アニメ映画の採点

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「映画の採点」第5弾。

自分で設けたルールを早速破りますが、今回は劇場版アニメ縛り。

数年分見逃した劇場版アニメが溜まっているので、重点的に観て行くぞと。

採点は最近見た劇場版アニメの中で相対化しており、比較的甘め。

今年はあまり劇場でアニメを観れなかったので、心が欲してたのかも知れません。

正直まだまだ未見の劇場版アニメは山積.改めてその制作本数に驚いています。

 

 

ムタフカズ

【採点】A

【監督】ギョーム・"RUN”・ルナール、西見祥示郎

【制作国/年】フランス・日本/2018年

【概要】ギョーム監督の同名バンド・デシネを日仏共同でアニメ映画化。L.A、ギャングと貧困の街ダーク・ミート・シティ(DMC)で生きる孤児のアンジェリーノは、ガイコツのヴィンス、半獣人(コウモリ)のウィリーとダラダラ生きていた。しかし少女ルナに一目ぼれしたその時から謎の集団に追われるようになる。

【感想】

 巧みに3Dと手描きを織り交ぜるSTUDIO4℃世界と木村真二の魅惑の背景美術を舞台にキャラクターが飛び回るバイオレンス・アクション、つまり『鉄コン筋クリート』の系譜。後半勝手に解決していくご都合集団の存在とか脚本は雑ながら、その雑な世界を動き回るアニメの楽しさが全てに勝る。

 西見祥示郎監督のキャリアかなり遡らないと見当たらないのですが、次回作はもっと早く観たい。吹替版では魅力半減なのでフランス語版での観賞推奨。

 

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 絆』

【採点】C

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】TVアニメ『Free!』2期総集編前編兼『ハイ☆スピード』と3期を繋ぐ架け橋。岩鳶高校水泳部三年に上がった遥。真琴や凛が進路を決める中、才能はあっても目標の無い、ただフリーを泳いでいたかっただけの遥は、次第に周囲の期待に押しつぶされてしまう。

【感想】

 3期以降要素が膨れ上がりオモチャ箱化した混沌を知っていると、まだ随分と話が整ってたんだなと懐かしい。好き勝手やってるようで内海紘子監督の統制は行き届いていた事も再確認する。ゆるふわアニメの性別を変えただけでマチズモ的ステレオタイプな男性性を持ち込まない事が新鮮だったFree!ながら、とは言え女の子メインのゆるふわでもシリーズの途中でちょっとした「気づき」の為にわざわざオーストラリアにまで行ったりしないので(その為だけに山田尚子渡航させたりしないので)、やはり面白い過剰さがある。

 

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 約束』

【採点】C

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】TVアニメ『Free!』2期総集編前編兼『ハイ☆スピード』と3期を繋ぐ架け橋。鮫柄学園水泳部部長となった凛。遥たちとの確執や父の死のトラウマを乗り越え、部を取り仕切る日々。再会した旧友・宗介も仲間に加わり岩鳶と切磋琢磨するが、宗介の態度に、そして彼の身体に異変を感じ……?

【感想】

 主人公として動かし辛い遥に比べて、凛視点になると途端に明瞭な青春劇になる。ただ『絆』と比較すると浮いてるのが冒頭と終盤の「文字」演出で、これはあまりに安易なのでやらない方が良いのではないか。京アニのお歴々が演出の遊戯として使っていたギミックを、河浪監督は割りと直球で説明に使ってしまっている点に危惧を感じた。

 

『特別篇 Free! -Take Your Marks-

【採点】B

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】『Free!』新作四編がセットになった、2期と3期を繋ぐオムニバス。

東京に進学することになった遥と真琴の部屋選び。温泉へ行くことになった鮫柄学園のドタバタ。新入部員勧誘の方法を考える渚ら後輩組。そして勘違いから凛と百が水泳勝負に至るまで。

【感想】

 ゆるふわ回だけが平和に続く日常世界を、京アニクオリティの2時間近い新作映像で綴るこの感触、『映画 けいおん!』の衝撃を思い出す。すべてのアニメでこういう特別篇を作って欲しいくらい贅沢な「なにもない」時間。一話だけじゃなく、四話もあるのが嬉しいんですよ。

 

『BURN THE WITCH』

【採点】

【監督】川野達朗

【制作国/年】日本/2020年

【概要】久保帯人が放つ新作にしてBLEACH番外編、連動する映像化プロジェクト第一弾。ドラゴンが息づくロンドン裏世界「リバース・ロンドン」で、自然ドラゴン保護管理機関「ウイング・バインド」で働く魔女、二ニー・スパンコール、そしてニーハこと新橋のえるの騒々しい日常が幕を開ける。

