配信映画の採点

f:id:pikusuzuki:20210417222958j:plain

 

配信映画は呟きで、という自己ルールが面倒臭くなったので配信映画の感想もまとめて記事にしていきます。

ほとんどのタイトルの記憶がすでに遠くなっているので、鑑賞直後の感想はTwitterで。

 

 

NETFLIX

 

『ザ・ファイブ・ブラッズ』

【評価】

【監督】スパイク・リー

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】チャドウィック・ボーズマン遺作の一本。ベトナム戦争中、CIAの隠し金塊を現地に隠したまま帰還した黒人兵士4人。彼らは唯一亡くなった隊長を含む「ダ・ファイブ・ブラッズ」として永久の友情を誓っていた。そして現在、ベトナムに観光客として訪れあの金塊を取り戻そうとするが……。

【感想】

 晩年の大林宣彦に非常にタッチが似ていて、語りが虚実を行き来し、ベトナム戦時下に現在の老人姿のまま一同が映り込み、かと思えば最後にはBLM運動にまで繋がっていくサンプリング精神。アジテーションと複雑性が同居する元来の「社会派スパイク・リー」節で、『ブラック・クランズマン』のストレートぶりがかえって引き立つ。

 それにしても戦場でただ一人若いチャドウィック・ボーズマンの神々しさ。スパイク・リーは闘病を知らなかったと言うが。

 

『#生きている』

【評価】B

【監督】チョ・イルヒョン

【制作国/年】韓国/2020年

【概要】ネトゲ中毒のジュヌが目ざめると、マンションの周囲はゾンビに囲まれていた。家族は帰ってくる気配が無い。たった一人のサバイバル生活が始まる。世界には絶望が蔓延し、次第に食料は尽きてくる。ジュヌはいつまで生きていけるのか……。

【感想】

 奇しくもコロナ禍の世界を映したような状況が重なり、恐らく今後沢山作られるだろう「ポスト・コロナとしてのゾンビ映画」の嚆矢になるのは(事故的にではあるが)本作で間違いない。正直あらすじは想像の範囲内なんだけど、『コンジアム』同様あらゆる最新の技巧を適切に駆使して万人が楽しめるエンタメを仕上げる。エンタメの基礎レベルの水準で、韓国映画はとっくにハリウッドを越えてると思う。

 

『エノーラ・ホームズの事件簿』

【評価】A

【監督】ハリー・ブラッドビア

【制作国/年】イギリス/2020年

【概要】ホームズのパスティーシュ小説をネトフリが映画化。ホームズの妹エノーラ・ホームズの小さな大冒険と、失踪した母親の謎を描く。『ストレンジャー・シングス』で異界に連れ去られていた少女イレブンを演じたミリー・ボビー・ブラウンが、一転してお喋りで快活なエノーラを演じる。

【感想】

 ガイ・リッチー版、カンバーバッチ版の演出の系譜を継ぎつつ『フリーバック』に倣いエノーラがカメラに語り続ける。枠組みからしてブリティッシュ魂溢れるお祭り感。謎解き、女性達の新時代の予兆と立ちふさがる壁、そして原作で触れられないホームズ家のありようといったこなすべき諸要素もふんだんに織り込んでいく。素直に楽しい。

 

WASPネットワーク』

【評価】B

【監督】オリヴィエ・アサイヤス

【制作国/年】スペイン・ブラジル・フランス/2019年

【概要】90年代初頭、キューバの操縦士レネ・ゴンザレスは、空港を飛び立ったままアメリカまで亡命する。そしてキューバからの亡命者たちを密かに救助しアメリカへ送り、米国国内の反カストロ・テロ組織と繋がる。キューバに残された妻オルガと子供は売国奴の家族として肩身の狭い貧困生活を強いられる。ところがレネの他にも不思議なアメリカ生活を送ってるキューバ亡命者が何人か描かれ……?

