赤い春 ー 『THE FIRST SLAM DUNK』感想

 

スタッフ

【原作・脚本・キャラクターデザイン・監督】井上雄彦

【演出】宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙美彦、鎌谷悠

【CGディレクター】中沢大樹

作画監督・キャラクターデザイン】江原康之

【サブキャラクターデザイン】番由紀子

美術監督小倉一男

色彩設計】古性史織

【撮影監督】中村俊介

【編集】瀧田隆一

【音響演出】笠松広司

【音楽】武部聡志、TAKUMA(10feet)

【制作】東映アニメーションダンデライオンアニメーションスタジオ

 

キャスト

 神奈川県立 湘北高校

宮城リョータ仲村宗悟 (少年時代)島袋美由利

桜木花道木村昴

流川楓】神尾晋一郎

赤木剛憲三宅健太

三井寿笠間淳

 

木暮公延】岩崎諒太

赤木晴子坂本真綾

【彩子】瀬戸麻沙美

石井健太郎堀井茶渡

 

安西先生宝亀克寿

 

 秋田県立 山王工業高校

【深津一成】奈良徹

【河田雅史】かぬか光明

【沢北栄治】武内俊輔

【野辺将広】鶴岡聡

松本稔長谷川芳明

【一ノ倉聡】岩城泰司

 

【堂本五郎】真木駿一

 

 宮城家

【宮城ソータ】梶原岳人

【宮城カオル】園崎未恵

【宮城アンナ】久野美咲

 

【あらすじ】

 いつも余裕をかましながら

 頭脳的なプレーと電光石火のスピードで相手を翻弄する

 湘北の切り込み隊長、ポイントガード宮城リョータ

 

 沖縄で生まれ育ったリョータには3つ上の兄がいた。

 幼い頃から地元で有名な選手だった兄の背中を追うように

 リョータもバスケにのめり込む。

 

 高校2年生になったリョータは、

 湘北高校バスケ部で、桜木、流川、赤木、三井たちとインターハイに出場。

 今まさに王者、山王工業に挑もうとしていた。

                       (公式サイトより)

 

 

 じゃあ次は「俺とスラムダンク」語り自分の番いいですか?

 

 世代、だったのかどうかはわからなくて。

 とにかくスラダン以降急速に体育の時間に覇を延ばしたバスケが嫌いで、ボールはデカいし、痛いし、ルールわからないし、出来る奴は威張ってるし*1。チビで手が小さくボールも掴めない自分にはスタートラインにすら立てない競技だった。

 それから大人になってまとめて読む機会があったのだけど、確かその時にはすでに『あひるの空』を読んでいて、自分にとってはスラダンから摂取できるものをすでにポスト・スラダン作品群から一通り得た後だったような気がする。

 むしろ始まりから立ち会えてる『バカボンド』や『リアル』の方が世代と言えば世代なのかも知れない。

 本当にかじった程度とは言え経験ある球技・卓球、バレーで既に『ピンポン』『ハイキュー!!』という名作があり、「俺とスポーツ」の記憶をフィクションが昇華してくれる経験さえすでに充たされている。

 そもそも話ほとんど思い出せないし。

 そんな程度の心構えで、特に予習もなく鑑賞しました。

 

 ――大丈夫だった。思い出すも何も、まったく知らない地点から話は始まった。

 

 リョータ主役とは知っていたけどこんな掘り下げ方を? 

 それと『花とアリス殺人事件』以降という系譜が生まれ得たアニメーションスタイルの嬉しさよ、とはしゃいでいたら――The Birthdayに合わせて湘北・山王が並び歩いてくるOPでもう、本当にマナー悪くて申し訳ないのですが、劇場で身体バタバタ揺れていました。でもそのマナーの悪さが俺だけじゃなくって、良い意味で競技場の客席に座らせてくれた*2

 『ピンポン』松本大洋のマンガを実写映画化した『青い春』が正にミッシェルの音楽をOPであんな感じで使うのですが*3

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 歌声がモロ過ぎる『チェンソーマン』のOP『KICK BACK』に触れて以来チバユウスケの声がずっと脳裏に流れ続けており、『ぼっち・ざ・ろっく!』に触発された自分の中のJロック熱のにわかな再沸騰の中で*4スラムダンクに好意的に再会するのに完璧なタイミングでした。

 

 井上先生にはあの頃イキッていたバスケ小僧たちもキラキラして見えたのかも知れない*5

 青春と距離を置いて今やっと、自分もこのまっすぐなスポ根譚に乗れた。

 カットされちゃったけど今なら三井の後悔が一番真に迫るし、同時に安西先生はあんまり完璧じゃないし、それを自覚しながら若者たちの無茶を止められない心情も理解してしまえる。そして思ってた以上に作品の肝となる部分は刺さっていたらしく、ハッキリ覚えていた自分に吃驚する。

 こうした王道の青春を力業で肯定させてしまうのは、圧倒的に桜木花道(というネーミングも良い)の赤い髪。「青い」春だなんて言葉が内包する諦観さえ否定する生命力があの頭空っぽの、バスケットボールみたいな赤い短髪が跳ね続ける様から溢れ出してくる。

 

 体育、本当にイヤだったなぁ、子供の頃もっと運動の楽しさを知りたかったなぁ、なんてことを思い出しながら、そうした「苦手な体育」の代名詞だった『スラムダンク』が遂に永遠の過去を抜け出して現在のスクリーンに飛びだし、さらにラストでリョータと深津がその先の未来にまで飛びだしていってくれた事。泣いておりました。

 

 花道の良さが初めてわかった気がする一方、いかにもなジャンプマンガの主人公とライバルを背負わされた花道と流川があくまで脇役、両サイドに追いやられたOPの横並び姿のあの痺れるような格好良さ。OPの時点でもう勝ち確していたと思います。

 他のマンガもアニメも映画もガンガン真似してほしい。主人公とライバルをメインじゃなく脇に据える。そこから見えてくる、まだ見たことないフォーメーションのパワーは無限大なんじゃないか。

 

 いつも以上にただの自分語りに終始してしまいましたが、様々な記憶を内包しつつ明らかに映画としてはオリジナルである、手探りで立ち上がってくる建設物である為に、映画の記憶や深読みなどより、自分ひとりで対峙せざるをえない、一対一で映画と向き合える爽やかな経験となりました。

 

 ………………三井の出番、もうちょっと見たかったな………………

 

*1:井上先生が「居て欲しい」と願っているバスケ少年は幻想だと思うんですよね。バスケやる奴は100%全員更正しない三井みたいな奴ばっかりでした、マジで

*2:劇中の観客のCGはもうちょっとどうにかして欲しかったが

*3:大友啓史『深く潜れ 八犬伝2001』もミッシェル鳴りっぱなし

*4:結束バンドにカバーしてほしい曲10選に『赤毛のケリー』『シャロン』はまず入る

*5:バガボンド』を映画化してがっていたスタジオジブリ鈴木敏夫との対談で「剣豪を格好良く描いているがチーマーを称揚しているのと何が違うのかと悩んでいる」とは語っていた