
飯塚「あ、ADさん?、なんなの急に」
充希、激しくどもって何を言っているのかわからない。
飯塚「ハッキリ喋れよ」
充希「あの、このお弁当、食べちゃダメなんですよ」
角田「なんで用意された弁当喰っちゃいけないんだよ」
充希「このお弁当食べた人は、みんな病院に運ばれました」
飯塚「は?、どういうことそれ」
充希「ひっ......いや、だから。あ。だあ」
飯塚「ハッキリ喋れよお前っ」
充希、やけになって早口でまくしたてる。
充希「あーだからもう、23時間テレビのスタッフがみんなこのお弁当食べまして、食中毒になりまして、で病院に運ばれまして、今、私ひとりしかいないんです」
飯塚「ええっ?」
川島、角田、あかり、嘆息。
飯塚「なんでそれ早く言わないの?」
充希「すいませんっ、うちの社長が、なんとかするから大丈夫だって言いまして」
上手から江田島が出てくる。
江田島「はいはい、どうしましたどうしました?」
飯塚「いやADの子が、スタッフがみんな食中毒になったって」
江田島、充希に喰ってかかる。
充希「すいませんっ」
江田島「(激昂)すいませんで済んだら警察要らねえんだよっ。(冷静に)とは言え要るけどな、警察は」
飯塚「知らないっす」
江田島「いないと困るからな」
飯塚「知らないっす」
飯塚、笑いをこらえ、
飯塚「論点が相当ズレてんだよ。どうするんですか?」
江田島「どうするとおっしゃいますと?」
飯塚「だからこの23時間テレビ、中止じゃないんですか?」
江田島「なんでですか」
あかり「なんでって、普通、スタッフ全員いなかったら中止ですよね?」
江田島「いやダメですよ、何がなんでもやってもらわないと。UFIさんに23時間乗り切ってもらわないと」
飯塚「いや無理ですよ、そんなの」
長椅子で台本を読んでいた川島、おもむろに口を開く。
川島「飯塚。やる前から無理だなんて、情けないこと言うな」
角田、おもむろに立ち上がる。
角田「そうだぜ、飯塚」
豊本、おもむろに足を組む。
豊本「俺も、やれると思うな」
飯塚「......お前ら全員チンチロ目的だろ?」
江田島「大丈夫なんですよ。実は私のツテを頼って、東京の、技術も出来る腕のいい制作会社にね、大至急連絡したんですよ。えっと、なんつったっけな」
江田島、胸元から名刺を取り出してチェックする。
江田島「あ。クイーンステージエンターテイメントって会社です」
エレベーターが開き、サングラスをかけたプロデューサー升野が
携帯で気取って話しながら登場。
升野「ああ、そうだ。ああ、わかってる。大丈夫だ、総合演出は俺がやる。うん?、なーに問題ない。俺を誰だと思ってるんだ。そうだろ?、俺に任せろ。いいな?」
升野、携帯を切ると江田島に挨拶。
升野「あ、どうも私クイーンステージエンターテイメント、ハイパーメディア総合プロデューサーの、ゼウス升野と申します」
江田島と名刺交換。
升野「早速ですが、台本の方は?」
あかり、嬉しそうに升野に近寄る。
あかり「升野さん」
升野「お前たち、お久しぶりゼウス?」
江田島「お知り合いなんですか?」
角田「なんで升野がここに来てんだよ」
升野、角田に振り向く。
升野「誰だこのハゲ」
角田「角田だろうよっ」
升野(冷静に)「角田か」
角田「そうだよ?」
升野「急遽うちの制作会社に連絡があってな。話は全部聞いた。UFIの為だ、俺に任せろ」
角田「いやいやちょっとちょっと、なんで升野さんがテレビの演出なんてやってんの?」
あかり(嬉しそうに)「知らないんですか?、あの後升野さん、(UFIのライバルグループ)『ビクトリア』をいち早く復活させて、そのプロデュース能力が買われて」
升野、増長してポーズが気取っていく。
あかり「今クイーンステージの映像制作会社の、取締役もやってるんですよ。『今一番クリエーターぶってるクリエーター』って、雑誌に載ってたんですっ」
飯塚「俺もその雑誌見ました。あ、後あれも見ました、升野さん特集の、『情熱南大陸』」
升野「おっと、チヤホヤするのはまた後にしてくれ。今は目の前の問題を、まずは片づけようゼウス?」
飯塚「でも升野さん、大丈夫ですか、スタッフ全員いないんですよ?」
升野「それなら心配ない、俺の部下たちを連れてきた。カメラ、照明、フロア、ブース、すべてのプロたちがスタジオでスタンバっている。あとは俺が指示を出すだけだ。俺に任せろ」