【感想】

 「描かれ……?」というかググればわかってしまう実在の物語であり、そこから逆算して描かれているまである説明の無さなので事前に調べてからの鑑賞がお薦め。アサイヤス作品としては『カルロス』の系譜で、そしてあちら以上に善悪の判断がつかない。普段は時間の「流れ」をスムーズに作り出すアサイヤスの編集が、ここでは流れなどなく過去に未来に放射され人と社会が紡ぐカオスを織り成している。

 

『シカゴ7裁判』

【評価】A

【監督】アーロン・ソーキン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会。これに抗議し意見を伝え、ベトナム戦争への反対を訴えるため、若者を中心に出自も階層も異なる人々が反戦運動を展開。次第に苛烈なデモに発展し、警官たちとの衝突事件を起こす。これを煽動したとして共謀罪の罪に問われた7人、そして悪意あるこじつけによって巻き込まれたブラックパンサー党ボビー・シール。彼らと義憤に燃える急進派弁護士ウィリアム・クンスラーは、恣意的な保守派裁判長ホフマン相手に裁判に挑む。

【感想】

 熱くアジってくる娯楽作として申し分ない出来。あまり個々人への踏み込みはせず、闘う人々へのリスペクトで一貫しており、結果随分と世界の見通しが楽観的な内容と思えなくもないが、こういう映画があっていい。銃のドンパチの代わりに言葉が飛び交う、そういうB級エンタメなのだ。ただサラリと流そうとすると黒人社会の背負ってきた痛みが余計引き立ち、エンドロールの登場人物各々の後日談でなんとも苦い気持ち。

 

『もう終わりにしよう。』

【評価】B

【監督】チャーリー・カウフマン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】「女」は彼氏ジェイクの実家へのドライブが憂鬱だった。寒い冬の田舎道を進み、彼の実家で神経質なジェイクとその両親の相手をすることになる。しかしただ単に変人であることを越えて、4人の会話はおかしい。ジェイクがおかしいのか、彼の両親がおかしいのか、それとも女自身が………? 同時進行で、とある学校の用務員の日常が描かれる。

【感想】

 どういう話なのかが判るともの凄く簡単な話なのだけれど、それをアヴァンギャルドな手法で淡々と見せられることが苦痛と感じる人もいるかも知れない。チャーリー・カウフマンなのでスマートな出来という訳でもない。

 ただ、自分にとってはまっっったく他人事では無かったので、せめてこんな風に映画が掬い取ってくれることはやはり救いで、寂しくも嬉しかった。

 

『獣の住む家』

【評価】B

【監督】レミ・ウィークス

【制作国/年】アメリカ・イギリス/2020年

【概要】スーダンから必死の想いでイギリスに亡命してきた夫婦。ここで下手を打って移民局に見捨てられたら居場所はなくなる。しかし忘れられないとある過去を引きずる二人の仲はギクシャクしていく。そんな夫婦を追い詰めるように、この家に棲んでいる何者かによる怪奇現象が襲いかかる。

【感想】

 『仄暗い水の底から』や『ババドック』のように、社会的弱者をさらに霊現象が追い詰める哀切なホラー。けれどどうもこの夫妻、こちらの単純な同情を許してくれない秘密を抱えている。「答えは堂々と映ってるのに観客はそこまで気づけない」というアイデアが見事で、それは現実にも起こりうるだろうし、今この時もどこかで起こっているかも知れない。「伝える手段」としてのホラーというジャンルの在り方がとても好き。

 あまり怖くないことを除けば良作。

 

『スペクトル』

【評価】 B

【監督】ニック・マチュー

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】近未来。東欧モルドバで内戦の鎮圧を行っていた米軍は、まるで幽霊のような、攻撃のすり抜ける謎の存在に一方的に苦戦を強いられていた。派遣された科学者クラインはなんとかこの「幽霊」の正体を探ろうとするが、クライン、兵士、現地の生存者を含む一行はこの幽霊の群れに囲まれてしまう。果たして奴らの正体は……。

【感想】

 非常に大まかな粗筋と大雑把な戦闘シーンが続く映画なのだけど、その雑さが弱点にはならず「ゴツゴツした兵器をゴツゴツと扱う」即物的な魅力を演出していく。そんな風に重力を感じさせる主人公側の攻撃が「すり抜けてしまう」敵との邂逅が、それだけで戦場の魅力と戦闘の虚しさを同居させて効率が良い。ちゃんと「正体」がある敵の設定も良かった。アバウトな作りだが、すべて計算されているような気もする大作。

 

