昨年は全劇場鑑賞作品をランキングに起こして非常に面倒臭かった。でもやりきった。そんな満足感があるので、今年はざっくりです。
ランキング作成にあたって、上映中居眠りしてしまった作品を改めて見返したのですが、完全にこちらの体調の問題でしたね。
自分が眠ったかどうかと作品の質とは大して関係ない。
こういう記事、来年に持ち越すのは精神的にあまり健全ではないので、あまり迷わずサクサクと選びます。
では。
1位 ライアン・クーグラー『クリード チャンプを継ぐ男』
元旦に観た映画がそのまま1位は身も蓋も無いのですが、本作のインパクトを上回る作品とは出会えず。すべての場面が強烈なストレート。ロッキーがフィラデルフィアを歩いているだけのショットさえ不意に泣きそうになるのは驚きでした。シリーズへの思い入れ別にないんですよ。一作目しか見ていないし、特に感銘を受けた訳でもなかったのに。
痛快で、爽快で、けれど地に足の着いた活力を与えてくれる作品。実はクリード自身はかなり恵まれた存在なのに、普遍性を獲得出来ているのも相当な離れ業。
監督主演コンビの前作『フルートベール駅で』がささやかな作品なのは、作品の性質に寄り添ってあえて抑えていたのだなと。そんな若手を後継者に抜擢するスタローンの慧眼。ハリウッドの成熟を感じます。
あくまで3D映画としての評価ですが、それこそゼメキスの望む評価である筈。彼はもはや映画という枠組みより新しい体験を生み出したい人なのではないかと思うのです。『ハドソン川の奇跡』と比べてみると『フライト』の異質さは改めて浮き彫りになるんじゃ。あれ大好きなんですよね。
巨大な劇場のほぼ中央で客席はガラガラ。という鑑賞状況にも恵まれ、前半はやや退屈ながら、いざ綱渡り作戦が決行されてからは本当に自らワールドトレードセンターに侵入して不安定な足場の上をさ迷っているような、いえさ迷うだけならまだ良いのですが、あいつら平気で飛び跳ねるから!
一回性の体験としての価値が強い作品だからこそ、儚さを讃えたラストが胸に詰まりました。映画という枠では語りきれない、刹那の芸術。
3位 ポール・キング『パディントン』
ウェス・アンダーソンを一般化したような才能。それって凄くないですか。
あまりに予想外の大傑作。今年最大の衝撃。社会派の急先鋒。パディントン可愛い。騙されたと思って見て欲しいです。本当に良いから。
4位 ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ボーダーライン』
実写映画は本来カットが変わった瞬間に場面が切断する断片の芸術で、それをいかに持続した世界として観客に体感させるかがミソだと思うのですが、今年の映画で体感として「持続力」をもっとも感じさせてくれたのが本作。
その「持続力」が、本作のいわばオチというか真相の部分では途切れている。それさえも意図したものだとは理解しつつ、個人的にはオチの部分は余計でした。白状すればドゥニ作品はいつもオチで若干冷めてしまう。
いや、本作なんて特にラストが無かったら意味不明な映画なんですけど、意味不明なまま終わって欲しかったのです。そして本作にも通じる話が「意味不明なまま終わる」をやりきったのが、まさにリドリー・スコットの『悪の法則』だったなと思い至って、ドゥニ版『ブレードランナー』への興味高まるよね。
5位 山田尚子『聲の形』
明瞭なテーマだったり、正しい答えだったり、わかりやすいクライマックスだったり、そうしたものを排除した等身大の青春劇が、ポップさやルックの洗練も含めて「エンターテイメント」たりえているという、今まで洋画に出来て邦画に出来ない最大の欠落を不意に埋めてしまった一本。
「いや面白い青春映画は沢山あるよ」と反論を頂きそうですが、正直ここまで垢抜けたものには邦画で初めて出会えた気がします。内容もそうなのですが、ガワの部分でいたくお気に入り。
アニバタ『聲の形』特集号をお供にどうぞ。
アニバタ Vol.16 [特集]聲の形 | アニメ・マンガ評論刊行会
衝撃が大きすぎてうまく整理できなくって、「もてあそばれた」という言葉が一番しっくりくる。完全に感情をもてあそばれた。ひどい映画。
まだ映画を見てこんなに動揺することがあるんだ。素朴に見えていきなり洒落にならない剛速球をぶつけてくる感触は、木下恵介の尖った作品を思い出しました。
資金難から脚本を30分カットしていて未完成な映画と言えないこともないので、完全版が出来上がるまでの保留としてこの順位につけましたが、この映画がランキングの中に入って「収まりの良い位置」など果たしてあるのかと訝しんでいます。それくらい未知のエネルギーで殴り飛ばされました。
何位でもいいです。ランキングとか無意味だなぁとなる。
特にこれといって残るものはなく綺麗に楽しく見終った一本。それもまた『聲の形』同様、何より邦画に欠けているテイスト。観客の目を見て妥協の無い映画を作れば、ちゃんと観客は映画館に足を運ぶ。そんな当たり前の力強い真実を業界に見せつけた点において、本作と『シン・ゴジラ』がもたらした余波が2年後か3年後か、いずれ一気に開花するのではないかと身震いしつつ、恐らくは無残なコスプレショーに終わる来年の邦画をなんとか乗り切っていきましょう。
