鴨川キネマガール ー 『劇場版 四畳半タイムマシンブルース』感想

スタッフ

 

【監督】夏目真悟

【原作】森見登美彦上田誠

【キャラクター原案】中村佑介

【副監督】山代風雅

【絵コンテ/演出】夏目真悟、山代風雅、モコちゃん、木村拓

作画監督】伊奈透光、名倉靖博前場健次、石山正修、吉原拓也

【撮影監督】伊藤ひかり、関谷能弘

【編集】斎藤朱里

【オリジナルアニメコンセプト】湯浅政明

【音楽】大島ミチル

【制作】サイエンスSARU

 

キャスト

【私】浅沼晋太郎

【明石さん】坂本真綾

【小津】吉野裕行

【樋口師匠】中井和哉

【羽貫さん】甲斐田裕子

【城ヶ崎】諏訪部順一

【相島】佐藤せつじ

【田村くん】本多力

 

 森見登美彦原作×湯浅政明監督の名作TVアニメ『四畳半神話体系』と、同アニメの脚本を担当した上田誠の『サマータイムマシンブルース』を合体させた異色アニメ。

 湯浅要素、森見要素、上田要素が渾然一体化した世界を、『スペース☆ダンディ』でやはり様々な世界を自分の中で一通り透過させていく事を覚えてキャリアを始めた夏目監督は、やはり自身を消し去りスマートに統合させることで、むしろその風通しの良い作家性をより強く感じさせる。

 コマーシャルライクなキャラデのイラスト感を巧みに動かし、或いは動かさずに芝居を感じさせてきた夏目アニメにあって、中村佑介のタッチをそのまま活かす事がいとも容易く成立していて、パッと見中村イラスト風でありながらいざ見てみれば湯浅タッチの勝っていく『四畳半神話大系』⇒『夜は短し恋せよ乙女』の流れに比べると、より真なる「みんなが想う森見アニメのイメージ」に近いのが本作かも知れない(『有頂天家族』という傑作もあるけれど、あっちは狸だから)。淡色のシンプルな背景美術に見えて、要所要所で奥行きを与える陰影を帯びた美術を小出しに入れてくる小技も効いている(個人的には『夜は短し~』の京都にもこういう奥行きが欲しかった)。あまつさえワンカット実写ありましたよね?

 相変わらず厖大なモノローグ量と諧謔に溢れた上田誠の台本世界も、本家『サマータイムマシンブルース』や『ドロステのはてで僕ら』にあった小劇団のコント的臭みを森見文体との化学反応で脱臭しているのもちょうど座りが良い。本多力が混ざるのは愛嬌だが、しかしその異物としての距離感も絶妙なのだ。

 

 やっている事はいつもと同じ。

 繰り返す僕らの毎日は、しかし選ばれたたった一度の今日なのだという、「そうとしかなれなかった青春」の肯定。そもそも森見文学に登場する青春が「むしろ何か足りないものがあるのか?」というくらい充たされたものばかりなので、普通に愉しい青春を愉しく繰り返して安心安全な帰着を迎えるのだが、しかしこの「繰り返す一日」が現実には「『四畳半神話体系』から十二年」という時の長さをそこに含んでしまう事実に抗うこと難しく、樋口師匠の声はとっくの昔に交代して、そしてループする下宿を抜け出した先で、不意に『たまこラブストーリー』のワンシーンがリファレンスされ、僕たちはもう繰り返せない毎日を想う。*1

 

 装飾過多なアニメ映画が氾濫する時代にあって淡白さを(その中に無限の情報量を込められる事を知って*2)恐れない夏目監督が、最後にわずか、日常から一瞬浮遊する「かけがえのない永遠」を愛おしそうに、そして京都の夏の情緒を恥ずかしげもなくギュッと凝縮したスローな演出を使ってそこに刻む。

 それはあったよと。過去を変えても、未来を変えても、無かった事にはならない。

 「それ」は果たして観客それぞれの青春の1ページなのか、アニメが刻んできた、長いようで短いこの12年間の作品の数々なのか。

 永遠に変わらぬ夏が続くかに見えた森見作品の未来でも、そのオンボロの寮はとうとう壊れてしまうらしい。

 これからも明石さんはクソ映画を撮り続けるだろう。

 そして永遠の一瞬が増えていく。

 

*1:)MVで過去のアニメのOPをあのアジカンが、今じゃ萌えアニメの主人公になってしまったゴッチ達がパロディにしてる様が笑えると同時に妙にグッと来る。

*2:この日、『江口寿史 彼女展』で一瞬『Sonny Boy』に触れた帰りに見たので、どこか印象が混ざっています