混ざり合わない目線の先へ ー 『ODDFES オッドタクシーフェス』感想置き場

 

6月18日(土)、なかのZERO大ホールで行われた『ODDFES オッドタクシーフェス』夜の部に参加してまいりました。

 

出演:飯田里穂、小泉萌香、村上まなつ、ダイアン、トレンディエンジェルたかし、ミキ(夜の部のみ)、村上知子、ガーリィレコード、酒井広大堀井茶渡、METEOR、PUNPEE、VaVa、OMSB、トニーフランク、スカート澤部、DJ・Hi'Spec.

夜の部MC:天津向、ノンスタイル井上

 

 目当ては当然、市村しほ役小泉萌香さん

 

 中野の町に降り立ったこと自体が初めてで、電車の車窓からはまだ新宿のビル郡が見えていたのに「こどもの頃降り立ったおばあちゃんのいる町」みたいな雰囲気と、線路沿い歩いて辿り着いた「こ、公民館…」というショックとで二重にビックリ。

 その道中擦れ違う、昼の部帰りの人たちの、ちょっと今まで知らなかった客層。

 

 いざ会場着いても、誰が誰のファンかよくわからない。

 この人は声優ファンかな? と思えたおじさん達が、小戸川や剛力医師ら今日の出演者にいないキャラのアクセサリーをジャラジャラ付けてたりする。

 

 

 会場、いつも通り席ガチャ外れましたが*1、それでも近い。

 この日は女性客の並ぶ列に挟まり、その女性陣はみんなソロ、或いは同伴者と席が分かれた人たちらしく、自分の片側の人たちが自己紹介合戦を開始。

 で、そこから最後までずっと感想を「口に出す」人たちだったんですね、初対面同士なのに。そのコミュ力ください。声に出して実況してくれてるツイッタラーみたいなものと把握。以下ツイッタラーと表記します。

 だからどんどん情報や感想が耳に入ってくる。

 コロナ禍だぞ自重しろとは思いつつ、あと個人情報なので詳細伏せますが、端から自分含め「まるでバラバラのジャンルを追ってた人たち」が『オッドタクシー』というタイトルの名の下に並列していたことが判明しました。

 

「後で写真撮りましょうよ。きっと数ヶ月後にフォルダーで見つけて、『この人誰だっけ、でも元気してるかな』って思うんですよね」

 

 そうした人たちに推しはどう見られるのか。そもそもこのフェス何をやるのか(事前にTwitterでミステリーキッスは歌わないと判っていたので、そこはショック受けませんでした)。緊張の幕開け。

 

 主題歌『オッドタクシー』に合わせた登場、もしかして昼の部はなかったのか、りっぴーさんからキャラの台詞を言う流れになり、まず市村しほの「嘘つきはアンタだろ貧乏人!」で小泉さん掴みはOKです。

 事前にあちこちでさんざん「大阪にいた頃見ていた芸人さん達(実質いつもダイアンを指す)との共演」への熱い期待を語っていた小泉さんが、並びとしてダイアン津田の隣りということにエモを感じ、また反対側を眺めれば『俺ガイル』から堀井茶渡、そしてSUMMIT勢やアトロクを通じて知ったラッパーのMETEORの並びに、「え、この人たち」が本当に同じステージに並んでいる。。。? とかなり思考が混乱。

 ついでに言えばMC天津向の存在、なにげにスタァライトにハマる以前の自分を、アイマスと並んで声優コンテンツへの興味に辛うじて繋ぎ止めてくれていた「本渡上陸作戦」の人、と考えると、「俺の脳内がそこに並んでいる」みたいな訳のわからなさが。

 

 でも本当のエモはこの後、ガッツリ尺を使う朗読劇パートです。

 ヤノやドブが悪い取引にでも使ってそうな都会の片隅の空き地を思わせるセットに、三段に分かれて並ぶ演者たち。

 明暗使い分けるライト。そして事実この会場の外もまた「オッドタクシーの舞台たる夜の東京である」という当たり前の臨場感。

 極端な話、朗読劇始まる前のこのセッティングにもう感動していました。

 

 思えば配信で見た『女神降臨』、初めて小泉さんを生で見た『リクエストをよろしく』、もしかしなくても自分が好きなのは、「そこに人が並び立ち、芝居をする」という光景で、中でも朗読劇がもたらす「人の全身のシルエットがハッキリわかり、その存在感が複数並んでいる」ということに対する視覚的フェチズムなのかも知れないという思いが明確に確信に変わっていきます。