それにしても、スマートなエンタメから一番遠く思えた新海誠監督がそれを成し遂げた感動。サインまで頂いておきながら心のどこかで馬鹿にしてたところもあったのですが、作り続けて頂点に到達したその姿勢に今は尊敬の念しかありません。
『聲の形』『この世界の片隅に』『君の名は。』どうしても並べたかった。
8位 フェデ・アルバレス 『ドント・ブリーズ』
これもランキングに納めることが不可能。何位だろうと不敵に鎮座する。まだ映画を見てこんな思いをすることがあるのかという動揺を引きずって、今もうまく整理できてない。
勿論死ぬほど怖かったけれど、この衝撃は恐怖からくるものだけなのかどうか。
そんな整理がつかないほどの衝撃作が今も映画館にかかっているのだから、つべこべ言わず『ドント・ブリーズ』を観に行ってくれという気持ちです。
まずエンタメとしての完成度。流れるように楽しませるって一番難しいのだから。
そこに加えて主役コンビの関係性萌えも完璧。笑いも鉄板。小ネタは渋い。
優等生的なポリコレどうこうで揶揄されているけど、アメリカ社会が本作を必要としている背景、そしてつい十数年前を振り返ってもそこまで配慮の面で洗練されていた訳ではないハリウッドがこうしてPC的な成熟に至った歴史、その努力への敬意と想像力を忘れたくはないです。
10位 吉田恵輔『ヒメアノ~ル』
邦画が豊作だった2016年、実写映画で推せるのは圧倒的にこの一本。
『君の名は。』同様、監督が得意技も駆使しつつ、自分の安全圏から一歩逸脱したエンタメへ踏み込んで、最高の成果を挙げた。
才能ある監督をこうした新境地へ押しやれる流れがこのまま定着してくれますよう。
11位 トッド・ヘインズ『キャロル』
味わい深い映画です。「レズではなく百合」とかいう価値観は全然わからないのですが、そういう昨今の流行りがお好きな方にも堪能して頂ける筈。
つまりシビアな時代背景を抱えながら画面はどこか生々しさを排除していて、メロドラマにしっとり浸れる空気作りが丁寧。
監督が以前に同様のことをやりたかったのだろう『エデンより彼方に』はまったく入り込めなかったので、やっと志向に実力が追いついたのだなという感慨もありました、
12位 リドリー・スコット『オデッセイ 3D』
『ザ・ウォーク』とは逆に3Dではなくても評価の変わらない、というか鑑賞時の仕様を忘れるレベルで3Dが大した効果を上げていない作品。
実のところ忘れかけていたタイトルなのですが、今年観た映画を一本一本振り返った時に印象のスマートさが突き抜けていて、まぁ、普通に超面白かったです。
13位 スティーブン・スピルバーグ『ブリッジ・オブ・スパイ』
これも普通に良く出来ていて普通に超面白いのでコメントに困る。サラッと傑作を撮ってはすぐ次へ向かってしまうスピルバーグの速度に映画ファンはもう振り落とされている気がする。
14位 ギャレス・エドワーズ『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』
前半の一筋縄ではいかなさ。特にキャシアンの言動全般の煮えきらなさこそが本作に大人の味を与えて、無邪気に勝利の道を往く正伝の影として自然と存在感を示せていた点が好きで、むしろ終盤は収まりが良すぎるのではないかくらいに思っています。
『君の名は。』と合わせてこれもまたトップクラスの洗練されたエンタメ。こういう邦画にもっと生まれて欲しい。
個人的に評判良いアニメ版は原作序盤と比べて非常に「うるさい」という印象であまり好意的に見ていなかったため、実写版に軍配を上げたいです。
16位 三浦大輔『何者』
普遍的な自意識の問題をそのまま具象として映像に起こすツイッターという装置の利便性。
就活がテーマでもないし、今時の若者を描きたい訳でもないことは終盤のタネ明かしでハッキリしていたと思います。
そこで主人公の○○、いやもうバラしますが主人公の「裏垢」を暴いていることが主眼なのではなく、それを表現するために描かれた光景こそが主眼であり映画的真実なので、そこの解釈を違えると途端に評価は下がるかも知れません。
言ってしまえば本作の本質に原作は関係がない。
17位 山戸結希『溺れるナイフ』
ただカッティングが早いだけじゃなくて、そのショットの選択と切り返しのタイミングと芝居とのマッチングが、よく比較される岩井俊二や大林宣彦のそれより遙かに鋭い。それだけに終盤でテンポ感を手放してしまったことが残念でした。そしてラストの劇中劇は心の底から残念でした、、、『おとぎ話みたい』のMVだとか『5つ数えれば君の夢』のEDだとか、そういうところでこそ手を抜かない信頼の山戸監督でしたのに。
18位 ウ・ミンホ『インサイダーズ/内部者たち』
面白いけど盛り過ぎてゴールが見えない系韓国映画。普段はこの系譜の蛇行していくグルーヴを愉しむのですが、本作は「反骨」というテーマが一貫しているのでカタルシスがある。自分を何かに駆り立てたい時に見返したい映画。
19位 林祐一郎『劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』
