最近見た映画の採点

 

最近見た映画20本の感想を置いていく「映画の採点」シリーズ第23弾。

過去記事もカテゴリーのタグを追って読んでくれると嬉しい。とはいえそろそろ飽きてきた自分に耐えられなくなってきたので、やめ時かも知れません。

 

では。

 

ドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス』(ディズニー+)

【評価】B

【監督】サム・ライミ(ギフト)

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】ストレンジ先生がスパイダーマンの為にマルチバースの扉を開いてしまった後の世界。少女が巨大な怪物に追われ、助けようとした自分が致命傷を負う夢を見たストレンジ。目が覚めてかつての恋人クリスティーンの結婚式に出席したストレンジが目にしたのは、暴れる巨大な一つ目の怪物と、それに追われる夢と同じ少女:アメリカ・チャベスの姿だった。

【キャスト】ドクター・ストレンジベネディクト・カンバーバッチ スカーレット・ウィッチ:エリザベス・オルセン アメリカ・チャベスソーチー・ゴメス ウォン:ベネディクト・ウォン クリスティーン:レイチェル・マクアダムス マスター・モルド:キウェテル・イジョホー

 プロフェッサーX:パトリック・スチュワート キャプテン・カーター:ヘイリー・アトウェル キャプテン・マーベル(マリア):ラシャーナ・リンチ ミスター・ファンタスティック(ファンタスティック・フォー):ジョン・クラシンスキー ブラック・ボルト:アンソン・マウント / ピザ店員:ブルース・キャンベル 謎の女:シャーリーズ・セロン  

【感想】

 何はともあれサム・ライミ。勢い任せのカメラの流れとインパクトが、粗暴なようで繊細に繋がっていく独特のリズムと悪趣味ながら突き抜けて楽しいディティールがMCUでも健在で、サム・ライミの力を借りてMCUが延命しているのかMCUの力を借りてサム・ライミが延命しているのか。MCUに流れる「ハリウッドの連帯」の魅力に改めて感じ入っていた。

 「サノス以降」「マルチバース以降」「連ドラから続く味方スカーレット・ウィッチのヴィラン化」「よその制作会社が培ってきたキャラ(プロフェッサーX)の拝借」「別ユニバースのアベンジャーズこと【イルミナティ】の出現」「今後の重要キャラとなりそうな新世代:アメリカ・チャベスの登場」などなど、めちゃくちゃ消化しなきゃいけない事が多いのに、さしてMCUのことを知らないというサム・ライミが「サム・ライミの世界」としてスムーズに流していける土壌を用意できているあたり、ケヴィン・ファイギの采配はまだ健在。

 本来はかなりのトピックスのはずのプロフェッサーXの印象が少し埋もれてるってある意味スゴい(知らなかったのでマジでビックリした)。

 逆に采配が健在であって尚、もう「一本の映画」としての完成度は諦めて、ナンバリングされるアメコミ本の一冊として映画を制作しているのだなという納得感もあった。それは良いのか悪いのかわからないけど、エンドロール後の〆が今回は最高過ぎたので納得させられてしまう。

 サム・ライミの起用は明らかに「禁断の書ダークホールド」から来てるのだろう。

 どっちにしろ『死霊のはらわた』シリーズがサム・ライミ監督のままずっと続いてたら、遅かれ早かれこんな感じの映画が出来ていたと思います

 

『ソー:ラブ&サンダー』(ディズニー+)

【評価】C

【監督】タイカ・ワイティティ(シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア)

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】砂漠の惑星で娘ラブを救えなかったゴアは、信仰していた神ラプーが人を蔑む様に怒り、「神殺しの剣」ネクロソードを手に入れ、ゴッド・ブッチャーと化して神々の殺戮を開始する。

 ソーとコーグはガーディアンズ・オブ・ギャラクシーと共に冒険を続けていたが、襲われた幼なじみ:シフの元に駆けつけた事でゴッド・ブッチャーの暴虐を知る。

 一方、かつてのソーの恋人ジェーン・フォンダはステージ4のガンに侵されていた。そんな彼女のもとに、ムジョルニアが舞い降りたのだった。

【キャスト】

 ソー:クリス・ヘムズワース ゴア:クリスチャン・ベール マイティ・ソー(ジェーン):ナタリー・ポートマン ヴァルキリー:テッサ・トンプソン コーグ:タイカ・ワイティティ ゼウス:ラッセル・クロウ ラプー:ジョナサン・ブルー シフ:ジェイミー・アレクサンダー アクセル:キーロン・L・ダイアー エリック:ステラン・スカルスガルド ダーシー:カット・デニングス ダリル:ダーレイ・ピアソン ヘラクレス:ブレッド・ゴールドスタイン ヘイムダルイドリス・エルバ 

 ロキ役の役者:マット・デイモン ソー役の役者:ルーク・ヘムズワース オーディン役の役者:サム・ニール ヘラ役の役者:メリッサ・マッカーシー

 〈ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

 スター・ロード:クリス・プラット ドラックス:デイヴ・バウティスタ グルート・ヴィン・ディーゼル ロケット:ブラッドリー・クーパー ネビュラ:カレン・ギラン マンティス:ポム・クレメンティエフ クラグリン:ショーン・ガン

