『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(3)

 

   背景デジタル時計。一気に15時へ進む。

   歓声が聴こえる。

   照明点灯。

   テレビを見ている升野、川島、江田島

江田島「見てください、この中継先の盛り上がりっぷり」

升野「すげえ人集まってんじゃん」

江田島「20万人います」

升野「20万人?!、村の人口越えてませんか、それ」

江田島「もちろん、UFIさんあっての事なんですけどね。元々、地元の若者にも人気があって、毎年格別の賑わいを見せるんですよ、この村伝統の、呪い米祭りは」

升野「呪い?、祝う祭りじゃなくて、呪いなんですか?」

江田島「米もあんまり獲れすぎるとね、収穫が大変になっちゃうからね」

升野「そういう問題なんですか?」

川島「升野、この祭りは凄いらしいぞ、若い男女が裸になって、朝から晩までくんずほぐれつ踊りまくってな。日本一ふしだらな祭りと言われている」

升野「なんだって?」

川島「この日仕込まれた子供たちは、呪い米ベイビーと呼ばれなあ」

   飯塚、上手から登場。

   角田も仕切りの上から覗き見る。

川島「後々、恥ずかしい想いをするらしい」

江田島「かく言う私も、恥をかいた口です」

飯塚「なんだその祭り、しょうもない。(角田に)アンタも喰いついてないで曲作れよ。そんなふしだらなとこテレビじゃやんねえから」

   飯塚、仕切り板に蹴り。

角田「うわっ」

   角田、引っ込む。

升野「飯塚、こんなとこで何してんの」

川島「わざわざツッコミに戻って来てくれたのか」

飯塚「そんなヒマじゃねえわ。いや、実はねえ......」

江田島「呪い米祭りにUFIさんがやって来て、マラソン途中のゴリナさんも合流して、感動のライブ。これ盛り上がりますよ、めちゃくちゃ数字取れますね。じゃあ、よろしくお願いしますよ」

   江田島、上手からはける。

升野「飯塚はだって、UFIと中継先向かったんじゃないの?」

飯塚「いや、その筈だったんですけど」

川島「なんだおい、サボってんのか」

飯塚「いや違いますよ。僕らもUFIとは別の車両で中継先向かってたんですけど、こっちの車だけ急にエンストしちゃいまして」

升野「あれ?、これ飯塚ちゃん、もしかしてだけど」

飯塚「は?」

升野「飯塚ちゃん、またテレビに映りたくて戻ってきたんじゃないの?、もしかして」

飯塚「いや違いますよ」

升野「出たがるねえ、さっき気持ちよかった?、味しめちゃった?」

飯塚「気持ちよくないっすよ、別に」

升野「たしかに好評だったもんね、熱血ドロ人形先生」

   (飯塚の顔が泥みたいなので)

飯塚「誰がドロ人形先生だよ」

升野「終わった後も凄い懐かれてたじゃん、元ヤンカップルにさ。羨ましい限りですな」

飯塚「いい迷惑ですよ、こっちは。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないっすよ。アイツらが犯人じゃなかったってだけで、脅迫状が誰かから送られてきてんのは事実なんですから」

川島「あんなもん、悪戯だろう」

升野「そうだよお前、『中止にしないと大変なことになる』って、ざっくりし過ぎなんだよ、脅し方がさ。こんなの構ってらんないよ。俺はもう生放送じゃない時間くらいゆっくりしたいんだよ」

川島「あのな、今やってる23時間スペシャルドラマ、結構面白いぞ。いいラブストーリーなんだけどな......凄いブスなんだよな」

飯塚「もっと危機感持ってくださいよ、万が一ってことがあるでしょう」

   あかり、スタジオから出てくる。

あかり「ちょっと飯塚さん、何サボってるんですか」

飯塚「だからサボってるんじゃないの。車が急にエンストしちゃったの」

あかり「UFIの身にも何があるかわからないじゃないですか。他の車ですぐ向かえばいいでしょ?」

飯塚「俺もそう思って戻ってきたんだけどさ、他の車全部パンクさせられててさ」

あかり「へ?、なんでですか」

升野「お前それ、さっきの元ヤンカップルが怒られた腹いせに仕返ししたんじゃねえの」

飯塚「おいっ、見た目で判断すんじゃねえ、アイツらは凄いいい奴らなんだよっ」

升野「ドロパチ先生」

川島「しかし、タチの悪い悪戯する奴がいるんだな」

あかり「でも、ちょっと待ってください。流石にこれっておかしくないですか?、同一犯の犯行ですよ」

川島「んなわけないだろ」

   スタジオから、大きなパネルを手に充希が出てくる。

あかり「つまり、飯塚さんの車も途中でエンストするように仕組まれていた。だから、飯塚さんをその車に乗るよう仕組んだ人間、その人間が、すべての黒幕ですよ」

   充希、パネルで顔を隠す。

あかり「見つけだしたら、ボッコボコにして、警察に突き出してやります」

   パネルの下で充希の足が震えている。

充希「あかりん、それ私なんだけど」

飯塚「すげー怯えてんじゃん」

升野「局の人間が自分たちの番組妨害するわけないだろう」

   充希、パネルを置く。

充希「あの、これドラマの感想をパネルにしたんですけど、ここ置いておきますね」

あかり「見損なったわ、ミッキー」

飯塚「え、まだ疑ってんだ。いつからそんな険悪になってんの?」

   あかり、急に笑顔。

あかり「まあ今のは冗談ですけど」

飯塚「ホント笑えないぞ」

あかり「でも、おかしくないですか?」

川島「あかりが考え過ぎなんですよ」

   スーツ姿の豊本、上手から現れる。

豊本「いや、あかりの言う事にも一理ある」

飯塚「豊本探偵事務所」

升野「なんだ?、探偵事務所って」

豊本「おい初めて聞いたみたいな感じだすなよ。俺の探偵設定覚えてないのか?」

升野「設定ってなんだよ」

飯塚「いいから気を取り直して、話してみろ」

豊本「......ドロパチ先生」

飯塚「やめろっ」

豊本「いいか考えてみろ。この23時間テレビには最初からトラブルが多過ぎた」

升野「確かにそうだな、スタッフ全員食中毒、県会議員は来ない、相撲のチャンピオンも来ない、書道の達人も来ない、幸せカップルも来ない、中継先に向かう車はエンストにパンク」

あかり「それに、あの誘拐犯ですよっ」

   あかり、パニック。

飯塚(川島に)「そろそろ本当のこと言ったほうがいいんじゃないですか?」

川島「そんなこと言ったら殺されちまうよ」

豊本「とにかく、これは明らかに何者かに仕組まれた陰謀だっ」

升野「どういうことだよ、どういうことだよ探偵さんよっ」

豊本「設定思い出したか」

升野「もしかしたら、また新たに脅迫状が届いてるかも知れない。おいあかり、今から角田のところ行って、届いてる脅迫状全部持ってきて」

あかり(嫌そう)「角田さんのところに?」

升野「スッと行けよ、そこは」

充希「私が見てきましょうか?」

あかり「私が行きます」

升野「どっちでもいいわ、行けよ早く」

   ギター弾き鳴らし角田が出てくる。

角田「♪ お前ら俺をちっとも認めちゃくれねえ

    何を言っても聞く耳持たねえ 」

   みんなが引いて角田から離れるので、

   ステージ前方が角田オンステージ。

角田「♪ 俺の怒りの爆弾で 

    お前ら木端微塵に 吹き飛ばしてやる

    俺の怒りの爆弾で 

    お前ら跡形もなく 消し去ってやる 」

飯塚「ちょっと角田さん、そんなネガティブな歌唄ってる場合じゃ」

角田「♪ 犯人より 」

飯塚「ええーっ?」

角田「また来てたぜ、脅迫状」

   角田、懐からFAXを取り出す。

升野(受け取り)「爆弾?!」

飯塚(受け取り)「これもう、立派な殺害予告じゃないですか」

豊本「なるほど、そういうことか」

川島「なんだ?、どういうことなんだ」

豊本「奴の目的は、番組の妨害なんかじゃない。犯人の目的は、UFIだったんだ」

川島「そこまでわかっていたとは。さては」

   川島、豊本の胸倉を掴む。あかりも詰め寄る。

川島「テメエが犯人かこの野郎っ」

豊本「推理、推理したの」

川島「そうか」

   川島、手を放す。また胸倉を掴む。

川島「なぜお前に推理が出来るっ」

豊本「探偵、探偵だから。落ち着いて」

川島「そうか」

   川島、手を放す。

豊本「思い返してもみろ、結果的には番組は盛り上がってはいるものの、ゴリナのマラソンスタートからさっきの下ネタトークまで、UFIのメンバーは恥をかかされっぱなし。犯人の目的は、UFIなんだ」