『すべての終わり』

【評価】C

【監督】デヴィッド・M・ローゼンタール

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】恋人サムとの婚約を認めてもらうため、シカゴへとサムの両親に会いにいくウィル。サムの父親トムは元軍人の気むずかしい性格。なかなかうまく話を運べずにいると、外で何やら異変が起こった。それは全米で同時に起こったらしい。情報は途絶え、何も判らないまま世界は終末の様相を呈していく。サムの安否を確認するため、ウィルとトムの二人旅が始まる。

【感想】

 恋人の父親フォレスト・ウィテカーと世界の終わりを二人きりで旅する、という絵面の面白さをメインに、意外とオーソドックスなロードムービーを綴る。どこかがズバ抜けて悪い訳でもなく、良い訳でもなく。ここまで徹底して世界の終わりの理由を明かさないのは冒険だと思うけれど、オリジナリティからくる魅力を貫徹出来なかった印象。

 

『ホース・ガール』

【評価】B

【監督】ジェフ・ビエナ

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】それはサラのありふれた日常だった。街角の手芸用品店で働き、友人とルームシェアをして暮らし、オカルトドラマを毎日のように眺め、コミュニケーションは苦手。サラの生活は幸福に見える。しかし次第にサラのこだわりの偏執的な部分が目立ち、やがて彼女の行動はエスカレートしていく。

【感想】

  主演アリソン・ブリー(英語吹替え版『天気の子』須賀夏美役)が、実の祖母が患った妄想性の精神障害に対して抱く「自分もいずれそうなるのではないか」という恐怖をそのまま陰謀論に置換して自ら脚本に起こし映画化。ジャンルレスなふわふわ感のまま、妄想の中に生きる人の精神状態を綴っていく。あまりサラを異常者と思えなかったというか、多かれ少なかれ誰しもこういう妄想を抱えて生きてるのではないかと思う。

 普通の生活が徐々に狂っていく話と理解していたけれど、アトロクのネトフリお薦め作品回で村山章さんが話してた「画面のヒントを頼りに時系列をシャッフルして並び替えると実は筋が通っているのでは」というのが面白かった。

 

『デンジャー・ゾーン』

【評価】B

【監督】ミカエル・ハフストローム

【制作国/年】アメリカ/2021年

【概要】近未来。内戦鎮圧を行う米軍。ドローン操縦士のハープ中尉は、モニター越しに「二人を犠牲にするか」「残る38人を守るか」の選択を躊躇せず行い、戦場へ左遷される。そこで組むことになったリオ大尉。彼はあまりに人間臭い、アンドロイドであった。

【感想】

 ドローン、AI、メカ兵士、アンドロイドが戦場に緩やかに混ざり合っている時代。あまり気の利いた見せ場やハッとするスペクタクルは無いけれど、低めの温度でずっと楽しめ、その低体温のまま「そっち行く?」ってなる終盤に差し掛かったので結構満足。しかしミカエル・ハフストロームの映画に定期的に出くわすなぁ。期待しすぎないで。

 

『薄氷』

【評価】A

【監督】ルイス・キレス

【制作国/年】スペイン/2021年

【概要】スペイン北部、極寒の夜。刑務所へと新たに赴任した生真面目な警官マーティンは、6人の囚人を護送する車の警備を担当する。粗雑な相棒、個性的な囚人、その中の一人が密かに企む脱走……。出発して早々、護送車は謎の襲撃を受ける。果たして彼らは生き残れるのか。そして襲撃者の目的とは。

【感想】

 韓国映画と並んで今信頼の安定度を誇るのがスペイン映画なんじゃないかと思うんですけど、やはり安定でしたね。いつもどこか斜め上の意表を突いてくる。時に胃もたれするようなエグさと濃度。本作もそもそもどういうジャンルなのかを行ったり来たり楽しませながら、最後にはズシンとマーティンの葛藤で息が詰まる。

 

『時の面影』

【評価】

【監督】サイモン・ストーン

【制作国/年】イギリス/2021年

【概要】伝説とされた、暗黒時代の現代的な文明が実在していたと証明した「サットン・フー遺跡」発掘にまつわる、近年まで埋もれていた秘話を描く。第二次世界大戦開戦がほぼ確定し、その時を待つだけのイギリス。難病を抱えた未亡人エディスは自身が所有する旧王国の墓地の遺跡発掘を、僅かな給料でベテラン考古学者バジルに依頼する。やがて一隻の船そのものの船葬送が出土するが、そこへ大英博物館が乗り込んできて……。