【感想】

 去年(2022年)の映画にとんと疎いので、MoMのプロフェッサーXに続いてこっちではラッセル・クロウクリスチャン・ベール(メイクもスゴいので判りづらく、エンドロールでようやく確定した)まで出てきてキョトンとし、そこに相変わらずのあらゆる作品とリンクするキャラやスター達、加えて前作にギャグとして出したカメオ出演マット・デイモンらまでまさかの続投。

 結果として過去にも登場したジェフ・ゴールドブラム、ピーター・ティンクレイジは撮影したのにカットされてしまったらしい。

 このハリウッド映画が培ってきた人脈の力。ただ本作そこに弱点もあって、「神殺し」というゴアの切なる愚行の物語をクリスチャン・ベールのいつもの濃厚芝居(こんなふざけた映画なのに本気出しててエラい)とラッセル・クロウおちゃらけ芝居の間のスケール間のみでしか描けていないので、ギャグまみれにエクソダスカタルシスを描いてみせた前作『マイティ・ソー:バトル・ロイアル』のパワーには及ばない。ワイティティのコメディは諸刃の剣なんだよな。

 ふざけているようで「神は人を見捨てる」というテーマは一貫しており、ソーは神だからヒーローなのではなく、人を救うからヒーローなのだという芯は通っている。

 また一昔前まで旬の過ぎたハリウッド女優は本当に見かけなくなりましたが、MCUが登場時点ですでにベテラン感ある女優陣をその後も起用し続ける流れは着実に女優の幅を広げていると思う。グウィネス・パルトローの好投をナタリー達も評価して出てくれているのでは。

 

『NOPE/ノープ』(レンタル)

【評価】A

【監督】ジョーダン・ピールゲット・アウト

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】ハリウッドに馬を貸し出す仕事をしているヘイウッド牧場で、牧場主の男が空からの落下物により亡くなる。跡を継いだ息子のOJは、スターを夢見てマルチに自分を売りだそうとする妹エムにウンザリしつつなんとか仕事を続けようとする。ある晩、何かに怯える馬を気に掛けたOJは、空に「それ」を見てしまう……。

【キャスト】OJ:ダニエル・カルーヤ エム:キキ・パーマー エンジェル:ブランドン・ペレア ジュピ:スティーブン・ユアン ホルストマイケル・ウィンコット ジュピの妻:アンバー・パーク OJの父:キース・デイヴィッド

【感想】

 高原に家族と出かけるたびに、風吹き下ろす山腹で見る光景をそのまま映画にする事を夢見ていたーー同時に、そのスケール感はスクリーンでは再現出来ないんじゃないかとも勝手に懸念していた。広大な光景の一部になってそこに吹く風に当たり、迫り来る何かから逃げ惑う感覚。I MAXシアターで本作を観たら、きっとその感覚を体感出来たのだろうと思うと、それだけでよくやったと快哉を叫びたくなる。

 ワンアイデアの魅力が強靱で発明的である事、同時に「映画を観る私たち」と「カメラに映らない(カメラを見ない)人」との間に緊迫した関係性を生じさせ、I MAX的スケールとはまた別種の臨場感へと観客を巻き込む事。

 やりきったと思います。

 

『刑事ジョン・ルーサー フォールン・サン』Netflix

【評価】C

【監督】ジェイミー・ペイン

【制作国/年】イギリス・アメリカ/2023年

【概要】2010年からBBCで放送されたドラマ『刑事ジョン・ルーサー』初の劇場版。己の正義を信じ横暴も辞さない刑事ジョン・ルーサーはそのツケを払い逮捕されてしまう。同時期、愉快犯のデヴィッド・ロービーが大量殺人事件を発生させていた。ロービーに挑発されたルーサーは豪快に刑務所を脱獄、何故か次から次へと手駒を動かせるロービーとの攻防を始める。奴の正体は何者なのか。

【キャスト】ジョン・ルーサー:イドリス・エルバ オデット・レイン:シンシア・エリヴォ デヴィッド・ロービー:アンディ・サーキス マーティン・シェンク:ダーモット・クロウリー コリン・アルドリッチ:ハティ・モラハン 

【感想】 

 次々派手な見せ場が登場し楽しく、最初は「このハッタリ感でスリラーを進めるの凄いな、『ブレスラウの凶渦』か」と思ったけど、次第に見せ場の為の展開がどんどん軽く、あまり視聴推進力が持続しなくなる。なんだかんだダン・ブラウンロン・ハワードは上手かったなぁとなっていました。

 で、今調べてこれが5シーズンも続いたドラマの映画版だと知り、「だとしたら単品映画として見せ場たっぷり楽しめたのは凄いよ」となる。イドリス・エルバの魅力は全開だったし、何故彼が次期ボンド候補に上がったのかも「刑事ジョン・ルーサー」という存在ありきなら納得いった。

 

『スクリーム('22)』Netflix

【評価】

【監督】マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】かつて仮面の殺人鬼が凶行に走ったウッズボローで、再び一人で家にいた女子高生に「奴」からの電話がかかる。奴は映画を巡るマニアックなクイズを出題し、やがて彼女は切り裂かれるだろう。今、世間ではスラッシャー映画の時代は終わり、「深いメタファーのあるホラー映画」が好まれるようになっていた。その事に殺人鬼はご不満の様子だが……? 女子高生は答えてしまう。

