『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(2)

   デジタル時計。

   19時台から一気に22時へ。

   照明点灯。

   長椅子にあかりと飯塚、会議机に包帯の取れた川島と豊本。

   上手から江田島が現れる。

江田島「いやー素晴らしいスピーチでしたね。川島社長、スポンサー大喜びですよ。すなわちこれ、私も大喜びですよ」

川島「いやいやそんな、たまたまですよ」

飯塚「たまたまですよね、本当の。何ちょっと『たまたまじゃない』みたいな顔で言ったんですか」

江田島「それに豊本さん。鬼相撲の決勝戦ね、チャンピオンを土俵際に沈めたあの瞬間」

   豊本、チャンピオンの証にツノの生えた王冠をかぶっている。

   仕切り板からボロボロの角田登場。

角田「冗談じゃねえよ、なんで最強チャンピオン『キックのムラサワ』さんがこれなくなったからって、代わりにその役俺がやんなきゃいけねんだよ。で、なんでお前(豊本)が勝ち上がってくんだよ......なんで本気で俺を殺そうとすんだよっ」

江田島「角田さん。何はしゃいでるんですか?」

角田「はしゃいでる?!......まあまあ、見ようによっちゃ確かにちょっとはしゃいでるように……見えねえだろっ」

飯塚「ノリッツコミだ」

江田島「あんま巧くはないよね」

角田「で、例のアレは届いたのか?」

豊本「角田、お前が欲しがっているのは、この(王冠を脱ぎ)鬼相撲チャンピオンの王冠か?、力づくで奪ってみろっ」

角田「いらねえよそんなもん。FAXだよ、歌詞のFAXだよ。いっぱいあるじゃん、違うのこれ?」

   角田、ゴチャゴチャした会議机に手を伸ばす。

豊本「触るなっ、(凄んで)刻むぞ」

角田「......刻んだことのある奴の目だ」

川島「社長、すいません我々には次の準備がありますので」

江田島「あ、すいません。じゃあ、よろしくお願いしますね」

   江田島、上手からはける。

飯塚「なんか、出来る奴ぶってません?」

   川島、爽やかに微笑む。

飯塚「その顔やめろよ、ムカつくから」

   スタジオから升野と、升野に怒鳴られて充希が出てくる。

升野「ふざけんなお前、こんなん使えるかよ、没収だ没収。お前は」

飯塚「どうしたんですか升野さん」

升野「どうしたもこうしたもねえ、お前オンエア見てなかったの?、あの地元で有名な書道の達人の米俵白雲斎が来て、UFIと書道やる企画なのに、肝心の米俵白雲斎来てねんだよ、お前どうなってんだよこれ」

   充希、激しくどもる。

升野「お前さ、遅れるなら遅れるで何時に来るのかしっかり確認しろよ」

充希(どもって)「すいません」

飯塚「どっから声出てんだよ」

充希「すすすすす」

飯塚「すすすすす、じゃねえよ」

充希「すうー」

飯塚「すうー、やめろっ、唯一無事だったスタッフなんだからしっかりして?」

充希「はい」

升野「お陰で現場はさんざんだよもう。小学校低学年の習字の時間だよ、みんなで筆振り回してきゃっきゃきゃっきゃやって。見ろ、これ。こんなの」

   升野、巻物状にして持っていたUFI作の書初めを開く。

   象形文字のような出来栄え。

升野「悪戯描きだよこれ」

飯塚「もう幼稚園児以下じゃないすか」

あかり「でもこの絵、結構いい味出てますね。本来、絵ってこう心のままに、自由に描くもんじゃないですか」

升野「いやいや絵を描けっつってない、字を描けっつってこうなったの。お前がいっつもそうやって甘やかすからアイツらいつまでもガキなんだよ」

あかり「私が間違っているって言うんですか?」

升野「......」

あかり「私の、絵に対するっ......」

升野「絵の話じゃねえんだよ、字の話してんだよ」

角田「升野さんよお。アンタなんにもわかってねえんじゃねえか?」

升野「あ?」

角田「クイーンステージ・エンターテイメントだかなんだか知らねえけどよ。大企業の犬に成り下がってよ」

   升野、足首回して準備運動。

角田「大事なもん忘れちまったんじゃねえのか?、もっと人ってのはよ......」

   升野、角田に助走つけて跳び蹴り。

角田「うわーっ、クソーっ」

升野「お前は曲を書けっ」

角田「畜生っ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「まったくどいつもこいつも使えねえな」

あかり「この、わからず屋っ」

升野「あ?」

あかり「ふんっ」

   あかり、ふてくされて上手へはける。

川島「升野、そんな風に言うことはねえんじゃねえか?、あかりはな、忙しい仕事の合間を縫ってデザイン学校へ通い、絵を学んでな。なんと、今日がその学校の卒業式だったんだよ」

升野「まずあの、絵の話じゃないからね?、字の話なんだよ。(充希に)お前、もう一回行ってちゃんと念を押して来いっ」

充希「私も、絵のことは」

升野「絵の話じゃねえっつってんだよっ、早く行けよ」

充希「失礼します」

   充希、スタジオへ。

川島「あかりはな、事務所が一丸となって取り組むこの23時間テレビが大切だからと言って、卒業式には出ないことに決めたんだ。この番組を成功させようと、一生懸命にやってくれてんだよ」

升野「......」

川島「だからさあっ、そんなあかりの為にさあっ、もうこんな番組のこと一回忘れてさあっ、今からサプライズで祝ってやるってのは、どうだいっ?」

飯塚「いや、おかしいおかしい。本末転倒過ぎるわ」

川島「......どうだいっ?」

飯塚「どうだいっ、じゃなくて。テンション上がっちゃったんですか?、なんで今日なんですか明日じゃ駄目なんですか?」

川島「なーんーと。今日がその学校の、卒業式だったんだ」

飯塚「聞いたよそれ、新鮮に言うなよ」

   豊本、机を叩いて立ち上がる。

豊本「だったらっ」

飯塚「なんで熱くなってんだよ。もう社長、サプライズはやめときません?、この前それで大失敗してるじゃないですか」

升野「駄目だよ、今そんなわけわかんないこと付き合ってる時間ないの」

川島「じゃあ升野このままでいいのか。頭ごなしにあかりを責めて傷つけて、こんなギスギスした状態で我々は一致団結できるのか?」

升野「そりゃ悪かったと思ってるけどさ」

飯塚「ほら升野さんのせいで社長の言ってることがちょっと正論みたいになっちゃってるじゃないですか」

川島「それに、あかりが気分良くなればさ、みんなもバリバリ気分良く仕事に取り組めるだろう?」

飯塚「もう、やるしかないでしょう。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

升野「どうやって気分良くさせるんだよ」

川島「まずは、お前らで一回あかりのことをボロクソに罵倒するんだよ」

升野「なんでだよ」

川島「それで、落ち込んでるところをちょちょいとやればさあ。(吐き捨てるように)イチコロだろう、あんな小娘よ」

飯塚「え、あかりちゃんの為にやるんですよね?」

川島「そして、あかりが落ち込んで凹んでるところを縛り上げて、目隠しをして、さらおうとする誘拐犯。助けてと叫ぶあかり。しかし誰も助けようとはしない。連れ去られたあかりが震えながら目隠しを外すと、そこにはUFIがいて、卒業を祝うプレゼントを渡す。完璧だろ?、よし、各自配置に就け」

飯塚「ひどいですよ」

   豊本、上手の様子をうかがう。

豊本「あかり、来ました」

川島「じゃあ俺、扉の前で待機してるから、ボロクソに凹ませたら合図しろよ?」

豊本「わかりました」

   川島、スタジオの中へ。困惑する飯塚・升野。

飯塚「ええ?」

升野「ちょちょちょ」

   升野がスタジオの扉に手をかけるも、向こうから閉ざされている。

升野「扉閉めるなって、スタジオ行けないだろ」

飯塚「もうサプライズどうにかしましょう。それしかない」

豊本「来た来た来た」

   上手からあかりが来る。

   平静を装う3人。

   あかり、頭を下げる。

あかり「さっきはすいませんでした升野さん。つい、ムキになっちゃって」

   升野、返答に困る。

   豊本、演技のスイッチON.