川島「言いたいことはそれだけかっ」

   川島、豊本を殴る。

豊本「なぜ殴るっ」

あかり「うわあっ」

   あかり、便乗して豊本をタコ殴り。

豊本「痛ってっ、ちょ、やめてっ」

飯塚「もう引っ込みがつかないんだろうね」

升野「とりあえず、早くライブ中止にしないと大変なことになるぞ」

あかり「あ、私ももりんに連絡しますね」

   あかり、ダッシュで上手へはける。

豊本「俺も、他に手がないか考えてみる」

   豊本、追って上手へはける。

川島「しかし、だ。今さら中止だなんて、江田島社長になんて言えばいいのか」

升野「それもそうだな。それに、ライブ中継予定していた時間帯、番組はどうやって繋ぐんだ?」

角田「今の歌の続きで良かったら、後30分は続けられるぜ?、あの歌にはな、まだ続きがあるんだよ。♪ だけど 」

飯塚(止める)「もういいから。フィナーレの曲作ってくださいよ」

角田「OK、完成させとくよ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

飯塚「もう、そういうのは後で考えましょう。とりあえずこのことは、江田島社長には内緒......」

   スタジオから充希が出て来ていた。固まる空気。

升野「お前、黙っていてくれるよな」

充希「私は、皆さんの指示に従うだけです。それに、この番組が終わるまで、私は皆さんの仲間ですから」

升野「よく言ってくれた」

充希「ふふふ」

あかり(感じ悪く)「『皆さん』?、誰か一人に向かって言ってない?」

飯塚「もういいから、そういうの。あかりちゃん早くUFIに連絡して」

   あかり、充希を睨み、舌打ち。

飯塚「早くっ」

   あかり、飯塚を睨み、上手へはける。

飯塚「なんて可愛げのない目をするんだ」

充希「あ、升野さん言い忘れてたんですけど、今やってるドラマが巻いてて、あと5分くらいで終わります」

升野「はっ?、(腕時計見て)お前それいつの時点で5分前なんだよ」

充希「(腕時計見て)えっと、5分前くらいの時点で5分前ですね」

升野「5分前くらいの時点で5分前。今じゃねえかお前よっ、ふざけんな。え?、今ってことでしょ」

充希(即答)「そうです」

升野「そうですじゃねえよ。お前、本当使えねえなチンカスADがよ。鼻くそADこの野郎。ちょっとありったけのシーンぶち込んでくるっ、チンカスADがよっ」

   升野、文句垂れながらスタジオへ。

充希「......」

飯塚「凹むなお前はっ、チンカスくらいで。しっかし、誰がいったい何のためにこんな物を」

   飯塚、会議机の脅迫文を手に取る。

川島「心当たりなら、ある」

飯塚「社長、本当ですか?」

川島「ああ。これはおそらく、事務所の人間とUFI、それぞれに怨みのある人間の犯行だろう。すまない」

   川島、頭を下げる。

飯塚「社長、何があったんですか」

川島「ああ。ゴリナのキャバクラでな、すげえダサいスーツを着てた客を笑い物にしてしまったんだ」

飯塚「そいつじゃねえわ多分」

川島「本当かいっ?」

飯塚「絶対違うわ」

川島「良かったー」

飯塚「なんでソイツだと思ったんだよ」

川島「いやダサいスーツでさ、ピンクにこう水玉で、あ、写メ撮ったんだ」

   川島、携帯を取り出す。

飯塚「いいよ」

川島「充希ちゃんも見る?、ホラ」

   川島、充希に携帯画面を見せる。

飯塚「いいよ、見せなくて」

川島「それからね、升野が君のことチンカスとか言ってたけど、気にすることないよ。これが本当のチンカスだから」

   川島、次の画面を充希に見せる。

   充希、笑いをこらえてパニック。

飯塚「やかましいわっ」

充希「あーっ」

   充希、走って上手からはける。

飯塚「そら泣くわ」

   入れ違いにあかりが戻ってくる。

あかり(喜色)「へへへっ」

   あかり、嬉しそうに飯塚にすり寄る。

あかり「なんで?、なんでミッキー泣いてんのっ?」

飯塚「お前性格悪いなあ、もう仲直りして」

   升野、スタジオから戻ってくる。

升野「あかりUFIどうだった?」

あかり「それが、連絡してみたんですけど」

飯塚「まさか、田舎過ぎて圏外で繋がらないとか?」

あかり「繋がりました。繋がったんですけど、UFIのみんな、ライブ中止にしたくないって言ってます」

川島「何?」

あかり「自分たちをひと目見る為に、20万もの人が集まってくれたんだよって。それに、普段は遠くて見に来れない小さい子もいっぱいいるし」

飯塚「そりゃそうかも知れないけど」

川島「あかり、UFIのみんなに伝えてくれ」

飯塚「社長」

川島「その子供たちのほとんどは、呪い米ベイビーと呼ばれる......」

飯塚「伝えなくていいよっ、なんで伝えようとしたそんなことを」

川島「いや、命のかけがえの無さとか、そういうことを」

飯塚「じゃ、そこだけスッと言って」

川島「とっつきやすい入口で説明したんだよ」

飯塚「説明しづらいんですよ、逆に」

あかり「え、それってどういう経緯で呪い米ベイビーって」

飯塚「とっついてんじゃねえよ、お前も」

   升野、腰をかがめてティッシュの元へ。

飯塚「反応すんな、お前もっ」

   角田、仕切り板の上から顔を覗かせてティッシュに手を伸ばす。

飯塚「ティッシュを取るなっ、お前もっ」

   角田、そっと顔を引っ込める。

川島「とにかく、UFIの説得をなんとかしなくちゃ」

飯塚「そうですよ、こんな状態でライブなんて危険過ぎますよ」

升野「なんとかするったってどうするんだよ、ドラマもとっくに終わって、早く生放送再開しないとヤバいんだぞ。UFIスタジオにいないし、どうやって番組繋ぐんだよ」

あかり「あ、これ」

   あかり、パネルを抱える。

あかり「さっきミッキーが置いてった、ドラマの感想FAX。これ紹介すればいいんじゃないですか?」

川島「いいじゃないか、ベタだし。これくらいだったら誰だって出来るもんな」

升野「よし、それにしよう。で、誰が行こう?」

   升野、ひとしきり見回し、

升野「ドロぱっつぁん」

飯塚「嫌だよ、行かないよ」

升野「ここはドロぱっつぁんですよ」

飯塚「『ドロパチ』ありきじゃねえか、『ドロぱっつぁん』は」

升野「3年ドロ組ドロぱっつぁん」

飯塚「やかましいわ。嫌ですよ、升野さん行ってくださいよ」

升野「なんで俺が行かないといけないんだよ」

飯塚「羨ましい限りなんでしょ?」

升野「は?」

飯塚「目立ちたかったんでしょ?」

升野「は?、別にそんなことないし」

飯塚「出ればいいじゃないですか」

あかり「そうですよ、調子に乗ってテレビとかいっぱい出てたじゃないですか」

升野「は?、調子乗ってねえじゃん」

飯塚「調子乗って」

あかり「調子乗ってっ」

升野「俺カンペ出すので精いっぱい」

飯塚「時間ないから」

升野「お前行きたいんだろ?、お前が行って来いよっ」

あかり「(叫ぶ)いいからっ、早く行ってください」

升野「なんだよ、ふざけんなよお前よ」

あかり「いいから、早く、早く」

   升野、あかりに背中押されて、パネルを手にスタジオへ向かう。

升野「なんで俺が行かなきゃいけないんだよ」

   2人、スタジオの中に入る。

飯塚「まあまあスッと行くじゃねえか」

   升野、あかりを押しのけて戻ってくる。

升野「スッとってなんだよっ」

   予想外の事態に動揺する飯塚の前にパネルを投げ捨てる。

升野「じゃ、行かねえよ」

あかり「ちょっ」

   あかりも慌てて戻ってくる。

   升野、パイプ椅子に座る。

飯塚(笑)「何してんすか」

升野「お前行けよ」

飯塚「違うって、行けって、もう」

升野「無理やりだろうが、今の」

あかり「行きましょう?」

   飯塚、笑いながら升野を立たせる。

升野「ふざけんな」

飯塚「わかった、ごめんて」

あかり「行こう、行こう」

   飯塚がパネルを渡し、あかりが再び升野の背中をスタジオへ押す。

升野「スッとなんか行ってねえから、無理やりだかんな。別に出たくねえから、いやいやだから」

飯塚(笑)「わかったから」

升野「ふざけんな、マジで」

   2人、再びスタジオの中へ入る。

飯塚「結局行くんじゃねえかよ」

   升野、ダッシュで戻ってきてパネルを投げ捨てる。

   追って慌てたあかりも戻ってくる。

あかり「あーっ」

   飯塚、笑いを堪えきれない。

升野「いやいやいや、やだやだやだっ」

あかり「升野っ」

   飯塚が笑って止めるも、升野は再び椅子に戻ってしまう。

飯塚「うそ、ごめん」

升野「行かねえよ、行かねえもん」

川島「よーしわかった」

   川島が決め顔で前に出てくる。

川島「俺が行こう」

   驚くあかりと飯塚、スタジオへ向かう川島を慌てて止める。

飯塚「いいから」

あかり「違うっ」

川島「俺も混ぜろーっ」

飯塚「混ぜろってなんですか」

升野「こんなんで行けるかっ」

飯塚「ちょ、升野さん」

升野「こんなんで行けるかよっ」

   あかり、パネルを手に升野の背を押す。

飯塚「大丈夫だから」

升野「めっちゃハズいじゃん俺」

あかり「いいから、いいから」

飯塚「社長に火が点いてるからあーっ」

   今度は流石の升野も吹いて笑う。

升野「なんだよ」

飯塚「やーだー」

あかり「行くよ、早く」

升野「ふざけんなよ」

   あかりと升野、スタジオへ入る。

飯塚「もおー」

   飯塚が息切れしていると、

   アドリブ合戦に参加し損ねた角田が仕切り板から出てくる。

角田「なあFAXまだ届いてねえのかよー」

   飯塚、笑い疲れている。

飯塚「知らねえよお」

角田「なんだよ、まだなのかよ」

飯塚「もういいよー、なんでもよ」

角田「いいとか言ってんじゃないよ......楽しそうでいいよなあっ」

   飯塚、笑って膝から崩れる。

   角田、仕切り板の向こうへ。

   飯塚、なんとか立ち上がって会議机へ。

飯塚「もうテレビテレビ」

   飯塚、テレビを点ける。

   モニターチェック。

   あかり、スタジオから戻ってくる。

   2階の通路。パネルを手に升野が出てくる。スネて挙動不審。

升野「んっと、この時間は、視聴者から寄せられたドラマの感想を、ご紹介したいと思います」

飯塚「何ちょっといきがってんだよアイツ」

升野「別に俺、出たくて出てるわけじゃねえし」

飯塚「言わなくていいよ」

升野「飯塚がすげえ言ってくっから」

飯塚「テレビで飯塚とか言うな、素人かお前」

升野「仕方がなくドラマの感想をご紹介したいと思います。まずはこちら」

   升野、パネルを見やり、

升野「ん?」

飯塚「なになに?、固まってますけど」

升野「まずは」

   升野、パネルをめくる。

   犬耳の生えたケンシロウのような男のマンガ絵。

川島「おいおい、あんなのドラマに出てなかったぞ、誰の似顔絵だ、あれ」

あかり「あれ、『地獄大戦ヘルマゲドン』の主人公、ケルベロス鈴木です」

飯塚「あかりちゃんのマンガ?、なんであそこに?」

あかり「間違えて、ミッキーがコピーしちゃったんじゃ」

飯塚「アイツどこまで使えないんだよ」

升野「......ま、こういう感想が来ています」

飯塚「これはしんどいぞー、升野さんもうちょっと頑張って」

   飯塚、テレビを消す。

   照明点灯。

   上手から豊本が現れる。

豊本「おーい、みんな朗報だ。爆弾処理のスペシャリスト、豊本16号が現場に間に合いそうだ」

川島「16号ってあれか、エイリアンって発音がやけに良いアイツか」

豊本「ああ。彼女が中継先の米狩り村出身てことがわかった。しかも今奇跡的に里帰り中で、すぐ現場に到着する」

飯塚「今から探して間に合うのかよ」

川島「各々が出来る事をやろう。時間は升野がどうにかしてくれてるんだ。とにかく、UFIを説得する」

飯塚「はい」

   上手から江田島が現れる。

江田島「ちょっと川島さん、一体どうなってるんですか、いつになったら中継始まるんですか」

川島「これにはわけがあるんですよ」

江田島「困るんですよ、ラ・テ欄通りに進行してもらわないと。でもね、今やってるコーナーちょっと面白いんだよなぁ」

飯塚「今やってるやつが?」

江田島「ふふふ」

   飯塚、テレビを点ける。

   モニターチェック。

   スタジオで升野がパネル芸。

升野「さあ、じゃんじゃん紹介します。まずはですね、こちらなんですけども、ドラマを見てたら興奮して頭に血が上って、こんなんなっちゃいました」

   パネルをめくる。頭が破裂した男の絵。

飯塚「無理やりじゃん」

川島「なんだ、化け物紹介してるだけじゃねえかよ」

あかり「化け物じゃありません。あれは毎回最初に出てきてすぐ死んじゃう、デッド塩谷です」

升野「はい、続いてなんですけども、こちらをご覧ください」

   升野、次のパネルを見せる。

   青い化け物の妖怪。

あかり「あれは魔性の美女、メデューサ風間」

升野「ドラマをジーッと見てたら固まって、こんなんなっちゃいました」

豊本「上手いな」

飯塚「なんか上手いことドラマの感想っぽくなってますけど」

江田島「ふふふ。ほどほどにして、先へ進めてくださいよ?」

   江田島、上手へはける。

   照明点灯。

川島「よし、流石だ升野。とりあえず早くUFIのライブを中止にしよう」

   慌てて江田島が戻ってくる。

江田島「はあ?」

飯塚「なんで言っちゃうんすか」

江田島「どういう事ですか、ライブを中止するって」

飯塚「すいません実はですね、UFIに脅迫状が届いてまして、ライブを中止にしないと会場を爆破するって」

江田島「ダメだ、絶対にやりましょう」

   あかり、繋がらない携帯をかけている。

江田島「20万人のファンはともかく、80社ものスポンサーが待っているんですよ」

飯塚「想像以上に下衆いなこの人」

江田島「とにかく、これはメインイベントなんですよー、絶対やりましょうよ、そんなくだらない脅しなんかで」

飯塚「いや、くだらなくなんかないんです。現に、車パンクさせられたり、こっちも足止め喰らってるんですから」

江田島「そったらこと行っておめーら、さんざんくっちょりんてもてーら、おれがちんちろちんて約束したみゃんぎゃっ」

飯塚「全然なに言ってるかわかんない、訛りがひどいな。とにかく、人の命がかかってるんですっ」

川島「仕方がないっ、やろう」

飯塚「社長?」

川島「この人に言われたからやるんじゃない。UFIぎゃそれをのじょんでるんだ」

飯塚「なんでアンタも訛ってんだよ。向こうにはろくにスタッフもいないんですよ?、誰がUFIを守るんですか。駄目だあかりちゃん、止めるぞ」

あかり「いや、それがUFI勝手にステージに向かっちゃったみたいで、電話に出ないんです」

飯塚「え?」

豊本「あれ?、いつのまにかモニターが中継に変わってるぞ」

   升野、スタジオから飛び出す。

升野「おい、そこ(扉)開けっ放しで喋ってるから、スタジオに全部丸聴こえだったぞ、俺慌てて中継に切り替えたんだよ」

江田島「え、スポンサーのくだりも?」

升野「その前に止めましたよ、なんとか」

江田島「じゃあもう全然平気」

飯塚「ブレないな、アンタ」

升野「ただ、脅迫状のくだりは流れたかもしんない」

飯塚「え?、ちょっと待ってください。会場のモニターにも、さっきの放送流れてますよね?、爆弾騒ぎが起きてるなんて聴いたら......」

   一同、テレビを注視する。

   テレビから流れる20万人のUFIコール。

飯塚「誰も、席を立とうとしていない」

あかり「でもUFIは?、一体どうなっちゃうんですか?」

豊本「ステージに出てきた。アイツら本気で歌うらしい」

あかり「UFI」

川島「おい、ちょっと待ってくれ。この端っこの方に映ってるこの客、このダセえスーツ。ゴリナのキャバクラの客じゃねえか」

角田「ちっちゃい荷物持ってねえか?、これが爆弾なんじゃねえのか?」

豊本「どんどん近づいてくるぞ」

升野「おいUFI気づいてないぞ、誰が連絡取れないのかっ」

飯塚「あっ!......アイツら」

   飯塚、携帯をかける。

飯塚「あ、もしもし。最前列にいるの、お前らか?」

升野(テレビ見て)「最前列?」

飯塚(通話)「おう、そうだ。ドロ人形先生だ」

升野「コイツら、ドロパチ先生の教え子の、元ヤンカップルじゃん」

飯塚(一同に)「アイツら、俺の言ってたこと覚えててくれて、昔の族の仲間引きつれてUFIのこと守りに来てくれたらしいんですよ」

角田「おいおいおい、犯人の奴無理やりステージに上がろうとしてるぞ」

   テレビから聴こえる聴衆の悲鳴。

川島「やっぱりあのスーツ間違いない、あの客だ。おいゴリナ逃げろ、走れっ」

升野「ゴリナ完全に膝に来てる」

飯塚(通話)「いいかお前らーっ、ピンクと水玉の奴とっつ構えろ、ブチ殺せーっ」

   テレビから聴こえる聴衆の歓声。

豊本「ああっ、ヤンキーたちが、犯人を取り囲んでっ」

飯塚(通話)「行け行け行けっ、ドロ軍団の意地見せたれやっ、おいコラっ、ドロパンチだオラっ」

一同「おおー」

飯塚(通話)「ドロキックだオラっ」

一同「おおー」

飯塚(通話)「よーし最後だ、バック泥ップだオラアっ」

一同「おおー」

   一同、テレビに向かって拍手。

飯塚(通話)「よくやった、お前らー」

   升野、飯塚に駆け寄る。

升野「グレート・ティーチャー・ドロ塚っ」

江田島「いやあ大したもんだ。流石は国民的トップアイドルですね」

川島「よーし、UFIの20万人ライブIN呪い米祭り、スタートだ」

   暗転。

 

   UFIの『WE ARE UFI』

   最初のフレーズが流れる。

 

 ♪ We Are UFI

   ひとつになって頑張ろう

   だって仲間なんだから


We are UFI !!!!

 

 

 

   歓声と共にフェイドアウト

 

   背景デジタル時計。17時30分へと進む。

   照明点灯。

   長椅子に並ぶ升野とあかり。

あかり「いやー、それにしてもさっきの升野さんの一言、流石でしたね」

升野「いや、あれはもうあかりの絵があったからだよ」

あかり「ええ?」

升野「あれは本当面白かったもん、だって」

   イチャイチャしていると、スタジオから充希が出てくる。

あかり「そんなこと」

升野「絵の時点で成立してたもん、後はちょっと足しただけだから」

あかり「頭の回転早くないですか」

升野「いやいや、マジで?」

充希「あのー」

   角田、仕切りから出てくる。

角田「何きゃっきゃきゃっきゃやってんだよ、うっせえなあ。遊び場じゃねえんだぞ、ここは」

   2人、まだイチャイチャしている。

升野「短い時間で描いたでしょ?、ビックリしちゃった」

あかり「本当に?」

升野「流石、流石」

角田「おい、聴こえてないかコラっ」

升野「今度俺の似顔絵描いてよ」

角田「俺はここに存在し、話しかけてるよっ、おーいっ」

   2人、黙って角田を見る。

角田「なんだその目はっ」

   2人、イチャイチャに戻る。

升野「マジでさ、マジで今度」

あかり「えっ、えっ」

角田「確認して無視すんじゃねえよ、聞けオラっ」

あかり「どうしたんですか角田さん?、カリカリしちゃって」

角田「そりゃそうだろ、カリカリしてる理由がわかんないの?、ウソでしょう」

升野「だってUFIのライブも無事終わったし、犯人も捕まったし、後は今流れてる米狩り村大鬼ごっこが終わればエンディングでしょ?、何をカリカリすることがあんの」

角田「まだ終わってないでしょ、そのエンディングで歌う歌が出来てないでしょうよ。あと15分で発表なんだよ、なのに1つも出来てないよ、1つも」

升野「さっさと作れよ」

角田「いや作ろうにも歌詞が来てないんだよ、おいミッキーまだ歌詞来てないのかよ」

充希「はい、一枚も」

角田「俺そんな人気ないの?」

充希(即答)「そうです」

角田「そうですじゃねえよ」

升野「もう諦めてお前全部作れよ」

角田「じゃあもう、さっきの脅迫文ソングの続きを完成させて歌っちゃうぞ」

升野「なんでだよ、じゃあちょっとFAXないか見てきて」

充希「はい」

あかり「私が行きます」

   あかり、席を立つ。

   充希、あかりを制止。

充希「大丈夫です、私が行きます」

   充希、スタジオの中へ。

   上手から通話中の飯塚が現れる。

飯塚「もしもし。間に合わない?、うん、うん......え、それどういう事だよ」

   一同、飯塚を見る。

飯塚(通話)「わからない?、もう、とりあえずこっちからタクシー向かわせるから、そこ絶対動くなよ」

   飯塚、電話を切る。

升野「どうした?」

飯塚「いや、UFIが、ライブ終わってすぐに用意されたバスに乗ってこっち向かってたらしいんですけど、山道の途中で運転手が急にトイレ行きたいっつって、バス降りてから、連絡取れなくなったらしいんですよ」

あかり「どういう事?」

升野「いや、そういう事じゃん」

あかり「どういう事?」

升野「バカなのか」

角田「俺が教えてあげるよ」

あかり「ああっ、そういう事」

角田「このタイミングでわかったのか」

   江田島、上手から現れる。

江田島「いやー最高のライブでしたね、本当ありがとうございます。スポンサーが大喜びでね、生のUFIに会いたいつって局まで来ちゃいましたよ。最後、ビシっと決めましょうね」

升野「江田島社長、もう警察呼びませんか?」

江田島「何言ってるんですか。なんで警察呼ぶ必要があるんですか?、UFIの爆破騒動は、犯人が逮捕されて一件落着でしょう」

   2階の通路にサングラスをかけた川島が出てくる。

   当たるスポットライト。

川島「それが、ちっとも一件落着じゃなかったんですよ。先ほど私のところに連絡が入りましてね。あのライブ会場で捕まった男、アイツが犯人じゃない事がわかった」

   川島、気障にサングラスを外す。

升野「どういう事だ」

川島「詳しい事は、この男が説明する」

   川島、究極に気障な声で、

川島「おい、豊本っ」

   川島の隣りへとサングラスをした豊本、

   あぶない刑事の柴田恭平みたいな物腰で登場。

豊本(モノマネで)「どうも、豊本探偵事務所の、豊本です」

飯塚「ショーパブか、そこはっ」

豊本(モノマネで)「関係ないね」

   飯塚と升野、笑っている。

豊本「私が調べたところによると、あの時捕まったあの男は、ただのUFIのファン。そして着ていたジャケットも、本人のものではないらしい。これを着ていればUFIに気づいてもらえるかもと言うことで、見知らぬ男に貰ったということだ」

飯塚「どういうことだよ」

江田島「んなもん知ったこっちゃないよ、私はね、最後、スポンサーにUFIの生ライブ見せるって約束しちゃったんだよ」

飯塚「スポンサースポンサーってスポンサーがなんなんすかっ、今UFIがピンチなんだよっ」

   川島と豊本、階段を降りて来る。

川島「UFIはね、アンタのスポンサーの為に仕事をしているんじゃないんだ。UFIが仕事をしているのは、愛するファンの為だ。そして金の為だっ」

飯塚「なんで最後にそれ言ったんですか」

川島「UFIは、我々アットマーク川島の大切なメンバーだ、これ以上こんな番組に付き合わせるわけにはいかない」

江田島「何を言ってるんだおい、あと少しで終わるんだぞ。今ここでやめたら、チンチロにならないだろうっ」

川島「もうチンチロ以上だ。考えてもみろ、この番組でいくつおかしなことがあった?、これ以上UFIを、いやゴリナを、危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」

飯塚「ゴリナはそんな危険な目に遭ってないっす」

   スタジオから充希が出てくる。

充希「やっぱ角田さんのFAX一枚も届いていませんでした」

   充希、場の空気を読む。

充希「すみません。私みたいのが口出していい空気じゃないですね」

   充希、引き返そうとして、呼び止められる。

川島「ちょっと待ってくれ。今からする話は、君にも聞いて欲しい」

あかり「どういう事?」

川島「そもそも、あの男が犯人だという決め手になったのは、あのダセえスーツだ。つまり、あれをあの男に渡し、犯人に仕立てあげようとした人間がいる」

飯塚「でもおかしいでしょう。社長のあのスーツの話聞いてたのは、俺と充希ちゃんだけですよ?」

充希「......」

川島「そうなんだよ。つまり、この事件の犯人は」

   川島、充希を見る。

川島「お前」

充希「......」

   川島、飯塚を見る。

川島「か、お前」

飯塚「え、なんで?、なんで疑ってんの俺を」

川島「聞いてたからね、スーツの話を」

飯塚「いや聞いてましたけど、さんざん一緒に長いことやって来て、俺疑うかね」

   川島、どうかなあ?、という顔。

飯塚「その顔やめろよっ、その顔っ」

川島「大丈夫、大丈夫」

飯塚「いやいやいや」

川島「おお?、ずい分慌てるんですねえ」

飯塚「信用してくださいよ」

角田「おいミッキー。お前まさか」

あかり「いや、でも流石にミッキーが犯人て事は。それに、ライブ会場で渡したって言ってましたけど、その時ミッキーはここにいたよね?」

升野「そんなの簡単だ」

川島「そうだ」

飯塚「どういう事ですか?」

   升野、前に出て川島と並ぶ。

升野「つまり」

   2人、同時に。

升野「共犯者がいた」

川島「空を飛んでいた」

飯塚「え。何て言ったんすか?、今」

川島「共犯者がいた」

飯塚「ウソつけよ。え、『空を飛んでいた』って言いました?、今言いましたよね『空を飛んでいた』って」

川島「言っていない」

飯塚「絶対言ってました」

川島「言っていない」

飯塚「絶対言ってましたって」

川島「言いましたけどーっ?」

飯塚「認めんのか。でも確かに、共犯者がいたと考えれば......」

あかり「ちょっとミッキー、ほら黙ってないでちゃんと否定してよ」

   あかり、充希を前に出す。

充希「......私が、やりました」

あかり「ミッキー?!」

充希「私がやりました。自分ひとりでやりました。共犯者はいません」

升野「いいや、ひとりで出来る筈が無い。今回の事件、俺は色々と引っかかる所があった。まず始めに、マラソンランナーが消え、県議会議員の車が壊れ、鬼相撲のチャンピオン、書道の達人、幸せカップル、そして局が用意した車にまで異変があった。こんなの1人で出来ることじゃない」

あかり「でも、どうしてそんな多くの人が、UFIを?」

升野「犯人の目的がUFIではなく、番組の妨害だったとしたら?」

充希「どういう意味ですか?」

飯塚「何のために。彼女は局の社員ですよ、番組を妨害する理由がないでしょ」

   携帯が鳴り、豊本が出る。

豊本(通話)「もしもし、わかった」

   豊本、電話を切る。

豊本「やはりそういう事か。この話の発端となったスタッフ全員の食中毒事件。そんな大量の患者、どこの病院にも搬送されていない。つまり、そんな患者はいないという事だ」

充希「ウソです、だってみんな、あのお弁当食べて」

角田「いや、あの弁当だったら俺も喰いましたよ?」

   充希、茫然。

角田「いや、すげー腹減ってたからさ、もう食中毒とか関係ないと思ってさ」

   角田、仕切りの奥に入り、大量の弁当の空箱を手に戻ってくる。

角田「すげー沢山喰っちゃったよ。ぜーんぜん大丈夫、ただ美味いだけ」

升野「と言うことは、スタッフ全員が共犯者」

   江田島、充希に詰め寄る。

江田島「お前ら、どういうつもりだ」

充希「仕方なかったんです、こうするしか......私たちは、このみちのくササヒカリテレビが大好きでした。都会みたいに派手じゃないですけど、みんなに愛される番組を作り続けて来ました。しかし、この江田島社長に代わってからすべてが変わってしまいました。私たちの意見を無視して、スポンサーに媚びへつらった番組作り。挙句にこの人は、この局を身売りしようとしているんですよっ。今回の23時間テレビだってそうですよ、スポンサー接待のような番組を作って、身売りを潤滑にしようと。だから私たちはそれを阻止する為に、23時間テレビを妨害しようと」

升野「UFIをどうするつもりだ」

充希「UFIは無事です。しかし、この番組を終わらせるまで、UFIをお返しすることは出来ません」

江田島「ふざけた真似をしやがってっ」

充希「ふざけてるのはあなたでしょ。私はただ、みちのくササヒカリテレビを昔みたいに取り戻したいだけなんですよ」

川島「いい加減にしろっ……そんなやり方は間違ってる。いくら社長が裏切ったからって、自分の大好きなものまで裏切るだなんて、俺は許さない。会社の身売りに反対するのは結構だ。けどな、そんなの視聴者には関係ねえんだ。俺たちは、23時間テレビをやめない。放送を続ける」

