久々の映画の採点

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アニメ映画、配信オリジナル映画を別枠としたので、ストックが溜まらずだいぶ久しぶりとなりました。

ではでは。

 

アクエリアス

【採点】A

【監督】クレベール・メンドンサ・フィリオ

【制作国/年】ブラジル/2016年

【概要】美しく色彩豊かなブラジルの海辺の都市レシフェ。どこを切り取っても絵はがきのような世界で、アパート・アクエリアスに一人暮らすクララとこの部屋の歴史、そしてアクエリアスからの撤去を望む建築会社とクララとの水面下での熾烈な駆引きが描かれる。

【感想】

 あらすじは二の次で、カメラワークのマジックで境界線を容易に融解させる撮影、場の亡霊のようでもあり世界の主人公でもある人間の存在感、唐突な音楽の祝祭性、ドキュメンタリックな芝居の計算(アドリブではなく意図的に自然な瞬間を創出して入れ込んでいると思う)、1シーン毎にフレッシュな演出が引き込んでいく。その裏で表だって語られないアパートを売る/売らないの心理的な駆引きが蓄積していき、ラストに怒濤の決着へもつれこむ。ユニークなタイミングで挿入される「若き日々の愛の営み」なシーンで、女性の快楽がピークであろうク○ニを思い出してるのもさりげに新鮮(従来なら男性主体のセックスが挿入されていた筈なので)。

 新年一発目に面白い映画を観た。

 

復活の日

【採点】A

【監督】深作欣二

【制作国/年】日本/1980年

【概要】米ソ冷戦の最中、極秘兵器として開発されていた新型ウィルス「MM-88」が各国の思惑の渦中に置かれていた。しかしこれを手に入れたマフィアがアルプス上空で飛行機ごと爆発。かくて「イタリア風邪」と呼ばれる新型ウィルスの猛威が世界を襲う。生き残った人類は南極極地に僅か。米国大統領は彼らに一縷の望みを託そうとするが、、、

【感想】

 これを最初の東京オリンピックの年に書いていた小松左京が凄過ぎるでしょ。そして当然発売後十数年映画化は頓挫していたものを、金に物を言わせて国際的合作かのような大作に仕立てた80年代角川の勢いも。各国の登場人物が行き交い、日本は滅び行く描写のみ(しかし凄まじいスピードで)と不思議なほどナショナリズムから距離を置いてるのはクリエイター達のクレバーさか時代の余裕の成せる技か。知人の子供と死にゆく多岐川裕美のジャンプショットのなんて潔さ。最後の最後にキリスト映画みたいな野暮ったい宗教画になるのも躊躇がなくて良い。

 どうしても南極基地での女性の扱いにグロテスクさは感じるが…

 

『こおろぎ』

【採点】C

【監督】青山真治

【制作国/年】日本/2006年

【概要】お蔵入りとなっていた青山真治の作品が「幻の映画復刻レーベルGIG」に発掘された陽の目を浴びた形。脚本は岩松了。盲目の初老の男の世話をすることで必要とされる歓びを感じていた女。そこへ浮ついた若い男女のカップルがちょっかいを出し始め、初老の男の真の正体を匂わせてくる。それは…

【感想】

 「まぁお蔵入りされるだろうな」という独りよがり感は否めず、洋画では自然な地域コミュニティとしてのソシアルクラブ的なバーがまったくもって不自然にしか見えず(不自然に見せてるのだが)、そのことが他の場面と大した結びつきを持ててない時点で全然ダメ。知らないけどロメールかなんかに憧れてるんですかね。

 話としては『ゴールデンゴールド』を少し思わせると言ったらネタバレか。

 そんなことより「幻の映画復刻レーベルGIG」の存在を知れたことが大きい.確かにここ数年「あんなに気になってたのに見る機会の無かった邦画」がちょくちょくレンタルビデオ屋に置かれてて「おや?」とはなってた。そういうことだったのか。素晴らしいレーベルですね。

