GWの映画の採点

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「映画の採点」シリーズも開始から一年以上続き、今回で第11弾となります。

「配信映画」「アニメ映画」と分けて、通常の映画鑑賞の感想が本編と、現在このような形のシリーズになっております。

 

説明も野暮ですが当然「映画の祭典」とWミーニングで色んな映画見るのは楽しいよ、という主張が本シリーズの主旨であって、「採点」することにさしたる意味はありません。 

下手すると感想を書くことさえ大した意味はなく、しかし、「概要」欄に作品の粗筋を自分なりに要約して纏める作業には、最近少しずつ意義を感じ始めています。

今年劇場鑑賞した作品すら思い出せないのに、概要をまとめた作品のことは記事読み返すだけですんなり思い出せる。これは非常に大きいのです。

 

では。

 

『ザ・ライダー』

【評価】A

【監督】クロエ・ジャオ

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】アメリカ中西部サウスダコタ。現代のカウボーイとして気性の荒い馬を手なずけロデオを行う人々。その中の青年ブレイディは事故で頭部を損傷し、何本もの針で頭を縫い留めていた。落馬して身体のほとんどが付随になった友人、障害者の妹、ブレイディの将来を心配する人々。それでもブレイディのまなざしは、馬に注がれ続ける。

【感想】

 クロエ・ジャオのデビュー作。実在する人々が自身を演じるドラマ/ドキュメントの融合作品。多くのアメリカの観客の原風景に訴えかけただろう「馬と荒野」のある景色の美しさは、しかし撮影を通した嘘なのだろうと思う。それでもブレイディその人の存在感だけは真実であり、その真実を浮き彫りにするために彼に「彼を演じさせる」ことでその内面を引き出そうとする。映画的なエッジが効いている訳ではないが、この世界に潜む忘れがたい時間を確実に刻んでいるフィルム。

 

ソニック ザ・ムービー』

【評価】C

【監督】ジェフ・ファウラー

【制作国/年】アメリカ・日本/2020年

【概要】予告編で不評をウケたソニックのデザインを全面的に制作し直して完成した曰く付きの作品。ナックルズ族の襲撃を受けたソニックはポータルを通して地球に逃亡。モンタナ州の田舎町で人知れず生きていたが、保安官のトムと出会い、ソニックを捕獲しようと追跡してくるドクター・ロボトニックの追跡を交わしサンフランシスコへ逃亡の旅に出る。

【感想】

  素早さが売りのソニックに「速く動けて隠れられるからこその孤独」を味あわせ普遍的な存在にし観客の共感を誘う導入が上手い。基本的に予告編から一歩も逸脱しない、かなり古くさいノリで、しかしだからこそソニックが成立するし、またジム・キャリーの使いどころとしても適切。が、『ピーター・ラビット』や『名探偵ピカチュウ』や『トムとジェリー』と並べた時に、とにかくギャグで笑えなかったのが痛い。

 

メン・イン・ブラック インターナショナル』

【評価】C

【監督】F・ゲイリー・グレイ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】幼い頃、家に宇宙人が現れ、両親が黒づくめの男たちに記憶を消される場面を目撃した少女。以来、彼女は密かにメン・イン・ブラックの情報を集め、大きくなりとうとう強引な手段で組織に乗り込み就職する。かくして誕生した「エージェントM」は先輩の「エージェントH」と組み、宇宙人とのトラブルを解決する任務に出る。

【感想】

 メン・イン・ブラック一作目の面白さはブラックジョークとグロテスクユーモアの洗練された融合にあったと思う。見飽きたようなエイリアンと『マイティ・ソー バトルロイヤル』から遙かに後退したソーとヴァルキリーのつまらない掛け合いを見たい訳じゃなかった。ちなみに製作のウォルター・F・パークスが大幅に出しゃばり、最終的に出来上がったものは当初の脚本とはまったくの別物であるとのこと。

 

『星の王子 ニューヨークへ行く』

【評価】B

【監督】ジョン・ランディス

【制作国/年】アメリカ/1988年

【概要】自然豊かで財政的にも恵まれたアフリカの王国ザムンダ。しかし保守的な価値観に基づくその土地で次期国王の座を約束された王子アキームは、自分の花嫁は自分で探したいと願う。世話係のセミをつれ、ニューヨークへ訪れたアキーム。「『クイーンズ』地区」に女王候補がいると見初め、新鮮な貧乏暮らしを満喫し始める。

【感想】

 子供の頃、延々テレビで放映されていたエディ・マーフィー映画の中でも恐らくは未見だった一本。子供の頃見ても良さはよくわからなかったと思う。初期作の狂騒から離れたジョン・ランディスだからこその余裕で、エディとセミ役アーセニオ・ホールが何役もこなしたキャラ達が入れ替わり立ち替わり掛け合いの面白さを見せていく。決してザムンダが古くてアメリカが新しい、とはしない距離感が心地いい。

 しかしアーセニオ・ホール、こんな面白いのに先日公開された三十数年ぶりの続編までほとんど映画には出ていない(出ても本人役)のが勿体ない。

 

『メランコリック』

【評価】B

【監督】田中征爾

【制作国/年】日本/2019年

【概要】東大出のナベオカは、未だに実家で冴えない日々を送っていた。高校時代に同級生だった女性ソエジマに声をかけられたのを機に、二人の再会の場である銭湯「松の湯」で働き始める。しかし「松の湯」は裏家業で暗殺を請け負い、夜な夜な風呂場で死体を解体していた……。

【感想】

 この着想とタイトルだけで大勝利しているような映画なのに、恐らくは予算が縛りとなって想像できるようなグロテスクな映像美はなく、噂されていたアクションシーンも少ないのでピンとこない。ショットも壊滅的なまでにグダグダしている。それでも「松本君」というキャラとの出会い。「いそう」な登場シーンから、次第に彼の人となりが見え始め、最後には愛しくなるまでの流れ。こんなにキャラ個人への興味で映画を見続けられることも滅多にないのでハマってしまった。

 脚本も秀逸なので、予算さえあればもっと面白い話も作れる人たちなんだと思う。もっとビッグバジェットに挑めるよう願う。

 

『26年』

【評価】B

【監督】チョ・グニョン

【制作国/年】韓国/2012年

【概要】「今も存命の全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領の罪を糾弾する暗殺計画映画」という衝撃作。光州事件で家族を失った遺族たち、あるいは心に傷を負った体制側の男。あれから26年、事件当時軍を指揮していた虐殺の責任者である元大統領が罪の重さを否認し続けたまま社会生活を取り戻している事に憤り、彼らは暗殺計画を始動させる。

【感想】

 韓国映画の反体制・反骨心を象徴するような作品(魂としては『インサイダーズ』こそベストだと思っているけれど)。原作は漫画なので光州事件の悲惨さを冒頭にアニメーションで伝え、その表現手法が「過去では無いのだ」と何より雄弁に物語っている。これほど過激で繊細な題材を扱いながら完全にエンタメとして組み立てられている点も韓国映画らしい。「反骨心」と「エンタメ」本作に限っては後者はもうちょっと抑えても良かったかも知れない。

 

 『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』

【評価】B

【監督】エイプリル・ライト

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】ハリウッドを支えてきたスタントウーマンたち。その埋もれていた歴史にスポットを当てる。映画黎明期にはむしろ人気女優による危険なアクションこそが売り物であり、男性が後からその座を独占したこと。映画会社との裁判闘争。「アクション監督」という地位の重要性。そして、危険なスタントがもたらす快楽。

【感想】

 昨年劇場鑑賞した『ようこそ映画音響の世界へ』と同じく、映画ではなく面白トリビアを満載したテレビ番組。ただそのトリビアの内容への興味が尽きない。自身がアクション女優としてハリウッドを支えてきたミシェル・ロドリゲスが製作総指揮・ナビゲーターとして自身のスタントウーマンを紹介している、という構図に説得力と歴史が宿る。

 しかし「映画黎明期の女優の役割」「スタントで生じる快楽」についてもっと掘り下げるべきだったのではないかという不満は大。

 