【感想】

 弱いテレンス・マリックと言えばいいのか、静かにたゆたうような眼差しで、「歴史的な発見を行う、歴史の影に消える人々」を見つめる。そのか細い気配にそっと寄り添い続けることで、そんな私たちであろうとも生きてきた証はきっと残る、という微かな慰めにも説得力が宿る。淡い映画なのは良いが中盤から唐突に第三の主人公が現れるので、乗りきれないところもあった。

 大英博物館に展示されている遺跡の物語なのに大英博物館が割りと悪者として登場していて、これを出来るか出来ないかでその国の文化の豊かさが判るなと思う。

 

『私というパズル』

【評価】B

【監督】コルネル・ムンドルッツォ

【制作国/年】カナダ・ハンガリー/2021年

【概要】ボストンで暮らすマーサとショーン夫妻は自宅出産を希望し、専門の医師の助言に従い自宅での準備を備えていた。しかし、いざ産気づいたその時に訪れたのは代わりの助産師イヴ。3人は長い時間をかけて出産を終えるが、無事生まれたかに見えた赤ん坊はほどなく息絶えてしまう。責任は誰にあるのか。問題がテレビでも報じられる中、すれ違いゆくマーサとショーンの日常が綴られる。

【感想】

 見終わってすぐ感想書かないものだから色々忘れてしまうのだけど、冒頭の長回しが映画史に残るのは確か。冒頭こそ本編であり、そこから先は「終わってしまった後の日常」が大した波もなく、しかし不穏に続いていく。エレン・バースティン演じるマーサの母親の語る、「私も若い頃大変だけど頑張った。だからお前も頑張れ」論の呪縛を脱却する話でもある。製作はスコセッシ。

 

『マ・レイニーのブラックボトム』

【評価】A

【監督】ジョージ・C・ウルフ

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】1927年、シカゴ。とある暑い日。ブルースの母と呼ばれた伝説的シンガー、マ・レイニーのレコーディングが行われることになる。呼ばれたバックバンドの中に、野心家のトランペット奏者レヴィーはいた。白人のレコード会社社員にひたすら横柄に振る舞うマ・レイニーと、誰に媚びてでもこの機にのし上がりたいレヴィー。2人を中心に、レコーディング風景が描かれる。

【感想】

 ネタバレ避けて語るのが難しい。少なくとも自分は前半で「こうなるんだな」と思った予想は完全に裏切られた。マ・レイニーの横柄さは一つの戦いであり、より上手く立ち回ろうとするレヴィーは彼女と同等の立場にさえなれない。同じように差別と戦ってる人たちが共闘出来ない現実の抜き差しならなさ。半分舞台劇な映画としての危うさを、マ・レイニーとレヴィーの生き様が上回った感じだ。また恰幅のいいヴィオラ・デイヴィスと痩せ細ったチャドウィック・ボーズマンの対比が映像的に活きてしまうのが、なんといっていいのか。

 

amazonオリジナル

 

『7500』

【評価】A

【監督】パトリック・ヴォラース

【制作国/年】ドイツ・オーストラリア/2019年

【概要】ジョセフ・ゴードン=レヴィット演じる副操縦士が乗り込んだ、旅客機のコクピット。やがて離陸直後にハイジャックが起こる。辛うじてコクピットは死守した副操縦士だが、リアルタイムでの犯人との交渉は、次々と最悪の事態を引き起こしていく。なすすべもなく犠牲者は生まれ、事態に翻弄されるがまま、ただ90分が経っていく。

【感想】

 極小単位での『ホテル・ムンバイ』。もうどうしようもない事実として目の前で凶行が起こり、人命が軽々と失われ、そして犯人たちも余裕がなく、何かに駆り立てられるように暴力性がエスカレートしていく。「巻き込まれるしかない」普遍的な人の脆弱性を通して、「暴力」の虚しさが残される。劇場公開すればいいのにと思いつつ、アマプラで「うっかり出会ってしまう」良さもある映画。

 ※清水崇監督による同名ハリウッド映画もあるので注意

 

