アンニュイな気持ちになる、アニメ・マイベストエピソード5選

当記事は、

以前『アウトライターズ・スタジオ・インタビュー』でも紹介して頂いた

ぎけん(@c_x)さんのブログ物理的領域の因果的閉包性の新企画

マイベストエピソード』に参加したものとなります。

 

● マイベストエピソードのルール

・ 劇場版を除くすべてのアニメ作品の中から選出(配信系・OVA・18禁など)
・ 選ぶ話数は5~10個(最低5個、上限10個)
・ 1作品につき1話だけ
・ 順位はつけない
・ 自身のブログで更新OK(あとでこのブログにコピペさせていただきます)
・ 画像の有無は問わない
・ 締め切りは8月末まで

 

掲げられたコンセプト「作品としてはベストに選ばないけど好きな話数」が非常に興味深いなと思いゆっくりと視聴履歴を振り返っていたのですが、話数単位で振り返ろうとすると好きな作品でさえほとんど思い浮かばないことに気がつきました。

好きで繰り返し見た話数。きっと沢山ある筈なのに、ほとんど思い出せない。

少し寂しいので、せめて今思い出せるものだけでも記録に残します。

カテゴリー「アンニュイな気持ちになる」は後付けです、すいません。

ただ、雨降る日にこの5選を続けて視聴したりすると、それはもうアンニュイな気持ちになれるのではないかと思います。

以下、あくまで「作品としてはベストに選ばない」タイトルの中から思い出した順に。

勿論、ベストに選ばないからといって嫌いな作品の筈も無いのですが。

 

では。

 


 

戦国コレクション COLLECTION-8

『Regent Girl』

脚本:金澤慎太郎 絵コンテ:柴田勝紀 演出:金子伸吾

 

たった一話あればアニメはなんでも出来る、と表明してのけた、異色のパロディオムニバスアニメ『戦国コレクション』の中でも、最大のインパクトを誇るお米の国の秀吉。

異世界から現代日本に迷い込んだ戦国武将・豊臣秀吉(♀)はお米が大好き。ある日、豊作祈願の舞を踊った山頂からおむすびを落としてしまう。おむすびを追いかけ穴に落っこちた秀吉は、米粒たちの暮らす不思議な世界に迷い込む。

転がるおむすびのように止まらず変転し続けるシュールな世界と、虚実を巡る禅問答が可愛いらしく綴られる。

奇異であることをさも奇異であると見せびらかしがちな深夜アニメの世界にあって、キッズアニメカートゥーンのように肩肘張らず、ただ気楽に奇異であることを満喫し、視聴者を異世界に誘ってくれる一篇。秀吉の飄々としたキャラが本話数の「自由さの強度」に一役買っている。

数々のパロディやダジャレでおふざけを装いながら、実は単に煙に巻く会話と突拍子も無い物語が展開している訳ではなく、「なぜ私達はフィクションを創り、フィクションを享受するのか」という究極の命題に向き合ってキチンと回答を示した誠実な30分。一言も無駄が無い。また、フィクション論であることによってオムニバス風の本作品全体を通したテーマ性をも語り得ている。

脚本の金澤はライトノベル作家水城正太郎の別名義で、やはり本作同様お米大好きなヒロインが登場し何重にもメタでニヒリスティックで抽象的な物語『いちばんうしろの大魔王』を執筆している。十数巻に及んで執筆した自作長編の要素をわずか30分に凝縮してみせた、謀らずか謀ってか氏の代表作とも呼べる一話。

柴田勝紀繋がりで作画の柔らかさと世界の抽象度は『輪るピングドラム』にも通じ、または早過ぎた『ガールズ&パンツァー』とも呼べる一幕も。

 

 

 

パパの言うことを聞きなさい!  第9話

ちょっとマイウェイ

脚本:あみやまさはる 絵コンテ/演出:池端隆史

 

二児の親であるバツ2の男と結婚した姉。彼女自身も旦那との間に娘をもうけ、幸せな家庭生活を送っている。そんな状況に祝福と歯がゆさを抱いていた大学生・祐太だったが、ある日、姉夫妻を乗せた飛行機が墜落して2人は死亡する。やはり幼くして両親を亡くし姉に育てられていた祐太は、遺された三姉妹がバラバラになることを恐れ、保護者として八王子の狭いアパートに3人を引き取る決意をするのだが、学生生活とバイトと子育てとで日々は多忙を極め---

ロリコン向けサービスショット満載で美少女お色気コメディの体裁を繕ってはいるけれど、とても不思議なバランスを保った『パパ聞き!』は、誰もが誰かのために無理をしながら、ギリギリのバランスで笑顔を保つ「作られた家族」の危うい幸福を肯定している。

そもそも三姉妹の母親がそれぞれ異なるため、祐太が介入しなくてもこの家族には元々つきまとっていたその「それぞれの無理」が根底にしかれており、この第9話では、本編中もっともスポットの当たることのない、いつも平然として家族のドタバタを見守り、だからこそその無理は人知れぬものがある次女・美羽(みう)の日常が描かれる。

姉の空と共に毎朝ダッシュで通学電車に乗り込む姿から始まり、小学校でもおすましをして自分を取り繕っている美羽の見栄(本編中、彼女が素の自分をさらけ出せる環境はどこにも無いのだ)も、満員電車で踏まれた靴の「汚れ」によってその背伸びを周囲に露見してしまう。

『パパ聞き!』は、基本的に登場人物が全力で意識的に「ドラマを起こさない 」ことを描いたドラマである(各話のタイトルが往年の連続ドラマから来ている皮肉がスパイス)。大きな展開は4人が同居を決める最初の3話で終わっており、そこから先は、それぞれの我慢によってここに残された幸せを守り切る、そう決めた子供たちの日常モノと化す。

だから、家庭でも学校でも無理をしている美羽が、よくあるシナリオのお約束通り感情を爆発させることはない。代わりにここに現れるのは、祐太の大学のサークル仲間である遊び人の男・仁村だ。

美羽は自分が仁村に同情されている事を知っている。仁村は美羽が背伸びしている事を知っている。だけど、互いにとぼけたフリして一日だけの恋人ごっこを行う。

美羽は自分の家庭の一歩外側で、祐太の友人がこうして見守ってくれていることを知る。私の無理も、きっと特別なことではないと。この一日を経たからといって、美羽の小学生にのしかかるにはあまりに重たい日々の苦労は今後も軽減することはないだろう。それでもあの家に帰ると決めた。

仁村とデートした池袋サンシャインシティーの屋上から、かつて過ごした家も今の家も同じ空の下にあることを目にして、美羽は今の日常を「選んだ」自分を再確認する。

怒鳴ったり泣きじゃくるばかりがドラマじゃない。怒鳴らないことで、泣きじゃくらないことで、こうして続いていく通奏低音のようなドラマがこの空の下には溢れている。脇役が脇役として日常に留まるために過ごしたささやかなひととき。そこに30分費やされる贅沢。

制作会社feel.の、わけても及川啓が係わるアニメの「夕焼け空」がいかに淡くて儚くて美しい空気を創り出すかは、『アウトブレイク・カンパニー』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』『この美術部には問題がある!』を見ればわかる通り。助監督として参加した本作でもそのマジックアワーの効果は最大限に発揮されている。

逝去された松智洋先生への追悼の意も込めて。

 

 

 

異能バトルは日常系のなかで 第7話

『覚醒』ジャガーノート・オン

脚本:樋口七海 絵コンテ:望月智允 演出:宮島善博

 

所謂ザ☆「声優の本気」として早見沙織の長台詞が有名な回。

以下、一部抜粋。

実際にはもっと長く、一息にまくしたてる。

 

わかんない...わっかんないよ
寿(じゅー)くんの言ってる事は一つも分かんない

ブラッティって何がカッコいいの?

血なんてイヤだよ痛いだけだよ

罪深いってなんなの?

罪がある事の何がいいの犯罪者がカッコいいの?

正義と悪だとなんで悪がいいの?

何で悪いほうがいいの、悪いから悪なんじゃないの!?

右腕がうずくと何でカッコいいの?

『自分の力が制御できない感じがたまらない』って何それただのマヌケな人じゃん!

ちゃんと制御できるほうがカッコいいよ立派だよ!

普段は力を隠していると何が凄いの?

そんなのタダの手抜きだよ、

隠したりしないで全力で取り組む人の方がカッコいいよ!

どうして二つ名とか異名とか色々つけるの?

いっぱい呼び名があったって分かりにくいだけじゃん

英語でも何でもカタカナつけないでよ覚えられないんだよ!

ギリシャ神話とか聖書とか北欧神話とか日本神話とか

ちょっと調べたくらいでそういう話しないでよ!

内容もちゃんと教えてくれなきゃ意味がわかんないよ

教えるならちゃんと教えてよ!

相対性理論とかシュレディンガーの猫とか万有引力とか

ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ

中途半端に説明されてもちっとも分からないんだよ!

ニーチェとかゲーテの言葉引用しないでよ

知らない人の言葉使われても何が言いたいのか全然わかんないんだよ

自分の言葉で語ってよ!