 

『アップグレード』

【採点】

【監督】リー・ワネル

【制作国/年】アメリカ・オーストラリア/2018年

【概要】交通事故に遭った後暴漢たちに襲われ妻を喪い、自身も四肢麻痺に陥ったグレイ。そこへ天才エンジニアのエロンが訪れ、グレイに高性能AIチップ「STEM」を埋め込む。STEMの力を借り体を自在に動かせるようになったエロンは、あの夜の暴漢たちに復讐を開始する。その超人的な力が辿り付く事件の真相とは…

【感想】

 昨年のマイベスト第一位『透明人間』リー・ワネル監督作。「AIチップによって自分の体を動かす」というSF要素を、純粋にカメラが主人公と共に機械的に角度を変える、という技巧で納得させる。「アイデアでギミックを成立させる」点『透明人間』と重なり、このままずっとリー・ワネルには低予算映画を撮ってて欲しいと思ってしまった。

 

『サイトレス』

【採点】A

【監督】クーパー・カール

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】何者かに襲われた最後の記憶を瞼に残して失明したバイオリン奏者エレン。華やかな過去を持ちつつも今は身内は日本におり、頼りになる者はいない。介護士のクレイトンは優しく厳しくエレンの面倒を看ることになる。そんな日々の中、聴覚が研ぎ澄まされてきたエレンは「毎日マンションの表通りの車が同じ時間にアラームを鳴らしている」と気付き、、、

【感想】

 何言ってもネタバレになってしまうし、冷静に振り返ると細かい辻褄は合ってないというかやや強引な真相ではあるのだけれど、多少の粗を抱えつつも「映画という媒体が持つ特色」を見事に物語の芯に据えて、そのアイデア一本勝負で出来ているので嬉しくなってしまった。前半「この監督、こういう部分捉えるの上手いな」と感じた部分がそのままズバリこの映画の罠だったので「もお~」ってなる。

 

夏をゆく人々

【採点】A

【監督】アリーチェ・ロルヴァルケル

【制作国/年】イタリア・スイス・ドイツ/2014年

【概要】トスカーナで養蜂工場を営む一家。粗野で無骨な父、そんな父に愛想を尽かしつつある素振りの母、そして四姉妹。どこか世間と隔絶した閉鎖世界で生きる長女ジェルソミーナは、エルトリア古墳も埋まっているこの田舎の伝統に目をつけたテレビ番組との接近、少年院から更生プログラムとして訪れたドイツ人少年との出会いなどを通して、この日々に微かに居心地の悪さを覚えていく。

【感想】

 一夏の物語としてありえそうな展開を微妙にすかしていきながら、ジェルソミーナの「座りの悪さ」だけは一貫して画面に湛えられ、そんな彼女が特技として「蜂を顔に這わせる」場面だけ映像が弛緩しつい無心で見てしまう。消費され尽くした「ノスタルジィ」をまだこんな素朴に(素朴なフリをして)描ききれる映画があるのか。トトロのいない『となりのトトロ』と言おうか、平和な『ミツバチのささやき』と言おうか。

 序盤で出された情報の大体が集約するテレビ撮影の手前のくだり(こここそクライマックスなのでは)の、目の前で次々起こることに良い/悪い、嬉しい/哀しいの判断すらつかない混乱具合が凄い。でも現実はそうだから。

 

ショック集団

【採点】

【監督】サミュエル・フラー

【制作国/年】アメリカ/1963年

【概要】新聞記者ジョニーはピュリッツァー賞欲しさに、精神病院で起きた未解決殺人事件の真相を調査しようとする。知人の精神科医の助言を受け、「(妻が演じる)妹に欲情を抱く精神異常者」を演じることで入院に成功するジョニー。殺人を巡る三人の患者の証言を得ていく過程で、次第にジョニーの精神は混乱を来していく。