『バニー・レークは行方不明』

【評価】A

【監督】オッドー・プレミンジャー

【制作国/年】アメリカ・イギリス/1965年

【概要】新生活を始めようとしたアン・レイクだが、幼稚園に預けた筈の娘バニー・レークが帰ってこない。保母さんたちの証言は要領を得ず、刑事もアンの話に半信半疑。まるで娘などいないかのように訝り始める。アンは娘を見つけ出すことが出来るのだろうか。そもそも、バニー・レークは本当に存在するのだろうか。

【感想】

 初プレミンジャー。大方のネタは大体想像つくが、しかし「バニー・レークは本当にいるのか?」という部分はかなり引っ張られる。そしてその白黒がつく以上の大胆な転換をもたらす場面がサイコ的な意味で衝撃的。あの「追いかけっこ」からの……。サイコロジカル描写、昔のほうが多分社会的にも未知の部分が多かった為に、映画としては現代よりもよっぽど面白く扱っているなと感じる。

 

『3年目のデビュー』

【評価】D

【監督】竹中優介

【制作国/年】日本/2020年

【概要】欅坂46姉妹グループとして誕生させられたひらがなの「けやきざか46」は、やがて改名して「日向坂46」として活動させられる。後輩も加わり、活動は軌道に乗り始めるが、メンバーは日向坂独自の魅力を作れているのか懐疑的であった。

【感想】

 以前にAKBのドキュメンタリーをいくつか見て、アイドルが晒される活動の苛烈さ、映画の中に不在であるからこそ募る運営への怒り、となかなかハードコアな内容が印象的だったのだけれど、それらに比べてひたすらアイドル達に優しく、そして彼女たちを囲う状況への批評精神が致命的に欠けている。映画としての緊張感が皆無。日向坂はオードリーと絡んでる時が好きなので、オードリーの出番が一瞬だったのもつまんないと結構本気でそう思う。若林にチクリと言わせるとか出来そう。

 

『シライサン』

【評価】C

【監督】安達寛高

【制作国/年】日本/2019年

【概要】若者たちが鈴の音を聴いた後、眼球破裂して死んでしまう。それぞれ友人、弟の死を目撃した瑞樹と春男は関係者の証言を辿り、シライサンという女の幽霊の呪いであると突き止める。一方、ジャーナリストの間宮もシライサンの呪いを追っていた。3人はシライサンの呪いを解く方法を探っていくが、着実に呪いの魔の手は迫っていた。

【感想】

 小説家・乙一の変名による監督作。シライサンという幽霊の造形、その見せ方、さらに「呪いの回避方法」、ここら辺は見事なキャラ立ちで面白い。一方で、それ以外の部分があまりに淡々と進むので、怖いのに眠たい。乙一さん、黒沢清監督の映画は沢山観てるかも知れないけど、もしかして『イット・フォローズ』をご存じでない……? 勿論、低予算がすべての元凶だとは思うけれど。

 

デスノート Light up the NEW world』

【評価】B

【監督】佐藤信

【制作国/年】日本/2016年

【概要】デスノート事件から10年後。地上に新たに6冊のデスノートが落とされ、再び死神を使った殺人鬼が暗躍する。夜神月の動画が拡散され、彼の後継者がいるらしい事が明らかになる中、特別捜査官:三島、Lの後継者:竜崎、そしてサイバーテロリスト:紫苑の思惑が交錯し、事件は混迷を極めていくのだった。

【感想】

 あんまり酷評を目にしてしまい敬遠していたのだけど、既に佐藤信介監督の異様に鈍重なテンポに慣れてしまっている為か、それ以上に長所が目についた。まず何がなんだかわからないくらい仕掛けが多層化してる脚本、これはもっと素早いテンポで見せられたら十分原作のノンストップ感を再現出来たと思う。そしてメインを張る東出、池松、菅田がデフォルメされたキャラに相応しい虚構的な華を持つ振る舞いが出来ること。原作キャラの使い方も思い切りがよく、過去に阿り過ぎず決着をつけてやるという覚悟を感じた。

 

『ニュー・ミュータント』

【評価】B

【監督】ジョシュ・ブーン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】ネイティブ・アメリカンの保留地が巨大竜巻に襲われ、少女ダニーだけが生き残った。ダニーは隔離施設に保護され、そこで不思議な少年少女と同居生活を始める。私たちはミュータント。ここは次世代X-MENの育成機関らしい。しかし力を制御できる段階にないダニーたちは悪夢に苦しめられ……。

【感想】

 公開延期の重なった、本編キャラ不在の『X-MEN』ホラー編。どのジャンルとしても中途半端な出来ではあるけれど、思春期の心の葛藤に懊悩し、それが物理的なアクションとして結実する様に惹かれた。アニャ・テイラー=ジョイ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のアリア・スタークことメイジー・ウィリアムズ、『ストレンジャー・シングス』のジョナサン・バイヤーズことチャーリー・ヒートン、この三者が若くて旬の時期に揃って撮影していた、という事実が記録されてるだけで価値はあるし、『X-MEN』の核にある陰の部分は外していない。

 

『ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者』

【評価】A

【監督】クリス・ベッコーヴァー

【制作国/年】アメリカ・オーストラリア/2017年

【概要】クリスマスの夜、少年ルークは憧れのベビーシッター・アシュリーに面倒をみてもらえることになり張り切っていた。けれど、どんなアプローチをしてもアシュリーはなびいてくれず、アシュリーの元彼が二人ともクズだと知っているルークはやきもきする。そんな夜、謎の訪問者の気配が静かに二人きりの家を取り囲んでいた。

【感想】

 ともかく何も調べずに見てのお楽しみ。途中で出てくる先行作品の身も蓋も無い引用。映画ファンなら誰もが想像したことがあると思うが、それを実際にやってるので笑ってしまうし感動さえ覚える。ネトフリの『ザ・ベビーシッター』と続けて見るのも面白いかも。

 

ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』

【評価】A

【監督】キム・グェン

【制作国/年】カナダ・ベルギー/2019年

【概要】株価の高頻度取引を生業としていた従兄弟同士のヴィンセントとアントン。彼らはカンザス州データセンターとNY証券取引所間のデータ通信を0.001秒早めることによりビジネスを有利に進める光ファイバー敷設工事に取りかかる。しかし彼らが裏切った元上司のエヴァが計画をかぎつけ……。

【感想】

 大事業を成した狂気の実話、ではなく、大事業を成そうとした執念の実話。あまり波はなく、一直線に進んでいく話なので物足りなさもあるかも知れないのだけど、俳優陣の好演により地味に積み上げていった話が、ラストシーンの僅かな会話に集約されるロマン。苦しいはずの状況に不思議な達成感が宿る。この一瞬の為に映画観てるよなという感慨が確かにあった。

 

『ザ・ハント』

【評価】A

【監督】クレイグ・ゾベル

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】ブラムハウス制作の一本。飛行機でセレブたちが運ぶ、気絶させられた12人の男女。彼らはだだっ広い森で目覚め、すぐそばには大量の武器が用意されていた。SNSポッドキャストで右翼的差別言説、陰謀論を拡散していた彼らは、ある噂を思い出す。金持ちリベラルによる人間狩りゲーム、「マナー・ゲート」の存在を。

【感想】

 まず90分が一瞬で過ぎるサバイバルゲームものとしての面白さに尽きるのだけれど、なぜ一瞬で過ぎるかと言えば状況も人間も予断を許さないからであり、「予断を許さない存在」としての人間を描くことがそのまま本作のテーマにもなっているので、非常にスマート。今時の醜いネトウヨ言説をエンタメに昇華できる様も素直に憧れる。

 

『ZOOM ズーム/見えない参加者』

【評価】C

【監督】ロブ・サベッジ

【制作国/年】イギリス/2020年

【概要】2020年、コロナ禍のロックダウンに見舞われたイギリスで、大学の同窓生であるヘイリーたちはZOOMで暇をつぶすより他なかった。そして今日は霊媒師を一人招き、ZOOMで降霊会を試すことに。しかし参加者の悪ふざけが「何か」を呼び寄せた状態で、霊媒師との通信が途絶えてしまう……。

