久々に映画の採点

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『妖怪人間ベラ』

【評価】B

【監督】英勉(はなぶさ つとむ。読み方覚えたい)

【制作国/年】日本/2020年

【概要】昭和アニメ『妖怪人間』のソフトが新たにBOXとして発売される事になった。部下の「今時『ベム』が当たるかよ…」とのボヤキを耳にしながら、担当を任される事になった大人しいサラリーマン・新田は「幻の『ベム』の最終回」の存在を知る。一方、とある女子高に美しい転入生・ベラが現れていた。

【感想】

 椎名林檎の手がけた主題歌以外話題にもならなかった新アニメ版が映画化されたり、こんな変な実写版企画が通ったりした謎のベム推し展開も含めて本作の導入部に吸収されるようなメタ構造。清水崇作品の脚本で(特に『犬鳴村』『樹海村』)気を吐く保坂大輔の脚本が絶好調で、ポジティブな意味で「B」の判を捺したくなる。

 ベラの女子校パートと森崎ウィンの『フォーリングダウン』パートが完全にかみ合っていないので、クライマックスの視点の主がとってつけたようであるのは惜しいけど、それでも飽きさせないサービス満点の映画だった。

 

『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』

【評価】A

【監督】山本迪夫

【制作国/年】日本/1970年

【概要】ゴシックホラー『血を吸う』シリーズ第一弾。半年ぶりに日本に帰国した佐川和彦は、婚約者の夕子に会いに深い森の中にある屋敷に向かう。そこで夕子の母から夕子の訃報を聞かされる。崖から車ごと落下したのだという。しかし泊まり込んだ屋敷に鳴り響く風の音は、よく聴くと女のすすり泣く声だ! 夕子は生きているのか……?

【感想】

 あまりに個人的な嗜好を突かれてしまい、虜になった作品。露骨にヒッチコックから引用した構成、ハマー・フィルム的ゴシックホラーの世界。それを日本で展開して嫌みがないのは、映す場面を限定してる事と、何より画面がしっかりしているから。色味的には昼に撮影して夜に見せるDAY FOR NIGHTの手法で撮られてると思われる。屋敷は元より森の中でもその湿ったゴシック情緒が消えない。

 そしてすすり泣く声……。こういうホラーが今でも観たいです。今更乍ら鶴田法男監督が『おろち』に挑んだ意味が見えたような。

 

『呪いの館 血を吸う眼』

【評価】

【監督】山本迪夫

【制作国/年】日本/1971年

【概要】ゴシックホラー『血を吸う』シリーズ第二弾。幼い頃に見た不思議な館の悪夢に今も囚われ、怪しい瞳の幻想画を描く秋子。彼女とその婚約者である医師・佐伯の周辺で、とある湖で急速に血を失ったり異変を起こした人々の症例が頻発する。そしてとうとう妹の夏子にまで異変が。そして秋子は「吸血鬼」に遭遇する。

【感想】

 ロケ地となる館は前作と一緒? 今度は秋子の心理的なメロドラマを水面下で揺るがせながら、終盤になるまでほぼ説明なく「吸血鬼としか言い様のない何か」である岸田森が着々と暗躍していく、その展開の速さで不条理さを引き立たせる。でも最後に明らかになる秋子の本心で、余韻は言いようなく切ない。ただ吸血鬼にしては怪力を持ち合わせていない事に少々不満……吸血鬼はつおいんだぞ。

 よくある「クローゼットから殺人鬼の様子を窺う」と「吸血鬼は鏡に映らない」を融合させたシーンは、どちらの要素もありふれてるからこそその手があったか!となった。この時点で大滝秀治はもう老人役なのか(やたら恰幅は良いが)。

 三部作通して一番の美女はズバ抜けて夏子役の江美早苗で、白塗りメイクによって余計作り物めいた美しさが生えるが、この人他にどんな映画出てるんだろうと彼女のwikiを覗いたらあまりにもあまりだった…… 本作での美しさがより儚く印象に残る。

 

『血を吸う薔薇』

【評価】

【監督】山本迪夫

【制作国/年】日本/1974年

【概要】ゴシックホラー『血を吸う』シリーズ第三弾。長野県字魔ヶ里村にある聖明女子短期大学に教師として赴任した白木は、道中悲惨な事故の痕を目撃。学長夫人が亡くなったばかりだという。そして出会った学長は、白木を次期学長にしたいと言い出す。眠る夫人の亡骸。夢で会った失踪した女生徒。悪魔は次の生け贄を欲していた……。