お願いだから私が分かる事話してよ

中二ってなんなの中二ってどういうことなの

わかんないわかんないわかんないわかんないわかんなーい!

寿くんの言う事は昔から何一つこれっぽっちもっ 分かんないんだよっ!

 

勘違いして欲しくないのだけれど、ここまで切羽詰まって彼女=早見演じる鳩子が繰り広げているのは「中二病ラノベのテンプレート批判」ではなく、早見沙織の演技が素晴らしいのはこの長台詞を情感を欠かすことなく叫びきる技術力の高さによるものでもない。

鳩子自身も認識出来ていない彼女の本音を、ここに至るまでの丁寧な段取りと、この芝居場でのアニメーションと早見の演技と長い長い台詞が相俟って表現しているから。

それはただ一言、「私を見て」と。

 

中二病の少年・安藤寿来と彼を囲う少女たち文芸部一同の身に、ある日、本物の異能力が宿ってしまう。かと言って戦うべき相手が現れる訳ではなく、たまに異能力を使うだけの日常モノが続いていくのが本作の概要。

ここで実際に主人公・安藤を取り巻いているのは彼が好きな異能バトルではなく、彼にとっては興味の範疇外である美少女ハーレム。美少女ハーレムでいつだって割を食うのは、主人公と過ごした時間が長い分だけ、その焦りにより強い痛みが宿る幼なじみキャラで、そして鳩子はこの物語の幼なじみポジションに当たる。

オタク趣味を持ち合わせていない鳩子は安藤の中二病トークに加われないのだが、この日は久しぶりに安藤の家で夕食を作ることになった。家事という得意技でなら、自分は安藤の日常に寄り添える。

なのに、せっかく安藤家にお邪魔して台所で得意の肉じゃがを作っていても、安藤が気にしているのは部活仲間の灯代のことばかり。それには安藤なりの理由があるのだが、鳩子から見れば灯代はライトノベル志望作家。つまり、安藤とオタク趣味を共有できる女の子。

せめて灯代とどんなやりとりをしているのかやんわり聞き出そうとした鳩子に安藤から返ってきた言葉、

「どうせお前にはわかんねえだろ」。

肉じゃがを作る鳩子の手から、こぼれ落ちるお玉。

そしてあの長台詞が爆発する。

カメラもキャラもパースも動かしまくるTRIGGER制作でありながら、本話数の絵コンテは『絶対少年』を「フィックスだけでやりきってみたかった」などと語る志向の持ち主・望月智充

作画に潜在する躍動をショットが抑制してしまう本作全体に宿る不完全燃焼感がこの話数に限ってはプラスに働き、鳩子の中に沸々と溜まり続けるフラストレーションの顕在化に繋がっていく。

AパートとBパートの冒頭でそれぞれ「かつて鳩子が非常ベルを押してしまって学校にパニックを起こし泣きじゃくっていたら、安藤が助けにきてくれた」過去が繰り返されるが、Aでは鳩子の視点、Bでは安藤の視点で綴られる。鳩子にとっては長年の想いの蓄積の上にのしかかった「お前にはわからない」であったが、Aパートの終わりで鳩子の爆発を食らった安藤にとっては、Bパートで過去を振り返るまで、ただその場しのぎのなんでもない一言でしかなかった、ありふれた齟齬であったと示される。

このBパートで、鳩子を見失ってしまった安藤は友人の相模、そして逃げ出してしまった鳩子は桐生という不思議な青年と出会う。実はこの物語、非日常世界での異能バトルは実際に起こっていて、ただ肝心の主人公たちだけがそれに気づいていないというトリッキーな世界観の上に成り立っていたことがシリーズ後半で「視聴者にだけ」明かされていくのだが、その「異能バトルを非日常系で」展開している事を実は知っていたのが相模で、そしてむしろ異能バトル物の真の主人公とも言える中心人物が桐生なのだ。日常モノのテンプレートを一時期だけとはいえ破壊してしまった鳩子と安藤が、それぞれ日常の裏にひそむ非日常に一瞬の邂逅を見せる。相模は安藤と鳩子の関係性(つまりテンプレ「幼なじみ」設定)の不自然さを説き、桐生は鳩子が否定した「中二病テンプレートのWHY?」に対する回答を語る。桐生の語るそれは、イコール鳩子が本当に否定したかった「ハーレム物テンプレートのWHY?」への回答、つまり自分の本心へ至る回答にもなっているという、原作の功績も大きいのだろうが巧すぎる脚本。

人の幸せ。それは、『選ばれる』ことだ。

人は誰にでもなりたいんだよ、『選ばれる者』にな。

物語の中心にあるこのエピソードこそが、日常と非日常が反転しそうでしない本作における、何か決定的な亀裂が入りそうで入らないギリギリのスリルを見せた真のクライマックスだった。

 

 

 

神のみぞ知るセカイⅡ FLAG.7.0

『Singing in the Rain』

脚本:倉田英之 絵コンテ:出合小都美 演出:駒屋健一郎

 

傑作マンガのアニメ化としては決して成功したとは言いがたい作品。しかし原作が傑作となるにあたって本話数がフィードバックしていることもまた事実であろう、理想的な原作とそのアニメとの結節点。

現実の少女たちを自身の得意なギャルゲーの攻略ヒロインに見立てて、そのバロメーターを見極め自らとの恋に「落とす」ことで、少女たちの体に逃げ込んだ旧世界の悪魔を追い払う役目を負うことになった「リアルなんてクソゲーだ」が信条の孤高のオタク・桂木桂馬

彼を戸惑わせる最大のヒロインが「小阪ちひろ」で、当該エピソードはちひろ編の最終話にあたる。

今までは明確な悩みを抱えたヒロインの問題を颯爽と解決することでヒロインの心を解き放ってやればよかったし、桂馬自身が王子様役となることでヒロインを恋に落とすことも簡単だった。しかし、このちひろは何に悩んでいるのかもわからない。しかも次から次へと別の男に目移りして、ヒロインらしい矜持を守ってくれない。

仕方なく桂馬はちひろを落とすのではなく、ちひろが今片思いしている男を落とす為の攻略法を探る方向に切り替えるが、ちひろはその男にさえ真剣にならず桂馬の話を笑って聞き流す。ヒロインは純情であるべきだという固定観念に縛られた桂馬の苛立ちは募っていく。

アニメ版は渡辺明夫によるいかにもヒロインめいた目の大きなキャラデが最大の失敗を見せてしまってはいるが、原作におけるちひろはいかにも「モブ生徒」然としたキャラクターとして早々に登場しており、そんなモブ少女が最終的に主人公と対比される最大のヒロインと化していく過程が全体の中で大きな柱となっている。

ありきたりで、ドラマもバロメーターもなくて、一途ですらない少女。

本話数Aパートでは、そんなちひろの登校風景が彼女の鼻歌と共にゆったりと綴られる。雨上がりの街。絶えず水たまりや曇り空が映り込むクリアではない景色の中、不要となった傘をもてあそんでうろつく少女。明確なドラマと出会えない、あてどない日常を生きるありふれた人。この時彼女が口ずさんでいる曲「初めて恋をした記憶」がこののち、原作でも最大の意味を持つ。

そのフィードバック部分が映像化されるまでには第3期の痛切な最終回を待たなくてはならないのだが、アニメは1期、2期で各ヒロインを丁寧に描きすぎたために原作の展開を追うことが出来ず、3期の冒頭で物語の大部分を完全にダイジェストとして省略してしまっている点からやはりアニメ化成功とは言いがたい。

言いがたいが、失策の数々に敢えて目をつむるとすれば、やはりアニメ化が意味を持ったとすれば本話数なのだ。

他の話数ではテンポの悪さや、原作の絵的な魅力を汲めていないのにパロディ要素だけはやけに踏襲する監督のセンスの無さが目について多少いらつきも覚えるのだが、アニメ版の間延びした作りがこの「雨上がりの街をただうろつくちひろ」という、何も起こらないのに全てが描かれる贅沢なシーンを生み出したのもまた確か。勿論、倉田脚本は確信犯で狙ってのことだろう。

「リアルなどクソゲー」を信条とする桂馬に対し、ヒロイン側の少女たちは誰もみな最後には「リアルを生きる」覚悟を決めていく、思えば今までの『神のみ』とはそんな話であったことを、このちひろ編を通じて桂馬も、そして視聴者も気づく。その強さの象徴として、冴えない街で傘をもてあますちひろの描写はある。

ちひろこそが誰よりも悩んでいたと桂馬は気づくが、それは実際にちひろが他のヒロインより深く悩んでいるということではない。ただ、桂馬にとって初めてリアルに共感しうる悩みだったのだ(その回答は続く「長瀬純」編で示される)。

