シャニマスのストーリーを振り返りました。

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美麗なイラスト、実験精神に富んだシナリオやその演出手法で高い評価を得る『アイドルマスター シャイニーカラーズ』、通称シャニマスは、頻繁にイベントストーリーを無料で全開放することでも知られる、ストーリー重視のゲームです。

近頃は悪戯な注目も浴びてしまいがちなシャニマスの魅力について、名前だけはよく聞く「シャニマス」とやらが少し気になっている方の為に、改めてストーリー面を振り返って簡潔に紹介出来たらと思って、自分なりにまとめてみました。謂わばシャニマス総集編ですね。

独断と偏見に基づいて選んだ)主要なイベント回のあらすじを書き起こすことで、シャニマス全体に通底する大きな一本のストーリーが見えてくるのではないか、そんな個人的な好奇心を最大の動機として。

これさえ読めば、最新話に追いつけるのではないかと思います。

 

当然、【完全ネタバレ】の、記事となっております。ご注意下さい。

 

さてイベントシナリオを一気に読み返したところ、シャニマスの大まかなストーリー構成として、現時点までで3つの季節が描かれてきたと感じました。

○初期4ユニットを扱い、お洒落で可愛いゲームの特性を紹介した第一シーズン。

○新ユニット『ストレイライト』の追加以降、Vチューバーの実況でバズった『薄桃色にこんがらがって』が象徴するように、ビターで重力のある世界観が明瞭になっていく、ドラマチックな第二シーズン。

○『明るい部屋』以降の、多面的な要素が断片化して散りばめられ、ノベルゲーの特性ギミックを用いて複数の場面/時間が混ざり合う、いわば「バズりづらい」構造主義的な第三シーズン。

明解に何かを言い切るわかりやすい台詞は少なく、掛け合いや無言が重視される一方で、どれ一つとして欠けていい掛け合いが無いという精緻さ。

 

つまり第三シーズンからもはや「あらすじにまとめる」事も不可能に近く、「オート機能でイベント一つにつき映画一本分の上映時間にあたるシナリオ/演出を全て浴びる」以外にシャニマスのイベントストーリーを真に理解する術はないので、当記事を読んでもその魅力の3分の1も伝わらないという身も蓋もない結論は既に出ているのですが、僅かでも興味を持って頂けたなら幸い。

ブラウザでもスマホでもタブレットでも楽しめるゲームです。

 

実際にはイベントストーリーの外側にある無数の要素と密接に絡み合っている他、個人的にここ一、二年ほどはほぼゲームとしてまともにプレイ出来ておらず、抜け落ちてる情報や誤読も多々あるかと思います。加えてここ一年半分のシナリオは先日ほぼ一気に開いた人間による乱暴な解釈である点も踏まえ、不行き届きはご容赦願います。

それでは『アイドルマスター シャイニーカラーズ再生産総集編 シャンテ・シャンテ・シャンテ』開演のお時間です。

 

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アイドルマスター シャイニーカラーズ』

 

芸能事務所『283(ツバサ)プロ』。そこでは社長天井努、アルバイト事務員七草はづきの少数体勢に支えられながら、新米プロデューサーが4組のアイドルユニットの活動を開始させていた。

 

○正統派ユニット「イルミネーション・スターズ

・公園の鳩と会話するほわほわ少女・櫻木真乃

・生真面目さが仇になり、いつも空回り気味な風野灯織

・混血故の疎外感を抱えつつ、友達に囲まれ忙しい八宮めぐる

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○ゴシック系ユニット「アンティー

・九州弁が特徴的、善性の塊のような根アカ少女・月岡恋鐘(こがね)。

・濃いメイクにパンク衣装、人をからかうのが好きなダウナー系・田中摩美々

・女性とみればエスコートしてしまう癖がある、長身のたらし・白咲咲耶

・アイドルオタク。くすぶった感情をおどけて隠す、ちょっと面倒な三峰結華

・とある病院で患者たちの面倒をみて過ごす、包帯好きで心優しい幽谷霧子

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○青春熱血ユニット「放課後クライマックスガールズ

・事務所最年少のヒーローマニア。小学生ながらスマートな長身の小宮果穂

・食べ盛り。趣味とキャラ作りの実益をかねてチョコが大好き園田智代子

・ボーイッシュで快活。バスケを辞めた理由は絶対に口にしない西城樹里

・おしとやかで浮き世離れした大和撫子。プロデューサーを恋い慕う杜野凜世

・社長令嬢。筋肉も意識もアップデートし続ける万能大学生、有栖川夏葉

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○可愛いを詰め込んだファンシー系ユニット「アルストロメリア

ティーンのカリスマ。双子の姉が大好き大崎甘奈

・ひきこもりゲーマー。双子の妹に全力で甘える大崎甜花

・元雑貨屋。二足の鞋を履いた末、今はアイドルに挑む桑山千雪

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こうして仲良しユニット4組が軌道に乗り始めていた283プロに、新しいアイドルが三人加入し、新ユニット「ストレイライト」を結成する。

 

『straylight.run()』

 

素の気性は荒いが、猫かぶった理想のアイドル「ふゆ」を演じる専門学生・黛冬優子にプロデューサーがあてがったのは、まだ中学生の芹沢あさひ。好奇心旺盛なあさひは本物の自由人で、その行動はルール無視の好き勝手。まるで冬優子の言うことを聞いてくれない。

冬優子は「ふゆ」としての自分を作ったまま、あさひに「アイドルはめいっぱい可愛くして、人から好きになってもらわなきゃ」と説くが、あさひは「それは相手の自由でいいっす。嫌われたらそれはそれでいい」と、媚びを売ることを承知しない。

最後のメンバーでギャルの女子高生・和泉愛依(めい)は自分を卑下し、二人に「すごい、すごい」と感心するばかり。

やがて天性のパフォーマンス能力を誇るあさひがユニットのセンターに決定した。冬優子は「ふゆ」を演じきり、優等生的に状況を受け入れる。

素は元気な愛依はあがり症で、ステージ上ではビジュアル担当のクールキャラを演じるしかなかった。冬優子は愛依に笑顔で客に媚びを売る練習をさせようとするが、あさひは「嘘をつかなくても本当の自分を好きになってもらえればいい」と意見が衝突。

やがてストレイライトの名を売る為、ビーチで行われるアイドルのパフォーマンス大会に参加する事になる三人。それはやらせが疑われる大会だった。

トップバッターとしてビジュアル担当のパフォーマンスをまっとうする愛依。その採点は、低評価に終わる。愛依への評価に納得いかなかったあさひは、自分の前に踊ったアイドルの踊りを完コピし、技術的に上回ってみせる。同じことをすれば実力差は明白だろうと。その異常性は確かに伝わるが、採点は愛依以上に低かった。

敗北したあさひは、冬優子の言うとおりだったと素直に認める。

「もっと人から好かれるようにすれば良かった」と。

その姿を見て、冬優子は堪えきれずに激昂する。

「だから言ったでしょ。そんなバカ正直が通用する世の中じゃないんだってば。バカバカしい世界なんだから…!