充希「でも、もうUFIはいませんよ?」

川島「UFIがいないからなんだっ!......UFIがいなきゃいないでっ......どうすんだい?」

飯塚「でしょうね、でしょうね。なんにも出来ませんよ」

升野「それはどうかな。おい豊本、番組の評判をネットで調べてみろ」

豊本「おう、わかった」

   豊本、携帯を取り出す。が、見えない。

   カッコつけてかけていたサングラスを外し、眼鏡に付け替える。

飯塚「最初から掛けとけよ」

豊本「度入りのサングラスが欲しい」

飯塚「知らねえよ」

   豊本、携帯でネットをスクロール。

豊本「たしかに。ほとんどUFIに対するコメントだが、他にもあるぞ」

   升野、携帯を受け取る。

升野「『あのミイラみたいな県議会議員、怪我までしてるのにスピーチするなんて、最高』」

川島「ミイラ、俺か」

升野「『あの鬼相撲大会のチャンピオン、すげえ強くて最高でした』」

豊本「鬼相撲、俺だ」

升野「『あの鬼のような絵を描いた人、可愛い』『あの熱血先生も素敵でした』」

あかり「私も入ってる」

飯塚「熱血先生って俺か。(熱血先生風に)バカ野郎」

升野「『紙芝居の人超良かった』。俺だ」

角田「......え、終わり?。俺は?」

   升野、スクロール。

升野「結構下まで来てんだけど。ちょっと待って」

   升野、すっごいスクロール。

角田「え、そんな無い?」

升野「あ、あったあった。『オープニングのオニゾウくんと出ていたハゲの人、凄くハゲてますね』」

角田「他と違うっ」

升野「とにかく、俺たちアットマーク川島プロの人間は、今やこの地域の人たちにとって、立派な有名人だ」

角田「そんな事どうだっていいよ、それよりこれ(テレビを指し)、大鬼ごっこもうすぐ終わるぞ」

江田島「おいおいおい、もう放送するものないぞ」

あかり「......あります」

   あかり、長椅子に走り、バッグから充希のメタルテープを取り出す。

   テープを升野に渡す。

あかり「これ」

   升野、テープと歌詞カードサイズの台本を見る。

升野「あ、本当だ。これなら行ける」

   升野、棒立ちの充希の前に。

升野「おいAD。お前がずっと見たかった番組、俺たちが作ってやるよ」

充希「......」

升野「よし、みんな行こう」

   升野、スタジオの中へ入る。

   残りの一同、会議机のテレビの前に集まる。

   しばしの間。

   升野、焦って戻ってくる。

升野「え、行かねえの?、ビックリした。パーって走って振り返ったら俺一人しかいねえの、ビックリした。すっげえ恥ずかしかった」

川島「いや特に説明ないから」

升野「みんな行こう、みんなみんなみんな」

あかり「え?」

升野「いやお前がこれ(テープ)持って来たんだろ、行こう行こう行こう」

   升野、みんなを手招きしてスタジオへ。

   一同、顔を見合わせる。

升野「いや行こうってっ」

   升野、坐ったままの川島のもとへ。

升野「なんでこのタイミングで腰が重いんだよっ」

川島「説明を」

升野「番組作ってやるつったんだよ。流れ、そういう流れじゃん」

   升野、またスタジオへ向かう。

   一同、再びテレビに視線を集める。

   升野、戻って川島の頭をはたく。

升野「なんで改めてテレビ見てんだよ」

   升野、川島の手を引いて立たせる。

川島「だって怖いもん」

升野「怖くないよ。行けばわかるから」

   ようやく、充希と江田島を残してスタジオに入る川島プロ一行。

江田島「おい、お前らなんかに出来るわけないだろっ、何考えてるんだまったく」

  江田島、委縮する充希を睨む。

江田島「お前のせいだからな?」

   モニターチェック。

升野の声「えー、ただ今から、プログラムを一部変更し、このみちのくササヒカリテレビの原典となった、あの伝説の子供番組を復活させます」

充希「升野さん?」

カセットの音「『泣くなオニゾウ』。『好きなものは好き、の巻』」

   BGMが流れ出すと、2階の通路にオニゾウが陽気に躍り出てくる。

ナレーション「『ここは、鬼だけが住んでいる、鬼ヶ村にある、鬼の高校。今日もオニゾウくんと愉快な仲間たちが、何やら騒いでいるようですよ』」

鬼子の声「『うえーん、うえーん』」

オニゾウの声「『あれ?、誰かが泣いてる。この泣き声は、鬼子ちゃん』」

   パネルを手に、鬼耳を付けたあかりが出てくる。

江田島「え、生身でやんの?」

   声にジェスチャーを当てていく。

鬼子の声「『飼っていた子犬が、いなくなっちゃったの』」

オニゾウの声「『ええ?、探してあげるよ。どんな犬?』」

鬼子の声「『じゃあ、口で説明するのは難しいから、絵で描くね?』」

   流れ出す絵描き歌に合わせ、あかりがパネルに絵を描き始める。

江田島「何が始まったんだ」

絵描き歌「♪ 大きいお椀がありまして

   はんぺん2つ ごま塩振って

   ランララ ランララ ランランララ

   あっと言う間にワンコちゃん 」

   あかりがパネルをめくると、

   『地獄大戦ヘルマゲドン』のケルベロス鈴木。

江田島「描けないよっ、今の歌詞じゃ描けないよっ」

オニゾウの声「『あ、この犬なら、僕、さっき見たよ。力自慢の鬼の富士がイジメてた』」

江田島「鬼の富士?、ええ?」

   チャンピオン王冠をかぶった豊本が踊りながら出てくる。

鬼の富士の唄「♪ 俺は最強 鬼の富士 」

江田島「ぴったり!」

鬼の富士の唄「♪ どんな相手もどんと来い

   必殺技は 必殺技は 」

   豊本、周囲の人間に次々目つぶしをくらわしていくジェスチャー

鬼の富士の唄「♪ ラララララ 鬼の富士 」

鬼の富士の声「『ふはは、オニゾウ。お前の犬など、食っちまったよ』」

オニゾウの声「『お前、喰ったのか』」

江田島「犬とか食うなよ」

オニゾウの声「『クッソー、鬼の富士の奴め。オニパチ先生に言いつけてやる。鬼組のオニパチ先生―っ』」

   飯塚、登場するなり豊本にパンチ。

   続いてオニゾウをボコボコにし、また豊本を足蹴にする。

オニパチ先生の声「『てめえーっ』」

江田島「あんまりイジメるなよっ」

オニパチ先生の声「『ケンカなんかしてやがったのかっ』」

オニゾウの声「『痛い、痛いよオニパチ先生』」

オニパチ先生の声「『仲良くしないと、ぶっ飛ばすぞっ、いいか、鬼と言う字は、鬼と、鬼が、支え合って出来ているんだっ』」

江田島「いや、出来てない出来てない」

   BGM変わる。

鬼ミイラの声「『父さん?、憎しみは争いを生むだけだと、歴史が証明している』」

オニゾウの声「『その声は、鬼ミイラ?』」

   顔面包帯状態の川島登場。

江田島「完璧だ」

   川島、ロボットダンス風の動き。

鬼ミイラの声「『君たち。その辺でチンチロにしないと、悲惨な結末が待っているよ。ね?、紙芝居おじさん』」

   パネルを手に升野が登場。

   パネルをめくると、デッド塩谷の絵。

江田島「死んじゃってるよ」

オニゾウの声「『紙芝居おじさん、言いたいことは、怖いほど伝わったよ』」

オニパチ先生の声「『さあ、みんなで歌を歌って、仲直りだ。鬼渕トンボさーん』」

   長淵調の曲が始まって、角田登場。

   威勢よく腕を振り上げるが、

トンボの声「『はーい♪』」

   鬼渕トンボの声は、女性だった。

角田「?!」

トンボの声「『私が歌のお姉さん、鬼渕トンボよー』」

   驚く一同、顔を見合わせる。

江田島「おいおい、どうすんだよ」

トンボの声「『さあみんな、私の後について、歌うわよー』」

   角田、なんとかしなを作って装う。

   テープの音がフェードアウト。

江田島「音止まったっ?、音とまっちゃったっ」

   戸惑う一同。

角田「どうする、どうする?」

升野「歌え、歌えよ」

角田「女だったじゃん!」

升野「裏声出せ、裏声」

角田「無理だよ」

   飯塚、オニパチ先生の演技で挙手。

飯塚「みんな、こういうのはどうだろう。いつもは、鬼渕トンボさんだけど、今日は特別に、別の歌のお姉さんにお願いするって言うのは」

升野「お、おお。なるほどね」

   飯塚、あかりを前に押し出す。

あかり「え、え......それならピッタリの人がいるわ。この番組を誰よりも好きで、誰よりも愛してくれていた、あの子」

充希「あかりん、それって......?」

川島「ああ。いつもは気弱だけど、いざという時は頼りになる。あの子ならピッタリだ」

升野「最後の最後くらい、役に立ってくれるんじゃないかな」

   充希、スタジオへ走り出す。

江田島「おい何する気だ、待てっ」

豊本「みんな、間もなく、新しい歌のお姉さんが到着するぞっ」

角田「よっしゃ。歌はさっきのあれでいいかしら?」

   充希、スタジオの中央へ走り出る。

角田「準備はいい? 3、4っ」

   角田、伴奏スタート。

   みんなで踊り、充希が歌いだす。

   驚くほど高い歌唱力。

   脅迫文の歌詞。

充希「♪ お前ら俺をちっとも認めちゃくれねえ

   何を言っても聞く耳持たねえようだな

   俺の怒りの爆弾で お前ら

   木端微塵に吹っ飛ばしてやる

   俺の怒りの爆弾で お前ら

   跡形もなく消し去ってやる OH」

角田「さあ、続きを聞かせてやれ充希ちゃん」

充希「♪ だけど そんな世の中見たくない

   好きなものは好きと言える未来を目指して

   いつか笑顔になれるから

   好きなものは好き そう言える未来へ 」

   充希、角田とハイタッチ。オニゾウとハグ。

   拍手の中、暗転。

升野の声「入った?、CM入った?」

豊本の声「いや、まだ時間空いてるみたいだぞ」

充希の声「そう言えば、ライブの前にCM流しまくった時、間違ってこのあと流すCMの入ったテープ落として壊しちゃって。どうしましょうか」

飯塚の声「どうしましょうかじゃねえよ!、まだ妨害しようとしてるの?、ただのドジなの?」

充希の声(即答)「ただのドジです」

川島の声「こうなったらお前ら、鬼ミイラ主演でもう1度やるぞ」

あかりの声「ええ?」

角田の女声「望むところよ。私もこの役クセになりそう。私は鬼子。昼は主婦、夜はキャバ嬢」

飯塚の声「設定変わり過ぎだろっ」

 

   照明点灯。

   会議机で川島とあかり、中央でしゃがんだ飯塚、

   長椅子で角田がくたびれ、オニゾウが突っ立っている。

川島「いやー盛り上がったな、『泣くなオニゾウ』大反響だよ」

角田「やったなオニゾウ」

   角田、オニゾウの頭をはたく。

   あかり、FAXを読み、

あかり「どれも大評判ですよ」

角田「そっかあ」

   充希がスタジオから出てくる。

充希「皆さん」

川島「おう。盛り上がったな」

充希「はいっ、えへへ」

飯塚「だいぶメチャクチャでしたけどね」

   充希、頭を下げる。

充希「皆さん本当、ありがとうございました。私たち、ずっと逃げてました。どうせ無理なんだ、どうせ駄目なんだ、とか思って。でも、ちゃんと自分の見て欲しいものとか聞かせたいものを届けなきゃいけないなって、思い出しました」

あかり「ミッキー」

充希「だから、私、ちゃんと伝えます」

   あかり、察して立ち上がる。

   升野と豊本がスタジオから出てくる。

升野「いやー、UFIギリギリ間に合ったな」

豊本「我々豊本一族の力を使えば、こんなもの容易い」

充希「升野さんっ」

升野「あ?」

充希「私。升野さんが好きですっ」

升野「......えーと、え?、それは、君が、僕の事を、好きと言う事かな?」

充希「そうです」

升野「好き、には色んな解釈あると思うんだけど、その好きと言うのは、恋愛感情という意味での、好きと言う事かな?」

充希「そうです」

升野「それ間違いないのね?」

充希「はい」

升野「君が、僕に、好意を持っている。恋愛感情的に好意を持っていると言うことで、間違いないね?」

充希「そうです」

升野「それを今、伝えてくれたんだね?」

充希「そうです」

升野「わかりました。じゃあ今から気絶します、わー」

   升野、その場に卒倒して気絶。

飯塚「え、伝えたい事って、それ?」

充希「色々あったんですけど、でも、これもそうです」

あかり「ミッキー、気絶しますって言って気絶しちゃうような、こんな人でいいの?、後々後悔するよ?」

   角田、嬉しそうに割って入る。

角田「いやいやよくやったよ、ミッキー。勇気を出した」

   充希、角田をスルーしてあかりの前へ。

充希「いいんです。私、自分の気持ちを伝えたかっただけですから。それに、あかりさんも升野さんのこと好きなんでしょ?」

あかり「え、なに言ってんの?」

   角田、態度豹変。

角田「おい余計なこと言ってんじゃねえ、なに言ってんだお前はっ」

充希「え、違ったんですか?、てっきり嫉妬してんのかなとか思っちゃった」

あかり「まあ正確に言うと、嫉妬してたって言うか、升野さんは私のペット的な存在で、ムカつく事もあるけど、可愛いっていうか。だから、自分のペットが人になつくと、なんだかなーみたいな」

   升野、パッと体を起こす。

升野「おいっ、ふざけんな、誰がペットだ」

   あかり、舌を鳴らし手を差し出す。

   升野、ペットのように吸い寄せられるが、すぐ手をはたく。

升野「何してんだよ」

角田「俺はペットでもいいっ」

飯塚「ハウスっ」

   角田、長椅子にハウス。

   上手から江田島が現れる。

江田島「はい、どうも御苦労さまでした。(充希に)お前らのやった事は小さな反抗だったみたいだな。お陰さまでね、スポンサーが23時間テレビ非常に気に入ってくれて、身売りの話が上手くいきそうだよ」

   オニゾウ、江田島に走り寄る。

江田島「なんだなんだ?、おい」

   オニゾウ、江田島をぶん殴る、

江田島「痛たあっ、おい、何すんだっ」

   オニゾウ、客席に背を向け、江田島に向けて着ぐるみの頭部を外す。

   ハゲた男の後頭部が見える。

江田島「か、会長!」

飯塚「会長?」

江田島「この、みちのくササヒカリテレビの会長だ」

   会長、頭部を戻す。

飯塚「はっ!」

   会長の声(テープのナレーションと同じ)がする。

会長の声「オニゾウ。それは開局以来、この会社のトップの仕事だ」

飯塚「なんでだよ」

会長の声「私は、テレビの仕事を愛していた。それゆえ経営はあまり得意ではなくてな。切れ者江田島にすべて任せっきりにしたのが、間違いだったのかも知れん。しかし、今日君たちを見ていて教わったよ。好きならば逃げずに、戦えばいい。私は決めた。この会社は、身売りなどしない」

江田島「いや、でも」

会長の声「江田島。わしともう一度、やり直そうじゃねえか。この会社を今一度、立て直そう。俺たちなら出来る」

江田島「......会長」

   江田島、泣いて会長にすがる。

飯塚「いつまでオニギリ被ってるんすか?」

   角田、会長にすり寄る。

角田「いやいやいや、会長とはつゆ知らず数々の失言、大変失礼致しましたーっ」

会長の声「なに、お前の行いに腹を立てるような私ではない」

角田「流石心がお広い。ま、そんな変な事してないですもんね。じゃ、これか

らは友達と言うことでいきましょうか」

   角田、会長の肩を叩く。

   会長、その手を払い、パンチ。

角田「あ痛ってえ、何すんだオラっ」

   再び向かいかけた角田の髪を升野が後ろに引っ張る。

角田「あ、それは駄目」

升野「会長だって言ってんだろ」

角田「動かないで、ゆっくりやって」

   升野、髪で角田をコントロールして歩き出す。

升野「おいキャリーバッグみたいだぞ」

   明るいエンディングが流れ出す。

   角田キャリーバッグ、升野からあかり、あかりから充希へパス。

   ようやく解放される角田、大げさな顔してみんなにアピール。

角田「もっと大事にしてーっ」

   一同、思わず笑う。

角田「もっと、もっと、大事にしてーっ、冗談じゃないよっ」

   角田。スタジオの中へ。

   充希、オニゾウの前へ。

充希「おじいちゃんっ、私もっと頑張るね」

飯塚「おじいちゃん?、おじいちゃんなの?」

充希(即答)「そうです。私、会長の孫なんですよ」

飯塚「じゃ最初からそう言えばいいじゃん。おじいちゃんに、身売りしないでって」

充希「......そっか」

飯塚「そっかじゃねえよ」

   角田、戻ってくる。

角田「おい、ゴリナがゴールしてるぞ?」

飯塚「あ、忘れてた」

豊本(テレビ見て)「ゴリナのゴールがテレビで中継されてるぞ」

   一同、会議机のテレビを囲む。

飯塚「さすが升野さん、ちゃんと指示出してたんですね?」

升野「いや俺、なんの指示も出してないよ?」

飯塚「じゃ、誰が」

充希「あっ、うちのスタッフ達が映ってる」

飯塚「なんで?」

   BGM、ややメロウに。

川島「駆け付けたんだろう。当たり前だ、自分たちのテレビ局でこんな面白いものがやってるんだ、テレビマンとして血が騒がないわけないだろう。結局こいつらさ、自分たちのテレビ捨てること出来なかったんだよ」

   川島、席を立つ。

川島「よーし、23時間戦い続けたUFIに、『お疲れ様』言ってやるか」

飯塚「そうっすね」

   一同口々に「疲れたー」と余韻に浸り、江田島は会長を先導して、

   スタジオの中へ入っていく。

   画面が徐々に暗転していく。

   スタジオから慌てて戻ってくる一同。

川島「おいおいゴリナ、ゴール出迎え無かったってブチ切れてんじゃないかよっ」

   一同、逃げて上手へはける。

   画面、暗転。

 

                   了

 


ウレロ☆未公開少女

 

『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(2)

   デジタル時計。

   19時台から一気に22時へ。

   照明点灯。

   長椅子にあかりと飯塚、会議机に包帯の取れた川島と豊本。

   上手から江田島が現れる。

江田島「いやー素晴らしいスピーチでしたね。川島社長、スポンサー大喜びですよ。すなわちこれ、私も大喜びですよ」

川島「いやいやそんな、たまたまですよ」

飯塚「たまたまですよね、本当の。何ちょっと『たまたまじゃない』みたいな顔で言ったんですか」

江田島「それに豊本さん。鬼相撲の決勝戦ね、チャンピオンを土俵際に沈めたあの瞬間」

   豊本、チャンピオンの証にツノの生えた王冠をかぶっている。

   仕切り板からボロボロの角田登場。

角田「冗談じゃねえよ、なんで最強チャンピオン『キックのムラサワ』さんがこれなくなったからって、代わりにその役俺がやんなきゃいけねんだよ。で、なんでお前(豊本)が勝ち上がってくんだよ......なんで本気で俺を殺そうとすんだよっ」

江田島「角田さん。何はしゃいでるんですか?」

角田「はしゃいでる?!......まあまあ、見ようによっちゃ確かにちょっとはしゃいでるように……見えねえだろっ」

飯塚「ノリッツコミだ」

江田島「あんま巧くはないよね」

角田「で、例のアレは届いたのか?」

豊本「角田、お前が欲しがっているのは、この(王冠を脱ぎ)鬼相撲チャンピオンの王冠か?、力づくで奪ってみろっ」

角田「いらねえよそんなもん。FAXだよ、歌詞のFAXだよ。いっぱいあるじゃん、違うのこれ?」

   角田、ゴチャゴチャした会議机に手を伸ばす。

豊本「触るなっ、(凄んで)刻むぞ」

角田「......刻んだことのある奴の目だ」

川島「社長、すいません我々には次の準備がありますので」

江田島「あ、すいません。じゃあ、よろしくお願いしますね」

   江田島、上手からはける。

飯塚「なんか、出来る奴ぶってません?」

   川島、爽やかに微笑む。

飯塚「その顔やめろよ、ムカつくから」

   スタジオから升野と、升野に怒鳴られて充希が出てくる。

升野「ふざけんなお前、こんなん使えるかよ、没収だ没収。お前は」

飯塚「どうしたんですか升野さん」

升野「どうしたもこうしたもねえ、お前オンエア見てなかったの?、あの地元で有名な書道の達人の米俵白雲斎が来て、UFIと書道やる企画なのに、肝心の米俵白雲斎来てねんだよ、お前どうなってんだよこれ」

   充希、激しくどもる。

升野「お前さ、遅れるなら遅れるで何時に来るのかしっかり確認しろよ」

充希(どもって)「すいません」

飯塚「どっから声出てんだよ」

充希「すすすすす」

飯塚「すすすすす、じゃねえよ」

充希「すうー」

飯塚「すうー、やめろっ、唯一無事だったスタッフなんだからしっかりして?」

充希「はい」

升野「お陰で現場はさんざんだよもう。小学校低学年の習字の時間だよ、みんなで筆振り回してきゃっきゃきゃっきゃやって。見ろ、これ。こんなの」

   升野、巻物状にして持っていたUFI作の書初めを開く。

   象形文字のような出来栄え。

升野「悪戯描きだよこれ」

飯塚「もう幼稚園児以下じゃないすか」

あかり「でもこの絵、結構いい味出てますね。本来、絵ってこう心のままに、自由に描くもんじゃないですか」

升野「いやいや絵を描けっつってない、字を描けっつってこうなったの。お前がいっつもそうやって甘やかすからアイツらいつまでもガキなんだよ」

あかり「私が間違っているって言うんですか?」

升野「......」

あかり「私の、絵に対するっ......」

升野「絵の話じゃねえんだよ、字の話してんだよ」

角田「升野さんよお。アンタなんにもわかってねえんじゃねえか?」

升野「あ?」

角田「クイーンステージ・エンターテイメントだかなんだか知らねえけどよ。大企業の犬に成り下がってよ」

   升野、足首回して準備運動。

角田「大事なもん忘れちまったんじゃねえのか?、もっと人ってのはよ......」

   升野、角田に助走つけて跳び蹴り。

角田「うわーっ、クソーっ」

升野「お前は曲を書けっ」

角田「畜生っ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「まったくどいつもこいつも使えねえな」

あかり「この、わからず屋っ」

升野「あ?」

あかり「ふんっ」

   あかり、ふてくされて上手へはける。

川島「升野、そんな風に言うことはねえんじゃねえか?、あかりはな、忙しい仕事の合間を縫ってデザイン学校へ通い、絵を学んでな。なんと、今日がその学校の卒業式だったんだよ」

升野「まずあの、絵の話じゃないからね?、字の話なんだよ。(充希に)お前、もう一回行ってちゃんと念を押して来いっ」

充希「私も、絵のことは」

升野「絵の話じゃねえっつってんだよっ、早く行けよ」

充希「失礼します」

   充希、スタジオへ。

川島「あかりはな、事務所が一丸となって取り組むこの23時間テレビが大切だからと言って、卒業式には出ないことに決めたんだ。この番組を成功させようと、一生懸命にやってくれてんだよ」

升野「......」

川島「だからさあっ、そんなあかりの為にさあっ、もうこんな番組のこと一回忘れてさあっ、今からサプライズで祝ってやるってのは、どうだいっ?」

飯塚「いや、おかしいおかしい。本末転倒過ぎるわ」

川島「......どうだいっ?」

飯塚「どうだいっ、じゃなくて。テンション上がっちゃったんですか?、なんで今日なんですか明日じゃ駄目なんですか?」

川島「なーんーと。今日がその学校の、卒業式だったんだ」

飯塚「聞いたよそれ、新鮮に言うなよ」

   豊本、机を叩いて立ち上がる。

豊本「だったらっ」

飯塚「なんで熱くなってんだよ。もう社長、サプライズはやめときません?、この前それで大失敗してるじゃないですか」

升野「駄目だよ、今そんなわけわかんないこと付き合ってる時間ないの」

川島「じゃあ升野このままでいいのか。頭ごなしにあかりを責めて傷つけて、こんなギスギスした状態で我々は一致団結できるのか?」

升野「そりゃ悪かったと思ってるけどさ」

飯塚「ほら升野さんのせいで社長の言ってることがちょっと正論みたいになっちゃってるじゃないですか」

川島「それに、あかりが気分良くなればさ、みんなもバリバリ気分良く仕事に取り組めるだろう?」

飯塚「もう、やるしかないでしょう。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

升野「どうやって気分良くさせるんだよ」

川島「まずは、お前らで一回あかりのことをボロクソに罵倒するんだよ」

升野「なんでだよ」

川島「それで、落ち込んでるところをちょちょいとやればさあ。(吐き捨てるように)イチコロだろう、あんな小娘よ」

飯塚「え、あかりちゃんの為にやるんですよね?」

川島「そして、あかりが落ち込んで凹んでるところを縛り上げて、目隠しをして、さらおうとする誘拐犯。助けてと叫ぶあかり。しかし誰も助けようとはしない。連れ去られたあかりが震えながら目隠しを外すと、そこにはUFIがいて、卒業を祝うプレゼントを渡す。完璧だろ?、よし、各自配置に就け」

飯塚「ひどいですよ」

   豊本、上手の様子をうかがう。

豊本「あかり、来ました」

川島「じゃあ俺、扉の前で待機してるから、ボロクソに凹ませたら合図しろよ?」

豊本「わかりました」

   川島、スタジオの中へ。困惑する飯塚・升野。

飯塚「ええ?」

升野「ちょちょちょ」

   升野がスタジオの扉に手をかけるも、向こうから閉ざされている。

升野「扉閉めるなって、スタジオ行けないだろ」

飯塚「もうサプライズどうにかしましょう。それしかない」

豊本「来た来た来た」

   上手からあかりが来る。

   平静を装う3人。

   あかり、頭を下げる。

あかり「さっきはすいませんでした升野さん。つい、ムキになっちゃって」

   升野、返答に困る。

   豊本、演技のスイッチON.