「私が好きなホラー映画は、、、『ババドック』かな」

【キャスト】

 新登場組

 サム:メリッサ・バレラ リッチー:ジャック・クエイド タラ:ジェナ・オルテガ ウェス:ディラン・ミネット チャド:メイソン・グッディング ミンディ:ジャスミン・サボイ・ブラウン アンバー:マイキー・マディソン リヴ:ソニア・ベン・アマル ヴィンス:カイル・ガルナー

 続投組

 シドニーネーヴ・キャンベル デューイ:デヴィッド・アークェット ゲイル:コートニー・コックス ジュディ:マーリー・シェルトン ビリー:スキート・ウールリッチ マーサ:ヘザー・マタラッツォ 電話口での殺人鬼:ロジャー・L・ジャクソン

【感想】

 何故かこんなタイトルになってしまった、紛れもない『スクリーム5』。

・伝説のシリーズの続編である事

・「伝説のシリーズの続編である事」というメタネタを取り入れる事

・新キャラ/旧キャラ双方に見せ場とドラマを作る事

・現代なりの「ホラー映画考察」がある事

・当然、犯人探しのドキドキもふんだんに織り込む事

 ケヴィン・ウィリアムソンが離れて尚、これら無理難題を全てこなす必要があるという高難易度ミッションを見事クリアしている(『ゾディアック』『ホワイトハウス・ダウン』『マーダー・ミステリー』等の名脚本家ジェームズ・ヴァンダービルトが参加しているのが大きいか)。

 傑作続編です。

 じゃ何故満点じゃないのかと言えば、結果「非常に良く出来たパズル」を眺めているような気分になってしまった為で、メタも行き過ぎるとスリラー性を薄めてしまうのかも知れない。贅沢。

 作品として弱くなった事に映画史の郷愁を重ねた(結果的に重なった)『スクリーム3』のズルさを改めて思い出したりしていた。

 

『ラストサマー3』Netflix

【評価】D

【監督】シルヴァン・ホワイト(ストンプ・ザ・ヤード)

【制作国/年】アメリカ/2006年

【概要】かぎ爪の殺人鬼「フィッシャーマン(漁師)」が伝説として語り継がれるコロラドの田舎町。遊園地の夜、若者達の少し凝ったドッキリは思わぬ被害者を生んでしまう。その事実に口を噤み、隠し通そうとした彼らの元に、一年後とあるメッセージがよこされる。

 I Know What You Did Last Summer(去年の夏、お前が何をしたのか知っているぞ)」 

 Yeah~~~!!!

【キャスト】アンバー:ブルック・ネヴィン コルビー:デヴィッド・パートコー ゾーイ:トーレイ・デヴィート ランス:ベン・イースター シェリフ:K・C・クライド ロジャー:セス・パッカード PJ:クレイ・テイラー フィッシャーマン:ドン・シャンクス

【感想】

 たまにある、駄目な邦画見てるような気分にさせてくれる洋画。話の発端部分では「面白い事をしようとしているが予算と演出が全然(全然)追いつけてない」パターンかなと思ったけれど、普通に脚本も駄目でした。

 しかしカイル・クーパーのクレジットみたいな謎のフラッシュ演出を本編で多様するダサさ、これ本当に00年代中盤のアメリカ映画なんだろうか……? 00年前後に日本で量産された伊藤潤二原作とかの超低予算Jホラーではなく……?

 『スクリーム(5)』のヒットを受けてラストサマーも新作制作が決定しましたが、『3』は無かった事になるそうです。でしょうね。

 しかし意外とこの監督が映画は数撮れているというハリウッドの不思議。堤幸彦みたいな人はどこにでもいるのか。

 

『モデル連続殺人!』Gyao!

【評価】B

【監督】マリオ・バーヴァ(呪いの館)

【制作国/年】イタリア/1964年

【概要】美女たちが集うファッション・サロンで、謎の覆面男の手によって女性が殺された。容疑を恐れて言い訳に奔走する男たち、次々殺される美女モデルたち。犠牲者たちは「ある日記」を目にし、そして殺人リレーに使うバトンのようにそれは被害者から被害者へと手渡されていく。一体、犯人は誰なのか……。

【キャスト】クリスティアーナ:エヴァバルトーク モラルキ:キャメロン・ミッチェル 警部:トマス・レイネル グレタ:リー・クルーガー ペギー:メアリー・アルデン ニコル:アリアンナ・ゴリニ イザベラ:フランチェスカ・ウンガロ タオ:クロード・ダンテス フランコ:ダンテ・ディ・パオロ

【感想】

 極彩色の館! めくるめくる美女たちの死! 覆面男の凶行!