豊本「おーう、あかり。なんかUFIがお前のこと嫌いって言ってたぜ」

あかり「へえ?、なんでですか」

豊本「それに、俺たちだってお前のこと嫌いだからな。(飯塚に)なあっ?」

飯塚「ふあっ?、お、おう……お前なんかこの川島プロにいらねえんだよ、コノヤローっ」

あかり「なんなんですか?、急に」

飯塚「急......だよなあ、これ絶対おかしい」

豊本「余計なこと考えるなよ。升野、お前からも言ってやれよ」

   豊本、升野の背中を押す。

升野「おい、あかり。お前なんかちょっと見ない間によ、ちょっと大人っぽくなってんじゃん......覚えてやがれ」

飯塚「ちょっと褒めちゃってるけど?」

升野「緊張しちゃって......」

   角田、仕切り板から出てくる。

角田「FAXまだ来てねえのかよお」

飯塚「角田さん、今ちょっと立て込んでるんで、後で」

角田「後で?」

   豊本がまた升野をせっつく。

豊本「升野」

   升野、再びあかりに絡む。

升野「おいおいなんだよお前よ、よく見るとなんか、髪つやっつやだなあ......ざまあみろ」

角田「何の話をしてるんだ?、これは」

あかり「なんなんですか、升野さんまで。クイーンステージに行ってからも、私にだけは、連絡くれてたじゃないですか」

   升野、動揺。

あかり「『最近どうだ?』とか、『風邪引いてない?』とか、そんな優しいメールくれてたじゃないですか」

飯塚(嬉しそうに)「え?、え?」

角田「えっ?、なんだっ?」

あかり「『月が綺麗だね』なんて、他愛のないことでもメールくれてたじゃないですかっ」

飯塚「うわキツいわあーっ」

   逃げる升野を、はしゃぐ飯塚が追いつめる。

飯塚「えっ?、升野さん待って『月が綺麗だね』ってメールしたんすかーっ、『月が綺麗だね』ってアレじゃないですか?」

升野「は?、は?」

飯塚「夏目漱石が『アイラブユー』を和訳した言葉では」

升野「はっ?」

あかり(喜色)「えっ?、何を和訳したんですかっ?」

飯塚「そんなことメールしてる奴が何言っても無駄だわーっ」

升野「ふざけんな、メールなんかしてねえ、ウソこいてんじゃねえよお前よっ」

あかり「......なんでウソつくんですか」

飯塚「『ウソつくんですか』ってっ、ウソなんじゃん送ってんじゃーん」

あかり「私、嬉しかったのに」

飯塚「『嬉しかった』って、えーっ、良かったなあーっ、おいっ」

升野「(あかりに)「お前ふざけんな、調子に乗ってんじゃねえよ、お前のことなんか別に、なんとも思ってないもんなっ」

あかり「......」

豊本「いいぞ升野、その調子だっ」

飯塚「ただの照れ隠しじゃないすかーっ」

   飯塚、ますますはしゃぐ。

角田「なに陰でコソコソ話し......」

飯塚「やかまし、こらあっ」

   飯塚、角田に跳び蹴り。

角田「えーっ?」

飯塚「今こっちだいぶ面白いことになってんだよ。引っ込んどけっ」

角田「もおーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「今日だってさ。成長してんの図体ばっかかと思ったら、なんかいっぱしに色づきやがってよ。お前なんか、好きな人とか出来てよ、なんか仕事とか勉強とか手につかない感じになってんじゃねえの?。ちょっと言ってみろよ」

飯塚「いいねいいね、ちょっと探り入れてる感じがいいね」

あかり「そんなんじゃありません。手が回らなかったのは、新作漫画のことで頭が回らなくなってただけなのに」

升野「うん?」

あかり「そんな風に言わなくたっていいじゃないですか。私が、私がいくら留年したからってっ」

升野「?!」

飯塚「留年?!」

あかり「もう、最低っ」

飯塚「え?、あかりちゃん留年?」

   あかり、号泣して上手へはける。

飯塚「あかりちゃん留年?、不味くないすか、留年してるのに卒業おめでとうサプライズって最悪じゃないすか」

   升野、棒立ち。

飯塚「どうするんですか......ってメールの件まだ凹んでるんすか?」

   スタジオから、鬼の面を付けた川島が出てくる。

飯塚「社長!」

   川島、嬉しそうに面を外す。

川島「あかりは?、あかり来た?」

飯塚「いやちょっと、状況が変わったというか、話さないといけないことが」

升野「ちょっとUFIスタジオうえーん」

   升野、泣きべそかいてスタジオの中へ。

飯塚「升野さん?」

川島(嬉しそうに)「あかりは?、来た?」

飯塚「ちょっとお話ししなければならないことが出来まして」

   上手から江田島が出てくる。

江田島「川島社長。どうですか?、準備の方は」

川島「はい、もうバッチリです江田島社長」

飯塚「あなたも何か聞いてるんですか?」

江田島「いや同じ社長としてね、社員を想うその気持ち素晴らしい。見習いたい」

飯塚「いや、あのー」

江田島「そこで我々も何かお手伝い出来ないかと思いましてね。どうでしょうここはひとつ、ニャンコ先生へのサプライズを生放送しちゃうって言うのはっ」

川島「本当にいいんですか?」

   升野、スタジオから戻る。

飯塚「絶対駄目です、絶対駄目です」

升野「何が駄目って?」

江田島「実はね、今UFIの皆さんにね」

   江田島、テレビを点ける。

   モニターチェック。

江田島「チャレンジしてもらってる習字もね、卒業するニャンコ先生へ向けてのメッセージを書いてもらうよう言ってあるんですよ」

   スタジオ。

   ゴリナ除くUFIが習字を広げている(後ろ姿。顔は見えない)。

   『てんさいがはくあかりんに』

升野「え?、これ待って、もしかして」

   升野、先程持ってきていた象形文字のような習字を広げる。

升野「『天才画伯』って書こうとしてたってこと?」

   江田島、テレビを消す。

   照明点灯。

江田島「そして、目隠しされたニャンコ先生が連れて来られたその先は、なんとオンエア中のスタジオ。でUFIの皆さんにね、ニャンコ先生へのメッセージとプレゼントを渡して頂く。どうですか」

川島「素敵です、本当にいいんですか?」

飯塚「社長(川島)!、そして社長(江田島)!」

江田島「今、巷で話題のニャンコ先生が出てくれるんだから、視聴者大喜びですよ。そして更にニャンコ先生にはその場で、生で、今の気持ちを絵に描いていただく。テレビ出て絵描けんだからニャンコ先生も大喜びでしょう」