ゴールすることも、クリアすることも出来ない、茫漠とした日常を生きるということ。

宙ぶらりんな世界で、虚空に傘を振り回すこと。

リアルはクソゲーだ。しかし、無意味な理想を手放す訳にはいかない。

存在しないゴールに向かって、バロメーターに目を凝らし続けろ。

二人にとって今後重要な意味を持つ、港に停泊した遊覧船の上で桂馬は改めてちひろを恋に落としにかかる。甲板の高低差を使った二人の立ち位置。ちひろの傘の使い方。ごく自然で作為を感じさせないが、男女の距離感を映像としてスリリングに伝える出合コンテの絶妙な手腕を堪能する上でも最高の一話。

 

 

みなみけ おかわり 4杯目

『片付けちゃっていいですか?』

 脚本:鈴木雅詞 絵コンテ:細田直人 演出:雄谷将仁

 

 両親不在、三姉妹だけで楽しく暮らす長女・ハルカ、次女・カナ、三女・チアキの三姉妹。彼女たちと、それぞれ通う高校・中学・小学校の仲間たちとの、楽しくドタバタ過ごす日々―――

人気シリーズ『みなみけ』の第2期。実際には2つのアニメスタジオに同時に1期ずつ作らせるという試験的な企画だったのだが、後に日常モノの雄となる太田雅彦監督がスタジオ・童夢で作り上げた1期が大人気を獲得した為に、ヒット作『SHUFFLE!』のシュールな画風を引きずった細田直人監督×スタジオ・アスリードによる2期は厳しい評価に晒されてしまった、、、と、聞く。後追いでまとめて見たので、放映時の空気は知らない。

ちょうどアニメを見始めた頃の自分にとっては、おそらく初めて触れた日常モノが『みなみけ』シリーズだったので、そうした問題にはまったく気づかず、なんなら今見れば露骨な作画の違い(なにせ、メインとなる南家の外観さえ違う)すらわからないで見ていた。

それより新鮮だったのが、1期では全編明るくライトで照らされているような、コメディとして割り切って見れる表層的な世界だったものが、冬の陰鬱な空気を全面に取り込んだこの2期では、一気に南家の生活がリアルに近いものへと転じたことだ。ショーウィンドウ越しのユートピアが、隣人の生活をのぞき見るようにグッと距離感を縮めてきた。

2期オリジナルキャラクターで、たしかに笑いには一切還元しないし、コメディ世界にひたすら泥を塗るような陰気な少年フユキの存在はしかし、2期を叩く視聴者たちの中にすら、自然と南家を「モニターの向こう側」の存在から「気になる隣人」へと変化させるのに一役買ったのではないかと思う。フユキへのヘイトの分まで、南家の「生活」への愛着度はより増したろう。

あえて断言すれば、みなみけシリーズの長寿化最大の功労者は、フユキであった。異論は認める。

皮膚感覚レベルでの天候や気温とは無縁に思えた1期の世界に対して、2期は絶えず街の気温をひしと肌で感じながらキャラクターたちが生きている。停電の日の雪合戦を描いた第6話の方が2期のテーマ的にもより重大なのだが、個人的に今でも忘れられないのがこの4話目。

普段は温厚で理想的な母性を持った長女・ハルカが、本話数の冒頭では単純にガミガミした母親同然に妹2人を叱り、隣りのフユキ君を見習いなさいと南家総出の町内清掃参加を決めてしまう。これにそれぞれの友人たちも巻き込まれて、真冬の早朝で寒さに凍えながら町のゴミを清掃するという、世にも地味な30分が展開する。

クライマックスは「川辺に不法投棄されていた、錆びて汚れた重たい冷蔵庫を開けるか否か」だ。なんだそれ。手はかじかんでいるだろう。こめかみのあたりもそろそろ寒さで痛くなってそう。うんざりだし疲れているから帰りたいのに、まだみんな残っているから帰るに帰れない。

もしかしたら何か面白いことが、まだ起こるかも知れない。

日常モノ」というフレーズから外されていた本来の「私たちの日常」が、その嫌になる作業の中にあった。

 

どのアニメにも出てくる決まり切ったイベントじゃない。

張り切って夕食を作っている最中につい怒りが溜まって温かい晩餐を台無しにしてしまうこと。

疲弊した学校帰りに商業施設に寄り道して屋上から街を眺めること。

雨上がりの街で目的もなく傘をもてあますこと。

冬の朝早く、町内清掃にかり出されてうんざりすること。

私が見たい「日常モノ」は、そんな「とても地味で、けれど他のアニメや他のキャラクターでは代えの効かない時間」を描いてくれるものなのだ。

と。

好きなエピソードを選ぶ内に、そしてここまで書く内に、ふと気がついた。

  


 

 以上です。久しぶりのブログ執筆でまるで筆が進まず、書いても書いても読めたものじゃなかったり、どうにもただ重大なネタバレをしているだけになってしまったりして、何度も書いたり消したりを繰り返す内に、当初選定していた10話とは1話もかぶらないこの5話が残りました。

ですが、こうして並べてみると成る程たしかに思い入れの強い5話だと気づかされるのです。

このような機会を与えて頂いたぎけんさんに感謝します。

長々と拙文にお付合い頂きありがとうございました。

 

『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(3)

 

   背景デジタル時計。一気に15時へ進む。

   歓声が聴こえる。

   照明点灯。

   テレビを見ている升野、川島、江田島

江田島「見てください、この中継先の盛り上がりっぷり」

升野「すげえ人集まってんじゃん」

江田島「20万人います」

升野「20万人?!、村の人口越えてませんか、それ」

江田島「もちろん、UFIさんあっての事なんですけどね。元々、地元の若者にも人気があって、毎年格別の賑わいを見せるんですよ、この村伝統の、呪い米祭りは」

升野「呪い?、祝う祭りじゃなくて、呪いなんですか?」

江田島「米もあんまり獲れすぎるとね、収穫が大変になっちゃうからね」

升野「そういう問題なんですか?」

川島「升野、この祭りは凄いらしいぞ、若い男女が裸になって、朝から晩までくんずほぐれつ踊りまくってな。日本一ふしだらな祭りと言われている」

升野「なんだって?」

川島「この日仕込まれた子供たちは、呪い米ベイビーと呼ばれなあ」

   飯塚、上手から登場。

   角田も仕切りの上から覗き見る。

川島「後々、恥ずかしい想いをするらしい」

江田島「かく言う私も、恥をかいた口です」

飯塚「なんだその祭り、しょうもない。(角田に)アンタも喰いついてないで曲作れよ。そんなふしだらなとこテレビじゃやんねえから」

   飯塚、仕切り板に蹴り。

角田「うわっ」

   角田、引っ込む。

升野「飯塚、こんなとこで何してんの」

川島「わざわざツッコミに戻って来てくれたのか」

飯塚「そんなヒマじゃねえわ。いや、実はねえ......」

江田島「呪い米祭りにUFIさんがやって来て、マラソン途中のゴリナさんも合流して、感動のライブ。これ盛り上がりますよ、めちゃくちゃ数字取れますね。じゃあ、よろしくお願いしますよ」

   江田島、上手からはける。

升野「飯塚はだって、UFIと中継先向かったんじゃないの?」

飯塚「いや、その筈だったんですけど」

川島「なんだおい、サボってんのか」

飯塚「いや違いますよ。僕らもUFIとは別の車両で中継先向かってたんですけど、こっちの車だけ急にエンストしちゃいまして」

升野「あれ?、これ飯塚ちゃん、もしかしてだけど」

飯塚「は?」

升野「飯塚ちゃん、またテレビに映りたくて戻ってきたんじゃないの?、もしかして」

飯塚「いや違いますよ」

升野「出たがるねえ、さっき気持ちよかった?、味しめちゃった?」

飯塚「気持ちよくないっすよ、別に」

升野「たしかに好評だったもんね、熱血ドロ人形先生」

   (飯塚の顔が泥みたいなので)

飯塚「誰がドロ人形先生だよ」

升野「終わった後も凄い懐かれてたじゃん、元ヤンカップルにさ。羨ましい限りですな」

飯塚「いい迷惑ですよ、こっちは。そんな呑気なこと言ってる場合じゃないっすよ。アイツらが犯人じゃなかったってだけで、脅迫状が誰かから送られてきてんのは事実なんですから」

川島「あんなもん、悪戯だろう」

升野「そうだよお前、『中止にしないと大変なことになる』って、ざっくりし過ぎなんだよ、脅し方がさ。こんなの構ってらんないよ。俺はもう生放送じゃない時間くらいゆっくりしたいんだよ」