 この3題さえ揃えば映画はそれだけ魅惑を宿す。大林映画からアルジェントは勿論『スクリーム』(覆面殺人鬼の妙に人間臭い動き)に到るまで、数多の映画に影響を与えたと言われる元祖ジャッロ。見せたいポイントだけシンプルに連なっていく作りがまたファッションショーのようでおかしい。

 冒頭の怪しいラテンミュージックに乗せたギラギラした登場人物紹介コーナーだけでこの映画のやりたい事は詰まってる。

 初めて観たマリオ・バーヴァ。ジャッロの元祖である事さえマリオ・バーヴァのフィルモグラフィに於いては一要素でしかなく、他にも様々に映画史に影響を与えた人物とされてますが、このスタイルで一作ごとにビジュアルを極めていればありえそうだなと納得がいく。

 サービス終了となるGYAO!で最後に見た作品となりました。いや他にも同監督作品沢山入っていたので見れば良かったのですが、あれですね、、、久々に利用すると、やはり広告が邪魔だったよGYAO! でも色々な映画との出会いをありがとう。

 

ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(レンタル)

【評価】C

【監督】コリン・トレヴォロウ(ジュラシック・ワールド

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】恐竜たちが現代社会に解き放たれて4年。オーウェンとクレアが匿っていたメイジーがバイオシン社にさらわれてしまう。一方、巨大イナゴによる被害がアメリカ中西部を襲い、かつてジュラシック・パークでの被害に巻き込まれたアラン、エリーもまたマルコムが新たに協力しているバイオシン社へと向かう。

【キャスト】

 『ワールド』

 オーウェンクリス・プラット クレア:ブライス・ダラス・ハワード メイジー:イザベラ・サーモン フランクリン:ジャスティン・スミス ジア:ダニエラ・ピネダ バリー:オマール・シー

 『パーク』

 アラン・グラント:サム・ニール エリー・サトラー:ローラ・ダーン イアン・マルコム:ジェフ・ゴールドブラム ヘンリー・ウー:B・D・ウォン

 『新登場』

 ケイラ:ディワンダ・ワイズ ルイス:キャンベル・スコット ラムジー:ママドゥ・アディエ 闇市場を牛耳る女:ディーチェン・ラックマン シャーロット:エルヴァ・トリル

【感想】

 「一本の映画」である事を捨て、「6部作の最終回」である事をきっちり全うしようとしているかのようなお祭り的アッセンブル感。それがジュラシック・パークの面白さと全然繋がらないので「映画の前半丸々カットしても成立するだろ」という退屈さを呼んでしまっているのだけど、見たことない格好良い恐竜さんが沢山見れて楽しいという気持ちに抗えないのも事実。

 「現代社会に恐竜が解き放たれた状態」の面白さから逃げてまた閉鎖空間モノに逃げてしまったのはダサい。

 

『Mid90s ミッドナインティーズ』(アマプラ)

【評価】A

【監督】ジョナ・ヒル

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】太った性格俳優ジョナ・ヒルが自ら監督・脚本を勤める半自伝的作品。90年代半ば、ロサンゼルス郊外。仕事で忙しい母、孤独で不機嫌な兄との生活にウンザリしていたスティーヴィーは、スケボーの世界に興味を抱き、街の悪ガキ達とつるみ始める。ルーベン、レイ、ファック・シット、フォース・グレード。未来の見えないはぐれ者らとスケボーを走らせる淡く儚い日々。これはいつまで続くのだろう。

【キャスト】スティーヴィー:サニー・スリッチ イアン:ルーカス・ヘッジス レイ:ネイケル・スミス ファックシット:オラン・プレナット ルーベン:ジオ・ガルシア フォース・グレード:ライダー・マクローリン エスティ:アレクサ・デミ― ダブニー:キャサリン・ウォーターストン

【感想】

 誰かの記憶のポケットの中に潜り込んで、その世界を浮遊する、現実からも現在からも切り離された時間。一見するとジョナ・ヒルのノスタルジィは濃いようで、それは今ここにいる被写体(ほぼ実際のストリートのスケボーキッズ)、景色との距離感を掴み統御したからこそ成せる業。

 話はごくごくミニマムで、キャラはみんな生きていて、そしてスケボーだけがただスベり続け、カメラは回り続ける。この世界の片隅を刻む営みとしての映画の理想的な形だと思う。『エイス・グレード』の少年版とも言える。

 しかし、あぁ、お兄ちゃん……。

 

トロールNetflix

【評価】B

【監督】ロアール・ユートハウグ(ザ・ウェイヴ

【制作国/年】ノルウェー/2022年

【概要】トンネル掘削作業中に、謎の事故が起こり多くの作業員、工事に反対するデモ中の若者達が巻き込まれて死亡する。ノルウェー政府から調査の依頼を受けた古生物学者のノラは、かつてトロールは実在すると語り今では疎遠となった父トビアスに会いに行くが、二人の後ろにある普通の景色の中に巨大な目が浮かび上がる。トロールは、「擬態」して現代まで生き残っていたのだ。

【キャスト】ノラ:アイネ・マリー・ウィルマン アンドレアス:キム・ファルク クリス大尉:マッズ・ショーガード・ペッターセン トビアス:ガード・B・アイズヴォルド モベルク首相:アネケ・フォン・デア・リッペ シグリッド:カロリーネ・ヴィクトリア・スレッテン・ガルバン

【感想】

 ノルウェー発のエンタメジャンル映画を作り続けるロアール・ユートハウグ。ハリウッド進出作のリブート版トゥームレイダーは明らかに失敗作だったけれど、故郷に帰り、地元の星トロール伝説をそのままゴジラキングコングかという(「ゴジラか? キングコングか?」ってモブが言う)王道の怪獣エンタメに仕立てる。

 『トロール・ハンター』と言い本作と言い、ノルウェーにはノルウェーの怪獣映画の歴史があるのだという愉快さ。というかこの数年でいうならこの二本だけでもう日本より怪獣映画大国じゃないか。

 余計なこと何もせず、トロールも堂々と見せ、怪獣の孤独と悲しみ、密かに滲ませたアンチ・クライストな反骨精神もスパイスを効かせ、欲張らずにfin.