飯塚「やめませんか?、『テレビ出て絵を描けて大喜び』の意味もよくわかりませんし。社長(川島)、なんかね、言ってなかったことがあるみたいなんですよ」

江田島「あ!、気づかれましたか」

川島(喜色)「なになに、どういう事?」

江田島「実はこの事はもう、ラ・テ欄で予告しちゃってるんですよ」

   江田島、会議机の上のスポーツ新聞を嬉しそうにひけらかす。

飯塚「えーっ?」

川島「すっごいサプライズだよお♪」

   川島、嬉しそうに飯塚の背中を叩く。

江田島「川島社長大喜びだあ」

   升野、スポーツ新聞を開く。

升野「え?、『あのカリスマ作家がテレビ初出演。その腕前を披露』ってこれ、白雲斎のことじゃないんですか?」

江田島「いやいや、先生初出演じゃありませんよ。あの人基本テレビ出るの大好きだし」

升野「だったら今日もちゃんと来いよ」

川島「じゃあすぐに誘拐して、連れて来ますんで」

江田島「しっかり頼みますよ?、これは素晴らしいですよ。楽しみだなぁ」

   江田島、上手へはける。

飯塚「いやいや江田島社長、違う」

川島「これは盛り上がるなぁ」

   川島、嬉しそうにスタジオの扉へ向かう。

飯塚「いやいや川島社長、違う」

   充希が向こうからこっそり覗くスタジオの扉。

   そこをくぐろうとした川島を、飯塚が慌てて引き留める。

川島「なんだよ」

飯塚「流石に白雲斎先生に失礼じゃないすか?、これは。(充希に気づき)おお、ADさんちょっと来て」

   飯塚、充希を引っ張り出す。

飯塚「待ってれば来るんでしょ?、白雲斎先生」

充希「あの、さっき言えなかったんですけど。白雲斎先生も行方不明です」

升野「は?、じゃマジで別のカリスマ出さなきゃいけないの?」

充希「すいませんっ」

   充希、スタジオへ逃げ込む。

川島(嬉しそうに)「飯塚、もうこれは、あかりに出てもらうしかないな」

飯塚「それはちょっとやめてください。聞いてください社長、大変です」

川島(嬉しそうに)「大変だなっ、大変だよお」

飯塚「違う、そっちの意味じゃなくて。あの、ちょっと落ち着いて聞いてくださいね?」

川島「はい」

飯塚「あかりちゃん、留年してます」

川島「そう。じゃあさ、楽しくお祝いしてあげようよ、パアーっと」

飯塚「バカじゃないの?、留年ですよ、留年。あかりちゃん、卒業してません」

川島「......」

   川島、ようやく真顔になって。

川島「どういう事だバカヤローっ、卒業してないってことはお前、卒業してないってことじゃねえかよっ」

飯塚「だからずっとそう言ってるんです」

川島「聞いてないよ、俺はそんなこと」

飯塚「だからサプライズは中止です。江田島社長にも言って、全部中止にしてもらいましょう」

升野「いや、それは駄目だ。あの江田島社長のことだ、おそらくこのことも事前にスポンサーに触れ回って、それをダシにCM契約を取っているだろう」

川島「こうなったら無理やりにでもやっちまおうよ。無理やりにでも大人しくさせてさらっちまえば、後は黙らせて脅すなりなんなりして、こっちの要求呑んでもらうしかないだろ」

飯塚「それ、なんのサプライズなんですか」

川島「飯塚っ、勘違いするな......これはもう、ただの誘拐だ」

豊本「了解っ」

飯塚「了解じゃねえよ。それじゃ番組自体メチャクチャじゃないっすか。さっきのUFIのメッセージも何のことだかわからなくなりますし」

升野「それなら大丈夫だ。アイツらはあくまでも『てんさいがはくあかりんに』って書いただけだ。そこにあかりを連れて行って、なんとなくおめでとう的な空気にすれば、ギリギリ成立する」

