2020年劇場鑑賞映画100タイトル ベスト50とワーストまで

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2020年、コロナ禍のロックダウンで二ヶ月間映画館へ足を運べない日が続いたにも関わらず、振り返れば劇場鑑賞作品ちょうど100タイトルもありました(『FateHFⅢ』と『2分の1の魔法』は二度観賞してるので、回数だけなら102回 ).

これは個人的に例年より多い数字.

大作映画の公開延期が相次ぎ、普段ならミニシアターまで足を運ばないと観賞できない、どころか、ものによってはビデオスルーされるかどうかも怪しいマイナーなタイトルがスクリーンの穴埋めに大量に輸入され、ほとんど闇鍋気分で知らない映画に身を委ねる新しい映画体験を出来たと思います.

イオンシネマのワンデーフリーパスポートを存外活用出来たのも功を奏しました.利用する前は一日何本も映画見れないよと思うのですが、当日いざ購入してみると不思議と楽しくなって何本でも観れてしまうのです.再び施行される日があれば皆さんも是非ご利用してみて下さい.

 

観賞した100タイトルの概観としては、月並ですが「バラエティ豊か」.決して水準が高いとは言えない、と言うかハリウッドという中心線が抜けたことでむしろ水準が存在しない無秩序な表現がただ「映画」という枠組みに無理やり収まっているだけに過ぎず、実際は広大な宇宙にてんでバラバラに点在している印象です.

 

ベストを選ぼうにもそれぞれ体験のベクトルがバラバラ過ぎて同じ評価軸を持ちようがないので、単に10本選ぶよりも簡易であれ個別に感想つけて記録しておこうと思いました.

 

細かい数字よりも、大まかな4ブロックで別れています.

実質1位から4位までですね.

 

1位~50位  = ベスト.全部1位!

51位~70位 = 普通に楽しめました.

71位~90位 = 一長一短アリ.

91位~100位 = ごめんなさいワーストです.

 

 

1位~50位 = ベスト.全部1位!

 

1位.透明人間

真相がわかるまでのあの怖さ.真相がわかってからの「あああそうくる」という感動.

そこから先の展開の読めなさ.事態が動くときの昂揚感.

何より全編を覆う撮影、演技、音響の一体感.ありがとう.

 

2位.鵞鳥湖の夜

映画の世界に迷い込み、耽溺し、酩酊する魅惑.

鵞鳥瑚に惚れ込みながらもロケ地の距離的に鵞鳥瑚での撮影が不可能だとわかったので武漢市を鵞鳥瑚に見立てて撮った、という本末転倒なメイキング秘話を知ると、よりこの世界のいかがわしい見世物感が増す.

そしてそこにはもう帰れないのだ.行きたくもないあんな恐ろしい場所なのに、その世界は時代の趨勢の影に消されていくだろう.そのことがうら寂しく、けれど新しく開かれた世界が女性達を出迎える.

 

3位.薬の神じゃない!

くすぶっている駄目人間たちが、私欲の延長上で社会正義を成す.そのリアリティと娯楽性のバランス.本作は中国映画だが、ここ十数年間韓国映画が得意としていた部分を、ひと味変えてより地に足をつけた描写力で、そして非常に高い完成度で魅せる.

カタルシスだけで全てを浄化出来ないくらい現実に則したしんどさも刻まれていくだけに、最後のロマンチックな飛躍で涙腺を刺激されてしまう.顔に人生刻まれた俳優陣といい、総じてレベルが高い.

 

4位.ナイブズアウト/名探偵と刃の館の秘密

スター・ウォーズ』から解き放たれたライアン・ジョンソンが、自身の大好きな古典的ミステリーに映画の形で挑戦し、ちゃんと良く出来た王道ミステリーとして成立している.当たり前に完成しているので当たり前に受け止めてしまうけれど、この王道っぷりは異常なレベルでは.100年前からある古典かのように堂々振舞っている.それでいて正に現在の話にもなる.完成度もさることながら、その心意気に感動してしまう.

彼のフィルモグラフィでもここまで何からも逃げなかったのは初めてではないか.

 

5位.喜劇王

久々に観たチャウ・シンチー作品.香港映画界の系譜の意地.合間合間に知らないオッサンの女装コントを延々と見せつけられつつ、ここまで一本の映画で喜怒哀楽の振り幅を描くことが出来るのかと驚愕する.明らかに昨年映画館で一番感情を弄ばれた映画.ネタバレなしで見て欲しい.

 

6位.ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(MX4D上映)

人生で最も劇場で鑑賞し、恐らく映画史でもっともアトラクション型を極めた作品が、文字通りのアトラクションに進化して帰ってきた.噴水と煙つきのスターツアーズ.エヴァのコックピットに揺られて、確かに使徒と戦ったんですよ! 俺が! 同じ劇場にいたみんなと! そしてその臨場感を持続させる為、ショットの連鎖が、音が、舞台の構造が、劇伴のタイミングが、台詞の抑揚までもが、如何に緻密に構成されているか.改めて吃驚する.

 

7位.サヨナラまでの30分

『37セカンズ』と合わせて、技術的な面に於いて日本映画にまとわりつく見えない壁を打破したエポックメイキングな一作.それでいてここ十年ほどの日本映画史を(アニメ/実写問わず)引き連れていて、「過去の記憶を引き連れている」ということ自体がカセットテープの両面を描くテーマとも重なる.心に爽やかな一陣の風が抜けていった.

 

8位.囚われた国家

綺麗なラストシーンへ向けて一直線に向かっている物語なのだけど、個人的にはそのラストシーンは無くても構わない.宇宙人の支配が進行する街の片隅で反逆者たちが殺風景の中を移動していく、その映像の移ろいそのものに心地良く鼓舞される.「経過」こそが素晴らしい一作.

二ヶ月ぶりに劇場鑑賞した映画が本作で本当に良かった.

 

9位.青くて痛くて脆い

あまりに卑小な大学生の自意識の問題を、あたかもスパイ映画か何かのように大胆に演出されて訳のわからない笑いが止まらない、2020年最大の大穴作品.「ここ」に焦点を当てて映画として、それもエンタメ映画として成立させるという奇跡.誰か個人の野心によるというより、偶々生まれた快作なんじゃないかと思う.これだけ多彩な映画を観賞出来た年に本作をそんな評価して良いのかと迷うのだけど、横断歩道のクレーンショットが決まっていることが最後の一押しとなってまぁいいかとほだされた.

 

10位.ティーン・スピリット

こちらは『青くて痛くて脆い』と違って決め手となるショットさえ特になく、ドラマはキャラメルとかを包んである食べられる紙よりよっぽど薄い.ついでに画面が暗くて何が映ってるのかもよくわからない.褒められる箇所なんて何一つ無いと言っても過言ではない.