飯塚「カッコイイー」
升野「ゼウスだろう?、じゃ台本」
充希「あ、はい」
江田島「早く、早く」
充希、慌てて台本を升野に渡す。
升野、これでもかと気取った台本の読み方をする。
全6ページをペラペラとめくる。
升野「なるほど。なるほど。なる......なる......」
飯塚「もう、『ほど』も言わないんですね」
升野「うんわかった、これ無理だ」
飯塚「なんだお前」
升野「飯塚っ、無理なもんは無理だ。ジタバタすんな」
飯塚「いや、もうちょっとあがけよアンタ」
江田島「いや、ちょっと待ってください。無理ってどういうことですか?」
川島「大丈夫ですよ」
川島、自信を持って前に歩み出る。
川島「升野は、そんなやわな男じゃありません。おい升野……お前ちょっとこっち来いよこの野郎っ」
川島、ヤンキー口調になって升野の背中を強く押す。
川島「俺の見込んだ男はこの程度の男だったか?、テメエ逃げんのか、どうなんだよっ」
川島、メンチ切る。
升野もすかさずメンチを切り返す。
川島・升野「ああーんっ?」
メンチ状態のまま、サングラスを外す升野。
升野「上等だよ。お前ら何ビビってんだあ?、シャバいシャバい。この俺様のお、パッションがあ、ギャラクシーに達した時い」
あかり、充希、飯塚、笑っている。
升野「こんな仕事お、屁でも無いんだゼウスっ?」
飯塚「もう語尾にゼウス付けるのやめろよ」
川島「そうか、わかった升野。社長ご安心ください。この男が、いや『アットマーク川島プロ』が、この危機を乗り切ってみせますよ」
江田島「本当ですか?」
川島「ええ。その代わり、うまくいったらチンチロですよ?」
飯塚「もうチンチロいいよ」
江田島「うまくいったらチンチロ以上ですよ」
川島「よっしゃ、やってやろうぜっ」
升野(台本を読み)「じゃ頭から整理していこう。まず、19時に本番開始。UFIのオープニングトークあって、マラソンがスタート。これどういうことですか?」
江田島、升野の前に出て説明。
江田島「あ、これはですね、今回の目玉企画の一つで、なんと142,195キロマラソンです」
飯塚「なんですかそれ、100キロマラソンのパクリじゃないですか」
江田島「パクリって言ったか?、あっちは......」
飯塚「『あっち』って言っちゃってるじゃないですか」
江田島「あっちは100キロマラソン。こっちは142,195キロ……長いじゃない」
飯塚「うん、パクリですよそれ」
江田島「それをうちの女子アナが走るんですよ」
升野「で、その女子アナと言うのは?、どこにいるんですか?」
言いよどむ江田島と充希。
充希「あ、あの、あの」
飯塚「ハッキリ喋れよ」
充希「女子アナの人も......食中毒で病院に運ばれました」
升野「え、じゃあ女子アナいないの?、どうすんのこれ、目玉企画でしょ」
飯塚「もう、これ中止にするしかないんじゃないですか?」
江田島「ちょっと待ってくださいよ中止だなんてとんでもない、これ無かったら困りますよ。(飯塚に)メロン喰っといてなんだお前はーっ、中止になんかするもんかーっ」
飯塚「......メロン喰わなきゃ良かったーっ」
升野「そうだ、ゴリナだゴリナ。ゴリナに走らせよう」
豊本「確かに。142.195キロを走れるのは、ゴリナか、本物のゴリラしかいない」
升野「よし社長、ちょっとゴリナを説得してくれ」
川島「わかった。じゃあとりあえず升野、これお願いしていいか?」
升野「うん」
川島、升野に携帯を渡すと、服を脱ぐ。
升野「どうしたらいい?」
川島「ちょっとケツの穴、写真撮ってもらっていいか?」
升野「ああ、うん」
川島、ズボンを下ろして升野に(そして客席に)尻を向ける。
升野、携帯のカメラを尻に向ける。
升野「これは、ライトは点けた方がいいのか?」
川島「ああ、そうだな。で、こう肛門がカッて開く瞬間があるから。開いた瞬間に撮って」
升野「うん。わかった」
飯塚、川島を蹴り倒す。
飯塚「いい加減にしろっ」
オープニングテーマが流れ出し、暗転。
川島「開いた開いた開いたっ」
飯塚「開いてねえわっ」
2階の通路がスクリーン代わりになり、キャスト紹介映像が流れる。
プロジェクションマッピング。映像は次第に舞台全体に広がる。
曲は在日ファンク『ウレロ!のテーマ2』特別版。
♪ ウレロ! ウレロ!