飯塚「いや、そうおめでとう的な空気にならないでしょう?」

川島「よーし豊本、お前は最近あかりの身の回りで起こった、なんとなくおめでとうと言えなくもない出来事を洗い出せ」

豊本「......『年が明けた』って言うのは?」

川島「最悪、それで行こう」

飯塚「3月だよ、もうっ」

   あかりの泣き声がする。

豊本「あかり来ましたっ」

川島「よし、もう1回ボロクソに言うところから始めるからな」

飯塚「ボロクソ言う以外何か方法ないんですか?」

川島「贅沢言ってる場合か。おい升野、頼んだぞ?」

   川島、スタジオへ隠れる。

升野「おお、おお。わかった」

飯塚「いや、さっき出来てなかったでしょ?」

升野「は?、めっちゃ言えてたし」

飯塚「ちゃんとやってくださいよ?」

升野「当たり前じゃん」

   上手から泣いたあかりが現れる。

   升野、いきがる。

升野「おい、あかり。お前何泣いてんだよ、泣いてんじゃねえよお前よ。泣いたらお前......マスカラ落ちちゃうだろうがよ」

飯塚「何してんすか。ボロクソ、ボロクソ」

升野「言ってんじゃん」

   升野、再挑戦。

升野「何調子くれて化粧こいてんの?、お前。あ?、すっぴんでも大丈夫なくせにビビってんじゃねえよっ」

飯塚「もうお前、次あたり告白するだろ。好きだろ、なあ。そっちでもいいぞ、俺。面白いぞ、それも」

   升野、またまたチャレンジ。

升野「お前よ、聞くところによるとあかりよ。お前なんか、留年したそうじゃねえかよ、どうしようもねえ女だな」

飯塚「え、それ言う?」

豊本「そうだよ、なに留年してんだよ」

飯塚「乗っかるな」

豊本「恥ずかしくねえのかよテメエ」

   升野と豊本、手拍子。

升野・豊本「留・年! 留・年!」

   あかり、泣きやむと顔を上げ、怒りの形相。

飯塚「やめろって。俺、知らないよ?」

   あかり、2人に強烈なビンタ。

飯塚「ホラあ」

あかり「人の気も知らないで、無神経なことばっか言いやがってっ」

   あかり、長椅子にすがる2人をタコ殴り。

飯塚「あかりちゃん落ち着こう」

   角田が仕切り板から出てくる。

角田「留年ってなんの話かな?、ははは。(手拍子)誰が? 誰が? 留年したの?」

   あかり、手拍子に合わせて角田の顔を蹴りあげる。

   スタジオから鬼の面の川島登場。

川島「あかりはどこだ、あかりはどこだ」

あかり(不機嫌)「はあ?」

飯塚「今じゃない、今じゃない」

あかり「誰なの?、アンタ」

川島「お前を誘拐しに来たぞーい」

あかり「どいつもこいつもバカにやがってっ」

   あかり、川島を殴り倒し、タコ殴り。

飯塚「社長っ、もうどうすんすかこれ」

升野「ああーっ」

   升野が構えに入る。

升野「ギャラクシー・パッション!」

   ギャラクシー・パッションの放出で、川島とあかりがひっくり返る。

   今だ、とあかりを押さえる川島と升野。

あかり「ええっ?、なに?」

飯塚「ひどい。今ギャラクシーパッションの出し時だった?」

   川島、ガムテープであかりを後ろ手に縛り、豊本がアイマスクを被せる。

飯塚「なんだこの生々しい絵面はっ?、見てられない」

升野「スタンバイさせてくる」

   升野、スタジオへ。

豊本「すまないあかり、俺たちは誘拐犯に脅されて、仕方なくやってるだけだ」

あかり「なんでーっ?」

豊本「黙れこのアマっ」

   豊本、テープであかりの口を塞ぐ。

   川島と2人であかりを運んでいると、

   スタジオから充希とオニゾウ登場。

充希「ええーっ?、何やってんすか」

川島「見りゃわかるだろ、今あかりを誘拐してるんだっ」

充希「誰か、助けるみたいなの無いんですか?」

豊本「ちょっと、そこどいてっ」

角田「何がどうなってんだよ、教えてくれって」

   豊本、すがりつく角田を投げ飛ばす。

豊本「後で説明するからーっ」

充希「この、くたばれ誘拐犯。行けオニゾウっ」

   オニゾウ、川島を投げ飛ばし、タコ殴り。

充希「ボッコボコにせよ、ボッコボコ」

飯塚「死んじゃう、怪我がどんどん悪化していく」

   飯塚、充希にすがり寄る。

飯塚「君も落ち着いて」

   充希、飯塚を振り払う。

充希「こんな時に落ち着いてられっか。お前さん方の血は何色だなすーっ、行けえっ」

飯塚(笑)「キレると凄い方言になるな」

充希「行けっ、もういっちょっ」

飯塚「とにかく、違うから」

充希「違う?……誘拐犯じゃねえのか?」

   オニゾウ、手を止める。

豊本「いや、誘拐犯!、誘拐犯!」

   オニゾウ、再び川島をタコ殴り。

充希「くたばれ誘拐犯っ」

飯塚「違うからっ、なんなの?、急なその正義感はなんなの?」

充希「お前らこそなんなんだ?、都会の人は冷てえ冷てえって聞いとったけど、ここまでとは知らなんだなあーっ」

   川島、あがいてオニゾウを転ばせ、上手へ逃げ出す。

充希「追えーっ」

   充希の檄で立ち上がるオニゾウ、会議机を回って豊本を殴り、

豊本「おわっ」

   角田を殴り、

角田「痛てえっ」

   川島を追って上手にはける。

飯塚「なんでわざわざ遠まわりして2人殴ったんだ?」

   升野、スタジオから出てくる。

升野「ちょっと、あかりは?」

   充希、あかりの拘束をほどく。

升野「あれ誘拐犯は?、なんで(あかり)寝てんの?、おい、あかりに絵描かせるスタンバイ出来てるぞ」

飯塚「何の絵描かせるんですかこの状況で」

充希「あかりさん、スタジオに行きますよ」

   あかり、まだ口にテープ。

   何かふがふが言っている。

充希「とりあえず、立って」

升野「どういうこと?」

   充希、あかりをスタジオに放り、飯塚たちに興奮して捨て台詞。

充希「お前たちみたいなの野放しにわーわーわーっ」

飯塚「はあっ?」

   充希、スタジオへ。

升野「何?、あいつ。あいつ、何?」

   升野も2人を追ってスタジオへ。

豊本「くっそ、あのオニギリ野郎め」

飯塚「どういう状況なの?、なんでスタジオ連れて行ったのよ。ちょっと、テレビ」

   飯塚、テレビをつける。

   照明薄明りに。

豊本「違う、違うんだ、さっき俺油断しただけで」

   豊本、会議机の上の王冠を手に取る。

豊本「チャンピオンはこの俺だ」

飯塚「やかましいわ」

豊本「OHシット!」

   飯塚、豊本の背中を蹴り倒す。

角田「なんだ、一体どうなってんだよ」

   飯塚、角田にビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「教えてよ」

   ビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「全然ついていけないんだけど」

   飯塚、反対の頬もビンタ。

角田「あ、こっち駄目なんだよ痛いもう」

   飯塚、モニターチェック。

   2階の通路にUFIの後ろ姿。

   『てんさいがはくあかりんに』の習字を掲げている。

   そこへ充希が来て、しゃがむ。

充希「あかりさん、おねげえします」

   あかり、泣きながらボードを手に、

   習字の『に』の隣りへ走り出る。

飯塚「あかりちゃんだ」

あかり「皆さん聞いてくださいっ」

   あかり、高速でボードに筆を動かす。

飯塚「良かった、一応絵は描いてるみたいだ」

あかり「コイツが、コイツが私を誘拐しようとした男ですっ」

   ボードをめくると、鬼(川島)の絵。

飯塚「そっちかいっ」

あかり「この鬼のお面をかぶった男に、私はひどい目に遭ったんです。突然手足を縛られて、私は成す術もなく......」

   あかり、号泣。

飯塚「何このシュールな放送、後ろの『てんさいがはくあかりんに』の習字もまったく意味わからないし。これ、混乱するぞ?、視聴者」

   いつのまにか充希と共にUFIの脇で見守っていた升野。

升野「これしかない」

   升野、立ち上がると、UFIの習字を並び替えていく。

あかり「皆さん。皆さんの力が必要です」

飯塚「升野さん、何やってんですかもう。わけわかんねえよ」

あかり「この鬼の仮面をつけた男を」

豊本「おいおい升野」

飯塚「おしまいだよ、もう」

あかり「もしかしたら、この近くをまだ逃げてるかも知れない。皆さんの身にも何が起きるかわかりません。だからみんなでコイツ(鬼)を捕まえましょう」

   升野、並び変え終えるとはける。

   習字は『さいあくはんにんてがかり』の並びに。隣りに鬼の絵。

あかり「この、最悪の犯人の手掛かりを、お待ちしています」

飯塚「すげえ升野さん、そっちで成立させた」

充希「はい、CM入りました」

あかり「怖かった、私怖かったー」

   あかりを抱き止める充希。

充希「あかりさん、頑張ったな。勇気出したな」

   飯塚、テレビを消す。

   照明点灯。

角田「一体何がどうなってんだよ」

   角田、疲れて仕切り板の向こうへ。

飯塚「いやでもなんかこれ、大事になっちゃってない?」

   上手から江田島が登場。

飯塚「あ、来た」

   飯塚、頭を下げる。

飯塚「すいませんでしたっ」

江田島「素晴らしい。感動しました」

飯塚「え、いいんですか?」

江田島「だって、ニャンコ先生、絵描いて披露してくれたでしょ?、あの犯人がどうとかこうとかって、演出なんでしょ?、私その前の流れ見てなかったんでよくわかんない」

飯塚「あ、そうすか。じゃ良かったです」

   角田、仕切り板から登場。手には原稿。

角田「よっしゃよっしゃ、今夜はよっしゃだっ、来たぞ来たぞ、歌詞のFAX一通目だよ。絵が浮かぶんだよ、ちょっと聞いてくれ」

    角田、弾き語りを始める。

角田「♪ 中肉中背のちょっと怪しげな男が

    テレビ局の方から 泣きながら走ってきました

   ......なあ?、絵が浮かぶだろ?」

飯塚「それ、犯人の目撃情報じゃないすか」

角田「はあ?」

飯塚(FAXを手に)「ウソでしょ、視聴者本気にしちゃってんじゃん」

川島「飯塚......俺、逮捕されんのか?」

飯塚「こっち来ないで」

   暗転。

 

   背景デジタル時計。早朝6時へ。

   角田、ひとり会議机でFAXを読んでいる。

角田「これも違うしよ。もう全然違うじゃねえかよ、もう来ないなこれ」

   飯塚、歯磨きしながら上手から登場。

飯塚「角田さん、ずっと起きてたんですか」

角田「なんだグッスリ仮眠ですか?、いい御身分だなまったくよ。いいよなお前達は、どのコーナーも結局評判いいみてえだしよ。あかりちゃんのだって反響凄かったんだろ?、それに比べて、これ全部(FAX)目撃情報だよ、やってらんねえよ。いいなあ、危機感のねえ奴らはよ」

飯塚「流石にこの時間は大丈夫でしょう、当たり障りのないコーナーでしたし。『幸せカップルさんこんにちは』でしたっけ?」

   飯塚、リモコンで音量を上げる。

角田「音量上げんじゃねえよ」

飯塚「なんすか」

角田「俺はな、ひとり徹夜で自分の仕事に集中してるんだよ」

   升野、スリッパ片手にスタジオから登場。

角田「幸せカップルの話なんか聞きたかねえんだよっ」

   升野、角田の口にスリッパを押し込む。

升野「徹夜してんのはお前だけじゃねえんだよっ、甘ったれんな喰えホラ、全部喰えよ」

   角田、激しく噎せる。

角田「吐いちゃうぞお前っ」

   角田、噎せすぎて涙目。

角田「スリッパは履くもんだ、口に入れるもんじゃないっ、覚えとけっ」

   角田、泣きながら仕切り板の向こうへ。

   飯塚、こみ上げる笑いが止まらない。

升野「飯塚。人間にスリッパを食べさせると、あんな顔になるんだな」

   飯塚、爆笑。

飯塚「升野さん、ずっと起きてたんですか?、眠くないんすか」

升野「ああ。俺は体中の気を脳に直接ギャラクシーパッションさせることで、3日くらいは起きていられるんだ」

飯塚「そんなことして大丈夫なんですか?」

升野「ただまあ、翌日の反動とか凄い。幻覚見えたり、口から涎が止まらなかったり、後ずっと瞳孔は開いてるけど逆にそれが気持ちよかったり。病みつきになるぞ?」

飯塚「すげえヤバそうじゃねえか」

升野「だってお前今のコーナー酷いことになってるぞ」

飯塚「幸せカップルさんの話聞くだけでしょ?」

   飯塚、テレビを見る。

飯塚「あれ?、資料だともっと、純情そうな微笑ましい感じのカップルじゃなかったですっけ」

升野「またなんだよ。また、来るはずだったカップルが連絡取れないんだよ」

飯塚(顔を歪め)「なんすかこれ、元ヤン丸出しのバカップルじゃないすか。コイツらとUFIでトークしてんですか?」

升野「そうだよ。コイツら、ほとんどパチンコの話しか、あとエロい話しかしないから、聞いててどんどんムラムラしちゃって、下半身がギャラクシーパッションしちゃってさ、仕事にならねえんだよ」

