第三の映画の採点

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Twitterを辿るのやや面倒なので、鑑賞直後の感想をまとめて残しておきたくて 備忘録として書き始めたシリーズでしたが、今回前半の感想がまとめて消えてしまって、鑑賞直後の感想を取り戻そうと取り繕って書き直しています、

 

『響 ーHIBIKIー』

【採点】

【監督】月川翔

【制作国/年】日本/2018年

【概要】小説誌編集部に届いた、謎の作家「鮎喰響」の手による天才的な小説。編集者・花井ふみは人気小説家を祖父に持つ女子高生・凛夏を介して響との遭遇を果たすが、立ちふさがる障害に平気で暴力を振るう唯我独尊少女・響はコントロール不能な存在で……。

【感想】

 絶対的長所である響というキャラを立て過ぎるあまりに多くの短所も内在してしまったアンバランスな原作を、おいしいところだけ切り取って響爆発のサスペンスで引っ張り、話のピークで綺麗に切り上げる。完全に実写化の大勝利。初めて作品を見た月川監督、カメラワークの愉快さに留まらず、平手友梨奈という飛び道具を活かすために、むしろ助演陣の魅力に力を注いでいる演出も心憎い。

 

『A GHOST STORY』

【採点】

【監督】デヴィッド・ロウリー

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】ある夫婦が暮らしている。旦那が事故で死亡する。旦那の魂は、シーツをかぶって目の部分に穴の開いた簡易な幽霊となって、家に留まる。やがて膨大な月日が、物言わぬ哀しげな幽霊の前を通り過ぎていく。

【感想】

 あまりに評判が高く、その監督の作品が好きなことも既に判っていて、好みと合致しそうな作品だったばかりに見るタイミングが遅れに遅れ、結果いざ鑑賞しても「なるほどねぇ」止まりになってしまう。そんな経験ありませんか。僕はあります。『アンダー・ザ・シルバーレイク』と本作です。ただ『アンダー~』は映画史には残らないと思うけど、本作は残ると思う。

 

『花に嵐』

【採点】

【監督】岩切一空

【制作国/年】日本/2017年

【概要】大学に入り、映画研究サークルに入部しようとした「僕」は、いきなり「カメラ」を渡され、自分なりに回すよう先輩に命じられる。何も説明されないままカメラを回す僕は、次第に画面の隅に映り込むとある少女が気になり……。

【感想】

 監督自身が露悪的な被写体となる白石晃士イズムのモキュメンタリーで大学サークルミステリー を描きながら、そこいらのメジャー邦画より遥かにクリアな映像と確信犯でトリッキーなカメラワーク、失敗気味だけどMGS的なステルスゲーム要素、ついでに無名ながら可愛い女優陣(監督マジで役得なんだよな……)と目に飽きがこないエンタメ度の高さ。あまりに調子に乗りすぎてエンドロール後のネタは蛇足。

 

Ryuichi Sakamoto:CODA』

【採点】

【監督】スティーヴン・ノムラ・シブル

【制作国/年】アメリカ・日本/2017年

【概要】坂本龍一の5年間を追うドキュメント。社会問題へのコミットやガンの闘病、世界的な映画への劇伴作りと、個人的な新作アルバムへ込めた実験性の模索などの様が綴られる。

【感想】

 主題が分かり辛いのは難点だが、説明しないのは美点だろう。前半、坂本が『惑星ソラリス』を鑑賞しながら、タルコフスキーの映画の自然音は実は調整されきった一枚のアルバムのようである、彼のようなアルバムを作りたいと野心を零す。そして自然の音を集め始め、映画全体が人生を音楽に集約するような音像を残していく。

 

L.A.ギャングストーリー

【採点】

【監督】ルーベン・フライシャー

【制作国/年】アメリカ/2013年

【概要】1940年代、ミッキー・コーエン率いるギャングに支配されたL.Aで、ジョン・オマラ巡査部長は警察組織にも内密でギャング壊滅の為のチームを結成する。暴力VS暴力、戦いの行方を豪華キャストで綴る。

【感想】

 ルーベン・フライシャー監督、天然で無垢なのか意図的に無垢を装っているのかギリギリのラインを渡ってきたこの人らしく、まるで気付かないような素振りであまりにも堂々と『アンタッチャブルごっこに興じ、不正と巨悪に真っ向挑む男たちを讃える。手放しで楽しいタイプの作品。豪華キャストを若干持てあましてる印象も。

 

ドラゴン危機一発

【採点】E

【監督】ロー・ウェイ

【制作国/年】イギリス領香港/1971年

【概要】親族を頼ってタイの製氷工場まで訪れたチェン。しかし、腐敗した工場長らは横領に気付いたチェンの親族を次々殺害していく。チェンの怒りの導火線に火が点くまでは、かなり長い!