 今の映画界のトレンドは小ぶりで、しかし確かなエンタメをしっかり作りきるという点にあると思っていて、別に何も尖ってたり斬新だったりはしないけれど、妙にお得な気分になれたのでした。

 

『ブレット・トレイン』(アマプラ)

【評価】A

【監督】デヴィッド・リーチアトミック・ブロンド

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】伊坂幸太郎『マリア・ビートル』をハリウッドで映画化。東京から京都へ向かう新幹線に、息子をビルから突き落とされた殺し屋:木村、ブリーフケースの回収を命じられた不運な殺し屋:レディバグ、とあるマフィアの息子を救出し終えた殺し屋コンビ:みかんとレモンらが乗り込んでいた。やがて事態は奇妙に絡み合い……。

【キャスト】レディバグ:ブラッド・ピット みかん(タンジェリン):アーロン・テイラー=ジョンソン レモン:ブライアン・タイリー・ヘイリー 王子:ジョーイ・キング ファーザー(木村):アンドリュー・小路 ウルフ:ベニート・A・マルティネス・オカシオ(a.k.a.バッド・バニー) 車内販売員:福原かれん エルダー(長老):真田広之

【感想】

 キャスティングのサプライズの数々も楽しかったので、表記は以上までに抑えて。

 ポスト・タランティーノ的でありながら映画的記憶はさほど濃くなく、『スモーキング・エース』的でありながら肩の力はどこまでも抜け、結果ちゃんと新しい塩梅のエンタメ、下手すると新世代の古典の一本となってるかも知れないくらいには唯一無比のバランス感覚が成立しているのでは。言うなれば少しずつダサくて、ダサさが独特の流れに貢献している。

 原作は、というか一連の殺し屋ユニバースは確かに伊坂幸太郎の中では面白い部類で*1 、それをベースにしつつ滅茶苦茶振りきったコミカル・テイストに。

 当初予定していた日本ロケを断念したそうだが、その時点で方向を振りきると決めたんじゃないか。デヴィッド・リーチ、『デッドプール2』の監督でありつつ『アトミック・ブロンド』の監督でもあるという振り幅がめためた強いのではないかと、急に頼もしく思えてきた。

 役者がみんな光っていて、その中でも格別ブラピが光っているのも嬉しい。

 

『ザ・ロストシティ』Netflix

【評価】B

【監督】アーロン・ニー、アダム・ニー

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】恋愛小説家:ロレッタは自著のカバーモデル*2:アランと共に、怪しい実業家フェアファックスにとある島まで誘拐されてしまう。ロレッタが小説に注いだ知識を以てすれば、この島に眠る財宝を見つけ出せる筈だとフェアファックスは語る。仲違いをしていたロレッタとアランはなんとか逃げだそうとするが……?

【キャスト】ロレッタ:サンドラ・ブロック アラン:チャニング・テイタム フェアファックス:ダニエル・ラドクリフ ベス:ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ ジャック・トレーナー:ブラッド・ピット オスカー:オスカー・ヌ二ェス レイ:ボウエン・ヤン ファンタジーヴィランスティーヴン・ラング

【感想】

 ロマコメ・アドベンチャーのメタを緩やかにこなしていく、ばっちり「脚本」の映画になっていて、緩い展開の中に作品を〆る印象的な言葉の数々が決まってる心地よさがある。

 男女の立場を逆転させて今まで前提となっていた「当たり前」を再考してみよう――と、いう昨今の風潮は「当たり前」として、更にもう少し詰めて「そこにいる一人の男性」として見てみよう。この先進性にやはり腐ってもハリウッド強いと羨ましくなる。

 前半のブラピの見せ場で実はアクションしっかり撮れるんですけどねという目配せをしてくるあたりも、先行作品へのリスペクトと同時に頼もしかった。

 緩いんですけど、理由の仔細省きますが『ブレット・トレイン』と前後して見た事含めて、「ハリウッドスター、みんな死なないで永遠に楽しいB級映画出続けてくれ」と祈って泣きそうになってしまった。

 

悪魔のいけにえ ーレザーフェイス・リターンズー』Netflix

【評価】

【監督】デヴィッド・ブルー・ガルシア(モンスター・フェスティバル)

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】メロディは銃乱射事件のサバイバーである妹ライラを引き連れ、テキサスの廃れた町に訪れる。ここで新時代に相応しい事業を開拓しようと意識高い系の人々が集まっていたのだ。ゴーストタウンで孤児達を引き取っていた老婆:マック夫人は権利書を持っていると言い張るが、ここはもう無人だと思っていたメロディ達は夫人と、夫人の元に残っていた最後の孤児:巨漢の中年男を保安官に預ける。その頃、かつてテキサス・チェーンソー・マサカで唯一生き残ったサリーは今も体を鍛え続けていた……。

