禁断の映画の採点 +α

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 映画に採点することをなんとなく避けていたのですが、昨今採点さえ許されないアレコレの寂しさを思うと、日本でまだ星取り表が当たり前に許されている映画界は少しは健全だなと思い、今年からぼちぼち手元のメモの方で簡単な評価付けをしていました。

 それとはまた評価基準が異なるけれど、最近見た映画も新たに採点と非常に簡単な感想を綴るようにしていたので、22タイトル一気にドン。ネトフリオリジナル作品はTwitterで感想呟いているので省きます。

 最初に見た、個人的に非常に可も不可も無くて困った『ローリング』をなんとなく「C」としたので、そこが平均値です。

 では。

 

 

『ローリング』

【採点】C

【監督】冨永昌敬

【制作国/年】日本/2015年

【概要】茨城県、水戸。十年前、女生徒を盗撮して教職を追われたダメ教師が帰ってきた。そして早速元教え子に女を寝取られる。そんな折、盗撮映像に重要な場面が記録されている事が判明し… クズ人間の、第二の転落人生が始まる。

【感想】

 出だしの追いかけっこだけで高い演出力は伝わるけれど、川瀬陽太演じる教師の衝撃の「現在の姿」で始まりながら、そこ至る肝心の流れは最後に省略。狭い世界に向けて作ってるなぁという偏見が発動し冷めてしまった。教師に焦点絞って欲しい。

 

墨攻

【採点】C

【監督】ジェイコブ・C・L・チャン

【制作国/年】中国・日本・韓国・香港/2016年

【概要】酒見賢一の小説を基にした日本の漫画を、壮大なセットとエキストラで再現。中国戦乱の時代にあって、不利な小国からの要請に従い戦法を教えて回りつつ、博愛主義と平和主義を伝えようとした「墨家」から派遣された男・革離の孤独な奮闘を描く。

【感想】

 監督に欲目が無さ過ぎて、スケール感たっぷりの場面でも大してケレン味を発揮せず話が駆け足に進む。絢爛豪華な絵巻物と化しがちな欲張り中国大作時代劇に慣れている為、このストイックさがどうにも物足りなかった。敵将は韓国の名優アン・ソンギ。

【余談】

 墨子の兼愛交利の思想が今でも先進的で、孔子の唱えた仁による愛とは謂わば家父長制のような集団の長を利するものであって真の平等ではないと。その理想は長くは継承されず墨家がガタガタになった頃、一人であがいている男の物語というバックボーン。

 

『オレの獲物はビン・ラディン

【採点】C

【監督】ラリー・チャールズ

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】『ボラット』『ブルーノ』等の体当たりバラエティ映画を作ってきたラリー・チャールズの、ちゃんとした劇映画。2010年、単身パキスタンへ乗り込み、個人でオサマ・ビンラディン(ODL)を捕まえようとした愛国おじさんの実話を描く。

【感想】

 ニコラス・ケイジ演じる主人公ゲイリー、ずっと甲高い声で「アメリカ最高」と叫んでいるウザい陰謀論者が、パキスタンの環境に馴染むに従って「パキスタン最高」になっていく様が愉快。想像以上に毒は少なく、劇映画としては弱い。

 

バイオハザード:ヴェンデッタ

【採点】D

【監督】辻本貴則

【制作国/年】日本/2017年

【概要】恒例バイオハザードのCGアニメ映画シリーズ。製作総指揮に清水崇、脚本に深見真という新顔が参加。国際指名手配犯グレンによるバイオテロの目論みに巻き込まれたクリスは、レベッカやレオンと共に巨大な陰謀に立ち向かっていく。

【感想】

 なまじルックだけは豪華な分、単純に「つまらないハリウッド映画」に見える。ジョーク担当のネイティブなコメディライターを付けて、ユーモア部分だけでもリライトするくらいの事はしてもいいのでは。ラストの人間同士のガン・カタは見応えあり。

 