【感想】

 『シャッター・アイランド』の元ネタとされているけど、純粋に「このショットは」「この演出は」となったのは、女性患者にジョニーが襲われる場面がまんま『ゾンビ』の暴徒がゾンビに喰われる場面だったこと、ステージで歌い踊る妻の幻影がジョニーに重なる場面は『マルホランド・ドライブ』か何か、ともかくリンチが好きそうな演出だったことの二点。妻のステージが一曲フルで捉えられたり、本編はモノクロなのに回想で語られる外のシーンである「日本」「アフリカ」だけ唐突にカラーになったりといった本編の異化効果によって、本編演出のソリッドな巧みさもジョニーの精神と共に混沌の中にあるかのように、「実は間違っている」かのように錯覚してくる.

 患者たちを通して浮き上がるアメリカの、そして普遍的な病理。今見てもその切実さは変わらない。

 

『ブルータル・ジャスティス』

【採点】

【監督】S・クレイグ・ザラー

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】捜査中の横暴を記録され謹慎処分を受けた刑事ブレットとその相棒トニー。沢山の犯罪者を逮捕してきたのに給料も上がらず出世もできず還暦を迎えるブレットは、一方で妻の病気、娘の通学路の治安の悪さに頭を悩ませ、とある犯罪者が隠し持っているかも知れない金塊に目をつける。そして、「その場」にかかわる人々の人生が決定的に変わってしまう運命の日が訪れる。

【感想】

 『アウト・オブ・サイト』見たばかりだからか、個人的映画人生の始まりに『ジャッキー・ブラウン』や『ペイ・バック』があるからか、『トマホーク』ではどうも心許せなかったザラーをいきなり凄い身近に感じる。30分で済む話を2時間半かけて描く.でも「溜め」としての時間ではなくて、人の生活に密着してずっとカメラ回して、面白くなったその部分だけ切り抜いていくような説得力。それでいてショットは的確。クライマックスは『アウトロー』もちょっと思い出しましたね。

 

蛇の道

【採点】

【監督】黒沢清

【制作国/年】日本/1998年

【概要】男二人がヤクザを攫う。幼い娘を誘拐され、殺された宮下(香川照之)と彼を先導する不思議な数学教師・新島(哀川翔)。陰湿な精神的拷問でヤクザ達から強引に真犯人の名前を吐かせ、そこで名前を出されたヤクザを順にさらっては同じことを繰り返す。一向に真実が見えてこない中、誘拐と拷問を繰り返す宮下のテンションはハイになっていく。

【感想】

 Vシネ時代の黒沢清がジャンルに忠誠を誓っているとは言え、やはり小中千昭(DOORⅢ)や本作の高橋洋と組んだ方が引き締まっている。終盤ちゃんと廃工場のドンパチが続くのも嬉しい.哀川翔の正体は最後に明らかになるが、一方で『リング』の真田広之であり『カリスマ』の役所広司であるような、世界の法則を知っているかの如き序盤の女生徒とのさり気ない台詞から、やはりここに於いては「謎の男」であり、香川を誘惑するファム・ファタールである。

 

蜘蛛の瞳

【採点】

【監督】黒沢清

【制作国/年】日本/1998年

【概要】かくして新島は復讐を遂げる。そして日常生活を取り戻すが、妻との会話は必死に繕った白々しさに満ちている。そんな中、偶然出くわした旧友・岩松(ダンカン)に誘われ新たな仕事を始める。仕事仲間たちとは間の抜けた時間を過ごす一方、その業務には殺人も組み込まれていた。

【感想】

 続編であり全くの別モノ。前作であれほど謎だった哀川翔が別人かのように疲弊した男を演じる。けれどファム・ファタールである点は変わらずだったりする。ダンカンに香川照之を重ねて見ることは可能だろう。阿部サダヲが出てたりして、こちらでの裏話も色々面白い。あらゆる「追いかけっこ」が出てくるのだが、そのたびに大胆な撮り方を繰り出してまるで印象を変え、早撮り低予算映画とは思えない驚きをくれる。そして何より唐突に訪れる恐ろしい心霊ショット。