【キャスト】メロディ:サラ・ヤーキン ライラ:エルシー・フィッシャー ダンテ:ジェイコブ・ラティモア ルース:ネル・ハドソン サリー・ハーデスティ:オルウェン・フエレ マック夫人:アリス・クリーグ レザーフェイス:マーク・バーナム

【感想】

 乱射事件のサバイバーがホラーアイコンとの戦いでもサバイブする事で恐怖を克服する、というギリギリのテーマは切実で成る程そう来たかと思ったのに、その要素がうまく引き立てられず。フェデ・アルバレスが関わってるので『ドント・ブリーズ』的スリルを煽るのは非常に上手なのだけど、『悪魔のいけにえ』というタイトルが持っている、ジャンルさえ打ち壊す野蛮なエネルギーと比べるとずいぶんお行儀が良い。初代サバイバーが殺人鬼と再び対峙するのも『ハロウィン』がやり尽くしてる訳だし。

 ただそれでもハラハラドキドキは存分に味わえるし、バスの中の大虐殺シーンは上がるので好感は抱いていたところ、最後の最後にモノ凄くガッカリする。やっぱり『悪魔のいけにえ』はそんな安い普通のホラーであって欲しくなかった。

 トビー・フーパー自身による『2』が至高という意思変わらずです。

 

『エノーラ・ホームズの事件簿2』Netflix

【評価】A

【監督】ハリー・ブラッドビア(エノーラ・ホームズの事件簿)

【制作国/年】イギリス・アメリカ/2022年

【概要】ホームズ・パスティーシュの中でも新しく、そして最も成功を収めた部類であるYA小説『エノーラ・ホームズの事件簿』映画化第二作。いよいよ自分の探偵事務所を構えたホームズの妹エノーラは、兄の名声に埋もれまいと新たな依頼にとりかかる。そのとある工場では数えきれないほどの少女たちが病で亡くなっているが、そんな中、行方不明になった少女がいて……。

【キャスト】エノーラ・ホームズ:ミリ―・ボビー・ブラウン シャーロック・ホームズヘンリー・カヴィル ユードリア・ホームズ:ヘレナ・ボナム=カーター バジルウェザー・テュークスベリー子爵:ルイス・パートリッジ レストレード警部:アディール・アクタル エディス:スージー・ウォコマ ミス・トロイ:シャロン・ダンカン=ブルースター グレイム警視:デヴィッド・シューリス

【感想】

 前作はまだどう見ていいのかわからない部分もあったのですが、いよいよエノーラが探偵としての看板を背負ったことで、純粋に主人公としてアドベンチャーの中心に立つ事が出来た。程よくシリーズ物、程よくホームズ物、そこに前作から明解に打ち出される女性の社会進出というテーマ(今回も実在の人物の闘いがベースに敷かれている)、そして19世紀ロンドンの魅惑的な背景と、色々な要素がドラマ『フリーバッグ』の監督らしい小気味よい手際で流れいく。しかしギリで散漫にはならず、エノーラの能動性によってライドしているような感覚はちゃんと持続する。

 二作目にしてちゃんと新生ガールズ・アドベンチャーの世界を確立出来たし、意外と映画でこういう形で女性ヒーローが活躍する作品って珍しいんじゃないだろうか。

 そしてデヴィッド・シューリスの怪演が面白過ぎる。あのイントネーションは字幕版で是非。一方、日本語吹替え版のエノーラがアシリパさんこと白石晴香さんなのも意図的でしょう。

 

パラノーマル・アクティビティ 第2章/Tokyo Night』YouTube

【評価】A

【監督】長江俊和(『放送禁止』シリーズ)

【制作国/年】日本/2010年

【概要】アメリカの超低予算メガヒットホラー『パラノーマル・アクティビティ』の日本版。父と息子:幸一の暮らす山野家に、サンディエゴから姉の春花が帰って来る。父はすぐに仕事で家を空け、向こうで交通事故に遭い車椅子生活を余儀なくされる春花の世話は幸一がする事に。そして姉弟二人きりの生活に、次第に不思議なポルタ―ガイスト現象が生じ……。

【キャスト】山野幸一・中村蒼 山野春花:青山倫子 山野繁幸:津村和幸 呉美鈴:吉谷彩子 名越潤:鯨井康介 矢口麻衣:守永真彩 御祓い師:山田登是

【感想】

 オリジナル版は、「広い空間でドアが全開になってると今にも何か出て来そうで超こええ」という発見を全面に出したのは良いけれど、それ以外はなんとも(予算的な意味ではなく)安い、POVの無理みたいなのを感じた記憶があるのだけれど、スタッフはゲームデザイナーだと今知って十数年越しに納得、フリーのホラゲーみたいな感触でしたね。

 その日本版なんてきっとお安いんでしょうと思ってたけど、なんなら本家より面白いかも知れない。弟から姉に向ける妙に湿った関係性によってPOVの色々な無理が奇妙に中和されて、自然な流れで見れる。次第に「アメリカ産ホラーの和製スピンオフ(シリーズの正史ではない)」という立ち位置を巧妙に使い始める。拾い物でした。

 