それでもこの映画、ただ一点「ティーンのスピリット」だけは全編に投影されていた.こんな風に不安で朧気に世界が見えていることは確かにあると共感し没入出来たので、忘れられない一本.「青くて痛くて脆い」はむしろ本作の為にある言葉では.

 

11位.ストックホルム・ケース

映画を観る、映画と共犯関係になるということ.

 

12位.ひつじのショーン UFOフィーバー!

台詞など無く、パロディだらけなのにこの完成度.

 

13位.空に住む

マンションポエムの文句なき具現化.青山真治最高傑作.

 

14位.レ・ミゼラブル

ドローンがこんなに印象に残る映画もなく、この魔境「団地」は世界中に溢れている.

 

15位.思い、思われ、ふり、ふられ(実写)

典型的な少女マンガであり乍ら、撮影ひとつでここまで多くの陰影が浮かび上がる.

 

16位.スパイの妻

切り上げ時は間違っている気がするが、そこまでの切れ味は完璧.

 

17位.ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

「過去であり現在である」という主題が今の流行りだとして、その最高峰.

 

18位.魔女見習いをさがして

アニメ映画では珍しい、どこに連れて行かれているのかわからない変な話術.

 

19位.劇場版ポケットモンスター ココ

運動によって画面を誘うのだという原理主義的な意思による脚本の小さな手間暇が一貫してて凄い.

 

20位.フォードVSフェラーリ

ノスタルジィが過ぎる気もするが、存在しない郷愁を植え付けられて抗えない.

 

21位.ブラッドショット

時期が功を奏してULTIRA環境で観賞出来たのだけれど、普段何気なく流し見しているB級映画とは、環境さえ整えば実は凄い傑作だらけなのではという発見をくれた.

 

22位.レイニーデイ・イン・ニューヨーク

いつものように小粋でこじんまりしたウディ・アレンでありながら、何か残る印象が違って見えたのはコロナ禍だからか.しかし緑が鮮やか.

 

23位.ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序(MX4D上映)

ヤシマ作戦をピークにして、ずっとコースターに運ばれて運ばれて最後に滑降する、まるで最初から4D体験の為に作られていたんじゃないかと錯覚してしまう.

 

24位.少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド

総集編.だけど凡百の劇場版アニメより余ほど「映画を観ている」快感があった.

 

25位.風の谷のナウシカ

劇場初観賞.前シーンの反転攻勢だけで紡がれる流れ.宮崎駿の天才ぶりを改めて.

 

26位.はちどり

鑑賞中はどうにも画角が小さい気がしていたが、振り返ると余りに巨大な印象が残る.

 

27位.パラサイト 半地下の家族

瞬間的な沸点で言えば2020年最大級の面白さ.ただ終盤はポン・ジュノの手垢が目立つ.

 

28位.ムルゲ 王朝の怪物

歴史劇+怪獣映画という珍しいジャンルをこうも軽快に乗りこなせる地肩の強さ.

 

29位.2分の1の魔法

2020年もっとも美しいクライマックス.ピクサーの「スカし」の美学の頂点.

 

30位.映画 クレヨンしんちゃん 激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者たち

水島努降板以降で初めて黄金期に比肩しうるところまで持ってきた快作.

 

31位.37セカンズ

後半の展開で物凄い疑問点が一個浮かんだのがノイズだけど、でもエポック.

 

32位.わたしは金正男を殺してない

己の無邪気と無知を糾弾されたような気がして忘れられない.

 

33位.Mank/マンク

依然フィンチャーは絶好調.にも関わらずこの順位という豊作ぶりです.

 

34位.シチリアーノ 裏切りの美学

死者カウントテロップと刑務所融合型裁判所.大巨匠の映画なのに発明だらけ.

 

35位.悪人伝

バイオレンスとアクションを駆動させる為だけに全てが淀みなく機能する.

 

36位.劇場版 Fate/stay night Heaven's Feel. Ⅲ spring song

絵としては単調になりがちな展開に空間の構造的緩急で視線を誘導する創意工夫.

 

37位.ジョゼと虎と魚たち

全てのセクションが自分にとって心地良い「理想の邦画」を描いてくれた.

 

38位.滑走路

希望と絶望と未来と過去がワンショットに収まる、そしてはみ出していくラストショット.停止ボタンは絶対に押せない映画館と、人間の目が二つしかないことが、こんなにも残酷に思えたことはない.

 

39位.エクストリーム・ジョブ

観客の人情への共感を誘う大衆娯楽映画として昨年度屈指の出来.愛おしい.

 

40位.リチャード・ジュエル

イーストウッド以外に誰がこの主人公をここまでスリリングに切り取れるのか.

 

41位.his

映画的快楽を奪われた法廷という場が痛ましく胸に残る.

 

42位.犬鳴村

怖くは無いが、Jホラーのアドベンチャー的興味を大いに満たしてくれる.

 

43位.ルース・エドガー

白黒つけない作りはズルいとも思いつつ、あまりに時代と合致してしまった.

 

44位.SKIN/スキン

覗いてみよう、極右の生活.一度逃げ出せば地獄が待っている.

 

45位.ドミノ 復讐の咆吼

巨匠の巨匠たる個性がただのトンデモにしか見えない哀れと滑稽さ.だが愉しい.

 

46位.ザ・ピーナッツバターファルコン

「あの人」が会っていきなり自分の役割を汲んでくれた瞬間に涙腺ドバー.

 

47位.カラー・アウト・オブ・スペースー遭遇ー

意味もなく、全てがぐっちゃぐちゃになって終焉を迎える.這い寄るニャル子さん

 

48位.羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(吹替版)

字幕版を昨年観てるので新味は薄いが、しかし複雑な余韻は増した.

 

49位.ファヒム パリが見た奇跡

特別なことは何もしてない、ただ良い映画.そして善き人の映画.

 

50位.パリのどこかで、あなたと

映画を「見守る」という映画.相対するのではなく、寄り添う映画の形.

 

51位~70位 = 普通に楽しめました.

 

ストレイ・ドッグ

無骨で愛想の無い映画があってもいい.そうだろう? 時を戻そう.

 

ワンダーウーマン1984

現実に負けないくらい映画もしっちゃかめっちゃかになってくれる嬉しさ.

 

思い、思われ、ふり、ふられ(アニメ)

ズバ抜けた要素は無いが、欠点も何も無いのだ.

 

WAVES/ウェイブス

なんか小バカにされ過ぎてて「え、これそんな駄目…?」って少し落ち込んだ…

 

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

話の陳腐さに引いた腰が、凄い美術が提示されるその都度にそちらの世界に引き戻される、の攻防を2時間繰り返されて結構圧倒された.

 

ミッドサマー

確かに観光映画だと思う.『ヘレディタリー/継承』を観た人を、その先の世界へと案内している観光映画.

 

ロマンスドール

年の初めに観たのであまり覚えていないが、良かったことだけは覚えている.題材で叩かれているのは流石に違うだろうと思った.

