十月の映画の採点

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『愚行録』

【評価】B

【監督】石川慶(蜜蜂と遠雷

【制作国/年】日本/2017年

【概要】絵に描いたような幸福な一家、日向家一家三人惨殺事件から一年。世間ではすっかり忘れ去られようとしていた。新聞記者の田中は、娘への虐待疑惑から精神施設に収容された妹の存在に悩まされながら、日向家の関係者たちへのインタビューに逃避。やがて人それぞれの抱く悪意が浮かび上がっていく。

【感想】

 ルックの綺麗な石川慶監督×ピオトル・ニエミイスキ撮影監督コンビの長編デビュー作にして、変にカメラが揺れるその後の『蜜蜂と遠雷』『Arc アーク』と比べても一番画角が落ち着いて安心して観れる。

 ただ人の悪意をあぶり出す話の羅列が筋である為、高級なワイドショーの再現VTRを観てるような印象も否めなかった。『葛城事件』を観ても思ったけど、もう少し撮影からして「これはブラックジョークです」と示す手管みたいなものを邦画は失ってしまったのだろうか。吉田恵輔監督作品などは実際に悪意で笑わせてくれたりもするが、それでも画の力による…のとは違うし。

 

『テッド2』

【評価】C

【監督】セス・マクファーレン(荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~)

【制作国/年】アメリカ/2015年

【概要】ジョンはロリーと離婚してしまったが、意思持つヌイグルミのテッドとタミ・リンの結婚生活は順調であった。しかし子供が欲しいと奔走したテッドは、最終的に法的人権が無いという決定を下され、ただのヌイグルミ以上の人権を失ってしまう。その頃、トランスフォーマーやマイリトルポニーで知られる人気オモチャメーカー、ハズブロ社の魔の手がテッドに忍び寄っていた…

【感想】

 実名ネタジョークを無限に詰め込む笑いの取り方がテンポ悪い。上映時間が倍くらいに感じる。笑える場面も沢山あって、同じくらい「はいはい」「ちょっとその人知らない」となる笑えないジョークも沢山あった。「スタンダップコメディに野次を入れて邪魔する遊び」「コミコンでオタク仲間のフリをしてオタクをイジメる遊び」は悪意がいき過ぎてて良かった。スタッフ実際にやったことあるだろ!

 それでも人権問題について芯のところの理解は流石。

「歴史上何度も繰り返されてきた問題です。声を上げる人たちの正しさはいつだってずっと後に証明されてきた。今回も同じことです。いつもの悪魔が邪魔をしているのです」

 

『続・夕陽のガンマン

【評価】A

【監督】セルジオ・レオーネ(荒野の用心棒)

【制作国/年】イタリア・西ドイツ・スペイン・アメリカ/1966年

【概要】南北戦争時代の荒野。ここにどちらの軍にも属さない三人のならず者が行き交っていた。裏切りをものともしない〈卑劣感〉のテュコ。残虐な〈悪党〉のエンジェル。そして二人に比べればまだ〈善人〉のニヒルなブロンディ。やがて重傷の兵士が大金のありかを告げて事切れたことから、お宝争奪戦が始まる。

【感想】

 漸く見れたクラシック。タランティーノで見たことある演出がわんさか。てっきり三人のガンマンの生き様を等しく映し、最後にさあ誰が生き残るのかをやるのかと思ったら、基本はブロンディとテュコのドタバタ珍道中。最後の決闘よりも戦争に一矢報いる場面が痛快。これを踏まえて『グッド、バッド、ウィアード』を見返したい。

 

『わたしはわたし ~OL葉子の深夜残業~』

【評価】C

【監督】城定秀夫(アルプススタンドのはしの方)

【制作国/年】日本/2018年

【概要】雑誌編集の葉子は極端な男性恐怖症。なのに、日中変な男から「昨夜は熱かった」と言い寄られる。体の疲労も蓄積し、やがて夜になると性に奔放なもう一人の自分が目覚めることに気づく。夜の葉子は昼の葉子の恋を応援し、葉子に想いを寄せる小説家に、そっと葉子のトラウマの解き方を教えるのだった。

