音楽は響いたか ー 『CODA あいのうた』感想

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スタッフ

【監督/脚本】シアン・ヘダー

【原作】フランス映画『エール!』

【撮影】パウラ・ウィドブロ

【音楽】マリウス・デ・ヴリーズ

 

キャスト

【ルビー・ロッシ】エミリア・ジョーンズ【フランク・ロッシ】トロイ・コッツァー【レオ・ロッシ】ダニエル・デュラント【ジャッキー・ロッシ】マーリー・マトシン【ベルナド・ヴィラロボス】エウヘニオ・デルベス【マイルズ】フェルディア・ウォルシュ=ピーロ【ガーティー】エイミー・フォーサイス

 

聴覚障害者の両親を持つ健聴者の子供(コーダ)」の物語。

マサチューセッツ州グロスター。荒くれ者の漁師たちの中に、耳の不自由な漁師父子のフランクとレオも混ざっていた。健聴者の娘ルビーが通訳をしてくれるので、漁業をやる上で大した不自由は無い。母親ジャッキーも合わせてガサツで貧しくいかにも漁師気質な家族にうんざりしつつあるルビーは、高校で好きな男の子を追って興味も無いのに入ってしまったコーラス部で、顧問ヴィラロボスの指導の下、次第に「歌」に目覚めていく。それはルビーの家族は持ち得ないもの、「音楽」の喜び…

 

聴覚障害者である前に漁師一家であるロッシ家の気質にうんざり嫌気が差してごく自然にルビーに肩入れしてしまう作品で、それはつまり聴覚障害者というタグ付けで人を見ないという本作の掲げた目標が大成功しているという話である。

ひたすらデリカシーの無い父親と、明らかに娘に依存してそれが当たり前だと思っている母親(終盤、一見和解した風の娘とのやりとりでも、微妙に言ってることすれ違ってるのがおかしい)。

このリアリティに対して、「V先生」ことヴィラロボスの存在に集約されるコーラス部サイドのストーリーは最小限、それもかなり物語に都合良く、実在感に乏しい。V先生が魅力的なので誤魔化されるが、実際はV先生になんて出会えず、ああした家族に搾取されるコーダの子の方もいるんだろうなと考えてしまった。

とは言えうんざりする部分も愛嬌も含めて実在感の塊であるロッシ一家を創出出来ただけでも愛すべき一本で、『フル・モンティ』『ブラス!』ブームにあやかって長年生まれ続けたイギリス発の「音楽(orショービジネス)+不況の田舎の人情モノ」的な映画が、こうしてフランス映画(未見)を基にしてアメリカから生まれたことが面白い。

 

聴覚障害者の楽しむ音楽の世界」というものもあるのではと思うので、序盤で「HIOHOPはベースが響くから楽しい」とまで言わせながら、終盤で障害者にとっての音楽を完全に「無音」の世界として描いてしまったことに個人的に引っかかる部分は若干あった。

※追記.というより、その時と比してラスト二階席から感じたものはどうだったのか.同じ無音の反復だとしても意味は変わるだろうし、そこが知りたかったのかも知れない。

 

とにかく役者陣が素晴らしい一作。「音」の演出にフォーカスを当て切れていない惜しさがもどかしくも、しかし劇場で見てこその作品だと思います。

ワンシーン、「えっ?」と驚く船上アクションを見れる。