飯塚「下ネタに使うなよギャラクシーパッションを。だってUFIは一応アイドルですよ?」

升野「唯一互角に渡り合えそうなゴリナはマラソン行っちゃってるからさ、あと深夜だから年齢的にMCはももりん一人しかいないでしょ?、もうどうしようもないんだよ、好き勝手やられ放題だよ」

飯塚「あ!、コイツら生放送で何やって。あーあ、すんごいエロいキスしてる」

   升野、テレビを凝視。

飯塚「もう舌が、舌が凄いよ。ももりん下を向いて顔赤くしてるだけじゃないすか」

   角田、仕切り板の上から覗く。

   升野、腰を丸める。

飯塚「ちょ、何反応してるんですか。反応してるでしょ、升野さんも。いいから指示出して来てくださいよっ」

升野「ちょっとトイレで1回ゼウスしてくる」

飯塚「ゼウスをそういう意味で使うなよ」

   升野、ティッシュ箱を取って、スタジオへ向かう。

飯塚「な!、ティッシュ置いてけっ」

   飯塚、ティッシュを奪い返す。

飯塚「行けっ、早く指示をっ」

   升野をスタジオへ追い払う。

   角田が仕切りから出てテレビにかぶりつく。

飯塚「何をしてんだ、お前はっ」

   飯塚、ティッシュを角田に投げつける。

飯塚「何、音量上げようとしてんだお前は」

角田「ティッシュは投げるもんじゃない!、覚えとけっ」

   角田、必死の顔で引っ込む。

   飯塚、笑って膝から崩れる。

   なんとか立ち上がり、ティッシュを戻す。

飯塚「もう何もかも上手くいかねえよ」

   エレベーターが開くと、中であかりと充希が楽しげに笑い合っている。

あかり「いやいや、それはないでしょ」

充希「でも、あかりさんなら割とアリじゃないですか?」

   2人、笑って出てくる。

飯塚「何?、こっちはどういうことなってるの?」

あかり「カラオケオールして、始発まで徹夜でお喋りして来ました」

飯塚「どんだけ仲良くなってんだよ。君(充希)、ADだよね?」

充希(即答)「そうです」

飯塚「そうですじゃねえよ。仕事しろ、仕事」

充希「はい、えへへ」

あかり「いいじゃないですか。私が誘ったんです。因みに、社長と豊本さんは江田島社長を連れて3人で呑みに行ってます♪」

飯塚「なんでみんな普通に出かけちゃってんだよ。おかしいだろうがっ」

   角田、仕切りから出てくる。

角田「ADお前」

充希「はい」

角田「FAXまだ来てねえのかFAX」

充希「ああ、もしかしたらスタジオにまだあるかも知れない」

   充希、スタジオへ駆け込む。

角田「早くしろよ、お前。身体もたねえよ、曲作る前によ」

   飯塚、また笑ってしまう。

   充希、FAXを手に戻ってくる。

充希「えへへ、これで全部です」

角田(受け取り)「来てんじゃねーかっ」

充希「すいませーん」

角田「早くよこせよ、お前......本当によ(目を通す)。お、いいじゃねえか。えっと最初が、これか?」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 駅前のコンビニで見かけました

 ......なんかこれじゃねえんだよなぁ。

 (FAXをめくる)

   ♪ 寂しそうに土手を歩いていました」

   充希、ノリノリ。

   あかり、不機嫌顔。

角田「素人は所詮こんな感じかな、まあ。

 (FAXをめくる)

   ♪ いかにも悪そうな人相でした

   これ全部目撃情報じゃねえかっ」

   角田、チャンチャンとカッティング。

飯塚「ただのギター漫談じゃないすか」

角田「どうなってんだよこれ、ちゃんと分けとけよ。目撃情報と、曲の歌詞とっ」

充希「あ、はい。すいません」

あかり「そうやって頭ごなしに怒鳴ることないでしょ?、飯塚さんからもなんとか言ってやってください」

飯塚「ちょっと今、それどころじゃないんだよ、こっち(テレビ)がさあ」

あかり「さっきからなんなんですか、その言い方。彼女は、私の命の恩人なんですよ」

飯塚「ああ、そっか、まあそうだよね。俺らもさ、犯人に脅されてあんなヒドイこと言わされて、辛かったんだよ?」

あかり「あの最悪な犯人の手掛かりが、こんなに集まって」

   あかり、ワナワナと震える。

あかり「それも全部......」

   あかり、ちょっと照れる。

あかり「ミッキーのお陰だよ」

   充希、ポカーンと呆ける。

充希「ミッキーって、私の事ですか?」

あかり「うん、充希だからミッキー。可愛くない?、私の事は、あかりんって呼んで」

   充希、嬉しくて笑いだす。

充希「いや、そんな恐れ多いですよ、そんな都会風のコミュニケーションは私には早いです」

角田「何がミッキーだよオラアっ、どぶネズミがあっ、働けドブネズミっ」

あかり「どうせテメエに歌詞の応募なんて一通も来てねえんだよ」

角田「いいや、来てるね、一通くらい来てる。じゃあお前アレだよ、もし来てたらよ、メアド教えろよ?」

あかり「なんで?」

角田「あっ?」

あかり「なんでっ?」

角田「ごめんなさいっ」

飯塚(テレビ見て)「あーあ、これカンペ出てるけど、ももりん絶対読めてない時の顔だよ。ちょっと行ってくるわ」

充希「あ、私も行った方がいいですか?」

飯塚「いい、いい。君はFAXの仕分けをしてて」

充希「はい......」

   飯塚、スタジオへ。

充希「私、やっぱこの仕事向いてないのかなあ」

角田「明らかに向いてないわなあ」

あかり「黙ってろ、このハゲ」

角田「はいはい、じゃあハゲは裏で育毛でもしてこようかなーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

あかり「ミッキー、あんなハゲの言うこと気にすることない」

充希「ありがとうございます。あかりさんは、素敵ですね。凄く可愛いし、凄いお洒落だし」

あかり「そんな、凄く可愛いなんてことは無いよ。普通に可愛いくらいで、うん」

充希「それに、ニャンコ先生として、ちゃんとやりたい事もやっておられますし」

あかり「いや、やりたい事をやっているって言うか、ただ漫画が好きなだけって言うか。あ、そう」

   あかり、長椅子に置いたバッグに駆け寄り、中から資料を取り出す。

あかり「これ見て」

   資料を充希に渡す。

あかり「私が描いた、新作漫画の設定資料」

充希(めくって)「へえー」

あかり「『地獄大戦ヘルマゲドン』って言うんだけど」

   あかり、充希の表情を下から覗く。

あかり「どう?」

充希「うん」

あかり「ふふ」

充希「普通に......グロいです」

あかり「わかる?、いいよねグロいよね、これ」

充希「グロいです、明らかにグロいですね」

あかり「後で、感想聞かせて」

充希「はい、へへ......私も、あかりさんを見習わないと。私、小さい頃からこの、みちのくササヒカリテレビを見て育ったんです。素朴だけどあったかい番組がいっぱいあって、私も、大人になったらそんな番組作りたいなあって思って頑張って入社した......んですけどねえ」