【感想】

 ブルース・リー伝説の一本とは言え、現場の混乱が続き監督も定まらず時代設定さえ統一出来なかったという逸話もあるだけあって、いくらなんでも映画としての形を成していないように思う。見え見えのハニートラップに気付かず綺麗にひっかかる流れは逆に初めて見たので、滅茶苦茶面白かった。

 

死亡遊戯

【採点】

【監督】ロバート・クローズ/ブルース・リー(ノンクレジット)/サモ・ハン・キンポ-(ノンクレジット)

【制作国/年】イギリス領香港・アメリカ/1978年

【概要】トラック・スーツ姿の男が五重の塔を登り、一階ごとに敵を倒していく。この強烈なクライマックスだけ監督してブルース・リーが亡くなった。後を継ぐ男たちがなんとか一本の映画に仕上げたのが本作。

【感想】

 この無茶な企画にもかかわらず『ドラゴン危機一発』より余ほどバランスが取れて見えるのはゴールが見えているからなのか。しかし結果として、あたかもブルース・リーの死はウソであったかのように見えるロマンチックな錯覚が。

 

『蒼き鋼のアルペジオ ーアルス・ノヴァーDC』

【採点】

【監督】岸誠二

【制作国/年】日本/2015年

【概要】TVアニメ劇場版二部作の前篇。こちらはTVシリーズの総集編がメインとなる。地球温暖化の影響で陸地をほぼ失った人類の前に、旧大戦の軍艦の姿をした「霧の艦隊」が出現。少女の姿にも代わる彼女らの一人・イオナは人類の側につき、元海軍士官候補生・千早群像らと共に霧の艦隊に戦いを挑んでいく。

【感想】

 総集編部分をかなり手早くまとめて、オリジナル展開をスタートさせ、ここから本格的に新しい敵との戦いが…という部分まで。TVシリーズの時点で脱落している身なので面白がるにも限界はあるけど、サービス精神たっぷりなのだろうなとは伝わってくる。

 

『蒼き鋼のアルペジオ ーアルス・ノヴァーCadenza』

【採点】

【監督】岸誠二

【制作国/年】日本/2015年

【概要】霧の艦隊総旗艦代理としてメンタルモデル・ムサシが全人類に宣戦布告する。かつて慕っていた群像の父・翔像が軍人に殺された恨みを人類に向けているのだ。イオナと群像、そして戦いの中で増えていった仲間たちはムサシを止められるのか……。

【感想】

 こちらは完全新作。相変わらずお話にはノレないまま、でもバトル演出はそこそこ楽しめた。しかしクールな原作の印象が最後まで結びつかないアニメだ。声優陣がほぼアイドルマスターシンデレラガールズで声を聴く楽しさは〇。

 

『チャーリング・クロス街84番地』

【採点】

【監督】デヴィッド・ジョーンズ

【制作国/年】イギリス・アメリカ/1987年

【概要】第二次世界大戦後。NY在住の口うるさい女流作家が、ロンドン・チャーリングクロス街84番地にある古書店稀覯本を注文したことを機に、店主ら古書店の人々と文通を交わすことになる。いつかその店に足を運びたいと願いながら、夢は夢のまま時間が過ぎて……。 

【感想】

 往復書簡形式だという原作に忠実なのか、ドラマ的な波はなくひたすら手紙のやりとり、近況報告が続く不思議な構成の映画。でもその顛末のほろ苦さは冒頭で提示されている為、口の悪い女作家が文通を楽しむ様が儚く愛おしい。アン・バンクロフトの名演.そして若い(といっても老境にさしかかりかけてる)アンソニー・ホプキンス

 

関ヶ原

【採点】

【監督】原田眞人

【制作国/年】日本/2017年

【概要】豊臣秀吉が死に、五大老筆頭徳川家康が本性と野心を露わにした。今こそ理想の世を成す為、石田三成は名将・島左近、盟友・大谷刑部らと共に決起する。「不義が正義に勝ってはなりません!」。その頃、小早川秀秋が辺りをうろちょろしていた。