単品ではない劇場版アニメから一本選ぶとするなら本作。綺麗に終わった傑作TVシリーズが下地にあるので、焦らず余裕を持って作画的な快楽の追求に全力を振っている。
20位 ピーター・ソーン『アーロと少年』
走る走る走る。それだけで映画を作ろうとしているような流れに身を委ねる快感。ズートピアの影に隠れてしまいましたが、せめてもう少し評価されて良いのではないかと思う応援枠。
対象作品は以下の通り。太字は全部ベスト。
来年はこんなに足を運べそうにありませんが、映画的には充実の一年でした。
ライアン・クーグラー『クリード チャンプを継ぐ男』
スティーブン・スピルバーグ『ブリッジ・オブ・スパイ』
スティーヴ・マーティノ『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(吹替)
ポール・キング『パディントン』
ロバート・ゼメキス『ザ・ウォーク 3D 字幕』
ロン・ハワード『白鯨との闘い』
ニマ・ヌリザデ『エージェント・ウルトラ』
リドリー・スコット『オデッセイ 3D』
トッド・ヘインズ『キャロル』
クエンティン・タランティーノ『ヘイトフル・エイト』
ザック・スナイダー『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 3D』
レニー・アブラハムソン『ルーム』
トム・マッカーシー『スポットライト 世紀のスクープ』
ピーター・ソーン『アーロと少年』(吹替)
ウ・ミンホ『インサイダーズ/内部者たち』
カルロス・ ベルムト『マジカル・ガール』
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『レヴェナント 蘇りし者』
ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ボーダーライン』
リッチ・ムーア/パイロン・ハワード『ズートピア』
アンソニー&ジョー・ルッソ『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』
ジョエル&イーサン・コーエン『ヘイル,シーザー!』
ティム・ミラー『デッドプール』
アレックス・ガーランド『エクス・マキナ』
ポール・フェイグ『ゴースト・バスターズ(2016)』
デヴィッド・エアー『スーサイド・スクワッド』
クリント・イーストウッド『ハドソン川の奇跡』
ギャレス・エドワーズ『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』
デヴィッド・イェーツ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(吹替え版)
フェデ・アルバレス『ドント・ブリーズ』
中村義洋『残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』
小泉徳宏『ちはやふる 上の句』
小泉徳宏『ちはやふる 下の句』
佐藤信介『アイアムアヒーロー』
瀬々敬久『64 前篇』
是枝裕和『海よりもまだ深く』
吉田恵輔『ヒメアノ~ル』
黒沢清『クリーピー 偽りの隣人』
黒沢清『ダゲレオタイプの女』
白石晃士『貞子VS伽椰子』
庵野秀明/樋口真嗣『シン・ゴジラ』
三浦大輔『何者』
山戸結希『溺れるナイフ』
石浜真史『ガラスの花と壊す世界』
田口智久『PERSONA3 THE MOVIE #4 Winter of Reverse』
サンライズ『ラブライブ! u's Live in Theater(応援上映)』
赤根和樹『コードギアス 亡国のアキト 最終章 愛シキモノタチヘ』
佐藤卓哉『劇場版 selector destructed WIXOSS』
菱田正和『KING OF PRISM by PrettyRyhthm』(応援上映)
水島努『劇場版 ガールズ&パンツァー』
水島努『劇場版 ガールズ&パンツァー』(2回目)
高橋渉『映画クレヨンしんちゃん 爆睡! ユメミーワールド大突撃』
石原立也『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』
石原立也『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』(2回目。ULTIRA上映)
柳沢テツヤ『ずっと前から好きでした。~告白実行委員会~』
瀬下寛之/安藤裕章『亜人 第2部 -衝突-』
林祐一郎『劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』
宮元宏彰『ワンピース フィルム・ゴールド』
新海誠『君の名は。』
新海誠『君の名は。』(2回目。ULTIRA上映)
山田尚子『映画 聲の形』
山田尚子『映画 聲の形』(2回目)
山田尚子『映画 聲の形』(3回目)
山田尚子『映画 聲の形』(4回目)
山田尚子『映画 聲の形』(5回目。ULTIRA上映)
山田尚子【映画 聲の形】(6回目)
川村泰/さとうけいいち『GANTZ:O』
片淵須直『この世界の片隅に』
本日一度誤って消してしまい挫けかけましたが、なんとか年内に書けました。