不規則な映画の採点

 

バリー・リンドン

【評価】

【監督】スタンリー・キューブリック(シャイニング)

【制作国/年】イギリス・アメリカ/1975年

【概要】18世紀、アイルランドの農家に生まれたレイモンド・バリーが爵位あるリンドン家に取り入るまでの第一部と、バリー・リンドンとして取り繕った生活が次第に崩壊していく第二部を描く。

 決闘で父親を失っているバリーは、しかし愛する幼なじみの女性を大尉にとられたくなくて決闘を申し出、どんどんその運命を流転させていく……。

【感想】

 自然美をふんだんに取り入れた照明で有名な一作。どれだけ荘厳な話かと思いきやシニカルな喜劇で、戦争も登場するが印象としてはこじんまり。ともかく折り目折り目でバリーが、男たちがもっともらしく行う「決闘」がバカげているせいもあり、戦争も階級もその延長上の幼稚な虚飾にしか感じられない。という訳で話は悪くないが、いちいち絵画的な引きの絵を見せたがる撮影のせいで話の進みが鈍重な気がする。美術を見ればいいのか映画を観ればいいのか。二つは似て非なるので。

 

『パリのランデヴー』

【評価】B

【監督】エリック・ロメール(飛行士の妻)

【制作国/年】フランス/1994年

【概要】三編のオムニバスで綴るパリの点描。【7時の約束】恋人が夜7時に別の女とカフェで浮気してるらしいと知ったオラスは、腹いせに出会った男に7時のカフェで会う約束をする。しかし男に出会った直後に財布が消え……? 【パリのベンチ】恋人がいる女は彼の浮気を疑い、冴えない大学教授とパリのあちこちをデートして巡る。教授はどうしても彼女を家へ連れ込みたいが……? 【母と子 1907年】若いスウェーデン女性の世話を任せられた画家の男は、いかにも「観光客」な彼女の相手が鬱陶しく、誘われたピカソ展への同行を断る。しかし直後に擦れ違った女があまりにもタイプであり、彼女を追っていくとその先にピカソ展が……どうする……?

【感想】

 濱口竜介最新作『偶然と想像』はじめ様々に影響与えただろう軽快な短編の連作。一話目が明解に「オチ」の重なる面白い話なので残り二話の「延々くっちゃべりやがって」感が増すのだが、その最後のエピソードをオチもなく「まぁ、無駄な一日じゃなかったな」の一言で〆る度胸に唖然。こっちは結構無駄な時間を過ごしたような気がするが??? でも、それも人生なので。

 映り込むパリの街角、恐らくエキストラじゃない通行客、それを狭い画角で如何に切り取るか。作為は控えつつ外してもおらず、気づけば自分もパリの雑踏に迷い込んだような気がしてくるのが心地良い。

 

『コロンバス』

【評価】A

【監督】コゴナダ(ドラマ『パチンコ』)

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】インディアナ州コロンバス。硝子張りの銀行、心を癒やす為の精神病棟などなど、その街は先駆的なモダニズム建築の宝庫であり、同時に覚醒剤と貧困の匂いが蔓延っていた。この地で倒れた建築学教授の息子ジンは韓国から訪れ、建築への熱意を持てあます図書館バイトのケイシーに建物を案内される。二人の人生は緩やかに交わり……。

【感想】

 小津安二郎作品の脚本家・野田高梧から名前を取り、ブレッソン、是枝、ウェス・アンダーソンタランティーノetc…数々の映画作家のドキュメントを作り続けてきたコゴナダ監督の長編デビュー作。小津にオマージュを捧げたというほどは小津っぽくないがモダニズム建築が主役と言わんばかりの静謐なショットの連鎖がひたすら心地良く、しかしその裏で鳴る繊細な音響は不穏であり、終盤モンタージュの速度が速まることで何か決定的な旅立ちを物語る。実は映像だけに傾倒していない部分が好感。

 

『隣の影』

【評価】B

【監督】ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン(Either Way)

【制作国/年】アイスランドデンマークポーランド・ドイツ/2017年

【概要】アイスランド郊外、美しき住宅地。妻に浮気を疑われ実家に帰郷したアトリは、アトリの兄の失踪以降精神に混乱を来たした母が隣人と揉めている事を知る。実家の庭の木が育ちすぎて、隣りの家の庭に影を落としているのが問題だそうだ。父は消極的で、母は隣人の悪口ばかり。アトリは娘の親権欲しさにそれどころではない。やがて、静かに悲劇は訪れる。