先を見ろよ! 作らなきゃ無いのさ
ウレロ! さえろ!
頭の中甘い物溶けてなくなる前に
ウレロ~ ウレロ~
後にも先にも類を見ないほど
ウレロ! ウレロ!
君が見ろ! 筋書きは無いのさ
ウレロ! ウレロ!
ラララララ 車欲しいし
大きなテレビが見たいし
ラララララ
頼むから ウレロ☆未公開少女
背景デジタル時計。16時から一気に進んで19時へ。
明るい音楽が流れて23時間テレビの開始を告げ、照明点灯。
無人の控室に、スタジオから飯塚、升野、あかりが出てくる。
飯塚「いやー、なんとか無事始まりましたね」
升野「どこが無事なんだよ、アイツらパニック起こして本番直前まで泣きわめいてたぞ」
飯塚「そりゃ23時間テレビのMC、今日いきなりやれって言われたら動揺するでしょう誰だって」
あかり「いやいやいや、あれは動揺なんてものじゃなかったですね。うふっ」
あかり、嬉しそう。
あかり「さあやなんて泣いてトイレに籠もるし、ももりんなんて急に逃げ出して、2時間も。2時間も行方不明だったんですよ、あはははっ、面白い」
飯塚「怖えな、何が面白いんだよ。UFIにトラブルが起こると絶対そのテンションになるよな」
あかり「あははは」
飯塚「まあ、ももりんも無事見つかって、スタート出来たんだから良かったでしょう」
升野「よくないだろ、お前なんでこんな大事な仕事を本人たちに伝えないんだ」
飯塚「いや、すいません。でもこれ社長が取って来た仕事なんで」
升野「あのバカ社長どこ行ったの?」
飯塚「ゴリナが絶対マラソンなんか走りたくないって言ってて、その説得してます」
升野「ふざけんなお前、もうマラソンまで20分ないぞ?」
飯塚「大丈夫です、社長を信じましょう。あの人は、やる時はやる人です」
エレベーターが着き、額から血を流し青アザ作った川島が出てくる。
川島「すまん、遅くなった」
飯塚「社長?!、どうしたんすか」
川島「ちょっとチンチロの件で軽くこじれたからな。何、話せばわかってくれたよ」
飯塚「軽いこじれで出てくる血の量じゃないんですけど」
川島「今回はビシッと言ってやったよ。チンチロの何が悪い、男にはチンチロの付き合いがあるんだ、チンチロの1つや2つでガタガタ言うんじゃないってな」
飯塚「ずい分チンチロを使いこなしてますね」
升野「おい、チンチロってなんだ?」
あかり「あ、チンチロって言うのは」
升野に近づくあかりを飯塚が遠ざける。
飯塚「あかりちゃん駄目、あかりちゃんが説明しちゃ駄目、席外して」
升野「おい、なんだ?、チンチロって」
飯塚「要はエロいことです。こっちの方言で、そう言うそうです」
升野「ふーん。ああ、チンチロね。はいはいわかるわかる。俺はアレだわ、そういうの中学で卒業したわ。あかりにはまだ早いな、それな」
飯塚「お前、ダメな童貞みてえだな」
川島「とにかく、ゴリナにはマラソンを走らせる。ただ少し変更したい点がある」
升野「変更?」
川島「ああ、とは言え少しだけだ。142,195キロマラソン。このキロの部分を、ミリに変える。それだけだ」
飯塚「どういうことですか、142,195ミリってこと?」
川島「ああそう言う事だ、142,195ミリだ」
升野「ふざけんなお前、142,195ミリって言ったら14センチじゃねえか」
川島「そうだよ。簡単だよお前、1歩でスタートつったらもうゴールつってさ」
川島、可愛く一歩を踏む。
川島「スタートつったらもうゴール」
もう1度かわいく一歩。
升野「ふざけんなお前は」
升野、川島に腹パン。
升野「行ってこい早く、説得して来い」
川島、笑いながら、良い声で、
川島「わかったよ」
飯塚「何カッコつけてんだよ」
川島がエレベーターに乗り込むと、
入れ違いにスタジオから豊本が飛び出す。
豊本「大変だっ」
飯塚「どうした豊本」
豊本「ももりんが、号泣し始めた」
飯塚「はっ?、ちょっと何」
飯塚、会議机上のテレビをリモコンで点ける。
飯塚「本当だ、ももりん超泣いてんじゃん、これなんで?」