あさひは、どうして私のことで冬優子が泣いてるんだろうと不思議に思う。

素を晒した冬優子は二人に本物のアイドルを見せてあげると颯爽ステージに向かい、やはり敗北するのだった。

 

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きよしこの夜、プレゼン・フォー・ユー!』

 

クリスマスの夜。283プロでは手の込んだレクリエーション番組を中継していた。

海外出張の為に空港で待つプロデューサー。彼の元を目指して19人のアイドル達が6チームに分かれ、マラソンリレーでプレゼントとプレゼン資料を運ぶ。飛行機が飛び立つ時刻は夜の19時。

中継役を引き継いだ「チーム・まりあ(摩美々、凜世、あさひ)」はリレー用の無線で謎の声を傍受していた。

「オウトウセヨ。プレゼントヲオトシタ。トナカイマワシテオク」

あさひは返信するも、声は一方的でーー。

その時、悲鳴が聞こえ、三人は現場に中継車を向かわせる。アクシデントにより散らばるプレゼント。慌ててかき集めると、従来の20個(視聴者プレゼント+プロデューサーへのプレゼン資料)より、1つ多い。

中継車に戻ったチームまりあは、再び無線を傍受。

あさひは「サンタがプレゼントを落としたんだ」と興奮する。断片的な無線の内容を推察すると「18時、空港近くの鳥居」に誰かが来るらしい。18時といえばチームまりあの走行時間。空港へ行く前に近所の神社の鳥居に回り道して、サンタに会おうとあさひはしゃぐ。普段はダウナーなテンションでプロデューサーやアンティーカの仲間を振り回す摩美々だが、あさひのペースに圧され気味だ。

     ※     ※     ※

クリスマスの夜に海外出張を言い渡したのは、社長の天井だった。

本場のミュージカルを見せてやる。空港にはメディアも集まるし、この渡航はお前のキャリアに大きな意味を与えるだろう。

そう言ってーー遠い過去のクリスマスに、天井は「彼女」を送り出そうとした。

     ※     ※     ※

摩美々は他のチームとも無線の内容について相談し、「21個目のプレゼントの持ち主が神社で待ってるかも知れない」可能性を捨てられず、寄り道の実行を決意する。凜世も同じ結論に達していた。あさひは驚く。あさひなりに、自分のワガママは却下される気がしていたから。

あさひ達が鳥居に向かう延長分の時間を稼ぐ為、他のチームは無理をして走行タイムを速める。そしていよいよチームまりあにリレーはバトンタッチされる。

     ※     ※     ※

あさひ達が拾ったその無線は、遠い過去に天井と「彼女」との間でやりとりされていたものだった。「プレゼントを落としたから空港へ行けない」と慌てる彼女をまともに取り合わず、天井は空港脇の神社で待つよう命令していた。

     ※     ※     ※

最終走者「チーム・ヘルメス(冬優子、咲耶、めぐる、樹里)」の中にあって、冬優子は走る前からバテていた。体力バカの他三人はリレー前から走り込みを繰り返し、「ふゆ」を作っている冬優子は付き合うしかなかったのだ。おまけに三人は冬優子のことを「姫」として大事に扱ってくれるし、バテたと気づいたら休ませて様子を見てくれる。その優しさにも、ただ面くらっていた。

     ※     ※     ※

遠い過去/18時/神社/鳥居の下。

「彼女」ーーかつていたその「アイドル」は、飛行機に乗らず、天井にプレゼントの靴を突き返す。この靴はもう履けないというアイドルに、天井は「靴に合わせろ」と求める。「もう。合わせられないんです」

それは彼女のステップを何もかもお膳立てした天井の、独善的な計算違いだった。

     ※     ※     ※

現在/18時/神社/鳥居の下。

チームまりあはサンタを見つけた。いや、そこにいたのは天井であった。

「約束があってな。プレゼントを贈りたかったんだが……」

サンタのプレゼントなら私達が預かっている。あさひは天井にそう言伝する。

結局、リレーは遅れてしまった。必死に走るあさひから、冬優子がバトンを引き受ける。

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冬優子は三人の騎士に守られ、走り続ける。次第にメイクも崩れ、キャラも崩れ、騎士たちは「無理しなくていい」と優しくしてくれる。自分でももう走りたくなんかないわよと思うのだが、頭は朦朧とし、走り続けた。

 

19時。空港。プロデューサーは必死の形相で走る冬優子を中継で見て「ルールを緩めても」と提案するが、真乃は「みんなの頑張りがなくなっちゃうから」とその提案を拒む。ようやく冬優子は空港に辿り着くが、もうそこにプロデューサーはいなかった。

 

そうしてレクリエーションは失敗に終わる。

事務員はづきが遅ればせながら真相を明かすと、21個目のプレゼントは、はづきが混ぜた天井へのプレゼントだった。摩美々が罰ゲームを買って出て、チームまりあが天井へのプレゼントを届けに空港から事務所へと帰っていく。

待ってくれないと思っていたみんなに待ってもらえたあさひから、待ち続けてももう誰も訪れないと思っていた天井へとプレゼントは渡される。

そして天井は、「彼」の乗った飛行機が飛び立った夜空を見上げ、ようやく未来に想いを馳せるのだった。

 

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『薄桃色にこんがらがって』

 

甘奈が復刊雑誌のカバーガールオーディションに参加することになり、甜花と千雪は慣れない圧迫面接の練習にと、気持ちとは逆さの言葉を言う「反対ごっこ」で遊んでいた。その会話の中、甘奈は雑誌名が『アプリコット』であることを明かす。

アプリコット』その雑誌こそはかつて千雪が雑貨屋を志望し、今の自分の価値観を形成するに至ったロールモデル。甘奈はたしかに、今の10代の子にとってロールモデルとなる人気者で、「今の『アプリコット』」にピッタリなんだろう。でも。

「いいな…」

誌面の空気から、自然と千雪と『アプリコット』を重ねて見るようになる大崎姉妹。千雪は恐らくみんなに気を遣われていると理解する。理解しながらも、自らもまた『アプリコット』のオーディションを受けたいと願い出る。

甜花は、プロデューサーが『アプリコット』編集長から受けた電話を盗み聴きし、知ってしまっていた。『アプリコット』のオーディションは、最初から甘奈で内定している出来レースなのだ……。

プロデューサーからオーディション参加への反対を受けた千雪は、同年代で親交を深めていた事務員はづきを呑みに誘い、本音をこぼす。内心、甘奈に嫉妬していること。

昔しまった宝物がもう一回見つかって、でも見つかった途端に自分のものじゃなくなったみたい。おかしいよね。初めから自分のものなんかじゃないのに

はづきはプロデューサーの忠告を無視して、千雪の背中を押す。

「大人じゃないんだってば。私たち」

 

甜花は真相をプロデューサーに問い質し、プロデューサーもまた悩む。全ては当人が知らないだけの出来レースなら、「じゃあ、甘奈は一体何と戦ってるんだ…?」

アプリコット』編集長を翻意させることは叶わず、プロデューサーは遂に三人を集め、出来レースの件を伝える。それでも千雪の意思を尊重すること。千雪もまた、決して合格しないオーディションへの参加を決意する。

バラバラになってしまう不安を抱えながら河原で出くわしたアルストロメリアの三人は、「反対ごっこ」を行って、お互いへの気持ちを大声で叫ぶ。

最後に千雪は笑う。「もう。アルストロメリアなんか、大っ嫌い」

反対ごっこは終わり、甘奈は千雪に伝える。

「甘奈と戦ってください。千雪さん」

千雪は、新しい季節の訪れを感じていた。

 

『ストーリー・ストーリー』

 

アンティーカが出演する〈グッドラフ・テラス〉はマスカラ・ブランドが提供するバラエティ番組。綺麗なテラスハウスに同居する若手タレントの姿を映してくれるが、涙を流してマスカラを落とした分だけ減点。ポイントが低いと即追放されてしまう。

本来は若手のプロモーションが主旨であったにも関わらず、番組の人気が上昇するにつれ、既存の人気者を出演させる為に、番組側はまだ知名度の低い若手タレントを早く泣かせようと工作しつつあった。