【感想】

 ピンク映画はそういうものなのかも知れないけど、キャラ付けの極端さにどうも乗り切れないし、以前見た『ケイコ先生の優雅な生活』同様、基本的に女性賛歌でありつつ、性の解放で女の成長を描くジャンルの要請が結局古い価値観を露呈させてしまうのも、夜の葉子は良いキャラなのだが物足りない。ピンク映画とは言えパワハラ上司にはSEXさせねーし脅迫するだけ、というのは面白かった。

 

『怪談』

【評価】

【監督】小林正樹切腹

【制作国/年】日本/1964年

【概要】構想10年、多額の制作費をかけて撮影された、ラフカディオ・ハーン原作の怪談オムニバス。カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。貧しさから妻を裏切った侍の慚愧【黒髪】、有名な【雪女】、源平合戦語り部だった盲目の琵琶法師が平家の怨霊に夜な夜な呼ばれる【耳なし芳一】、そして未完の怪談【茶碗の中】。

【感想】

 古典怪談に水木洋子脚本で登場人物の情念を滲ませる。それが面白さにまで至ってるのは【耳なし芳一】くらいで(にしても冒頭の弾き語りは長い)、『日本昔ばなし』が10分で済ませる話を30分も50分も長々と見せられても面白くない。或いは耐久年数を過ぎてしまった映画なのか。「風」の捉え方や巨大なお屋敷セット、芳一を囲む平家の怨霊等、金をかけただけの見せ場もあるが、書き割りの効果は木下恵介楢山節考』(本作より六年前)に遠く及ばない。

 名匠を自由にさせ過ぎるのはやはりギャンブル。

 

『プラットフォーム』

【評価】B

【監督】ガルダー・ガステル=ウルティア

【制作国/年】スペイン/2019年

【概要】ゴレンが目を覚ますと、そこは殺風景な四角い部屋だった。真ん中に空洞があり、上下に長い穴が延びている。無数の階層がこの穴で繋がっているようだ。そして上の階から降りてくる台座と食料。恐らく最初は広いテーブルにめいっぱいのご馳走が乗っていて、それが階を降りてくるごとに食い散らかされて減っているらしい。一番下の階の人間まで食料を届けるには、皆が自制する必要があるが…

【感想】

 まだまだアイデアのつきないシチュエーション・スリラー。口だけの『SAW』と違って真剣に自己犠牲と他己的な愛について考え、苦悶する内容。期間を置くと階層もパートナーも入れ替わる為、童話のように様々な人間との出会い、衝突、影響のドラマが描かれる。ちょっとゴレンの幻視を入れ過ぎててクドいのが惜しいけれど、どんなジャンルも自分たちの色に染めるスペイン映画の今の勢いを物語る一作。

 

『マリアンヌ』

【評価】A

【監督】ロバート・ゼメキス(フライト)

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】第二次世界大戦下、フランス領モロッコ。英国工作員マックスは先にナチス・ドイツ社交界に馴染んでいたマリアンヌと偽装夫婦として暮らし、要人暗殺を成し遂げる。偽装に留まらない思いを抱いたマックスはマリアンヌに結婚を申し込み、英国に帰国した二人は晴れて幸福な結婚生活を送るが…?

【感想】

 『マーティン』『魔女がいっぱい』と明らかに画面が老境の枯淡に入っていたゼメキス(その上で『マーティン』は好きですが)。その前作はしかしまだ若かった。脚本スティーブン・ナイトの存在も刺激になったのかも知れない。パーティーシーンで長回しを使わず賑やかさを演出する僅かな手管とかやはり巧いんですよ。

 ギミック多めの画面の中だからこそ下界と途絶された「車中」が二人だけの真実として危うく緊張感を持って動いていく。ラストは甘めですが、その過程の揺さぶりで十分画面を堪能しました。非常に好き。

 

『リビング・デッド サバイバー』

【評価】A

【監督】ドミニク・ロッシャー

【制作国/年】フランス/2018年

【概要】サムが別れた彼女の家に置き忘れたカセットテープを取りに行くと、そこはモラルも忘れた若者たちのパーティー会場。明らかに空気のそぐわないサムは寝室に閉じこもり寝入るが、目が覚めると会場は血まみれ。ドアを開ければゾンビ。階下の老人は自殺。たった一人、アパートの中に閉じ込められてしまった…