あかり「出来るよ。ミッキーなら出来る」

充希「いやあ、ありがとうございます。あ」

   充希、巻いていたポーチからカセットテープを取り出す。

充希「これ、さっき言ってた、私が昔大好きだった子供番組自分で録音したやつなんですけど、もし良かったら、聞きます?」

あかり「いいの?、聞く聞く。(受け取って)凄い......メタルテープじゃん」

充希「そうなんですよ、やっぱ保存用はメタルですよね」

   充希、テンション上がって会議机のラジカセにテープをセットする。

   あかり、追って机のそばへ。

充希「ちょっと待ってください、今かけますから」

   充希、再生。

カセット「『泣くなオニゾウ』『好きなものは好き、の巻』」

   充希、あかりにパイプ椅子をすすめる。

   あかり、椅子に座る。

   カセットからBGMが流れ出し、充希はノリノリで踊る。

カセット「『ここは、鬼だけが住んでいる鬼ヶ村にある、鬼学校。今日も、オニゾウくんと愉快な仲間たちが、何やら騒いでいるようじゃ』」

鬼子の声「うえーん。うえーん」

オニゾウの声「あれ?、誰かが泣いてる。この泣き声は……」

   充希、嬉しそうにあかりに教える。

オニゾウの声「『鬼子ちゃん』」

充希「鬼子ちゃん」

鬼子の声「『飼っていた子犬が、いなくなっちゃったの』」

オニゾウの声「『ええ?、探してあげるよ。どんな犬?』」

充希「ふへへ」

鬼子の声「『じゃあ、口で説明するのは難しいから、絵で描くね?』」

   絵描き歌が流れ出し、充希がノリノリで身体を揺らす。

   あかり、遮るようにサッと立つ。

あかり「これって結構長い?」

充希「あ、一回止めます一回止めます」

   充希、俊敏にカセットを停止させる。

充希「......ここまで、どうですか?」

あかり「うん……オニゾウ可愛い、めっちゃ可愛いーっ」

角田「全然可愛くねえよっ」

   角田が仕切りから出てくる。

角田「静かにしろっつってんだよっ」

   スタジオからオニゾウ登場。

角田「なんだよ」

   オニゾウ、角田めがけてダッシュ

角田「来んな、来んなよっ」

   角田、仕切りの向こうへ。

   オニゾウも後に続き、照明は真っ赤な血の色に。

   角田がボコられている音と悲鳴。

角田「ごめんなさいっ、可愛いっ、可愛いですっ」

   オニゾウ、タオルで血を拭きながら出てくる。

   怯えるあかり。

あかり「ああ......(充希に)可愛いねっ♪」

充希「あははっ、そう思いますか?、じゃあ。じゃあじゃあ、これ」

   充希、テープを抜く。

充希「私、入社してから、台本を手に入れて、歌詞カードサイズになって入ってるんで」

   テープをケースに入れ、あかりに渡す。

充希「もし良かったら、お貸しします」

あかり(大げさに)「ええーっ?、いいのーっ?」

充希「いいんですよー、そんな」

あかり「ありがとう」

充希「もう、あかりさんくらいですよ、そんな風に味方してくれるのは」

あかり「そんな事ないって。それに、この番組、またミッキーが復活させて、人気番組にしちゃえばいいじゃん」

充希「......ああ」

あかり「あと、私の事は、『あかりん』でいいって言ったでしょ?」

   充希、照れる。

充希「いや、もう、私なんか全然駄目なんですよ、自分に自信なくて。キャラクターの着ぐるみも、ほとんど全部処分されちゃって、さっきのオニゾウくんくらいしか、もう残ってなくて。私ばっかりね、そこにしがみついてても、ねえ」

   充希、長椅子に座り意気消沈。

あかり「元気出して......ミッキー」

充希「へへ。それに、こんなんだと、憧れのあの人にも、バカにされちゃうと思うし」

あかり「えっ?、ちょっと待って何それ」

   あかり、はしゃぐ。

あかり「もしかして、恋バナ?」

充希「いやいやそんな、恋バナなんて大層なもんじゃないんですけど。ちょっと遠くで見てるだけで、カッコイイなーみたいな」

あかり「駄目だよ、そんなんじゃ。恋愛は早いもの勝ちだよ。通り過ぎた後じゃ掴めないんだよ」

   あかり、興が乗ってくる。

充希「いやでも、私なんかじゃ釣り合わないし」

あかり「大丈夫。ホラ、ホラ」

   あかり、充希を前に立たせる。

あかり「ミッキー超可愛いから、大丈夫。どんな人でもいける」

充希「何言ってるんですか、もう」

あかり「誰でも大丈夫だって。どんな人なの?、ねえ教えてよ。協力するからさあ」

充希「本当ですか?」

あかり「うんっ、もちろん。私が、恋のキューピッドになってあげるーっ」

充希「きゃあーっ」

   2人、はしゃいだ後で、

充希「......恥ずかしい」

あかり「教えてよ」

充希「誰にも言わないでくださいよ?」

   あかり、周囲を窺い、

あかり「誰もいない」

   充希、あかりに耳打ちしようとして、また照れる。

あかり「ちょっ、はーやーく」

充希「......有名な」

あかり「うん、うん」

充希「プロデューサーの人なんですけど」

あかり「ああ、同じ局の人かっ、でも局の人は食中毒でしょ?、じゃあ、お見舞い行こう」

   あかり、充希の手を引こうとする。

充希「いや」

あかり「ねえ、行こっ、行こっ、行こうっ」

   あかり、ピョンピョン跳びはねる。

充希「違う、違う。違って、今ここにいる人で」

あかり「うんっ」

充希「仕事が出来て」

あかり「うんっ、それでっ?」

充希「割かしコンパクトな感じで」

あかり「うんっ」

充希「大ファンなんですよっ、升野さん」

   あかり、硬直。

   露骨にテンションが下がる。

あかり「うん......」

充希「えっ、えっ、ダメですか?」

あかり(即答)「いや駄目でしょ、あの人は。いやー、なんか偉そうだし素直じゃないし、口悪いし」

充希「でも女の子に対して真面目な感じだし」

あかり「いや、そういうんじゃないんだよねアレは。それに、自分の必殺技にギャラクシーパッションなんて付けちゃう人だよ?」

充希「そうなんですよっ、(フリ付きで)ギャラクシーパッション!」

   充希、長椅子の裏から大きな色紙を持ちだす。

   『ギャラクシーパッション ますの』と毛筆で書されている。

充希「これ、これ」

あかり「......何?、これ」

充希「これ、あの升野さんのトークショーに行った時に、『ギャラクシーパッション』書いてくださいってお願いしたら、名前まで付けてくれて。直筆のギャラクシーパッション

あかり「......どうかと思うけどなあ」

充希「まあ、雲の上の人だってことはわかってるんですけど。でも、どんな人でも関係ないって、さっき......(勇気を出して)『あかりん』が言ってくれたから。だからちょっと私、がんばってみようかなと思って」