豊本「おーう、あかり。なんかUFIがお前のこと嫌いって言ってたぜ」

あかり「へえ?、なんでですか」

豊本「それに、俺たちだってお前のこと嫌いだからな。(飯塚に)なあっ?」

飯塚「ふあっ?、お、おう……お前なんかこの川島プロにいらねえんだよ、コノヤローっ」

あかり「なんなんですか?、急に」

飯塚「急......だよなあ、これ絶対おかしい」

豊本「余計なこと考えるなよ。升野、お前からも言ってやれよ」

   豊本、升野の背中を押す。

升野「おい、あかり。お前なんかちょっと見ない間によ、ちょっと大人っぽくなってんじゃん......覚えてやがれ」

飯塚「ちょっと褒めちゃってるけど?」

升野「緊張しちゃって......」

   角田、仕切り板から出てくる。

角田「FAXまだ来てねえのかよお」

飯塚「角田さん、今ちょっと立て込んでるんで、後で」

角田「後で?」

   豊本がまた升野をせっつく。

豊本「升野」

   升野、再びあかりに絡む。

升野「おいおいなんだよお前よ、よく見るとなんか、髪つやっつやだなあ......ざまあみろ」

角田「何の話をしてるんだ?、これは」

あかり「なんなんですか、升野さんまで。クイーンステージに行ってからも、私にだけは、連絡くれてたじゃないですか」

   升野、動揺。

あかり「『最近どうだ?』とか、『風邪引いてない?』とか、そんな優しいメールくれてたじゃないですか」

飯塚(嬉しそうに)「え?、え?」

角田「えっ?、なんだっ?」

あかり「『月が綺麗だね』なんて、他愛のないことでもメールくれてたじゃないですかっ」

飯塚「うわキツいわあーっ」

   逃げる升野を、はしゃぐ飯塚が追いつめる。

飯塚「えっ?、升野さん待って『月が綺麗だね』ってメールしたんすかーっ、『月が綺麗だね』ってアレじゃないですか?」

升野「は?、は?」

飯塚「夏目漱石が『アイラブユー』を和訳した言葉では」

升野「はっ?」

あかり(喜色)「えっ?、何を和訳したんですかっ?」

飯塚「そんなことメールしてる奴が何言っても無駄だわーっ」

升野「ふざけんな、メールなんかしてねえ、ウソこいてんじゃねえよお前よっ」

あかり「......なんでウソつくんですか」

飯塚「『ウソつくんですか』ってっ、ウソなんじゃん送ってんじゃーん」

あかり「私、嬉しかったのに」

飯塚「『嬉しかった』って、えーっ、良かったなあーっ、おいっ」

升野「(あかりに)「お前ふざけんな、調子に乗ってんじゃねえよ、お前のことなんか別に、なんとも思ってないもんなっ」

あかり「......」

豊本「いいぞ升野、その調子だっ」

飯塚「ただの照れ隠しじゃないすかーっ」

   飯塚、ますますはしゃぐ。

角田「なに陰でコソコソ話し......」

飯塚「やかまし、こらあっ」

   飯塚、角田に跳び蹴り。

角田「えーっ?」

飯塚「今こっちだいぶ面白いことになってんだよ。引っ込んどけっ」

角田「もおーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「今日だってさ。成長してんの図体ばっかかと思ったら、なんかいっぱしに色づきやがってよ。お前なんか、好きな人とか出来てよ、なんか仕事とか勉強とか手につかない感じになってんじゃねえの?。ちょっと言ってみろよ」

飯塚「いいねいいね、ちょっと探り入れてる感じがいいね」

あかり「そんなんじゃありません。手が回らなかったのは、新作漫画のことで頭が回らなくなってただけなのに」

升野「うん?」

あかり「そんな風に言わなくたっていいじゃないですか。私が、私がいくら留年したからってっ」

升野「?!」

飯塚「留年?!」

あかり「もう、最低っ」

飯塚「え?、あかりちゃん留年?」

   あかり、号泣して上手へはける。

飯塚「あかりちゃん留年?、不味くないすか、留年してるのに卒業おめでとうサプライズって最悪じゃないすか」

   升野、棒立ち。

飯塚「どうするんですか......ってメールの件まだ凹んでるんすか?」

   スタジオから、鬼の面を付けた川島が出てくる。

飯塚「社長!」

   川島、嬉しそうに面を外す。

川島「あかりは?、あかり来た?」

飯塚「いやちょっと、状況が変わったというか、話さないといけないことが」

升野「ちょっとUFIスタジオうえーん」

   升野、泣きべそかいてスタジオの中へ。

飯塚「升野さん?」

川島(嬉しそうに)「あかりは?、来た?」

飯塚「ちょっとお話ししなければならないことが出来まして」

   上手から江田島が出てくる。

江田島「川島社長。どうですか?、準備の方は」

川島「はい、もうバッチリです江田島社長」

飯塚「あなたも何か聞いてるんですか?」

江田島「いや同じ社長としてね、社員を想うその気持ち素晴らしい。見習いたい」

飯塚「いや、あのー」

江田島「そこで我々も何かお手伝い出来ないかと思いましてね。どうでしょうここはひとつ、ニャンコ先生へのサプライズを生放送しちゃうって言うのはっ」

川島「本当にいいんですか?」

   升野、スタジオから戻る。

飯塚「絶対駄目です、絶対駄目です」

升野「何が駄目って?」

江田島「実はね、今UFIの皆さんにね」

   江田島、テレビを点ける。

   モニターチェック。

江田島「チャレンジしてもらってる習字もね、卒業するニャンコ先生へ向けてのメッセージを書いてもらうよう言ってあるんですよ」

   スタジオ。

   ゴリナ除くUFIが習字を広げている(後ろ姿。顔は見えない)。

   『てんさいがはくあかりんに』

升野「え?、これ待って、もしかして」

   升野、先程持ってきていた象形文字のような習字を広げる。

升野「『天才画伯』って書こうとしてたってこと?」

   江田島、テレビを消す。

   照明点灯。

江田島「そして、目隠しされたニャンコ先生が連れて来られたその先は、なんとオンエア中のスタジオ。でUFIの皆さんにね、ニャンコ先生へのメッセージとプレゼントを渡して頂く。どうですか」

川島「素敵です、本当にいいんですか?」

飯塚「社長(川島)!、そして社長(江田島)!」

江田島「今、巷で話題のニャンコ先生が出てくれるんだから、視聴者大喜びですよ。そして更にニャンコ先生にはその場で、生で、今の気持ちを絵に描いていただく。テレビ出て絵描けんだからニャンコ先生も大喜びでしょう」

飯塚「やめませんか?、『テレビ出て絵を描けて大喜び』の意味もよくわかりませんし。社長(川島)、なんかね、言ってなかったことがあるみたいなんですよ」

江田島「あ!、気づかれましたか」

川島(喜色)「なになに、どういう事?」

江田島「実はこの事はもう、ラ・テ欄で予告しちゃってるんですよ」

   江田島、会議机の上のスポーツ新聞を嬉しそうにひけらかす。

飯塚「えーっ?」

川島「すっごいサプライズだよお♪」

   川島、嬉しそうに飯塚の背中を叩く。

江田島「川島社長大喜びだあ」

   升野、スポーツ新聞を開く。

升野「え?、『あのカリスマ作家がテレビ初出演。その腕前を披露』ってこれ、白雲斎のことじゃないんですか?」

江田島「いやいや、先生初出演じゃありませんよ。あの人基本テレビ出るの大好きだし」

升野「だったら今日もちゃんと来いよ」

川島「じゃあすぐに誘拐して、連れて来ますんで」

江田島「しっかり頼みますよ?、これは素晴らしいですよ。楽しみだなぁ」

   江田島、上手へはける。

飯塚「いやいや江田島社長、違う」

川島「これは盛り上がるなぁ」

   川島、嬉しそうにスタジオの扉へ向かう。

飯塚「いやいや川島社長、違う」

   充希が向こうからこっそり覗くスタジオの扉。

   そこをくぐろうとした川島を、飯塚が慌てて引き留める。

川島「なんだよ」

飯塚「流石に白雲斎先生に失礼じゃないすか?、これは。(充希に気づき)おお、ADさんちょっと来て」

   飯塚、充希を引っ張り出す。

飯塚「待ってれば来るんでしょ?、白雲斎先生」

充希「あの、さっき言えなかったんですけど。白雲斎先生も行方不明です」

升野「は?、じゃマジで別のカリスマ出さなきゃいけないの?」

充希「すいませんっ」

   充希、スタジオへ逃げ込む。

川島(嬉しそうに)「飯塚、もうこれは、あかりに出てもらうしかないな」

飯塚「それはちょっとやめてください。聞いてください社長、大変です」

川島(嬉しそうに)「大変だなっ、大変だよお」

飯塚「違う、そっちの意味じゃなくて。あの、ちょっと落ち着いて聞いてくださいね?」

川島「はい」

飯塚「あかりちゃん、留年してます」

川島「そう。じゃあさ、楽しくお祝いしてあげようよ、パアーっと」

飯塚「バカじゃないの?、留年ですよ、留年。あかりちゃん、卒業してません」

川島「......」

   川島、ようやく真顔になって。

川島「どういう事だバカヤローっ、卒業してないってことはお前、卒業してないってことじゃねえかよっ」

飯塚「だからずっとそう言ってるんです」

川島「聞いてないよ、俺はそんなこと」

飯塚「だからサプライズは中止です。江田島社長にも言って、全部中止にしてもらいましょう」

升野「いや、それは駄目だ。あの江田島社長のことだ、おそらくこのことも事前にスポンサーに触れ回って、それをダシにCM契約を取っているだろう」

川島「こうなったら無理やりにでもやっちまおうよ。無理やりにでも大人しくさせてさらっちまえば、後は黙らせて脅すなりなんなりして、こっちの要求呑んでもらうしかないだろ」

飯塚「それ、なんのサプライズなんですか」

川島「飯塚っ、勘違いするな......これはもう、ただの誘拐だ」

豊本「了解っ」

飯塚「了解じゃねえよ。それじゃ番組自体メチャクチャじゃないっすか。さっきのUFIのメッセージも何のことだかわからなくなりますし」

升野「それなら大丈夫だ。アイツらはあくまでも『てんさいがはくあかりんに』って書いただけだ。そこにあかりを連れて行って、なんとなくおめでとう的な空気にすれば、ギリギリ成立する」

飯塚「いや、そうおめでとう的な空気にならないでしょう?」

川島「よーし豊本、お前は最近あかりの身の回りで起こった、なんとなくおめでとうと言えなくもない出来事を洗い出せ」

豊本「......『年が明けた』って言うのは?」

川島「最悪、それで行こう」

飯塚「3月だよ、もうっ」

   あかりの泣き声がする。

豊本「あかり来ましたっ」

川島「よし、もう1回ボロクソに言うところから始めるからな」

飯塚「ボロクソ言う以外何か方法ないんですか?」

川島「贅沢言ってる場合か。おい升野、頼んだぞ?」

   川島、スタジオへ隠れる。

升野「おお、おお。わかった」

飯塚「いや、さっき出来てなかったでしょ?」

升野「は?、めっちゃ言えてたし」

飯塚「ちゃんとやってくださいよ?」

升野「当たり前じゃん」

   上手から泣いたあかりが現れる。

   升野、いきがる。

升野「おい、あかり。お前何泣いてんだよ、泣いてんじゃねえよお前よ。泣いたらお前......マスカラ落ちちゃうだろうがよ」

飯塚「何してんすか。ボロクソ、ボロクソ」

升野「言ってんじゃん」

   升野、再挑戦。

升野「何調子くれて化粧こいてんの?、お前。あ?、すっぴんでも大丈夫なくせにビビってんじゃねえよっ」

飯塚「もうお前、次あたり告白するだろ。好きだろ、なあ。そっちでもいいぞ、俺。面白いぞ、それも」

   升野、またまたチャレンジ。

升野「お前よ、聞くところによるとあかりよ。お前なんか、留年したそうじゃねえかよ、どうしようもねえ女だな」

飯塚「え、それ言う?」

豊本「そうだよ、なに留年してんだよ」

飯塚「乗っかるな」

豊本「恥ずかしくねえのかよテメエ」

   升野と豊本、手拍子。

升野・豊本「留・年! 留・年!」

   あかり、泣きやむと顔を上げ、怒りの形相。

飯塚「やめろって。俺、知らないよ?」

   あかり、2人に強烈なビンタ。

飯塚「ホラあ」

あかり「人の気も知らないで、無神経なことばっか言いやがってっ」

   あかり、長椅子にすがる2人をタコ殴り。

飯塚「あかりちゃん落ち着こう」

   角田が仕切り板から出てくる。

角田「留年ってなんの話かな?、ははは。(手拍子)誰が? 誰が? 留年したの?」

   あかり、手拍子に合わせて角田の顔を蹴りあげる。

   スタジオから鬼の面の川島登場。

川島「あかりはどこだ、あかりはどこだ」

あかり(不機嫌)「はあ?」

飯塚「今じゃない、今じゃない」

あかり「誰なの?、アンタ」

川島「お前を誘拐しに来たぞーい」

あかり「どいつもこいつもバカにやがってっ」

   あかり、川島を殴り倒し、タコ殴り。

飯塚「社長っ、もうどうすんすかこれ」

升野「ああーっ」

   升野が構えに入る。

升野「ギャラクシー・パッション!」

   ギャラクシー・パッションの放出で、川島とあかりがひっくり返る。

   今だ、とあかりを押さえる川島と升野。

あかり「ええっ?、なに?」

飯塚「ひどい。今ギャラクシーパッションの出し時だった?」

   川島、ガムテープであかりを後ろ手に縛り、豊本がアイマスクを被せる。

飯塚「なんだこの生々しい絵面はっ?、見てられない」

升野「スタンバイさせてくる」

   升野、スタジオへ。

豊本「すまないあかり、俺たちは誘拐犯に脅されて、仕方なくやってるだけだ」

あかり「なんでーっ?」

豊本「黙れこのアマっ」

   豊本、テープであかりの口を塞ぐ。

   川島と2人であかりを運んでいると、

   スタジオから充希とオニゾウ登場。

充希「ええーっ?、何やってんすか」

川島「見りゃわかるだろ、今あかりを誘拐してるんだっ」

充希「誰か、助けるみたいなの無いんですか?」

豊本「ちょっと、そこどいてっ」

角田「何がどうなってんだよ、教えてくれって」

   豊本、すがりつく角田を投げ飛ばす。

豊本「後で説明するからーっ」

充希「この、くたばれ誘拐犯。行けオニゾウっ」

   オニゾウ、川島を投げ飛ばし、タコ殴り。

充希「ボッコボコにせよ、ボッコボコ」

飯塚「死んじゃう、怪我がどんどん悪化していく」

   飯塚、充希にすがり寄る。

飯塚「君も落ち着いて」

   充希、飯塚を振り払う。

充希「こんな時に落ち着いてられっか。お前さん方の血は何色だなすーっ、行けえっ」

飯塚(笑)「キレると凄い方言になるな」

充希「行けっ、もういっちょっ」

飯塚「とにかく、違うから」

充希「違う?……誘拐犯じゃねえのか?」

   オニゾウ、手を止める。

豊本「いや、誘拐犯!、誘拐犯!」

   オニゾウ、再び川島をタコ殴り。

充希「くたばれ誘拐犯っ」

飯塚「違うからっ、なんなの?、急なその正義感はなんなの?」

充希「お前らこそなんなんだ?、都会の人は冷てえ冷てえって聞いとったけど、ここまでとは知らなんだなあーっ」

   川島、あがいてオニゾウを転ばせ、上手へ逃げ出す。

充希「追えーっ」

   充希の檄で立ち上がるオニゾウ、会議机を回って豊本を殴り、

豊本「おわっ」

   角田を殴り、

角田「痛てえっ」

   川島を追って上手にはける。

飯塚「なんでわざわざ遠まわりして2人殴ったんだ?」

   升野、スタジオから出てくる。

升野「ちょっと、あかりは?」

   充希、あかりの拘束をほどく。

升野「あれ誘拐犯は?、なんで(あかり)寝てんの?、おい、あかりに絵描かせるスタンバイ出来てるぞ」

飯塚「何の絵描かせるんですかこの状況で」

充希「あかりさん、スタジオに行きますよ」

   あかり、まだ口にテープ。

   何かふがふが言っている。

充希「とりあえず、立って」

升野「どういうこと?」

   充希、あかりをスタジオに放り、飯塚たちに興奮して捨て台詞。

充希「お前たちみたいなの野放しにわーわーわーっ」

飯塚「はあっ?」

   充希、スタジオへ。

升野「何?、あいつ。あいつ、何?」

   升野も2人を追ってスタジオへ。

豊本「くっそ、あのオニギリ野郎め」

飯塚「どういう状況なの?、なんでスタジオ連れて行ったのよ。ちょっと、テレビ」

   飯塚、テレビをつける。

   照明薄明りに。

豊本「違う、違うんだ、さっき俺油断しただけで」

   豊本、会議机の上の王冠を手に取る。

豊本「チャンピオンはこの俺だ」

飯塚「やかましいわ」

豊本「OHシット!」

   飯塚、豊本の背中を蹴り倒す。

角田「なんだ、一体どうなってんだよ」

   飯塚、角田にビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「教えてよ」

   ビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「全然ついていけないんだけど」

   飯塚、反対の頬もビンタ。

角田「あ、こっち駄目なんだよ痛いもう」

   飯塚、モニターチェック。

   2階の通路にUFIの後ろ姿。

   『てんさいがはくあかりんに』の習字を掲げている。

   そこへ充希が来て、しゃがむ。

充希「あかりさん、おねげえします」

   あかり、泣きながらボードを手に、

   習字の『に』の隣りへ走り出る。

飯塚「あかりちゃんだ」

あかり「皆さん聞いてくださいっ」

   あかり、高速でボードに筆を動かす。

飯塚「良かった、一応絵は描いてるみたいだ」

あかり「コイツが、コイツが私を誘拐しようとした男ですっ」

   ボードをめくると、鬼(川島)の絵。

飯塚「そっちかいっ」

あかり「この鬼のお面をかぶった男に、私はひどい目に遭ったんです。突然手足を縛られて、私は成す術もなく......」

   あかり、号泣。

飯塚「何このシュールな放送、後ろの『てんさいがはくあかりんに』の習字もまったく意味わからないし。これ、混乱するぞ?、視聴者」

   いつのまにか充希と共にUFIの脇で見守っていた升野。

升野「これしかない」

   升野、立ち上がると、UFIの習字を並び替えていく。

あかり「皆さん。皆さんの力が必要です」

飯塚「升野さん、何やってんですかもう。わけわかんねえよ」

あかり「この鬼の仮面をつけた男を」

豊本「おいおい升野」

飯塚「おしまいだよ、もう」

あかり「もしかしたら、この近くをまだ逃げてるかも知れない。皆さんの身にも何が起きるかわかりません。だからみんなでコイツ(鬼)を捕まえましょう」

   升野、並び変え終えるとはける。

   習字は『さいあくはんにんてがかり』の並びに。隣りに鬼の絵。

あかり「この、最悪の犯人の手掛かりを、お待ちしています」

飯塚「すげえ升野さん、そっちで成立させた」

充希「はい、CM入りました」

あかり「怖かった、私怖かったー」

   あかりを抱き止める充希。

充希「あかりさん、頑張ったな。勇気出したな」

   飯塚、テレビを消す。

   照明点灯。

角田「一体何がどうなってんだよ」

   角田、疲れて仕切り板の向こうへ。

飯塚「いやでもなんかこれ、大事になっちゃってない?」

   上手から江田島が登場。

飯塚「あ、来た」

   飯塚、頭を下げる。

飯塚「すいませんでしたっ」

江田島「素晴らしい。感動しました」

飯塚「え、いいんですか?」

江田島「だって、ニャンコ先生、絵描いて披露してくれたでしょ?、あの犯人がどうとかこうとかって、演出なんでしょ?、私その前の流れ見てなかったんでよくわかんない」

飯塚「あ、そうすか。じゃ良かったです」

   角田、仕切り板から登場。手には原稿。

角田「よっしゃよっしゃ、今夜はよっしゃだっ、来たぞ来たぞ、歌詞のFAX一通目だよ。絵が浮かぶんだよ、ちょっと聞いてくれ」

    角田、弾き語りを始める。

角田「♪ 中肉中背のちょっと怪しげな男が

    テレビ局の方から 泣きながら走ってきました

   ......なあ?、絵が浮かぶだろ?」

飯塚「それ、犯人の目撃情報じゃないすか」

角田「はあ?」

飯塚(FAXを手に)「ウソでしょ、視聴者本気にしちゃってんじゃん」

川島「飯塚......俺、逮捕されんのか?」

飯塚「こっち来ないで」

   暗転。

 

   背景デジタル時計。早朝6時へ。

   角田、ひとり会議机でFAXを読んでいる。

角田「これも違うしよ。もう全然違うじゃねえかよ、もう来ないなこれ」

   飯塚、歯磨きしながら上手から登場。

飯塚「角田さん、ずっと起きてたんですか」

角田「なんだグッスリ仮眠ですか?、いい御身分だなまったくよ。いいよなお前達は、どのコーナーも結局評判いいみてえだしよ。あかりちゃんのだって反響凄かったんだろ?、それに比べて、これ全部(FAX)目撃情報だよ、やってらんねえよ。いいなあ、危機感のねえ奴らはよ」

飯塚「流石にこの時間は大丈夫でしょう、当たり障りのないコーナーでしたし。『幸せカップルさんこんにちは』でしたっけ?」

   飯塚、リモコンで音量を上げる。

角田「音量上げんじゃねえよ」

飯塚「なんすか」

角田「俺はな、ひとり徹夜で自分の仕事に集中してるんだよ」

   升野、スリッパ片手にスタジオから登場。

角田「幸せカップルの話なんか聞きたかねえんだよっ」

   升野、角田の口にスリッパを押し込む。

升野「徹夜してんのはお前だけじゃねえんだよっ、甘ったれんな喰えホラ、全部喰えよ」

   角田、激しく噎せる。

角田「吐いちゃうぞお前っ」

   角田、噎せすぎて涙目。

角田「スリッパは履くもんだ、口に入れるもんじゃないっ、覚えとけっ」

   角田、泣きながら仕切り板の向こうへ。

   飯塚、こみ上げる笑いが止まらない。

升野「飯塚。人間にスリッパを食べさせると、あんな顔になるんだな」

   飯塚、爆笑。

飯塚「升野さん、ずっと起きてたんですか?、眠くないんすか」

升野「ああ。俺は体中の気を脳に直接ギャラクシーパッションさせることで、3日くらいは起きていられるんだ」

飯塚「そんなことして大丈夫なんですか?」

升野「ただまあ、翌日の反動とか凄い。幻覚見えたり、口から涎が止まらなかったり、後ずっと瞳孔は開いてるけど逆にそれが気持ちよかったり。病みつきになるぞ?」

飯塚「すげえヤバそうじゃねえか」

升野「だってお前今のコーナー酷いことになってるぞ」

飯塚「幸せカップルさんの話聞くだけでしょ?」

   飯塚、テレビを見る。

飯塚「あれ?、資料だともっと、純情そうな微笑ましい感じのカップルじゃなかったですっけ」

升野「またなんだよ。また、来るはずだったカップルが連絡取れないんだよ」

飯塚(顔を歪め)「なんすかこれ、元ヤン丸出しのバカップルじゃないすか。コイツらとUFIでトークしてんですか?」

升野「そうだよ。コイツら、ほとんどパチンコの話しか、あとエロい話しかしないから、聞いててどんどんムラムラしちゃって、下半身がギャラクシーパッションしちゃってさ、仕事にならねえんだよ」

飯塚「下ネタに使うなよギャラクシーパッションを。だってUFIは一応アイドルですよ?」

升野「唯一互角に渡り合えそうなゴリナはマラソン行っちゃってるからさ、あと深夜だから年齢的にMCはももりん一人しかいないでしょ?、もうどうしようもないんだよ、好き勝手やられ放題だよ」