 人間が並び立ち、シルエットに照らされ、役を演じようと構えている姿。

 その人から全ての情報をはぎ取り、ただ「人」であることだけを浮き彫りにする、シルエットというマジック。

 もしかするとストレートプレイにさえない、朗読劇ならではの立体感。

 

 

 

 さて朗読劇の細かい中身はアーカイブ配信が続いておりますのであまり多くは触れませんが、良かったのはMCの二人までキャストに混ぜていること(名前もないけど、向のキャラは誰と絡んでいたかという点、かなり重要な気が)。

 

 アニメオタクになってから、ず~~~~~~っと思っていた、「アニメイベントの朗読劇ってどうして茶番が多いんだろう。真剣にキャストがその世界を繰り広げて観客を巻き込んでくれた方が絶対に楽しいのに」という不満が、まさかもっともバラエティに近くなりそうなここで、不意に解消されていく快感がありました*2

 本編を補強し、かつ「決して混ざり合わない異物さえみんなそこにいる/しかしバラバラのままでもある」という、優れた群像劇ならではの温もりと苦みが、もしかしたら本編最終回以上に的確にあぶり出される前日譚。

 

 緊張して噛み噛みの演者さんもいましたけど、それが役と矛盾しないし、空気も壊さない不思議。

 唐突に告白すると吉本興業は嫌いなのですが、この場では多少拙くても真剣に演じることこそが、笑いを取るより一番「面白い」ことだと判断している芸人たち、プロだなと思いました。

 

 そしてバラエティ、ディベートコーナーへ。

 この記憶を大切にしたいという気持ちもあってアーカイブは買っていませんが、ウソですお金がないのでアーカイブで確認出来ませんが、それでもとにかく推しが最後に全部持っていきました。

 今日、冒頭からやけに積極的に喋るなと、最近「他の声優さんが喋り続けるのをそっと抑えるお姉さん的役割」をステージや配信でよく見ていたのに、今回その逆パターンでりっぴーさんに抑えられているのが新鮮だったのですが、最初からエンジン吹かしていたおかげでディベート時もう止まらない。

 また頭が良いのでさんざん確かな理屈で言いつのった挙げ句(昼の部でも相手を言い負かしたとのこと)、言い返されてからの「人を指差しちゃダメって言われてるでしょ、手の上に卵乗せてると思って!」の可愛さ。

 𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖 canvas sessionで放課後の過ごし方の話題の時に「放課後寄り道したらいけないんだよ…?」と言い出した時を思い出す、育ちの良さにキュンです。

 

 芸人同士の予定調和だけでは生まれえないものってあると思うので、今回声優陣が全員前のめりで、たびたび話をズレさせるのが楽しかったのですが、その中でも小泉さんがピークを作ったと、客席側の笑いの体感で思いました。

 あれほど小泉さんが共演を楽しみにしていたダイアン津田のワンパターンがMC向の指摘同様「これ以上は無いな…?」という空気になってきたあたりで、もしかすると小泉さんちょっと津田を見限ったのか、自分から『オッドタクシー』最大の人気シーンの一つである白川さんのケイシャーダを自然な流れで連発、それも本人の手足の長さと身体能力もあいまって、これ以上ないという活かし方。

 ツイッタラーにエグいくらい爆笑生んでました。

 

 推しと吉本芸人の共演あまり良いイメージ無かったんですけど、いざ見ると、本人が元々喜んでいたのもさることながら、ダイアンというキャスティングの絶妙さも改めて感じましたね。

 

 そして忖度なしで納得のMVP。

 ちなみに逆でいうと、緊張してたのかなんなのかずっと固かった気がするミキ兄が、弟に劇中の大門兄弟の台詞の返しを懇願しダダこねる様はめちゃくちゃキャラが憑依していて、ここは反対に芸人側が演技の世界に入ってきてる化学反応が起こっていました。

 他のすべての登壇者がうるさいからこそ、METEORの存在感が映えるのも面白い。

 

 

 そしてライブコーナー。

 METEORがその「木訥としたトークのノリの延長上でラップに入っていける」という面白さ。思えばこの日のMETEORの言動はすべてMETEORのALBUMの中の「そういうスキット部分」だったとも取れてハッとしました。

 からの、満を持してひょっこり現れるPUNPEEの、マジ圧倒的オーラ。

 出るってわかってたのに会場全体が「わっ、本物のPUNPEEだ」って一瞬沸いたのがハッキリとわかる。なんならアニメの中でもモブ中のモブで、ちゃんとした台詞がある訳でもないのに、それでも「アニメキャラがリアルに出てきた」という2.5次元感覚をもっとも放っていたのがP、続くOMSB、VaVaで、ここで急にもえぴファンからSUMMITファンの自分にスイッチングして誇らしくなりました。

 P様を見たのも4年ぶりくらい…?