『ブラック・ボックス』

【評価】

【監督】エマニュエル・オセイ=クフォー

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】事故で妻を亡くし、自身も脳の欠陥で記憶喪失状態に陥ったノーラン。娘を育てていく為にも記憶を取り戻そうと、リリアン医師の特殊な心理セラピーを受ける。潜り込んだのは「思い出せない自身の記憶の世界」。だがそこで奇怪な存在に襲撃され……。

【感想】

 話の真相が明らかになった時の「え、それは……え? じゃあ、これからどうすりゃいいの???」という茫然自失感では屈指のストーリー。その後予定調和な終わりに向かうのはやや残念だけど、大袈裟な芝居が許されないキャラクターを主演マムドゥ・アチーが抑制して表現して実存不安を煽る。

 吹替え版で見るとリリアン医師が榊原良子さんで、延々と脳波がどうこういかがわしい説明を繰り出すので、完全に「こういうSFアニメ」を見てる気分になれます。

 

『ザ・レポート』

【評価】

【監督】スコット・Z・バーンズ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】9.11テロ後、CIAが数多のムスリム系テロ容疑者に行った「強化尋問」という名の非人道的な拷問。その不当性を調べ上げる為、数年に及び数百万ページの文書を精査した合衆国上院調査スタッフの調査と、フラッシュバックするその拷問の実態が矢継ぎ早の台詞で描かれる。

【感想】

 台詞の情報量が凄いので吹替版推奨。監督スコット・Z・バーンズは昨年話題になった『コンテイジョン』の脚本家。本作の主役は情報、或いは「言葉」。ある不正の証拠が衆知されるまで、忍耐強く黒塗り()された言葉を浮かび上がらせ、実在の固有名詞が遠慮なく飛び交う。その中で固有名詞を持つムスリムの人々が拷問で殺される。

 映画としての遊びの無さが却って映画の強度を高めてる。

 紹介を省き気づけば出ているキャラ。言葉尻に即切り替わるカット。かつて9.11にショックを受け海兵隊入隊したアダム・ドライバーが本作を演じる覚悟。

 自国の恥を受け入れ繰り返さないようにすること、それが何よりの愛国心じゃないか。当たり前のことなのにその表明にこれだけの労力がいる。デマで否定するのは一瞬で済む。吹替え版の質高かった。内田夕夜さん、声若いよなあ。

 

『ヴァスト・オブ・ナイト』

【評価】

【監督】アンドリュー・パターソン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】1950年代、ニューメキシコの田舎町、高校バスケ大会の夜。町の人が皆体育館の試合へ足を運ぶ中、地元ラジオDJと電話交換手の少女は、「空に何かいる」「変な音がする」という情報を追って、録音機を担ぎ町を駆け回る。

【感想】

 まだ話が動き出す前、「お祭りを前にして浮かれた田舎町の夜の空気」の中を事務的にDJが歩き回るだけで撮影手法がもう面白い。

 ラジオ局に寄せられる怪しい情報を電話交換手がDJに繋いでいく長回し。コードを差し込み、引っ込み、また別の場所に差し込み、引っ込み、という所作に夢中になり、カビが生えるほどオーソドックスなオカルト話なのにドキドキしてしまう。

 オチとか呆気ないし「だから何?」と言われたらそれまでの話だが、こいうした描写のドキドキを楽しみたくて映画観てるんだ。

 

『あの夜、マイアミで』

【評価】A

【監督】レジーナ・キング

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】マルコムX、モハメド・アリサム・クック、後にハリウッドスターとなるアメフト選手ジム・ブラウン。各分野で黒人の道を開拓した4人が、マルコム暗殺の直前、もし一夜に集い議論を交わしていたら?という映画。女優レジーナ・キングの監督デビュー作。

【感想】

 原作は戯曲(作者は『ソウルフルワールド』の脚本家)なので議論の場はホテルの一室に限られるけれど、外へ出ることでリフレッシュしたり、戯曲的閉塞感を巧妙に回避している。

 理想は同じだからこそ浮かび上がる差異、「議論する意義」が浮き彫りになる。

 何故この4人なのか。勿論パイオニアというのもあるけれど、それぞれ有名な「転換」を迎えようとしているからで、そしてマルコムだけはそこで……。実際にはありえなかった夜。でもその夜は今も現在進行形でどこかにあるのかも知れない。歴史の連続性が静かに余韻として沁みてくる。