飯塚「あ!、コイツら生放送で何やって。あーあ、すんごいエロいキスしてる」

   升野、テレビを凝視。

飯塚「もう舌が、舌が凄いよ。ももりん下を向いて顔赤くしてるだけじゃないすか」

   角田、仕切り板の上から覗く。

   升野、腰を丸める。

飯塚「ちょ、何反応してるんですか。反応してるでしょ、升野さんも。いいから指示出して来てくださいよっ」

升野「ちょっとトイレで1回ゼウスしてくる」

飯塚「ゼウスをそういう意味で使うなよ」

   升野、ティッシュ箱を取って、スタジオへ向かう。

飯塚「な!、ティッシュ置いてけっ」

   飯塚、ティッシュを奪い返す。

飯塚「行けっ、早く指示をっ」

   升野をスタジオへ追い払う。

   角田が仕切りから出てテレビにかぶりつく。

飯塚「何をしてんだ、お前はっ」

   飯塚、ティッシュを角田に投げつける。

飯塚「何、音量上げようとしてんだお前は」

角田「ティッシュは投げるもんじゃない!、覚えとけっ」

   角田、必死の顔で引っ込む。

   飯塚、笑って膝から崩れる。

   なんとか立ち上がり、ティッシュを戻す。

飯塚「もう何もかも上手くいかねえよ」

   エレベーターが開くと、中であかりと充希が楽しげに笑い合っている。

あかり「いやいや、それはないでしょ」

充希「でも、あかりさんなら割とアリじゃないですか?」

   2人、笑って出てくる。

飯塚「何?、こっちはどういうことなってるの?」

あかり「カラオケオールして、始発まで徹夜でお喋りして来ました」

飯塚「どんだけ仲良くなってんだよ。君(充希)、ADだよね?」

充希(即答)「そうです」

飯塚「そうですじゃねえよ。仕事しろ、仕事」

充希「はい、えへへ」

あかり「いいじゃないですか。私が誘ったんです。因みに、社長と豊本さんは江田島社長を連れて3人で呑みに行ってます♪」

飯塚「なんでみんな普通に出かけちゃってんだよ。おかしいだろうがっ」

   角田、仕切りから出てくる。

角田「ADお前」

充希「はい」

角田「FAXまだ来てねえのかFAX」

充希「ああ、もしかしたらスタジオにまだあるかも知れない」

   充希、スタジオへ駆け込む。

角田「早くしろよ、お前。身体もたねえよ、曲作る前によ」

   飯塚、また笑ってしまう。

   充希、FAXを手に戻ってくる。

充希「えへへ、これで全部です」

角田(受け取り)「来てんじゃねーかっ」

充希「すいませーん」

角田「早くよこせよ、お前......本当によ(目を通す)。お、いいじゃねえか。えっと最初が、これか?」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 駅前のコンビニで見かけました

 ......なんかこれじゃねえんだよなぁ。

 (FAXをめくる)

   ♪ 寂しそうに土手を歩いていました」

   充希、ノリノリ。

   あかり、不機嫌顔。

角田「素人は所詮こんな感じかな、まあ。

 (FAXをめくる)

   ♪ いかにも悪そうな人相でした

   これ全部目撃情報じゃねえかっ」

   角田、チャンチャンとカッティング。

飯塚「ただのギター漫談じゃないすか」

角田「どうなってんだよこれ、ちゃんと分けとけよ。目撃情報と、曲の歌詞とっ」

充希「あ、はい。すいません」

あかり「そうやって頭ごなしに怒鳴ることないでしょ?、飯塚さんからもなんとか言ってやってください」

飯塚「ちょっと今、それどころじゃないんだよ、こっち(テレビ)がさあ」

あかり「さっきからなんなんですか、その言い方。彼女は、私の命の恩人なんですよ」

飯塚「ああ、そっか、まあそうだよね。俺らもさ、犯人に脅されてあんなヒドイこと言わされて、辛かったんだよ?」

あかり「あの最悪な犯人の手掛かりが、こんなに集まって」

   あかり、ワナワナと震える。

あかり「それも全部......」

   あかり、ちょっと照れる。

あかり「ミッキーのお陰だよ」

   充希、ポカーンと呆ける。

充希「ミッキーって、私の事ですか?」

あかり「うん、充希だからミッキー。可愛くない?、私の事は、あかりんって呼んで」

   充希、嬉しくて笑いだす。

充希「いや、そんな恐れ多いですよ、そんな都会風のコミュニケーションは私には早いです」

角田「何がミッキーだよオラアっ、どぶネズミがあっ、働けドブネズミっ」

あかり「どうせテメエに歌詞の応募なんて一通も来てねえんだよ」

角田「いいや、来てるね、一通くらい来てる。じゃあお前アレだよ、もし来てたらよ、メアド教えろよ?」

あかり「なんで?」

角田「あっ?」

あかり「なんでっ?」

角田「ごめんなさいっ」

飯塚(テレビ見て)「あーあ、これカンペ出てるけど、ももりん絶対読めてない時の顔だよ。ちょっと行ってくるわ」

充希「あ、私も行った方がいいですか?」

飯塚「いい、いい。君はFAXの仕分けをしてて」

充希「はい......」

   飯塚、スタジオへ。

充希「私、やっぱこの仕事向いてないのかなあ」

角田「明らかに向いてないわなあ」

あかり「黙ってろ、このハゲ」

角田「はいはい、じゃあハゲは裏で育毛でもしてこようかなーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

あかり「ミッキー、あんなハゲの言うこと気にすることない」

充希「ありがとうございます。あかりさんは、素敵ですね。凄く可愛いし、凄いお洒落だし」

あかり「そんな、凄く可愛いなんてことは無いよ。普通に可愛いくらいで、うん」

充希「それに、ニャンコ先生として、ちゃんとやりたい事もやっておられますし」

あかり「いや、やりたい事をやっているって言うか、ただ漫画が好きなだけって言うか。あ、そう」

   あかり、長椅子に置いたバッグに駆け寄り、中から資料を取り出す。

あかり「これ見て」

   資料を充希に渡す。

あかり「私が描いた、新作漫画の設定資料」

充希(めくって)「へえー」

あかり「『地獄大戦ヘルマゲドン』って言うんだけど」

   あかり、充希の表情を下から覗く。

あかり「どう?」

充希「うん」

あかり「ふふ」

充希「普通に......グロいです」

あかり「わかる?、いいよねグロいよね、これ」

充希「グロいです、明らかにグロいですね」

あかり「後で、感想聞かせて」

充希「はい、へへ......私も、あかりさんを見習わないと。私、小さい頃からこの、みちのくササヒカリテレビを見て育ったんです。素朴だけどあったかい番組がいっぱいあって、私も、大人になったらそんな番組作りたいなあって思って頑張って入社した......んですけどねえ」

あかり「出来るよ。ミッキーなら出来る」

充希「いやあ、ありがとうございます。あ」

   充希、巻いていたポーチからカセットテープを取り出す。

充希「これ、さっき言ってた、私が昔大好きだった子供番組自分で録音したやつなんですけど、もし良かったら、聞きます?」

あかり「いいの?、聞く聞く。(受け取って)凄い......メタルテープじゃん」

充希「そうなんですよ、やっぱ保存用はメタルですよね」

   充希、テンション上がって会議机のラジカセにテープをセットする。

   あかり、追って机のそばへ。

充希「ちょっと待ってください、今かけますから」

   充希、再生。

カセット「『泣くなオニゾウ』『好きなものは好き、の巻』」

   充希、あかりにパイプ椅子をすすめる。

   あかり、椅子に座る。

   カセットからBGMが流れ出し、充希はノリノリで踊る。

カセット「『ここは、鬼だけが住んでいる鬼ヶ村にある、鬼学校。今日も、オニゾウくんと愉快な仲間たちが、何やら騒いでいるようじゃ』」

鬼子の声「うえーん。うえーん」

オニゾウの声「あれ?、誰かが泣いてる。この泣き声は……」

   充希、嬉しそうにあかりに教える。

オニゾウの声「『鬼子ちゃん』」

充希「鬼子ちゃん」

鬼子の声「『飼っていた子犬が、いなくなっちゃったの』」

オニゾウの声「『ええ?、探してあげるよ。どんな犬?』」

充希「ふへへ」

鬼子の声「『じゃあ、口で説明するのは難しいから、絵で描くね?』」

   絵描き歌が流れ出し、充希がノリノリで身体を揺らす。

   あかり、遮るようにサッと立つ。

あかり「これって結構長い?」

充希「あ、一回止めます一回止めます」

   充希、俊敏にカセットを停止させる。

充希「......ここまで、どうですか?」

あかり「うん……オニゾウ可愛い、めっちゃ可愛いーっ」

角田「全然可愛くねえよっ」

   角田が仕切りから出てくる。

角田「静かにしろっつってんだよっ」

   スタジオからオニゾウ登場。

角田「なんだよ」

   オニゾウ、角田めがけてダッシュ

角田「来んな、来んなよっ」

   角田、仕切りの向こうへ。

   オニゾウも後に続き、照明は真っ赤な血の色に。

   角田がボコられている音と悲鳴。

角田「ごめんなさいっ、可愛いっ、可愛いですっ」

   オニゾウ、タオルで血を拭きながら出てくる。

   怯えるあかり。

あかり「ああ......(充希に)可愛いねっ♪」

充希「あははっ、そう思いますか?、じゃあ。じゃあじゃあ、これ」

   充希、テープを抜く。

充希「私、入社してから、台本を手に入れて、歌詞カードサイズになって入ってるんで」

   テープをケースに入れ、あかりに渡す。

充希「もし良かったら、お貸しします」

あかり(大げさに)「ええーっ?、いいのーっ?」

充希「いいんですよー、そんな」

あかり「ありがとう」

充希「もう、あかりさんくらいですよ、そんな風に味方してくれるのは」

あかり「そんな事ないって。それに、この番組、またミッキーが復活させて、人気番組にしちゃえばいいじゃん」

充希「......ああ」

あかり「あと、私の事は、『あかりん』でいいって言ったでしょ?」

   充希、照れる。

充希「いや、もう、私なんか全然駄目なんですよ、自分に自信なくて。キャラクターの着ぐるみも、ほとんど全部処分されちゃって、さっきのオニゾウくんくらいしか、もう残ってなくて。私ばっかりね、そこにしがみついてても、ねえ」

   充希、長椅子に座り意気消沈。

あかり「元気出して......ミッキー」

充希「へへ。それに、こんなんだと、憧れのあの人にも、バカにされちゃうと思うし」

あかり「えっ?、ちょっと待って何それ」

   あかり、はしゃぐ。

あかり「もしかして、恋バナ?」

充希「いやいやそんな、恋バナなんて大層なもんじゃないんですけど。ちょっと遠くで見てるだけで、カッコイイなーみたいな」

あかり「駄目だよ、そんなんじゃ。恋愛は早いもの勝ちだよ。通り過ぎた後じゃ掴めないんだよ」

   あかり、興が乗ってくる。

充希「いやでも、私なんかじゃ釣り合わないし」

あかり「大丈夫。ホラ、ホラ」

   あかり、充希を前に立たせる。

あかり「ミッキー超可愛いから、大丈夫。どんな人でもいける」

充希「何言ってるんですか、もう」

あかり「誰でも大丈夫だって。どんな人なの?、ねえ教えてよ。協力するからさあ」

充希「本当ですか?」

あかり「うんっ、もちろん。私が、恋のキューピッドになってあげるーっ」

充希「きゃあーっ」

   2人、はしゃいだ後で、

充希「......恥ずかしい」

あかり「教えてよ」

充希「誰にも言わないでくださいよ?」

   あかり、周囲を窺い、

あかり「誰もいない」

   充希、あかりに耳打ちしようとして、また照れる。

あかり「ちょっ、はーやーく」

充希「......有名な」

あかり「うん、うん」

充希「プロデューサーの人なんですけど」

あかり「ああ、同じ局の人かっ、でも局の人は食中毒でしょ?、じゃあ、お見舞い行こう」

   あかり、充希の手を引こうとする。

充希「いや」

あかり「ねえ、行こっ、行こっ、行こうっ」

   あかり、ピョンピョン跳びはねる。

充希「違う、違う。違って、今ここにいる人で」

あかり「うんっ」

充希「仕事が出来て」

あかり「うんっ、それでっ?」

充希「割かしコンパクトな感じで」

あかり「うんっ」

充希「大ファンなんですよっ、升野さん」

   あかり、硬直。

   露骨にテンションが下がる。

あかり「うん......」

充希「えっ、えっ、ダメですか?」

あかり(即答)「いや駄目でしょ、あの人は。いやー、なんか偉そうだし素直じゃないし、口悪いし」

充希「でも女の子に対して真面目な感じだし」

あかり「いや、そういうんじゃないんだよねアレは。それに、自分の必殺技にギャラクシーパッションなんて付けちゃう人だよ?」

充希「そうなんですよっ、(フリ付きで)ギャラクシーパッション!」

   充希、長椅子の裏から大きな色紙を持ちだす。

   『ギャラクシーパッション ますの』と毛筆で書されている。

充希「これ、これ」

あかり「......何?、これ」

充希「これ、あの升野さんのトークショーに行った時に、『ギャラクシーパッション』書いてくださいってお願いしたら、名前まで付けてくれて。直筆のギャラクシーパッション

あかり「......どうかと思うけどなあ」

充希「まあ、雲の上の人だってことはわかってるんですけど。でも、どんな人でも関係ないって、さっき......(勇気を出して)『あかりん』が言ってくれたから。だからちょっと私、がんばってみようかなと思って」

あかり「......ああ。うん」

   あかり、作り笑い。

あかり「応援するっ」

   仕切り板から顔を出す角田、ニヤリ。

あかり「恋愛の神様は、なんとかってね」

充希「じゃあ私、頑張ってみますね」

あかり「うん......」

   へとへとの升野、スタジオから登場。

升野「あー疲れた。もうなんだこの番組は」

   疲れて長椅子に倒れ込む。

   充希、その裏に色紙を隠す。

升野「ちょっと誰か、お茶ちょうだい、お茶。喉がカラカラ」

充希「チャンスの神様。あ、升野さん、私がお茶、淹れてきま……」

   あかり、ビシッと挙手。

あかり「私が淹れてきます」

充希「え?」

升野「いや、どっちでもいいから、早くしてくんないかな」

あかり「升野さん、濃い目が好きでしたよね」

升野「え?、ああ」

あかり「ちょっと待っててください」

充希「あかりん?」

   あかり、会議机で充希に手招き。

   充希、あかりのそばへ。

あかり「こういうのには、段階ってものがあると思うのよね。早過ぎると思うの、ミッキーには。危険」

充希「でも、恋は早いもん勝ちだって」

あかり「あーもう、恋はケースバイケースなの。悪いようにはしないから、私の言うこと聞いて。わかった?」

充希「はあ」

あかり「うん」

   升野、クリップボードをめくる。

升野「あ、ちょっとADさんさ、こっち来てカンペ作るの手伝ってくんない?」

充希「あ、はい」

   充希、嬉しそうにあかりを見る。

充希「わざと二人きりに......私に出来ることであればなんでも」

   あかり、ダッシュで2人の間に割りこむ。

あかり「待って」

充希「ええっ?」

あかり「やっぱり、お茶はあなたに任せた」

充希「あかりん?」

あかり「あなたの本気に、懸けてみたくなった。思い切り淹れてみなよ、お・茶」

升野「あのさ、お茶早くしてくんないかな」

あかり「ほら、チャンスの神様には前髪しか生えてないんだよ?」

充希「でもさっきケースバイケースって」

升野(テレビ見て)「あ、ヤバいもうCM明けてんじゃん、行かなきゃ。お茶、淹れたらスタジオ持ってきてっ」

充希「あ、はい」

   升野、スタジオへ。

充希(嬉しそうに)「これって、私が淹れて持って来いってことだよね」

あかり(冷たく)「どうだろうね」

充希「え?」

あかり「そこら辺は、ケースバイケースじゃないの」

充希「あかりん、どういうこと?」

あかり「あ、いや」

   あかり、笑顔を取り繕う。

あかり「最初はもちろん、2人きりにしてあげようって思ってのことだったよ」

充希「うん、うん」

あかり「でもさ、最初から2人じゃ、ミッキー緊張しちゃって喋れないでしょ?」

充希「うん、うん」

あかり「だから、私がいた方が、色々サポートできるかなって」

   充希、頭をかいてパニック。

充希「あかりんのサポートの仕方が複雑過ぎる。ねえ、これが都会の恋のやり方なの?」

あかり「ああもう、考え過ぎちゃ駄目。頭でっかちになってても前には踏み出せないっ」

充希「ごめん、ちょっと静かにして」

   あかり、大声で充希の腕を揺さぶる。

あかり「ミッキーっ、ねえ聞いてっ」

   角田、嬉しそうに出てくる。

角田「どうしたあ?」

   オニゾウにやられたアザがある。

あかり「角田」

角田「どうしたミッキー、よくないぞ?、せっかくこうしてあかりんが言ってくれてるんだから、そんな言い方ないだろうが」

充希「いや、でもちょっと、騙されてるのかな、とか思っちゃって」

あかり「いや。そんなことないよ」

角田「(大声)そんなことないよ、ねえーっ?、あかりんは友達思いの、とっても優しいイイ子なんだからあ」

あかり「そ、そうだよ、そうに決まってんじゃん」

角田「『誰かにとられたくないから邪魔をする』、そんな事は考えないよねえーっ?」

あかり(作り笑顔)「はははは」

角田「だってそもそもよ?、あかりんは升野さんの事なんてなんとも興味ないんだから。むしろね、(大声)嫌いなんだよねえーっ」

充希「そうだったんですか?!、だからさっき升野さんの事、悪く」

   充希、頭を下げる。

充希「すいませんっ、なんか私、変な勘繰りしちゃって」

あかり(作り笑顔)「ああ、うん」

角田「あははは、(充希に)良かった」

充希「良かった」

角田「(あかりに)良かった」

あかり「良かった」

角田「誤解が解けて良かった、あははは」

   充希、あかりの前へ。

充希「ただ、これだけはあかりんにわかって欲しいの。あかりんは升野さんのこと好きじゃないかも知れないけど、でも升野さんにはいい所がいっぱいあるの。だから、升野さんのこと嫌いにならないであげて。もっと、好きになってあげて。ね?」

あかり(作り笑顔)「うん。ふふふ」

   充希と角田がはしゃぐ隅で、

   赤いライトの当たるあかりの顔が憎悪で歪んでいく。

   飯塚、スタジオから出てくる。

飯塚「なんなんだよあのバカップルはよ、さんざんノロけたかと思ったら今度は痴話げんか始めやがってよ」

あかり「あの女が憎い」

飯塚「ええーっ?、さっきまであんな仲良かったのに?」

充希「あ私、ちょっとお茶淹れてきまーす」

角田「行ってらっしゃーい」

   充希、上手へはける。

角田「くっくっく。飯塚、俺にもチャンスが巡ってきたぞ、おい」

   あかり、角田を睨みつける。

角田「これが上手くいけば、俺の恋のライバルはいなくなる」

飯塚「は?」

あかり「この卑怯者っ」

角田(高笑い)「はははははっ、あかりいーっ、皮肉なもんだなーっ、どうだーっ?、自分で自分の首を絞める気分はーっ」

あかり「クソ野郎っ」

飯塚「めんどくさい匂いしかしない」

角田「まずは俺のイメージを上げる事よりも、敵を減らす事の方が先決なんだよ。友情?、愛情?、はかりにかけるのは難しいですよねーっ、ならばどうでしょう?、両方とも壊してしまえばーっ」