【感想】

 美しき風景、穏やかな木が風にたなびく。だがその木の影さえ人を追い詰める。調和の取れた家々の内装も、IKEAが映ることで妙にハリボテ感が増して台無しになる。欲張らない短さ、力まない演出、静謐の中に感情を波立たせ、そしてちゃんと観客の望む鬱展開に突入してくれる。そういう北欧映画の「不幸な癒やし」度が満点です。

 

東海道四谷怪談

【評価】A

【監督】中川信夫(地獄)

【制作国/年】日本/1959年

【概要】江戸時代。備前岡山藩の浪人・民谷伊右衛門はお岩との婚姻を成立させる為、父やお岩の妹・袖の婚約者を直助と共に殺害し、揃ってお岩・袖姉妹を騙したまま婚姻を結ぶ。しかし江戸について貧乏暮らしに喘ぐと、岩と幼い赤子を裏切って旗本の娘・梅の元に婿に入ろうと画策。岩を毒殺しようと謀るがーー。

【感想】

 アバンのクレジットからして格好良く、その後長回し伊右衛門の悪漢ぷりと発端の事件を見せきる。そこからあの手この手で悪人たちが女人を騙し続け、いよいよお岩の復讐のターンとなれば見せ場だけがつるべ打ち。今の邦画に欠けた迷いの無い編集の切れ、サービス過剰な戸板返し、グロテスクさと美しさが照明一つで同居するお岩さんの崩れた相貌。完璧な映画。

 

『殺さない彼と死なない彼女』

【評価】C

【監督】小林啓一(ももいろそらを)

【制作国/年】日本/2019年

【概要】「殺すぞ」が口癖の小坂くんはリストカット常習者の鹿野に鬱陶しくつきまとわれ、ひたすら殺したい毎日。すぐに新しい男に乗り換えては捨てられるきゃぴ子を、地味子はひたすら呆れながら絶対に見捨てない。撫子は八千代くんに夢中で四六時中告白し続けるが、八千代くんは振り向いてくれない。彼ら彼女らは、どんな風に大人になって、或いはなれないのだろうかーー。

【感想】

 評判の良さに期待し過ぎたか、言われずとも原作はマンガなんだろうなと思うモノローグの多用がシーン毎にいちいち流れを止めてしまう。弱いショットは時間の流れとして連動していかないので、タネ明かしに宿る感動がない。マンガ的会話をどう実写に落とし込むか、そのアダプテーションの方向性が趣味では無かった。それでも終盤の台詞のいくつかは思わずホロリときたし、このマンガ的キャラに次第に血肉を与えていく若手役者は皆見事。

 でもその終盤にしても構成うまくないよ……エピローグがエンドレス。この監督で大好きな『恋は光』が映画化されるの正直心配です。皆さん先に原作マンガ読んでください。

 

『EXIT』

【評価】B

【監督】イ・サングン

【制作国/年】韓国/2019年

【概要】就活に失敗し早や数年、ニートのままやさぐれているヨンナムは、母の古希のお祝いの為、親戚一同が集う高層ビルの祝宴会場に訪れていた。そこで働いているのは、大学時代山岳部で後輩だった想い人ウィジュ。「あの頃はこんな未来になる筈じゃなかった…」「先輩どうして無職なの…」後悔に満ちた再会の最中、都市を有毒ガスが覆うテロが発生。真っ白な毒の海の上で、元山岳部の二人の決死行が始まる!

【感想】

 ここ数年の韓国映画の傾向として、良くも悪くも社会性が薄れ以前ならシリアス一辺倒だった筈のアクションエンタテイメントをコメディタッチで描く方向性があるという印象を持っているのだけど、その極端な例。普通にテロ映画として映画史の中でも新機軸のような発明的絵面を生み出しながら、その上で泣いて喚いてヨンナムは煩い。その様を観客は笑うが、「ヒーローの身になってみれば、泣きわめくしかないくらい辛いこと」がずっと続くのがアクション映画なのだ、という『ダイ・ハード』の正当な継承作品になってる。

 