川島「あのな、今やってる23時間スペシャルドラマ、結構面白いぞ。いいラブストーリーなんだけどな......凄いブスなんだよな」

飯塚「もっと危機感持ってくださいよ、万が一ってことがあるでしょう」

   あかり、スタジオから出てくる。

あかり「ちょっと飯塚さん、何サボってるんですか」

飯塚「だからサボってるんじゃないの。車が急にエンストしちゃったの」

あかり「UFIの身にも何があるかわからないじゃないですか。他の車ですぐ向かえばいいでしょ?」

飯塚「俺もそう思って戻ってきたんだけどさ、他の車全部パンクさせられててさ」

あかり「へ?、なんでですか」

升野「お前それ、さっきの元ヤンカップルが怒られた腹いせに仕返ししたんじゃねえの」

飯塚「おいっ、見た目で判断すんじゃねえ、アイツらは凄いいい奴らなんだよっ」

升野「ドロパチ先生」

川島「しかし、タチの悪い悪戯する奴がいるんだな」

あかり「でも、ちょっと待ってください。流石にこれっておかしくないですか?、同一犯の犯行ですよ」

川島「んなわけないだろ」

   スタジオから、大きなパネルを手に充希が出てくる。

あかり「つまり、飯塚さんの車も途中でエンストするように仕組まれていた。だから、飯塚さんをその車に乗るよう仕組んだ人間、その人間が、すべての黒幕ですよ」

   充希、パネルで顔を隠す。

あかり「見つけだしたら、ボッコボコにして、警察に突き出してやります」

   パネルの下で充希の足が震えている。

充希「あかりん、それ私なんだけど」

飯塚「すげー怯えてんじゃん」

升野「局の人間が自分たちの番組妨害するわけないだろう」

   充希、パネルを置く。

充希「あの、これドラマの感想をパネルにしたんですけど、ここ置いておきますね」

あかり「見損なったわ、ミッキー」

飯塚「え、まだ疑ってんだ。いつからそんな険悪になってんの?」

   あかり、急に笑顔。

あかり「まあ今のは冗談ですけど」

飯塚「ホント笑えないぞ」

あかり「でも、おかしくないですか?」

川島「あかりが考え過ぎなんですよ」

   スーツ姿の豊本、上手から現れる。

豊本「いや、あかりの言う事にも一理ある」

飯塚「豊本探偵事務所」

升野「なんだ?、探偵事務所って」

豊本「おい初めて聞いたみたいな感じだすなよ。俺の探偵設定覚えてないのか?」

升野「設定ってなんだよ」

飯塚「いいから気を取り直して、話してみろ」

豊本「......ドロパチ先生」

飯塚「やめろっ」

豊本「いいか考えてみろ。この23時間テレビには最初からトラブルが多過ぎた」

升野「確かにそうだな、スタッフ全員食中毒、県会議員は来ない、相撲のチャンピオンも来ない、書道の達人も来ない、幸せカップルも来ない、中継先に向かう車はエンストにパンク」

あかり「それに、あの誘拐犯ですよっ」

   あかり、パニック。

飯塚(川島に)「そろそろ本当のこと言ったほうがいいんじゃないですか?」

川島「そんなこと言ったら殺されちまうよ」

豊本「とにかく、これは明らかに何者かに仕組まれた陰謀だっ」

升野「どういうことだよ、どういうことだよ探偵さんよっ」

豊本「設定思い出したか」

升野「もしかしたら、また新たに脅迫状が届いてるかも知れない。おいあかり、今から角田のところ行って、届いてる脅迫状全部持ってきて」

あかり(嫌そう)「角田さんのところに?」

升野「スッと行けよ、そこは」

充希「私が見てきましょうか?」

あかり「私が行きます」

升野「どっちでもいいわ、行けよ早く」

   ギター弾き鳴らし角田が出てくる。

角田「♪ お前ら俺をちっとも認めちゃくれねえ

    何を言っても聞く耳持たねえ 」

   みんなが引いて角田から離れるので、

   ステージ前方が角田オンステージ。

角田「♪ 俺の怒りの爆弾で 

    お前ら木端微塵に 吹き飛ばしてやる

    俺の怒りの爆弾で 

    お前ら跡形もなく 消し去ってやる 」

飯塚「ちょっと角田さん、そんなネガティブな歌唄ってる場合じゃ」

角田「♪ 犯人より 」

飯塚「ええーっ?」

角田「また来てたぜ、脅迫状」

   角田、懐からFAXを取り出す。

升野(受け取り)「爆弾?!」

飯塚(受け取り)「これもう、立派な殺害予告じゃないですか」

豊本「なるほど、そういうことか」

川島「なんだ?、どういうことなんだ」

豊本「奴の目的は、番組の妨害なんかじゃない。犯人の目的は、UFIだったんだ」

川島「そこまでわかっていたとは。さては」

   川島、豊本の胸倉を掴む。あかりも詰め寄る。

川島「テメエが犯人かこの野郎っ」

豊本「推理、推理したの」

川島「そうか」

   川島、手を放す。また胸倉を掴む。

川島「なぜお前に推理が出来るっ」

豊本「探偵、探偵だから。落ち着いて」

川島「そうか」

   川島、手を放す。

豊本「思い返してもみろ、結果的には番組は盛り上がってはいるものの、ゴリナのマラソンスタートからさっきの下ネタトークまで、UFIのメンバーは恥をかかされっぱなし。犯人の目的は、UFIなんだ」