あかり「うわあーっ」

   あかり、髪かきむしってパニック。

飯塚「これは関わっちゃまずい」

角田「今からミッキーがお茶を持ってきます。升野さんがそれを受け取る。その時触れ合う手と手。そう言うところから、恋って始まるんじゃねえのかなあ」

   あかり、髪振り回してパニック。

   悲鳴を上げてしゃがみ込む。

   あかりに覆いかぶさるようにして高笑いを浴びせる角田。

角田「はっはっはーっ、あかりーっ、苦しめーっ」

   お茶を淹れた充希が戻ってくる。

充希「あの、お茶淹れてきました」

飯塚「ありがとう、じゃ俺これ持って行くね」

   飯塚、湯呑みを受け取る。

角田(パニック)「おーいっ」

飯塚「え、何?」

角田「触れ合えなーいっ」

   角田もしゃがんで発狂する。

   あかり、奇怪な笑い声を上げて立ち上がる。

あかり「うははははは、うははははは」

   そして充希に振り返る。

あかり「ついてなかったね?、ミッキー」

角田「くっそーっ」

飯塚「何このアングラ劇団」

   角田、立ち上がる。

角田「元気出せよ、まだチャンスあるぞミッキー。何しろミッキーには俺たちがついてんだから、(あかりに)なあー?」

   あかり、超無理やりに笑顔を作る。

あかり「......ファイトぉ」

角田「なあー?、あはは。そうだミッキーさ、やっぱり想いを届けるには、歌がいいよ」

充希「歌?」

角田「うん。俺がね、ミッキーの想いを歌にして、升野さんに届けてやるよ」

充希「え、本当ですか?」

あかり「ちょっ、余計なことしないで」

充希「あかりん?」

あかり「あ......や、自分の想いは、自分の口から伝えた方が、価値があるんじゃないのかな?、って」

   充希、しばし考える。

充希「......そっか!、じゃあ私、自分の口から、ちゃんと歌って伝えます」

角田「よく言った、頑張り屋さんだ。うふふ、頑張ろう」

あかり「......」

角田「歌だから、発声練習やっとこうか」

充希「はい」

   2人、前を向く。

角田「♪あー」

充希「♪あー」

角田「♪今夜はー」

充希「♪今夜はー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田「♪昨日もー」

充希「♪昨日もー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田・充希「♪明日はどっちだー」

   2人、満足して笑い合う。

角田「いいじゃん」

   あかり、苛立って床を踏み鳴らす。

あかり「そーもーそーも、そんな事してるヒマあるならフィナーレの曲作りなさいよ」

   エレベーターが開き、へべれけ状態の川島と豊本が出てくる。

川島「あーっ、帰りましたよーっ、いいお酒でございましたーっ」

豊本「ございましたねーっ」

   あかり、川島に泣きつく。

あかり「社長いいところに、聞いてくださいっ」

川島「おお?、どうしたオニゾウくん」

あかり「......あかりです」

川島「あかり。はい」

   あかり、角田を指さす。

あかり「あのハゲ。やらなきゃいけない曲作りもしないで、全っ然作る必要のないどーっでもいいようなラブソングなんて作ろうとしてるんですっ」

充希「あかりん?」

   あかり、充希には笑顔を作ろう。

あかり「そりゃもちろん、私たちにとっては凄く大切なことだよ?、でも」

   角田、代わって川島のもとへ。

角田「違う違う社長、我々、僕とあかりちゃんがですね、彼女の恋の応援をしていまして、で彼女が愛の告白をする際に、どうしても、ラブソングが必要なんでありますっ」

川島「わかりましたっ」

角田「あははは」

川島「いいね。応援でしょう?、頑張れよ」

角田「さすが社長」

あかり「それでいいんですか?、だってまずは、フィナーレの曲作ってからでしょう?」

角田「残念ながらな、歌詞のFAX全然来てねーんだよ、ざまあねえなっ」

あかり「笑うとこ間違ってますからね」

川島「おい、歌詞だったらこの届いてるFAXの中から適当に選んじゃえばいいんじゃねえの?」

あかり「そうですね、無いなら無いなりに頭使って作ればいいんですよ」

川島「俺が適当に選んでやるからさ、それを告白のラブソングみたいにすりゃいいんだよ」

あかり「え?、そっちですか社長」

角田「なるほどねっ」

充希「しゃあっ、あかりん、私覚悟さ決めた。升野さん呼んできてもらっていい?、呼んできてもらえるよねっ?」

   あかり、勢いに気圧される。

充希「ねっ?」

あかり「うん」

充希「行ってっ」

あかり「うん」

   あかり、恐る恐るスタジオに向かう。

あかり「あーっ、痛い痛い」

   突然その場に倒れ込んで足首を押さえる。

あかり「持病の痛風があー」

充希「つ、痛風だったの、あかりん?」

あかり「一歩も動けなーいっ」

充希「大丈夫?」

角田「じゃ、俺が代わりに呼んで来てやるからな」

   スタジオへ向かう角田。

   あかり、立ち上がって角田を止める。

充希「あかりん、痛風は?」

あかり「治りましたーっ」

   あかり、角田を投げ飛ばす。

   そして倒れた角田の腕を痛めつける。

角田「痛てて」

   スタジオから升野が出てくる。

充希「升野さん」

升野「......あかりと角田がギャラクシーパッション

あかり「いや、違います。違うんです」

   川島、充希にFAXを渡す。

川島「これ歌えー、歌え歌え」

充希「あ、はい」

升野「歌?、歌ってなに?」

充希「私、今から歌うんで」

あかり「ぎゃあーっ」

   あかり、叫んで止めに入ろうとするが、

   角田に足を掴まれて倒れる。

角田「そうはさせねえぞっ」

升野「何イチャイチャしてんの?」

充希「あの、私の秘めた想いを今から歌います。聞いてください」

升野「想い?」

   充希、FAXに目を通す。

充希「駄目こんなの恥ずかしくて歌えない」

   角田、立ち上がる。

角田「代わりに」

   あかりの背中にとどめのパッション。

角田「パッションっ」

あかり「ぐわあっ」

角田「歌ってやるからな」

充希「この人が、私の代わりに歌います」

   角田、パイプ椅子に置いたギターを構える。

   あかり、息も絶えだえ体を起こす。

あかり「私の、代わりに......」

充希「私の代わりに」

升野「誰の代わりに?、ねえ」

   充希、角田にFAXを向ける。

角田「歌うぜっ」

充希「はいっ」

   角田、弾き語り。

角田「 ♪ 川ちゃんがくれた

   限界まで軽量化したパンティ 」

   川島、慌てて紙を奪い取る。

   別の用紙を差し出す。

川島「こっち」

升野「で、君はそういうの履いてるの?」

充希「履いてません」

升野「あかりが履いてるの?」

あかり「いや履いてないですよ」

角田(川島に)「告白こっちなのね?」

升野「なに?、告白って」

   充希、改めてFAXを角田に向ける。

あかり「実は」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 今日のUFIライブを中止にしないと 大変なことになる 」

あかり「え?」

   充希、歌にノッている。

角田「♪ 場合によっては死者も出るかも知れないが

   それでいいのか 犯人より 」

   角田も充希も「?」とFAXを覗く。

川島「やー、いいぞ角田―」

角田「ちょっとこれ、脅迫状って書いてあるけどっ?」

   升野、FAXを受け取る。

川島「適当に選んだからわかりませーん」

升野「こんなFAX届いてたのか」

あかり「升野さん、実は、私たちが告白したかったことは、このことだったんです」

充希「え、え?」

あかり「たーいへーん。ミッキー、恋の話は、後回しだよ」

充希「あかりん?」

あかり「しょうがない。まずは、この話を解決しないと。うふふ」

充希「なんでそんな嬉しそうなのかがわからない」

   飯塚、怒りながらスタジオを出てくる。

飯塚「なんなんだよ、あのバカップルよお。なんで今、このタイミングで浮気発覚してんだよ。なんか怨みでもあんのか?、こっちに」

あかり「飯塚さん、大変なんです」

飯塚「あ?」

あかり「UFIを狙って、妨害しようとしてる奴らが」

飯塚「UFIを妨害?」

あかり「はい。これはすべて、仕組まれていたんです」

飯塚「アイツら......そういう事かあーっ」

   飯塚、スタジオへ乗り込む。

あかり「あ、飯塚さんっ?」

   川島、へべれけで充希に絡む。

川島「告白する前にもう浮気かい?」

充希「いや、違います違います」

升野「なに?、告白って」

あかり「ああーっ、もうだから、それは今テレビに出てるカップルの話です」

川島「おーなんだそれ、面白そうじゃねえか。テレビを点けろ、豊本っ」

   会議机に寝ていた豊本、ハッと起きる。

豊本「ここはどこ?、シットは誰?」

川島「テレビを点けろ」

豊本「テレビ?」

   豊本、リモコンを点ける。

   モニターチェック。

   2階通路にバカップルの彼氏(人形)が座っている。

   そこへ飯塚が走って登場。

飯塚「テメエふざけんじゃねえぞオラアっ」

   飯塚、顔から彼氏に蹴りを入れる。

飯塚「おいコラーっ」

   次いで投げ飛ばす。

飯塚「こっち来いよオラ―っ」

   彼氏を引きずる。

川島「おい飯塚出てきたじゃねえか、なんだこれーっ」

   川島、嬉しそうに盛り上がる。

升野「コイツ何やってんの?」

飯塚「テメエさっきから黙って見てればそういう魂胆だったのかコラっ」

充希「もしかして、カップルがUFIを誘拐しようとして妨害したんじゃないかって、勘違いしてるんじゃないですか?」

飯塚「言ってみろ、お前らがぬけぬけと隠し通してたその、本心を言ってみろっ」

升野「急に知らないオッサン出てきて暴れ出したら、見てる人わけわかんねえぞ」

飯塚「あ?、やっぱり彼女のこと愛してる?、なんだよそれ。目が覚めました、これから大事にします?、当たり前だろっ」

   飯塚、熱くなって彼氏と角突き合わせる。

飯塚「大事なものを守る。それが男ってものだろう。うちの大事なあーっ」

   スタジオに拍手。

飯塚「なんの拍手だよ。見世物じゃねえぞオラアっ」

   飯塚、彼氏を片手で掲げ上げる。

飯塚「ウラアっ」

   飯塚、そのままはける。

   照明点灯。

升野「結局、なんやかんやで上手くまとまったって事なの?、これは」

川島「いいぞ飯塚、良かった」

充希「私感動しました、自分の気持ちをちゃんと伝えようと思います」

   あかり、跳びはねて妨害。

あかり「いいぞ飯塚あっ、感動したっ、ちょっとミッキー」

   あかり、充希を隅へ連れて行く。

あかり「もうこれは、飯塚さんに乗り換えるべきじゃない?」

充希「あかりん?」

升野「何か言おうとしてたよ?、なに」

あかり「升野さんっ」

   あかり、升野に詰め寄る。

升野「なに?」

あかり「大変っ、脅迫状だなんて、私こわーいっ」

升野「なんだお前?!」

   暗転。

『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(1)

 

 一ヶ月以上更新していなかったので何か記事をと思ったところ、サカ・チナさんの『R.O.D』シナリオ書き起こし記事が面白かったので、

 

twdkr529.hatenablog.com

 

以前期間限定で無料公開されていた、人気シットコム『ウレロ』シリーズの舞台版第一弾『ウレロ 未公開少女』の台本を自分で書き起こしておいたものを載せてみます。面白さが伝わって宣伝になれば幸い。

 

文字数の都合上3つの記事に分割しましたが、結果として三幕構成が浮かび上がってきました。

 

一幕目・23時間テレビ開幕

   ・各キャラクター紹介

   ・ハプニング発生への対処

二幕目・23時間テレビ続行中

   ・あかりと充希を中心に人間関係のこじれ

   ・ハプニングの加速と、事件の予兆

三幕目・23時間テレビ佳境へ、事件勃発

   ・すべての黒幕が明らかに

   ・クライマックス

 

伏線に満ちながらアドリブの多さも魅力の舞台なので、一部流れがおかしい箇所もありますが面白かったので残しました。

 

 

 

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『ウレロ 未公開少女』

 

 作 オークラ

   土屋亮一(シベリア少女鉄道

 

登場人物 

川島  川島プロ・社長(劇団ひとり

升野  ハイパーメディア総合クリエイター(バカリズム

飯塚  川島プロ・マネージャー(東京03・飯塚)

角田  川島プロ・作曲家(東京03・角田)

豊本  川島プロ・アルバイト 兼探偵(東京03・豊本)

あかり 川島プロ・事務員 兼マンガ家(早見あかり

 

充希  みちのくササヒカリテレビ・AD(高畑充希

江田島 みちのくササヒカリテレビ・社長(入江雅人

オニゾウ みちのくササヒカリテレビ・マスコットの着ぐるみ

 

ここまでのあらすじ

 アイドルグループUFI(ユフィー。演じるはももいろクローバー。メンバーの一人でキャバ嬢のゴリナは社長川島の愛人)の売り出しに成功した弱小芸能事務所・川島プロこと『アットマーク川島プロ』だが、その成功の立役者・プロデューサーかつ超能力者でもある升野は川島プロを去っていた。残された社長川島、マネージャー飯塚、作曲家角田、アルバイトでいて特殊工作活動に従事する探偵でもある豊本、事務員でいて人気少女マンガ家早乙女ニャン子としても活躍するあかりは、東京を飛び出し地方のテレビ局まで出張にやって来たが......?

 

 

 

〇 みちのくササヒカリテレビ・控室

   真っ暗なステージ。

   背景にデジタル時計が表示され、カウントは今16時ジャストを迎える。

飯塚の声「もしもし社長? どういうことですか、ちゃんと説明してくださいよ」

   照明点くと、ここは地方テレビ局の控室。

   向かって右側(上手)にエレベーター、

   左側(下手)にスタジオへの扉があり、

   扉の上からは2階の通路が伸びている。

   テレビ番組の内容を確認する「モニターチェック」時だけ、

   1階の照明が暗転してこの2階の通路がスタジオになる。

   マネージャー・飯塚がケータイで通話して立っているのはステージ中央。

   その右側にテレビモニターを乗せた簡易な会議机とパイプ椅子。

   ステージ後方には楽屋へ続く仕切り板と、弁当の積まれた机、長椅子。

   その隣りにおにぎりの顔をした着ぐるみ・オニゾウが放置してある。

飯塚「なんでUFIがこんな仕事しなきゃいけないんですか?、僕何も聞いてないんですけど。て言うか社長今どこにいるんですか?、あ」

   飯塚、電話を切る。

飯塚「クソ、なんで留守電なんだアイツ。どこ行ったっ」

   飯塚、エレベーター前の上手からはける。

   入れ違いにエレベーターが開き、携帯で通話中の社長・川島が登場。

川島「そんなにガミガミ怒るんじゃないよ。仕方がないだろ、男には男の付き合いってもんがあるんだ。聞いてるのか、ゴリナ。え?、お前がそういう態度ならな、こっちにも考えがあるんだっ」

   と怒気を強めるが、急に弱気に。

川島「え?、ごめんごめん言い過ぎた。え?、いつもの罰?、わかったよ。大至急ね、ハイハイ」

   電話を切る。

   飯塚、上手から戻ってきて川島と目が合う。

飯塚「あ、社長っ」

   川島、スタジオへ逃走。

飯塚「待てっ」

   追って飯塚もスタジオへ駆け込む。

   しばらくして、へとへとの飯塚がスタジオから出てくる。

飯塚「なんて逃げ足が速いんだ」

   疲れて長椅子に座り込み、手にしていた台本に目を落とす。

飯塚「しっかし、大丈夫かこの番組」

   するとオニゾウが動き出し、飯塚の隣りに黙って腰を下ろす。

   気配を感じて振り返る飯塚。しばしオニゾウを凝視。

飯塚「……えっ、何?」

   驚いて長椅子を離れる。

飯塚「なに、不審者?、ねえ」

   オニゾウ、横柄に長椅子にもたれかかる。

飯塚「超ふてぶてしいよお。なんだよコイツ。テメエなんなんだよコラ、怖くなんかねえぞオラ」

   飯塚が声を荒げて近づくと、立ち上がるオニゾウ。

飯塚(ビビって)「うわあっ、おおう......あっち行けよ。あっち行けってんだよっ」

   オニゾウ、ふてぶてしく立ち上がり、下手へ向かう。

飯塚「行けよオラ。いつでもやってやんぞオラっ」

   オニゾウ、パッと振り返りファイティングポーズ。

飯塚(ビビって)「うわー......怖っ、あっち行けよ、早く出てけよオラっ」

   オニゾウ、ふてぶてしくスタジオへの扉の手前、下手へはける。

   飯塚、オニゾウの退場を確認すると、スタジオに向かって遠吠え。

飯塚「いつでもやってやっかんなっ」

   スタジオから、紙袋を抱えたAD充希が出てくる。

飯塚「ぶち殺すぞオラアっ」

   充希、紙袋を落とす。

飯塚「あ、ごめんなさい、すいません。違います違います。なんか不審者みたいな人がいたから」

   充希、硬直して飯塚を凝視。

飯塚「怯えないで」

充希「......ヤクザですか?」

飯塚「ヤクザじゃないです。なんてストレートな質問してんだよ。や、違います。UFIの、UFIの」

   飯塚、紙袋を拾おうとするが、充希が先に拾い上げる。

飯塚「UFIのマネージャーの飯塚です。こちらのスタッフの方ですか?」

   充希、未だヤクザを見るような目。

飯塚「や、あのヤクザじゃないから。社長見ませんでした?、社長」

充希「社長?」

飯塚「黒いスーツを着た、リーゼントの、マフィアみたいな......」

充希「マフィアっ!?」

飯塚「いや違う違う違う」

充希「私知りません、私何も知りませんっ」

   充希、過剰に怯えて、スタジオへ逃走。

飯塚「違うの。例えで言っただけで、ヤクザでもマフィアでもないからっ」

   飯塚も追ってスタジオへ駆け込む。

   2階の通路に川島が出てくる。

   周囲に誰もいない事を確認するとおもむろに脱衣を始める。

   パンツ一丁になって携帯のカメラを自分の尻に向ける。

   そこへ飯塚が入ってくる。

飯塚「何してんすかっ」

川島「うわああっ」

   川島、逃げ出し、中央の階段を伝って1階へ降りる。

   飯塚も追って降りて来ると、川島はパンツ一丁のまますっ転ぶ。

飯塚「何やってんのっ?」

   川島、パンツ一丁のまま泣きそうな顔。

川島「......」

飯塚「早く履けよっ」

   川島、立ってズボンを履く。

飯塚「なんで、あんなとこで急に脱ぎだしたんだよ」

川島「ちょっとゴリナを怒らせてしまってな。その罰として、今からケツの穴の写真撮って送らなきゃいけないんだ」

飯塚「どんな罰だ」

川島「相手に完全に負けた時ケツの穴を見せるのは、動物として当然だろ?」

飯塚「それ本当にゴリラの話だろうよ。ていうかなんでケンカしたんですか」

川島「ちょっと、チンチロの件でなぁ」

飯塚「チンチロ?、もう次から次へとわけわかんねえなあ。そんなことより社長、なんすかこの仕事。説明してくださいよ」

川島「説明も何も、普通の仕事だろ?」

飯塚「いやいやいや、普通じゃないでしょ。これ台本読みました?」

   飯塚、手元の台本の題を読み上げる。

飯塚「『みちのくササヒカリテレビ、開局23周年記念番組、23時間テレビ。ササヒカリの伝説見せまっせ』。なんすか、これ」

川島「だから、UFIの出る番組だよ。いい番組だろ?」

飯塚「いやいやいや。そもそも23時間テレビってなんだ、あと1時間がんばれよ」

川島「そりゃお前、開局23周年記念だからだろ」

飯塚「23周年は別に記念じゃねえよ。23を記念にしてたらもう毎年やんなきゃいけねえわ。あとこのサブタイトルなんなんですか。『ササヒカリの伝説見せまっせ』。なんで急に関西弁なんだよ。見せまっせ、じゃねえんだよみちのくのクセによ、俺大っ嫌いだこういうのっ。で、23時間放送すんのにこのうっすいペラペラの台本なんすか」

   飯塚、ペラペラの台本をめくる。

飯塚「成立しないでしょ。6ページだぞ!。これじゃMCやる人地獄でしょうね。で、そのMCを務めるのが?」

川島「UFIだ」

飯塚「出来る訳ねえだろお前っ、絶対ムリだよ。て言うか、UFI本人はこれやるって言ったんですか?」

川島「言ってない。これから伝える」

飯塚「は?、23時間テレビのMCを今日の今日でいきなり言われて、出来るわけないでしょ。オメ、バカかよっ」

川島「バカとはなんだバカとは」

   川島、机を叩いて席を立つ。

川島「そもそもお前が体調不良で一週間も休んで入院するからこんなことになるんだろうが」

飯塚「はあ?、升野さんがクイーンステージ行って以降、UFIの管理全部俺が一人でやって来たんだぞ?。そりゃ体調も崩すだろうがっ」

川島「だーかーら、高いメロン持ってお見舞いしたでしょう?、そしたらお前、『うまぁい、メロンうまぁい、社長もう一生ついて行きますぅ』ってお前そう言ってきたじゃないかよ」

飯塚「......言ったよっ」

川島「もう無理だぞ、引き受けちゃったんだから」

   川島、会議机の椅子に座る。

飯塚「もう何してくれてんですか。ここのテレビ局ちょっとおかしくないですか?、いくら地方局とは言え人けが無さ過ぎますし、なんか不審者みたいなのいたし」

川島「不審者?」

   仕切り板の向こうから、アコギの音色。

角田の声「せい、せい、せやっ」

   長淵調の歌声が伴奏に乗る。

角田の声「♪ ここでこのまま野垂れ死にたい

      何も出来ぬなら 野垂れ死にたい

      腹をすかして野垂れ死ぬ

      腹をすかして野垂れ死ぬ

      野垂れ 野垂れ 野垂れ 野垂れて

      死にたい 」

飯塚「うるせーっ」

   仕切りの向こうの小部屋から、作曲家・角田がギターを手に登場。

角田「うるせーってなんだお前は」

飯塚「え、角田さんずっとそこにいたんですか?」

角田「当たり前だろ。俺はこの23時間テレビ、メインテーマの作曲家だぞ」

飯塚「は?」

角田「台本見てみろよ」

   飯塚、台本をめくる。

飯塚「『視聴者からFAXを募集。それを詞にして、エンディングで出演者一同で大合唱』。なんですか、これ?、パクリじゃないですか」

角田「とにかくこの栄誉ある詞の作曲に、UFIの作曲家である俺が選ばれたんだよ。いや、まいったぜ。こんな田舎にまでよ、俺の名前が轟いてるとはなあ」

飯塚「完全にUFIのバーターだろ」

角田「升野っ、俺はいつかお前を越えてみせるっ」

飯塚「ちょっとまだ怒ってるんですか角田さん。升野さんが角田さんをクイーンステージに一緒に連れて行かなかったのは、あの人なりに考えがあったんですよ」

角田「そんなことはどうだっていいんだよ。それよりよ、さっきの曲どうだった?」

飯塚「さっきの曲?」

角田「うん。あれをな、23時間テレビのメインテーマにと思ってんだよ」

飯塚「あの、野垂れ死にたいとかいう?」

角田「そうそう、♪ここでこのまま」

飯塚「うるさいよ、お前は」

角田「途中で止めんなよ。で?、ここまで聞いてどう思ったんだよ」

飯塚「だから、うるさいよ」

角田「うるせえってなんだよお前」

飯塚「お前が感想聞いてきたんだろ」

角田「......あ、『うるさい』が感想なの?。言ってたの?、ずっと」

飯塚「ずっと。で、歌詞は視聴者の募集なんでしょ?、今のでいいわけ無いじゃないですか」

角田「ちょっと勘弁してくれって、お前。俺この曲作るのにさ、一昨日から泊まり込みさせられてんだぞ?、しかも社長からよ、曲が出来るまではメシ抜きだとまで言われちゃっててさ。もういい加減この辺でOKもらわねえと、俺 ♪死んじまうよ」

   角田、歌いだす。

角田「♪野垂れ 野垂れ」

飯塚「流れでいくな。うっとうしいな」

川島「角田!」

   川島、席を立つ。

川島「お前の歌はその程度か?、いいか、歌ってのは魂の叫びだ。お前の魂、出してみろ」

角田「OKわかったよ、魂見せてやるよ」

川島「見してみろよ、おら」

角田「♪ここでこのまま 野垂れ死にたい」

川島「出せんのか、魂」

角田「♪何も出来ぬなら、野垂れ じ~」

川島「ほお?」

角田「♪に~」

川島「おお?」

角田「♪いいい~」

飯塚「なんなんすか、その出す/出さないのくだり」

川島「だったらよ......もっと早い段階で、出せないのかい?」

飯塚「もういいよ、その発注なんだよ」

角田「出してやるよっ、♪ここでこのまま の~ お~ たあ~っ」

飯塚「出さなくていいよ、なんなんだよこれ」

川島「結構早かったな、今」

角田「早く出しました」

飯塚「意味わかんねえよ」

川島「しかし角田よ、歌ってのは心の中の真実、そういうのを吐き出すもんだろ?」

角田「心の中の真実?、そうか……そうだ。俺が歌いたい歌は、こんなんじゃねえっ」

飯塚「......歌詞は募集だっつってんだよっ」

角田「俺が歌いたいのは、あかりちゃん、君への想いだ」

   角田がギターをかき鳴らすと同時に、

   上手から事務員兼漫画家のあかりが登場。

角田「俺は、あかりちゃんが ♪大好きなーんだ~ せいやっ」

   あかり、ギターの弦を鷲掴み。

角田「?!」

あかり「邪魔なんでどいてください」

飯塚「なんて無残な止め方なんだ」

あかり「社長、はい」

   あかり、買い物袋を川島に渡す。

川島「悪いな」

あかり「はーい」

飯塚「あかりちゃん、どこ行ってたの?」

あかり「社長に頼まれて胃腸薬買いに行ってたんです。昨日、ゴリナと社長と夜ご飯食べに行ってたんですよ。折角地方に来たんだから何か美味しいもの食べようって。ここの、ササヒカリってお米知ってます?」