 本作の方が好き、という声が多いのもわかるのだけれど、自分は一方で本作に流れる日常を淡々と描きながら現実感がヨーロッパ映画的な乾いた空気で飛躍している感じ、90年代的、いや個人的観点からもっと広範囲で『その男、凶暴につき('89)』から『ドッペルゲンガー('02)』までの日本映画に流れていた空気はむしろ馴染みがあって、きっちりバイオレンススリラーをやりきっている『蛇の道』の方が新鮮だった。

 

『レプティリア』

【採点】C

【監督】トビー・フーパー

【制作国/年】アメリカ/2000年

【概要】落ちこぼれ大学生8人は湖畔のボートクルーズに遊びに来ていた。しかしお調子者のダンカンがブレイディの浮気をバラしてしまい、ブレイディは彼女クレアとぎくしゃくし始める。ところでこの湖畔の近くのホテルには恨みの感情によって人を殺す100年前のワニの伝説があり、案の定若者たちはワニに襲撃されるのだった。

【感想】

 最初に若者が食べられる場面が完璧なインパクトで、しかしピークはそこ。「トビー・フーパーの外しの美学」と「低予算ゆえのCGやアニマトロニクス」が見事に噛み合わず、「なんだかわからない間」が後半につれどんどん増えていく。「面白くなりそうな要素やキャラをチラつかせつつ全く効果的に使わない」のは「わざと」だろうけど、しばしば訪れる「キャラが何に逡巡してるのかわからない棒立ち」は「事故」だと思う。

 それでも「汚い田舎の謎の小屋で暮らす狂人」「異常なほどのノイズ(今回は終始いくらなんでもうるさ過ぎるダンカン)」「チェーンソーあったけど使えない」といったフーパー印を残せる自由度も低予算ゆえなんだろうな。

 2000年というと『U.M.A レイクプラシッド』の頃だと思うけど、どちらもワニ映画の邦題にワニっぽさを出したくないという日本の配給会社の意図が不思議。サメならともかくワニじゃ売れないという判断なんだろうか。

 

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』

【採点】

【監督】エドワード・ヤン

【制作国/年】台湾/1992年

【概要】1960年、台北。中国・上海から渡ってきた外省人の張一家。戦前の日本家屋に暮らし、屋根裏には日本軍が撤退の際に放置した日本刀が眠っている。次男のチェンこと小四(シャオスー)は中学の昼間部に合格できず夜間部に通っている。ある日、地元で有名なヤクザまがいの男ハニーの彼女である少女・小明と出会い恋に落ちる小四だったが、そのハニーに起こった悲劇をきっかけに、中学生同士の小競り合いはヤクザを巻き込んで血腥い日々へと突入。父にかけられるスパイ容疑、賭博を抜け出せない兄、キリスト教にハマる次女、小柄なのにプレスリーの物真似が上手くなる友人リトル・プレスリー、やはりヤクザまがいで地元を仕切る山東小明を奪い合う滑頭や小虎etc… 小四の日常はビビッドなディティールで満ち、そのイノセンスは少しずつ世界を照らしていくかに見えた。事件が起こり、すべてが終焉を迎えるその時までは。

【感想】

 長年見たくても見れずにいた映画を漸くの鑑賞。とても長尺の映画だが、『ヤンヤン 夏の想い出』がそうであったように、これからまた繰り返しこの世界に戻ってきたくなる映画だという気がする。「やっと見れた」より「初めまして(これからもよろしく)」。

 少年のいない場面も多いが、少年の察知できる範囲の輪郭として描かれていて、世界が瑞々しい。映画はこの先事件が起こるなんて知らないかのように振舞っている(というか事件そのものは色々起こるので日常の一部といった感じか)。『藍色夏恋』の1シーン先でこんな悲劇が起こっても不思議じゃないかのように。