『バクラウ 地図から消された村』

【評価】B

【監督】クレベール・メンドンサ・フィリオ(アクエリアス

【制作国/年】ブラジル・フランス/2019年

【概要】ブラジルの架空の村バクラウ。独自の風習やコミュニティ、都市との距離感などを伺わせつつも、なんとか共同体としてやっているその村を、少しずつ奇妙な現象が包囲し始める。やがて派手なライダースーツのバイカカップルが通りすがり、一部の村人は警戒するが、「それ」は既に始まっていた……。

【感想】

 前作の大傑作『アクエリアス』の「フレームが内側から枠を破り映画を侵食していく」手法そのもののスリルで「まだこんな新しい映画が生まれるのか」と感嘆したクレベール・メンドンサ・フィリオ。今回もなるほど奇抜なストーリーテリングだが、最終的にS・クレイグ・ザラー的な感触に落ち着くというか、ジャンル内に収斂していくところがあって、前作で上がった期待値は超えてくれなかった。余計なキャラ取っ払ってソフィア・ブラガとウド・キアのタイマン見せてくれ。

 

『幻の女』

【評価】A

【監督】ロバート・シオドマク(らせん階段)

【制作国/年】アメリカ/1944年

【概要】ある晩、奇抜な帽子の女とバーで酒を呑み、演奏会を楽しんだエンジニアのスコット。家に帰ると妻が殺害されていた。アリバイはあの女のみ。しかし、あの晩出会った誰の元へ訊ねても、スコットの姿は見たが、女は見ないという。『幻の女』か…バージェス警部はこんな弱い証言を求めるのは余程のバカか、無実の人間だろうと踏むが、スコットは無罪の立証を諦めてしまう。それでも単独捜査を始める者が一人……。

【感想】

 プロットは無駄なくあるキャラがスコットの無罪を証明する為に駆けずり回り、一つ利を得ると一つ不利が生じ……のイタチごっこで飽きさせないが、その無駄のない演出の隙間に見せる、『らせん階段』では全開だったシオドマクのビジュアルセンスが光る。もっと引きの画見せてくれ~ってなったけど、本家ノワールは意外と雰囲気よりもテンポ良い展開に振れている。唐突に始まる密室ジャズ演奏の悪夢的祝祭感も明らかに「余技」なんだけど、本筋以上にゾクゾクする。

 

クレアのカメラ

【評価】B

【監督】ホン・サンス(三人のアンヌ)

【制作国/年】韓国・フランス/2017年

【概要】映画祭開催中のカンヌ。韓国の映画会社のセールス担当マニは社長から突然解雇を言い渡される。「あなたは正直な良い子だったのに、正直じゃなくなってしまった」。理由は教えてくれない。一体マニが何をしたというのか……ところでマニを演じるキム・ミニはホン・サンスの実の愛人でありながら「映画監督の愛人役」でホン・サンスの映画に出たりしているが、今回は一体何をしたと(ry ……そこへ映画監督の中年男性が現れ(ry

 一方、そんな人間模様にカメラを持ったフランス人女性クレアが紛れ込む。

【感想】

 それぞれ別作品でカンヌに訪れ顔を合わせた旧知のホン・サンス、キム・ミニ(旧知っていうか)、イザベル・ユペールがそのまま映画祭期間中に撮ってしまったスナップ代わりの映画。スナップ代わりで映画を撮るな。いや撮っていいのか? 

 でも普通にいつものホン・サンス。むしろ「写真を撮ると全てが変わるの」という台詞がある分だけ、いつもより構造が判りやすいかも知れない。回想シーンとは編集の嘘であり実際は前のシーンの未来だ。カメラが切り取れば世界は変わる。失ったものも、失ったかに思えて取り戻せるものもある。空は綺麗だし、酒は美味いし。

 

闇金ドッグス8』

【評価】B

【監督】元木隆史(劇場版 カードファイト!! ヴァンガード 3つのゲーム)

【制作国/年】日本/2018年

【概要】ヤクザから足を洗った安藤忠臣は闇金稼業を営み、今日もクズの債務者相手の取り立てに精を出していた。生活保護に味をしめ、国から金を引き出す湯澤とその妻、娘の放蕩は留まるところを知らないが、一家の良心である長男・章太郎だけはクズ家族を叱咤し、シルバー派遣会社を立ち上げ理想の実現に躍起になっている。しかし悲劇が続き……。