【感想】

 先に原作読んでテンション上げての観賞。前日譚飛ばしてるのでバルゴの説明は不測。アクションはスタジオコロリドの丁寧な作画で盛り上がり、ロンドンの町並みも綺麗。ただ「漫画の丁寧な再現」に留まり、折角のお膳立ての元に映画を作れるのに欲が少なく、「原作読んでた以上の感想」が一切湧きあがらない。漫画表現の映像的な置換というものは必要。それはどのような形であれ、「時間芸術」と呼べるものになるだろう。

 

『薄墨桜 -GARO-』

【採点】

【監督】西村聡

【制作国/年】日本/2018年

【概要】雨宮圭太の特撮フランチャイズGARO】そのTVアニメ第二シリーズ『GARO 紅蓮の月』の劇場版。メインスタッフは一新し、『劇場版TRIGUN -BADLAND RUNBLE-』の西村聡監督×小林靖子脚本タッグが復活。ストーリーは一見でも理解できるよう、TVとの時系列を曖昧にしている点も『TRIGUN』と共通。

【感想】

  平安時代を舞台に、前半は陰陽師モノ、後半まさかの怪獣映画へと変貌を遂げる野心作。『機動警察パトレイバー WⅩⅢ』を思わせるストーリーと、イリス×レギオンな怪獣に変身する巨大樹・薄墨桜のカタストロフィーが平安京で展開する新鮮さ。

 こうあって欲しい劇場版アニメ。

 2018年にして朴璐美ツンデレヒロインに萌える。

 

機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER』

【採点】A

【監督】松尾衛

【制作国/年】日本/2017年

【概要】OVA『サンダーボルト』総集編劇場版第二作。一年戦争終結後、サイコ・ザクを失ったジオン軍のダリルは地球でアッガイ小隊を率い、連邦軍のイオはジオンの関節も利用した新兵器アトラス・ガンダムの試乗を開始。そんなイオの前に趣味の合う快活な女パイロット・ビアンカが現れる。その頃、連邦は連邦を抜けた何者かが開設したらしき謎の宗教組織「南洋同盟」に警戒心を抱いており、ダリル小隊は偵察を開始する。

【感想】

 特に続編のアナウンスも無い「話の途中」という無責任な内容ながら、ひたすら描写が格好良い。MSデザインをフルに活かした戦闘ギミックの数々、そんなギミックすら一瞬で蹴散らされる兵器の暴力性。その危険な戦場をメインキャラが行き来する緊迫感と、次第に複雑な盛り上がりを見せ始める人間関係。そして菊池成孔の多彩な劇伴。サンダーキャットも褒めてた。

 ひたすら格好良いというシンプルな理由のみによって最高.早く続きが観たい!

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.1 罪と罰

【採点】C

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】サイコパスシリーズ、中篇劇場版オムニバス第一弾。2117年、公安の前に暴走車両が突入し、搭乗している精神錯乱を起こした女が何事かを訴える。彼女の素性が潜在犯隔離施設「サンクチュアリ」の心理カウンセラー・夜坂泉だと判明し、常守朱は監視官・霜月三佳に執行官・宜野座と弥生を付けて出向させる。霜月がそこで見た、「サンクチュアリ」が秘匿する事業とは……。

【感想】

 冲方丁不在だとこのテンポに戻ってしまうのか。人格変わったかな、逆にサイコパスかなというくらい霜月美佳が正義感を発揮して活躍。俺が見たかった霜月はもっと「個」としてシビュラのファシズムに同調し、次第に中枢へ近付いていく、朱にとっての負の合わせ鏡であって欲しかった……というかその為の2期だったんじゃないのか……という不満はともかく、中篇アクションとして一定の満足度。

 個人的願望とは違って、意外と主役ポジションでも霜月は輝く。

 サンクチュアリで秘匿されていた「それ」について突っ込んだ話を観たかった。

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.2 First Guardian』

【採点】B

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】2112年夏、沖縄。まだ国防軍に所属していた須郷徹平は、優秀なドローンパイロット「First Guardian」として特殊任務に参加していた。数ヶ月後、東京の国防省無人ドローンが襲撃し、多数の役人・軍人を殺害。刑事課から訪れた監視官・青柳璃彩と執行官・征陸智己は国防省の妨害をかわしつつ介入し、須郷の取り調べを開始する。事件の背後に、軍事作戦中に死んだ筈の須郷の元上司・大友逸樹の影がチラつき……。