既に高校を卒業し独り立ちしている三峰と恋鐘は、まだ高校生で試験を控えた咲耶、霧子、摩美々の世話を焼きテラスハウスでの共同生活を楽しんでいる。一方、高校組は恋鐘と三峰の仕事の宣伝の為にも番組に出続けようと、にわか仕込みのバラエティ的な振る舞いをし、スタッフから不評を買ってしまう。三峰も気持ちは嬉しいが、これはダメだねと三人のVTRをほほえましくも論評する。

しかしオンエア当日。三峰の論評姿のみが手厳しいものとして切り取られ、「実はギスギスしたアンティーカ」「センターは恋鐘より三峰が相応しい」とSNSが盛り上がってしまう。テラスハウスから笑顔が消えた。

三峰は意気消沈する。

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楽しくない食事を見かねた恋鐘は、みんなに喝を入れてテラスハウスからの家出を提案する。

この家に、アンティーカはいない。

 

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そこへ、プロデューサーがマイクロバスで迎えにやってくる。番組側と折り合いがつかなかったプロデューサーだったが、反抗心は折れていなかった。

「カメラのないとこへ行こう」

家出をして再び笑い合えたアンティーカは、策を考える。番組が作った「ストーリー」を、塗り替える為の「ストーリー」。それは……今の自分たちそのもの。試験に挑む高校生組と、それを応援する二人の熱血ドキュメントだ。

アンティーカの作り上げたストーリーは世間に受け入れられる。

今朝も熱血受験生らしさを演出し、パンをくわえてテラスハウスを飛び出す高校生組。摩美々はそのままパンをくわえ苦しそうに駅へ向かう。

「カメラの外でも、嘘のないストーリーにしないと」

珍しく殊勝な摩美々に、霧子は伝える。

「でも、生きてることは物語じゃないから。

 私達が私達でいるなら。ほんとは、どこにも嘘なんてーー

 

 

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プロデューサーが数年ぶりに再会した、かつて共に遊んだ少年・浅倉透は、実は女の子だった。中性的な美貌の持ち主に成長し、天然な性格も許される不思議な透明感。

なりゆきで新人アイドルとなった透を追って、283プロに加入する少女たちがいた。

アイドル業界を軽蔑し、騙されないよう透を守ろうとする同級生の樋口円香。一学年下で、自分と透が大好きならそれだけでいい市川雛菜。同じく一学年下、小柄なガリ勉で、他の3人にも追いつきたくてあっぷあっぷしている福丸小糸

4人は幼なじみアイドルユニット「ノクチル」を結成するが、すべてが成り行きだった為、なぜアイドルをしているのかもわからず、ただレッスンばかり重ねていた。

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天塵

 

幼い頃、家族旅行で海へ行く透についていけないことを悲嘆した円香たちは、いつか4人で一緒に冒険出来るよう、お金を貯めて車を買う約束をする。海へ行こうと。

     ※     ※     ※

小糸は今も危ういながら背伸びをして、透に追いつこうと必死に練習を積んでいた。

そんな中、プロデューサーがノクチルに初仕事を持ち込む。それは業界注目のネット配信番組。出演コーナーは短いが、多くの人に見られている意識を持つことが大事だとプロデューサーは張り切る。しかし円香は事前にチェックしてろくな番組ではないと判断し、練習する仲間を思い浮かべ「矢面に立つ売り物は私たちなのに」と釘を差す。「売り物」その言葉がプロデューサーを戸惑わせる。

本番当日。すでに小糸はいっぱいいっぱい。

慇懃無礼なスタッフの態度。透にしかスポットが当たらないトークでは、MCから「幼なじみ」もキャラ作りの嘘ではないかとからかわれる。そして約束と違い、口パクでいくというライブコーナー。

ライブのスタンバイ中。複雑な思いに駆られる3人に、透は飄々と「いつも通り」でいくと宣言する。

そして始まるライブ。歌が流れているのに、透はいつも通りの涼しい笑顔で、口パクすらせず、段取りをブチ壊しにした。結局カメラはただ一人一所懸命に踊る小糸を映しだし、事故同然に生配信は終了する。

 

こうして、まだファンもいないのにノクチルは炎上してしまった。元々無かった仕事が新しく増える訳もなく、また4人は目的の無いレッスン生活に戻る。

自分ではなく透が映っていたらと悔やむ小糸に、円香は一番ちゃんと練習していた小糸が映るのは道理だと伝える。そもそも透は涼しい顔をしているから判りづらいだけで、普段から歌詞を誤魔化しているという事もバラす。

プロデューサーは引き続き営業努力に駆けずり回っていた。先方が使いたがらない理由もわかる。プロ失格だ。けれどプロデューサーにとって、あの配信番組でのノクチルの姿こそ輝いて見えていた。それは「売り物」としてだったのだろうか。

透の家には雛菜が遊びに来ていた。雛菜はノクチルにアイドル失格の烙印を押すネットでの不評から遠回しに透を庇うが、透は涼しい顔で笑う。

「決まりとかあるのかな、アイドルって。みんなは知ってるのか」

「みんな?」

アイドルがいる人

 

ーープロデューサーがようやくこぎつけた仕事は、花火大会のステージだった。

けれど、これから先はアイドルをやる「理由」が必要だとノクチルに語る。それはお金でも、やり甲斐でもいいし、「やめる」という選択でもいい。でも何かはいる。

ノクチルは考え込むが、みんなの意識の中心にいる透に「理由」などはなく、「行きたいから、行く」と爽やかに告げるのだった。

 

そうしてノクチルは海へ来た。

花火大会。ろくな設備も整ってない海の家のオンボロステージ。観客はゼロ。それでも練習の成果を見せた4人の全力のステージは、打ち上がる花火の音にかき消された。

さんざんな初ステージを終えると、透は海へ駆けだす。3人も後を追いかけて、海に飛び込み、波と戯れてはしゃぐ。「おーい。こっち見ろー」と呼びかけても、花火客たちは花火に夢中で気づかない。

まるで幼い頃の約束が叶ったようだと小糸たちは思うが、当然のように透本人はそんな約束は忘れていた。それでも満足げで、急に「夏休みが苦手だった」と白状する。いつも終わらない気がしていたから。けれど今年の夏はーー

「早かったわ、海に行くの決まってから。楽しいんだ、最近」

透が楽しんでいる。彼女達の「理由」なんてそれで十分だった。

 

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『many screens』(2020年、8月のイベント)

 

「けぇるぞ。。。けぇるぞ。。。」

 

ともかく、放課後クライマックスガールズ、通称「放クラ」はなかなか揃って会うことが出来なかった。だから会話はもっぱらオンラインミーティング。ずっと続くリモートの日々。仕事が終わっても繋がりっぱなしで、まるで放課後みたいだねと笑う。

中でも、ラジオドラマで智代子と落語の『死神』を演じることになった果穂は死神役がハマり役で、堂々たる名演を皆の前でも披露し、ご機嫌であった。

 

落語『死神』

 まだ寿命は長いのに自殺しようとしている男(智代子)に、死神(果穂)は寿命じゃない者を死から逃れさせる秘技を伝授する。男はその秘技を使って金儲けに勤しむが、欲に目が眩んで本来ならもう寿命である富豪を助けてしまう。

 掟を破った男は死神から穴蔵に誘われ、そこで無数の蝋燭を目にする。それは人それぞれの寿命。死神は掟を破った男に、残りわずかな蝋燭を渡し、これがお前の寿命だと告げる。

「けぇるぞ(消えるぞ)。。。けぇるぞ(消えるぞ)。。。」

 そして、蝋燭の灯は消える。

 