川島「言いたいことはそれだけかっ」

   川島、豊本を殴る。

豊本「なぜ殴るっ」

あかり「うわあっ」

   あかり、便乗して豊本をタコ殴り。

豊本「痛ってっ、ちょ、やめてっ」

飯塚「もう引っ込みがつかないんだろうね」

升野「とりあえず、早くライブ中止にしないと大変なことになるぞ」

あかり「あ、私ももりんに連絡しますね」

   あかり、ダッシュで上手へはける。

豊本「俺も、他に手がないか考えてみる」

   豊本、追って上手へはける。

川島「しかし、だ。今さら中止だなんて、江田島社長になんて言えばいいのか」

升野「それもそうだな。それに、ライブ中継予定していた時間帯、番組はどうやって繋ぐんだ?」

角田「今の歌の続きで良かったら、後30分は続けられるぜ?、あの歌にはな、まだ続きがあるんだよ。♪ だけど 」

飯塚(止める)「もういいから。フィナーレの曲作ってくださいよ」

角田「OK、完成させとくよ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

飯塚「もう、そういうのは後で考えましょう。とりあえずこのことは、江田島社長には内緒......」

   スタジオから充希が出て来ていた。固まる空気。

升野「お前、黙っていてくれるよな」

充希「私は、皆さんの指示に従うだけです。それに、この番組が終わるまで、私は皆さんの仲間ですから」

升野「よく言ってくれた」

充希「ふふふ」

あかり(感じ悪く)「『皆さん』?、誰か一人に向かって言ってない?」

飯塚「もういいから、そういうの。あかりちゃん早くUFIに連絡して」

   あかり、充希を睨み、舌打ち。

飯塚「早くっ」

   あかり、飯塚を睨み、上手へはける。

飯塚「なんて可愛げのない目をするんだ」

充希「あ、升野さん言い忘れてたんですけど、今やってるドラマが巻いてて、あと5分くらいで終わります」

升野「はっ?、(腕時計見て)お前それいつの時点で5分前なんだよ」

充希「(腕時計見て)えっと、5分前くらいの時点で5分前ですね」

升野「5分前くらいの時点で5分前。今じゃねえかお前よっ、ふざけんな。え?、今ってことでしょ」

充希(即答)「そうです」

升野「そうですじゃねえよ。お前、本当使えねえなチンカスADがよ。鼻くそADこの野郎。ちょっとありったけのシーンぶち込んでくるっ、チンカスADがよっ」

   升野、文句垂れながらスタジオへ。

充希「......」

飯塚「凹むなお前はっ、チンカスくらいで。しっかし、誰がいったい何のためにこんな物を」

   飯塚、会議机の脅迫文を手に取る。

川島「心当たりなら、ある」

飯塚「社長、本当ですか?」

川島「ああ。これはおそらく、事務所の人間とUFI、それぞれに怨みのある人間の犯行だろう。すまない」

   川島、頭を下げる。

飯塚「社長、何があったんですか」

川島「ああ。ゴリナのキャバクラでな、すげえダサいスーツを着てた客を笑い物にしてしまったんだ」

飯塚「そいつじゃねえわ多分」

川島「本当かいっ?」

飯塚「絶対違うわ」

川島「良かったー」

飯塚「なんでソイツだと思ったんだよ」

川島「いやダサいスーツでさ、ピンクにこう水玉で、あ、写メ撮ったんだ」

   川島、携帯を取り出す。

飯塚「いいよ」

川島「充希ちゃんも見る?、ホラ」

   川島、充希に携帯画面を見せる。

飯塚「いいよ、見せなくて」

川島「それからね、升野が君のことチンカスとか言ってたけど、気にすることないよ。これが本当のチンカスだから」

   川島、次の画面を充希に見せる。

   充希、笑いをこらえてパニック。

飯塚「やかましいわっ」

充希「あーっ」

   充希、走って上手からはける。

飯塚「そら泣くわ」

   入れ違いにあかりが戻ってくる。

あかり(喜色)「へへへっ」

   あかり、嬉しそうに飯塚にすり寄る。

あかり「なんで?、なんでミッキー泣いてんのっ?」

飯塚「お前性格悪いなあ、もう仲直りして」

   升野、スタジオから戻ってくる。

升野「あかりUFIどうだった?」

あかり「それが、連絡してみたんですけど」

飯塚「まさか、田舎過ぎて圏外で繋がらないとか?」

あかり「繋がりました。繋がったんですけど、UFIのみんな、ライブ中止にしたくないって言ってます」

川島「何?」

あかり「自分たちをひと目見る為に、20万もの人が集まってくれたんだよって。それに、普段は遠くて見に来れない小さい子もいっぱいいるし」

飯塚「そりゃそうかも知れないけど」

川島「あかり、UFIのみんなに伝えてくれ」

飯塚「社長」

川島「その子供たちのほとんどは、呪い米ベイビーと呼ばれる......」

飯塚「伝えなくていいよっ、なんで伝えようとしたそんなことを」

川島「いや、命のかけがえの無さとか、そういうことを」

飯塚「じゃ、そこだけスッと言って」

川島「とっつきやすい入口で説明したんだよ」

飯塚「説明しづらいんですよ、逆に」

あかり「え、それってどういう経緯で呪い米ベイビーって」

飯塚「とっついてんじゃねえよ、お前も」

   升野、腰をかがめてティッシュの元へ。

飯塚「反応すんな、お前もっ」

   角田、仕切り板の上から顔を覗かせてティッシュに手を伸ばす。

飯塚「ティッシュを取るなっ、お前もっ」

   角田、そっと顔を引っ込める。

川島「とにかく、UFIの説得をなんとかしなくちゃ」

飯塚「そうですよ、こんな状態でライブなんて危険過ぎますよ」

升野「なんとかするったってどうするんだよ、ドラマもとっくに終わって、早く生放送再開しないとヤバいんだぞ。UFIスタジオにいないし、どうやって番組繋ぐんだよ」

あかり「あ、これ」

   あかり、パネルを抱える。

あかり「さっきミッキーが置いてった、ドラマの感想FAX。これ紹介すればいいんじゃないですか?」

川島「いいじゃないか、ベタだし。これくらいだったら誰だって出来るもんな」

升野「よし、それにしよう。で、誰が行こう?」

   升野、ひとしきり見回し、

升野「ドロぱっつぁん」

飯塚「嫌だよ、行かないよ」

升野「ここはドロぱっつぁんですよ」

飯塚「『ドロパチ』ありきじゃねえか、『ドロぱっつぁん』は」

升野「3年ドロ組ドロぱっつぁん」

飯塚「やかましいわ。嫌ですよ、升野さん行ってくださいよ」

升野「なんで俺が行かないといけないんだよ」

飯塚「羨ましい限りなんでしょ?」

升野「は?」

飯塚「目立ちたかったんでしょ?」

升野「は?、別にそんなことないし」

飯塚「出ればいいじゃないですか」

あかり「そうですよ、調子に乗ってテレビとかいっぱい出てたじゃないですか」

升野「は?、調子乗ってねえじゃん」

飯塚「調子乗って」

あかり「調子乗ってっ」

升野「俺カンペ出すので精いっぱい」

飯塚「時間ないから」

升野「お前行きたいんだろ?、お前が行って来いよっ」

あかり「(叫ぶ)いいからっ、早く行ってください」

升野「なんだよ、ふざけんなよお前よ」

あかり「いいから、早く、早く」

   升野、あかりに背中押されて、パネルを手にスタジオへ向かう。

升野「なんで俺が行かなきゃいけないんだよ」

   2人、スタジオの中に入る。

飯塚「まあまあスッと行くじゃねえか」

   升野、あかりを押しのけて戻ってくる。

升野「スッとってなんだよっ」

   予想外の事態に動揺する飯塚の前にパネルを投げ捨てる。

升野「じゃ、行かねえよ」

あかり「ちょっ」

   あかりも慌てて戻ってくる。

   升野、パイプ椅子に座る。

飯塚(笑)「何してんすか」

升野「お前行けよ」

飯塚「違うって、行けって、もう」

升野「無理やりだろうが、今の」

あかり「行きましょう?」

   飯塚、笑いながら升野を立たせる。

升野「ふざけんな」

飯塚「わかった、ごめんて」

あかり「行こう、行こう」

   飯塚がパネルを渡し、あかりが再び升野の背中をスタジオへ押す。

升野「スッとなんか行ってねえから、無理やりだかんな。別に出たくねえから、いやいやだから」

飯塚(笑)「わかったから」

升野「ふざけんな、マジで」

   2人、再びスタジオの中へ入る。

飯塚「結局行くんじゃねえかよ」

   升野、ダッシュで戻ってきてパネルを投げ捨てる。

   追って慌てたあかりも戻ってくる。

あかり「あーっ」

   飯塚、笑いを堪えきれない。

升野「いやいやいや、やだやだやだっ」

あかり「升野っ」

   飯塚が笑って止めるも、升野は再び椅子に戻ってしまう。

飯塚「うそ、ごめん」

升野「行かねえよ、行かねえもん」

川島「よーしわかった」

   川島が決め顔で前に出てくる。

川島「俺が行こう」

   驚くあかりと飯塚、スタジオへ向かう川島を慌てて止める。

飯塚「いいから」

あかり「違うっ」

川島「俺も混ぜろーっ」

飯塚「混ぜろってなんですか」

升野「こんなんで行けるかっ」

飯塚「ちょ、升野さん」

升野「こんなんで行けるかよっ」

   あかり、パネルを手に升野の背を押す。

飯塚「大丈夫だから」

升野「めっちゃハズいじゃん俺」

あかり「いいから、いいから」

飯塚「社長に火が点いてるからあーっ」

   今度は流石の升野も吹いて笑う。

升野「なんだよ」

飯塚「やーだー」

あかり「行くよ、早く」

升野「ふざけんなよ」

   あかりと升野、スタジオへ入る。

飯塚「もおー」

   飯塚が息切れしていると、

   アドリブ合戦に参加し損ねた角田が仕切り板から出てくる。

角田「なあFAXまだ届いてねえのかよー」

   飯塚、笑い疲れている。

飯塚「知らねえよお」

角田「なんだよ、まだなのかよ」

飯塚「もういいよー、なんでもよ」

角田「いいとか言ってんじゃないよ......楽しそうでいいよなあっ」

   飯塚、笑って膝から崩れる。

   角田、仕切り板の向こうへ。

   飯塚、なんとか立ち上がって会議机へ。

飯塚「もうテレビテレビ」

   飯塚、テレビを点ける。

   モニターチェック。

   あかり、スタジオから戻ってくる。

   2階の通路。パネルを手に升野が出てくる。スネて挙動不審。

升野「んっと、この時間は、視聴者から寄せられたドラマの感想を、ご紹介したいと思います」

飯塚「何ちょっといきがってんだよアイツ」

升野「別に俺、出たくて出てるわけじゃねえし」

飯塚「言わなくていいよ」

升野「飯塚がすげえ言ってくっから」

飯塚「テレビで飯塚とか言うな、素人かお前」

升野「仕方がなくドラマの感想をご紹介したいと思います。まずはこちら」

   升野、パネルを見やり、

升野「ん?」

飯塚「なになに?、固まってますけど」

升野「まずは」