【感想】 

 魂が乗り移っていく意外とややこしい話をしているが、学園ゴシックロマン、早々に敵が明確となる対決姿勢、などから表面上はわかりやすい話に見える。前作同様、クライマックスで今見ても「おっ」となる特殊メイクが出てくる。そしてシリーズ全作に共通する、幕引きの簡潔さ。最後まで一作も90分超さなかったな。

 

田園に死す

【評価】A

【監督】寺山修司

【制作国/年】日本/1974年

【概要】寺山の歌集を元にした実験的青春映画。恐山の麓の村で母親と二人暮らしの少年「私」は、イタコに父の魂を呼び寄せてもらい、近隣に住む若い人妻に憧れ、怪しいサーカス団を覗きながら、この村を出ようと密かに決意していた。そんな「私」の映画を制作中の監督:寺山修司は、映画にした瞬間「過去」は私のものではなくなり、そもそもこんな話も美化された嘘であると自嘲し始める。

【感想】

 思った以上にポップで、清順『ツィゴィネルワィゼン』(こちらは期待し過ぎて、ガッカリしてしまった)より遙かに見やすかった。映画としての脈動がある。実験的というけれどあらすじはとてもわかりやすく、ヌーヴェルバーグにも親しんだ寺山の映画的記憶が観客に向けて開けている。庵野秀明は寺山になりたかったのかも知れないが、このバランス感覚は欠如していると思った。

 

『ブラインドスポッティング』

【評価】A

【監督】カルロス・ロペス・エストラーダ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】カリフォルニア州オークランド。黒人青年コリンは暴行事件の咎で保護観察期間中。残り3日間、問題なく過ごさなければならなかった。コリンの幼なじみで大親友の白人青年マイルズは黒人の妻子がおり、いつもイキッては問題を引き起こす。コリンはマイルズの言動にハラハラしながらオークランドの日常を過ごし、親友との間にある人種という埋められない溝を感じていく。

【感想】

 実際に親友である主演ダヴィード・ディグスとラファエル・カザスの共同脚本で、人種間に横たわる問題、そして最悪だが生き生きとしたオークランドのワルの生態を生々しく描き出す。まずこの二人と映画を通して出会えたことが嬉しい。そのくらいキャラが生きている。シリアスなところへ向かうにも関わらずお遊びで満ちた演出の軽さが、これまた映画が「生きている」と感じさせてくれる。

 同じオークランドを舞台にした『ホワイトボイス』(これは最後までふざけっぱなしだが、含む問題や映画演出の定石の「壊し」具合は同じ)もあることから、ちゃんとこの「土地」からリアルな映画が生まれているだろう状況に羨ましくなる。ドラマ『アトランタ』を並べても良い。

 

『AI崩壊』

【評価】D

【監督】入江悠

【制作国/年】日本/2020年

【概要】2030年。高齢者と生活保護者で溢れた日本で、科学者・桐生の生み出したAI「のぞみ」が個人情報を管理していた。しかし「のぞみ」が突如暴走を開始。国民の命の選別を始める。警察は桐生によるテロと断定し、桐生は逃走生活を余儀なくされる。しかし「のぞみ」と同じスペースに閉じ込められた桐生の娘は過酷な環境に置かれ、徐々に衰弱していき……。

【感想】

 「のぞみ」ってネーミングセンスが全て。と言いたいところだけどこの「のぞみ」のある空間はちょっと邦画離れした画がしっかり決まっていて、この空間だけで90分の映画作ったほうが面白かったんじゃないか。逃走シークエンスになんの目新しさもなくて、後はエンタメ風の何かを作れた気になっている退屈なシーンが続くだけだった。

 

『貞子』

【評価】D

【監督】中田秀夫

【制作国/年】日本/2019年

【概要】心理カウンセラーの茉優は、母親を火災で喪った少女を受け持つ。怪しげなオカルト商法にハマっていた母親からネグレクト同然の扱いを受けていた少女には不思議なところがあった。一方、芽の出ないYouTuberをしている茉優の弟が行方不明になる。茉優の母親が死んだアパートに侵入して撮影していた弟の動画に、謎の女の姿が……。

【感想】

 オリジナルシリーズと同じ役で再登場した佐藤仁美の役の物悲しさや、『仄暗い水の底から』的な時空を越えた哀しみの連鎖等、メロドラマを愛する中田監督らしい映画になっているが、そのことが面白さにも怖さにも一切付与しなくて凄い。一見すると似たようなプロットを過剰にやってのけた英勉『貞子3D 2』のほうがまだ見世物小屋にはなっていた。

 

ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーット』

【評価】B

【監督】ザック・スナイダー

【制作国/年】アメリカ/2021年

【概要】監督交代劇を前後して数多の問題を生んだ2017年公開ジョス・ウェドンジャスティス・リーグ』。ファンの署名活動などが功を奏し、当初の監督ザック・スナイダーの意図に合わせて多数の再撮カットなどを付け加え、上映時間二倍相当の「スナイダーカット」が配信された。

【感想】

 どんなに手を加えても元の話の薄さは変えられない為、なんの意味も無い場面を無駄に荘厳な演出で情緒過多に引き延ばし、「神話的ビジョンのイメージビデオ」あるいは「グラフィックノベルの感触の再現」を試みる、ほぼ実験映画の領域。一場面ずつ抜き出すと陳腐の誹りも免れないと思うが、それが四時間続くと奇妙に昂揚してくる。テレンス・マリックがやってる事だって似たようなものだし。

 全体がスローになった事(あと合成素材を増やしている?)で、ザック版のゴッサム・シティの造形が純粋に美しいと気づけた事が発見だった(スーパーマンの墓碑周辺、エイミー・アダムスの背後に広がっている都市部)。

 実写版『るろ剣』みたいな劇伴の嘆きのコーラスはダサくて勘弁願いたかった。

 

『映画 賭ケグルイ

【評価】C

【監督】英勉(はなぶさ つとむ)

【制作国/年】日本/2019年

【概要】私立百花王学園に、「非ギャンブル、生徒会への不服従」を掲げる白装束集団ヴィレッジが勃興していた。寡黙なリーダーはかつて桃喰綺羅莉に勝利しながらギャンブルをやめた男、村雨。生徒会はヴィレッジを壊滅させる為、新ゲーム「生徒代表指名選挙」を開催する。かくして夢子陣営、生徒会、ヴィレッジ三つ巴の闘いが始まる。

【感想】

 あまりにバラエティ色が濃かったドラマシリーズに比べればだいぶまとまりが出てきたが、これだけの舞台と役者が揃ったなら、やはりバラエティ色は薄めて、もう少し腰を据えてフィクションの世界を構築してくれればいいのに、『賭ケグルイ』はその場として絶好のタイトルなのに、という惜しさは否めない。劇場版ゲストのオリキャラ達も十分アニメ的なルックスを湛えていて素晴らしいのに。

 話的には、村雨の「非ギャンブル」というアンチテーゼから上手く逃げててちょっとズルい(それ突き詰めたら作品全否定になるので)。

 

『不吉な招待状(インビテーション)』

【評価】B

【監督】カリン・クサマ

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】NETFLIXに入るにあたって邦題が加わった映画。幼い息子を亡くしたトラウマを抱えるウィルの元に、元妻イーデンからの招待状が届く。旧友たちの集うパーティーが行われるという。ウィルは今の恋人キラと共にかつて妻子と過ごした自宅へ訪れ、イーデンの新しい夫デヴィッドのもてなしを受ける。事情を知る友人たちも努めて明るく振る舞ってくれるが、ウィルの脳裏を息子の記憶がフラッシュバックする。

【感想】

 果たして真相は過去の罪を暴く『ザ・ギフト』系か、何かが忍び込む『サプライズ』系か。その答えは……。予断を許さず、あっと気づいた時にはパーティーはその様相を変えていく。本来なら更なるトラウマとしか言いようのない出来事が起こるのに、冒頭からずっと苦しんでいる主人公が悲惨な難局を乗り越えていくことで妙に吹っ切れた爽快さが余韻として残る。大きく期待を上回りはしないけれど、すべてが「ちょうどいい」映画でした。オチも事実としては酷いのに、気持ちいいと感じてしまう。

 

『劇場版 ドーラといっしょに大冒険』

【評価】A

【監督】ジェームズ・ボビン

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】ヒスパニックの子供(学校へ通えない層含む)向けの米国アニメの実写版。ペルーのジャングル地帯で冒険家の両親と共に育ったドーラ。大きくなり、広い世界を知って欲しいという両親の願いからロサンゼルスへ引っ越した従兄弟ディエゴの家へ居候する。天真爛漫、動物とも喋れるドーラは現代的なロスの高校生たちに笑われるが、やがて同級生たちと共に伝説の財宝を巡るアドベンチャーに巻き込まれる。

【感想】

 教育番組的理想像を体現するドーラが現実世界へ紛れ込み、どう変わるかというドラマのその一歩手前で切り上げてむしろお前らが変われと都会の若者たちを冒険へ連れ出す。冒頭はアニメだし、割と下品だったり狂っていたりのギャグも厭わず、様々なジャンルを越境しながら、自分のルーツを大事にして、けれど囚われず、より広い世界へ旅立つ歓びを伝える。いや「教育番組の実写化」として理想的な形じゃないか。