それぞれに多忙な5人はオンラインでさえ繋がる時間が取れなくなっていく。

あのリモートの放課後をそれぞれに懐かしがっている頃、果穂はあるファンレターに心痛を覚える。『死神』がラジオで放送され、好評を博した果穂の演技が、果穂のファンの幼い少女にショックを与えていたという。

その子にとって死神は、普段の果穂が愛する正義のヒーローではなく、イタズラに智代子の命を弄んで最後には消し去ってしまう悪役。

皆に演技を褒められて図に乗って、自分を見てくれる人のことを考えていなかった。自身も「神様なのにどうして悪いことをする(人の命を奪う)んだろう」と死神に疑問を抱いたことのあった果穂は、自分を責める。まだ幼い果穂の悩みを真剣に受け止めた夏葉は、放クラのオンラインミーティングを再開。『死神』に於ける「悪役」とは何かについて、真剣に議論を重ねる。

「果穂がこうやって、自分の死神について考えることは大切なことよ」

なかなか答えは出ないが、男を演じた智代子には実感があった。果穂の死神があまりに迫真の演技で上手く追い詰めるものだから、死神のお陰で、男は最後に「生きたい、生きたい」と強く願ったはずだと。そして彼女達は、プロデューサーにある提案をする。

 

彼女たちの発案で、今度はオンラインイベントとして、一般視聴者も参加してSNS上で『死神』が再演されることになった。

舞台は現代。大筋は原作通り。もう死んでしまおうと願った男は死神と出会って金儲けをし、そして欲に目が眩んで自らの寿命を縮めてしまう。男が消えかけの己の蝋燭を前にしたクライマックス、プロデューサーはSNSに呼びかける。

ーーみんなも穴蔵に入り、蝋燭の火になって継ぎ足してあげてください。

最初は入りづらい空気。まずは放クラがバラバラに仕事をしていたスタッフ達が、それぞれに参加してくれる。すると一般視聴者も続々と後に続き、オンライン越しに自分の肉声で、SNS越しにハッシュタグで、蝋燭の炎を継ぎ足していく。日本中に明りが灯っていくように。

「燃えるぞー! 燃えるぞー!」

その光景は果穂の心にも火を灯し、果穂は死神の存在意義に答えを出す。

 

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「他の命が、この命をおうえんできるように。おっきな声を出す」

 

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明るい部屋

 

283プロ事務員のはづきはあくまでアルバイト。スーパーの店員も掛け持ちしており、更にスーパーの中でもオーバーフロー気味の職務を押しつけられ、クリスマス間近ともなれば、彼女の仕事量は甚大なものに上る。今日も疲弊して帰宅し、メイクも落とさないままに眠りに落ちる。「クリスマスが、なんだっていうの」

その耳に、聞こえてくる男の声があった。

 

朝の283プロ。イルミネの3人と愛依は今日も気配りの行き届いたはづきの世話になりつつ、いつもよりお洒落したはづきに見惚れてしまった。足取り軽く事務所を後にするその様子に、きっとデートだとはしゃぐ。

同じ頃、冬優子は送迎中のプロデューサーの落ち着きがないことに気がつき、大事な用があるんでしょと送り出す。

 

他方、あさひは助手の果穂を伴って、「幽霊探し」に出発していた。

 

更に他方、283プロの寮では、アイドル達が迷い込んだを退治しようと大わらわ。

霧子が「誰かが、誰も使っていない『奥の部屋』に入っていった」と言うので確認しようとしたところ、中からひらひらと飛びだしてきたのだ。

意外と平気だった千雪があっさり外へ蛾をつまみだしてくれるが、いざという時の為に網が必要だと咲耶摩美々凜世は商店街へ買い物に向かう。そこで目撃してしまった。プロデューサーが、お洒落した女性と物件探ししている光景を。

凜世、大ショックーー!

 

はづきとプロデューサーはイチャイチャと……天井に頼まれた通り、事務所用の「新しい部屋」の内覧会の見学を終える。またぞろオーバーワークをこなそうとするはづきにプロデューサーは仕事を分けるよう伝えるが、代わりに町内会から依頼された、教会で聖歌を合唱するキャロル隊のメンバーを調整するよう頼まれる。

一人で仕事を続けるはづきは、新しい部屋の物件に大体見当をつけつつ、ふとプロデューサーの気づかいに思いを馳せる。

 

危うく失恋するところだったプロデューサーガチ恋勢の凜世と恋鐘は、物件の間取りを見て楽しんでいた。大きな家は持てあましてしまうと語る凜世に、恋鐘は語る。

「部屋のいっぱいあったら、気持ちもいっぱい増えるけん。いっこしかなか部屋にず~っとおったら、気持ちばいっこに押しこまんといけんとやろ?」

 

アイドルとしての仕事さえないノクチルの4人は、の部屋でアルバイト先を探していた。グダグダとした時間。やっとバイト先に見当をつけるが、小糸には切り出したい話があった。

 

あさひと果穂は幽霊探しの結果、寮の二階に辿り着く。「奥の部屋」だ。霧子が見かけた影ははづきだったらしいが、二人はここに「霊がいた」と言い張る。

 

「奥の部屋」では、真乃甜花が溢れる物の片付けをしていた。プロデューサーから近々リフォームする予定だと聞いていたので、手伝おうと思ったのだ。いじらしい二人に、咲耶が嬉しそうに手を貸す。寮暮らしではない真乃と甜花にとっては新鮮で、寮暮らしの咲耶もまた、他の部屋と随分赴きの異なるアンティークなこの部屋の装飾を不思議がる。

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キャロル隊が、コーラストレーニングを行っていた。

選ばれたのは、各ユニットから一人ずつ。

灯織甘奈、愛依、夏葉、霧子。そして、緊張で会話に入れない小糸の姿が。

 

夜。「奥の部屋」ではづきが片付けをしていた。リフォームに向けてアイドル達が交代制での片付けを申し出てくれている。でもアイドル達を埃まみれにする訳にはいかないから、結局はづきが動線を片付けているのだ。仕事は増え続ける。

脳裏を過ぎる、男の声ーー「メリークリスマス」

そんな声を出してはが起きてしまうというのに、男は……は、幼いはづきにプレゼントを渡した。そのまま眠りこけてしまったはづきは、朝になって目を覚まし、幼き日の夢にうんざりする。何がメリークリスマスよ。

それどころじゃないのに。もうずっとずっと、それどころじゃないのに。

やけにお堅い法律関連の本が崩れたのをうんざりしながら片付けて、その蔵書印に驚く。そこに記されていたのは、『七草』の文字。

 

あさひは、霊の気配が消えたのを感じる。

 

天井が、どこか山中で「」に報告していた。線香の代わりにコーヒーを供えて。

「いいよな、もう。空けちまうぞ、あの部屋」

 

父が幼いはづきにくれたプレゼントは、消防士の人形だった。

ドレスの人形じゃないんだ。ガッカリするはづきに、父は慌ててーー

ーープロデューサーは慌てていた。それにしても忙し過ぎる。クリスマス当日はみんながバリバリ働きたがってたからとスケジュールを詰め込み、はづきの負担を増やしてしまった。各ユニットの仕事を終え、その後でキャロル隊を集め……

 

小糸の欠けたノクチルの3人が決めたバイト先は、偶然にもはづきの働くスーパーだった。はづきは機転を利かせ、彼女たちにサンタ衣装でクリスマスケーキを売らせる。要望があれば、特典として握手会や写真撮影が付いてくる。これだって立派なアイドルの仕事だ。メンバーの家族くらいは、握手しに訪れるかも知れない。

 