 『花束みたいな恋をした』の二人は結局本作を二人してミニシアターで見たことはあったのだろうか。多分無い。もしあったとしても結末は変わらないだろうけど、苦々しくも甘美な体験として印象に残ったのだろうな。

 日本刀が残されていた事について目を逸らしてはいけない。

 

ウトヤ島、7月22日』

【採点】B

【監督】エリック・ポッペ

【制作国/年】ノルウェー/2018年

【概要】2011年7月22日、ノルウェーオスロ近郊のウトヤ島で起こった無差別乱射テロ。巻き込まれた少女カヤの視点で「銃声の続いた72分間」の恐怖をワンカット長回しで綴る。その日ウトヤ島には労働党青年部の若者たち700人が討論会を兼ねたキャンプに集まっており、その日起きたばかりのオスロの政府庁舎爆破テロに身内が巻き込まれたのではないかと気を揉んでいた。しかし銃声は海の向こうのオスロではなく、すぐ傍で聞こえる。60人を超える死者、100人近い負傷者を生むことになる地獄の72分間。カヤはただジッと息を潜めて耐えようとするが…?

【感想】

 先にNETFLIXポール・グリーングラスの映画『7月22日』を観ておくと、より事件の全容が伝わり易い。片や全容を伝える映画。片や巻き込まれた当人の、全容など知りようもない「耐える」時間。テロ再現映画がどうしたって持ってしまうアトラクション的な興味に背を向け、基本カヤは「少し動いて、ジッと耐える」を繰り返す。その行き詰まる緊張感を是としたい気持ちもあるが、しかし被写体がほぼ行動を抑え静止しようとし、時折カメラを振って近くを逃走する若者を捉える作業さえルーティーン化してくると、長回しであることが仇になって「このカメラ、誰視点?」と気になって集中を欠いてしまった。力作なのは確かだが… でも海の中を往復する恐怖と疲弊、絶望感は凄まじい。

 

『赤線地帯』

【採点】A

【監督】溝口健二

【制作国/年】日本/1956年

【概要】溝口の遺作。売春防止法が制定された1956年の物語を56年に撮って公開する。このビビッドさとタイムリーさが今の映画には必要なんじゃないか。まさに国会で法が審議されているその時、吉原「夢の里」ではほとんどがとうが立った娼婦たちが明日の我が身を案じていた。病気の夫と赤子を抱えるハナエ、器量よしで男を騙し大金を貯めるやすみ、離れて暮らす一人息子を想うゆめ子、ここを出て普通のお嫁さんになりたいと願うより江、そして若さに甘んじて消費の荒いミッキー。彼女たちの居場所はここしかない。しかし、ここは本当に居場所たりえているのか?

【感想】

 スタンダードサイズで切り取るならこうしかないとなぜか確信してしまえる路地と店内の織りなす狭い世界。矢継ぎ早に繰り出される軽口。その外側に一歩出れば容赦ない人生模様の苦さが待ち受けている。みんなを守るため政治家に文句言ってる風である店の主人も、結局は女を商品としか思っていない。

 非常に辛気臭い話なのだけど、「ここにこういう話があるが、どうか?」とソリッドに攻撃的に見せつけるだけのラストの切れ味がカタルシス。ふと『祇園の姉妹』はどう描かれていたか、見返したくなった。

 

『最高殊勲夫人』

【採点】A

【監督】増村保造

【制作国/年】日本/1959年

【概要】大手商事「三原家」の長男、次男はそれぞれ野々宮家の長女、次女と結婚していた。次女の結婚式、続いて三男・三郎と三女・杏子を結婚させようという話が持ち上がるが、当人たちは断固拒否。無意識でどこか惹かれながらも、意地でもくっつくまいとする二人。次第に杏子の周囲に三人の男性が言い寄ってきて、三郎は時にその間を取り持つようになるが…?