『22年目の告白 ー私が殺人犯ですー』

【採点】B

【監督】入江悠

【制作国/年】日本/2017年

【概要】韓国映画『殺人の告白』のリメイク。22年前、5人の人間を殺した殺人犯が告白本と共にメディアに登場し、かつての被害者遺族や関係者の心を揺るがす。果たして日本中を騒がせる彼の真の目的とは。

【感想】

 オリジナル版未見。簡潔な省略が日本の現代史にもなる効率の良さで、見せ場から見せ場へ、大文字の「展開」が繋がれて気付けば真相に突入する勢いが頼もしい。その後がやや冗長にも感じられるけど、少なくとも昨今の邦画エンタメの中では文句なしA。

 

『見えない目撃者』

【採点】C

【監督】アン・サンフン

【制作国/年】中国/2015年

【概要】日本でも同名リメイクされた韓国映画『ブラインド』の中国リメイク。ただし監督はオリジナル版と同じアン・サンフン。盲目の女性警官が、自分がニアミスした男が連続女性失踪事件の犯人なのではないかと警察に訴え、単独で捜査を始める。

【感想】

 こちらがオリジナルかと勘違いしての観賞。本格サスペンスのガジェット(恐らくオリジナル要素)とアイドル映画としての軽さ(恐らく中国版要素)が交互に押し寄せてきて、後日談からの過剰な祝祭感でいよいよアイドル映画要素が勝利して終わる奇怪な映画。

 

『劇場版 トリニティセブン ー天空図書館と真紅の魔王ー』

【採点】

【監督】錦織博

【制作国/年】日本/2019年

【概要】TV版は見てないけどサントラは好きだったシリーズの劇場版第二作。トリニティセブンリリスと旅するアラタの前に、自身にそっくりの男が現われる。彼は世界を滅ぼす魔王。そしてリリスの父であった…

【感想】

 本題とサービスシーンだけで突き抜けようとする無駄の無さが、ほとんど場面転換がない(あっても背景が大して変わらない)為にずっと同じ場所で足踏みしているだけの退屈な印象に繋がってしまった。サントラこそ主役という印象は作り手も確信犯かな。

 

きみの鳥はうたえる

【採点】

【監督】三宅唱

【制作国/年】日本/2018年

【概要】佐藤泰志の小説を気鋭の監督が映画化していくシリーズ第四弾。同居している二人の若者と、そこに混ざる一人の女。永遠に終わらないかに思える夏のひとときを、Hi'Specの音楽に併せて揺れながら描く。

【感想】

 クラブ明けの朝方の空気など、非常にリアルなんだろうなとクラブ未体験でもそう感じさせる。仲間内では「いい人」「空気のような俺」だが、バイト先では普通に嫌な奴である主人公の人物像もリアル。ただもう、こういう空気感若者映画はお腹いっぱいなのか、小説の地の文だろうモノローグが入るとスッと引いてしまう自分が居る。

 

フライトナイト

【採点】A

【監督】トム・ホランド

【制作国/年】アメリカ/1985年

【概要】コメディ・ホラー。隣家のジェリーがヴァンパイアだと気付いた高校生チャーリー。往年のホラー映画でヴァンパイアキラーを演じた落ち目の老俳優ピーター・ビンセントに助けを求めるが、自身喪失しているピーターは弱腰で……

【感想】

 傑作。サービス精神の塊。最初の「見る/見られる」の逆転からラストのラストまで万事「ちょっと上手くいったかなと思ったら逆襲される」の繰り返しで脚本が詰め込まれて、思わずプロットを書き起こしてしまった。それだけ密な脚本と時折完全に一体化したギミック的な撮影の妙が、異様なテンションに観客を誘う。

 

のんのんびより ばけーしょん』

【採点】

【監督】川面真也

【制作国/年】日本/2018年

【概要】TVシリーズの劇場版。デパートの福引きで沖縄旅行が当選。れんちょん達は遠い地へ旅立つ。大自然から大自然へ。「ここも田舎なのん?」「沖縄だよ」

【感想】

 序盤で掴みがないのは寂しいけど、沖縄着いてからは贅沢な作画世界。ラストを活かす為にも、旅情と呼ぶにはもう少し、あおいとの「観光から外れた、どうでもいい、忘れられない出来事」を見たかった。と考えると、本作のMVPはひか姉なのでは。