【感想】

 『少女☆歌劇レヴュースタァライト』の星見純那役佐藤日向さんがクズ役で色々大変な事を言ったりやったりやられたりするVシネ。如何にも量産タイトルだけど、脚本はがっちり作り込まれて面白い。本家闇金漫画に比べると同情の余地の無い湯澤の清々しいクズっぷりが濃厚で(生活保護受給者への風評被害に繋がる点だけは心配)、主役の山田裕貴は省エネで活躍出来るのも経済的。低予算はモロにわかるけど、キャストは意外と豪華。

 で、吃驚したんですけど、本作『8』どころか、あの誰が見てるのかわからないけど無限にレンタル店にシリーズが置かれてるでお馴染み『ガチバン!』シリーズのスピンオフなんですね、なので実際はもうシリーズ何十作目というレベル。

 ユニバース化してたのかガチバン……。Vシネホラーがユニバース化した『心霊マスターテープ』シリーズと並んで、いずれ消えていくかも知れない「Vシネ界」の徒花がこうして群れになって咲いているのだなという妙な感慨を覚えました。

 ついでに佐藤さんがその背中を追ってスタァライトするに到った三森すずこさん出演の実写映画(ヴァンガード)と監督同じという、もう一つ謎の因果が。

 

『EVA〈エヴァ〉』

【評価】C

【監督】キケ・マイーリュ(ザ・レイジ 果てしなき怒り)

【制作国/年】スペイン/2011年

【概要】2041年スペイン、サンタ・イレーネ。ロボット学者アレックスは一度は逃げ出した故郷に帰り、10年前中途で投げ出した子供型ロボットを完成させる工程に取りかかる。ロボットのモデルとなる少年の選定中、アレックスが惹かれたのはかつての恋人ラナと兄ダヴィッドの間の子、少女エヴァであった。だがエヴァは奔放で……。

【感想】

  雪深い田舎町を舞台に、動物型のロボットが当たり前に存在する世界で、欲張らずにSFを画面に定着させるその落ち着きは好ましいし、執事型ロボット・マックスを演じるルイス・オマールの芝居も楽しい。一種の寓話として評価することも可能な映画だと思うけれども、20分の短編で描く内容を90分かけて描かれ、ファーストシーンから「絶対そうだと思った」としか言えない一切驚きのないオチを勿体ぶってラストに見せられても反応に困っちゃったなという話があります。

 

エクソシスト3』

【評価】

【監督】ウィリアム・ピーター・ブラッディ(トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン

【制作国/年】アメリカ/1990年

【概要】かつて少女リーガンの悪魔払いで命を落としたダミアン・カラス神父。あの事件を忘れられぬキンダーマン警部と、カラスの親友であったというダイアー神父は、再び悪魔のものとしか思えぬ残虐な事件に遭遇する。同時に、その手口は過去起こった『双子座殺人事件』の犯人のものとも合致する。果たして何が起こっているのか……

「わが名はレギオン。我々は、大勢であるが故に」

【感想】

 何かが来る予兆を孕みつつ、カメラとアクションの合わせ技で1シーン毎に生起していく今そこにある超常現象。カーペンター、フーパー、デ・パルマ、一時期の監督たちしか保持しえぬ「持続する映画」という系譜があると思っていて、例えばポン・ジュノもそれを意識的に継承しようとしている(『殺人の追憶』は完璧に上手くいった)と思うのだけど、それを『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』で完成させたブラッディがその更にもう一個上のところで、より安定感をもって統御しているような、「落ち着いた異常」の完成形を見た。

 技巧の極みのような病院のロビィの長回しを経てからの、単純な照明の配置によってそこに悪魔がいるとしか言いよう無い効果を生み出す対面シーンの鬼気迫る禍々しさ。ブラッディ、本当に悪魔見たことあるんじゃないか。

 

 ところで自分の好きな映画の種類に「持続する映画」という形容詞を与え「それ!」と腑に落としてくれたのが、雑誌invitationの(たしか黒沢清の特典DVD『ココロ、オドル』目当てに買った号)対談で語っていた青山真治で、その時ブラッディの名前も知った事を覚えています。ありがとうございました。

 

放課後戦記

【評価】D

【監督】土田準平(便利屋エレジー

【制作国/年】日本/2018年

【概要】校舎の屋上で目を覚ました門脇瀬名。突如降りかかる他の女生徒からの暴力の連鎖と、不条理なアナウンス「残り14名」。瀬名は記憶を失ったまま生存者達のコミュニティに混ざる。そこでは瀬名を庇護してくれる守護天使のような少女がいた。他方、お面を被り少女達を殺害する、悪魔のような少女がいた……。