【感想】

 語弊ある表現ながら、純映画的な手触りを持ったゾンビ映画ゾンビ映画の外面の装飾としての面白さは『ドーン・オブ・ザ・デッド』が極めた。逆に内面の本質、対世界の孤独を突き詰めるかのよう。静謐も含めた音との戯れ、個の視点で世界を見るしかない画面との戯れ、大げさでなく(良い映画がそうであるように)「映画」を再発見していく愉しさ。登場人物ほぼ一人でも画面が豊かなら十分面白い。

 台詞のないゾンビ役がドニ・ラヴァンで、どういうこと? と思うけど、「確かにそのゾンビは演技うまい人であってほしい」という配置で笑った。

 韓国の『#生きている』が物足りなかった理由も本作の後半見てて判った。

 

『邪願霊』

【評価】A

【監督】石井てるよし(電光超人グリッドマン

【制作国/年】日本/1988年

【概要】これはとある取材テープを再構成したものである。アイドルをいかにマーケティングして売り出すか、そんな今時のレコード会社の取材を始めたTVクルー。リポーターの女性は次第にアイドルの周囲に奇怪な現象を察知していく。やがてプロデューサーが非業の死を遂げ、邪悪な何かが暴れ始める…

【感想】

 Jホラーの礎といわれるVシネ、ようやく鑑賞。いや面白い。脚本のみならず技術面でも関わった小中千昭さんの徹底した拘り。「ただ映っているだけの女性をこの世ならざる存在に見せる」「フェイクドキュメンタリーの仕掛け」といった、その後のホラー映画の王道演出の走りを見ている興奮もさることながら、「別にモキュメンタリーに見えなくても、『リアル調のそれっぽい会話』はそれだけで面白い」という点が重要で、その後のJホラーの巨匠とされる人たちが結局本作より上手にそれを出来て無いじゃないかというイラ立ちまで覚えてしまった。

 怖くはないが、やり過ぎてしまうクライマックスもワクワクする。まだお金あった時代なんだね。本作を経て『女優霊』の見方も変わりそう。

 

スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』

【評価】E

【監督】中田秀夫(女優霊)

【制作国/年】日本/2020年

【概要】連続殺人鬼・浦野が逮捕されて数ヶ月後。新たに女性の白骨遺体が見つかるも、ターゲットは浦野の殺人対象のカウンセリング像からズレていた。浦野を逮捕した加賀谷刑事は浦野と接触し、浦野に知恵を与えた「M」という存在に探りを入れていく。一方その頃、加賀谷の恋人・美乃里のスマホを何者かがハッキングする…

【感想】

 そんな『邪願霊』~『女優霊』と継承されていったはずの歴史が、何故こうも酷い現代映画に繋がってしまうのか。仮にもジョセフ・ロージーのドキュメンタリーとか作ってた監督が、もう20年くらい最近の映画も見てないし世間の動向も知らないとこうはならんやろという、隅から隅まで全てがダサい画面を作ってしまうのか。

 テロップもダサいし説明台詞もダサいし芝居もダサいしその芝居をいちいちカット割って寄るのも説明×説明でしんどいし。前作で「ヒッチコックやってみました(はあ?)」とか言ってた割りに、白石麻衣を窃視するスリルに絞ることも出来ない(その割りにレイプ未遂という下世話な見せ場はあって辟易する)。

 刑事役で出演するアルピー平子が普段キャラとして演じてるクサさのリアリティがこの映画全体を覆うので、結果平子が一番良かった。

 

ミッドナイト・ランナー

【評価】A

【監督】キム・ジュファン

【制作国/年】韓国/2017年

【概要】警察大学に入学した、直情的なギジュン(パク・ソジュン)と理論派のヒヨル(カン・ハヌル)。ウマが合わないのになんだかんだ二年間を共にし、警察大の教えにもウンザリし始めていたある日、二人がナンパしようとした女学生がいきなり怪しい男たちに拉致される。警察に駆け込むが、まともに取り合ってくれない。実践経験の無い二人は、僅かな知識を元に彼女の救出に向かい動き出す。

【感想】

 本作、ギジュンとヒヨルのキャラ立てしかしてない。二人の人間を描き続けるだけで話は生まれるし場面は動いていく。コメディとシリアスの綱渡りも肉体的な説得力がリアリティラインを支える。タイトルに反して一夜の話で終わらないとこはズッコケるんだけど、そこも含め「二人を描く」ことで徹底してる。