【感想】

 ZOOMの機能を使った60分の体感型ホラー。コロナパンデミックの中、機を見てすぐに本作を撮影したフットワークの軽さは素晴らしい。バーチャルアバターがそこにいない存在に覆面をかぶせる様は今時の恐怖として魅力的。ただそれ以上のアイデアは無く、『アンフレンデッド』シリーズと比べるとどうにも弱い。

 ラスト8分はオマケのリハーサル映像で、「ちょっと怪奇現象っぽいことも起こりました」くらいのことなんだけど、むしろそれより「リハーサルのこういうちょっとした会話を本編に活かしたんだな」と判ることが面白い。

 

エスケープ・ルーム』

【評価】A

【監督】アダム・ロビテル

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】数学を得意としているが引っ込み思案なゾーイのもとに、最近流行りの脱出ゲーム(エスケープルーム)の案内が届く。優勝賞金は1万ドル。舞台となるビルに到着すると、そこには他に5人の男女の姿。6人はやけに金のかかった脱出ゲームへの挑戦を開始するが、その内容は命を危険に晒すものであった。

【感想】 

 当記事の中でいうと『ザ・ハント』的な「このジャンルでここまで飽きさせなかったら大成功だよ」という点と『ハミングバード・プロジェクト』的な「たった一言の為に全てが機能する美しさ」という点とが合体していて、予想以上の満足度。ジャンルに逆らわず、ジャンルに抗う。その塩梅が見事。このテの海外製ホラーとしては珍しくグロが無くて品があった。

 

ザ・ファブル

【評価】C

【監督】江口カン

【制作国/年】日本/2019年

【概要】幼い頃から殺し屋英才教育を受けてきたが、一般常識の欠如した男、偽名:佐藤明ことザ・ファブル。彼に下された新たな命令は、偽の妹:洋子と大阪で一年間暮し、普通の人間の感覚を覚えること。そして、この間に誰も殺してはならないこと。言われるがまま自分なりの「普通」を実践していくファブルだったが、次第に物騒な連中が集まり始める。

【感想】

 原作漫画が実写的な「間」で見せていくのに対して、実写版はいかにもなオーバーアクトを多用していき、それは端的にスベっている。せっかく本人の振り付けも交えている(一部かなり危険なもの含む)アクションシーンも目出し帽をかぶっていて誰だかわからない。監督、もっと岡田准一に興味持って。とは言え終盤廃工場でのアクションたたみかけには勢い任せの魅力があった。岡田の体技が真にフルで活かされる映画にはいつ出会えるのだろう……。

 

孤狼の血

【評価】B

【監督】白石和彌

【制作国/年】日本/2018年

【概要】暴対法成立以前の広島。エリート新米刑事・日岡は、暴力的なベテラン刑事・大上と組まされる。尾谷組と五十子会系加古村組との戦争開始まで秒読み状態に入った危険な街中で、グレーな捜査や癒着に塗れた大上に対し、日岡の不審は募っていく。そしてとうとう、街中に弾丸は放たれた。

【感想】

 『トレーニング・デイ』的な悪い先輩モノと『仁義なき戦い』のマッチング。及第点は遙かに超えて面白いしワクワクするのだけど、一方で(例えば『ヤクザと家族』と比べると)これといった強いシーンや印象的なショットがなく、『仁義なき戦い』という先達の勢いを借りつつも、その上をいこうとする心意気までは感じられない消化不良感が燻ってしまった。うじきつよしかと思ってた人がうじきつよしじゃなくて吃驚する(中山しゅん?さんかな)。

 

『黒い司法 0%の奇跡』

【評価】A

【監督】デスティン・ダニエル・クレットン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】80年代、貧しい土地から出てロー・スクールを卒業したブライアンは、アラバマ州で死刑囚の人権擁護の為に活動していた。そして刑務所でジョニーDこと死刑囚ウォルターに出会う。アリバイ証言者がいるにも関わらず、司法取引による別の犯罪者の証言によって死刑判決を下されたジョニーDの為、ブライアンの長い闘いが始まる。

【感想】

 実話の映画化。『ショート・ターム』クレットンの演出はひたすら慎重で遊びが無いが、だからこそ運び込める誠実なメッセージはあるのだなと。差別問題のみでなく、死刑制度そのものへの静かで強い抗議の声が刻まれている、マイケル・B・ジョーダン目当てで見たが、偽証囚人マイヤーズを演じるティム・ブレイク・ネルソンが素晴らしい。

 

アニメ映画の採点 その3

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アニメ映画の採点第3弾です。

採点は目安で適当ですが、あくまでこのアニメ映画の採点シリーズ内での相対的評価で、一般映画へのそれとは別物です。

そもそも見ている最中には採点とかしてませんしね。

 

 『写眞館』

【評価】C

【監督】なかむらたかし

【制作国/年】日本/2013年

【概要】初期スタジオコロリドの手掛けた短編。戦前から戦後にかけて、東京の丘の上の写眞館を営む主人と、その客である笑わない少女。二人の半生を台詞なしで綴る。

【感想】

 木村真二の美術が光る美しい作画でたゆたうように月日は過ぎていく。その様が叙情を煽るが、意外と中身が無いというか。例えば戦前の新聞に日韓併合の文字があり、戦争や震災も経るのに、そうした時代の趨勢には敢えて一切言及せず淡々と街の片隅で生きた市井の人々を綴ります、みたいな美学がもう食傷気味。

 「物言わない」ということをあまり良いとは思えなくなってきた今日この頃。

 

陽なたのアオシグレ

【評価】B

【監督】石田祐康

【制作国/年】日本/2013年

【概要】『写眞館』と同時上映されたコロリドの短編。同級生の少女シグレちゃんに恋する少年陽向。シグレとの距離を少しずつ縮めるが、別れの時が来てしまい……?

【感想】

 ショートショート『フミコの告白』の勢いを男女逆転させて少し拡大しただけなのだけれど、やはりラストスパートのアニメの勢いは楽しい。ただスカートのくだりとかシグレのあまりに一方的に理想を押しつけられたキャラ性とか、2013年の作品としても古臭いと感じて乗り切れなかった。

 

Fate/Kaleid liner Prisma☆Illya プリズマ☆ファンタズム』

【評価】C

【監督】大沼心

【制作国/年】日本/2019年

【概要】『プリズマ☆イリヤ』のパロディOVA。ラーメン屋店主・言峰は祭りの予感を感じていた。一方、本編では過去篇で退場している「桜の兄」は、桜からの糾弾を受け手に職をつけるべく冬木市の人々の間を巡る羽目に。更に一方、マジカルルビーは凛ではなくイリヤの友人たちを魔法少女に変えるパラレル展開を大量生産していた。

【感想】

 プリヤ劇場版でありながらイリヤが最後の1シーンしか出てこない『雪下の誓い』に続き、またしてもイリヤの出番は僅かで神父と慎二がメインという横暴。意外とちゃんとオチをつけたラストのダジャレは嫌いじゃない。昨年末に『Fate/Grand Carnival』を目撃した後だと内輪受けギャグをやり切るだけのテンションが欠けてる印象。時に勢いは大事。

 

『劇場版 生徒会役員共

【評価】

【監督】金澤洪充

【制作国/年】日本/2017年

【概要】男子に対して女子の数が圧倒的に多い桜才学園の生徒会。隙あらば猥談に走る生徒会長天草シノ、書記七条アリア、会計萩村スズに囲まれて、副会長津田タカトシは今日もツッコミに忙しい。桜才学園に新たに赴任してきた教師・小山はシノの小学校時代の教育実習生であり、就任早々下ネタの嵐に巻き込まれていく。

【感想】

 笑いのツボの合わない四コマを60分間アニメで見せられると結構な苦行で逆に新鮮な体験だった。四コマを四コマの体感速度のまま60分映像化するとそこいらの二時間映画より長く感じます。

 この内容なのにGoHandsの映像美が主張してきて画面が無意味にギラつくの、気持ち悪くて笑ってしまう。

 