豊本「わからない、これと言って変わったことはなかったし。まぁ変な化け物が突然スタジオに入ってきて、ももりんに抱きついたくらいで」
飯塚「絶対それだろ。あ?、アイツ、さっきいた怪しい奴だ」
豊本「あれ演出じゃなかったの?、それじゃわかんないよ、OHミステリアス! OHミステリアス! OHミステリアス!」
冷たく見ていた升野。
升野「おい豊本。なんだ?、ミステリアスって。なんで急に英語で喋り出した?」
豊本「いやいや、俺のギャグ。え、覚えてないの?」
升野「なんだそれは。もう終わりでいいか?」
豊本「……リアルミステリアス!」
升野(モニター見て)「こりゃ不審者だなぁ、おい豊本、引きずり出せ」
豊本「わかった」
豊本、スタジオへ走る。
升野(呼び止め)「いいか?、UFIを動揺させるな。UFIにはあくまでも演出だと思わせろ。その隙に連れ出せ。いいな?」
豊本「わかった」
豊本、スタジオに入る。
飯塚「升野さんが直接行って指示出した方がいいんじゃないですか?」
升野「それは無理だ」
飯塚「なんでですか?」
升野「飯塚。久しぶりに会ったUFIたちは、俺の想像を超えるほど輝きを増している。そんな中俺が直接演出などしたら飯塚、俺は緊張して失禁してしまう。だから俺が優秀な部下たちを集めたんだ」
飯塚「別にカッコ良くないですからね?」
升野「それにだ飯塚。俺もプロだ、3時間もすれば慣れる。しかもUFIの目さえ見なければ飯塚、会話をすることだって夢じゃない」
飯塚「実現しなそうじゃねえかよ」
豊本がオニゾウともみあってスタジオから出てくる。
豊本「大人しくしろ、おいっ」
飯塚、オニゾウにつっかかる。
飯塚「テメエ何者だオラ、UFIのファンか?」
オニゾウ、首を横に振る。
飯塚「ウソつけお前、UFIに会いたくて変装して入ってきた侵入者だろ」
オニゾウ、飯塚にパンチ。
飯塚「痛てっ、何すんだこのっ」
飯塚、オニゾウにパンチ。
倒れるオニゾウに馬乗りになり、タコ殴り。
飯塚「ブチ殺すぞこの化け物、コラ、コラ」
スタジオから紙袋を手に充希が出てくて、目の前にその光景を目撃。
紙袋を落とす。
充希「ちょちょちょ」
慌ててオニゾウをかばう。
充希「何してるんですか」
飯塚「アンタこいつの知り合いか?」
充希「......ヤクザ」
飯塚「ヤクザじゃねえつってんだろ」
執拗にオニゾウを襲う飯塚を、後ろからあかりが力づくで引き離す。
あかり「飯塚さん離れて。(充希に)ねえ知り合いなの?」
充希「はい。彼は、この地域で人気の、みちのくササヒカリテレビのメインキャラクター・オニゾウくんです」
飯塚「人気?、この化け物が?」
充希「オニゾウくんはうちの地域の名産ササヒカリのおにぎりで出来た鬼です。化け物なんかじゃありません」
飯塚「『おにぎりで出来た鬼』はもう化け物なんだよっ」
升野(台本読み)「おい、これ台本、出演オニゾウって書いてあるぞ。こいつ23時間出ずっぱりなの?」
充希「あ、はい。スタジオから突然引きずり出されて私ビックリしちゃって。何かあったんですか?」
飯塚「そんなキャラクターだとは知らなくて」
オニゾウ、飯塚につっかかる。
飯塚「本当申し訳ないです」
升野「メインテーマの歌詞募集の告知、オニゾウとUFIって書いてあるぞ?」
充希「はい。23時間テレビメインテーマ歌詞募集の告知、オニゾウとUFIにお願いしようかなって思ってまして。スタンバイはよろしいですか?」
豊本「それは駄目だ。俺がさっきスタジオから追い出す時の乱闘を見て、UFIは完全に、オニゾウにビビりまくっている」
升野「じゃ、誰が告知やんだよ」
あかり「角田さん。角田さんがオニゾウくんとやればいいんじゃないですか?、作曲家が告知するのはおかしくないし」
升野「それで行こう。角田は?」
飯塚「たしか、作曲中じゃ」
飯塚、仕切り板を覗きに向かう。
飯塚「あ、いない」
升野「どこ行ったんだ?、あのハゲ」
エレベーターが開き、息も絶え絶えの角田が出てくる。
升野「何してたんだよ」