   升野、パネルをめくる。

   犬耳の生えたケンシロウのような男のマンガ絵。

川島「おいおい、あんなのドラマに出てなかったぞ、誰の似顔絵だ、あれ」

あかり「あれ、『地獄大戦ヘルマゲドン』の主人公、ケルベロス鈴木です」

飯塚「あかりちゃんのマンガ?、なんであそこに?」

あかり「間違えて、ミッキーがコピーしちゃったんじゃ」

飯塚「アイツどこまで使えないんだよ」

升野「......ま、こういう感想が来ています」

飯塚「これはしんどいぞー、升野さんもうちょっと頑張って」

   飯塚、テレビを消す。

   照明点灯。

   上手から豊本が現れる。

豊本「おーい、みんな朗報だ。爆弾処理のスペシャリスト、豊本16号が現場に間に合いそうだ」

川島「16号ってあれか、エイリアンって発音がやけに良いアイツか」

豊本「ああ。彼女が中継先の米狩り村出身てことがわかった。しかも今奇跡的に里帰り中で、すぐ現場に到着する」

飯塚「今から探して間に合うのかよ」

川島「各々が出来る事をやろう。時間は升野がどうにかしてくれてるんだ。とにかく、UFIを説得する」

飯塚「はい」

   上手から江田島が現れる。

江田島「ちょっと川島さん、一体どうなってるんですか、いつになったら中継始まるんですか」

川島「これにはわけがあるんですよ」

江田島「困るんですよ、ラ・テ欄通りに進行してもらわないと。でもね、今やってるコーナーちょっと面白いんだよなぁ」

飯塚「今やってるやつが?」

江田島「ふふふ」

   飯塚、テレビを点ける。

   モニターチェック。

   スタジオで升野がパネル芸。

升野「さあ、じゃんじゃん紹介します。まずはですね、こちらなんですけども、ドラマを見てたら興奮して頭に血が上って、こんなんなっちゃいました」

   パネルをめくる。頭が破裂した男の絵。

飯塚「無理やりじゃん」

川島「なんだ、化け物紹介してるだけじゃねえかよ」

あかり「化け物じゃありません。あれは毎回最初に出てきてすぐ死んじゃう、デッド塩谷です」

升野「はい、続いてなんですけども、こちらをご覧ください」

   升野、次のパネルを見せる。

   青い化け物の妖怪。

あかり「あれは魔性の美女、メデューサ風間」

升野「ドラマをジーッと見てたら固まって、こんなんなっちゃいました」

豊本「上手いな」

飯塚「なんか上手いことドラマの感想っぽくなってますけど」

江田島「ふふふ。ほどほどにして、先へ進めてくださいよ?」

   江田島、上手へはける。

   照明点灯。

川島「よし、流石だ升野。とりあえず早くUFIのライブを中止にしよう」

   慌てて江田島が戻ってくる。

江田島「はあ?」

飯塚「なんで言っちゃうんすか」

江田島「どういう事ですか、ライブを中止するって」

飯塚「すいません実はですね、UFIに脅迫状が届いてまして、ライブを中止にしないと会場を爆破するって」

江田島「ダメだ、絶対にやりましょう」

   あかり、繋がらない携帯をかけている。

江田島「20万人のファンはともかく、80社ものスポンサーが待っているんですよ」

飯塚「想像以上に下衆いなこの人」

江田島「とにかく、これはメインイベントなんですよー、絶対やりましょうよ、そんなくだらない脅しなんかで」

飯塚「いや、くだらなくなんかないんです。現に、車パンクさせられたり、こっちも足止め喰らってるんですから」

江田島「そったらこと行っておめーら、さんざんくっちょりんてもてーら、おれがちんちろちんて約束したみゃんぎゃっ」

飯塚「全然なに言ってるかわかんない、訛りがひどいな。とにかく、人の命がかかってるんですっ」

川島「仕方がないっ、やろう」

飯塚「社長?」

川島「この人に言われたからやるんじゃない。UFIぎゃそれをのじょんでるんだ」

飯塚「なんでアンタも訛ってんだよ。向こうにはろくにスタッフもいないんですよ?、誰がUFIを守るんですか。駄目だあかりちゃん、止めるぞ」

あかり「いや、それがUFI勝手にステージに向かっちゃったみたいで、電話に出ないんです」

飯塚「え?」

豊本「あれ?、いつのまにかモニターが中継に変わってるぞ」

   升野、スタジオから飛び出す。

升野「おい、そこ(扉)開けっ放しで喋ってるから、スタジオに全部丸聴こえだったぞ、俺慌てて中継に切り替えたんだよ」

江田島「え、スポンサーのくだりも?」

升野「その前に止めましたよ、なんとか」

江田島「じゃあもう全然平気」

飯塚「ブレないな、アンタ」

升野「ただ、脅迫状のくだりは流れたかもしんない」

飯塚「え?、ちょっと待ってください。会場のモニターにも、さっきの放送流れてますよね?、爆弾騒ぎが起きてるなんて聴いたら......」

   一同、テレビを注視する。

   テレビから流れる20万人のUFIコール。

飯塚「誰も、席を立とうとしていない」

あかり「でもUFIは?、一体どうなっちゃうんですか?」

豊本「ステージに出てきた。アイツら本気で歌うらしい」

あかり「UFI」

川島「おい、ちょっと待ってくれ。この端っこの方に映ってるこの客、このダセえスーツ。ゴリナのキャバクラの客じゃねえか」

角田「ちっちゃい荷物持ってねえか?、これが爆弾なんじゃねえのか?」

豊本「どんどん近づいてくるぞ」

升野「おいUFI気づいてないぞ、誰が連絡取れないのかっ」

飯塚「あっ!......アイツら」

   飯塚、携帯をかける。

飯塚「あ、もしもし。最前列にいるの、お前らか?」

升野(テレビ見て)「最前列?」

飯塚(通話)「おう、そうだ。ドロ人形先生だ」

升野「コイツら、ドロパチ先生の教え子の、元ヤンカップルじゃん」

飯塚(一同に)「アイツら、俺の言ってたこと覚えててくれて、昔の族の仲間引きつれてUFIのこと守りに来てくれたらしいんですよ」

角田「おいおいおい、犯人の奴無理やりステージに上がろうとしてるぞ」

   テレビから聴こえる聴衆の悲鳴。

川島「やっぱりあのスーツ間違いない、あの客だ。おいゴリナ逃げろ、走れっ」

升野「ゴリナ完全に膝に来てる」

飯塚(通話)「いいかお前らーっ、ピンクと水玉の奴とっつ構えろ、ブチ殺せーっ」

   テレビから聴こえる聴衆の歓声。

豊本「ああっ、ヤンキーたちが、犯人を取り囲んでっ」

飯塚(通話)「行け行け行けっ、ドロ軍団の意地見せたれやっ、おいコラっ、ドロパンチだオラっ」

一同「おおー」

飯塚(通話)「ドロキックだオラっ」

一同「おおー」

飯塚(通話)「よーし最後だ、バック泥ップだオラアっ」

一同「おおー」

   一同、テレビに向かって拍手。

飯塚(通話)「よくやった、お前らー」

   升野、飯塚に駆け寄る。

升野「グレート・ティーチャー・ドロ塚っ」

江田島「いやあ大したもんだ。流石は国民的トップアイドルですね」

川島「よーし、UFIの20万人ライブIN呪い米祭り、スタートだ」

   暗転。

 

   UFIの『WE ARE UFI』

   最初のフレーズが流れる。

 

 ♪ We Are UFI

   ひとつになって頑張ろう

   だって仲間なんだから


We are UFI !!!!

 

 

 

   歓声と共にフェイドアウト

 

   背景デジタル時計。17時30分へと進む。

   照明点灯。

   長椅子に並ぶ升野とあかり。

あかり「いやー、それにしてもさっきの升野さんの一言、流石でしたね」

升野「いや、あれはもうあかりの絵があったからだよ」

あかり「ええ?」

升野「あれは本当面白かったもん、だって」

   イチャイチャしていると、スタジオから充希が出てくる。

あかり「そんなこと」

升野「絵の時点で成立してたもん、後はちょっと足しただけだから」

あかり「頭の回転早くないですか」

升野「いやいや、マジで?」

充希「あのー」

   角田、仕切りから出てくる。

角田「何きゃっきゃきゃっきゃやってんだよ、うっせえなあ。遊び場じゃねえんだぞ、ここは」

   2人、まだイチャイチャしている。

升野「短い時間で描いたでしょ?、ビックリしちゃった」

あかり「本当に?」

升野「流石、流石」

角田「おい、聴こえてないかコラっ」

升野「今度俺の似顔絵描いてよ」

角田「俺はここに存在し、話しかけてるよっ、おーいっ」

   2人、黙って角田を見る。

角田「なんだその目はっ」

   2人、イチャイチャに戻る。

升野「マジでさ、マジで今度」

あかり「えっ、えっ」

角田「確認して無視すんじゃねえよ、聞けオラっ」

あかり「どうしたんですか角田さん?、カリカリしちゃって」

角田「そりゃそうだろ、カリカリしてる理由がわかんないの?、ウソでしょう」

升野「だってUFIのライブも無事終わったし、犯人も捕まったし、後は今流れてる米狩り村大鬼ごっこが終わればエンディングでしょ?、何をカリカリすることがあんの」

角田「まだ終わってないでしょ、そのエンディングで歌う歌が出来てないでしょうよ。あと15分で発表なんだよ、なのに1つも出来てないよ、1つも」

升野「さっさと作れよ」

角田「いや作ろうにも歌詞が来てないんだよ、おいミッキーまだ歌詞来てないのかよ」

充希「はい、一枚も」

角田「俺そんな人気ないの?」

充希(即答)「そうです」

角田「そうですじゃねえよ」

升野「もう諦めてお前全部作れよ」

角田「じゃあもう、さっきの脅迫文ソングの続きを完成させて歌っちゃうぞ」

升野「なんでだよ、じゃあちょっとFAXないか見てきて」

充希「はい」

あかり「私が行きます」

   あかり、席を立つ。

   充希、あかりを制止。

充希「大丈夫です、私が行きます」

   充希、スタジオの中へ。

   上手から通話中の飯塚が現れる。

飯塚「もしもし。間に合わない?、うん、うん......え、それどういう事だよ」

   一同、飯塚を見る。

飯塚(通話)「わからない?、もう、とりあえずこっちからタクシー向かわせるから、そこ絶対動くなよ」

   飯塚、電話を切る。

升野「どうした?」

飯塚「いや、UFIが、ライブ終わってすぐに用意されたバスに乗ってこっち向かってたらしいんですけど、山道の途中で運転手が急にトイレ行きたいっつって、バス降りてから、連絡取れなくなったらしいんですよ」

あかり「どういう事?」

升野「いや、そういう事じゃん」

あかり「どういう事?」

升野「バカなのか」

角田「俺が教えてあげるよ」

あかり「ああっ、そういう事」

角田「このタイミングでわかったのか」

   江田島、上手から現れる。

江田島「いやー最高のライブでしたね、本当ありがとうございます。スポンサーが大喜びでね、生のUFIに会いたいつって局まで来ちゃいましたよ。最後、ビシっと決めましょうね」