 

1917 命をかけた伝令

行き過ぎた長回しはゲーム観てる気分になっちゃうところはあります.

 

ジョジョ・ラビット

タイカ・ワイティティは好きなのだが、軽さを活かす為の重さとのギャップが演出上弱いような気はした.

 

劇場版 SHIROBAKO

反復と差異はわかるが、TVシリーズとまるで違う事が起こって欲しかったし、TVシリーズの頃からそうなんだけど劇中作られるアニメにあまり興味が沸かない.『限界集落過疎娘』が観たかったなぁ.

 

TENET/テネット

公開してくれた事、挑戦してくれた事が嬉しい.

 

ブラック&ブルー

出来は良くない.演出も稚拙.けれど推し.そんなアイドルみたいな作品.

 

ライド・ライク・ア・ガール

「淀みない」は褒め言葉にもなる一方、どこかで淀んで欲しかったとも.しかし女性映画の快作としてもっと評判になっても良かったのでは???

 

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

アメリカンコメディチームの流れが途絶えずアップデートまでされている歓び.ただ個人的にそこまで爆笑するポイントが無かったのはコメディとして弱いかなと.

 

映画 プリキュアラクルリープ みんなとの不思議な一日

「タイムループを起こす黒幕の正体」がアイデア賞モノだし、幼児向けと捉えると最善の出来かも知れない.昨年のプリキュア映画が凄まじい傑作だったので評価控えめ.

 

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

確かにこの挿話も映画で観たいとは思っていた.でも構成はオリジナルの方がスマートだったりするので難しい.

 

ACCA 13区監察課 Regards

あまりにお洒落なタッチが続くので無の心で観て、無の心になり過ぎた.

 

千と千尋の神隠し

新しい発見が無さ過ぎた.大傑作ですが.

 

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

311の記憶生々しい2012年観賞時の余韻はもう味わえないのだなという発見.でも本当に好きな心の一作です.

 

71位~90位 = 一長一短アリ.

 

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!

いや最高ですよ.恐らく宇宙イチ幸せなラスト.

 

事故物件 恐い間取り

映画なのにバラエティ番組のような、バラエティ番組なのに映画のような.

 

FUNAN フナン

重たい史実を重たい史実のまま提示される意義と物足りなさと.

 

マルモイ ことばあつめ

日本人として真摯に受け止めるべき題材.だが演出に後一歩のエッジが欲しい.

 

パブリック 図書館の奇跡

これまたとても意義深い映画.なのだけど演出にあと一歩のエッジが(ry

 

どうにかなる日々

映画として何か感想を抱くにはやはり何か足りていない印象.

 

15年後のラブソング

とても緩くて印象に残らないが、それが欠点とも感じないのでズルい.

 

mellow

田中圭ともさかりえとのやりとりだけで最高.可愛いだけで出来ている.

 

劇場版 ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌

やー。。。。。。っと、見返すことが出来た嬉しみ。。。。。。(>_<)

 

ようこそ映画音響の世界へ

トリビアとしては面白いが、それは映画なのだろうか

 

ボルケーノ・パーク

素晴らしく中身が無くて好きです.

 

ラストレター

緩慢だが、庵野秀明の出番さえ霞む「あの二人」の使い方、そして校舎のシークエンスは強烈.

 

ディック・ロングはなぜ死んだのか?

悪意によって作られてある、ベストに選ばれることを拒否してる作品.

 

コンフィデンスマンJP プリンセス編

前半、なんなら中盤の終わりくらいまでも確かに面白かったんですよ.

 

宇宙でいちばんあかるい屋根

丁寧だけれど、何も刺さらなかった.でも振り返ると印象的な絵は確かにある.

 

バッドボーイズ フォー・ライフ

彼岸の匂いがする不思議なフィルムだった.

 

ジェクシー! スマホを変えただけなのに

明らかにここから盛り上がる、という部分で切り上げる謎.

 

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY

ハーレイ・クインは最高にキュートなので他には何も要らないけれど.

 

アルプススタンドのはしの方

体育会系的マチズモにすべて回収されていくようで、居心地が悪かった.

 

キャッツ

レ・ミゼラブル('12)』よりは面白かった.

 

チャーリーズ・エンジェル

全体に「線が細い」という感がありましたね.

 

俺たち替玉ブラザーズ!

ヴェトナムコメディに対する免疫が無かったので刺激的でした.

 

91位~100位 = ごめんなさいワーストです.

 

91位.キルバード 森に潜む反逆者

俺の理解力が足りないのか映画がサービス不足なのか.いや悪い出来ではない.でも消化不良感がハンパなかった.

 

92位.魔女がいっぱい

後半は好きなんですけど、前半ちょっと枯れ過ぎてやしないか.

 

93位.リトル・ジョー

やりたいことはわかる.でもこれは流石に寝る.

 

94位.ランボー ラスト・ブラッ

『エイリアン3』的な意味でなら楽しめるけれど、そんなにハードル下げたくなかった.

 

95位.デッド・ドント・ダイ

これが全国シネコンでかかったあの異常な週は忘れない.1位とか取らなかったっけ.死者が撮った、映画のフリをした亡霊が、亡霊と化した地球でかかっている.まるで人類が映画に乗っ取られたような… ただそれが例えば『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』であったなら詩的で素敵ですけど、本作は流石に…

ジャームッシュならなんでも許すと思うなよ.

 

97位.劇場版 鬼滅の刃 無限列車編

逆張りと思われそうで嫌なんですけど、大ヒットは本当に喜ばしいことだと思うんですけど、それでも原作の印象を塗り替える瞬間が最後まで一度も現れなかった.映画と相対したいのに、全てが目の前を素通りしていくようなもどかしさ.いや、あったはあった.石田彰の声がした瞬間.石田彰の一声に2時間のアニメが負けるんですよ.それは駄目でしょうと.

ufotableの勝負はここからだ.

 

98位.劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前篇 Wandering;Agateram

俺の頭の中のFGOはこんな退屈じゃないので. 演出家にはやっぱり「嘘をつく」「ハッタリをかます」度胸が欲しい.

 

99位.アンチ・グラビティ

人生初めての映画館貸し切り体験をした思い出の一作なのでお気に入りです.

つまり、99位まではワーストと言いつつ観て良かった映画なのです.

 

100位.風の電話

自分の体調が最悪だったという特殊条件も合わさってのことですが、個人的に心底嫌いだと感じた一本.洒落臭いシネフィル的リテラシー、現実の悲劇の上にあるドキュメンタリズムも人質にしつつ、説明臭さも説教臭さも辛気くささも持ち合わせる.

誠実なツラした傲慢な映画だと感じました(そこまで言うほどなのかどうかは疑問になってきましたが、観賞時の不愉快さが今も消えない).

シネフィルが「映画らしさ」を甘やかしていくとこういう映画が生まれるという事は肝に銘じていこうと思いました.