 劇中、どう考えても『哀しき獣』じゃんとなるコンビニのシーンがあるけど、本作は非道な犯人側を中国朝鮮族として描いている為差別的だと批判されていたと知り(後に製作会社が謝罪)、朝鮮族の被差別民を主人公とした『哀しき獣』を引用してそれは何。。。? という呆れが生じて残念。

 

『日本のいちばん長い日』

【評価】A

【監督】岡本喜八(独立愚連隊)

【制作国/年】日本/1967年

【概要】1945年8月14日、鈴木貫太郎内閣は連合軍のポツダム宣言を受け、その対応に意見を交わしていた。とうとう天皇の聖断があり、ポツダム宣言受諾を国民に伝える玉音放送への準備が始まる。放送は24時間後、正午。この決断が陸軍将校たちに行き渡り、形骸化した天皇制度のみ残す事実上の無条件降伏に反旗を翻す…

【感想】

 やはり映画の構造、そして構図が二重に無類に面白いが、陸軍軍人・竹下正彦の日記を事実として元にしている為、非常に都合が良い美化も行われている他(阿南陸軍大臣が後の者は腹を切らなくていいと言ったとか、それで免罪符になるのか)、もし事実こんな真剣で優秀な人間が集まっていたと言うのなら、どうしてあんな沢山の命が奪われなければならなかったのかと、面白いがゆえに怒りもこみ上げる。だからこそ映画のラストクレジットに岡本喜八はここには映らない死者の数を入れ、『シン・ゴジラ』でもその数字を庵野秀明が継承してみせたのだが。

 「言葉」の齟齬から戦争が激化したとする冒頭の解説から、ひたすら「言葉」の危うさ、コミュニケーション不全が全体を貫いていき、しかしその「言葉」が決定打となる玉音放送というラストに行き着く。

 映画の中心を貫くのは狂い続ける黒沢年雄(畑中少佐)で、時折カウンターのように各役職の人間がその軍人の狂熱を相対化してみせる辺り、岡本の賢明さも滲む。が、ギリギリの映画だと思う。

 

蜘蛛の巣を払う女

【評価】A

【監督】フェデ・アルバレスドント・ブリーズ

【制作国/年】アメリカ・スウェーデン・イギリス・カナダ・ドイツ/2018年

【概要】女性を虐待する男性を懲らしめる「ドラゴン・タトゥーの女」として有名になったリスベットには幼い頃、双子の妹がいた。GRU職員である父から虐待を受け、リスベットは逃れたが、妹は家に残ってそれきり亡くなってしまった。現在、新たな世界的な陰謀に立ち向かい、とある少年と逃走するリスベットは、敵側に妹の姿を目にする…

【感想】

 スウェーデンで三部作、ハリウッドで第一作が映画化された『ドラゴン・タトゥーの女』四作目を合作で映画化(生みの親は亡くなっているので、四作目から作者は交代)。制作を停滞させない為にキャスティングも臨機応変に変更(ラキース・スタンフィールドだけ有名だが、多作な彼のフットワークの軽さを物語っている)。

 こうした効率的なスマートさが映画にも溢れ、画面は絶えず冴え渡り、特別なアイデアのある話ではない(被虐待児の話の〆方としてもこれでいいのかは疑問)が過剰過ぎず、しかし淀みなくスリラーとアクションが続く。ミカエルの存在感の薄さが凄いことになってるがキャスティング的にも敢えてだろう。

 ちょうどいい映画。とてもちょうど良かった。

 

『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』

【評価】A

【監督】スパイク・リードゥ・ザ・ライト・シング

【制作国/年】アメリカ/1985年

【概要】ノーラについて、彼女を愛する人々は口にする。彼氏のジェイミー、遊び人のマーズ、元カレのグリアー、レズビアンオパール。それぞれが見たノーラ像と、結局いかにノーラを自分のものにしたいかという欲望。ノーラはセックスは好きなので誰とでも寝るけれど、誰の束縛も鬱陶しい。愛ではなくエゴばかりが行き交い、ノーラは呆れるのだった。

【感想】

 実験的とされてそうな手法を全部使いながらお洒落なまとまりの良さがエンタメになってる。歪さが売りの監督だと思っていたけど、そういえば職人に徹した時はスマートな人だって事を思い出す。ゴダールらヌーヴェルバーグのオタク達が隠しきれない「女性へ求める可愛げ」もここでは袖にしているので、更に先進的。