角田「ももりん探したんだよっ、ごめんあかりちゃん、俺あかりちゃんに頼まれてももりん探した」
角田、必死にあかりに土下座。
角田「一生懸命探した、でもどこにもいないんだよっ、県境行った。県境にもいないっ、県外行ったアイツはっ」
角田、あかりに這い寄り、あかり引く。
飯塚「怖えよ」
角田「ごめん、あかりちゃん。もう、ももりん無しでやるしかねえよお」
飯塚「角田さん。ももりんならもう、出てますけど」
角田「え」
飯塚「メール来てませんでした?」
角田「メール?、(携帯確認)来てねえよ?」
あかり「ごめんなさい。私、角田さんのメール知らないんで」
角田「......聞けよ誰かにさっ」
升野「どうでもいいから。おい角田、お前今からテレビ出て、歌詞募集の告知して来い」
角田「とてもじゃないけど今そんな体力残ってないよ」
飯塚「いや角田さん、テレビ出て(カンペを見せ)この告知すればいいだけですから」
角田「......じゃあメアドだよ」
角田、あかりを見る。
角田「メアド」
あかり、呆れ顔。
角田「おい、この女が俺にメアド教えてくれたらやって......」
あかり(遮り)「嫌です」
角田「クッソおーっ、行って来るかあーっ」
角田、スタジオへ入る。
充希「オニゾウくんも」
充希に連れられて、オニゾウも続く。
飯塚「大丈夫すかねえ?」
升野「いや、ちょっと無理かも知れないな」
エレベーターが開き、より血を多く流した川島が出てくる。
川島「いやあ、すまん遅れた」
飯塚「社長?!」
川島「話は進んでるよ、お互いクールにな」
飯塚「ウソつけ血出てんじゃないですか。で、ゴリナなんて?」
川島「まあ、ゴリナにこう言われたよ。(ビートたけし風に)あのー、川ちゃん」
飯塚「ちょっと待って。それ、誰すか?」
川島「ゴリナだよ。ゴリナがそう言ったんだよ」
飯塚「あ、そうすか」
川島「(ビートたけし風に)あのー、川ちゃん」
飯塚「ゴリナそうしないでしょ?」
川島「(ビートたけし風に)川ちゃんがね、私を愛してくれているというね、証明をしてくれないとですね、オイラ走る気になんないなぁ、なんつってですね」
飯塚「オイラ?」
川島「(ビートたけし風に)で、そのままやっちゃったりしてね」
飯塚「やかましいわ」
川島「(ビートたけし風に)あー、気持ちイイ。バカ野郎。なんつっちゃってね」
川島、ビートたけし風にステップ。
飯塚「好きなことしていい場じゃねえんだぞ、ここはっ」
川島、笑いをこらえる。
飯塚「ゴリナが、社長の愛を証明しなきゃ駄目だって言ってたんですか?」
川島「よくわかったなあ?、その通りだ。ゴリナへの愛を証明する為に、手紙を書くことにした。もうしばらく時間をくれ」
川島、仕切り板の向こうへ。
飯塚「大丈夫かよ。あかりちゃん、ちょっと頼むわ。ゴリナの説得お願い」
あかり「はい」
あかり、エレベーターへ。
豊本「そろそろ告知のコーナー始まるんじゃないですか?」
豊本がリモコンでテレビを点ける。
会議机のモニター前に集まる豊本、飯塚、升野。
会議机の薄明かり残して場内暗転し、
照明の当たる2階の通路がスタジオになる
(モニターチェック時の仕様)。
スタジオに出てくる角田とオニゾウ。
角田「おいお前らっ、よく聞きやがれっ」
おどけるオニゾウ。
角田「今からお前らの想いをこの番組に送って来いっ、そしたら俺様がよっ、歌にしてやるよっ」
飯塚「なんでずっとキレてんだコイツ」
角田「魂のこもったメッセージだったらなんでもいいよっ、例えばまぁ、こういう事だ」
角田、ギターを弾き鳴らす。
角田「♪ ここでこのまま野垂れ死にたい」
飯塚「この歌好きだな、アイツ」
オニゾウ、野垂れ死ぬ歌に合わせて踊りだす。
角田「おい邪魔すんなお前、距離を取れ」
角田とオニゾウ、もみあってはける。
照明点灯。
飯塚「なんだったんだ一体これは」
川島、手紙を手に戻ってくる。
川島「よし、ゴリナへの手紙書けたぞ。悩んだけどな、自分の素直な気持ちを書くだけで良かったんだよ」