『映画 かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち』

【評価】B

【監督】岩崎知子

【制作国/年】日本/2015年

【概要】ゾロリ、イシシ、ノシシが流れ星に願い事を唱えていると、隕石が落ちて来た! 海底に沈んだ隕石で金儲けを企むゾロリだったが、イシシとノシシのオナラの力で海底から一気に宇宙のムムーン星まで飛んでしまう。そこでクララ姫に一目惚れしたゾロリは怪獣退治に力を貸すことになり……。

【感想】

 脚本クレジット「岡田麿里小柳啓伍・和場明子」に加えてゲスト声優茅野愛衣でどこのP.A.WORKSかと思った、初めて見た『かいけつゾロリ』。漠然と劇場版コナンみたいに劇中でクイズが出されたりするのかと思いきや、そういう話じゃないんですね。

 僅か50分のストーリーの中、宇宙への「行って/帰る」の折り返しをちょうど真ん中くらいで行い、そしてトータルとしてのタネ明かしが最後に行われる綺麗な構成。序盤の展開の尋常じゃない速さ、『ファントム・メナス』と『千と千尋の神隠し』を合体させちゃったような珍場面等、想像以上に鑑賞後感が良かった拾いモノ。

 

『映画 かいけつゾロリ ZZのひみつ』

【評価】A

【監督】藤森雅也

【製作国/年】日本/2017年

【概要】ドーナツシティへ立ち寄ったゾロリたち。明日行われるドーナツ店のドーナツ無料サービスに並ぶため、空飛ぶ機械「ゾロリアン」の目覚まし機能にイシシとノシシのオナラをセット。しかしゾロリアンは時空の歪みへワープしてしまう。降り立った郷愁漂う町。そこで出会った「運命の人」ゾロリーヌの正体は、ゾロリの母であった……。

【感想】

 藤森雅也監督×吉田玲子脚本。話は露骨に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なのだけれど、いつも亡くなった母を思うゾロリの物語の中に実際に生前の母を出してしまうという挑戦をスムーズに展開。そして謂わばオトナ帝国である(にしても今の子供に見せるには古すぎないか)昭和ノスタルジーな世界をちゃんと冒険の舞台としてあの手この手でワクワクする画面に仕立てる職人芸。

 ゾロリを見たのはこの記事内の映画で初めてなのだけれど、それでも「超長期シリーズの根幹に関わる主役のオリジンを描ききった」ことはハッキリ伝わった上「タイトルそのものに堂々と隠された秘密」が明らかになり、そしてその秘密が消え去る瞬間があまりに鮮やか。

 それはアニメじゃ表現できないはずの「記録された時間」が捉えられたように錯覚する、紛れもなく名シーンだった。

 

『まじめにふまじめ かいけつゾロリ なぞのお宝大さくせん』

【評価】

【監督】亀垣一

【制作国/年】日本/2006年

【概要】自分の城とお嫁さんを手に入れる。相も変わらずの夢をうたた寝しながら見ていたゾロリの快眠を打ち破り、突如少女と海賊の追いかけっこに巻き込まれる。海賊タイガーの目当ては少女テイルがありかのヒントを知る宝。これは夢を叶える大チャンスと、ゾロリはお宝探しの冒険に出る。

【感想】

 岡田麿里さんが「困った時の速筆屋」として有名になった、超短期間で仕上げたとされる逸話のあるゾロリの作品がこれって事なのだろうか。

 『グレンラガン』より前の作品なのにグレンラガン初期みたいな、パロディ! アクション! メタ! のつるべ打ち。スピード感重視の脚本なのに作画は遊びまくって、アドベンチャーなのでそれが独りよがりにならず流れに寄与する。

 自分が知ってる『ゾロリ』は以上の映画3本だけなのですが、全部面白いっていうのはすごい。

 

『HUMAN LOST 人間失格

【評価】D

【監督】木崎文智

【制作国/年】日本/2019年

【概要】医療革命を成し遂げた昭和111年の日本。富裕層が120歳の寿命突破を迎える人々を祝う「合格式」が近付く一方、貧民層は汚染された大気の中で国民健康保証機関「SHELL」の監視下のもと窮屈な暮らしを強いられていた。

 下宿先のマダムに甘え、何もせず死んだように絵を描き続けていた葉蔵は、暴走族の友人がSHELLに反旗を翻して死んだこと、SHELLの幹部である美子との出会い、そして自らが人ではない「ロスト体」に変質したことをきっかけに、社会の変革を巡る戦いの渦に巻き込まれていく。

【感想】

  いつもどうにも無機質過ぎるポリゴンピクチャーズのアニメとして見ると、アニゴジから比べ遥かにテクスチャーに質感があり、特にマダムのバーや葉蔵の部屋が新鮮で、着実にCGアニメも進化してるんだなぁというリアルタイムの感動がある。

 ただ話が……どんなに原作のフレーズを弄ったところで、原作のテーマをまったく描いていないので、どこまでいっても『人間失格』にはならない。冲方丁さんはもっと自分をさらけ出すべきだった。あるでしょう思い当たるところ。乱歩の面白さをまったく理解せず作ったとしか思えない『乱歩奇譚』と同じ轍を踏んでいる。

 

『音楽』

【評価】B

【監督】岩井澤健治

【制作国/年】日本/2020年

【概要】他校の不良からも一目置かれる不良の研二は気紛れな性格。重なった偶然に流されるまま友人の太田、朝倉とバンドを組んでみる。ギター不在のスリーピースで初めて音を出した時、音楽の快楽が三人を直撃。バンド名を「古武術」に決めるが、同じ学校に既に「古美術」なるバンドが存在しており……。

【感想】

 岩井澤健治監督が脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、作画・美術監督、編集を担当し、7年の時間を費やして完成させた意欲作。ただ本作素晴らしいのは映像の緻密さや派手さでは雲泥の差である『HUMAN LOST 人間失格』の後で見ても圧倒的に「映画だ」と思わせる「間」の取り方。アニメだからいくらでも調整出来そうな「間」が本作のシンプルな線や主演のゆら帝・坂本慎一郎ら非職業声優の不安定な演技と相俟って、まるで実写のような緊張感でそこに創出され、その延長上で「音が鳴る」瞬間のアニメーションの歪みが快楽に繋がる。

 あまりに「いつの何?」ってなる時代背景の判らなさのせいかイマイチのめり込みきれず、サブカル的な甘えをもう少し脱臭して欲しかった。

 

『劇場版 ハイスクール・フリート

【評価】C

【監督】信田ユウ・中川淳

【制作国/年】日本/2020年

【概要】国土が水没した日本。海を守る「ブルー・マーメイド」となった明乃たちは航洋艦晴風」に乗ってかつてのライバル達と遊戯会を満喫し、迷い込んだ異国の少女スーザンと親しくなっていた。しかしそこへ海賊が襲撃。日本政府からの圧もかかり、ブルー・マーメイドはいよいよ実戦に投入され……。

【感想】

 未だに偽のタイトルだった『はいふり』の方が定着してしまっている失策くらいしかTVシリーズの知識が無い身としてはひたすら散漫な前半が辛く、比較すると集合の過程をこそそのまま見せ場にしたストパンや、とりあえず冒頭でハッタリ効かせたガルパンの「劇場版」への覚悟を感じる。

 ガルパンが「戦車なのに立体的バトル」の意外性で魅せたように、本作も終盤「戦艦なのに屋内バトル」という意表を突くビジュアル(見ればわかる)でなかなか楽しませるので見て損はなかった。中盤の白兵戦が妙に間延びしていて、公開時はここで作画崩れてたのかな~と邪推。タイムを測り切れていないような奇妙な場面だった。

 

『銀幕 ヘタリア Axis Powers Paint White』

【評価】E

【監督】ボブ白畑

【制作国/年】日本/2010年

【概要】宇宙からピクト星人がやってきた。動くピクトグラムのような奴らは人類を「のっぺら」に変えてしまう。これに抵抗するため世界各国は力を合わせ、腹の底では侮蔑し合いながら立ち上がる。戦うのではなく「おもてなし」してはどうか?という日本の提案に乗っかり、世界各国のおもてなし合戦が始まるが……?