あかり「......ああ。うん」

   あかり、作り笑い。

あかり「応援するっ」

   仕切り板から顔を出す角田、ニヤリ。

あかり「恋愛の神様は、なんとかってね」

充希「じゃあ私、頑張ってみますね」

あかり「うん......」

   へとへとの升野、スタジオから登場。

升野「あー疲れた。もうなんだこの番組は」

   疲れて長椅子に倒れ込む。

   充希、その裏に色紙を隠す。

升野「ちょっと誰か、お茶ちょうだい、お茶。喉がカラカラ」

充希「チャンスの神様。あ、升野さん、私がお茶、淹れてきま……」

   あかり、ビシッと挙手。

あかり「私が淹れてきます」

充希「え?」

升野「いや、どっちでもいいから、早くしてくんないかな」

あかり「升野さん、濃い目が好きでしたよね」

升野「え?、ああ」

あかり「ちょっと待っててください」

充希「あかりん?」

   あかり、会議机で充希に手招き。

   充希、あかりのそばへ。

あかり「こういうのには、段階ってものがあると思うのよね。早過ぎると思うの、ミッキーには。危険」

充希「でも、恋は早いもん勝ちだって」

あかり「あーもう、恋はケースバイケースなの。悪いようにはしないから、私の言うこと聞いて。わかった?」

充希「はあ」

あかり「うん」

   升野、クリップボードをめくる。

升野「あ、ちょっとADさんさ、こっち来てカンペ作るの手伝ってくんない?」

充希「あ、はい」

   充希、嬉しそうにあかりを見る。

充希「わざと二人きりに......私に出来ることであればなんでも」

   あかり、ダッシュで2人の間に割りこむ。

あかり「待って」

充希「ええっ?」

あかり「やっぱり、お茶はあなたに任せた」

充希「あかりん?」

あかり「あなたの本気に、懸けてみたくなった。思い切り淹れてみなよ、お・茶」

升野「あのさ、お茶早くしてくんないかな」

あかり「ほら、チャンスの神様には前髪しか生えてないんだよ?」

充希「でもさっきケースバイケースって」

升野(テレビ見て)「あ、ヤバいもうCM明けてんじゃん、行かなきゃ。お茶、淹れたらスタジオ持ってきてっ」

充希「あ、はい」

   升野、スタジオへ。

充希(嬉しそうに)「これって、私が淹れて持って来いってことだよね」

あかり(冷たく)「どうだろうね」

充希「え?」

あかり「そこら辺は、ケースバイケースじゃないの」

充希「あかりん、どういうこと?」

あかり「あ、いや」

   あかり、笑顔を取り繕う。

あかり「最初はもちろん、2人きりにしてあげようって思ってのことだったよ」

充希「うん、うん」

あかり「でもさ、最初から2人じゃ、ミッキー緊張しちゃって喋れないでしょ?」

充希「うん、うん」

あかり「だから、私がいた方が、色々サポートできるかなって」

   充希、頭をかいてパニック。

充希「あかりんのサポートの仕方が複雑過ぎる。ねえ、これが都会の恋のやり方なの?」

あかり「ああもう、考え過ぎちゃ駄目。頭でっかちになってても前には踏み出せないっ」

充希「ごめん、ちょっと静かにして」

   あかり、大声で充希の腕を揺さぶる。

あかり「ミッキーっ、ねえ聞いてっ」

   角田、嬉しそうに出てくる。

角田「どうしたあ?」

   オニゾウにやられたアザがある。

あかり「角田」

角田「どうしたミッキー、よくないぞ?、せっかくこうしてあかりんが言ってくれてるんだから、そんな言い方ないだろうが」

充希「いや、でもちょっと、騙されてるのかな、とか思っちゃって」

あかり「いや。そんなことないよ」

角田「(大声)そんなことないよ、ねえーっ?、あかりんは友達思いの、とっても優しいイイ子なんだからあ」

あかり「そ、そうだよ、そうに決まってんじゃん」

角田「『誰かにとられたくないから邪魔をする』、そんな事は考えないよねえーっ?」

あかり(作り笑顔)「はははは」

角田「だってそもそもよ?、あかりんは升野さんの事なんてなんとも興味ないんだから。むしろね、(大声)嫌いなんだよねえーっ」

充希「そうだったんですか?!、だからさっき升野さんの事、悪く」

   充希、頭を下げる。

充希「すいませんっ、なんか私、変な勘繰りしちゃって」

あかり(作り笑顔)「ああ、うん」

角田「あははは、(充希に)良かった」

充希「良かった」

角田「(あかりに)良かった」

あかり「良かった」

角田「誤解が解けて良かった、あははは」

   充希、あかりの前へ。

充希「ただ、これだけはあかりんにわかって欲しいの。あかりんは升野さんのこと好きじゃないかも知れないけど、でも升野さんにはいい所がいっぱいあるの。だから、升野さんのこと嫌いにならないであげて。もっと、好きになってあげて。ね?」

あかり(作り笑顔)「うん。ふふふ」

   充希と角田がはしゃぐ隅で、

   赤いライトの当たるあかりの顔が憎悪で歪んでいく。

   飯塚、スタジオから出てくる。

飯塚「なんなんだよあのバカップルはよ、さんざんノロけたかと思ったら今度は痴話げんか始めやがってよ」

あかり「あの女が憎い」

飯塚「ええーっ?、さっきまであんな仲良かったのに?」

充希「あ私、ちょっとお茶淹れてきまーす」

角田「行ってらっしゃーい」

   充希、上手へはける。

角田「くっくっく。飯塚、俺にもチャンスが巡ってきたぞ、おい」

   あかり、角田を睨みつける。

角田「これが上手くいけば、俺の恋のライバルはいなくなる」

飯塚「は?」

あかり「この卑怯者っ」

角田(高笑い)「はははははっ、あかりいーっ、皮肉なもんだなーっ、どうだーっ?、自分で自分の首を絞める気分はーっ」

あかり「クソ野郎っ」

飯塚「めんどくさい匂いしかしない」

角田「まずは俺のイメージを上げる事よりも、敵を減らす事の方が先決なんだよ。友情?、愛情?、はかりにかけるのは難しいですよねーっ、ならばどうでしょう?、両方とも壊してしまえばーっ」