それぞれのユニットの仕事を終え、キャロル隊のメンバーが厳かな教会に集まる。

愛依はストレイライトから自分が選ばれたことに気後れしていたが、冬優子達の為にもと気合いを入れ、思い切ってセンターを申し出る。しかしセンターは不要だと言われてしまう。ハーモニーの調和が大事なのだから。だから、愛依が真ん中に来たいなら、もう一人対となる人が真ん中に来ないといけない。みんなは、自然と頑張っていた小糸を選ぶ。

客席からそっと冬優子も見守る中、教会に美しいキャロルの歌声が響く。

はづきも彼女達の歌声を聴きながら、後に続く片付けその他諸々忙しいスケジュールを頭の中でやりくりする。結局、何もかもはづきが下支えした日々だった。そして、自分はそんな仕事が好きなのだと改めて実感する。あの時は反発したけれど、本当は、ドレスの人形より、こっちの方が。

 

透たちはスーパーでケーキを売っていた。彼女達がアイドルである事なんて、お客さんは誰も知らない。仕事終わりの樹里智代子がケーキを買いに来ると、透達でなく二人の方が客から写真撮影をねだられる始末。

次にプロデューサーもケーキを買いに訪れて、透達に伝える。アイドルの仕事も、きっとまず「ケーキをちゃんと売る」ことから始まるのだろうと。

またお説教かと円香は思うが、3人はケーキを売り続ける。

 

ノクチルから買ったケーキを、プロデューサーははづきに届ける。はづきは、いつも忙しくしていた、弁護士だった亡き父のことを話す。つい反発したくなるけどと、あの日の消防士の人形よりは素直にケーキを受け取って、プロデューサーに伝える。

メリークリスマス。

 

「奥の部屋」は、もう綺麗に片付いていた。

ほとんどはづきがしてくれた事だけど、それでもせめてと凜世達は最後の仕上げを終える。樹里たちがケーキを買って帰り、その部屋で放クラのささやかなクリスマスパーティーが始まる。このガランとした部屋にも、かつて人が住んでいたのだと思いを馳せる5人。智代子は「アイドルもいたのかも知れない」と言う。

凜世は恋鐘が語っていた話を皆に聞かせる。「部屋が増えれば、気持ちが増える」と。

「解きほぐしたい言葉ね」夏葉が切り出し、また放クラの放談が始まる。

部屋が増えれば、空間が増え、人が増え、感情が増える。

時間だって増える。

時間も?

そう。かつてここに住んでいた人の、過去の時間が増える。

それなら、未来の人たちの時間もここにあるんじゃないか。

これから、ここに来る人の。

夏葉は興奮する。

ますます面白いわ。

 横に広がる部屋、縦に広がる時間…… 

 ここはもう、世界じゃない

 

(参照:ロラン・バルト著『明るい部屋ー写真についての覚え書き』)

 

『アンカーボルトソング』

 

雨の中のあたたかい錆の匂い。

工事現場にアンカーボルトを打ち込む音が響き渡る。

かつて同じビルにアルストロメリアが入ろうとした時、3人は3人きりだった。

今では、沿道から多くのファンの歓声に包まれて、やっとこ移動していける。

そういえばあの頃、このビルは工事中で。。。

     ※     ※     ※

千雪は配信の音楽チャート番組でMCに抜擢され、甘奈はプロデュース商品のリップとコスメポーチに開発段階から関われる事になった。甜花は嬉々として二人の動向をチェック。SNS「ツイスタ」に上がる千雪の写真に、ミュージシャン、芸能人のメンションが増えていく。

ツイスタの向こうで、千雪はどんどん格好良く、美しく、別人になっていった。

甘奈は調香の勉強を始める。今でも十分満たされてるけど、もっときらきらしたい。

プロデューサーは応援する。「限界は無いよな、光の量に」

千雪と会えないことを甘奈と寂しがっていた甜花だったが、その甘奈を自分のラジオにゲストで呼ぶことさえ、多忙さを思いやり躊躇してしまう。

そんな甜花にも、バラエティのレギュラー仕事が舞い込む。千雪の変化は寂しいけど、綺麗だった。自分も頑張ろう。甜花もまた変化していく覚悟を決める。

千雪に続いて、甘奈もまた仕事を通じた知り合いが沢山増えていく。

「お仕事をすると、一体感が生まれて仲良くなれるんだ」そう嬉しそうに語る甘奈。

甜花のバラエティは、たしかにスタジオの一体感でうまく回り始める。

こうして三人の新しい道は軌道に乗っていく。

ツイスタには祝福の声に紛れて時折、応援したいけどどこか寂しい、そんなファンの気持ちが見え隠れしていた。

 

甜花はツイスタで千雪を追い続けていた。アルストロメリアのではない、千雪の番組のハッシュタグ。芸人との同時ツイートを「匂わせ」だと嘆くファン。

そんな中で小さくバズったのは、ファンのツイスタへのとある投稿。『今も好きだけど、俺の好きだったアルストロメリア』という呟きと共に、『メモリー』と題された、アルストロメリアのヒストリーを振り返るようなスライド動画。

それは甜花にとっても幸せな記憶で、ファンからの「いいね」が沢山ついている。

ようやく、甜花念願の3人でお茶をする時間が出来たと思ったら、スケジュールを勘違いしていた甜花が抜けることになる。千雪と甘奈が投稿する、それぞれバラバラのハッシュタグ。3人はミルクティーが好きだった。ちょうどミルクティーの膜がお腹に残るように、「前とは違う」という感覚が、雨の中を走る甜花を支配する。

 

甘奈のプロデュースアイテムなのに、甘奈の意見は通らなかった。明らかに決定権は委ねられていない。たしかに、一体感を感じていたのに。

バラエティ番組で甜花と共演する駆け出しのモデルは甜花になつき、揃ってツイスタを投稿して仲良しの「匂わせ」に精を出す。

続くそれぞれの前進と混乱。そんな中、甘奈は甜花に、プロデューサーは千雪に、別々の場所でミルクティーを作って差し出す。

千雪は本心を漏らす。自分だって本当はもっとアルストロメリアでいたい。ファンだってそれを望んでいるのもわかってる。けど、そんな風にぼんやり立ち止まっていられるほど、一人で立つ世界は優しくない。

プロデューサーも、それを受けて本心を伝える。三人揃ってきらきらして欲しい。じゃないと、俺も置いていかれた気がするから。

千雪は反論する。「置いていく」んじゃない。「私たちこそ、ファンの気持ちがいつ離れちゃうか」怖いのだ。

プロデューサーは、それぞれの活動を優先して遠慮していた、アルストロメリアの小さなステージを開催する話を持ち出す。

甘奈は内心、甜花にあの駆け出しモデルの匂わせにモヤモヤしていたと伝える。

甜花はもうツイスタを辞めると言い出す。誰かを傷つけるくらいなら。

 

久しぶりに三人のレッスンが始まった。でももう何百回も踊ってきた曲だ。早々にこれ以上の完成度は望むべくもなくなってカラオケへと繰り出し、アルストロメリアの時間を満喫する。

「私たちがアイドルじゃなくなっても、こうやって時々歌える?」

千雪は今の考えを二人に伝える。

「おばあちゃんになるまでアルストロメリアでいたいよ。でも、そう願うだけでそういられるわけじゃない」それは甜花も理解していた。ファンも、仕事も、いつかは。

千雪は『メモリー』のスライドが悔しかった。そこにあるのは永遠のアルストロメリア。思い出には勝てないから。これから好きになってくれる人の為にも今を全力で走り、お互いの活躍を気にし合って、悩み続けることは間違いじゃないはずと。

甜花も自分の想いを伝える。

傷ついているファンがいるのが寂しかった。変わらないでって。置いていかないでって。でもそれは、甜花自身の本音だったのだと気づいたと。

どうにもならない二人の思いを知り、甘奈は思わず口走る。

に、匂わせよう……!