【感想】

 スタァライト以前の小泉萌香さんの出演作を追い求めてアマプラで舞台版とセットでレンタル。収録されてた舞台版は2017年再演版で小泉さん出演の2016年初演版は未見のまま。舞台版は様々な部活動が入り乱れるより戯画化された世界で、部長を殺せば部員全員死ぬという判りやすいギミックにより前半狭い舞台で死ぬほど入り乱れる無数の少女達が後半怒濤の勢いで死んでいく。比べて映画版は出演者を絞っているので丁寧にサスペンスを描きやすい……のだけど、アクションに割ける時間が無かったのかその選択をしていない。

 結果、「前フリ」から本番をすっ飛ばしていきなり「オチ」に至るという、ジャンル映画期待して見た身にはあまりな空振り。色彩調整が良くて撮影もロケーションも意外とリッチなだけに勿体ない。少女達の苦悩を長回しで呻かせるだけなのも演出が機能してないと思う。アクションしてアクション。

 小泉さんの役柄的には「やがて『やがて君になる』になる君」でした。

 『ラブライブ!』繋がりで、Aqours小宮有紗さんも出演。この人は低予算ホラー『映画 としまえん』にも出てましたね、結構ホラーにノリ気なのかな。

 

COSMIC RESCUE:The Moonlight Generations』

【評価】B

【監督】佐藤信介(GANTZ

【制作国/年】日本/2003年

【概要】宇宙進出後の人類。人命救助を行うコスミックレスキュー、第89師団に三人の男が乗り込んでいた。かつての活躍で英雄視されるもやる気のない南條、ルールにうるさく事務的なメカニックの江口、そして南條に憧れてコスミックレスキューを志した、ガッツだけありあまる澤田。もっぱらデブリの回収に明け暮れる任務に嫌気がさしていた澤田だが、ある日、宇宙船の存在しないエリアから少女の救難信号をキャッチする。

【感想】

 デブリやフレアといった部分的なSF要素だけ教わり後は普通の日本のドラマ感覚で作りましたみたいな考証も何も無い雑設定、ミニチュアもろばれで済ます画面のチープさ、まだ演技慣れしていない主演V6カミセンの拙さなどを差し引いても、勢いと効率の良さで漫画チックな話を推進していく、ここ十数年の佐藤信介が引っ張る邦画大作には無いB級エンタメの魅力が詰まっている。

やっぱり佐藤信介作品の鈍重さって盟友であるカメラマン河津太郎がネックなんじゃ。。。」という疑念が確信に近いものに(本作のカメラは藤石修、笠告誠一郎)。エピローグさえカット出来れば「数十年遅れの『ダーク・スター』」くらいには評価されたのではないか。

 

『バスタブとブロードウェイ:もうひとつのミュージカル世界』

【評価】

【監督】デイヴァ・ホイゼナント

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】長年続いた人気TV番組デイヴィッド・レターマン・ショー。その放送作家であり、アメリカの深夜番組の生き字引であるスティーヴ・ヤングには、奇妙な趣味があった。それはかつてアメリカに好景気が続いた時代、大企業がこぞって大金で作り上げた「企業ミュージカル」のコレクション。ヤングはそのレコード収集目的で当時の出演者達に会いにいくが……?

【感想】

 映画としては終盤ほろ苦い空気になっていくのだけど、それ以前に最初からそもそもコマーシャルのみを目的として作られた、しかし秀逸な楽曲や芝居を眺めていると、エンタメの刹那性、何か意味があるつもりで接している全ての虚構がハリボテの看板であることを突きつけられて、かつ、かつては一大ショーだったものが今ではごくごく一部のオタク愛好家の奇特な嗜みに収まっている(それでも「忘れられてなかった」と作り手は喜ぶ)ことで、侘しさと微かな温かさと、言いようのない気持ちになってしまった。

 最近、もっぱら一過性のステージの儚い魅力に触れていることも影響してるかも知れない。

 

『アリス・スウィート・アリス』

【評価】A

【監督】アルフレッド・ソウル(秘宮のタニア)