升野「江田島社長、もう警察呼びませんか?」

江田島「何言ってるんですか。なんで警察呼ぶ必要があるんですか?、UFIの爆破騒動は、犯人が逮捕されて一件落着でしょう」

   2階の通路にサングラスをかけた川島が出てくる。

   当たるスポットライト。

川島「それが、ちっとも一件落着じゃなかったんですよ。先ほど私のところに連絡が入りましてね。あのライブ会場で捕まった男、アイツが犯人じゃない事がわかった」

   川島、気障にサングラスを外す。

升野「どういう事だ」

川島「詳しい事は、この男が説明する」

   川島、究極に気障な声で、

川島「おい、豊本っ」

   川島の隣りへとサングラスをした豊本、

   あぶない刑事の柴田恭平みたいな物腰で登場。

豊本(モノマネで)「どうも、豊本探偵事務所の、豊本です」

飯塚「ショーパブか、そこはっ」

豊本(モノマネで)「関係ないね」

   飯塚と升野、笑っている。

豊本「私が調べたところによると、あの時捕まったあの男は、ただのUFIのファン。そして着ていたジャケットも、本人のものではないらしい。これを着ていればUFIに気づいてもらえるかもと言うことで、見知らぬ男に貰ったということだ」

飯塚「どういうことだよ」

江田島「んなもん知ったこっちゃないよ、私はね、最後、スポンサーにUFIの生ライブ見せるって約束しちゃったんだよ」

飯塚「スポンサースポンサーってスポンサーがなんなんすかっ、今UFIがピンチなんだよっ」

   川島と豊本、階段を降りて来る。

川島「UFIはね、アンタのスポンサーの為に仕事をしているんじゃないんだ。UFIが仕事をしているのは、愛するファンの為だ。そして金の為だっ」

飯塚「なんで最後にそれ言ったんですか」

川島「UFIは、我々アットマーク川島の大切なメンバーだ、これ以上こんな番組に付き合わせるわけにはいかない」

江田島「何を言ってるんだおい、あと少しで終わるんだぞ。今ここでやめたら、チンチロにならないだろうっ」

川島「もうチンチロ以上だ。考えてもみろ、この番組でいくつおかしなことがあった?、これ以上UFIを、いやゴリナを、危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」

飯塚「ゴリナはそんな危険な目に遭ってないっす」

   スタジオから充希が出てくる。

充希「やっぱ角田さんのFAX一枚も届いていませんでした」

   充希、場の空気を読む。

充希「すみません。私みたいのが口出していい空気じゃないですね」

   充希、引き返そうとして、呼び止められる。

川島「ちょっと待ってくれ。今からする話は、君にも聞いて欲しい」

あかり「どういう事?」

川島「そもそも、あの男が犯人だという決め手になったのは、あのダセえスーツだ。つまり、あれをあの男に渡し、犯人に仕立てあげようとした人間がいる」

飯塚「でもおかしいでしょう。社長のあのスーツの話聞いてたのは、俺と充希ちゃんだけですよ?」

充希「......」

川島「そうなんだよ。つまり、この事件の犯人は」

   川島、充希を見る。

川島「お前」

充希「......」

   川島、飯塚を見る。

川島「か、お前」

飯塚「え、なんで?、なんで疑ってんの俺を」

川島「聞いてたからね、スーツの話を」

飯塚「いや聞いてましたけど、さんざん一緒に長いことやって来て、俺疑うかね」

   川島、どうかなあ?、という顔。

飯塚「その顔やめろよっ、その顔っ」

川島「大丈夫、大丈夫」

飯塚「いやいやいや」

川島「おお?、ずい分慌てるんですねえ」

飯塚「信用してくださいよ」

角田「おいミッキー。お前まさか」

あかり「いや、でも流石にミッキーが犯人て事は。それに、ライブ会場で渡したって言ってましたけど、その時ミッキーはここにいたよね?」

升野「そんなの簡単だ」

川島「そうだ」

飯塚「どういう事ですか?」

   升野、前に出て川島と並ぶ。

升野「つまり」

   2人、同時に。

升野「共犯者がいた」

川島「空を飛んでいた」

飯塚「え。何て言ったんすか?、今」

川島「共犯者がいた」

飯塚「ウソつけよ。え、『空を飛んでいた』って言いました?、今言いましたよね『空を飛んでいた』って」

川島「言っていない」

飯塚「絶対言ってました」

川島「言っていない」

飯塚「絶対言ってましたって」

川島「言いましたけどーっ?」

飯塚「認めんのか。でも確かに、共犯者がいたと考えれば......」

あかり「ちょっとミッキー、ほら黙ってないでちゃんと否定してよ」

   あかり、充希を前に出す。

充希「......私が、やりました」

あかり「ミッキー?!」

充希「私がやりました。自分ひとりでやりました。共犯者はいません」

升野「いいや、ひとりで出来る筈が無い。今回の事件、俺は色々と引っかかる所があった。まず始めに、マラソンランナーが消え、県議会議員の車が壊れ、鬼相撲のチャンピオン、書道の達人、幸せカップル、そして局が用意した車にまで異変があった。こんなの1人で出来ることじゃない」

あかり「でも、どうしてそんな多くの人が、UFIを?」

升野「犯人の目的がUFIではなく、番組の妨害だったとしたら?」

充希「どういう意味ですか?」

飯塚「何のために。彼女は局の社員ですよ、番組を妨害する理由がないでしょ」

   携帯が鳴り、豊本が出る。

豊本(通話)「もしもし、わかった」

   豊本、電話を切る。

豊本「やはりそういう事か。この話の発端となったスタッフ全員の食中毒事件。そんな大量の患者、どこの病院にも搬送されていない。つまり、そんな患者はいないという事だ」

充希「ウソです、だってみんな、あのお弁当食べて」

角田「いや、あの弁当だったら俺も喰いましたよ?」

   充希、茫然。

角田「いや、すげー腹減ってたからさ、もう食中毒とか関係ないと思ってさ」

   角田、仕切りの奥に入り、大量の弁当の空箱を手に戻ってくる。

角田「すげー沢山喰っちゃったよ。ぜーんぜん大丈夫、ただ美味いだけ」

升野「と言うことは、スタッフ全員が共犯者」

   江田島、充希に詰め寄る。

江田島「お前ら、どういうつもりだ」

充希「仕方なかったんです、こうするしか......私たちは、このみちのくササヒカリテレビが大好きでした。都会みたいに派手じゃないですけど、みんなに愛される番組を作り続けて来ました。しかし、この江田島社長に代わってからすべてが変わってしまいました。私たちの意見を無視して、スポンサーに媚びへつらった番組作り。挙句にこの人は、この局を身売りしようとしているんですよっ。今回の23時間テレビだってそうですよ、スポンサー接待のような番組を作って、身売りを潤滑にしようと。だから私たちはそれを阻止する為に、23時間テレビを妨害しようと」

升野「UFIをどうするつもりだ」

充希「UFIは無事です。しかし、この番組を終わらせるまで、UFIをお返しすることは出来ません」

江田島「ふざけた真似をしやがってっ」

充希「ふざけてるのはあなたでしょ。私はただ、みちのくササヒカリテレビを昔みたいに取り戻したいだけなんですよ」

川島「いい加減にしろっ……そんなやり方は間違ってる。いくら社長が裏切ったからって、自分の大好きなものまで裏切るだなんて、俺は許さない。会社の身売りに反対するのは結構だ。けどな、そんなの視聴者には関係ねえんだ。俺たちは、23時間テレビをやめない。放送を続ける」