そういう因縁の映画と出会えることも、結局楽しいんですけどね.

 

自宅鑑賞映画ベストは以下の感じ.今年は劇場鑑賞作品に絞ってベストを汲みましたが、そろそろ配信映画もベストに数えて良いのかも知れない.

 

 

 

 

似たようなドンパチ映画やアメコミ映画を並べる訳でもなく、本当に多彩な映画の記憶に思いを馳せることが出来て大変楽しかったです.

「映画ファンとしては」皮肉にもとても楽しい年だった.それは否めないことは記録として留めておこうかと思います.

 

 

大晦日の映画の採点

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晦日に間に合いました.

 

『マイル22』

【採点】

【監督】ピーター・バーグ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】CIAの極秘部隊「オーバーウォッチ」に所属するシルバは、今日も少年を含むロシア人組織を壊滅させ、苦い後味を噛みしめていた。次の任務は東アジア某国。極秘情報を抱える元警官リーを無事に国外退去させる事。不敵なリーの真意を計りかねながら、オーバーウォッチは過酷な戦闘の旅路を開始す。

【感想】

 量産体制バリバリ続行中のピーターとマーク・ウォルバーグが、『ザ・レイド』のイコ・ウワイスと組み、約90分といういつにないコンパクトさでまとめ、実話は基にしていない、と実はかなり攻めの一本。本国では酷評されたようだけど、ブツ切りみたいな終わり方含めて、むしろアクション監督ピーターの本質が(失敗してる部分含めて)剥き出しで刻まれていて悪くない。イコ・ウワイスにちゃんと演技させてるのも好感。

 

『呪われの橋』

【採点】A

【監督】レスター・シー

【制作国/年】台湾/2020年

【概要】2020年の2月28日、落ち目の女性レポーターがカメラマンを伴い、とある大学で過去の事件を調査している。ここで肝試しを行った4人の学生が溺死し、1人が行方不明になったのだ。映画は記録映像から過去に遡る。そこでは6人の学生が、呪いの橋で禁断の肝試しを行おうとしていた……。

【感想】

 幽霊出てくるかなー……? まだでしたー、という緩急の技巧が大変豊かで、ジェームズ・ワン以降のホラーの形を洗練して受け継いでいる。それでいてサービスする時は堂々見せるのも厭わない。ホラーまでレベル高いのかよ加減してくれよ台湾映画。終盤で真相が明らかになると「あれ? じゃあ前半どう映してたんだ?」となる仕掛けアリ。誰に感情移入するでなく、作り手の手腕を楽しむタイプの映画。今年一番の拾いモノだった気が。

 

ゲティ家の身代金

【採点】B

【監督】リドリー・スコット

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】1973年、ローマ。世界屈指の大富豪、石油王J・ポール・ゲティの孫が誘拐され、多額の身代金が要求される。義娘アビゲイルの懇願も聞かず、金を出し渋るゲティ。アビゲイルは交渉人チェイスと共に犯人を捜索。一方、情が移った誘拐犯の一人はなんとかゲティの孫を生還させたく、必死に要求を呑むようアビゲイルに連絡し……。

【感想】

 非常に奇妙な誘拐映画。他方に富める者から奪い取ろうと画策する悪があり、他方に富を独占しようとする悪がある。『悪の法則』では見えざる世界の「システム」が人の命を奪っていったが、本作では悪のシステムが2つ運行し、まったく譲り合おうとしない。結果として「隙間」が生まれる。だから何なのかまでは受け取れなかったが、変な映画だ……と感じる面白さはあった。ケヴィン・スペイシーMetoo運動で告発され、公開直前に急ピッチで再撮影に応じたミシェル・ウィリアムズとマーク・ウォルバーグ、それに代役のクリストファー・プラマーに拍手。その再撮影時のギャラで男優と女優のギャラに圧倒的格差(千倍!)が生じ、その事実を知ったマークはミシェル名義で自分のギャラを全額寄付している。

 

『コンジアム』

【採点】B

【監督】チョン・ボムシク

【制作国/年】韓国/2018年

【概要】CNNによる「世界七代禁忌の地」に選ばれたコンジアム精神病棟跡を舞台にした罰当たりPOVホラー。人気Youtubeチャンネルの配信者ハジュンは、6人の有志を募ってコンジアムに潜入取材を開始する。一人、拠点を作り皆のカメラをチェックし指示を出すハジュンだったが、現場の6人はそれぞれに怪奇現象に遭遇し……。

【感想】

 旧日本軍が朝鮮人の拷問に使い、後に韓国人医師が引き取ってからも精神病棟として虐待が行われたというガチガチにヤバい本物の恐怖スポット。なのだけど、映画はドローンも使いつつ丁寧にPOVを使いこなしていく(でもドローンは恐怖演出には活かされない)、器用な技巧のお披露目回みたいなところがあって、『呪われの橋』の後に見ると何か話にもアクセントが欲しかった。

 でも「そこに立ってる」「振り向くたびに近づいて来る」は定番ながら怖い。

 日本軍兵士の幽霊が襲ってきて生体解剖されちゃう(『TATARI』みたいな)くらいの攻めた内容を期待していなかったと言えば嘘になる。舞台がコンジアムである意味が弱いんですよね。或いはブラッド・アンダーソン『セッション9』のような味わいに振る方向もあった。

 

『灰とダイアモンド』

【採点】A

【監督】アンジェイ・ワイダ

【制作国/年】ポーランド/1958年

【概要】ドイツ降伏直後のポーランド。権力を握るソ連派の労働党にダメージを与えるべく、抵抗組織の構成員マチェックとアンドルゼイは党地区委員長シェーツカの暗殺を実行。しかし勘違いで別人を殺してしまう。次なるチャンスは終戦祝いのパーティ。マチェックはそこでクリスチナと運命の恋に落ちながら、シェーツカ暗殺の隙を窺う。

【感想】

 子供の頃、NHKで放送されたのをVHSに録画したはいいが画面がざらざら過ぎるし全然わからないしで脱落した映画。改めて観てみたら冒頭のシーンからして全く記憶と内容が違った! 理解不能過ぎてやたら「大きな映画」だと思い込んでしまったんだな。実際はほぼ一夜のパーティーで、酔っ払いたちの介入でまるで計画がうまく運ばないスリルとユーモアが良い塩梅。シェーツカの悲哀(検閲逃れの目眩まし要素でもあるのだが)もマチェック達も、ワルシャワ蜂起後であるという前提が結構大事。

 最初に暗殺を失敗した時点で全ては決まっていたような虚脱感と、だからこそ燃える恋と花火が儚く胸に残る。

 

バーニング・オーシャン

【採点】B

【監督】ピーター・バーグ

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】メキシコ湾にある石油掘削施設「ディープウォーターホライゾン(原題。格好イイのでままが良かった)」で大爆発が起こり、百名以上の従業員が閉じ込められた実話の映画化。ピーター・バーグ×マーク・ウォルバーグの量産体制の中で生まれた一本。