 

『エルネスト もう一人のゲバラ

【採点】E

【監督】阪本順治

【制作国/年】日本・キューバ/2017年

【概要】ゲバラと行動を共にした日系ボリビア人フレディ・前村・ウルタード。彼の生涯を、オダギリジョーが全編スペイン語で演じる。キューバ留学中にキューバ危機に遭遇したフレディは、次第に反政府運動へと傾倒していく…

【感想】

 予算ない中で大きな作品に挑めばなんでも偉い訳じゃないんだなと。照明も劇伴も泣きたいくらい酷いし故人を聖人化する脚色もまるで感情の軌道を追えない。それ以上に、絶えずカメラが「そこじゃないんじゃないか?」という違和感と共にある。例え本作に予算があったとしても、撮影技巧の手数が決定的に不足している邦画の弱さが。

 

パラダイス・アーミー

【採点】C

【監督】アイヴァン・ライトマン

【制作国/年】アメリカ/1981

【概要】職を失った怠惰なニューヨーカー・ジョンと友人のラッセルは、調子の良いCM文句を真に受けて衣食住付きの軍隊に入隊する。しかし実際の軍隊生活は厳しい訓練だらけ。やってられないジョンとラッセルは隙間を縫ってはふざけ倒していく。

【感想】

 若き日のビル・マーレイの、今と変わらぬ脱力芸を中心に置いたコメディ。かなり弛緩した出来なのに、掴みがたい塩梅が次第に癖になっていく。『MASH』『フルメタル・ジャケット』『ポリス・アカデミー』等々との距離感、映画史的な繋がりがあるのか無いのかも気になる。

 

『ドント・ウォーリー』

【採点】A

【監督】ガス・ヴァン・サント

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】アル中がたたって交通事故に遭い、四肢麻痺状態の介護付き車椅子生活を送ることなるジョン・キャラハン。やがて悪意たっぷりの新聞漫画家として名声を得る彼の、心の混乱に寄り添う実話を基にした作品。

【感想】

 主演がホアキン・フェニックスで、「ジョーカーがもしリハビリに成功したら?」というIFの物語として観ても楽しい。優しい。なまじ繊細な技巧を持つ故に作品毎に感触がバラバラなガスが、コントロールを手放したような自由さがあって、それはホアキンと、若しくはジョン・キャラハンその人と並走した結果かも知れない。

 

【戦狼/ウルフ・オブ・ウォー】

【採点】B

【監督】ウー・ジン

【制作国/年】中国/2017年

【概要】『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊vsPLA特殊部隊』の続編。中国軍特殊部隊「戦狼」のメンバーだったレイは悲しい出来事を経て除隊し、傭兵としてアフリカで暮らしていた。現地の人々と疑似家族を形成し過ごしていたが、突如として政府反乱軍の凄まじい暴力が襲い掛かる。

【感想】

 冒頭の「水中」長回し格闘に始まり、ありとあらゆるアクション全部乗せで全てド派手。死にまくるモブ。クライマックスではガルパン劇場版で出てきた戦車の殺陣の実写版みたいな場面まで出てくる。監督・脚本・主演はウー・ジン、ちぃおぼえた。

 「弱者は所詮、弱者のままだ」「それは昔の話だ」必然性がわからなかったけど良い台詞だった。

 思いっきり中国のプロパガンダ映画なので、最後に人民に向けた力強い、しかし非常にニッチなメッセージが出てきて笑う。

 

『オーマイゴッド ~神への訴状~』

【採点】A

【監督】ウメシュ・シュクラ

【制作国/年】インド/2012年

【概要】口から出任せで高い神像を売りつける古物商カーンジー。ある日、地震で彼の店が倒壊してしまう。しかも「天災は保険の適用外」。これが神罰ならばと、カーンジーは「神」の概念を相手取り、宗教家たちを訴え、前代未聞の宗教裁判を開始する。