ジェイソンX 13日の金曜日Netflix

【評価】C

【監督】ジェームズ・アイザック

【制作国/年】アメリカ/2001年

【概要】不死身の殺人鬼ジェイソン・ボーヒーズを遂に捕えた。このまま冷凍するのが人類の為だ。しかし彼を研究に使おうとした愚かな博士(クローネンバーグ!)達のせいで、ハンパに復活したジェイソンと女科学者ローワンは共に凍結。再び目覚めたのは、400年以上先の宇宙船の中だった。

【キャスト】ローワン:レクサ・ドイグ ツナロン:チャック・キャンベル KM:リサ・ライダー ブロッドスキー軍曹:ピーター・メンサー ロウ教授:ジョナサン・ポッツ ウェイランダー:ダーウィン・ジョーダン ジャネッサ:メリッサ・エイド クラッチ:フィリップ・ウィリアムズ キンサ:メロディ・ジョンソン ストーニー:ヤニ・ゲルマン アザレル:ダヴ・ティフェンバック ダラス:トッド・ファーマー キッカー:バルナ・モリクス ブリッグス:ディラン・ビーグ エイドリアン:クリスティ・アンガス コンドー:スティーヴ・ルチェスク 

 ウィマー博士:デヴィッド・クローネンバーグ ジェイソン:ケイン・ホッダー

【感想】

 世の中には「満点のB級映画」が沢山あるけれど、これはさながら「満点のC級映画」。いくらなんでも安っぽさが過ぎるし、結果として空間の位置関係がまるで捉えられてないのでサスペンスも何もない。ただめいっぱい個性を発揮する沢山のキャラ達が色んなパロディやギャグを展開しては殺されていく(「基本的には死ぬみたいね」「いったん油断させておいて何よ!」)。『エイリアン:コヴェナント』が見せてくれなかったものをジェイソンが見せてくれるの何。

 当然もうちょっと真面目にスリラーを展開しようとして埋もれていく没個性の作品群よりは面白いのだけど、ふざけた方が面白いって言われるのちょっと狡くない?

 出る映画間違えてる(プレデターランボーだろ)ブロッドスキー軍曹が最初にジェイソンの存在を知った瞬間にはもう目をギラつかせて「闘うの楽しみだぜ」という感情で終始動いてるのは、唯一真面目にキャラを一貫させてて好印象。

 ジェイソンは折角ジェイソンXに変身するのに、基本的に各キャラの個性を見せる為の狂言回しになってしまっている。「待ち」の姿勢がやたら多かった。

 

『鳩の撃退法』Netflix

【評価】C

【監督】タカハタ秀太(ホテル・ビーナス)

【制作国/年】日本/2021年

【概要】佐藤正午の小説を映画化した作品。小説家・津田が語る物語――津田が出会って消えた男:幸地秀吉が一家もろとも失踪した事件、津田がチンピラ達に追われるきっかけとなった出来事、裏社会の顔役「倉田健次郎」の存在――すべては事実なのか、虚構なのか。編集者:鳥飼は過去に津田がしでかした失敗からその真偽の程を訝しがりながら、津田の原稿を読み進めていく。

【キャスト】津田:藤原竜也 鳥飼:土屋太鳳 幸地:風間俊介 沼本:西野七瀬 奈々美:佐津川愛美 加賀まり子桜井ユキ 晴山:柿澤勇人 大河内:浜野謙太 奥平:安藤聖 山下:村上淳 加奈子:坂井真紀 社長:岩松了 房州:ミッキー・カーチス まえだ:リリー・フランキー 倉田健次郎:豊川悦司

【感想】

 予告編が漂わせる虚実混在感は早々に消失し、最初は怒濤の情報量で先が気になるのだが、次第に何を主眼として追っている話か見失いどうでもよくなってくる。小説で読んだ方が面白いのだろう。「粗筋」が先にあって「映像」がその説明の為の付属品。同年公開されて全体的に雰囲気の似てる『騙し絵の牙』が「映画全体」で話を推進していたのに比べると数枚落ちる印象。

 ただもしかしたら初めてかも知れない、いつもは過剰なだけの藤原竜也の芝居が映画を引っ張っていて魅力的に見えた。

 広告マンの撮った電通映画だけあってルックは整っていてそれは厭味でなく美点なのだけど、その力を映画的な魅惑にまで持っていけない地肩の弱さ、説明に逃げてしまう弱さもまた広告マンの撮った電通映画の限界を露呈する。

 

『殺人鬼から逃げる夜』Netflix

【評価】A

【監督】クォン・オスン(長編デビュー)

【制作国/年】韓国/2021年

【概要】聴覚障害者としてお客様相談センターで働くギョンミは、職場の人間の無神経な差別にも耐えながらやはり聴覚障害者である母との旅費を貯めていた。いよいよ貯金が貯まり浮かれている二人はその夜、イカれた殺人鬼との死の鬼ごっこを開始することになる――。

【キャスト】ギョンミ:チン・ギジュ ドシク(殺人鬼):ウィ・ハジュン ギョンミの母:キル・ヘヨン ジョン・タク:パク・フン ソジュン:キム・へユン

【感想】

 『見えない目撃者』の聴覚版、或いは聴覚障害者が山中の邸宅で「狂人にして凡庸な普通の殺人鬼」と対決したマイク・フラナガン『サイレンス』のフィールドを都市部に拡大した版。