【感想】

 10年ぶりに触れても、Twitterまとめサイトレベルのネタで世界を擬人化し、日本の扱い一つとってもさしたる批評精神も持ち合わせてないことが丸わかりの内容に頭痛を覚える。オタクの悪いところが全てギュッと詰まったようなコンテンツ。

 そんな感じでヘタリアのことはバカにしているのだけど、私見抜きにしても「棒人間みたいな宇宙人と戦うネタ」で80分、合間に脈絡のないショートコント。普通につまんない。ショートショートは見やすいようで、合わないと終わらない地獄と化す諸刃の剣。60分の『劇場版 生徒会役員共』でもだいぶ長く感じたのに。

 

『劇場版 新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』

【評価】B

【監督】池添隆博

【制作国/年】日本/2019年

【概要】雪山へ遊びに来たハヤト達は、そこで友人の発音ミクと巨大怪物体ゴジラとの戦闘に巻き込まれる。その最中、ハヤトと父ホクトは光の粒子の向こう側へ消失。そこでハヤトが見たのは、かつて夢で出会った第三新東京市碇シンジや洞木三姉妹。あれは夢じゃなかった? なんとか現実に帰還するハヤトだったが、父ホクトが9歳の姿になってしまっていた……。

【感想】

 パロディを淡々と繰り出すので笑うに笑いきれずモヤモヤする演出。でも仕掛けの量で自然と乗せられてしまう。家族連れで見に来た観客に対して、「父親が一番幼くなったら」というifの話を繰り出す事そのものが面白かったし、余韻にはSFだけがもたらせる思考の遊戯があった。

 

薄暮

【評価】B

【監督】山本寛

【制作国/年】日本/2019年

【概要】福島県いわき市。今もテレビでは放射線測定数値が報じられる地帯。部活の弦楽四重奏に参加しながら漫然と生きていた女子高生は佐智。かつてのトラウマも癒えてきた日々の中、避難地域から訪れた祐介と出会い、惹かれていく。なんとか彼の心を繋ぎ止めたい。佐智の心にようやく芽生えた衝動は、そのまま演奏会本番当日を迎える。

【感想】

 復興地域の些細な日常を描きながら、涙の消えた少女に再び涙が戻るまで。『ユーフォ』へのアンサーなのか、美麗な背景美術に過剰な撮影処理を施さず、美しい絵に演奏が乗るシンプルな感動を狙う。

 無駄に静止画が挟まってるように見えたり、単純にキャラの芝居があまり巧くいってなかったり、アニメとしての快楽は弱いけれど、ヤマカンの脚本が良かったのが意外。

 あえて本筋に震災を絡めず(でも震災抜きではありえなかった補助線がある)、シンプルに「今まで恋愛に興味無かったけどこの男の子絶対離したくない彼氏にしたい欲が出た」というだけの少女の心の機微を、観察するようにそっと窺ってる。

 

機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅴ 激突 ルウム会戦』

【評価】B

【監督】安彦良和・今西隆志

【制作国/年】日本/2017年

【概要】U.C.0079。ジオンはコロニー落としを遂行し、地球人類の半数を虐殺。ザビ家もまたそのギレンによる想像を絶する凶事に混乱を来す。その余波はサイド7で暮らすアムロやサイド5で暮らすセイラにも忍び寄っていた。一方、ジオンについていけずコロニー落としに不参加だったランバ・ラルはクラブ・エデンで酔いつぶれ……。

【感想】

 芝居の大仰さが止まらず、ドズルの場面だけでもおなかいっぱいだったのに黒い三連星まで大芝居を打つ場面でゲップが出る。1シークエンスごとの強度が、起こることの大小に関わらず一貫して高い。オリジナルのカップルを登場させてジオンの毒ガス攻撃で殺すという辺り、ガンダムを援用するオタクたちの「正義の反対はまた正義なのだフンス」みたいな態度に激しく釘を刺す。

 セイラさんが連邦側の悪党共をぶっ殺す見せ場が楽しい。ちょくちょく西部劇的な魅力を挟んでくるオリジン、ハモンさんが長々とクラブで歌う場面も「なんなんだw」とは思うけどやはりシークエンスとしての強度が高い。

 

機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅵ 誕生 赤い彗星

【評価】B

【監督】安彦良和・今西隆志

【制作国/年】日本/2018年

【概要】コロニー落としの余波は開戦への熱を帯び、ついにサイド5・ルウムにて激突。ヨハン・イブラヒム・レビルが指揮する連邦艦隊はジオン軍を追い詰めるが、ジオンは虎の子「モビルスーツ」をシャアの陣頭指揮により発進。MSの圧倒的機動性により連邦艦隊は次々撃沈。レビルは追い詰められ、捕虜として収容される。そんなレビルの前に現れたジオン公国国王であるデギンは、とある嘆願をする。

【感想】

  かくして一年戦争の幕開け。後のホワイトベースクルーそれぞれの点描も重なり、『機動戦士ガンダム』の直前で話は終わる。大仰過ぎる芝居が変な間を生んでいることも今回ばかりはレビル、デギンの思惑の交錯を描くのに一定の緊迫感を与えている。前回に続きイキリ不良時代のカイが可愛い。

 レビルの言い分もわかるしデギンの言い分もわかる。人間は愚か。ジオンの人間全体的に抽象的な観念に寄りすぎてるので、理想を語っても周りに追従されづらい問題、そりゃシャアからすればつけいり放題ですよ。

 シリーズ初期ではキャスバルに感情移入させながら、もはや完全に「何考えてるかわからない赤い彗星シャア」が完成しているのも面白い。しかし冒頭のCG艦隊戦、ザクがいない場面つまらなかったな…

 オリジンのアニメはここまでで良かったと思う。サンダーボルトはまだまだ観たいが。安彦先生の次のアニメも観てみたいです。

 

『劇場版 マジェスティック・プリンス 覚醒の遺伝子』

【評価】B

【監督】元永慶太郎

【制作国/年】日本/2016年

【概要】いよいよウルガルとの最終決戦に勝利するチーム・ラビッツ。しかしイズルが重傷を負い昏睡状態となってしまう。ウルガルの意思を継ぐディオルナが残存戦力を引き連れて地球へと侵攻。狙いはグランツェーレ学園の地下に眠る「遺伝子」。学園から新たに参戦するラビッツの後輩、チーム・フォーンも苦戦を強いられる。果たしてリーダー不在のラビッツは、地球を守りきれるのか。

【感想】

 TVシリーズの時点で保守的で生ぬるい空気と寒いユーモアがキツくって全然ザンネン5を応援する気になれなかったので今回も話にはまったく乗れず。それはそれとしてオレンジのCGメカアクションが素晴らしい。モンスト劇場版でもそうだったけど、変にごちゃごちゃせず「塊」としての物体が、非常にカラフルな色づけで縦横無尽に動きまくる。「シン・エヴァ」よりよほどロボットアクションの魅力を魅せてくれた。あと戦闘中の掛け合いはやっぱり楽しい。

 

好きになるその瞬間を。告白実行委員会~』

【評価】B

【監督】柳沢テツヤ

【制作国/年】日本/2016年

【概要】HoneyWorksの楽曲に合わせて高校生達の恋愛模様を綴るシリーズ第二弾。中学生の瀬戸口雛は、勘違いから詰め寄ってしまった中性的な先輩、綾瀬恋雪に片思い。やがて恋雪を追って高校受験に成功するも、さしたる接点もないまま時間だけが過ぎていく。やがて恋雪の卒業の時は迫り……

【感想】

 AJでオールスターキャスト登壇のイベントを見たあとシリーズ第一弾は劇場で鑑賞したのだけれど、ちょっとついてけず距離を置いていたタイトル。二作目で作り手も馴染んできたのか、一気に見やすくなっていた。

 楽曲の使い方がミュージカル的で、一瞬で何年も過ぎたりする。どんな軽い少女漫画に見えても、彼女たちの数年間は重く長い。そしてその間に好きな人と交わせる言葉は一つ二つ、というのも意外と地に足が着いている。なるほど麻倉ももさんの声可愛い。

 