【感想】

 宗教映画の定番で言えば神罰を受けて改心する役回りであるカーンジーが、神の代弁者を語る宗教ビジネスの全てにケンカを売っていく、その中でむしろ余分を取り除いた宗教の本質にさえ迫るという流れが、痛快なコメディとして成立している。

 最後まで皮肉は続く。マジでイスラム教まで茶化していて危険が危ないのだけど、鋭い風刺とはこういうことだというお手本の様な。宗教を否定する無神論者カーンジーの唯一の味方が、神様その人であるというのがまた面白い。

カーンジー「俺、神様を否定してるけどいいんですか?」

神様「ああ。やれるところまでやってみろ!」

 

シシリアン・ゴースト・ストーリー』

【採点】A

【監督】アントニオ・ピアッツァ、ファビオ・グラッサドニア

【制作国/年】イタリア・スイス・フランス/2017年

【概要】あまりに惨い実在の事件を、その犠牲者の魂が俯瞰するような幽霊譚として紡ぎ出す。90年代シチリアで、とある事情によって少年が誘拐された。彼の無事を願い、捜索の為にあらゆる手をつくす少女は、時々彼の心霊を幻視する……。

【感想】

 どういう内容か知らずに観たので余計ショックを受け、それが正しい見方だった気もするので、同様の観賞体験を推奨したい。

 幽霊映画。冒頭から美しい、もう本当に美しい撮影が描きだす湿った画面が、何を映さずとも幽霊をそこに現出させている。実際、幽霊は映っていなくても「今この画面は幽霊を宿しているな」と感じさせるショットも頻出。

 美しく残酷なレクイエム。映画に出来ることの一つの極限。祈り。怒り。忘れ難い。

 

ダーククリスタル

【採点】B

【監督】ジム・ヘンソンフランク・オズ

【制作国/年】アメリカ/1982年

【概要】『マペットショー』『セサミストリート』のジム・ヘンソンと、やはり『セサミストリート』はじめ『スターウォーズ』ではヨーダの操演・声優も務めるフランク・オズによるマペットアニマトロニクス)映画。クリスタルの力で延命を図るスケクシス族に狙われる、ゲルフリン族の少年ジェンの冒険を描く。

【感想】

 実は思ってた以上に『スターウォーズ』のクリエイティビティはルーカスよりフランク・オズによるところ大きかったのではと思わせる、どうにも覚えのある感触の数々。ジェンよりもスケクシス族のグロテスクな描写に力が入っていて、ピュアな悪が魅力的。数十年の時を経て、最近ネトフリで続編シリーズを制作。

 

ガフールの伝説

【採点】C

【監督】ザック・スナイダー

【制作国/年】アメリカ・オーストラリア/2010年

【概要】ファンタジー小説『ガフールの勇者たち』を原作とする3DCG映画。伝説の「ガフールの勇者たち」を夢見ながら家族で暮らすメンフクロウのソーレンだが、まだ自力では飛べないまま邪悪なフクロウの「純血団」にさらわれてしまい……。

【感想】

 CGを多用するザック・スナイダーでも、アニメ作品と呼べる長編は現状これだけ。十年前の作品とは思えない今でもトップクラスの美しいCG世界は一見の価値アリ。ただ、フクロウの顔の判別がつきづらいという重大過ぎる欠点があり、混乱した。ソーレン関係ないところで兄が勝手に闇堕ちしていく脚本も巧くない。

 

『5時から7時までのクレオ

【採点】A

【監督】アニエス・ヴァルダ

【制作国/年】フランス・イタリア/1962年

【概要】夕方でも明るい夏の盛り。シンガーのクレオは7時に病院の検査の結果を受けることになっており、自分は癌なのではないかと不安に苛まれながら、パリの街中を彷徨する。歌手としての自信喪失、女としての自信と不安、そして肉体の脆さ……。

【感想】

 今、生きているということへの猜疑心、女性の感じる疎外への恐怖を、「○時○分~○分までの誰々」といった具合の切り取りで軽快に美しく紡ぎ上げる。割れるガラス、モブたちのざわめき、すべてに意味があって、実験的なようで意味は通り親切。

 今、不安な日々の中で見ることでちょっと救われる気がする一本。

 