【感想】

 ただ事故に向けて淡々と話は進み、事故が起きたらほぼ人間の活躍の場はなく、ひたすら大火に翻弄されるのみ。この「どうしようもない事態をただ見つめる」という形式が、『オンリー・ザ・ブレイブ』と本作によって生まれた新たなパニック映画の潮流となるのかも知れない。どちらの作品も無力感がハンパない。そして現にその被害に巻き込まれた人たちがいる、という事実だけが胸に爪痕を残す。それでいい。『オンリー~』に比べると若干エンタメ色が強いので、見易くはある。あちらは今も振り返ると胸が痛いし辛いので……。

 

『チョコレートドーナツ』

【採点】B

【監督】トラヴィス・ファイン

【制作国/年】アメリカ/2012年

【概要】1979年、カリフォルニア。ドラァグ・クィーンのルディは検事局に勤めるポールと恋に落ちる。時同じくして、ルディの隣人の薬物中毒であるシングルマザーがダウン症の息子マルコを置いて失踪する。ルディはマルコを可愛がり育ててやれるのは自分だけだと、ポールの力を借りてマルコの養育権を獲得しようとする。3人で過ごす幸せな日々は、やがて法の力で引き裂かれ……。

【感想】

 ハートウォーミングな名作と認識していたので、鑑賞後感のいたたまれなさに呆然としてしまった。言ってよ! 油断してたわ! ルディを演じるアラン・カミングの、最初から全てを知ってそれでも目の前の子供を救うために全力をベットすると決めた力強い存在感が知らず勇気を与えてくれる。「幸福な日々」をルディの歌で流す手法は映画をスマートにするが、そこをもうちょっと見せて欲しかった気もする。

 

『クリスティーン』

【採点】B

【監督】ジョン・カーペンター

【制作国/年】アメリカ/1983年

【概要】キングの同名小説を、発売とほぼ同時に全編ほとんどカーペンターによるオリジナルアレンジで脚色し、急ピッチで撮影されたというB級映画。過保護な母親の下で育つ冴えないイジメられっ子のアーニーが、曰く付きの車クリスティーンと出会い、改修していく中で見る間に自信を手に入れ、そしてアーニーの気に喰わぬ者たちが謎の死を遂げていく。

【感想】

 「B級映画」という字面にこれほどピッタリな作品もなく、主役は潰れたり綺麗になったりまた潰れたりロックナンバーの数々を流したりする車、プリムス・フューリー。一方で「お母さんが僕にかまうのは、自分が年だと認めたくないからだ!」とせめての反発を見せたアーニーのみじめで儚い栄光のひととき、ヒロインよりもアーニーを大事に思ってそうな親友デニスの奮闘も、雑然と描かれてるのにやけに印象に残る。

 素直に車の復元シーンで驚いてしまったのだけど、逆再生?

 

スマホを落としただけなのに

【採点】

【監督】中田秀夫

【制作国/年】日本/2018年

【概要】ある日、だらしのないサラリーマン・富田がスマホをタクシーに落としたことから、富田の恋人・麻美のもとにSNSを通じた不審なコンタクトが続く。麻美は富田の先輩・小柳からのしつこい誘いかとウンザリ。一方、刑事・毒島と加賀谷は連続女性殺害事件を追っていた。そして毒島たちの追う、黒髪の美しい女ばかり好んで惨殺するその「男」は、拾ったスマホの画像フォルダに写る麻美の姿にただならぬ興味を覚え…

【感想】

 もっと北川景子が犯人に追われ右往左往する話かと思いきや意外と本筋が錯綜して何を追っているのか分かり辛く……とかいうレベルじゃなく演出がいちいちダサい……けど、普段映画を見ない層にとってこれは立派にデートムービーとして機能するだろうな、という納得感もあった。

 真相はちゃんと面白く、予告で抱いた印象とは全然異なる2つの「メロドラマ」が後半発動している様は中田秀夫の面目躍如で、『劇場霊』ほど暗澹たる気持ちにはならずに済む。

 

『FLU 運命の36時間』

【採点】A

【監督】キム・ソンス

【制作国/年】韓国/2013年

【概要】救急隊員のジグは、ある日とある事故に巻き込まれた研究者のイネ、彼女の娘ミルと出会う.少しずつ近付きつつある二人の仲。そんな折、彼らの暮らす町で新型鳥インフルエンザが持ち込まれ、瞬く間に辺りは地獄絵図と化す。ミルを救おうとするジグ、研究を進めるイネ。事態は最悪に最悪を重ねて壮絶な様相を帯びていく……。

【感想】

 こんなことになる7年前とは言え、少なくとも『コンテイジョン』の後ではあるのにパンデミックによるパニックを極限まで煽る過剰なエンタメ精神が凄い。ハリウッドでも観たことのない絵を見せてやるという心意気。その前景にベタなロマンスを置いてあるので一応安心感も担保している辺りが巧み、というかキム・ソンス監督は根本的にベタが好きなんだろう。

 軍人役のマ・ドンソクが今と違いガチの悪役で新鮮。そしてあまりに気持ちいいラストショットからの、エンドロールの最初の一文でこんなに納得のいくメッセージは無い。ロケ地の住人たちへの謝辞。

 

アウト・オブ・サイト

【採点】B

【監督】スティーブン・ソダーバーグ

【制作国/年】

【概要】プロの銀行強盗ジャックは相棒の力を借りてフロリダ刑務所からの脱走を図るが、道中で連邦保安官のカレンと遭遇してしまう。なんとかカレンを拘束し脱走に成功するが、ジャックとカレンはお互いのことが妙に気になっていた。やがてジャックは刑務所で知り合った「スヌーピー」なる男との問題に巻き込まれ、カレンは再びジャックを追いかける。

【感想】

 理由は言えないけど、同じエルモア・レナード原作のタランティーノジャッキー・ブラウン』を絶対に事前に見ておくこと。脚本は『クイーンズ・ギャンビット』のスコット・フランク。ソダーバーグの軽さ(たぶん観客にはわからないところで色々な拘りは発揮してるんだろうが結果的に軽くなるいつもの塩梅)とエルモア・レナードの会話劇が『ジャッキー・ブラウン』とはまた違ったハマり方をしていて楽しい。

 

スカイライン ー奪還ー』

【採点】C

【監督】リアム・オドネル

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】低予算インディーズ系SF映画として話題となった『スカイライン ー征服ー』が三部作として返ってきた、7年ぶりの続編。監督は前作のストラウス兄弟からバトンタッチ。宇宙人の襲来。なすすべなく攫われ、脳みそを吸われていく人類。それに立ち向かう父子と仲間たちの道中を追う。