 ノア・バームバックもグレタ・ガーヴィグもこのくらい「崩して」いいのに。

 

G.I.ジョー バック2リベンジ』

【評価】B

【監督】ジョン・M・チュウ(イン・ザ・ハイツ)

【制作国/年】アメリカ/2013年

【概要】コブラのザルタンがアメリカ大統領に擬態したことで、G.J.ジョーは壊滅、わずかな新メンバーを残し、なんと主人公デュークまで死んでしまう。そして東京で別行動を取っており壊滅を免れた光の忍者スネークアイズが動き出す。一方、コブラの側にいた闇の忍者ストームシャドーはコブラが自分を裏切っていた事を知り…

【感想】

 スティーブン・ソマーズのお馬鹿超大作だった前作のバイブスは失ったが、「さも前作から主役でした顔のドウェイン・ジョンソン」「今回スポット浴びるイ・ビョンホンレイ・パークとの忍者大戦」「忍者の師匠がRZA」「キャラ作りもクソもないブルース・ウィリス」「ジョナサン・プライス一人二役」何より、コブラが世界の核保有国首脳陣をサミットに集めて仕掛けるガンダムみたいな大ボラの楽しさ。

 トータルとしてはダメなんだけど、個別の要素のせいで飽きなかったのが悔しい。恐らく大抜擢だったのだろう、エンドクレジットで一番最初に出るD・J・コトローナが完全に割りをくい、存在感が皆無に近くてスゴい。スゴい可哀想。

 

『ブライトバーン/恐怖の拡散者』

【評価】C

【監督】デヴィッド・ヤロヴェスキー(ナイトブック)

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】カンザス州ブライトバーン。子供を望む夫婦、トリとカイルは、家の裏手の森に何かが墜落した衝撃を感じる。時を経て、二人は息子ブランドンを可愛がり、幸福な家庭を築いていた。しかし、ブランドンが自身の過剰な力に気づいてから、夫婦の周囲で次々と人がいなくなり…

【感想】

 「もし、スーパーマンが邪悪な存在だったら?」というIFに挑むワンアイデアホラー。シンプルである事と脚本が整理されている事は違う。ブランドンの葛藤も、トリとカイルの葛藤も、掘り下げる手前で話のコマになってしまうので、もっと生じて然るべき「他者と違う苦しみ」「死角のある愛情」といったテーマが浮かばないから、ホラーへの落差も面白くない。

 ジェームズ・ガン製作でこのていたらくはどうかと思っていたら、エンドロールで「ああ、こういう事がしたいのか」とハッキリして、そこにかかるビリー・アイリッシュで笑ってしまうが、時すでにおすしなのだ。

 

『古城の亡霊 The Terror』

【評価】B

【監督】ロジャー・コーマン(アッシャー家の惨劇)

【制作国/年】アメリカ/1963年

【概要】1806年。ナポレオンに仕える将校デュヴァリエは軍隊とはぐれ、彷徨いついた浜辺で謎の美女に惹かれる。彼女に会いたいと願ったデュヴァリエは崖の上の古城で暮らすレッペ男爵の元へ辿り着く。男爵はここでは自分と執事の二人暮らしで、デュヴァリエが見た美女は20年前に亡くなった妻だというが…

【感想】

 B級映画の帝王ロジャー・コーマンが、エドガー・アラン・ポー作品の量産体制に入ってる最中、古城の豪華セットを流用して手がけた「ポーっぽいオリジナル作品」。実際はコーマンはすぐに現場を離れ、弟子筋にあたるコッポラ、モンテ・ヘルマン、さらには主演のまだ若々しいジャック・ニコルソンが交代で監督を務めたとされる。

 その為に短いストーリーの中で設定は複雑に入り乱れ、辻褄は合わず、最終的にそこに映っている人が誰なのかわからなくなる(魂の交替が肉体まで変質させる)。それはそれとして見世物として残酷描写やスペクタルも見せ、ラストは後のインディ・ジョーンズを先取りする「顔面腐敗」でドーン!とエンドマーク。

 フィルムの状態が最悪なのでヘドロのような青と緑。事故的に、実際に作られた60年代よりずっと古い映画に見えてくるのも面白かった。

 

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

【評価】

【監督】フレデリック・ワイズマン(パリ、オペラ座のすべて)