『ホットギミック ガールミーツボーイ』

【採点】B

【監督】山戸結希

【制作国/年】日本/2019年

【概要】少女マンガの実写化作品。王道の物語に山戸監督のエッジの効き過ぎる演出が異化効果を与え、冴えない女子高生・初(はつみ)を巡る3人のイケメンからのアプローチと血縁の呪縛の混乱を通して、受動的なヒロインの主体性に迫っていく。

【感想】

 豊洲、東雲ベッドタウンにある凹凸の特徴的なマンモスマンションを舞台に、文字通り迷宮のように空間のあちこちから男たちが顔を出して少女を絡め取ろうとする、クラクラするカメラワーク。山戸作品独自のポエトリーがやがて勢いよくそこから脱出するのだが、不必要に感じるカット割りも多く、言葉が走り過ぎるきらいはあった。

 

『父を探して』

【採点】A

【監督】アレ・アブレウ

【制作国/年】ブラジル/2013年

【概要】シンプルにも程がある単純な線の少年の冒険を通して、田舎町から都会へ、そして労働・格差・政治・軍事・環境・文化・経済、あらゆる「世界」との出会いをあまりに多様な抽象表現を通して描いていくアニメ映画。

【感想】

 台詞はあるけど意味が通らない言葉で、実質サイレント。タイトルと絵柄から素朴な内容かと思いきや、舞台が都会に移ってから呆気に取られる壮大な表現が連発。どの時代、どの国でも通じるアニメ界の『市民ケーン』まであるかも知れない巨大な映画。

 少し、2003年のイスラエル映画『ジェイムズ聖地(エルサレム)へ行く』を思い出す。

 

『皆殺しの天使』

【採点】A

【監督】ルイス・ブニュエル

【制作国/年】メキシコ/1962年

【概要】シュールレアリスム映画を代表すると言われる一本。とあるお屋敷、晩餐会に集ったブルジョアたちが、理由もなく「屋敷を出ることが出来ない」という現象に見舞われ、上流階級の見得、倦怠、衰弱、堕落があぶり出される。

【感想】

 ブニュエルは『銀河』がよくわからなかったので身構えていたけど、意外なほど分かり易くて面白い。モンスターも超常現象もなくても、ただ「出て行けない」状況があればパニック映画が成立する。外からどう頑張っても門の中に入れない警官たちの描写なんて完全にコメディ。どんな見方も許される愉快さがある。

 『ミッドナイト・イン・パリ』の中で、現代から過去のパリにタイムスリップした主人公がそこで出会った若き日のブニュエルに与える映画のヒントが本作。

 


おまけ。『フライトナイト』プロット起こし。

 

登場人物

チャーリー。高校生。深夜の怪奇映画番組『フライトナイト』のファン。
エイミー。チャーリーの恋人。性に芽生えつつある。
ピーター・ビンセント。落ち目の老俳優。『フライトナイト』の司会者。
ジェリー。ヴァンパイア。同居の男(ビリー)を従えている。自信家。
エド。チャーリーの友人。通称・疫病神。なんでも茶化す癖がある。
ママ。チャーリーのママ。ジェリーに惹かれている。
ビリー。ジェリーの従者。人間?

 

構成の特徴
チャーリーの行動にジェリーがより強く反撃する。ずっとその繰り返し。
主人公側の攻勢はクライマックスでさえ徹底して成果が弱い為、ピンチが持続する。

 

○一幕目
チャーリーはジェリーがヴァンパイアだと気付くが、止める手立てが見つからない。

 

カメラを月からパンしてタイトル、そして住宅街へ。
話し声がする窓辺に近寄っていくと、それはTV番組『フライトナイト』が流れるチャーリーの部屋であった。
番組ホストのピーター・ビンセントが「ようこそフライトナイトへ」と決め文句。
そして自身がヴァンパイア・キラーを演じた映画『フライトナイト』の前説。
チャーリーが恋人のエイミーにいよいよ初体験の許しを得たその夜、隣人ジェリーが人の死体らしき何かを棺で運ぶ様を目撃する。(『起』
おあずけを喰らったエイミーは怒って帰るが、チャーリーは隣人の監視に夢中になる。