 アルストロメリアはずっと一緒ですって。今、寂しい人に」

3人はハッシュタグも駆使して、ツイスタでアルストロメリアの匂わせを行う。

     ※     ※     ※

こうして、アルストロメリアは久しぶりのステージの為に、そのビルへ訪れた。

多くの歓声に包まれて、また新しい「勝てない思い出」を更新しに。

いつか工事していたビルの、今日が商業施設としての一日目だという。

なのに、まだ工事は続いている。アンカーボルトを地面に打ち込む音が響く。

そういえば3人がこの街に訪れるようになってから、工事してない時を知らない

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーは営業に訪れたCDショップのバックヤードで、突如、フロアスタッフの少女に写真を撮られて脅迫される。通報されたくなかったら、私をアイドルにしろ。

少女の名は七草にちか。事務員はづきの妹。プロデューサーはにちかを事務所に引き入れることにする。プロデューサーの目から見ても印象は平凡で、パフォーマンスはくすんだようなフィルターがかかっている。それでも、何故かこの子は「幸せにならないといけない」と感じた。

にちかは遠い過去に消えた伝説のアイドル・八雲なみに憧れ、模倣しようとしている。

「なみちゃんの靴に合わせなきゃ。私の靴は、いつまでたっても私の足じゃないですか」誰かの姿の借り物で、生意気で、プライドが高く、なのに自虐的。

にちかは天井の社長室で、八雲なみのCDの白盤を見つける。

 

何故か天井の手筈で、新しく緋田(あけた)美琴が283プロに加入する。十年選手のベテランアイドルだが、かつてユニットを組んでいた斑鳩(いかるが)ルカは今では「カミサマ」としてソロで若者達の教祖的存在になりつつある。

美琴は人生の思い出がほぼレッスン室にしかないほど全てを歌と踊りに捧げてきた。パフォーマンスで感動を与えられるなら死んだっていいと思っている、完璧な実力派。

でも、世間で売れるのはキャラクター性のある子たちで、ずっと見送る側だった。

 

一方、ルカは美琴が「よりによって283プロに」加入したことに忸怩たる想いを抱き、荒れていく。

 

ここに、にちかと美琴の新ユニット「SHHiS(シーズ)」が結成される。


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『00ct.  ー ノー・カラット』

 

バイト先のビル裏の路地で、練習中の売れないお笑いコンビがモラトリアムに甘えている様を、にちかが軽蔑の眼差しで見ていた。つるんでいればコンビだと思っている。

誘っても一緒にご飯を食べてくれない美琴との間の埋まらない距離や、プロデューサーから投げかけられた「にちかは幸せになるんだ」という言葉をリフレインしながら、楽しげな芸人の卵達に「絶対に売れるな。幸せにもなるな」と呪いの言葉を吐く。

にちかにとってSHHiSは自慢の「美琴のユニット」で、歌と踊りの上手い実力派アイドルだ。私達の求めているレベルは、テレビに映る中途半端なアイドルとは違うんだ。ひたすら目につくものをディスり続けては、裏腹に自分もまた美琴と同じレベルには立っていない事を痛感していた。

プロデューサーはSHHiSが初出演したテレビのスタッフから、二人は確かに実力派で、歌って踊れて、でもそれだけだと評されてしまう。「あっはい、ていう……」

SHHiSのステージの為に、プロダンサー達が雇われる事になる。彼らは美琴の旧知の仲で、業界にも馴染みが深い。そんな彼らも皆な、美琴に一目置いている。

レベルの高い者達の切磋琢磨。一人だけ下手なはずなのに、特に何も指摘されず放置されるにちか。不安に苛まれる日々の中、にちかはバイト先の先輩に誘われたクラブのイベントで調子に乗り、場の雰囲気に酔っ払って「SHHiSに乾杯」と高らかに叫ぶと、そんな姿を美琴に見られてしまう。最悪だ。それでも美琴は何も言わなかった。

 

やさぐれ続けるにちかに、プロデューサーはどうして幸せから逃げようとするんだと訊ねる。十分に恵まれた状況なのに。

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にちかにはにちかを見つけて欲しい。美琴が一人でいるなら、二人にしてあげて欲しい。プロデューサーはにちかにそう求める。

 

283プロの近所のモールには、ストリートピアノが置かれている。自動演奏の奏でるメンデルスゾーンが、アイドルになるより更に前、幼い日のコンプレックスへと美琴の追憶を誘う。練習を重ねたピアノ発表会で、丁寧に演奏した美琴より、亡くなったペットに捧げた女の子が受賞した記憶。以来、人生を注いで美琴はひたすらに練習を重ねてきた。

事務所ではづきと話してふと、美琴ははづきが自分のドリンクに掛けてくれたささやかな心配りを、いつかにちかもしてくれていた事にようやく気づく。

 

はづきは珍しくテレビを見ていた天井と出くわし、ある問いかけを受ける。

テレビに映るのはコマの全国大会予選。カメラが奮闘ぶりを取材する町おこしの女子高生チームと、研鑽と技術を重ねた有名大学の工学部チームによる試合。どちらが勝つと思う?

はづきは、「努力」が誰かの「想い」なんかに負けるのではたまらないと答える。

天井は、それでも誰かの「想い」が一瞬で「努力」を吹き飛ばす事があると語る。

天井はかつて、誰かとこの論争を繰り返していたとはづきに伝える。

 

隙間時間にさえ狭い倉庫でペンシルターンの練習を繰り返す美琴に感化され、にちかも軽くターンを練習してみた。すると、自分に興味がないようだったダンサーさんが見つけて、ちゃんと教えてくれる。にちかは自分なんかの為にと恐縮するが、「何言ってるんですか。シーズさんの現場ですよ?」と笑われる。

ステージのリハーサル中。プロデューサーは美琴がリフターで上がる演出を嫌っていた事を思い出す。そんな暇があれば、もっと踊りを見せられるのにと。実際にリフターで上がっていく美琴を見て、そのかなりの高度に冷や汗をかく。

同じ光景を見て、にちかは嫌な予感を覚える。まさか、リフターの上でもパフォーマンスする為に、ペンシルターンの練習を……あんな高所で……? 美琴を止めようとするが、にちかのリフターもまた上がり始め、声は誰にも届かない。イチかバチか、にちかはまだ低所にあるリフターの上でペンシルターンを行いーー

案の定、体はよろめいて……?