飯塚「いや知らない」

あかり「すっごく美味しいんですよ。それで、社長食べ過ぎちゃったんですよね?」

飯塚「社長と3人で?」

あかり「違いますよ、ここMSTの社長さんと一緒で、凄いおごってもらっちゃいました。3軒もハシゴしたんです。社長なんて、何万もする高いお酒頼んでもらって」

川島「おいおいあかり。もう、その辺でいいだろう」

飯塚「ちょっと待ってください。社長......それってもしかして」

角田「そっから先は俺に言わせてくれ」

   角田、前に出てくる。

角田「で、何が一番うまかったんだ?」

飯塚「どうでもいいわ、入ってくんなそんなことで。社長、そんなことよりこの仕事、そんな接待で引き受けた仕事じゃないでしょうね」

   川島、口ごもる。

あかり「飯塚さん、どういうことですか?」

飯塚「いやおかしいと思ったんだよ、こんな番組にUFIの出演はおろかMCまでさせるなんて。アンタ、ここのテレビ局の社長に相当な接待受けたな?」

川島「......」

飯塚「駄目ですよ、こんな仕事断りますからね?」

川島「いや、そういう訳にはいかないんだよ。ここの社長にはもう随分と接待受けちゃってな?、それこそゴリナのキャバクラで色々とお金落としてもらったり。あかりとゴリナと俺と3人で銀座の高級料亭で御馳走になるわ、高い土産もらうわ。あかりなんてさ、その社長が早乙女ニャンコのファンだってわかった途端だよ?、高級画材一式買ってもらったりしたんだから、今さら断れないだろう?」

あかり「社長最低です。UFIを接待に売ったんですかっ」

飯塚「お前が言うなよ。画材買ってもらってんだろうが」

あかり「あれは仕方なかったんです。新連載の為にあの画材は必要だったんです」

飯塚「言い訳になってないから。確信犯じゃないか」

角田「あかりちゃんの為なら、俺も全財産投げ打つぜ?」

飯塚「角田さん、邪魔」

角田「邪魔なのか......」

飯塚「とにかく、この仕事断りますからね」

川島「今さら断れないって。な、あかり?」

あかり(手もみ)「ま、そうなりますよね」

飯塚「ふざけんな、これはUFIに対する裏切り行為だっ」

あかり「裏切りなんかじゃありません。そこにはゴリナもいました」

川島「はーい、逆転逆転。UFIも共犯♪」

   あかりと川島、調子に乗る。

あかり「はーい、私たちUFIのこと裏切ってなっいー」

川島「裏切ってなっいーっ」

飯塚「うるせえっ、断るっつってんの」

   エレベーターが着き、みちのくササヒカリテレビの社長・江田島が登場。

江田島「やあ、昨日の夜は楽しんでいただけましたか?、これから23時間、よろしくお願いします」

   江田島と川島・あかり、互いにお辞儀。

川島「お願いします」

江田島「こちらの方(飯塚)は?」

川島「あ。UFIのマネージャーの飯塚です」

江田島「あー、病気で入院していたという。みちのくササヒカリテレビ社長の江田島です」

   江田島、飯塚に手を差し出す。

飯塚「あ、どうも初めまして」

   飯塚が握手すると、手にすがるようにおでこを擦りつける江田島

江田島「このたびはもうありがとうございますぅ、UFIさんにMCやって頂けるなんてビックリしちゃってもう嬉しくて嬉しくて、飯塚さん、ああ飯塚さん飯塚さん」

飯塚「ああ飯塚さんとかやめてください。で、あの、この仕事……」

   江田島、手を離すと川島に近寄る。

江田島「それにしても、東京の夜は楽しかったですね。川島社長、あの銀座の料亭、すげえ高けえっ、ビックリしちゃった。ニャンコ先生、あの画材は使っていただけていますか?、あのバカみたいに高かったあの画材っ、ねえ。あでも全然気にしないでください、もうUFIさんの為ならなんてこと無いんですよ?」

飯塚「その仕事なんですけども」

江田島「あ、そうだ。(飯塚に)メロン食べていただけましたか?」

飯塚「......メロン?」

   川島、うなずく。

江田島「病気で入院したって聞いたんでね。10万円もする。10万ですよっ?、メロンがっ!、領収書くださーいって叫んじゃった。いかがでしたか?、最高級のメロンは」

飯塚「あのメロン、ですか?」

川島「食べましたよー、メロン。そりゃもう美味しそうに食べてましたなー、飯塚」

飯塚「あー......食べました」

江田島「なら良かったあ、よろしくお願いしますよ」

   江田島、引き返しがてら川島に、

江田島「うまくいったら、チンチロですからね?」

川島「チンチロですよね?」

江田島「じゃあ、後ほど」

   江田島、上手からはける。

川島「飯塚、これでお前も共犯だ。この仕事」

   川島とあかり、揃って飯塚に振り向く。

川島・あかり「断るわけにはいかない」

飯塚「汚いやり方しやがってっ」

   椅子に座って話を聞いていた角田が立ち上がる。

角田「ちょっと待ってくれ。俺は?......俺はその接待の中に入ってないぞっ」

あかり「社長、チンチロってなんですか?」

角田「会話の中にも入っていない」

川島「チンチロか、わからん。多分こっちの方言だと思うんだが。あの社長何かと言えばチンチロって言うんだ。これは俺の勘だが、きっとエロいことに間違いない。田舎の接待と言えばエロは基本だからな。『上手くいったらチンチロ』、これはきっと番組が成功したらチンチロなお店に連れていってくれると言うことだ」

飯塚「長々なんの説明してんだよ。そんなんどうだっていいんですよ、どうするんですか23時間こんなペラペラの内容で。UFIのMCどうやって成立させるんですか?」

川島「大丈夫だっ」

   川島、キメ顔の後で、

川島「だいじょうぶだあ」

   飯塚、思わず吹いて笑う。

   あかりも笑っている。

飯塚「いい加減にしろよお前」

川島「俺だってバカじゃない、考えがある」

   エレベーターが着き、アルバイト兼探偵・豊本が登場。手には資料。

豊本「社長、調べて来ました」

川島「よくやった豊本。この町の調べは着いたのか?」

豊本「俺をナメるな。いかに知らない土地と言えども、この豊本探偵事務所にかかればお茶の子さいさい」

   川島に資料を手渡す。

飯塚「まさか社長、豊本にこの地方の情報を調べさせて、UFIのMCに活かそうと」

豊本「違―うっ、俺は社長に依頼され、この辺にあるチンチロっぽい店を徹底的に調べ上げただけ」

飯塚「何してんだお前は」

豊本「OHシット!」

飯塚「やかましいわ」

豊本「チンチロシット!」

飯塚「何?、チンチロシットって」

豊本「大人のシット!」

飯塚「うるさいわ」

川島「よーし、よくやったぞ豊本。この仕事成功させて、一緒に、ヘルス行こうぜ」

飯塚「いや、チンチロって言っとけよ」

   飯塚、思わず笑ってしまい、川島をはたく。

飯塚「チンチロで統一しろやあっ」

あかり「社長最低です。ゴリナっていうものがありながら、何がチンチロですかっ」

飯塚「いや、あかりちゃん」

あかり「チンチロ、チンチロ、チンチロっ」

   飯塚、あかりを抑えに入る。

飯塚「あかりちゃん、やめよう」

あかり「チンチロっ、最低ですっ」

飯塚「違う、あかりちゃんがチンチロって言っちゃ駄目。一旦席外して。もう『ヘルス』って出ちゃってるから」

   あかり、堪えきれず笑う。

川島「大丈夫だ、ゴリナにはちゃんと話した。そしたらえらいブチ切れてな、それでケツの穴の写真を送って来いと」

飯塚「なんでそれでチャラなんだよ」

角田「ねえ社長。そのチンチロの件、俺も乗っかれんのかよ」

川島「もちろん、いい曲が出来たらな」

角田「よっしゃよっしゃ、今夜はチンチロじゃーっ、最高の曲書くからな。でも俺さ、流石に腹減ってんだよ、あの弁当食わしてくれよ、頼むよ。いいだろ?」

   角田、弁当に近寄る。

角田「これ全部種類一緒だよな?」

   スタジオから充希が飛び出して、

   弁当に手を伸ばした角田の腕にチョップ。

充希「せいっ」

角田「痛ってっ、何すんだお前はっ?」

充希「すいませんっ」

角田「すいませんじゃねえよお前、誰なんだよっ」

川島「あー、この子はね、ここで働いてる、ADの高畑充希ちゃん」

飯塚「あ、ADさん?、なんなの急に」

   充希、激しくどもって何を言っているのかわからない。

飯塚「ハッキリ喋れよ」

充希「あの、このお弁当、食べちゃダメなんですよ」

角田「なんで用意された弁当喰っちゃいけないんだよ」

充希「このお弁当食べた人は、みんな病院に運ばれました」

飯塚「は?、どういうことそれ」

充希「ひっ......いや、だから。あ。だあ」

飯塚「ハッキリ喋れよお前っ」

   充希、やけになって早口でまくしたてる。

充希「あーだからもう、23時間テレビのスタッフがみんなこのお弁当食べまして、食中毒になりまして、で病院に運ばれまして、今、私ひとりしかいないんです」

飯塚「ええっ?」

   川島、角田、あかり、嘆息。

飯塚「なんでそれ早く言わないの?」

充希「すいませんっ、うちの社長が、なんとかするから大丈夫だって言いまして」

   上手から江田島が出てくる。

江田島「はいはい、どうしましたどうしました?」

飯塚「いやADの子が、スタッフがみんな食中毒になったって」

   江田島、充希に喰ってかかる。

充希「すいませんっ」

江田島「(激昂)すいませんで済んだら警察要らねえんだよっ。(冷静に)とは言え要るけどな、警察は」

飯塚「知らないっす」

江田島「いないと困るからな」

飯塚「知らないっす」

   飯塚、笑いをこらえ、

飯塚「論点が相当ズレてんだよ。どうするんですか?」

江田島「どうするとおっしゃいますと?」

飯塚「だからこの23時間テレビ、中止じゃないんですか?」

江田島「なんでですか」

あかり「なんでって、普通、スタッフ全員いなかったら中止ですよね?」

江田島「いやダメですよ、何がなんでもやってもらわないと。UFIさんに23時間乗り切ってもらわないと」

飯塚「いや無理ですよ、そんなの」

   長椅子で台本を読んでいた川島、おもむろに口を開く。

川島「飯塚。やる前から無理だなんて、情けないこと言うな」

   角田、おもむろに立ち上がる。

角田「そうだぜ、飯塚」

   豊本、おもむろに足を組む。

豊本「俺も、やれると思うな」

飯塚「......お前ら全員チンチロ目的だろ?」

江田島「大丈夫なんですよ。実は私のツテを頼って、東京の、技術も出来る腕のいい制作会社にね、大至急連絡したんですよ。えっと、なんつったっけな」

   江田島、胸元から名刺を取り出してチェックする。

江田島「あ。クイーンステージエンターテイメントって会社です」

   エレベーターが開き、サングラスをかけたプロデューサー升野が

   携帯で気取って話しながら登場。

升野「ああ、そうだ。ああ、わかってる。大丈夫だ、総合演出は俺がやる。うん?、なーに問題ない。俺を誰だと思ってるんだ。そうだろ?、俺に任せろ。いいな?」

   升野、携帯を切ると江田島に挨拶。

升野「あ、どうも私クイーンステージエンターテイメント、ハイパーメディア総合プロデューサーの、ゼウス升野と申します」

   江田島と名刺交換。

升野「早速ですが、台本の方は?」

   あかり、嬉しそうに升野に近寄る。

あかり「升野さん」

升野「お前たち、お久しぶりゼウス?」

江田島「お知り合いなんですか?」

角田「なんで升野がここに来てんだよ」

   升野、角田に振り向く。

升野「誰だこのハゲ」

角田「角田だろうよっ」

升野(冷静に)「角田か」

角田「そうだよ?」

升野「急遽うちの制作会社に連絡があってな。話は全部聞いた。UFIの為だ、俺に任せろ」

角田「いやいやちょっとちょっと、なんで升野さんがテレビの演出なんてやってんの?」

あかり(嬉しそうに)「知らないんですか?、あの後升野さん、(UFIのライバルグループ)『ビクトリア』をいち早く復活させて、そのプロデュース能力が買われて」

   升野、増長してポーズが気取っていく。

あかり「今クイーンステージの映像制作会社の、取締役もやってるんですよ。『今一番クリエーターぶってるクリエーター』って、雑誌に載ってたんですっ」

飯塚「俺もその雑誌見ました。あ、後あれも見ました、升野さん特集の、『情熱南大陸』」

升野「おっと、チヤホヤするのはまた後にしてくれ。今は目の前の問題を、まずは片づけようゼウス?」

飯塚「でも升野さん、大丈夫ですか、スタッフ全員いないんですよ?」

升野「それなら心配ない、俺の部下たちを連れてきた。カメラ、照明、フロア、ブース、すべてのプロたちがスタジオでスタンバっている。あとは俺が指示を出すだけだ。俺に任せろ」

飯塚「カッコイイー」

升野「ゼウスだろう?、じゃ台本」

充希「あ、はい」

江田島「早く、早く」

   充希、慌てて台本を升野に渡す。

   升野、これでもかと気取った台本の読み方をする。

   全6ページをペラペラとめくる。

升野「なるほど。なるほど。なる......なる......」

飯塚「もう、『ほど』も言わないんですね」

升野「うんわかった、これ無理だ」

飯塚「なんだお前」

升野「飯塚っ、無理なもんは無理だ。ジタバタすんな」

飯塚「いや、もうちょっとあがけよアンタ」

江田島「いや、ちょっと待ってください。無理ってどういうことですか?」

川島「大丈夫ですよ」

   川島、自信を持って前に歩み出る。

川島「升野は、そんなやわな男じゃありません。おい升野……お前ちょっとこっち来いよこの野郎っ」

   川島、ヤンキー口調になって升野の背中を強く押す。

川島「俺の見込んだ男はこの程度の男だったか?、テメエ逃げんのか、どうなんだよっ」

   川島、メンチ切る。

   升野もすかさずメンチを切り返す。

川島・升野「ああーんっ?」

   メンチ状態のまま、サングラスを外す升野。

升野「上等だよ。お前ら何ビビってんだあ?、シャバいシャバい。この俺様のお、パッションがあ、ギャラクシーに達した時い」

   あかり、充希、飯塚、笑っている。

升野「こんな仕事お、屁でも無いんだゼウスっ?」

飯塚「もう語尾にゼウス付けるのやめろよ」

川島「そうか、わかった升野。社長ご安心ください。この男が、いや『アットマーク川島プロ』が、この危機を乗り切ってみせますよ」

江田島「本当ですか?」

川島「ええ。その代わり、うまくいったらチンチロですよ?」

飯塚「もうチンチロいいよ」

江田島「うまくいったらチンチロ以上ですよ」

川島「よっしゃ、やってやろうぜっ」

升野(台本を読み)「じゃ頭から整理していこう。まず、19時に本番開始。UFIのオープニングトークあって、マラソンがスタート。これどういうことですか?」

   江田島、升野の前に出て説明。

江田島「あ、これはですね、今回の目玉企画の一つで、なんと142,195キロマラソンです」

飯塚「なんですかそれ、100キロマラソンのパクリじゃないですか」

江田島「パクリって言ったか?、あっちは......」

飯塚「『あっち』って言っちゃってるじゃないですか」

江田島「あっちは100キロマラソン。こっちは142,195キロ……長いじゃない」

飯塚「うん、パクリですよそれ」

江田島「それをうちの女子アナが走るんですよ」

升野「で、その女子アナと言うのは?、どこにいるんですか?」

   言いよどむ江田島と充希。

充希「あ、あの、あの」

飯塚「ハッキリ喋れよ」

充希「女子アナの人も......食中毒で病院に運ばれました」

升野「え、じゃあ女子アナいないの?、どうすんのこれ、目玉企画でしょ」

飯塚「もう、これ中止にするしかないんじゃないですか?」

江田島「ちょっと待ってくださいよ中止だなんてとんでもない、これ無かったら困りますよ。(飯塚に)メロン喰っといてなんだお前はーっ、中止になんかするもんかーっ」

飯塚「......メロン喰わなきゃ良かったーっ」

升野「そうだ、ゴリナだゴリナ。ゴリナに走らせよう」

豊本「確かに。142.195キロを走れるのは、ゴリナか、本物のゴリラしかいない」

升野「よし社長、ちょっとゴリナを説得してくれ」

川島「わかった。じゃあとりあえず升野、これお願いしていいか?」

升野「うん」

   川島、升野に携帯を渡すと、服を脱ぐ。

升野「どうしたらいい?」

川島「ちょっとケツの穴、写真撮ってもらっていいか?」

升野「ああ、うん」

   川島、ズボンを下ろして升野に(そして客席に)尻を向ける。

   升野、携帯のカメラを尻に向ける。

升野「これは、ライトは点けた方がいいのか?」

川島「ああ、そうだな。で、こう肛門がカッて開く瞬間があるから。開いた瞬間に撮って」

升野「うん。わかった」

   飯塚、川島を蹴り倒す。

飯塚「いい加減にしろっ」

   オープニングテーマが流れ出し、暗転。

川島「開いた開いた開いたっ」

飯塚「開いてねえわっ」

   2階の通路がスクリーン代わりになり、キャスト紹介映像が流れる。

   プロジェクションマッピング。映像は次第に舞台全体に広がる。

   曲は在日ファンク『ウレロ!のテーマ2』特別版。

 

   ♪ ウレロ! ウレロ!

   先を見ろよ! 作らなきゃ無いのさ

   ウレロ! さえろ!

   頭の中甘い物溶けてなくなる前に

   ウレロ~ ウレロ~

   後にも先にも類を見ないほど

   ウレロ! ウレロ!

   君が見ろ! 筋書きは無いのさ

   ウレロ! ウレロ!

   ラララララ 車欲しいし

   大きなテレビが見たいし

   ラララララ 

   頼むから ウレロ☆未公開少女


ウレロのテーマ

 

   背景デジタル時計。16時から一気に進んで19時へ。

   明るい音楽が流れて23時間テレビの開始を告げ、照明点灯。

   無人の控室に、スタジオから飯塚、升野、あかりが出てくる。

飯塚「いやー、なんとか無事始まりましたね」

升野「どこが無事なんだよ、アイツらパニック起こして本番直前まで泣きわめいてたぞ」

飯塚「そりゃ23時間テレビのMC、今日いきなりやれって言われたら動揺するでしょう誰だって」

あかり「いやいやいや、あれは動揺なんてものじゃなかったですね。うふっ」

   あかり、嬉しそう。

あかり「さあやなんて泣いてトイレに籠もるし、ももりんなんて急に逃げ出して、2時間も。2時間も行方不明だったんですよ、あはははっ、面白い」

飯塚「怖えな、何が面白いんだよ。UFIにトラブルが起こると絶対そのテンションになるよな」

あかり「あははは」

飯塚「まあ、ももりんも無事見つかって、スタート出来たんだから良かったでしょう」

升野「よくないだろ、お前なんでこんな大事な仕事を本人たちに伝えないんだ」

飯塚「いや、すいません。でもこれ社長が取って来た仕事なんで」

升野「あのバカ社長どこ行ったの?」

飯塚「ゴリナが絶対マラソンなんか走りたくないって言ってて、その説得してます」

升野「ふざけんなお前、もうマラソンまで20分ないぞ?」

飯塚「大丈夫です、社長を信じましょう。あの人は、やる時はやる人です」

   エレベーターが着き、額から血を流し青アザ作った川島が出てくる。

川島「すまん、遅くなった」

飯塚「社長?!、どうしたんすか」

川島「ちょっとチンチロの件で軽くこじれたからな。何、話せばわかってくれたよ」

飯塚「軽いこじれで出てくる血の量じゃないんですけど」

川島「今回はビシッと言ってやったよ。チンチロの何が悪い、男にはチンチロの付き合いがあるんだ、チンチロの1つや2つでガタガタ言うんじゃないってな」

飯塚「ずい分チンチロを使いこなしてますね」

升野「おい、チンチロってなんだ?」

あかり「あ、チンチロって言うのは」

   升野に近づくあかりを飯塚が遠ざける。

飯塚「あかりちゃん駄目、あかりちゃんが説明しちゃ駄目、席外して」

升野「おい、なんだ?、チンチロって」

飯塚「要はエロいことです。こっちの方言で、そう言うそうです」

升野「ふーん。ああ、チンチロね。はいはいわかるわかる。俺はアレだわ、そういうの中学で卒業したわ。あかりにはまだ早いな、それな」

飯塚「お前、ダメな童貞みてえだな」

川島「とにかく、ゴリナにはマラソンを走らせる。ただ少し変更したい点がある」

升野「変更?」

川島「ああ、とは言え少しだけだ。142,195キロマラソン。このキロの部分を、ミリに変える。それだけだ」

飯塚「どういうことですか、142,195ミリってこと?」

川島「ああそう言う事だ、142,195ミリだ」

升野「ふざけんなお前、142,195ミリって言ったら14センチじゃねえか」

川島「そうだよ。簡単だよお前、1歩でスタートつったらもうゴールつってさ」

   川島、可愛く一歩を踏む。

川島「スタートつったらもうゴール」

   もう1度かわいく一歩。

升野「ふざけんなお前は」

   升野、川島に腹パン。

升野「行ってこい早く、説得して来い」

   川島、笑いながら、良い声で、

川島「わかったよ」

飯塚「何カッコつけてんだよ」

   川島がエレベーターに乗り込むと、

   入れ違いにスタジオから豊本が飛び出す。

豊本「大変だっ」

飯塚「どうした豊本」

豊本「ももりんが、号泣し始めた」

飯塚「はっ?、ちょっと何」

   飯塚、会議机上のテレビをリモコンで点ける。

飯塚「本当だ、ももりん超泣いてんじゃん、これなんで?」

豊本「わからない、これと言って変わったことはなかったし。まぁ変な化け物が突然スタジオに入ってきて、ももりんに抱きついたくらいで」

飯塚「絶対それだろ。あ?、アイツ、さっきいた怪しい奴だ」

豊本「あれ演出じゃなかったの?、それじゃわかんないよ、OHミステリアス! OHミステリアス! OHミステリアス!」

   冷たく見ていた升野。

升野「おい豊本。なんだ?、ミステリアスって。なんで急に英語で喋り出した?」

豊本「いやいや、俺のギャグ。え、覚えてないの?」

升野「なんだそれは。もう終わりでいいか?」

豊本「……リアルミステリアス!」

升野(モニター見て)「こりゃ不審者だなぁ、おい豊本、引きずり出せ」

豊本「わかった」

   豊本、スタジオへ走る。

升野(呼び止め)「いいか?、UFIを動揺させるな。UFIにはあくまでも演出だと思わせろ。その隙に連れ出せ。いいな?」

豊本「わかった」

   豊本、スタジオに入る。

飯塚「升野さんが直接行って指示出した方がいいんじゃないですか?」

升野「それは無理だ」

飯塚「なんでですか?」

升野「飯塚。久しぶりに会ったUFIたちは、俺の想像を超えるほど輝きを増している。そんな中俺が直接演出などしたら飯塚、俺は緊張して失禁してしまう。だから俺が優秀な部下たちを集めたんだ」