【感想】

 原田作品いつも感想同じだけど、「台詞が聞き取れない事を除けば面白い」ので誰かなんとか監督を言いくるめられないものか。もっと役名テロップ入れて良かった気がするな。伊賀忍者の暗躍を取り入れることで女優陣を単なるお飾りにしなかった采配は賢明。大谷刑部の見た目がひたすら格好イイ。クライマックスが弱いのは史実のせい。

 

『おんなのこきらい』

【採点】D

【監督】加藤綾佳

【制作国/年】日本/2015年

【概要】「可愛い」にとりつかれた拒食症OLキリコの、かなわぬ恋と新たな出会いを、音楽ユニットふぇのたすが劇中世界に現われ演奏し寄り添う姿も込みで可愛く綴っていく。主演は森川葵

【感想】

 いや、今時ただ男に媚びるためだけにこれだけの「可愛い」を収集してる女の子一般的じゃないでしょ……普通、自己表現だと思うんだけど。主人公の人物像が明解なようで、実は偏見に基づいたふわっとしたものになってる。ポップに始めながら、終盤長回しで辛気くさく「本音らしきもの」を吐露する流れも安易過ぎる。森川葵が見事なキャスティングだけに、勿体なかった。

 日本のインディーシーン、岡崎京子の漫画で恋愛観が停止したままになってる気がするのですが。

 

『葛城事件』

【採点】

【監督】赤堀雅秋

【制作国/年】日本/2016年

【概要】次男が無差別殺人を犯した葛城家。絶対君主的な振舞で家族を抑圧し続けた父親を中心に、死刑制度反対を訴え塀の中の次男と結婚すると宣言する女弁護士を通して、葛城家の過去と現在が浮かび上がっていく。

【感想】

 地獄エンターテイメント。赤堀雅秋の人間観察眼がこれでもかってくらい人間の嫌な部分、直視したくない部分をえぐり出していく。ただ面白さ(と言ってよければ)がシーン単位で完結して、構成としては存在している映画全体のうねりに繋がっていかない、最近の邦画にありがちな物足りなさが少しあった。やはりどこか演劇的。

 

クレイジー・リッチ!

【採点】

【監督】ジョン・M・チュウ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】ハリウッドメジャーでありながらアジア人キャストで固め、NETFLIXからの誘惑も拒み、全米興行収入第一位を成し遂げた記念碑的作品。シンガポール華僑の息子と交際するニューヨーカーで中国系アメリカ人レイチェル・チュウが、シンガポールでクレイジーな金持ちたちとのカルチャーギャップに遭遇する。

【感想】

 その実績は讃えられるべきだけど、本編の半分ただ色んな人に出会っていくだけの単調な展開、決して巧いとは言えないし、アジア映画のロマコメの水準からしても微妙な出来なのに、これでハリウッドで絶賛されてしまう事がむしろ哀しいというか、「ハリウッドの中のアジア人」がやはり浮いた存在であることの証左のようだった。

 

『フェイシズ』

【採点】A

【監督】ジョン・カサヴェテス

【制作国/年】アメリカ/1968年

【概要】ジョン・カサヴェテスが私財を投げ打って作った映画。崩壊を迎える夫婦の36時間の出来事を描く。娼婦役の監督夫人ジーナ・ローランズは勿論、それ以上に重要な妻役でロバート・アルトマンの秘書リン・カーリンが熱演。

【感想】

 『オープニング・ナイト』は若干胃もたれしてしまったのだけど、本作は構成が明快で見やすい。役者の生っぽさ全開(それでいて表面的でない、というのはとても難しい)の姿を執拗に捉えるようで、狙い済ましたショットの挟み方、編集のメリハリがとにかく巧いんだなというのをようやく理解出来たかも。あの強烈な「咳」。

 

ご注文はうさぎですか?? ~Dear My Sister~』

【採点】C

【監督】橋本裕之

【制作国/年】日本/2017年

【概要】「木組みの家と石畳街」で喫茶ラビットハウスに住み込みで働いていたココアは、夏休みに母と姉の待つ地元のパン屋へ帰郷する。一方、残されたチノは過去のことを振り返っていた。花火大会の日、みんなは再び集まれるかな……?