『劇場版 弱虫ペダル

【評価】B

【監督】鍋島修長沼範裕

【制作国/年】日本/2015年

【概要】インターハイ総合優勝を掴んだ千葉総北高校自転車部。続いて日本中からライバルが集まる「熊本火の国やまなみレース」に参加することになる。しかし、そこに巻島先輩の姿は無かった。イギリス行きを決意した巻島不在でのレース。それはチーム総北にとっても、ライバルの箱根学園にとっても特別な試合を意味していた。

【感想】

 映画らしい画面になっているかというと前半は弱いし、CGがハッキリ浮いているし、ヒメヒメの場面もっと面白く演出出来たでしょうとか全然昇華しきれていない部分も多いのだけれど、なにせ普段のTVシリーズが1分を30分に引き延ばすような作りをしている為に、わずか90分で次々試合の結果が刻まれていく弱ペダ、というのが新鮮だった。

 

ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』

【評価】D

【監督】山崎貴・八木竜一・花房真

【制作国/年】日本/2019年

【概要】『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』のストーリーがダイジェストで展開していく。主人公リュカは魔王ゲマによって父パパスを喪い、母マーサを囚われる。成長して冒険の旅に出るも、天空の剣を抜く勇者の資格は無かった。それでも苦難を乗り越え、やがてフローラとビアンカ、どちらと結婚するかという究極の選択を迫られる。

【感想】

 酷評されてるラストのアイデアそのものは、今まで誰もやったことが無い観客を巻き込む仕掛けが含まれているので大いにアリだと思う。CGアニメとしても、お馴染みのモンスターとお馴染みの魔法で戦う場面は非常に楽しいし新鮮。

 それでも。

 あまりに話の運びが酷い。「この場面をやりたい」という場面をまず箇条書きにして……終わり。そこをどう有機的にアニメーションで繋げていくかという工夫の余地が見えないし、台詞も酷い。ただ展開の羅列。ピクサーやディズニーから盗めるものなど無数にあるのに、いつもガワばかり盗んで細かい本当の技術は盗まない(勉強しようとしない)山崎貴の不誠実さが如実に表れてしまった。

 

『あるゾンビ少女の災難』

【評価】D

【監督】岩見英明

【制作国/年】日本/2018年

【概要】スプラッターコメディ(?)。夏休み。人気の少ない夜の大学に、オカルト研究会のメンバーが集まっていた。この大学に眠る埋蔵金を探すという名目だが、ある企みを持った鴨志田は大学に眠るミイラから石を取り出す。やがてミイラとそのお付き、二人のゾンビ少女が目覚め、石を取り戻すために殺戮を開始する。

【感想】

 ビックリした。このアニメの企画知ったの相当昔だし(特報は8年前に出来てる)、なんならアニメーションや作画の出来はそれよりもさらに10年か20年くらい古いレベルなのに、配信されたの2018年だって。裏で何が。

 早見沙織小倉唯のゾンビ少女が目覚め、その怪力によって夜の大学で学生たちを惨殺していくといういかにもジャンル物な面白さで満ちたフォーマットなのに、とにかく演出がダルいというか恐らく作業現場全体への意思疎通が成されていない為に、ジャンルさえ不在でただ淡々とはやみん萌え台詞を発し、グロい死体が増えていく。そう書くと面白がれる内容ではあるんだけど、「面白がれる」ことと「面白い」ことは別だと思うので、素直に勿体ないという気持ちが勝つ。

 でも、こうしてラノベ一冊を単発アニメとして映像化していくスタイル、有効だと思うしもっと増えたら嬉しいですね。

 

配信映画の採点

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配信映画は呟きで、という自己ルールが面倒臭くなったので配信映画の感想もまとめて記事にしていきます。

ほとんどのタイトルの記憶がすでに遠くなっているので、鑑賞直後の感想はTwitterで。

 

 

NETFLIX

 

『ザ・ファイブ・ブラッズ』

【評価】

【監督】スパイク・リー

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】チャドウィック・ボーズマン遺作の一本。ベトナム戦争中、CIAの隠し金塊を現地に隠したまま帰還した黒人兵士4人。彼らは唯一亡くなった隊長を含む「ダ・ファイブ・ブラッズ」として永久の友情を誓っていた。そして現在、ベトナムに観光客として訪れあの金塊を取り戻そうとするが……。

【感想】

 晩年の大林宣彦に非常にタッチが似ていて、語りが虚実を行き来し、ベトナム戦時下に現在の老人姿のまま一同が映り込み、かと思えば最後にはBLM運動にまで繋がっていくサンプリング精神。アジテーションと複雑性が同居する元来の「社会派スパイク・リー」節で、『ブラック・クランズマン』のストレートぶりがかえって引き立つ。

 それにしても戦場でただ一人若いチャドウィック・ボーズマンの神々しさ。スパイク・リーは闘病を知らなかったと言うが。

 

『#生きている』

【評価】B

【監督】チョ・イルヒョン

【制作国/年】韓国/2020年

【概要】ネトゲ中毒のジュヌが目ざめると、マンションの周囲はゾンビに囲まれていた。家族は帰ってくる気配が無い。たった一人のサバイバル生活が始まる。世界には絶望が蔓延し、次第に食料は尽きてくる。ジュヌはいつまで生きていけるのか……。

【感想】

 奇しくもコロナ禍の世界を映したような状況が重なり、恐らく今後沢山作られるだろう「ポスト・コロナとしてのゾンビ映画」の嚆矢になるのは(事故的にではあるが)本作で間違いない。正直あらすじは想像の範囲内なんだけど、『コンジアム』同様あらゆる最新の技巧を適切に駆使して万人が楽しめるエンタメを仕上げる。エンタメの基礎レベルの水準で、韓国映画はとっくにハリウッドを越えてると思う。

 

『エノーラ・ホームズの事件簿』

【評価】A

【監督】ハリー・ブラッドビア

【制作国/年】イギリス/2020年

【概要】ホームズのパスティーシュ小説をネトフリが映画化。ホームズの妹エノーラ・ホームズの小さな大冒険と、失踪した母親の謎を描く。『ストレンジャー・シングス』で異界に連れ去られていた少女イレブンを演じたミリー・ボビー・ブラウンが、一転してお喋りで快活なエノーラを演じる。

【感想】

 ガイ・リッチー版、カンバーバッチ版の演出の系譜を継ぎつつ『フリーバック』に倣いエノーラがカメラに語り続ける。枠組みからしてブリティッシュ魂溢れるお祭り感。謎解き、女性達の新時代の予兆と立ちふさがる壁、そして原作で触れられないホームズ家のありようといったこなすべき諸要素もふんだんに織り込んでいく。素直に楽しい。

 

WASPネットワーク』

【評価】B

【監督】オリヴィエ・アサイヤス

【制作国/年】スペイン・ブラジル・フランス/2019年

【概要】90年代初頭、キューバの操縦士レネ・ゴンザレスは、空港を飛び立ったままアメリカまで亡命する。そしてキューバからの亡命者たちを密かに救助しアメリカへ送り、米国国内の反カストロ・テロ組織と繋がる。キューバに残された妻オルガと子供は売国奴の家族として肩身の狭い貧困生活を強いられる。ところがレネの他にも不思議なアメリカ生活を送ってるキューバ亡命者が何人か描かれ……?