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】ドキュメント。ニューヨーク公共図書館。それはハリウッド映画にもたびたび登場する巨大な4つの中央図書館の他に、88ヶ所の分館、計92館からなる巨大な図書館である。その予算はニューヨーク市のみならず、民間からの寄付によっても成り立っている。誰に何を返すべきか。その功績から如何にして更なる予算へ繋げるか。そして、如何に多くの生活困難者の為に役立つべきか。日々重ねられる会議と、行われるイベント、講義、授業。人が生み出す理想の社会へ向けた努力の積み重ねが、205分に渡って紡がれる。

【感想】

 人の叡智の営みなどという大それた言が平然と口を吐いて出てしまう。これほどの理想、しかし凡庸なシニシズムより遙かに現実に立脚した、正しい公共の場の在り方を、BGM無し、ナレーション無しのワイズマン・スタイルで確かにそこにあるものとして記録していく。

 それでも本作はとても雄弁で、各分館の外見を通してそれぞれの図書館で語られる言葉から言葉へとバトンタッチするように人の志が繋がれている。

 恣意的な演出が無いことで映像のドキュメント性に拠る、特別な瞬間を切り取っていく…という訳では実はなく、むしろ映像は特別ではない、この世界に普遍的に存在する凡庸な瞬間の切り抜きで構わないとしている開き直りを感じた。

 赤ん坊の泣き声、手前でアイコンタクトしてる人、背後を動き回る人、そうした普通に「しまらない」聴衆に囲まれながら、己の理想を、開かれた大多数の他者に対して伝えようと言葉を発する人々の姿が、特別ではないほどに記録される価値を持つ。そこにいるのは今ここにいる私でもいいのだ。私でもなれるのだ。

 本編の言葉を借りるなら、一人一人が地味で小さな「必要な面倒ごと」を引き受けていけば。

 という訳で初めての「S」点けさせて頂きました。映画を越えているので採点基準が異なる。これは人類がこの宇宙に確かに存在して、理想を志した証。

 全ての公務員、及び政治家にも観て欲しい。

 公式サイトで読めるトークショーも面白かったです。

moviola.jp

 

『キャンディマン』

【評価】B

【監督】バーナード・ローズ(サムライマラソン

【制作国/年】アメリカ/1992年

【概要】シカゴの大学院生ヘレンは、都市伝説の研究中に殺人鬼「キャンディマン」の噂の舞台が自宅の近所である事に気がつく。低所得層住宅地から目を逸らす為に埋められた壁。その向こう側にある景色へと足を踏み入れていくと、そこでは荒れた土地で暮らす貧しい黒人達が、今もそこにある恐怖としてキャンディマンを語っていた。

【感想】

 スラッシャームービーかと思ったら「都市伝説」についての考察のようなホラー。『ハロウィン』『エルム街の悪夢』から『イット・フォローズ』に至るミッシングピースを見たようでもあり、黒人の被差別の恨みを弱者を犠牲にして語り継いでいくキャンディマンの悲惨さはしかしズバ抜けて強烈。肝心のキャンディマン自身が登場しちゃうと何も怖くないのだけど、もの悲しい静謐なホラーが好きなのでかなり好み。

 スラムのプロジェクト(団地)の光景を記録していくという意思。『仄暗い水の底から』のうら寂しさも思い出す。

 

『ケンネル殺人事件』

【評価】B

【監督】マイケル・カーティスカサブランカ

【制作国/年】アメリカ/1933年

【概要】ヴァン・ダイン推理小説を映画化。ドッグショウを経て愛犬家が密室で自殺した。ヒース警部と事件のあらましを知った素人探偵ファイロ・ヴァンスは、あのような意気込みでドッグショウに参加した男が自殺するだろうかと怪しみ検死結果を待つ。すると事件は意外な真相を明らかにしていくが、犯人を絞るには容疑者が多過ぎて…

【感想】

 欲の無さが凄い。高速横移動で場面間を繋ぎ、当時としては普通だったかも知れないが序盤で街をミニチュアで見せる事と実際に事件解明にミニチュアを用いる事とが重なって箱庭っぽさも強調される。一時間ちょっとで終わる話にして複雑な真相を示す他、各容疑者の動機を匂わせ、警部や検死官の笑い、ヴァンスの小粋な振る舞いも織り交ぜる。今の監督が同じ映画を撮ってこの尺に収められるだろうか。