ーー悲鳴が上がる。スタジオは騒然となるが、幸い、怪我には至らなかった。にちかは倒れたまま、初めて美琴が私を見てくれたと喜ぶ。

 

美琴からにちかに誘いがかかった。緊張するにちかがついていくと、そこはとある地下スタジオ。所有者は美琴ではないと言う。随分使い込まれた場所のようで、美琴が作曲する為の機材や鍵盤もある。にちかに弾けるのは、今では姉しかいない七草家が幸せだった頃の記憶、『ホーム・スウィート・ホーム(埴生の宿)』くらい。家には小さなキーボードがあって、にちかが弾くと家族みんなが喜んでくれた。にちかだってかつては一番のアイドルだったのだ。家族の中の。

 

プロデューサーははづきを気に掛ける。はづきは勿論、にちかが心配だと笑う。

「ずっと生きていかなくちゃいけないんですよ。もし、夢が終わっても」

今が良かったとしても、その後のにちかを確実に支えられるのか。はづきは今、その為に頑張っている。だからアイドルとしてのにちかの事は、プロデューサーに任せる。

プロデューサーは、にちかが「ずっと生きていくために必要なもの」を探すと誓う。

 

にちかは遂に、自分は邪魔なのではないかと美琴に問う。美琴はその問いを否定も肯定もせずに答える。邪魔だと思うなら、練習するしかない。自分で「自分はアイドルじゃない」と思う人とは、私は組めない。その簡潔な答えに、にちかは満足する。

ーー仲良しとかいらないから。練習するね、私は。

 

ある日。偶然はち合わせて、珍しく共に事務所へ向かうSHHiS。二人であのストリートピアノに差し掛かった時、流れで『ホーム・スウィート・ホーム』を連弾してみることになった。重なる二人のリズム。

にちかはふと思う。いつかプロデューサーが言ってくれたように、私もーーになれるのかも。全てがあった頃みたいに。

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その思いは、一瞬しか続かなかった。

 

それから暫く先のこと……SHHiSの「ちょっと上手くない方の子」にちかは、そのキャラクター性が世間に愛され、一人だけ人気を博し始める。

美琴は、いつか見た光景が再び訪れたのだと気づいた。

 

その頃。どこかでカミサマが一人、

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『アイムベリーベリーソーリー』

 

その夏。アイドル達は現実の夏と、物語の夏を生きる。

 

現実の夏/

真乃、霧子、摩美々、智代子は職場体験で海辺の町の花屋さんで働いている。

SHHiSの二人はそんな余裕ある訳ないと職場体験を断り、レッスンを続ける。

みんな、隙間時間の暇つぶしで、恋鐘が声優として参加したアプリに触れていた。

まずログインして、カモメにエサをやり、カモメから『あい』を貰う。

その『あい』を様々なアイテムと交換してーー届けるのだ。恋鐘が演じる、彼女に。

 

物語の夏/アプリゲームのシナリオを、アイドル達が朗読する。

「私」は、海辺の町で骨董商の寡婦に出会う。その骨董商は思ってもみないガラクタにまで高額な値をつけてくれるので、重宝されているという。寡婦は自分でも忘れてしまった失くし物を夏のどこかに探し求めて、それを誰かが届けてくれるのを待ち続けている。私は彼女の洞のような瞳に吸い寄せられて、寡婦の探し物を夏のどこかに見つけ出そうとする。

 

現実の夏/

パートナーの三周忌の法事に花を買いに来た婦人に、花屋の店長は赤いダリアを差し出す。摩美々と智代子は驚くが、法事らしからぬ婦人の装いに確かにダリアは合う。想像してみるのだ。彼女とパートナーとの間で大切だったものを。

花屋は命を摘み取る仕事だから、花が少しでも長生き出来るよう丁寧に。けれど、忙しない仕事と花屋の往復の中で、アイドル達は小さな失敗を重ねる。真乃と霧子は生き物を愛しお花も大切にできる良い子だが、妊婦を立たせたまま待たせてしまったのはいけない。

 

物語の夏/

私は夏の隅々までを徘徊したが、寡婦の探し物は見つけ出せなかった。

ふと、眩しい夏の庭に寡婦の姿を目にする。鮮やかな世界で、ひとり色彩を失ったその老婦人は、まるで彼女そのものが失せ物であるかのようでーー

 

現実の夏/

SHHiSはレッスンを続ける。にちかの基礎練が終わらず美琴は時間を惜しむが、ダンストレーナーは美琴ににちかのコーチをするよう言いつける。美琴は上手く指導する事が出来ず、にちかは焦りを募らせる。

バラバラに過ごすアイドル達を、緩やかにゲームが繋いでいく。

ところで当の恋鐘は、どのアイテムを寡婦に渡せばクリアなのかを忘れていた。どうすれば幸せだったかなんて、死んでからじゃないとわからないが持論だ。覚えていた事は、何度もアフレコし直したこと。寡婦が、何度もやり直せるようにと願って。

 

物語の夏/

眩しい夏の庭で、若き「歌手の卵」である彼女と、若き「画家の卵」である彼が出会い、夢を語り、恋に落ちる。しかし結婚した二人は町を出ることも、夢を叶える事もなく、彼の家業の骨董商を継ぎ、老いさらばえ、恋の色彩を失っていく。

 

現実の夏/

にちかはゲームの物語にげんなりしていた。そもそも夏の話なのに暗い。勝手に夢を諦めて普通の人間になったくせに、それを後悔していると。

美琴はもっと辛辣な私見を語る。夢を諦めた人は普通の人間になるのではない。夢を諦めた人は、「夢を諦めた人」になるのだ。

「それって、なんにも無いのとほとんど一緒だけど」

 

物語の夏/

窓の向こうの夏の庭は今も鮮やかで、窓の内側で私だけが色褪せていく。失う容色に焦った彼女は、夏の輝きの欠片だけでも取り戻したくて、ささやかな歌のレッスンに通いたいと申し出る。彼は、画家になれなかった彼自身が失ったものを取り戻そうとしている彼女に嫉妬し、痛罵して彼女を引き留める。

アイドル達の声で、絶対に言ってはならない言葉を夫婦は互いにぶつけ合う。

「いいわ、それじゃ歌のことはやめる。代わりに毎日空想して過ごすわね。ああ、こんな人生じゃなかったらよかった。骨董に埋もれて生きる、こんな人生じゃなかったら」

彼は埃を被った古い画材道具を抱え、家を飛び出した。その日、町にはひどい嵐が訪れていて……数日後、バラバラになったイーゼルが浜辺に流れ着く。

彼女は、寡婦になった。

 

現実の夏/

花屋のある町に台風が訪れ、店内は荒れ、多くの花がダメになってしまう。夕方までに、珍しい「緑の花」を咲かせるトルコキキョウを新たに用意しなければいけない。それはフラスタに使うものらしく、メッセージボードにはこんな言葉が記されていた。

ずっと希望を忘れないで おかえり、待っていたよ

アイドル達は察する。これは何かのグループに復帰するメンバーの為のフラスタ。そして恐らく、「緑」がその人のメンバーカラーなのだ。彼女達は他の花屋さんに緑のトルコキキョウを探し求め、夏の隅々までを駆けずり回る。

道中、真乃はSHHiSを運ぶプロデューサーの車に同乗させてもらう。事情を知ったにちかは疑問に思う。それって店側の管理ミスなのに、どうして真乃たちが奔走する必要があるのかと。トルコキキョウも自腹で買い集めてるなんておかしい。

そんなこと考えてもみなかった真乃は不意を突かれて驚くが、花屋はステージと同じだからと答える。誰かの心に、花を届けたい。そうしていると、私が嬉しい。

車を降りると、再び真乃は花を求めて夏の町を走り出す。

その時、空から『あい』が降ってきた。

 

物語の夏/

私は気づく。骨董商は、寡婦が亡き夫と溜めた財を切り崩して辛うじて続いているだけで、その財ももう尽きかけていると。寡婦の手は筋張って、頬はこけ、そもそも本当に探し物をしていたのかどうかさえもはやわからないという。自分の身を削るように、ガラクタを持ち込んできた客に財を、『あい』を明け渡してきた末路。

私は不安になる。あいが尽きた時に、彼女もまた消えてしまうんじゃないか。

 

現実の夏/

霧子は、店長がもうダメになってしまった花を処分している場面に遭遇する。店長はこの仕事だけはアイドル達に見せたくなかった。台風でいつも以上に増えてしまった、もう長くない花々。いつも処分の近い花のいくばくかを買い取ってくれていたあの妊婦も、今は買いに来られないという。

霧子はこの夏、真乃とお話しながら、「お花は心」そう思っていたが……。

 