【感想】

 「描かれ……?」というかググればわかってしまう実在の物語であり、そこから逆算して描かれているまである説明の無さなので事前に調べてからの鑑賞がお薦め。アサイヤス作品としては『カルロス』の系譜で、そしてあちら以上に善悪の判断がつかない。普段は時間の「流れ」をスムーズに作り出すアサイヤスの編集が、ここでは流れなどなく過去に未来に放射され人と社会が紡ぐカオスを織り成している。

 

『シカゴ7裁判』

【評価】A

【監督】アーロン・ソーキン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会。これに抗議し意見を伝え、ベトナム戦争への反対を訴えるため、若者を中心に出自も階層も異なる人々が反戦運動を展開。次第に苛烈なデモに発展し、警官たちとの衝突事件を起こす。これを煽動したとして共謀罪の罪に問われた7人、そして悪意あるこじつけによって巻き込まれたブラックパンサー党ボビー・シール。彼らと義憤に燃える急進派弁護士ウィリアム・クンスラーは、恣意的な保守派裁判長ホフマン相手に裁判に挑む。

【感想】

 熱くアジってくる娯楽作として申し分ない出来。あまり個々人への踏み込みはせず、闘う人々へのリスペクトで一貫しており、結果随分と世界の見通しが楽観的な内容と思えなくもないが、こういう映画があっていい。銃のドンパチの代わりに言葉が飛び交う、そういうB級エンタメなのだ。ただサラリと流そうとすると黒人社会の背負ってきた痛みが余計引き立ち、エンドロールの登場人物各々の後日談でなんとも苦い気持ち。

 

『もう終わりにしよう。』

【評価】B

【監督】チャーリー・カウフマン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】「女」は彼氏ジェイクの実家へのドライブが憂鬱だった。寒い冬の田舎道を進み、彼の実家で神経質なジェイクとその両親の相手をすることになる。しかしただ単に変人であることを越えて、4人の会話はおかしい。ジェイクがおかしいのか、彼の両親がおかしいのか、それとも女自身が………? 同時進行で、とある学校の用務員の日常が描かれる。

【感想】

 どういう話なのかが判るともの凄く簡単な話なのだけれど、それをアヴァンギャルドな手法で淡々と見せられることが苦痛と感じる人もいるかも知れない。チャーリー・カウフマンなのでスマートな出来という訳でもない。

 ただ、自分にとってはまっっったく他人事では無かったので、せめてこんな風に映画が掬い取ってくれることはやはり救いで、寂しくも嬉しかった。

 

『獣の住む家』

【評価】B

【監督】レミ・ウィークス

【制作国/年】アメリカ・イギリス/2020年

【概要】スーダンから必死の想いでイギリスに亡命してきた夫婦。ここで下手を打って移民局に見捨てられたら居場所はなくなる。しかし忘れられないとある過去を引きずる二人の仲はギクシャクしていく。そんな夫婦を追い詰めるように、この家に棲んでいる何者かによる怪奇現象が襲いかかる。

【感想】

 『仄暗い水の底から』や『ババドック』のように、社会的弱者をさらに霊現象が追い詰める哀切なホラー。けれどどうもこの夫妻、こちらの単純な同情を許してくれない秘密を抱えている。「答えは堂々と映ってるのに観客はそこまで気づけない」というアイデアが見事で、それは現実にも起こりうるだろうし、今この時もどこかで起こっているかも知れない。「伝える手段」としてのホラーというジャンルの在り方がとても好き。

 あまり怖くないことを除けば良作。

 

『スペクトル』

【評価】 B

【監督】ニック・マチュー

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】近未来。東欧モルドバで内戦の鎮圧を行っていた米軍は、まるで幽霊のような、攻撃のすり抜ける謎の存在に一方的に苦戦を強いられていた。派遣された科学者クラインはなんとかこの「幽霊」の正体を探ろうとするが、クライン、兵士、現地の生存者を含む一行はこの幽霊の群れに囲まれてしまう。果たして奴らの正体は……。

【感想】

 非常に大まかな粗筋と大雑把な戦闘シーンが続く映画なのだけど、その雑さが弱点にはならず「ゴツゴツした兵器をゴツゴツと扱う」即物的な魅力を演出していく。そんな風に重力を感じさせる主人公側の攻撃が「すり抜けてしまう」敵との邂逅が、それだけで戦場の魅力と戦闘の虚しさを同居させて効率が良い。ちゃんと「正体」がある敵の設定も良かった。アバウトな作りだが、すべて計算されているような気もする大作。

 

『すべての終わり』

【評価】C

【監督】デヴィッド・M・ローゼンタール

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】恋人サムとの婚約を認めてもらうため、シカゴへとサムの両親に会いにいくウィル。サムの父親トムは元軍人の気むずかしい性格。なかなかうまく話を運べずにいると、外で何やら異変が起こった。それは全米で同時に起こったらしい。情報は途絶え、何も判らないまま世界は終末の様相を呈していく。サムの安否を確認するため、ウィルとトムの二人旅が始まる。

【感想】

 恋人の父親フォレスト・ウィテカーと世界の終わりを二人きりで旅する、という絵面の面白さをメインに、意外とオーソドックスなロードムービーを綴る。どこかがズバ抜けて悪い訳でもなく、良い訳でもなく。ここまで徹底して世界の終わりの理由を明かさないのは冒険だと思うけれど、オリジナリティからくる魅力を貫徹出来なかった印象。

 

『ホース・ガール』

【評価】B

【監督】ジェフ・ビエナ

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】それはサラのありふれた日常だった。街角の手芸用品店で働き、友人とルームシェアをして暮らし、オカルトドラマを毎日のように眺め、コミュニケーションは苦手。サラの生活は幸福に見える。しかし次第にサラのこだわりの偏執的な部分が目立ち、やがて彼女の行動はエスカレートしていく。

【感想】

  主演アリソン・ブリー(英語吹替え版『天気の子』須賀夏美役)が、実の祖母が患った妄想性の精神障害に対して抱く「自分もいずれそうなるのではないか」という恐怖をそのまま陰謀論に置換して自ら脚本に起こし映画化。ジャンルレスなふわふわ感のまま、妄想の中に生きる人の精神状態を綴っていく。あまりサラを異常者と思えなかったというか、多かれ少なかれ誰しもこういう妄想を抱えて生きてるのではないかと思う。

 普通の生活が徐々に狂っていく話と理解していたけれど、アトロクのネトフリお薦め作品回で村山章さんが話してた「画面のヒントを頼りに時系列をシャッフルして並び替えると実は筋が通っているのでは」というのが面白かった。

 

『デンジャー・ゾーン』

【評価】B

【監督】ミカエル・ハフストローム

【制作国/年】アメリカ/2021年

【概要】近未来。内戦鎮圧を行う米軍。ドローン操縦士のハープ中尉は、モニター越しに「二人を犠牲にするか」「残る38人を守るか」の選択を躊躇せず行い、戦場へ左遷される。そこで組むことになったリオ大尉。彼はあまりに人間臭い、アンドロイドであった。

【感想】

 ドローン、AI、メカ兵士、アンドロイドが戦場に緩やかに混ざり合っている時代。あまり気の利いた見せ場やハッとするスペクタクルは無いけれど、低めの温度でずっと楽しめ、その低体温のまま「そっち行く?」ってなる終盤に差し掛かったので結構満足。しかしミカエル・ハフストロームの映画に定期的に出くわすなぁ。期待しすぎないで。

 

『薄氷』

【評価】A

【監督】ルイス・キレス

【制作国/年】スペイン/2021年

【概要】スペイン北部、極寒の夜。刑務所へと新たに赴任した生真面目な警官マーティンは、6人の囚人を護送する車の警備を担当する。粗雑な相棒、個性的な囚人、その中の一人が密かに企む脱走……。出発して早々、護送車は謎の襲撃を受ける。果たして彼らは生き残れるのか。そして襲撃者の目的とは。

【感想】

 韓国映画と並んで今信頼の安定度を誇るのがスペイン映画なんじゃないかと思うんですけど、やはり安定でしたね。いつもどこか斜め上の意表を突いてくる。時に胃もたれするようなエグさと濃度。本作もそもそもどういうジャンルなのかを行ったり来たり楽しませながら、最後にはズシンとマーティンの葛藤で息が詰まる。

 

『時の面影』

【評価】

【監督】サイモン・ストーン

【制作国/年】イギリス/2021年

【概要】伝説とされた、暗黒時代の現代的な文明が実在していたと証明した「サットン・フー遺跡」発掘にまつわる、近年まで埋もれていた秘話を描く。第二次世界大戦開戦がほぼ確定し、その時を待つだけのイギリス。難病を抱えた未亡人エディスは自身が所有する旧王国の墓地の遺跡発掘を、僅かな給料でベテラン考古学者バジルに依頼する。やがて一隻の船そのものの船葬送が出土するが、そこへ大英博物館が乗り込んできて……。