 ドーラは自身が浮いてることについて自覚的、というのも良い。

 

『暁に祈れ』

【評価】B

【監督】ジャン=ステファーヌ・ソヴェール

【制作国/年】アメリカ・イギリス・フランス・中国/2018年

【概要】実話の映画化。イギリス人ボクサー、ビリーは再起を図る為コーチとして滞在していたタイでドラッグに溺れ、収監される。そこは全身に刺青を入れた囚人たちが暴力で支配する地獄であった。怯え、震えることしか出来なかったビリーだが、そこで囚人ボクシングの存在を知り……。

【感想】

 映画としては非常にシンプルでストイックな作りで、「刺青だらけの囚人たちとギュウギュウになって暮らす生活」というものがこの世にあるのだと示し、体験させてくれるだけで価値はある。嫌すぎる! 序盤本当になんの救いもない世界に見えて、他と見分けのつかない刺青だらけのおじさんが「お前ら喧嘩しかねえのか! ちったぁ落ち着け!」とあまりにまっとうな意見で場を鎮めたり、変に秩序もあるのがどこかおかしい。

 

ヘルボーイ

【評価】

【監督】ニール・マーシャル

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】ギレルモ・デル・トロ版に続き、『ゲーム・オブ・スローンズ』にも参加したニール・マーシャルによる二度目の『ヘルボーイ』映画化作品。ヘルボーイ役はロン・パールマンから『ストレンジャー・シングス』のデヴィッド・ハーパーへバトンタッチ。悪魔の子・ヘルボーイアーサー王に退治された魔女ニムエの復活を阻止する為に人類に協力しながら、次第に自身の出生の秘密を突きつけられていく。

【感想】

 大きくデル・トロ版と変化することはなかったが、旧作のゴシック趣味に比べるとハッキリとゴア趣味が前面に出ている。その拘りゆえか、最後に『BLOOD-C』みたいな大虐殺を繰り広げる地獄の住人たちとヘルボーイとのバトルをもっとガッツリ見せて欲しくなってしまった。どうせあの虐殺場面が一番描きたかったんでしょ。実際に戦う敵としてブタ人間とミラ・ジョボヴィッチではどうにも物足りない。『ゴールデン・アーミー』では『もののけ姫』っぽい絵が出てきたが、今作では『ハウルの動く城』っぽい絵が出てくる。まぁその中で子供さらって殺してるんですが。

 

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

【評価】

【監督】ジョン・リー・ハンコック

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】世界最大のチェーン店「マクドナルド・コーポレーション」創設秘話。ミルクシェイク・ミキサーのセールスマンをしているレイ・クロック(マイケル・キートン)は、ある日効率的にアメリカの家庭の味を提供するマクドナルド兄弟の店に出くわし、そのシステムに商機を見いだす。兄弟に変わってチェーン展開を担うことになるが、レイの野心はどこまでも燃え広がっていった。

【感想】

 天下のマクドナルドは乗っ取られたものだった、というスキャンダラスな事実を、人生の折り返し地点も過ぎて引き返せない男の燃えさかる情動として描く。『ハミングバード・プロジェクト』や『ソーシャル・ネットワーク』の青さと違って、この男は実際にやりきってしまったからな、と思うともう少しペーソスがあっても良いかも。或いは一連の中年ディカプリオが演じてきた一代記のような豪快な振り切り方か。

 繰り返し映される、マクドナルドの看板の最初のデザインである赤いアーチを前にたたずむレイの後ろ姿が一枚絵として目に焼き付く。

 この映画観てから、マクドナルドに行くたびに、実際には『マクドナルド兄弟から奪ったマクドナルドもどきのチェーン店』なんだな、という事実を噛みしめるの面白い。

 

『AWAKE』

【評価】

【監督】山田篤弘

【制作国/年】日本/2020年

【概要】2015年に開催されたプロ棋士VSAIの将棋バトル「将棋電王戦FINAL・第五局」の盤面で起こった出来事をクライマックスのモデルにしたオリジナル作品。幼少期から人付き合いが苦手で将棋一筋だった清田英一は、やがて才能の壁を前に挫折する。英一は遅れて入学した大学でプログラム将棋の作り方を覚えると、AIを通して奨励会時代のライバル、浅川陸との決着に挑むこととなる。