 もっとソリッドなスリラーは韓国映画だけで探しても他にあるだろうと思うが、本作は「聴覚障害者が負うハンデ故に宙ぶらりんになる生殺しのスリル」「健常者であれば終わった筈の危機が終わらないシーン」を描く事を主題としているので、ともかくハラハラするその心理の中に作り手のメッセージも同時に備わっている。

 なんでもない街中の警報装置が日本よりはちゃんと機能している良さと、韓国映画定番の「絶対頼りにならない警察」という描き方は現実に社会のエアポケットに陥った人を描く上でやはり誠実な表現だろうと思う。

 

人狼Netflixオリジナル)

【評価】B

【監督】キム・ジウン(箪笥)

【制作国/年】韓国/2018年

【概要】沖浦啓之監督×押井守原作・脚本のアニメをキム・ジウンがリメイク。まず「日本の架空史」をやりたがる押井の設定を大幅に変更し「朝鮮半島の架空史」を構築。ここでは再び軍国主義に陥った日本を始め大国が朝鮮を囲み、期間限定で南北朝鮮は統一する事に。しかし半島が内部に抱えた軋轢は活動家団体セクト、政府直属公安、そしてセクト鎮圧の為の警察組織「特機隊」の三つ巴からなる暴力と諜報戦が入り乱れていた。そんな中、運命の出会いを果たした男女の運命は。

【キャスト】イム・ジュンギョン:カン・ドンウォン イ・ユニ:ハン・ヒョジュ チャン・ジンテ:チョン・ウソン ハン・サンウ:キム・ムヨル イ・ギソク:ホ・ジュノ ク・ミギョン:ハン・イェリ キム・チョルチン:チェ・ミンホ 赤ずきんの少女(イ・ジェヒ):シン・エンス 

【感想】

 必要最低限の情報に絞り、寓話的に観客に想像の余地も残して諦観に満ちたオリジナルと違い、どんなバックボーンも潔いジャンルへの奉仕に寄せるキム・ジウンの個性はアクションシーンの見せ場に集約されていく。

 南山タワーでのアクションと人狼のプロテクトギア付けての重量感たっぷりバトル、あれだけでも満足。

 彼ならノワールに寄せる方向性もありえた筈だが、ありあまる予算がアクションに突き動かしたのだろう。結果折角のポリティカルな設定もメロドラマも掘り下げ不足のまま、唐突に持ち上がる男男の因縁でやや置いていかれる。

 韓国のマンゴールドだと思ってるキム・ジウン監督の事は大好きなので、一個一個のジャンル性に敬意を見せながらバランス調整ミスってる感含めて非常に愛着沸く一作。

 ただエピローグは長い。

 

『アトラクション 制圧』YouTube

【評価】B

【監督】フョードル・ボンダルチュク(アフガン)

【制作国/年】ロシア/2017年

【概要】モスクワの巨大団地群に宇宙船が墜落し、多くの市民が巻き添えとなる。災害の衝撃や未知の存在への不安が住民に広がる中、友人を失った高校生ユリアはあの宇宙船から落ちたと思われる宇宙人の青年と出会う。彼はロシア後を理解し、コミュニケーションを取れる。彼氏そっちのけで宇宙人に惹かれていくユリア。その父であるライナルはロシア軍大佐で、宇宙船墜落現場の指揮に当たっていた。

【キャスト】ユリア:イリーナ・スタルシェンバウム ヘイコン(宇宙人):ライナル・ムハメトフ レベデフ大佐:オレグ・メンシコフ 

【感想】

 今ロシア映画を素直に楽しめるかなと思ったのだけど、ロシアの大作エンタメ映画が陥りがちな冗長さに背を向けて、明らかにバッサバッサとカットして省略した跡が全編に点在し、またユリアが宇宙人に惚れる理由がほぼ「イケメンだからだろ」としか思えない急さなど、映画のリズムに準じようという潔さがある。

 軍と市民、デモと暴力、未知への恐れ、あらゆる要素の距離の取り方が冷静であり、最後にはその冷静さが作品のテーマとさえ受け取れる。序盤、市民に被害が出たのだ、俺達はもう相手を知るだなんて悠長な事を言ってられない、侵略者を殺すしかないと息巻く生徒たちに教師が必死にこう呼びかける。「これは『私達を』知る機会かも知れないのだ」と。

 「それ」はただ来て、そして去って行った。後にはその状況に対して「私が」どう反応したか、その事実が残るだけなのだ。

 脚本の設計ミスであらゆる要素がドラマとしての機能を果たさないまま行き交う終盤の虚無が、結果として特異なテーマ性を浮き彫りにする事故。

 一番魅力的なキャラは最初に死んでしまうユリアの友人で、しかも色ぼけユリアは彼女のことを途中からすっかり忘れていくので、ずっと中心が不在の奇妙な時間に付き合わされているような得がたい経験でした。続編あるらしい。あるんかい。この虚無的な味わいが薄まってしまいそうだが、気になってはいます。

 最初の宇宙船墜落シーンだけで十分楽しかった。

 

*1:自分は基本、伊坂小説を悪く言いますが、今のとこ人生で一番読んでる作家なので許してください

*2:実際にこういう職業の人気者がいるらしい