【感想】

 過去篇にすることで死亡キャラ達の同窓会的な雰囲気に。アニメ1期では設定上だけ伝説の刑事でひたすら無能にしか見えなかった征陸さんがようやっと格好良い姿や渋みを見せてくれる。ただ「これが半分の上映時間で『攻殻SAC』の中の一話だったら傑作回だったんだろうな」となる、丁寧と言えば聞こえはいいが鈍重な演出が続き、結果真相は常に先読み出来てわかってしまう。作画の高品質が裏目に。

 世評はどうあれ、やはり2期のスピーディーさは大事だった。Case.1に続き、ドミネーターが黄門様の印籠みたいな良い仕事。

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に

【採点】A

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】咬嚙慎也は今もアジアを放浪していた。私怨の復讐を果たした身であり、日本に帰れば死刑だろう。やがてチベットらしき国で襲撃されていた難民バスを助け、孤児のテンジンと出会う。日本棄民の娘であるテンジンは両親を殺したゲリラへの復讐を誓い咬嚙に戦いの作法を習いたがるが、咬嚙は人殺しに反対。次第に打ち解けていく二人だったが、この国で行われている和平交渉の背後にある陰謀に気がついてしまう。

【感想】

 舞台は日本じゃないし、ドミネーターも出てこない。つまり今までで一番コパスらしさから離れながら、今までで一番オリジナリティを獲得した一篇(つまりコパスってオリジナリティの部分にオリジナリティが欠けるシリーズだったと思うんですよね)。

 即席のチーム物でもあって、中篇ながら先の長篇劇場版よりもクライマックスのアクションの満足度は遥かに高い。何より、初めて咬嚙が魅力的な存在に思えたのが個人的に大きい。征陸さん同様、1期だとすごく思わせぶりなのに無能だったから……。

 

『あした世界が終わるとしても』

【採点】

【監督】櫻木優平

【制作国/年】日本/2019年

【概要】クラフターによるオリジナルCGアニメ映画。元となるHuluオリジナル作品があり、キャラや一部バトルシーンは共通しながらも異なる物語とのこと。

 幼い頃母を謎の突然死で失った高校生シンと彼の面倒を見る幼なじみのコトリの前に、シンとそっくりな姿をしたジン、コトリを守ると誓うミコが現れる。この世界は裏側にもう一つの世界があり、最近多発する突然死も裏側の世界の同一人物が処刑されている為なのだという。そして裏世界「日本公国」を支配する公女は、もう一人のコトリで……。

【感想】

 何も知らずに見たので序盤の展開は結構面食らって面白く、必要最低限のキャラで回していく構成も、中盤での主要キャラ死亡もなかなか「おお」となる。それでも「誰に向けて作ってるんだろうこのアニメ……」という冷めた気持ちが消えなかった。なぜアヌシーはこれをコンペに入れたの。

 中盤までは整理されてる気がした構成も、終盤ひたすら萎んでいく。どこがクライマックスだったんだろう。

 

『ニノ国』

【採点】C

【監督】百瀬義行

【制作国/年】日本/2019年

【概要】足が不自由な高校生ユウは、幼なじみのハルとコトナの仲に疎外感を覚えていた。ある日コトナが交通事故に巻き込まれ、救助しようとしたユウとハルは異世界に迷い込んでしまう。そこは現実世界の人間の分身が暮らすファンタジー世界で、コトナにそっくりなアーシャ姫が重い病に冒されており……。

【感想】

 あれ? 『あした世界が終わるとしても』となんか、設定が…

 但し最小要素で描こうとした『あした』と日野社長がやりたい事全部詰め込もうとして例の如く感情の流れはブツ切り、後付け設定が無数に出てくる『ニノ国』だと全然印象が異なる。どちらが正解ということもないが、映画としては後者の方が楽しい。

 どうも倫理的に首をひねってしまうラストを大した考えもなく無邪気にやってる感には嘆息するが、そのアイデア自体は面白いし、聞いてた酷評ほど悪い映画とは思えず。

 

魔法少女リリカルなのは Reflection

【採点】B

【監督】浜名孝行

【制作国/年】日本/2017年

【概要】シリーズ劇場版第三作。惑星エルトリアが死に汚染されつつあった。父の病の進行を防ぐため、少女キリエは遺跡で出会った少女イリスと共に死の病を防ぐ「夜天の書」を手に入れようと地球へ訪れる。地球で「夜天の書」を持つ少女・八神はやてを急襲したキリエとイリスの前に、はやての友達にして魔導師、高町なのはフェイト・テスタロッサが立ちはだかり……。