 

隣家を訪れていた娼婦が死体で発見されたニュースを見るチャーリー。
さらに隣家を監視中、ジェリーが娼婦の背後で牙を剥きだしにする様を目撃。爪も異様に長い。
その時、ジェリーに逆に見返され、見つかってしまう。(『承』。以降ずっと『転』の繰り返し

 

エドにヴァンパイア対策を乞うが、「日光」「十字架」「鏡には映らない」「招いてはいけない」と、定番のルールを持ち出すだけ。(観客に改めてヴァンパイア物のルール説明)

更に被害者が出たと知ったチャーリーは警察を呼んで隣家へ乗り込むが、何も証拠が見つからない。
ただエイミーにそっくりな女の絵を見つける。

 

○二幕目
チャーリーはジェリーに追い詰められていくが、ピーターも動き出す。

 

今度はジェリーがチャーリーの家へ訪れる。
ジェリーに好感を抱くママが家に招いてしまった上、ジェリーはチャーリーを脅し、いざとなればママの命が無いぞと突きつける。
この時、日光を浴びたジェリーは一瞬だけ怪物の姿になり、恐ろしい相手であることも判明する。
駆動した物語が、もう引き返せないことの強調=ファースト・プロット・ポイント

 

チャーリーは藁にもすがる思いで、撮影所までおもむきピーター・ビンセントに会いに行く。
TV番組『フライトナイト』の打ち切りが決まり、すっかりやさぐれているピーター。
若き日、映画『フライトナイト』でヴァンパイア・キラーを演じた己に想いを馳せながら、チャーリーの話を信じない。

 

エイミーとエドがチャーリーの部屋を訪れると、ヴァンパイア対策グッズで埋め尽くされ、すっかり狂人の様相。
見かねた二人がピーターに協力を請いにいく。
若者から自分に取材が? と浮かれて招き入れたピーターは、エイミーがチラつかせた金の力に屈する。

 

改めて4人でジェリー邸を訪れる。
初体験を果たせなかったことにより欲求不満気味のエイミーがジェリーに惹かれる。
ピーターなりのオカルトグッズである聖水を試すが、ジェリーにはまったく効かない。
どうせ若者のホラ話だろうと安堵したピーターだったが、映画『フライトナイト』の場面同様に、ジェリーが鏡に映らないことに気がつく。
映画の折り返し=ミッドポイント。チャーリーの劣勢は変わらないが、ピーターの物語が駆動する

 

帰り道。

エドは「襲われた~」と冗談を言ってチャーリー達と別れたのち、本当にジェリーに襲われてしまう。
ヴァンパイア化したエドがピーターを襲撃するが、ピーターは必死に十字架で返り討ちにする。

 

エドが襲われたと察したチャーリーとエイミーは人混みのクラブへ逃げ込むが、
エイミーはそこでジェリーに見つかり、彼と官能的なダンスに身を投じる。
鏡にジェリーが映らず、エイミーが一人で踊っている。
つまり、チャーリーはヴァンパイアに目移りする余り、すぐそばにいたエイミーを失おうとしていたのだ。
ジェリーはクラブの守衛を殺し、エイミーをさらう。
チャーリーに、ピーターと二人で来いと伝えて。

 

チャーリーはピーターの元を訪れるが、ピーターは怯えて十字架でチャーリーを試し、映画の私は全部演技だと言って拒絶する。

ジェリーに捉えられたエイミーは自分そっくりの女の絵を発見。ジェリーの昔の知り合いだという。
エイミーはジェリーに身を委ね、首筋を嚙まれる。

 

○三幕目
最後の攻防。色々起こるので文字にすると長いが、ラスト30分で尺として短い。

 

チャーリーが単身ジェリー邸へおもむくと、吸血鬼退治グッズ一式を運び、往年のヴァンパイアキラーの衣装を着てピーターが来てくれる。
「私はヴァンパイア・キラーだ…」まだ怯えており、自分に言い聞かせるピーター。