【感想】 

 前作はインディーズ系で凄いねって話だったのに監督代わっちゃったらあまり感慨ないし、前作の語り直しみたいな展開で半分使ってしまうので退屈なのだけど、前作のラストの続きとも言うべき人類の逆襲にまで踏み込むので三作目には期待。『ザ・レイド』の二人がベトナムの戦士たちとして後半に登場。

「もうこんなシェルターを作ったのかい? 凄いな」

「お前ら(アメリカ)の爆撃から逃れる時に作られたんだよ」

 

『マザーレス・ブルックリン』

【採点】A

【監督】エドワート・ノートン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】エドワート・ノートンが監督・脚本・製作・主演を務めた念願の作品。1957年のニューヨーク。孤児院で育ったチック症持ちのライオネルは、自分を拾い上げたフランクの探偵事務所で、やはり孤児院出身である他の探偵たちと仕事をしていた。しかし、自分が後を追っていた仕事中にフランクが殺されてしまう。真相を探るライオネルは、ニューヨーク行政と黒人地区の関係に鍵があると睨み……?

【感想】 

 原作は現代が舞台だというが、エドノートンは舞台を50年代のニューヨークへ変更。そのことによって「今日に続くあらゆる腐敗や差別が育つ根っこ」を描き出す野心作に。と同時に、チック症の男が自分でも制御できない癖と共に生き、人並みに探偵としての捜査を行う困難さをどこか愛おしく紡ぐ。なかなか愛着の沸く一本。

 

スカイスクレイパー

【採点】B

【監督】ローソン・マーシャル・サーバー

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】香港に超高層ビル「ザ・パール」が建設された。10年前、任務の失敗で片足を失った元FBIのソーヤーは、転職してセキュリティ監査として家族とともにイチ早くこのザ・パール高層階で暮らしていた。昔の仲間と再会していたフェリーでテロリストの襲撃に遭い、帰宅するとザ・パールはテロリストに占拠されている。人質は家族。ソーヤーは単身ビルに乗り込んでいく。

【感想】

 監督と主演ドウェイン・ジョンソンのタッグからなる前作『セントラル・インテリジェンス』が惜しいところで野暮ったく間延びしてしまったので、今作はスマートに無駄なく構造的アドベンチャーに挑戦。その無駄のなさゆえに、面白いけど物足りなく感じてしまった。『ダイ・ハード』は無駄なき傑作と言われているけど、実際は主犯格以外のテロリストと戦う全てが無駄で、無駄を最高に面白い必然として組み込んでるからこそ傑作なのだ。

 

『(秘)色情めす市場』

【採点】A

【監督】田中登

【制作国/年】

【概要】にっかつロマンポルノ伝説の名画と呼ばれる作品。娼婦の母よねから路上で産み落とされた娼婦トメ。コンドームさえ洗って使い回し、セックスしてなきゃすぐ酒を呷る世界で、トメはよりによって商売敵として母に邪魔をされながら、障害者の弟の面倒を見、したたかに生き抜こうとする。

【感想】

 大阪・釜ヶ崎のドヤ街、所謂「あいりん地区」で暮らす人々の地べたを這うような生活を生々しく、奇妙なバイタリティとして活写。実際に現地でカメラを回している生々しさと、モノクロ効果による突き放したような距離感とが、ラストで瞬時に反転し、また戻っていく時、「そこで生きている人たちが確かにいる」という実感が残される。相当数の自分が見てきた邦画が本作のエッセンスをパクr…影響受けてることがわかって「繋がっていく」快感もあった。

 やはり同地を描いた大島渚の傑作『太陽の墓場』からのクロニクルとして見ても面白く、今の釜ヶ崎を描く邦画が生まれたら見てみたい。

 

『グッドライアー 偽りのゲーム』

【採点】B

【監督】ビル・コンドン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】マッチングアプリで知り合った高齢カップルのロイとベティ。だがロイはベテランの詐欺師であった。血腥い手で新たな仕事を終えたロイは、ベティとの楽しい時間に若干の未練を覚えつつもベティからすべて盗み出す算段を整える。そして二人はヨーロッパ旅行へ出かけるが……?

【感想】

 ヘレン・ミレンのターンが一向に始まらないので、どう考えても「それは来る」とわかってる逆転劇をラストまで待ち続ける。それはなんとも不毛な時間に思えて、それでもイアン・マッケランとヘレンの芝居合戦でつい見てしまう。歴史を絡めてきたオチも感心半分「後出しじゃん……」という脱力感半分。二段階で別のベクトルで訪れる終幕の切れはなかなか快感。

 

ジェミニマン』

【採点】C

【監督】アン・リー

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】DIA(アメリカ国防情報局)に雇われるベテラン凄腕スナイパー・ヘンリーだが、とある一件を機に引退を決意。だが自分が最後に殺害した人物から知らされていた情報と違うと告げられ、やがて謎の暗殺者につけ狙われる。とうとう敵と対面するが、その正体はまるで若き日の自分に瓜二つで……。

【感想】

 一作毎にジャンルを変えるも、独自の時間間隔を紡ぎ上げるアン・リーの作家性は変わらず。本作も前半は地味ながら個人的にとても心地良い。特にバイクチェイスは間違いなく素晴らしかった。問題は肝心のジェミニマンが登場してからの、「より地味になった『ハルク』の焼き増し」感で、流石に脚本がハリウッドに出回ってから20年以上というブランクは大き過ぎたのでは……。その頃からハリウッドにいたアン・リーとウィル・スミスでの映画化というのは感慨がある。

 「20fpsのハイフレームレート、3Dデジタル撮影され、STEREOTEC 3D リグを装着したARRI Alexaカメラが使用され」たそうで、配信でせこせこ見たところでしょうがないのだけど、映画なんかどれも自宅で観たところでしょうがないというのはあります。映画館行け。

 

『タラデガナイト オーバルの狼』

【採点】

【監督】アダム・マッケイ

【制作国/年】アメリカ/2006年

【概要】ジャド・アパトー組初期全盛期のコメディの一つ。いい加減な父親の教育のせいでスピードと「一位」にとりつかれた男リッチー。いつも支えてくれる親友キャルをないがしろにしながら人気カーレーサーになるが、調子に乗って自堕落な日々へ。そこへF1から強力なフランス人レーサーが現れ、さらにリッチーは大事故を起こしてしまう。

【感想】

 ウィル・フェレル、ジョン・C・ライリー、サシャ・バロン・コーエンがボケ倒すも、その合間合間のカーレース周りの群衆、熱狂、レース、クラッシュはホンモノの迫力。実は末端でどんなアドリブをかまそうが話の起承転結もしっかり練られていて、ラストは謎の昂揚感がある。ただ時代を感じるゲイいじりのギャグは無しです。

 昔ニコ動に本作冒頭だけ上がっていて大爆笑した記憶があるので、今ようやくラストまで見れて良かった。あの動画なんだろうと思ったらまだありましたね.吹替え版だ! 字幕版より面白い!