【制作国/年】アメリカ/1976年

【概要】美少女カレンはいつも姉アリスの奇行に振り回されていた。黄色いレインコートを羽織り、不気味なお面をかぶり、無軌道なイタズラを繰り返すアリス。母キャサリンやご近所さん達も彼女の心は読めず、手を焼かされる。そんなある日、カレンも参加する聖餐式が教会で執り行われ、近所の人々が皆列席する。その賑わいの中、案の定アリスはフラフラとどこかへいなくなり、そして……カレンの惨殺体が発見される。

【感想】

 前半ひたすらアリスのサイコパスな振る舞いを追わされてそもそもどういう映画なのかもわからないが、見終わって振り返ればものの見事にジャーロしているアメリカ映画という奇妙な感想に。ショット毎の工夫の仕方が尋常じゃないのに、捌き方が速く、気づけば完全に映画の掌中。グロより鋭い残忍性がこのスピード感の中に畳まれていく。女性性へのある種の思い込みを利用したショッカーにもなっており、ラストの瞳が鋭い。

 何者なんだアルフレッド・ソウル。

 

『恐怖人形』

【評価】D

【監督】宮岡太郎(成れの果て)

【制作国/年】日本/2019年

【概要】女子大生・由梨と幼なじみ・真人の元に奇妙なパーティーの招待状が届く。金欠の真人はそこで配布される金につられ参加を決意し、由梨もついていく。パーティー会場のキャンプ場に集まったのは他に6人の男女と管理人。彼らはそこで、不気味な人形を目にする。追って現れた教授は、「呪いの人形が実在した」と歓喜するが……。

【感想】

 演技が拙いのは準備期間の少なさゆえ、巨大人形があまり動かせないのは予算の少なさゆえ、過激なシーンを撮れないのはアイドル映画ゆえ…と無限に忖度していった結果、どこが面白いのかわからなくなってしまった。同行者が次々死んでても主人公気づくの遅いから特に盛り上がらない。巨大人形も意外と使い勝手が悪くて演出の手数が限られてしまう。

 定番である「ベッドシーン後に惨殺される最初のカップル」をレズビアンに設定しているところがピークだったかも知れない。目も当てられないほど雑なシーンがある訳ではなく、むしろ狙いはしっかりしてると思う。怖くも面白くもないだけで、、、でも、こういう企画は応援してます。

 ジャンル映画の練習として、思い切って『13日の金曜日 Part2』のジャンプスケアの運びをそのままパクってみるところから始めてもいいんじゃないだろうか。

 

『リトル・モンスターズ』

【評価】C

【監督】エイブ・フォーサイズ

【制作国/年】アメリカ・イギリス・オーストラリア/2019年

【概要】売れないミュージシャン・デイヴは恋人に浮気され、姉の家に泣きついて居座る。さして精神年齢の変わらない甥っこの面倒をみながら、甥の通う幼稚園のキャロライン先生に惹かれるデイヴ。幼稚園の遠足に付き添いでついていく事になるが、子供向けテレビ番組の収録で賑わう農場では、ゾンビが大量発生していた。

【感想】

 「子供×ゾンビ」で思いつきそうな面白い場面がほぼほぼ終盤に集約されて、かったるい籠城シーンが続くので、短いのに体感長い。『ゾンビスクール!』もだいぶ緩かったけど、子供とゾンビは撮影の制約上取り合わせが悪いのかも。その割りに下ネタは子供に言わせるんだよなぁ。

 大人になったって精神的には幼児であったデイヴの成長譚、というテーマは悪くない。

 

『生活の設計』

【評価】A

【監督】エルンスト・ルビッチニノチカ

【制作国/年】アメリカ/1933年

【概要】売れない戯曲家トムと売れない画家ジョージは親友同士。二人は列車の同室に乗り合わせたデザイナーのジルダに惚れてしまう。「紳士協定」を結び奇妙な三角関係を築いたのも束の間、ジルダの的確な助言は二人を成功者に押し上げ、結果的に三角関係は崩れる。ニューヨーク、パリ、ロンドンを股に掛けたこの恋の行方は……?

【感想】

 いや早い早い!ってなる出会いの冒頭の効率の良さから、列車降りたかな、と思いきやもうだいぶ時間が経過して 三角関係はスタート済みであり、最終的にワンカットのままカメラのパンと照明だけであっさり時間が過ぎるとこまでいく。お話も映画も経済的で、結果人をくったようなラストへ。その軽さに人生が愉しくなる。やはりスクリューボールコメディは90分じゃなきゃ。

 現代映画でこういう作品が見たいんですよね。