【感想】

 前後編の前篇ということもあって、とにかくノンブレーキで重量感溢れる戦闘シーンがほぼ全編に渡って展開する、そのボリュームで圧倒。長井龍雪とある科学の超電磁砲』が溜めて溜めて放つあの重力感を、溜めも無しに浴びせられ続けるのに飽きが来ない不思議。

 時に一方的な迫力ある見せ場の乱打を浴びるのも映画の醍醐味で、本作にはそれが詰まってる。初登場時は謂わばDV被害者であったフェイトが、なのはとの絆とはまた別に居場所を見つけたことがサブプロットで描かれて一安心。

 

魔法少女リリカルなのは Detonation

【採点】B

【監督】浜名孝行

【制作国/年】日本/2018年

【概要】シリーズ劇場版第四作。前作から地続きの内容。闘いの真相を知り衝撃を受ける一同の中、なのはだけは再びその天才的な戦闘力で場を切り抜け、みんなが幸せに収まる方法を探しキリエに声をかける。事態の鍵を握る少女ユーリは管理局のみんなを吸収していき………。

【感想】

 話を収束させなければいけないので前作ほどのゴリ押しの楽しさは無いが、何重にも真相を仕掛けておいた展開でアクションを繰り出し続ける。前篇の重機、後編のメカと、作り手もアクションの重量感を主眼に置いてるのは明白。行き過ぎて最後には誇張抜きでなのはがガンダムに見えてしまった(戦闘服のせい)。

 ガンダム化したなのはに人間味を与えるため、最後に心理世界の話が出てくるのは唐突過ぎた印象。アルティメットなんとかさんみたい。

 

センコロール コネクト』

【採点】C

【監督】宇木敦哉

【制作国/年】日本/2019年

【概要】2009年の宇木敦哉個人製作アニメ『センコロール』が、10年後に続編『センコロール2』と併せて公開されたもの。片腕に謎の生命体センコを宿す少年テツが巨大な怪獣や同様の能力を持った少年少女に襲撃され、彼の非日常に巻き込まれた少女ユキと共に油断ならない、けれど穏やかな青春生活を送る。

【感想】

 「感触」そのものがアニメーション化したような独自の味だった前作に様々な人の手が介入することで、ただのヱヴァフォロワーのような、汎用的な味わいに変わってしまった『2』が少し残念。それでも独自の味わいはまだ生きている。果たして『3』は作られるのだろうか。映画デビュー作でもある10年前の素朴な「声」をなんとか再現しようとする花澤香菜の声が今聞くと新鮮で、まだこういう引出しあったんだ、と(だったら『かんなぎ』ドラマCDでのざんげちゃんの変わりようは一体)。

 

聖☆おにいさん

【採点】C

【監督】高雄統子

【制作国/年】日本/2013年

【概要】中村光の人気コミックをOVAと同スタッフ・キャストで映画化。立川で貧乏アパート生活を続けるイエス・キリストブッダの日常を綴る。キリスト役は森山未來ブッダ役は星野源。原作だと多数登場した神様関係者の出番は無く、商店街の人々の中で生きるイエスブッダの姿が四季を通じて描かれる。

【感想】

 豪華スタッフが揃い、アニメーションとしては滅茶苦茶豊か。で、あることが欠点になってしまう。ずっと懇切丁寧にギャグの説明を聞かされている状態で、笑うに笑えない。原作と手法が合っていないとしか。コンセプトを日常系に絞ったのだから、いっそ「日本で暮らす外国人」という部分からテーマを膨らませられないかと思った(実際そのつもりで描かれているよう見受けられるのだが、あまり伝わらず)。

 鈴木慶一の挿入歌、星野源のEDテーマと音楽面は充実。MVみたいなEDこそが本編かも知れない。このスタッフでもっと刺激的な内容の映画が観たい。

 

『ちいさな英雄 ーカニとタマゴと透明人間ー』

【採点】

【監督】米林宏昌・百瀬義行・山下明彦

【制作国/年】日本/2018年

【概要】スタジオポノック制作による短編集。【カニーニカニーノ】サワガニの兄弟・カニーニカニーノが、小川を舞台にスペクタクルな冒険を繰り広げる。【サムライエッグ】卵アレルギーが発症した少年シュンとその母は、食べ物に細心の注意を払って暮らしていく。【透明人間】透明人間の男は、人並みに生きている。けれど僅かなミスで空高く吸い込まれるように浮き上がり……。