あかり「うわあーっ」

   あかり、髪かきむしってパニック。

飯塚「これは関わっちゃまずい」

角田「今からミッキーがお茶を持ってきます。升野さんがそれを受け取る。その時触れ合う手と手。そう言うところから、恋って始まるんじゃねえのかなあ」

   あかり、髪振り回してパニック。

   悲鳴を上げてしゃがみ込む。

   あかりに覆いかぶさるようにして高笑いを浴びせる角田。

角田「はっはっはーっ、あかりーっ、苦しめーっ」

   お茶を淹れた充希が戻ってくる。

充希「あの、お茶淹れてきました」

飯塚「ありがとう、じゃ俺これ持って行くね」

   飯塚、湯呑みを受け取る。

角田(パニック)「おーいっ」

飯塚「え、何?」

角田「触れ合えなーいっ」

   角田もしゃがんで発狂する。

   あかり、奇怪な笑い声を上げて立ち上がる。

あかり「うははははは、うははははは」

   そして充希に振り返る。

あかり「ついてなかったね?、ミッキー」

角田「くっそーっ」

飯塚「何このアングラ劇団」

   角田、立ち上がる。

角田「元気出せよ、まだチャンスあるぞミッキー。何しろミッキーには俺たちがついてんだから、(あかりに)なあー?」

   あかり、超無理やりに笑顔を作る。

あかり「......ファイトぉ」

角田「なあー?、あはは。そうだミッキーさ、やっぱり想いを届けるには、歌がいいよ」

充希「歌?」

角田「うん。俺がね、ミッキーの想いを歌にして、升野さんに届けてやるよ」

充希「え、本当ですか?」

あかり「ちょっ、余計なことしないで」

充希「あかりん?」

あかり「あ......や、自分の想いは、自分の口から伝えた方が、価値があるんじゃないのかな?、って」

   充希、しばし考える。

充希「......そっか!、じゃあ私、自分の口から、ちゃんと歌って伝えます」

角田「よく言った、頑張り屋さんだ。うふふ、頑張ろう」

あかり「......」

角田「歌だから、発声練習やっとこうか」

充希「はい」

   2人、前を向く。

角田「♪あー」

充希「♪あー」

角田「♪今夜はー」

充希「♪今夜はー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田「♪昨日もー」

充希「♪昨日もー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田・充希「♪明日はどっちだー」

   2人、満足して笑い合う。

角田「いいじゃん」

   あかり、苛立って床を踏み鳴らす。

あかり「そーもーそーも、そんな事してるヒマあるならフィナーレの曲作りなさいよ」

   エレベーターが開き、へべれけ状態の川島と豊本が出てくる。

川島「あーっ、帰りましたよーっ、いいお酒でございましたーっ」

豊本「ございましたねーっ」

   あかり、川島に泣きつく。

あかり「社長いいところに、聞いてくださいっ」

川島「おお?、どうしたオニゾウくん」

あかり「......あかりです」

川島「あかり。はい」

   あかり、角田を指さす。

あかり「あのハゲ。やらなきゃいけない曲作りもしないで、全っ然作る必要のないどーっでもいいようなラブソングなんて作ろうとしてるんですっ」

充希「あかりん?」

   あかり、充希には笑顔を作ろう。

あかり「そりゃもちろん、私たちにとっては凄く大切なことだよ?、でも」

   角田、代わって川島のもとへ。

角田「違う違う社長、我々、僕とあかりちゃんがですね、彼女の恋の応援をしていまして、で彼女が愛の告白をする際に、どうしても、ラブソングが必要なんでありますっ」

川島「わかりましたっ」

角田「あははは」

川島「いいね。応援でしょう?、頑張れよ」

角田「さすが社長」

あかり「それでいいんですか?、だってまずは、フィナーレの曲作ってからでしょう?」

角田「残念ながらな、歌詞のFAX全然来てねーんだよ、ざまあねえなっ」

あかり「笑うとこ間違ってますからね」

川島「おい、歌詞だったらこの届いてるFAXの中から適当に選んじゃえばいいんじゃねえの?」

あかり「そうですね、無いなら無いなりに頭使って作ればいいんですよ」

川島「俺が適当に選んでやるからさ、それを告白のラブソングみたいにすりゃいいんだよ」

あかり「え?、そっちですか社長」

角田「なるほどねっ」

充希「しゃあっ、あかりん、私覚悟さ決めた。升野さん呼んできてもらっていい?、呼んできてもらえるよねっ?」

   あかり、勢いに気圧される。

充希「ねっ?」

あかり「うん」

充希「行ってっ」

あかり「うん」

   あかり、恐る恐るスタジオに向かう。

あかり「あーっ、痛い痛い」

   突然その場に倒れ込んで足首を押さえる。

あかり「持病の痛風があー」

充希「つ、痛風だったの、あかりん?」

あかり「一歩も動けなーいっ」

充希「大丈夫?」

角田「じゃ、俺が代わりに呼んで来てやるからな」

   スタジオへ向かう角田。

   あかり、立ち上がって角田を止める。

充希「あかりん、痛風は?」

あかり「治りましたーっ」

   あかり、角田を投げ飛ばす。

   そして倒れた角田の腕を痛めつける。

角田「痛てて」

   スタジオから升野が出てくる。

充希「升野さん」

升野「......あかりと角田がギャラクシーパッション

あかり「いや、違います。違うんです」

   川島、充希にFAXを渡す。

川島「これ歌えー、歌え歌え」

充希「あ、はい」

升野「歌?、歌ってなに?」

充希「私、今から歌うんで」

あかり「ぎゃあーっ」

   あかり、叫んで止めに入ろうとするが、

   角田に足を掴まれて倒れる。

角田「そうはさせねえぞっ」

升野「何イチャイチャしてんの?」

充希「あの、私の秘めた想いを今から歌います。聞いてください」

升野「想い?」

   充希、FAXに目を通す。

充希「駄目こんなの恥ずかしくて歌えない」

   角田、立ち上がる。

角田「代わりに」

   あかりの背中にとどめのパッション。

角田「パッションっ」

あかり「ぐわあっ」

角田「歌ってやるからな」

充希「この人が、私の代わりに歌います」

   角田、パイプ椅子に置いたギターを構える。

   あかり、息も絶えだえ体を起こす。

あかり「私の、代わりに......」

充希「私の代わりに」

升野「誰の代わりに?、ねえ」

   充希、角田にFAXを向ける。

角田「歌うぜっ」

充希「はいっ」

   角田、弾き語り。

角田「 ♪ 川ちゃんがくれた

   限界まで軽量化したパンティ 」

   川島、慌てて紙を奪い取る。

   別の用紙を差し出す。

川島「こっち」

升野「で、君はそういうの履いてるの?」

充希「履いてません」

升野「あかりが履いてるの?」

あかり「いや履いてないですよ」

角田(川島に)「告白こっちなのね?」

升野「なに?、告白って」

   充希、改めてFAXを角田に向ける。

あかり「実は」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 今日のUFIライブを中止にしないと 大変なことになる 」

あかり「え?」

   充希、歌にノッている。

角田「♪ 場合によっては死者も出るかも知れないが

   それでいいのか 犯人より 」

   角田も充希も「?」とFAXを覗く。

川島「やー、いいぞ角田―」

角田「ちょっとこれ、脅迫状って書いてあるけどっ?」

   升野、FAXを受け取る。

川島「適当に選んだからわかりませーん」

升野「こんなFAX届いてたのか」

あかり「升野さん、実は、私たちが告白したかったことは、このことだったんです」

充希「え、え?」

あかり「たーいへーん。ミッキー、恋の話は、後回しだよ」

充希「あかりん?」

あかり「しょうがない。まずは、この話を解決しないと。うふふ」

充希「なんでそんな嬉しそうなのかがわからない」

   飯塚、怒りながらスタジオを出てくる。

飯塚「なんなんだよ、あのバカップルよお。なんで今、このタイミングで浮気発覚してんだよ。なんか怨みでもあんのか?、こっちに」

あかり「飯塚さん、大変なんです」

飯塚「あ?」

あかり「UFIを狙って、妨害しようとしてる奴らが」

飯塚「UFIを妨害?」

あかり「はい。これはすべて、仕組まれていたんです」

飯塚「アイツら......そういう事かあーっ」

   飯塚、スタジオへ乗り込む。

あかり「あ、飯塚さんっ?」

   川島、へべれけで充希に絡む。

川島「告白する前にもう浮気かい?」

充希「いや、違います違います」

升野「なに?、告白って」

あかり「ああーっ、もうだから、それは今テレビに出てるカップルの話です」

川島「おーなんだそれ、面白そうじゃねえか。テレビを点けろ、豊本っ」

   会議机に寝ていた豊本、ハッと起きる。

豊本「ここはどこ?、シットは誰?」

川島「テレビを点けろ」

豊本「テレビ?」

   豊本、リモコンを点ける。

   モニターチェック。

   2階通路にバカップルの彼氏(人形)が座っている。

   そこへ飯塚が走って登場。

飯塚「テメエふざけんじゃねえぞオラアっ」

   飯塚、顔から彼氏に蹴りを入れる。

飯塚「おいコラーっ」

   次いで投げ飛ばす。

飯塚「こっち来いよオラ―っ」

   彼氏を引きずる。

川島「おい飯塚出てきたじゃねえか、なんだこれーっ」

   川島、嬉しそうに盛り上がる。

升野「コイツ何やってんの?」

飯塚「テメエさっきから黙って見てればそういう魂胆だったのかコラっ」

充希「もしかして、カップルがUFIを誘拐しようとして妨害したんじゃないかって、勘違いしてるんじゃないですか?」

飯塚「言ってみろ、お前らがぬけぬけと隠し通してたその、本心を言ってみろっ」

升野「急に知らないオッサン出てきて暴れ出したら、見てる人わけわかんねえぞ」

飯塚「あ?、やっぱり彼女のこと愛してる?、なんだよそれ。目が覚めました、これから大事にします?、当たり前だろっ」

   飯塚、熱くなって彼氏と角突き合わせる。

飯塚「大事なものを守る。それが男ってものだろう。うちの大事なあーっ」

   スタジオに拍手。

飯塚「なんの拍手だよ。見世物じゃねえぞオラアっ」

   飯塚、彼氏を片手で掲げ上げる。

飯塚「ウラアっ」

   飯塚、そのままはける。

   照明点灯。

升野「結局、なんやかんやで上手くまとまったって事なの?、これは」

川島「いいぞ飯塚、良かった」

充希「私感動しました、自分の気持ちをちゃんと伝えようと思います」

   あかり、跳びはねて妨害。

あかり「いいぞ飯塚あっ、感動したっ、ちょっとミッキー」

   あかり、充希を隅へ連れて行く。

あかり「もうこれは、飯塚さんに乗り換えるべきじゃない?」

充希「あかりん?」

升野「何か言おうとしてたよ?、なに」

あかり「升野さんっ」

   あかり、升野に詰め寄る。

升野「なに?」

あかり「大変っ、脅迫状だなんて、私こわーいっ」

升野「なんだお前?!」

   暗転。