ところで、智代子の弟はゲーマーである。そんなズルを使って、アイドル達はゲームクリアの方法を知る。

 

物語の夏/

私は、カモメのエサにすべての『あい』を注ぐ。彼女が探していたものは、確かに夏のどこかにあった。けれど「この夏」ではなかった。探し物は、「彼女が失った夏」の中にあったのだ。

その正体は、あの日傷つけ、イーゼルと共にバラバラに砕け散った心。

寡婦は、毎日カモメにエサを与える。見つけるのではない。彼女自身が『あい』を空に注ぎ続けることで、もしかしたら失った『あい』を取り戻せるかも知れないのだ。自分自身への、愛を。空から降りそそぐ愛を。

 

現実の夏/

ダンストレーナーはプロデューサーに語る。基礎練は目に見えて明確な達成が判るものではないから、ひたすら教える人が相手に寄り添うしかないのだと。

智代子と摩美々はそれぞれ仕事を終えた自分へのご褒美、「自分への愛」のダリアを、互いに「交換」する。

霧子は店長の作業を手伝い、自らダメになってしまった花々にお別れをする。

恋鐘が寡婦の役に選ばれた理由は、最後まで寡婦が幸せになる事を諦めない人だと思われたからだった。

ーーあの妊婦は、無事に赤ちゃんを出産したという。

 

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「私」は祈り続ける。彼女が今も浜に立ち、空から祝福を受けていることを。

 

『はこぶものたち』

 

灯織は、かつてイルミネの三人で見つけたSNSアカウント「兄やん」の動向を追いかけていた。「兄やん」は今や日常の風景と化したフードデリバリーサービスで働く男性で、ちょっとした名物アカウント。まさかアイドル達に知られているなんて思いもしないだろう。今もわずか300円の賃金となる注文の為に、強風の坂道で自転車を漕いで、張り切って自分のデリバリー活動を実況している。

めぐるは、新しい仕事に向けてダンス仲間達と張り切って練習していた。「エシカル」をテーマに、環境に優しい衣服ブランドの広告塔となるのだ。今日は仲間の誕生会という事もあって、おいしい食事をフードデリバリーで沢山注文している。

真乃は、過去最高収益を記録し新事業を目論むフードデリバリーサービスの創立記念祭にゲストとして呼ばれ、イルミネの分も張り切って祝い、広告業に精を出す。頑張って覚えた広告フレーズは「走れごはん! 初回無料キャンペーン実施中!

 

イルミネ3人バラバラに過ごしても、リモートで報告会は欠かさない。プロデューサーは今は仕事が少なく暇してしまう灯織を気遣うが、灯織は仲間を応援できる時は応援する、そういう今の状況が嫌ではなかった。それに学校だってそれなりに忙しいのだ。

 

めぐるは「エシカル」をよく理解出来ず、クライアントに意味を尋ねる。クライアントは端的にめぐるに説明する。エコもそうなのだけど、つまりは「考える」ことだと。誰かの服。世界には私ではないみんながいると、考えられる服。

灯織はSNSでフードデリバリーに関する悪評も目にし、「兄やん」は違うとムッとする。そんな折、サッカー番組のミニコーナーの仕事が入る。真面目な灯織がイチからサッカーについて学んで真剣にナビゲートする企画は、共感を呼び上手く始動する。

 

「無料サービスなんて死んじゃうよ」

配達員達の心の叫びが書き込まれるSNSの中、配達中の「兄やん」の投稿が途絶えていた。

兄やんの自転車の車輪が宙で廻る頃、街角に真乃のCMの声が響く。

『食べるひとにぬくもりを、作るひとにつばさを、とどけるひとに希望を』

 

売行き好調なフードデリバリーサービスは、サッカークラブのオーナーとなった。

フーデリ、エシカル、サッカー。イルミネはそれぞれの広告塔として活躍していく。

真乃は街角の配達員の姿が気になるようになり、灯織は「兄やん」は今も頑張ってるんだよと二人に教える。最近、投稿が無くなったのが心配だけれど。

プロデューサーは、広告マンに強引にご馳走されていた。あのサッカークラブの開幕試合、ハーフタイムショーのような形でイルミネにパフォーマンスさせられないか。

その強引さに抗えずもたじろぐが、イルミネの3人はやる気だった。

 

それはとてもwin-winな仕事。アイドル達は現地の空気、選手や監督の熱気に触れ、また真乃はフーデリの社長の理想論に絆される。イルミネが満足ならプロデューサーも満足で、広告マンもこの地味なクラブに客が集まって満足だ。

だが、サッカーのファンとイルミネのファンは本来別モノ。何もかもフーデリの資金で強引に進んだ事態にイラだつクラブのファンと、水を差されたイルミネのファンがSNS上で衝突してしまう。

 

誰が悪い訳じゃない。一部のファンが厄介なんだ。プロデューサーに周囲の大人たちはそう言ってくれるが、あの子たちはそうは思わないだろうとプロデューサーは知っている。

イルミネは真剣に考え込む。真乃はどこかで灯織の仕事を応援する目的で今回の件を受けていたし、めぐるは「ありのままのあなたでいい」と言われてきたことを真に受けてきたことを自覚する。エシカルについての欺瞞を指摘する声も知る。考えの至っていない部分はきっとあったはずだ。

何かを届けるという事の困難さ。それでも新しい場所に立って見えてきたものがあるなら、それを未来に繋げてほしいとプロデューサーは願う。

終始他人事な広告マンは、「まじめだな~」と笑った。

 

結論として、イルミネの3人は、サッカークラブにボランティアを願い出る。

スタジアムで清掃作業に勤しむ3人。そこには誰かが座っていた席がいっぱいあって、晴れているのに何故か落ちていた傘について想像を巡らす。

「きみの座らないたくさんの席」について知ろうとすること。

誰かを応援するとは、そういうことなんじゃないか。

配達中に転倒していた「兄やん」のアカウントが、元気に復活していた。

フーデリ企業からクラブ事務所に渡っていたクーポン券が、気を遣ったクラブの事務員からプロデューサーへ、プロデューサーからイルミネへ届く。

灯織は、擦れ違った配達員が「兄やん」ではないかと想像しながら、彼が今日も誰かに届ける姿を、遠くからひっそりと応援している。私が応援していると知って欲しい訳ではない。

ただ、走っていて欲しい。

 

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エンドロールはまだ流れない。

以上が個人的なシャニマスのイベントストーリーまとめです。勿論アイドル育成ゲームですから本当の「本編」はアイドル育成プレイ中に展開するシナリオで、これでもまだまだゲームの中の一要素の更にハイライトに過ぎません。

 

一つ明かされては一つ深まる、ローンチ時から仕掛けられていた283プロを巡る謎は物語をどこへ運んでいるのか。SHHiSに明日は来るのか。ノクチルはちゃんとアイドルやれるのか。資本主義に絡め取られたアイドル達に本当に未来はあるのか。そもそもサザエさん形式のゲームのフォーマットと、苦みも含めて「成長/変化」し続けるアイドル達の矛盾はいつか破綻を来たさないのか。

 

まだまだ目を離せないシャニマスですが、昨日4月1日より始まった四周年キャンペーンではイベントストーリーのシナリオを解放できる「アルバムの鍵」が大量に配布されます。追いつくなら今がチャンス。

 

そして最新のイベントストーリーの予告がこちら。

演出スタイルの一端が垣間見える良いサンプルにもなっていると思います。

 

個人的にはここで一区切りとしてアイドルマスターを卒業しますが、、、とは言え、まだまだシャニマスのシナリオは追ってしまうんだろうなぁと、半ば諦めております。

 

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