【感想】

カニーニカニーノ】小さなモノの視点で世界を見上げたら子供はドキドキするだろうという点では正解なのかも知れないが、それ以外の意味が何もないし、小さな「家族」をここまで賛美することが今やることなのかと首をひねる。クレしんでさえそこら辺ちょっともう危ういのに。

【サムライエッグ】アシタカが自身の呪いと生きていく姿を宮崎駿は「生まれついてのアレルギーのような不条理」と語っていたが、正にそのようなものと生きて行くしかない母と子の姿が、希望はなくとも力強く描かれる。

【透明人間】透明であることをそのままズバリ孤独のメタファーとして描き、その表現が隅々まで行き届いてアニメーションの快楽と同時にもの悲しさが胸を打つ。大傑作。

 結果として、ポノックの看板である米林監督が足を引っ張る形に………でも3本中2本が傑作なのは凄いこと。次は山下監督の長編が見たい。

 

『劇場版 黒執事 Book of the Atlantic』

【採点】C

【監督】阿部記之

【制作国/年】日本/2017年

【概要】3度のTVシリーズOVAを経てアニメ版『黒執事』初の映画化。怪しげな死者蘇生の儀式が行われているという噂を確かめに、シエルとセバスチャンは豪華客船カンパニア号に乗り込む。そこには何も知らずエリザベスが家族と一緒に乗り込んでいた。何かあってリジーを巻き込む訳にはいかない。けれど気がつけば豪華客船は蘇生した死者の氾濫と氷山衝突による沈没の二大悲劇により阿鼻叫喚の地獄絵図。そこで暗躍する死神たちそれぞれの目的は……。

【感想】

 めちゃくちゃ惜しい。タイタニック+ゾンビという発想の妙。

 タイタニックのパロディを例の甲板だけでなく沈没パニック含めて全部やろうという心意気。中盤でのあるキャラの覚醒が本家タイタニックより進歩的な面も見せる。モブもゾンビも豪快に死にまくる。

 そうした題材の面白さと、実は番外編ではなく『黒執事』メインストーリーとして展開する、その如何にもマンガタッチな掛け合いの部分とが激しくミスマッチで、一本の映画を観ている気がしない。

 

『LUPIN THE 3RD 峰不二子の嘘』

【採点】

【監督】小池健

【制作国/年】日本/2019年

【概要】不二子が秘書として使えていた男ランディが暗殺者ビンカムに襲撃され、自宅に火を放ち死んだ。不二子はランディの息子で病気を抱えるジーンと共に逃亡を開始しつつ、ジーンの知る秘密を狙うビンカムの雇い主と5億ドルの争奪戦を開始する。ルパンと次元も参加するが、最強にして情緒不安定なビンカムは奇怪な術を使い……。

【感想】

 作画の魅力と裏腹に脚本が煮え切らない劇画調小池ルパン、今回漸く「お話」が機能した。古臭いジェンダー観の台詞がやたら不二子の口から出てくるのはわざとなのか天然なのか、しかし最後は不二子が男を「貫く」。全体的に旧007の緩い世界観を基にしているシリーズである事が今回のビンカム=ジョーズでくっきり。

 本作で小池ルパンが一繋がりの物語であることが明らかになったので、そろそろ長編をということなのかも知れない。脚本は高橋悠也さんから変えて欲しくもある。

 

『劇場版 FAIRY TAIL -DRAGON CRYー』

【採点】B

【監督】南川達馬

【制作国/年】日本/2017年

【概要】劇場版FAIRLY TAIL第2弾。フェアリーテイルのナツ達一行は、新たな依頼として世界を滅ぼすと言われる杖ドラゴンクライを手に入れる為、ステラ王国へ潜入する。国王アニムスの配下にして残虐なザッシュとその一味相手に苦戦しながら囚われの魔術師ソーニャと出会うが、ソーニャにはとある秘密があった。

【感想】

 ともかく一気呵成に見せ場だけで繋いでいく、見終わって特に残るもののないB級アクションとして、監督の名前からつい過度に期待してしまった前作『鳳凰の巫女(藤森雅也監督)』より面白かった。前半のお色気要素や残虐要素が浮いてる気がしたり、終盤原作のクライマックスに繋がるという「ナツのルーツ」の一端が明かされるのにそこへ至るテーマ的な伏線が前半に無かったり、脚本はお粗末な気もするが、90分以内に納めた勢いへの好感が勝つ。同じような姿勢ならば『スタンピード』や『ヒーローズライジング』の方が遙かに面白かったけどもそれはそれ。