 

アナベル 死霊博物館』

【採点】C

【監督】ゲイリー・ドーベルマン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】『死霊館』ユニバース『アナベル』シリーズ第3弾。ウォーレン夫妻はアナベル人形を自宅の呪いコレクションに納め、除霊と封印を施す。ある日、家を空けることになる夫妻。家に残したのは幼い娘ジュディとしっかり者のベビーシッター・メアリー。そこに遊びに来たメアリーの友人ダニエラが、亡くなった父と再会したいがためにアナベルの呪いを解いてしまい……。

【感想】

 『学校の怪談』みたいだと聞いて楽しみにしていたのに、『学校の怪談』の序盤がずっと続くような抑制された空気。ユニバースで下品なショックシーンが多いタイトルもあったのでその反動なのかも知れないけど(監督はリメイク版『IT』の脚本家なのに)とにかく大人しい。つまんない。言っちゃった、ゴタクはいいや、理屈抜きにつまんない。

 それでいてショックシーンは普通に下品なので抑制した意味もあまり……。

 

 『貞子3D2(2D版)』

【採点】C

【監督】英勉

【制作国/年】日本/2013年

【概要】安藤孝則と鮎川茜が貞子の呪いと戦った5年後。茜の出産した子・凪は孝則の妹・楓子が預かっていた。凪の周囲で不審死が続き、母の自殺を防げなかったトラウマを抱える楓子は負のイメージに囚われる。しきりに凪と遠ざかろうとする孝則。停まらない不審死の連鎖を訝しむ刑事・垣内。凪はこの世にいてもよい子なのか、それとも……?

【感想】

 「映画館で、スマホと連動するギミックを仕込んだ3D映画」をただPCやスマホで暇な時にちょこちょこ見進めただけだったので、俺は本当にこの映画を「見た」と言えるのだろうか……? 

 前半はかなり寒々しいしつまらないのだけど、後半で真相が明らかになってくるとなかなか重層的で、それでいてイマイチ整合性の掴めない展開で結構楽しめる。エヴァ新劇の『Q』のクライマックスと『破』のラストが合わさったような、貞子というガフの扉を開くか開かないかという話が主人公のトラウマと重なっていく。オチはよくわからない。

 

オタクが選ぶ日本語ラップ2020

基本YouTubeでしか日本語ラップに触れない、それも積極的に掘り進めるのでなくホームに表示されたものくらいしか聴かない(見ない)アニオタが選ぶ日本語ラップ2020マイベストになります.苦情は受け付けません.

 

普段ラップ聴かない人にどれか一つくらい持ち帰っていただけたら幸甚です.

 

まず流石にここまで再生回数伸びてる曲を今更推してもしょうがないので除外した曲.でもいいよね.


BUDS MONTAGE / 舐達麻(prod.GREEN ASSASSIN DOLLAR)


Creepy Nuts / かつて天才だった俺たちへ【MV】

 

では順不同で10曲.

 

1.Moment Joon ー TENO HIRA


Moment Joon - TENO HIRA

 

  「数が足りません」ってなんだ 「道がありません」ってなんだ

  いつもの言い訳の代わりに俺はマイクを摑んだ

  君も見せてくれよ こぶし

  スカイツリーじゃなくて君が居るから日本は美しい

 

今に始まった話ではないし、それを殊更取りあげることが本人たちにとって不本意であることは百も承知で、しかしラッパーのルーツの多様さ、全てひっくるめて「日本語ラップ」「ジャパニーズHIPHOP」の地図を描いていく抜けの良さが、このフィジカル面での断絶を余儀なくされる年において非常に解放感を与えてくれたのはこのカルチャーの誇らしい部分でしたが(反面陰謀論や偏見に毒される残念なロートルやイキリ小僧も散見されつつ)、

けれどそんなうわべだけの楽観論に水を差し発破をかけてくるMoment Joonがもっともリアルに感じました.でもMVもっと作って欲しい

 

2.ralph ー Selfish(prod.Double Clapperz)


ralph - Selfish (Prod. Double Clapperz)

 

    日本では無理? まぁ確かに

    言い訳ばかりのお前らじゃ無理でも

    俺ならできるmakeするシーン

    準備してくれよ手のひら返し

 

この曲に出会った時の衝撃.

何より「大言壮語ぶちかまして事実上がっていく過程を見せる」というギャングスタの魅力を今年一番感じさせてくれた人.

 

この三人の並び!


Hideyoshi - Jitsuryoku ft. Leon Fanourakis & ralph (Official Video) [Dir. by Ken Haraki]

 

番外編.ブライアン ー 日本のラッパーって・・・下手じゃね? 真似できない踏み方をみせるぉ


日本のラッパーって・・・ 下手じゃね? 真似できない踏み方を見せるぉ

 

天才的なスキルを見せつつも、バトルでもライブでも音源でもない、今まで誰も同じ土俵で闘っていないからこの動画の主張そのものは的外れもいいところなんですけど、これで多くのラッパーが乗っかってアンサーすることで、家で出来るゲームをありがとう(by言×THEANSWER)が巻き起こって、それはそれは楽しかったのは事実なので今年の一曲(?)であることは間違いない.なんならもっと多くの人に乗って欲しかったですね.

個人的にはこのゲーム、ブライアンに欠けてる音楽的な魅力をdisではなくリスペクトの中で堂々示したブルーミオの圧勝という感想.


Blumio - ブライアンへ

 

3.KennyDoes,テークエム、KOPERU、R-指定、KZ、ふぁんく、KBD、peko ー 梅田ナイトフィーバー'19


KennyDoes,テークエム , KOPERU, R-指定, KZ, ふぁんく, KBD, peko - 梅田ナイトフィーバー’19(prod. peko)

 

   人もまばらなフロア 照らしてたミラーボール

   下手くそなステップでお喋りだった俺達を

   からかったあの子 重なった足跡も

   いつまでも いつまでもずっと ずっとこのまま

 

甘酸っぱい青春ゾンビ.

おもっきりタイトルに「19」って入ってますけどMV自体は今年頭に上がってたし、CreepyNutsのお茶の間進出も嬉しい今年の曲として欠かせず.

晋平太が上げてたメイキング込みでのこの青春感.


KennyDoes,テークエム , KOPERU, R-指定, KZ, ふぁんく, KBD, peko - 梅田ナイトフィーバー’19(prod. peko)【MVメイキング】

J-POP寄りの曲調に輪をかけてベタベタなMVを合わせることで素直に曲を楽しめるのがまた良くて、stillchimiyaから離れたところでスタジオ石制作によるMVがあちこちで(愉快な方向で)炸裂してたのが楽しい一年でした.