ジェリーは二人を迎え入れる。

「ようこそフライトナイトへ」(テレビ『フライトナイト』のピーターの文句)
「これが本物の言葉だよ」と、ピーターを挑発。
ピーターはジェリーに十字架を突きつけるが、握りつぶされてしまう。
ピーターが弱腰であったため、「信じていないものは効かない」のだ。
すると、その隙に十字架の力を信じ切っているチャーリーが自分の十字架をジェリーに向ける。
が、さらにその隙をついてビリーがチャーリーを吹き飛ばす。

 

チャーリー邸に逃げ込んだピーターを、オオカミが襲撃する。
ピーターはこれを必死に打ち倒すが、息絶えたオオカミは元のエドの姿に変わる。哀れなエドの最期を看取るピーター。

 

気絶していたチャーリーが目を覚ますと、目の前にはエイミーが。
揺さぶると、エイミーは既にヴァンパイアと化し、苦しんでいた。
ピーターが戻って来るも、再びビリーが二人を襲う。
と、ピーターは今度は拳銃を取り出し、日光の下でも動いていた、つまり人間だろうビリーの額を撃ち抜く。
今度こそビリーの邪魔なく十字架をジェリーに押しつけるチャーリー。しかしジェリーはまだダメージを受けず逃亡する。
殺したはずのビリーが起き上がり、何度撃っても倒れず二人に迫り来る。
チャーリーは杭を心臓に打ち込むことで、ようやくビリーを倒す。半ヴァンパイア化していたのだろうか。
ジェリーは屋敷の外から二人の様子を窺っており、不意を突いて窓を割りピーターに飛びかかる。
ジェリーは十字架で応戦するピーターを嘲笑う。
「もう忘れたのか。信じていない十字架に力など無い」
しかしピーターもまた笑みを浮かべる。
彼の心はすでにヴァンパイア・キラーそのものとなったのだ。
そして屋敷中の鐘が鳴り響く。朝の6時を告げる鐘。朝日がジェリーに降り注ぐ。
陽に焼かれ苦しむジェリーは巨大なコウモリに姿を変え、チャーリーを襲撃しながら姿をくらます。
今度はヴァンパイア化したエイミーが二人の前に現われる。
ピーターは閉ざされた棺を見つけ、これを開けようとする。
エイミーがチャーリーに迫る。
「私が欲しくないの? 私のこと守るって、約束したくせに!」
怪力を発揮して襲い掛かるエイミー。
ピーターはようやく棺をこじ開け、中で眠るジェリーの心臓に杭を打ち込む。
苦しむジェリーは怪物の姿となって大暴れするが、その時投げ飛ばした破片が、追い詰められるチャーリーの背後の壁を突き破る。
すると差し込む朝日が。これだ!
ジェリーに迫られ、今にも殺されそうなピーター。
チャーリーはそこへ飛び込み、ピーターの背後の壁板をひっぺがす。
朝日がジェリーを直撃し、その体を吹き飛ばし、燃やし尽くす。
ジェリーの死と同時に、エイミーが元の人間に戻る。
朝日に包まれて、3人は抱き合うのだった。(『結』

 

○エピローグ(レゾリューション=事態の解消)
冒頭の場面の反復と差異。

 

売り家となった隣家。冒頭とほぼ同じカメラワークで、またチャーリーの部屋から『フライトナイト』の放送が聞こえる。
エイミーと抱き合うチャーリーに、番組に復帰したピーターがテレビから話しかけ、二人は笑う。
「今夜放送するのは私の出演した映画ではありません。ヴァンパイアに変わって現われるのは、火星からの宇宙人」
チャーリーが隣家に目をやると、宇宙人のような赤い瞳がこちらを覗いている。
「チャーリー?」
再び自分から興味を失われた気がしてエイミーが声をかけるが、今度はチャーリーはそちらに興味を奪われきることなく、エイミーとベッドインするのだった。
しかし、隣家の赤い瞳は二人を覗き続けている。あの愉快で不気味なエドの笑い声が聞こえてくる。
「チャーリー、お前は最高だぜ! AHahahahaha!!!」