【感想】

 ルックが綺麗で、ウェルメイドなバトル物としての完成度も高い。実話でもある人間VS AIの結末が苦いものである分、そこに向けてのお膳立てが足りていたかは怪しいし、浅川の描写に何かもうひと味欲しかったし、ひたすら将棋に絞ったストイックな内容にしては上映時間がやや長い気もするけれど、邦画の当たり前の平均値というものを技術的に底上げしている作品の一つなのは間違いない。『青くて痛くて脆い』に続き、吉沢亮の根暗なブチ切れ芝居が光る。

 

『ハリエット』

【評価】C

【監督】ケイシー・レモンズ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】実在する奴隷解放運動家、女性参政権運動家、ハリエット・タブマンの苛烈な半生を描く。奴隷の娘として生まれたアラミンタ・ロスは、フィラデルフィアへの脱走に成功。黒人解放運動「地下鉄道」の「車掌」に加わり、ハリエット・タブマンとして自由人に生まれ変わる。危険を乗り越え自らの足で奴隷を次々解放していくハリエットを、かつての主人一家の息子ギデオンが「奴隷狩り」を伴って追走する。

【感想】

 自身がベテラン女優でもあるケイシー・レモンズの演出手腕はかなり怪しく(『ケイブマン』というサミュエル・L・ジャクソン主演の変な都市伝説ホラーを撮っていた)、ここぞという見せ場で弛緩するので下手だと思うのだけど、一方でハリエットを神がかり的な存在にしたり、と思えばハリエットもギデオンも芯のところにかなり個人的な私怨が行動動機となっていたり、映画そのもののバランス感覚も不思議で、ピントが定まらないまま宗教的なエンパワメントとして一気に見れてしまう謎の勢いがある。「地下鉄道」の活動にスポットが当たる昨今、そのピースとして見て損はないかと。

 

『THE GUILTY/ギルティ』

【評価】A

【監督】グスタフ・モーラー

【制作国/年】デンマーク/2018年

【概要】緊急通報室のオペレーターに転属になった警官アスガーは、その晩、か細い声の女性からのコールを受け取る。また酔っ払いか何かかと思ったが、そばで男の声がする。アスガーは「子供に話しかけてる体で」自分に話しかけ続けるよう女性に伝える。そして訊ねる。「あなたは誘拐されていますか?」返事はYESだった。

【感想】

 作品を知った時は『search/サーチ』とかのワンアイデアもの、というかハッキリとブラッド・アンダーソン『ザ・コール 緊急通報指令室』を想起し、「別に目新しい映画じゃないよなー」と舐めた態度で鑑賞したので、鑑賞後感に割と愕然とした。このたった80分間で背負ってしまった重荷をアスガーと共有できる。音の臨場感がまったく違うので、イヤホン、ヘッドフォン推奨。

 

『シンプル・フェイバー』

【評価】A

【監督】ポール・フェイグ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】シングルマザーのステファニーはお人好しで少し浮いた存在。そろそろ亡き夫の保険金も切れそう。そんな彼女の前に現れたのは、息子の同級生の母、キャリア・ウーマンのエミリーだった。旦那は作家で大学教授、家は豪邸、何より颯爽と格好良く生きるエミリーとの交流でステファニーは少しずつ感化されていく。しかし彼女が失踪し……。

【感想】

 コメディを得意とする監督がそのノリのままサスペンスを作る、という趣きが掌品として綺麗に嵌まっている快作。例えばこういう映画を邦画の監督は予算を言い訳に否定できないよね。女性映画でありながら、ひねりも効いていて説教やメッセージじみた贅肉がない。アナ・ケンドリックの当て書きじゃないかなってくらいアナが得意としてきたキャラ(永遠の「一生懸命な新米」)が十全に生きたステファニーとエミリーの対比が魅力的。良かったです。

 

『女は女である』

【評価】B

【監督】ジャン=リュック・ゴダール

【制作国/年】フランス・イタリア/1961年

【概要】ストリップダンサーのアンジェラと暮らすエミール。ある日、アンジェラはエミールに「子供が欲しい。24時間以内に」と要求してくる。のらりくらりかわすエミール。一方、アンジェラは他の男でもいいと別の男にもちょっかいをかけ、エミールは意地で否定しない。とにかく男と女は噛み合わない掛け合いを続けるのだった。

【感想】

 女のわがまま、男の無責任。せっかくのミシェル・ルグランの音楽がここぞと気持ち良いところで流れるもこれみよがしに切り貼りされて弄ばれる。アンナ・カリーナに弄ばれたいゴダールの欲望とシンクロするように。映画全体が遊んでいるので何をやいわんや感はあるが、「奔放で感情的でよくわからない女性像」がもう古い気もする。映画美学校系の監督の「自称コメディ」が別にちっとも笑えないのは、彼らの思う「コメディ」はこういう映画だからだと思うんですよね。