般若 / イキそう [Pro. DJ BAKU / Dir. スタジオ石] Official Music Video ℗2020 昭和レコード


NENE - 地獄絵図 feat. NIPPS (Music Video)

 

4.DJ CHARI & DJ TATSUKI - GOKU VIBES feat.Tohji,Elle Teresa,UNEDUCATED KID & Futuristic Swaver


DJ CHARI & DJ TATSUKI - GOKU VIBES feat. Tohji, Elle Teresa, UNEDUCATED KID & Futuristic Swaver

 

   I'm super saiyaaan

   I'm super saiyaaan

   Know my name TJ,call my name TJ

   I'm super saiyaaan

 

これも再生回数結構いってるけれど、個人的にTohjiにだけはハマることはないと思ってたのに笑いながら体揺れてしまったので悔しい一曲.Tohji、動き含めて面白いのでこれもMVの力を感じた一曲ですね.あと後半の韓国人ラッパーのラップが意味わからないのにめっちゃ気持ちよい.

 

5.tofubeats ー RUN REMIX(feat.KREVA & VaVa)


tofubeats - RUN REMIX (feat.KREVA & VaVa)

 

   走らされてる奴らから今日も

   吐き出されてく溜め息まじりのCO2

   大丈夫?

   これは一生ずっと続く終わりの無い勝負

 

今年はトリックスターとしてあちこち顔を出しひっかき回したKREVAZORNの動きを追うのが楽しかったです.

特にRUNは既成曲で、KREVAが参加することで俄然意味が高まるという点でその強さを実感.「ダビデみたいに考える」は普通に間違えたそう.


KREVA 「タンポポ feat. ZORN」MUSIC VIDEO


PUNPEE - 夢追人 feat. KREVA


KREVA 「Fall in Love Again feat. 三浦大知」MUSIC VIDEO

 

6.ZORN / Life Story feat.ILL-BOSSTINO


ZORN / Life Story feat. ILL-BOSSTINO【Official Music Video】

 

   いいかい シナリオを書き上げたらすぐにキックするべきだ

   見様見真似でいいからやってみな

   それだけでした これだけで来た

   何より俺だけってわけじゃなかったからここまで出来た

 

KREVAなら「RUN REMIX」そしてZORNならこの曲.

ZORNのバースが「労働と人生やっていくぞ」になっているのに、BOSSのバースの始まりが「どんな仕事も最後クビ」なのがジワジワきます.

どんな曲のギャングスタ構文も嫁とか子供とか味噌汁とか「生活の話」で落とすZORNのリリックがネタ切れすることなくあらゆる場面で異彩を放って良いスパイスになるし、それを真っ向受け止めて太い「人生」の歌に変えたBOSSも頼もしい.


ZORN/Rep (Remix) ft.MACCHO NORIKIYO


ZORN / Have A Good Time feat. AKLO 【Official Music Video】

 


THA BLUE HERB "バラッドを俺等に"【OFFICIAL MV】

 

7.Awich ー Bad Bad


Awich - Bad Bad (Prod. Chaki Zulu)

 

   この世界の終わりもtogether

   君となら怖くはないから

   you can trust me

   酸いも甘いも見たわ

 

Mステ出演以上にビックリした、『人間発電所』を使ったトラックの心地よさ.今後元ネタに負けないくらいクラシックになってほしい一曲.滅茶苦茶聴いてます.

フィメールラッパーも着実に存在感を増して、また多様化していて、男性ラッパーが軽くネタにする雑なフィメールラップdisがもはや「どこの誰の話?」ってレベルで的外れになってきてますね.


Zoom - valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ


chelmico「Disco (Bad dance doesn't matter)」【Official Music Video】

 

8.PUNPEE ー Wonder Wall feat.5lack


PUNPEE - Wonder Wall feat. 5lack

 

   それでもいつもの様にまたお洒落して 遊び疲れ眠るだろう

   仮に2で割って最高 そうなれなくても

   ふわり 疎遠になるかも 終われない日々のうた

 

年老いた自分が過去を振り返るアルバム『MODERN TIMES』のコンセプトを更に裏打ちするように、家族ヒストリーを音源とMVに仕上げる.それが様になってて格好イイけど既存のどの格好良さにも当てはまらない.別に格好良くなくてすらいい.

兄弟ラッパー共演(というかこの二人は元々一緒のユニットだけど)で堂々家族への感謝を告げる点、ちょっとMummy-DKOHEI JAPANの坂間兄弟が念頭に置かれてたら嬉しい.

 

9.JJJ ー STRAND feat.KEIJU(Prod by KM)


JJJ - STRAND feat. KEIJU (Prod by KM) 【Official Music Video】

 

   deathも有りで繋ぐSTRAND

   大師の門、頭上迫る雷雲19時現在

   駅前に葛藤書き留める

   誰の言葉じゃない、俺が決める

 

もお素直にトラックが良過ぎる.ずっと浸れる.

 

10.STUTS ー Mirrors feat.SUMIN,Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS


STUTS - Mirrors feat. SUMIN, Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS (Official Music Video)

 

   Lemonade 甘く酸っぱい

   それぐらい君を見分けたい

   手に余るほどのemotion ay

   こぼれ落ちるslowmotion

 

これが多分今年一番聴いた曲.

「次は誰と誰が一緒になって曲を出すか」も日本語ラップの醍醐味の一つですが、STUTSとDaichiと鎮座は個人的にこれ以上ないとこありました.

 

別に10曲決めてから書き始めた訳じゃないので、以下は普通に今年ベスト級に好きだけどこぼれた楽曲群.

 

こういうのも有りなんだ! ってなった


(sic)boy,KM - Ghost of You

 

2020年夏の寂しい空気をこんなに凝縮した曲とMVも無い.


FNCY - みんなの夏 (Prod. : grooveman Spot) ZEN-LA-ROCK / G.RINA / 鎮座DOPENESS

 

レジェンドの共演 このくだらなさ


スチャダラパーからのライムスター - Forever Young (Music Video Version)

 

レジェンドの復活 この聴きやすさ


SOUL SCREAM / Love, Peace & Happiness [Official Video]

 

逮捕されても巧いことを言えたら勝ちなのだ


漢 a.k.a. GAMI feat. RYKEY / Period.

 

HIPHOPというより現代アートと称した方がしっくりくる何か


KID FRESINO - No Sun (Official Music Video)

 

笑うしか出来ないし「I REP 実家」はパンチライン


般若 / SORIMACHI [Pro. CHIVA from BUZZER BEATS / Dir. TOMOYA EGAWA] Official Music Video ℗2020 昭和レコード

 

あと唾奇、BIM、kZm、¥ellow Bucks、vividvoooy、田我流、環ROY、RAU DEF、OZworld、LEX、JinDogg、BAD HOP、NORIKIYO、ANARCHYとかとか聴きました.

浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでる自覚は抜けないけれど、これ以上掘るのも正直面倒臭いので、これからもイイ感じに気楽に遊んでいきます.