 

 

 三人がこの曲始めるとMETEORがセットのベンチに腰かけてボケーっとしてるのも面白くて、さらに歌い手が変わるとSUMMIT勢の三人はそれぞれ三段あるセットを巧みに使って音に合わせた振る舞いをするんですよね。

 これがHIPHOPのライブマナーなのかどうかは知らないのですが、ものすごく、なんなら朗読劇パート以上に「舞台的」で良かったです。ステージ上段に腰かけてずっと大きく体揺らすVaVa、小動物的に動くP、そしてMETEOR同様ベンチに腰かけているけど、実は歌詞に合わせて細かく反応しながら首を振っているOMSB。

 かっけえ。。。SUMMITやっぱかっけえ。。。

 

「俺ガイルのステージで見た調子をさらに(半分関口になりきって)強化していた茶渡」→「なにげにめっちゃYouTubeで見ていたダイアンままのダイアン」→「その前でより活躍する推しぴ」→「さんざ見てきた仕切る向」→「それらの後で展開するWheels(そして中央にHi'Spec!)

 

 これらが全部同じステージ上に存在していたので、「ぼくのこの数年間の総決算」みたいでした*3

 

 そして朗読劇でも重要な存在を担ったトニーフランク。この曲が「ずっと壁に向かってお笑いの練習をしていた、ある日いなくなってしまった先輩に捧げた歌」であることを告げてからの歌い始め。沁みる。響く。

 同時に、他の芸人にイジられてはいても一切芸人としては振る舞わなかったので、よく知らない人ですが何か覚悟して歌を選んだ人なんだなと感じました。

 今の小泉萌香さんを追っていると、その周辺に集まってくる圧倒的な上昇気流に吹き飛ばされそうな気がしてしがみついていくので精一杯なのですが、朗読劇の中でたった四人の視聴者に向けて仮面を付けて配信していた市村しほとトニーフランクには、逆に底辺を示唆してバランスを取ってくれるような安心感を抱きました。

 

 からの、待ってたスカート澤部。まず小戸川さんのテーマを歌ってから、最後にPUNPEEと主題歌で〆。

 この曲のOPを初めて見た2021年の春*4、その時点ではまだ小泉萌香さんのことをまったく認識すらしていなかったことを思うと、長くて遠い一年間でした。 

 

 

 エンディング、ここでもまだハイテンションの小泉さん、芸人たちのMC中も流れる三森すずこさんのEDに合わせてずっと体揺らす。誰か(フォロワーさんと判明)にレスしてる羨ましい光景も見つつ、この時小泉さんに合わせてペンラ振っていたのですが、こっち見て合わせてくれてるような気がしましたね。しました*5

 それより何より嬉しかったのが、芸人やアーティスト目当てで来ていた隣りのツイッタラーがこのEDではひたすら小泉さんら女性声優陣(本当に写真撮影のギリギリまで背中向けず客席に手を振る)に手を振って「可愛いー、可愛いー」とアピールしていたことです。

 

 混ざった。

 


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 ちゃんとセットを立てたこと。朗読劇を真剣なものにし、MCさえ混ぜたこと。

 シルエットの中で異業種たちが混ざり合い並び立つ朗読劇。

 多ジャンルのアーティストが歌う様を、セットを巧みに利用して眺めるラッパー達。

 キチンと舞台を俯瞰して演出している巧者が仕掛け人の側にいると感じるイベントでしたが、こうした「混ざり合う」効果が鏡面のように客席でも起こっていました。

 

 とは言え自分はこれからも今の吉本興業は嫌いなままでしょうし、あのお客さんたちがこの先別の機会で他ジャンルに手を伸ばすかは怪しい。

 混ざり合ってもわかり合う訳ではないかも知れない、一晩の邂逅に宿る儚い祭り。

 そんな『オッドタクシー』の世界が、たしかにこの日、中野の公民館に具現化していたのです。

 

 

 

*1:いつもその席なりの良さを見つけ出すことにしているし感想でも「結果良かった」風に呟いてますが、毎回外れてます

*2:スタァライトが好きな点として、「リアルイベントも常にガチ」というのは大きいです

*3:そう考えるとぼくが小泉萌香Prod.tofubeats『EMOTION』初披露の場となるだろう虹ヶ咲Day1のチケットを手に入れられないの、何かのバグでは

*4:というか初めて曲を流した時のアトロクを聞いていたんじゃないかと思います

*5:自分がそういう気がしたんだからそれでいいんですよ放っておいてください