飯塚「今、それどころじゃないんすよ」
升野「もう駄目だよ、こんな番組さあ」
升野、駄々をこねて泣きだす。
升野「なんなんだよ、無理だよ」
飯塚、慌ててなだめる。
飯塚「大丈夫です、落ち着いてください」
升野「番組の冒頭からMCは号泣するし、告知はすげえ変なのがやってるし、こんな、(号泣)こんな番組無理コプター」
飯塚「なんだ無理コプターって、しっかりしろお前は」
江田島、拍手しながら上手から登場。
江田島「いやー素晴らしいじゃないですか。番組冒頭から声を詰まらせて涙を流して、さすがUFIさん。スポンサーも感動したと高評価です、ありがとうございます」
升野、すっくと立ち上がり、
升野「すべて、計画通りです」
川島「こんな苦労してるんだから、夜のチンチロ、Wでお願いします」
飯塚「ラーメン二郎か」
江田島「W?......ああ、そうだ、あの。(川島の流血を見て)大丈夫ですか?」
川島「ああ、はい」
江田島「これを渡すのを忘れていました」
江田島、川島に原稿を渡す。
川島「なんですか?」
江田島「実はですね、マラソンのスタート直前に、県会議員さんが挨拶するんですけど、それを入れて欲しいんですよ」
川島「わかりました」
江田島「あの、雑に扱わないでくださいよ?、とっても大事な原稿なんですよ。ぶっちゃけ、それ読んでもらわないと不味いんですよ」
飯塚「どういうことですか」
江田島「まぁ、簡単に言いますとスポンサーへの気遣いですね。実は地元の30周年を迎えるサラ金会社なんですけど、この番組の大口スポンサーなんですよ。実は私、約束しちゃったんです、最初にドカーンと宣伝しますよって」
飯塚「......県会議員さんの挨拶にサラ金の宣伝入れちゃ不味くないですか?」
江田島「だからさり気なくだよさり気なくっ」
飯塚「なんだこのキレ様は。どういう内容なんですか?、ちょっと見せてください」
飯塚、川島から手紙を受け取る。
飯塚「『僕はあなたが必要だ。僕はあなたとチンチロしたい』なんすかこれ?」
川島、焦って手紙を奪い返す。
川島「こっち」
本当の原稿を渡す。
飯塚「『春風が心地いい季節になりました。今回この23時間テレビ』……もう全然頭入ってこねえわ、さっきのなんなんすか?」
川島「ゴリナに対する愛の手紙だよ」
江田島「じゃ、頼みましたよ?」
江田島、かかってきた電話に出ながら上手からはける。
エレベーターが開き、あかりが出る。
飯塚「あかりちゃん、ゴリナは?」
あかり「説得してみたんですけど、やっぱり社長の愛が証明されるまでは、機嫌は直らないですね」
川島「じゃあ俺、ゴリナに手紙渡してくるわ」
飯塚「お願いしますね?」
川島がエレベーターに乗り込み、
スタジオから角田、オニゾウ、豊本が出てくる。
角田「なんなんだよ俺の邪魔しやがって」
飯塚「なんなんすか?」
角田「俺は悪くねえぞ、コイツが歌ってる時に邪魔してくるから……」
オニゾウ、角田の背中に蹴り。
角田に馬乗りになり、タコ殴り。
豊本「いい加減にしろっ」
豊本、チョップでオニゾウを離す。
代わって豊本が角田に馬乗りタコ殴り。
角田「人が代わっただけじゃないかっ」
スタジオから充希が出てくる。
豊本、関節技を決めて立ち上がる。
飯塚「強えな豊本」
豊本「当たり前だ、俺がいつまでも升野に負け続けてると思ったら大間違いだ。俺はこの数ヶ月、事務所の仕事を一切しないで修行した」
飯塚「仕事はしろよ」
充希、豊本に感激している。
充希「......凄い、凄いですよ。あなたでしたら、鬼相撲大会に出たら優勝できるかも知れませんっ」
充希、はしゃいだ後で我に返る。
充希「あ、すいません興奮しちゃって」
あかり、戻ってくる。
飯塚「鬼相撲って、何?」
充希「鬼相撲って言うのはこの地域に昔から伝わる伝統行事で、この後20時からチャンピオンとチャレンジャーの取り組みをスタジオで生放送するんです。で、今年も多分最強チャンピオン『キックのムラサワさん』て方が優勝すると思うんですけど、もしあなた(豊本)が出てくださるなら、なかなかいい試合が出来るんじゃないかな、と思います」