【感想】

 弱いテレンス・マリックと言えばいいのか、静かにたゆたうような眼差しで、「歴史的な発見を行う、歴史の影に消える人々」を見つめる。そのか細い気配にそっと寄り添い続けることで、そんな私たちであろうとも生きてきた証はきっと残る、という微かな慰めにも説得力が宿る。淡い映画なのは良いが中盤から唐突に第三の主人公が現れるので、乗りきれないところもあった。

 大英博物館に展示されている遺跡の物語なのに大英博物館が割りと悪者として登場していて、これを出来るか出来ないかでその国の文化の豊かさが判るなと思う。

 

『私というパズル』

【評価】B

【監督】コルネル・ムンドルッツォ

【制作国/年】カナダ・ハンガリー/2021年

【概要】ボストンで暮らすマーサとショーン夫妻は自宅出産を希望し、専門の医師の助言に従い自宅での準備を備えていた。しかし、いざ産気づいたその時に訪れたのは代わりの助産師イヴ。3人は長い時間をかけて出産を終えるが、無事生まれたかに見えた赤ん坊はほどなく息絶えてしまう。責任は誰にあるのか。問題がテレビでも報じられる中、すれ違いゆくマーサとショーンの日常が綴られる。

【感想】

 見終わってすぐ感想書かないものだから色々忘れてしまうのだけど、冒頭の長回しが映画史に残るのは確か。冒頭こそ本編であり、そこから先は「終わってしまった後の日常」が大した波もなく、しかし不穏に続いていく。エレン・バースティン演じるマーサの母親の語る、「私も若い頃大変だけど頑張った。だからお前も頑張れ」論の呪縛を脱却する話でもある。製作はスコセッシ。

 

『マ・レイニーのブラックボトム』

【評価】A

【監督】ジョージ・C・ウルフ

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】1927年、シカゴ。とある暑い日。ブルースの母と呼ばれた伝説的シンガー、マ・レイニーのレコーディングが行われることになる。呼ばれたバックバンドの中に、野心家のトランペット奏者レヴィーはいた。白人のレコード会社社員にひたすら横柄に振る舞うマ・レイニーと、誰に媚びてでもこの機にのし上がりたいレヴィー。2人を中心に、レコーディング風景が描かれる。

【感想】

 ネタバレ避けて語るのが難しい。少なくとも自分は前半で「こうなるんだな」と思った予想は完全に裏切られた。マ・レイニーの横柄さは一つの戦いであり、より上手く立ち回ろうとするレヴィーは彼女と同等の立場にさえなれない。同じように差別と戦ってる人たちが共闘出来ない現実の抜き差しならなさ。半分舞台劇な映画としての危うさを、マ・レイニーとレヴィーの生き様が上回った感じだ。また恰幅のいいヴィオラ・デイヴィスと痩せ細ったチャドウィック・ボーズマンの対比が映像的に活きてしまうのが、なんといっていいのか。

 

amazonオリジナル

 

『7500』

【評価】A

【監督】パトリック・ヴォラース

【制作国/年】ドイツ・オーストラリア/2019年

【概要】ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる副操縦士が乗り込んだ、旅客機のコクピット。やがて離陸直後にハイジャックが起こる。辛うじてコクピットは死守した副操縦士だが、リアルタイムでの犯人との交渉は、次々と最悪の事態を引き起こしていく。なすすべもなく犠牲者は生まれ、事態に翻弄されるがまま、ただ90分が経っていく。

【感想】

 極小単位での『ホテル・ムンバイ』。もうどうしようもない事実として目の前で凶行が起こり、人命が軽々と失われ、そして犯人たちも余裕がなく、何かに駆り立てられるように暴力性がエスカレートしていく。「巻き込まれるしかない」普遍的な人の脆弱性を通して、「暴力」の虚しさが残される。劇場公開すればいいのにと思いつつ、アマプラで「うっかり出会ってしまう」良さもある映画。

 ※清水崇監督による同名ハリウッド映画もあるので注意

 

『ブラック・ボックス』

【評価】

【監督】エマニュエル・オセイ=クフォー

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】事故で妻を亡くし、自身も脳の欠陥で記憶喪失状態に陥ったノーラン。娘を育てていく為にも記憶を取り戻そうと、リリアン医師の特殊な心理セラピーを受ける。潜り込んだのは「思い出せない自身の記憶の世界」。だがそこで奇怪な存在に襲撃され……。

【感想】

 話の真相が明らかになった時の「え、それは……え? じゃあ、これからどうすりゃいいの???」という茫然自失感では屈指のストーリー。その後予定調和な終わりに向かうのはやや残念だけど、大袈裟な芝居が許されないキャラクターを主演マムドゥ・アチーが抑制して表現して実存不安を煽る。

 吹替え版で見るとリリアン医師が榊原良子さんで、延々と脳波がどうこういかがわしい説明を繰り出すので、完全に「こういうSFアニメ」を見てる気分になれます。

 

『ザ・レポート』

【評価】

【監督】スコット・Z・バーンズ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】9.11テロ後、CIAが数多のムスリム系テロ容疑者に行った「強化尋問」という名の非人道的な拷問。その不当性を調べ上げる為、数年に及び数百万ページの文書を精査した合衆国上院調査スタッフの調査と、フラッシュバックするその拷問の実態が矢継ぎ早の台詞で描かれる。

【感想】

 台詞の情報量が凄いので吹替版推奨。監督スコット・Z・バーンズは昨年話題になった『コンテイジョン』の脚本家。本作の主役は情報、或いは「言葉」。ある不正の証拠が衆知されるまで、忍耐強く黒塗り()された言葉を浮かび上がらせ、実在の固有名詞が遠慮なく飛び交う。その中で固有名詞を持つムスリムの人々が拷問で殺される。

 映画としての遊びの無さが却って映画の強度を高めてる。

 紹介を省き気づけば出ているキャラ。言葉尻に即切り替わるカット。かつて9.11にショックを受け海兵隊入隊したアダム・ドライバーが本作を演じる覚悟。

 自国の恥を受け入れ繰り返さないようにすること、それが何よりの愛国心じゃないか。当たり前のことなのにその表明にこれだけの労力がいる。デマで否定するのは一瞬で済む。吹替え版の質高かった。内田夕夜さん、声若いよなあ。

 

『ヴァスト・オブ・ナイト』

【評価】

【監督】アンドリュー・パターソン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】1950年代、ニューメキシコの田舎町、高校バスケ大会の夜。町の人が皆体育館の試合へ足を運ぶ中、地元ラジオDJと電話交換手の少女は、「空に何かいる」「変な音がする」という情報を追って、録音機を担ぎ町を駆け回る。

【感想】

 まだ話が動き出す前、「お祭りを前にして浮かれた田舎町の夜の空気」の中を事務的にDJが歩き回るだけで撮影手法がもう面白い。

 ラジオ局に寄せられる怪しい情報を電話交換手がDJに繋いでいく長回し。コードを差し込み、引っ込み、また別の場所に差し込み、引っ込み、という所作に夢中になり、カビが生えるほどオーソドックスなオカルト話なのにドキドキしてしまう。

 オチとか呆気ないし「だから何?」と言われたらそれまでの話だが、こいうした描写のドキドキを楽しみたくて映画観てるんだ。

 

『あの夜、マイアミで』

【評価】A

【監督】レジーナ・キング

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】マルコムX、モハメド・アリサム・クック、後にハリウッドスターとなるアメフト選手ジム・ブラウン。各分野で黒人の道を開拓した4人が、マルコム暗殺の直前、もし一夜に集い議論を交わしていたら?という映画。女優レジーナ・キングの監督デビュー作。

【感想】

 原作は戯曲(作者は『ソウルフルワールド』の脚本家)なので議論の場はホテルの一室に限られるけれど、外へ出ることでリフレッシュしたり、戯曲的閉塞感を巧妙に回避している。

 理想は同じだからこそ浮かび上がる差異、「議論する意義」が浮き彫りになる。

 何故この4人なのか。勿論パイオニアというのもあるけれど、それぞれ有名な「転換」を迎えようとしているからで、そしてマルコムだけはそこで……。実際にはありえなかった夜。でもその夜は今も現在進行形でどこかにあるのかも知れない。歴史の連続性が静かに余韻として沁みてくる。