【感想】

 和製スクリューボール・コメディの傑作。モダンで粋な会話、社会の習性に対して自分の意思を持って抵抗しようとする登場人物。当時の丸の内ロケーションの面白さ(東京駅!)。自然且つ巧みに行われる脚本の省略。同コンビの傑作『巨人と玩具』は作品目的そのものが社会風刺であったけれど、本作は観客には王道ラブコメを楽しませ、その上でその向こうに見える討ち滅ぼすべき何かを見据えており、それは本作の作りが洒脱であることで成立するものでもある。

 今に置き換えればサブカルに志と社会批評がしっかり備わってる感じだろうか。強い。

 ギャフンと言わせてそれで終わりでもいいはずの、抗うべき象徴でもあった姉が抱えているものを最後に吐露させる、この正しさ。その後、父の新しい勤務先の描写で女性社員に偉そうに「おい!」と命じる上司が背後に移っている。これがちゃんと「嫌だ」と感じるよう出来ている。説教臭くなく。

 

カイジ 動物世界』

【採点】C

【監督】ハン・イエン

【制作国/年】中国/2018年

【概要】福本伸行『賭博黙示録 カイジ』の中国版実写化作品。幼なじみのナースに迷惑をかけながら自暴自棄な人生を送っていたジョン・カイジカイジは幼い頃両親を連れ去りにきた借金取りのトラウマのせいで、頭の中でカートゥーンアニメの主人公・殺人ピエロが暴れ出すのを押さえられなかった。やがてカイジは親友に騙され、一発逆転目指して豪華客船デスティニー号に乗り込み、謎の富豪が催す「限定ジャンケン」大会に参加する…

【感想】

 とにかくお金が有り余っている映画で、本題の限定ジャンケンが始まる前に主人公の妄想世界であらゆるど派手なアクションが展開する。原作の兵藤に位置するキャラはマイケル・ダグラスだし、エスポワール号ことデスティニー号のセットも豪華。「同時翻訳機」という設定のお陰で搭乗員も国際色豊か。

 だったら訳わかんない水増ししてないで限定ジャンケン以外のギャンブルも描けよ。という話なので、マジで企画の意味がわからなかった。福本先生が脚本に参加してるので、何か先生なりにやりたい事があったのかも知れないが、原作者の要望だろうと断る勇気を持って欲しい。露骨に続編へのクリフハンガーで終わる。たしかにこの予算規模での「鉄骨綱渡り」は見たい(日本の実写版での鉄骨綱渡りは合成丸出しで全然怖くなかった)。

 

『キュアード』

【採点】B

【監督】デヴィッド・フレイン

【制作国/年】アイルランド・フランス/2018年

【概要】ヨーロッパを襲った感染症メイズ・ウィルス。発症した人々は思考能力を失い周囲の人々を襲う。国連軍の介入でウィルスはようやく収まったが、収容されていた一部の患者たちが回復し、元の人間に戻るようになる。日常生活へ帰還する彼らを世間は許そうとせず弾圧の声が上がり、また「回復者たち(キュアード)」も自分たちの人権を確保するべく集会を開くようになる…

【感想】

 「もし人間がゾンビから元に戻ってしまったら」という発想で、まだ新しいゾンビ映画が作れるのか! と舌をまく。ウィルスキャリアへの差別は今後コロナ禍の世界で発生してもおかしくない(既にある?)ものであり、観客へのフィードバックが効くよう変に誇張せずリアルな生活下でのドラマにしたのも巧妙。ただそのテイストとジャンプスケアでビビらせてくる演出が完全に食い違っており、クライマックスも急にゾンビ物であることを思い出したかのようで中途半端だった。でもエポックな価値ある一作。

 