まんざらでもない豊本。
飯塚「......相撲なのにキックとかいいの?」
充希「鬼相撲は土俵で戦いますが、基本なんでもありのバーリトゥードです。で、相手がギブアップするか死ぬまで勝負は終わりません」
飯塚「......それ、ただの殺し合いじゃね?」
充希(即答)「そうです」
飯塚「そうですじゃねえよ。君、鬼相撲のこととなるとよく喋るんだね。ただの殺し合いだろ?」
充希(即答)「そうです」
飯塚「そうですじゃねえよ」
角田「冗談じゃねえよ、やってらんねえよ俺はもうこの仕事降りるぞ。大体なんだよコイツ(オニゾウ)、こんなのがイメージキャラクターのテレビ局って最低だな。お前もお前だよ(充希)、ゲストが酷い目に遭ってるんだから止めろよ。こんなクソみてえな地方局には、クソみてえなADしかいねえんだなっ」
飯塚「言い過ぎでしょうよ、角田さん」
充希「すいませんっ、確かにクソみたいな地方局かも知れません。誰も期待してませんし、誰も注目してませんし......」
飯塚「いやあの、気にしなくていいよ」
充希「でもっ、でも私、このみちのくササヒカリテレビが大好きなんですよ。まあ今はこんなですけど、昔はもっとキラキラしてまして。私が子供の時に、このオニゾウくんを主人公にした『泣くな、オニゾウ』っていう子供番組やってたんですけど、私それ大好きでいつもテレビにかぶりつくように見てて。『オニゾウくん』、怖いけど熱血な『鬼パチ先生』、クラスメイトで誰よりも力強い鬼の力士『鬼の富士』。そして怖がりだけど誰よりも心優しい『鬼ミイラ』。歌が上手な『鬼渕トンボ』」
飯塚「なんだそのキャラの名前は」
充希「みんなのマドンナ『鬼子ちゃん』。口下手で喋りの苦手な『紙芝居おじさん』」
飯塚「鬼関係ねえじゃん」
充希「とっても素敵な番組でした。だから皆さんがなんと言おうが、私はこのみちのくササヒカリテレビが、大好きなんです」
一瞬だけしゅんとする角田。
角田「......かーんけーいねえーっ」
オニゾウ、ダッシュで角田のみぞおちに突き。
角田「あ、痛てえ、入った」
角田、ダウン。
飯塚「ありがとうございます」
オニゾウ、お辞儀。
江田島、携帯で通話しながら上手から入る。
江田島「もしもし?、先生困りますよ、なんとかして来てくださいよ、もしもーし?」
電話、一方的に切られる。
升野「どうしたんですか?」
江田島「いや県会議員の車が故障しちゃって、ここに来るの間に合わないって言ってるんですよ」
升野「最初の挨拶ですよね?、それはじゃあ、違う人が読めばいいんじゃないですか?」
江田島「いや、それが駄目なんですよ。サラ金会社はね、県会議員がテレビで宣伝してくれるならってことでスポンサーになったんですよ。まいったなぁ」
升野「そう言われましてもねえ」
エレベーターが開き、顔が血で染まった川島が降りて来る。
飯塚「社長?!、どうしたんすかあっ」
川島「ゴリナにやられた」
飯塚、川島をパイプ椅子に座らせる。
飯塚「あかりちゃん、治療」
あかり「え?」
充希「こっちに救急箱ありますよっ」
充希とあかり、スタジオへ。
川島「ゴリナに手紙を渡したら、ビリビリに破かれて、楽屋に入って鍵を掛けられた」
飯塚「あんなチンチロなんて書くから」
あかり、救急箱を手に戻ってくる。
飯塚「ちょ早く、手当て手当て」
あかり「はい」
あかり、川島の顔に包帯を巻いていく。
江田島「何やってるんですか、それどころじゃないでしょう。頼みますよ、ねえ」
升野、はたと机を叩く。
升野「いい方法があるっ、江田島社長、この男(川島)、県会議員にしましょう」
江田島「何言ってるんですか?」
升野「だから、包帯を顔にグルグル巻きにして、県会議員ってことにしちゃえばいいんですよ。社長、さっきの原稿は?」
川島、胸元の手紙に触れる。
川島「これか?」
升野「うんOK。豊本、社長をスタジオへ連れて行って、この原稿読ませろ」