【感想】

 TVシリーズは世界観とリアリティラインが掴めないもどかしさと相俟って「何回見ても寝てしまう」因縁の作品なので、全部すっ飛ばしていきなり劇場版見ました。副監督にかおり監督も投入されて、完璧な可愛いを表現する豊かなアニメ世界はやはり凄い。

 『のんのんびより』の劇場版もそうだったけど、折角どんなに本編が起伏に乏しいゆるふわでも最後にそれなりの感慨をもたらせられる構成を用意してあるので、どうせならもっと中身も膨らませて長尺であれこれやればいいのになぁという勿体なさを少し感じる.『映画 けいおん!』の冒険に続いてくれないものかな……。

 

『CLIMAX クライマックス』

【採点】A

【監督】ギャスパー・ノエ

【制作国/年】ベルギー・フランス/2018年

【概要】1996年。舞踏団に参加した若きダンサーたちが、冬の雪山の合宿所に集まる。加熱する超人的なダンス。打ち明けられるセンシティブな思い。そして、みんなが食べるサングリアに密かに混入していたLSD。やがて一同に薬が効き始め、地獄のダンスパーティーが始まる。

【感想】

 一見やったもん勝ちのアイデアを好き勝手やっているようで、だったらもっと(これ以上に)露悪的にも出来たのに、終盤ののたくりうつようなカメラワークは実は観客の悪趣味とも一線を引いている。映画そのものが「人体の逆流」であった『アレックス』を例に出すまでもなく、そのカメラの導線にも意味はあると思うのだが。

 なので何を見せられているのか本当にわからない。わかってる人少ないんじゃない?

 

『ミッドナイト・ラン』

【採点】A

【監督】マーティン・ブレスト

【制作国/年】アメリカ/1988年

【概要】腐敗した警察にいやけがさし現代の賞金稼ぎとして生きるロバート・デ・ニーロが、正義感から賞金首となってしまった会計士の男を目的地まで届けるため、FBI、賞金稼ぎ、ギャング、あらゆる妨害に追跡されながらアメリカ横断逃避行の旅に出る。

【感想】

 いかにも80年代っぽい緩やかなノリでありながら、やはりいかにも80年代っぽい丁寧でウェルメイドな脚本。クライマックスの一斉問題解決の「わっ」となる瞬間やラストの幕引き等、色々と自分が見てきたハリウッド映画に影響与えてるんじゃないかと感じて、初見なのに他人の気がしない作品。

 

『灼熱の魂』

【採点】

【監督】ドゥニ・ヴィルヌーヴ

【制作国/年】カナダ・フランス/2010年

【概要】カナダで暮らす双子の姉弟は、母の遺言状を別々に渡され、それぞれ「兄」と「父」に渡すよう告げられる。彼らは難民の子供であった。そして母ナワルの物語が、内戦真っ只中のレバノンから始まる。そこに隠されていた想像を絶する真実とは。

【感想】

 大作作家になる以前のドゥニ印の、なんでもない場面でも欠かさない緊張感に振り回されていると、実はラストの意味がイマイチピンとこなかった。もしかして頭がそれを理解したくなかったのかも知れない。それほど「うへぇ」となるオチなのでかなり覚悟して見て欲しいのだけど、一方に難民たちと共存する現実があり、そこにレディオヘッドが平然と混入してくるカナダの成熟も知れる。

 

銀魂

【採点】C

【監督】福田雄一

【製作国/年】日本/2017年

【概要】空知和秋の人気ギャグ漫画を実写化。宇宙人=天人の襲撃を受け、過去と未来が同居するSF都市・江戸を舞台に、よろず屋三人組含むお馴染みの面々がドタバタギャグを繰り広げ、暗躍する辻斬りの背後に潜む陰謀に立ち向かう。

【感想】

 「銀魂を実写映画化するにあたってしなくてはいけない100のこと」があるとして、そのすべてに手を伸ばし、どれも10点満点中3点くらい、といった印象。100のうち30くらいにしか手を伸ばさない実写化が多い中で、それは美点だと思う。

 努力と工夫の跡は目立つも、しかしその工夫が足りていない歯痒さ。せめて予算が5倍あれば見栄えもよく、ギャグとの緩急も決まっただろうに(でも寒い効果音が台無しにしてるからどうかな)。1人除いて役者はみんなハマってる。菅田将暉は凄い.肝心の小栗旬は何言ってるか聞こえないし演技に照れがあってダメでした。

 例えば、なんでもない場面でも江戸の遠景にずっと都市部をCGで合成しておくとかだけでも免れたチープさはあったのでは。

 真撰組をキチンと紅桜篇でも活躍させている分、アニメ版新訳よりも脚色は良い。