飯塚「別にカッコ良くないですからね?」

升野「それにだ飯塚。俺もプロだ、3時間もすれば慣れる。しかもUFIの目さえ見なければ飯塚、会話をすることだって夢じゃない」

飯塚「実現しなそうじゃねえかよ」

   豊本がオニゾウともみあってスタジオから出てくる。

豊本「大人しくしろ、おいっ」

   飯塚、オニゾウにつっかかる。

飯塚「テメエ何者だオラ、UFIのファンか?」

   オニゾウ、首を横に振る。

飯塚「ウソつけお前、UFIに会いたくて変装して入ってきた侵入者だろ」

   オニゾウ、飯塚にパンチ。

飯塚「痛てっ、何すんだこのっ」

   飯塚、オニゾウにパンチ。

   倒れるオニゾウに馬乗りになり、タコ殴り。

飯塚「ブチ殺すぞこの化け物、コラ、コラ」

   スタジオから紙袋を手に充希が出てくて、目の前にその光景を目撃。

   紙袋を落とす。

充希「ちょちょちょ」

   慌ててオニゾウをかばう。

充希「何してるんですか」

飯塚「アンタこいつの知り合いか?」

充希「......ヤクザ」

飯塚「ヤクザじゃねえつってんだろ」

   執拗にオニゾウを襲う飯塚を、後ろからあかりが力づくで引き離す。

あかり「飯塚さん離れて。(充希に)ねえ知り合いなの?」

充希「はい。彼は、この地域で人気の、みちのくササヒカリテレビのメインキャラクター・オニゾウくんです」

飯塚「人気?、この化け物が?」

充希「オニゾウくんはうちの地域の名産ササヒカリのおにぎりで出来た鬼です。化け物なんかじゃありません」

飯塚「『おにぎりで出来た鬼』はもう化け物なんだよっ」

升野(台本読み)「おい、これ台本、出演オニゾウって書いてあるぞ。こいつ23時間出ずっぱりなの?」

充希「あ、はい。スタジオから突然引きずり出されて私ビックリしちゃって。何かあったんですか?」

飯塚「そんなキャラクターだとは知らなくて」

   オニゾウ、飯塚につっかかる。

飯塚「本当申し訳ないです」

升野「メインテーマの歌詞募集の告知、オニゾウとUFIって書いてあるぞ?」

充希「はい。23時間テレビメインテーマ歌詞募集の告知、オニゾウとUFIにお願いしようかなって思ってまして。スタンバイはよろしいですか?」

豊本「それは駄目だ。俺がさっきスタジオから追い出す時の乱闘を見て、UFIは完全に、オニゾウにビビりまくっている」

升野「じゃ、誰が告知やんだよ」

あかり「角田さん。角田さんがオニゾウくんとやればいいんじゃないですか?、作曲家が告知するのはおかしくないし」

升野「それで行こう。角田は?」

飯塚「たしか、作曲中じゃ」

   飯塚、仕切り板を覗きに向かう。

飯塚「あ、いない」

升野「どこ行ったんだ?、あのハゲ」

   エレベーターが開き、息も絶え絶えの角田が出てくる。

升野「何してたんだよ」

角田「ももりん探したんだよっ、ごめんあかりちゃん、俺あかりちゃんに頼まれてももりん探した」

   角田、必死にあかりに土下座。

角田「一生懸命探した、でもどこにもいないんだよっ、県境行った。県境にもいないっ、県外行ったアイツはっ」

   角田、あかりに這い寄り、あかり引く。

飯塚「怖えよ」

角田「ごめん、あかりちゃん。もう、ももりん無しでやるしかねえよお」

飯塚「角田さん。ももりんならもう、出てますけど」

角田「え」

飯塚「メール来てませんでした?」

角田「メール?、(携帯確認)来てねえよ?」

あかり「ごめんなさい。私、角田さんのメール知らないんで」

角田「......聞けよ誰かにさっ」

升野「どうでもいいから。おい角田、お前今からテレビ出て、歌詞募集の告知して来い」

角田「とてもじゃないけど今そんな体力残ってないよ」

飯塚「いや角田さん、テレビ出て(カンペを見せ)この告知すればいいだけですから」

角田「......じゃあメアドだよ」

   角田、あかりを見る。

角田「メアド」

   あかり、呆れ顔。

角田「おい、この女が俺にメアド教えてくれたらやって......」

あかり(遮り)「嫌です」

角田「クッソおーっ、行って来るかあーっ」

   角田、スタジオへ入る。

充希「オニゾウくんも」

   充希に連れられて、オニゾウも続く。

飯塚「大丈夫すかねえ?」

升野「いや、ちょっと無理かも知れないな」

   エレベーターが開き、より血を多く流した川島が出てくる。

川島「いやあ、すまん遅れた」

飯塚「社長?!」

川島「話は進んでるよ、お互いクールにな」

飯塚「ウソつけ血出てんじゃないですか。で、ゴリナなんて?」

川島「まあ、ゴリナにこう言われたよ。(ビートたけし風に)あのー、川ちゃん」

飯塚「ちょっと待って。それ、誰すか?」

川島「ゴリナだよ。ゴリナがそう言ったんだよ」

飯塚「あ、そうすか」

川島「(ビートたけし風に)あのー、川ちゃん」

飯塚「ゴリナそうしないでしょ?」

川島「(ビートたけし風に)川ちゃんがね、私を愛してくれているというね、証明をしてくれないとですね、オイラ走る気になんないなぁ、なんつってですね」

飯塚「オイラ?」

川島「(ビートたけし風に)で、そのままやっちゃったりしてね」

飯塚「やかましいわ」

川島「(ビートたけし風に)あー、気持ちイイ。バカ野郎。なんつっちゃってね」

   川島、ビートたけし風にステップ。

飯塚「好きなことしていい場じゃねえんだぞ、ここはっ」

   川島、笑いをこらえる。

飯塚「ゴリナが、社長の愛を証明しなきゃ駄目だって言ってたんですか?」

川島「よくわかったなあ?、その通りだ。ゴリナへの愛を証明する為に、手紙を書くことにした。もうしばらく時間をくれ」

   川島、仕切り板の向こうへ。

飯塚「大丈夫かよ。あかりちゃん、ちょっと頼むわ。ゴリナの説得お願い」

あかり「はい」

   あかり、エレベーターへ。

豊本「そろそろ告知のコーナー始まるんじゃないですか?」

   豊本がリモコンでテレビを点ける。

   会議机のモニター前に集まる豊本、飯塚、升野。

   会議机の薄明かり残して場内暗転し、

   照明の当たる2階の通路がスタジオになる

   (モニターチェック時の仕様)。

   スタジオに出てくる角田とオニゾウ。

角田「おいお前らっ、よく聞きやがれっ」

   おどけるオニゾウ。

角田「今からお前らの想いをこの番組に送って来いっ、そしたら俺様がよっ、歌にしてやるよっ」

飯塚「なんでずっとキレてんだコイツ」

角田「魂のこもったメッセージだったらなんでもいいよっ、例えばまぁ、こういう事だ」

   角田、ギターを弾き鳴らす。

角田「♪ ここでこのまま野垂れ死にたい」

飯塚「この歌好きだな、アイツ」

   オニゾウ、野垂れ死ぬ歌に合わせて踊りだす。

角田「おい邪魔すんなお前、距離を取れ」

   角田とオニゾウ、もみあってはける。

   照明点灯。

飯塚「なんだったんだ一体これは」

   川島、手紙を手に戻ってくる。

川島「よし、ゴリナへの手紙書けたぞ。悩んだけどな、自分の素直な気持ちを書くだけで良かったんだよ」

飯塚「今、それどころじゃないんすよ」

升野「もう駄目だよ、こんな番組さあ」

   升野、駄々をこねて泣きだす。

升野「なんなんだよ、無理だよ」

   飯塚、慌ててなだめる。

飯塚「大丈夫です、落ち着いてください」

升野「番組の冒頭からMCは号泣するし、告知はすげえ変なのがやってるし、こんな、(号泣)こんな番組無理コプター」

飯塚「なんだ無理コプターって、しっかりしろお前は」

   江田島、拍手しながら上手から登場。

江田島「いやー素晴らしいじゃないですか。番組冒頭から声を詰まらせて涙を流して、さすがUFIさん。スポンサーも感動したと高評価です、ありがとうございます」

   升野、すっくと立ち上がり、

升野「すべて、計画通りです」

川島「こんな苦労してるんだから、夜のチンチロ、Wでお願いします」

飯塚「ラーメン二郎か」

江田島「W?......ああ、そうだ、あの。(川島の流血を見て)大丈夫ですか?」

川島「ああ、はい」

江田島「これを渡すのを忘れていました」

   江田島、川島に原稿を渡す。

川島「なんですか?」

江田島「実はですね、マラソンのスタート直前に、県会議員さんが挨拶するんですけど、それを入れて欲しいんですよ」

川島「わかりました」

江田島「あの、雑に扱わないでくださいよ?、とっても大事な原稿なんですよ。ぶっちゃけ、それ読んでもらわないと不味いんですよ」

飯塚「どういうことですか」

江田島「まぁ、簡単に言いますとスポンサーへの気遣いですね。実は地元の30周年を迎えるサラ金会社なんですけど、この番組の大口スポンサーなんですよ。実は私、約束しちゃったんです、最初にドカーンと宣伝しますよって」

飯塚「......県会議員さんの挨拶にサラ金の宣伝入れちゃ不味くないですか?」

江田島「だからさり気なくだよさり気なくっ」

飯塚「なんだこのキレ様は。どういう内容なんですか?、ちょっと見せてください」

   飯塚、川島から手紙を受け取る。

飯塚「『僕はあなたが必要だ。僕はあなたとチンチロしたい』なんすかこれ?」

   川島、焦って手紙を奪い返す。

川島「こっち」

   本当の原稿を渡す。

飯塚「『春風が心地いい季節になりました。今回この23時間テレビ』……もう全然頭入ってこねえわ、さっきのなんなんすか?」

川島「ゴリナに対する愛の手紙だよ」

江田島「じゃ、頼みましたよ?」

   江田島、かかってきた電話に出ながら上手からはける。

   エレベーターが開き、あかりが出る。

飯塚「あかりちゃん、ゴリナは?」

あかり「説得してみたんですけど、やっぱり社長の愛が証明されるまでは、機嫌は直らないですね」

川島「じゃあ俺、ゴリナに手紙渡してくるわ」

飯塚「お願いしますね?」

   川島がエレベーターに乗り込み、

   スタジオから角田、オニゾウ、豊本が出てくる。

角田「なんなんだよ俺の邪魔しやがって」

飯塚「なんなんすか?」

角田「俺は悪くねえぞ、コイツが歌ってる時に邪魔してくるから……」

   オニゾウ、角田の背中に蹴り。

   角田に馬乗りになり、タコ殴り。

豊本「いい加減にしろっ」

   豊本、チョップでオニゾウを離す。

   代わって豊本が角田に馬乗りタコ殴り。

角田「人が代わっただけじゃないかっ」

   スタジオから充希が出てくる。

   豊本、関節技を決めて立ち上がる。

飯塚「強えな豊本」

豊本「当たり前だ、俺がいつまでも升野に負け続けてると思ったら大間違いだ。俺はこの数ヶ月、事務所の仕事を一切しないで修行した」

飯塚「仕事はしろよ」

   充希、豊本に感激している。

充希「......凄い、凄いですよ。あなたでしたら、鬼相撲大会に出たら優勝できるかも知れませんっ」

   充希、はしゃいだ後で我に返る。

充希「あ、すいません興奮しちゃって」

   あかり、戻ってくる。

飯塚「鬼相撲って、何?」

充希「鬼相撲って言うのはこの地域に昔から伝わる伝統行事で、この後20時からチャンピオンとチャレンジャーの取り組みをスタジオで生放送するんです。で、今年も多分最強チャンピオン『キックのムラサワさん』て方が優勝すると思うんですけど、もしあなた(豊本)が出てくださるなら、なかなかいい試合が出来るんじゃないかな、と思います」

   まんざらでもない豊本。

飯塚「......相撲なのにキックとかいいの?」

充希「鬼相撲は土俵で戦いますが、基本なんでもありのバーリトゥードです。で、相手がギブアップするか死ぬまで勝負は終わりません」

飯塚「......それ、ただの殺し合いじゃね?」

充希(即答)「そうです」

飯塚「そうですじゃねえよ。君、鬼相撲のこととなるとよく喋るんだね。ただの殺し合いだろ?」

充希(即答)「そうです」

飯塚「そうですじゃねえよ」

角田「冗談じゃねえよ、やってらんねえよ俺はもうこの仕事降りるぞ。大体なんだよコイツ(オニゾウ)、こんなのがイメージキャラクターのテレビ局って最低だな。お前もお前だよ(充希)、ゲストが酷い目に遭ってるんだから止めろよ。こんなクソみてえな地方局には、クソみてえなADしかいねえんだなっ」

飯塚「言い過ぎでしょうよ、角田さん」

充希「すいませんっ、確かにクソみたいな地方局かも知れません。誰も期待してませんし、誰も注目してませんし......」

飯塚「いやあの、気にしなくていいよ」

充希「でもっ、でも私、このみちのくササヒカリテレビが大好きなんですよ。まあ今はこんなですけど、昔はもっとキラキラしてまして。私が子供の時に、このオニゾウくんを主人公にした『泣くな、オニゾウ』っていう子供番組やってたんですけど、私それ大好きでいつもテレビにかぶりつくように見てて。『オニゾウくん』、怖いけど熱血な『鬼パチ先生』、クラスメイトで誰よりも力強い鬼の力士『鬼の富士』。そして怖がりだけど誰よりも心優しい『鬼ミイラ』。歌が上手な『鬼渕トンボ』」

飯塚「なんだそのキャラの名前は」

充希「みんなのマドンナ『鬼子ちゃん』。口下手で喋りの苦手な『紙芝居おじさん』」

飯塚「鬼関係ねえじゃん」

充希「とっても素敵な番組でした。だから皆さんがなんと言おうが、私はこのみちのくササヒカリテレビが、大好きなんです」

   一瞬だけしゅんとする角田。

角田「......かーんけーいねえーっ」

   オニゾウ、ダッシュで角田のみぞおちに突き。

角田「あ、痛てえ、入った」

   角田、ダウン。

飯塚「ありがとうございます」

   オニゾウ、お辞儀。

   江田島、携帯で通話しながら上手から入る。

江田島「もしもし?、先生困りますよ、なんとかして来てくださいよ、もしもーし?」

   電話、一方的に切られる。

升野「どうしたんですか?」

江田島「いや県会議員の車が故障しちゃって、ここに来るの間に合わないって言ってるんですよ」

升野「最初の挨拶ですよね?、それはじゃあ、違う人が読めばいいんじゃないですか?」

江田島「いや、それが駄目なんですよ。サラ金会社はね、県会議員がテレビで宣伝してくれるならってことでスポンサーになったんですよ。まいったなぁ」

升野「そう言われましてもねえ」

   エレベーターが開き、顔が血で染まった川島が降りて来る。

飯塚「社長?!、どうしたんすかあっ」

川島「ゴリナにやられた」

   飯塚、川島をパイプ椅子に座らせる。

飯塚「あかりちゃん、治療」

あかり「え?」

充希「こっちに救急箱ありますよっ」

   充希とあかり、スタジオへ。

川島「ゴリナに手紙を渡したら、ビリビリに破かれて、楽屋に入って鍵を掛けられた」

飯塚「あんなチンチロなんて書くから」

   あかり、救急箱を手に戻ってくる。

飯塚「ちょ早く、手当て手当て」

あかり「はい」

   あかり、川島の顔に包帯を巻いていく。

江田島「何やってるんですか、それどころじゃないでしょう。頼みますよ、ねえ」

   升野、はたと机を叩く。

升野「いい方法があるっ、江田島社長、この男(川島)、県会議員にしましょう」

江田島「何言ってるんですか?」

升野「だから、包帯を顔にグルグル巻きにして、県会議員ってことにしちゃえばいいんですよ。社長、さっきの原稿は?」

   川島、胸元の手紙に触れる。

川島「これか?」

升野「うんOK。豊本、社長をスタジオへ連れて行って、この原稿読ませろ」

豊本「わかった」

   豊本、川島に手を貸してスタジオへ。

升野「急いで。で、あかり、あかりはゴリナをもう1度説得してくれ。それでも駄目なら、俺のギャラクシーパッションで蝋人形にするから」

飯塚「しちゃダメしちゃダメ、なんとか説得して?」

あかり「はい」

   あかり、上手へはける。

江田島(感心)「東京のプロの方は違いますね。『情熱南大陸』出てましたもんね」

升野「後で、同録お渡しします」

   飯塚、会議机に残されたビリビリの原稿を目にする。

飯塚「あ!、升野さん」

升野「え?」

飯塚「これ」

   飯塚、江田島に聴かれないよう升野を隅に連れていく。

升野「なになになに?」

飯塚「さっきの、ゴリナがビリビリに破いた社長の手紙なんですけど、あれ違います」

升野「何?」

飯塚「あれ挨拶文の原稿でした」

升野「え?」

飯塚「あれを見せたからゴリナ怒ったんですよ」

   江田島、残されたビリビリの原稿を開く。

升野「てことは今、社長が持ってったのは、ゴリナへの愛のメッセージ?」

江田島「なんだ?、なんでスポンサー宣伝の原稿が、ビリビリに破れてるんだっ?」

飯塚「いや、これは」

江田島「これがここにあるという事は、あの男は一体何を読むつもりなんだ。ここでつまずいたらこの番組終わりだぞ、このままじゃチンチロになんないぞっ」

飯塚「いや、そんなエロいこと今言わなくていいじゃないですか」

江田島「何を言ってるんだ?」

   豊本、スタジオから出てくる。

豊本「社長の挨拶、始まります」

飯塚「え?」

   オニゾウと起き上った角田も会議机にやって来て、

   飯塚がテレビを点ける。

   モニターチェック。

   スタジオに現れたのは、顔中に包帯を巻いたスケキヨ状態の川島。

飯塚「怖えよっ」

川島「聞いてください」

   川島、手元の手紙を読み始める。

川島「僕には何より、大切なものがあります。それはあなたです。僕はあなたが必要だ。僕はあなたとチンチロしたい」

飯塚「止めて止めて」

   豊本、スタジオへダッシュ。

升野「急いで急いで」

川島「周囲の人間は知らないと思いますが、僕は、あなたが30歳だということを知っています。しかし、それは恥じることではないっ、むしろ30を過ぎてからの方が、良いチンチロが出来るんですっ」

飯塚「何言ってんだよ」

川島「僕は、あなたと、海へ行き、山へ行き」

飯塚「知らねえよ」

川島「人に見られながらチンチロしたいっ」

飯塚「テレビで何を言ってんだお前はっ」

升野「せめて家でやれよ」

川島「僕の硬くなったチンチロがっ」

   豊本が飛び込んで、川島を引っ張る。

川島「あなたのマンチロにっ」

   豊本、川島とはける。

飯塚「アイツ言ったぞっ、ギリで言ったぞっ」

升野「テレビでマンチロって言ったぞ」

   照明点灯。

   江田島、机を叩いて立ち上がる。

江田島「なんだこれはっ」

   升野と飯塚、頭を下げる。

升野「すいませんっ」

飯塚「すいませんでしたっ」

江田島「......素晴らしいじゃないか」

飯塚「え?」

江田島「いや、サラ金とはチンチロでなきゃいけないんだ」

飯塚「ちょっと待ってください。チンチロってどういう意味なんですか?」

江田島「『貸し借りは無い』っていう、こっちの方言だよ。いや確かに、『30過ぎてからの方がいいチンチロが出来る』。これ良いキャッチコピーですよ」

升野「すべて計画通りです」

江田島「30周年をね、30歳に例えるなんて凄いですよ、考えてるなら言って言って、もう」

升野「ありがとうございます」

飯塚「なんか上手くいきましたね」

   包帯川島と豊本、戻ってくる。

飯塚「後は、ゴリナだ」

   エレベーターからあかりが出てくる。

あかり「ゴリナが、ゴリナが」

飯塚「どうした、あかりちゃん」

あかり「今の社長のスピーチに感動して、部屋を飛び出しました」

飯塚「どこ行ったんだ?」

   テレビから、観客の歓声が聴こえる。

飯塚「あ。ゴリナ走ってます。ゴリナがマラソン中継に映ってますよ」

升野「ゴリナ、社長の言葉に感動して走り出したんだ」

飯塚「社長っ......ゴリナって、30なんすか?」

川島「そう。アイツね、サバ読んでんの」

   暗転。