『ブロックアイランド海峡』

【採点】B

【監督】ケビン・マクメイナス、マシュー・マクメイナス

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】小さな島の閉じたコミュニティの中で暮らす漁師のハリー。シングルマザーの妹が娘を連れてくる中、父親の異変に気をもんでいる。最近、魚や鳥の奇妙な死骸が見つかったり、父が吠える犬にやけに興味を抱いていたりする。バカな友人は陰謀論に夢中。この島の沖合で何が起こっているのかなど、今はまだ知らずに過ごしている。

【感想】

 全然知らなかったのに突然ネトフリに入りやたらプッシュされランキングも急上昇する系の映画大好きマンとして食いつかずにいられなかった一本。見終わってみれば「そんだけの話なのか」と唖然とするけど、その小さなアイデアをジワジワと地方の辺鄙な島の生活のリアリティと共に丁寧に綴り、ふざけず真面目に見せてくる姿勢に好感を抱く。

 A級の姿勢で撮ったB級。僕は好きです。

 

『ハウス・ジャック・ビルト』

【採点】C

【監督】ラース・フォン・トリアー

【制作国/年】デンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン/2018年

【概要】強迫神経症気味な男ジャック。膨大な芸術についての蘊蓄があり、自分で一軒家を手作りしたいと願いながら、何十人もの人々を殺め、自らの芸術作品に仕上げていく。彼と恐らくは彼の脳内にいる謎の男性との会話を通じて、彼の人生、そして彼の芸術(殺人)の数々が綴られる。

【感想】

 ぶっ飛んだ内容で目を引きながら自分の話を聞いてほしくて仕方ないおじいちゃんと化してしまったトリアー。性を暴力に変えただけで『ニンフォマニアック』と変わらぬパターンなので「ああ、またこれかぁ」と非常に眠たい。色々ジャックを突き放してるように見えるけど、本心ではおもっきり自分を仮託してることがモノローグからバレバレだし、話し相手にブルーノ・ガンツを召喚してる自己愛っぷり。主役が女性から男性になったところで女性への加虐趣味は増すばかりなのもさすがに閉口(ユマ・サーマンタランティーノの色々をバラしつつこういう役やってるの歪んでるなぁ)。

  ただラストシーンからのエンディングはさすがに笑ったし、こういう部分的に変に若いところは押井守にも見習って欲しいかも。

 「君は正しい文字を読むべきだったのに そうしなかった」

 

『スピリッツ・オブ・ジ・エア』

【採点】C

【監督】アレックス・プロヤス

【製作国/年】オーストラリア/1988年

【概要】昨年デジタル・リマスター版がリバイバル公開された、アレックス・プロヤスのデビュー作。荒野の果て、遠い壁に行く手を阻まれた一軒の家で暮らす、車椅子の兄と頭のおかしな妹。そこへ一人の放浪者が流れ着く。兄は彼と空へ飛び、壁を越えようと願う。妹はみんな兄に唆され死んでいった、空を飛ぶべきじゃないと反対する。はたして放浪者は、あの空へ飛び上がることが出来るのだろうか…

【感想】

 『マッドマックス』1~3('79~'85)、『バグダッドカフェ』('87)、本作、『楽園の瑕』('94)、『スワロウテイル』('96)、『シックス・ストリング・サムライ』(’98)。なんだか、全部同じ世界の話の気がするのは気のせいでしょうか。この映像世界の懐かしくも不思議な実存感。今この系譜の映画はあるんだろうか。

 しかしこの寓話的な物語のピュアさなんなんだろう。純映画的な映画かと言えば全然なのだけど、80年代の映画に特に感じる隙だらけのピュアな寓話。シンプルな話からピュアさが奪われ「敢えてやっている」といるエクスキューズをまとわざるを得なくなったのが、『タランティーノ以降』、という言葉の真の意味かも知れない。

 映画としてはやはり余りに退屈なのだけど、同時にいたたまれないくらい懐かしかった。