豊本「わかった」
豊本、川島に手を貸してスタジオへ。
升野「急いで。で、あかり、あかりはゴリナをもう1度説得してくれ。それでも駄目なら、俺のギャラクシーパッションで蝋人形にするから」
飯塚「しちゃダメしちゃダメ、なんとか説得して?」
あかり「はい」
あかり、上手へはける。
江田島(感心)「東京のプロの方は違いますね。『情熱南大陸』出てましたもんね」
升野「後で、同録お渡しします」
飯塚、会議机に残されたビリビリの原稿を目にする。
飯塚「あ!、升野さん」
升野「え?」
飯塚「これ」
飯塚、江田島に聴かれないよう升野を隅に連れていく。
升野「なになになに?」
飯塚「さっきの、ゴリナがビリビリに破いた社長の手紙なんですけど、あれ違います」
升野「何?」
飯塚「あれ挨拶文の原稿でした」
升野「え?」
飯塚「あれを見せたからゴリナ怒ったんですよ」
江田島、残されたビリビリの原稿を開く。
升野「てことは今、社長が持ってったのは、ゴリナへの愛のメッセージ?」
江田島「なんだ?、なんでスポンサー宣伝の原稿が、ビリビリに破れてるんだっ?」
飯塚「いや、これは」
江田島「これがここにあるという事は、あの男は一体何を読むつもりなんだ。ここでつまずいたらこの番組終わりだぞ、このままじゃチンチロになんないぞっ」
飯塚「いや、そんなエロいこと今言わなくていいじゃないですか」
江田島「何を言ってるんだ?」
豊本、スタジオから出てくる。
豊本「社長の挨拶、始まります」
飯塚「え?」
オニゾウと起き上った角田も会議机にやって来て、
飯塚がテレビを点ける。
モニターチェック。
スタジオに現れたのは、顔中に包帯を巻いたスケキヨ状態の川島。
飯塚「怖えよっ」
川島「聞いてください」
川島、手元の手紙を読み始める。
川島「僕には何より、大切なものがあります。それはあなたです。僕はあなたが必要だ。僕はあなたとチンチロしたい」
飯塚「止めて止めて」
豊本、スタジオへダッシュ。
升野「急いで急いで」
川島「周囲の人間は知らないと思いますが、僕は、あなたが30歳だということを知っています。しかし、それは恥じることではないっ、むしろ30を過ぎてからの方が、良いチンチロが出来るんですっ」
飯塚「何言ってんだよ」
川島「僕は、あなたと、海へ行き、山へ行き」
飯塚「知らねえよ」
川島「人に見られながらチンチロしたいっ」
飯塚「テレビで何を言ってんだお前はっ」
升野「せめて家でやれよ」
川島「僕の硬くなったチンチロがっ」
豊本が飛び込んで、川島を引っ張る。
川島「あなたのマンチロにっ」
豊本、川島とはける。
飯塚「アイツ言ったぞっ、ギリで言ったぞっ」
升野「テレビでマンチロって言ったぞ」
照明点灯。
江田島、机を叩いて立ち上がる。
江田島「なんだこれはっ」
升野と飯塚、頭を下げる。
升野「すいませんっ」
飯塚「すいませんでしたっ」
江田島「......素晴らしいじゃないか」
飯塚「え?」
飯塚「ちょっと待ってください。チンチロってどういう意味なんですか?」
江田島「『貸し借りは無い』っていう、こっちの方言だよ。いや確かに、『30過ぎてからの方がいいチンチロが出来る』。これ良いキャッチコピーですよ」
升野「すべて計画通りです」
江田島「30周年をね、30歳に例えるなんて凄いですよ、考えてるなら言って言って、もう」
升野「ありがとうございます」
飯塚「なんか上手くいきましたね」
包帯川島と豊本、戻ってくる。
飯塚「後は、ゴリナだ」
エレベーターからあかりが出てくる。
あかり「ゴリナが、ゴリナが」
飯塚「どうした、あかりちゃん」
あかり「今の社長のスピーチに感動して、部屋を飛び出しました」
飯塚「どこ行ったんだ?」
テレビから、観客の歓声が聴こえる。
飯塚「あ。ゴリナ走ってます。ゴリナがマラソン中継に映ってますよ」
升野「ゴリナ、社長の言葉に感動して走り出したんだ」
飯塚「社長っ......ゴリナって、30なんすか?」
川島「そう。アイツね、サバ読んでんの」
暗転。