充希「でも、もうUFIはいませんよ?」

川島「UFIがいないからなんだっ!......UFIがいなきゃいないでっ......どうすんだい?」

飯塚「でしょうね、でしょうね。なんにも出来ませんよ」

升野「それはどうかな。おい豊本、番組の評判をネットで調べてみろ」

豊本「おう、わかった」

   豊本、携帯を取り出す。が、見えない。

   カッコつけてかけていたサングラスを外し、眼鏡に付け替える。

飯塚「最初から掛けとけよ」

豊本「度入りのサングラスが欲しい」

飯塚「知らねえよ」

   豊本、携帯でネットをスクロール。

豊本「たしかに。ほとんどUFIに対するコメントだが、他にもあるぞ」

   升野、携帯を受け取る。

升野「『あのミイラみたいな県議会議員、怪我までしてるのにスピーチするなんて、最高』」

川島「ミイラ、俺か」

升野「『あの鬼相撲大会のチャンピオン、すげえ強くて最高でした』」

豊本「鬼相撲、俺だ」

升野「『あの鬼のような絵を描いた人、可愛い』『あの熱血先生も素敵でした』」

あかり「私も入ってる」

飯塚「熱血先生って俺か。(熱血先生風に)バカ野郎」

升野「『紙芝居の人超良かった』。俺だ」

角田「......え、終わり?。俺は?」

   升野、スクロール。

升野「結構下まで来てんだけど。ちょっと待って」

   升野、すっごいスクロール。

角田「え、そんな無い?」

升野「あ、あったあった。『オープニングのオニゾウくんと出ていたハゲの人、凄くハゲてますね』」

角田「他と違うっ」

升野「とにかく、俺たちアットマーク川島プロの人間は、今やこの地域の人たちにとって、立派な有名人だ」

角田「そんな事どうだっていいよ、それよりこれ(テレビを指し)、大鬼ごっこもうすぐ終わるぞ」

江田島「おいおいおい、もう放送するものないぞ」

あかり「......あります」

   あかり、長椅子に走り、バッグから充希のメタルテープを取り出す。

   テープを升野に渡す。

あかり「これ」

   升野、テープと歌詞カードサイズの台本を見る。

升野「あ、本当だ。これなら行ける」

   升野、棒立ちの充希の前に。

升野「おいAD。お前がずっと見たかった番組、俺たちが作ってやるよ」

充希「......」

升野「よし、みんな行こう」

   升野、スタジオの中へ入る。

   残りの一同、会議机のテレビの前に集まる。

   しばしの間。

   升野、焦って戻ってくる。

升野「え、行かねえの?、ビックリした。パーって走って振り返ったら俺一人しかいねえの、ビックリした。すっげえ恥ずかしかった」

川島「いや特に説明ないから」

升野「みんな行こう、みんなみんなみんな」

あかり「え?」

升野「いやお前がこれ(テープ)持って来たんだろ、行こう行こう行こう」

   升野、みんなを手招きしてスタジオへ。

   一同、顔を見合わせる。

升野「いや行こうってっ」

   升野、坐ったままの川島のもとへ。

升野「なんでこのタイミングで腰が重いんだよっ」

川島「説明を」

升野「番組作ってやるつったんだよ。流れ、そういう流れじゃん」

   升野、またスタジオへ向かう。

   一同、再びテレビに視線を集める。

   升野、戻って川島の頭をはたく。

升野「なんで改めてテレビ見てんだよ」

   升野、川島の手を引いて立たせる。

川島「だって怖いもん」

升野「怖くないよ。行けばわかるから」

   ようやく、充希と江田島を残してスタジオに入る川島プロ一行。

江田島「おい、お前らなんかに出来るわけないだろっ、何考えてるんだまったく」

  江田島、委縮する充希を睨む。

江田島「お前のせいだからな?」

   モニターチェック。

升野の声「えー、ただ今から、プログラムを一部変更し、このみちのくササヒカリテレビの原典となった、あの伝説の子供番組を復活させます」

充希「升野さん?」

カセットの音「『泣くなオニゾウ』。『好きなものは好き、の巻』」

   BGMが流れ出すと、2階の通路にオニゾウが陽気に躍り出てくる。

ナレーション「『ここは、鬼だけが住んでいる、鬼ヶ村にある、鬼の高校。今日もオニゾウくんと愉快な仲間たちが、何やら騒いでいるようですよ』」

鬼子の声「『うえーん、うえーん』」

オニゾウの声「『あれ?、誰かが泣いてる。この泣き声は、鬼子ちゃん』」

   パネルを手に、鬼耳を付けたあかりが出てくる。

江田島「え、生身でやんの?」

   声にジェスチャーを当てていく。

鬼子の声「『飼っていた子犬が、いなくなっちゃったの』」

オニゾウの声「『ええ?、探してあげるよ。どんな犬?』」

鬼子の声「『じゃあ、口で説明するのは難しいから、絵で描くね?』」

   流れ出す絵描き歌に合わせ、あかりがパネルに絵を描き始める。

江田島「何が始まったんだ」

絵描き歌「♪ 大きいお椀がありまして

   はんぺん2つ ごま塩振って

   ランララ ランララ ランランララ

   あっと言う間にワンコちゃん 」

   あかりがパネルをめくると、

   『地獄大戦ヘルマゲドン』のケルベロス鈴木。

江田島「描けないよっ、今の歌詞じゃ描けないよっ」

オニゾウの声「『あ、この犬なら、僕、さっき見たよ。力自慢の鬼の富士がイジメてた』」

江田島「鬼の富士?、ええ?」

   チャンピオン王冠をかぶった豊本が踊りながら出てくる。

鬼の富士の唄「♪ 俺は最強 鬼の富士 」

江田島「ぴったり!」

鬼の富士の唄「♪ どんな相手もどんと来い

   必殺技は 必殺技は 」

   豊本、周囲の人間に次々目つぶしをくらわしていくジェスチャー

鬼の富士の唄「♪ ラララララ 鬼の富士 」

鬼の富士の声「『ふはは、オニゾウ。お前の犬など、食っちまったよ』」

オニゾウの声「『お前、喰ったのか』」

江田島「犬とか食うなよ」

オニゾウの声「『クッソー、鬼の富士の奴め。オニパチ先生に言いつけてやる。鬼組のオニパチ先生―っ』」

   飯塚、登場するなり豊本にパンチ。

   続いてオニゾウをボコボコにし、また豊本を足蹴にする。

オニパチ先生の声「『てめえーっ』」

江田島「あんまりイジメるなよっ」

オニパチ先生の声「『ケンカなんかしてやがったのかっ』」

オニゾウの声「『痛い、痛いよオニパチ先生』」

オニパチ先生の声「『仲良くしないと、ぶっ飛ばすぞっ、いいか、鬼と言う字は、鬼と、鬼が、支え合って出来ているんだっ』」

江田島「いや、出来てない出来てない」

   BGM変わる。

鬼ミイラの声「『父さん?、憎しみは争いを生むだけだと、歴史が証明している』」

オニゾウの声「『その声は、鬼ミイラ?』」

   顔面包帯状態の川島登場。

江田島「完璧だ」

   川島、ロボットダンス風の動き。

鬼ミイラの声「『君たち。その辺でチンチロにしないと、悲惨な結末が待っているよ。ね?、紙芝居おじさん』」

   パネルを手に升野が登場。

   パネルをめくると、デッド塩谷の絵。

江田島「死んじゃってるよ」

オニゾウの声「『紙芝居おじさん、言いたいことは、怖いほど伝わったよ』」

オニパチ先生の声「『さあ、みんなで歌を歌って、仲直りだ。鬼渕トンボさーん』」

   長淵調の曲が始まって、角田登場。

   威勢よく腕を振り上げるが、

トンボの声「『はーい♪』」

   鬼渕トンボの声は、女性だった。

角田「?!」

トンボの声「『私が歌のお姉さん、鬼渕トンボよー』」

   驚く一同、顔を見合わせる。

江田島「おいおい、どうすんだよ」

トンボの声「『さあみんな、私の後について、歌うわよー』」

   角田、なんとかしなを作って装う。

   テープの音がフェードアウト。

江田島「音止まったっ?、音とまっちゃったっ」

   戸惑う一同。

角田「どうする、どうする?」

升野「歌え、歌えよ」

角田「女だったじゃん!」

升野「裏声出せ、裏声」

角田「無理だよ」

   飯塚、オニパチ先生の演技で挙手。

飯塚「みんな、こういうのはどうだろう。いつもは、鬼渕トンボさんだけど、今日は特別に、別の歌のお姉さんにお願いするって言うのは」

升野「お、おお。なるほどね」

   飯塚、あかりを前に押し出す。

あかり「え、え......それならピッタリの人がいるわ。この番組を誰よりも好きで、誰よりも愛してくれていた、あの子」

充希「あかりん、それって......?」

川島「ああ。いつもは気弱だけど、いざという時は頼りになる。あの子ならピッタリだ」

升野「最後の最後くらい、役に立ってくれるんじゃないかな」

   充希、スタジオへ走り出す。

江田島「おい何する気だ、待てっ」

豊本「みんな、間もなく、新しい歌のお姉さんが到着するぞっ」

角田「よっしゃ。歌はさっきのあれでいいかしら?」

   充希、スタジオの中央へ走り出る。

角田「準備はいい? 3、4っ」

   角田、伴奏スタート。

   みんなで踊り、充希が歌いだす。

   驚くほど高い歌唱力。

   脅迫文の歌詞。

充希「♪ お前ら俺をちっとも認めちゃくれねえ

   何を言っても聞く耳持たねえようだな

   俺の怒りの爆弾で お前ら

   木端微塵に吹っ飛ばしてやる

   俺の怒りの爆弾で お前ら

   跡形もなく消し去ってやる OH」

角田「さあ、続きを聞かせてやれ充希ちゃん」

充希「♪ だけど そんな世の中見たくない

   好きなものは好きと言える未来を目指して

   いつか笑顔になれるから

   好きなものは好き そう言える未来へ 」

   充希、角田とハイタッチ。オニゾウとハグ。

   拍手の中、暗転。

升野の声「入った?、CM入った?」

豊本の声「いや、まだ時間空いてるみたいだぞ」

充希の声「そう言えば、ライブの前にCM流しまくった時、間違ってこのあと流すCMの入ったテープ落として壊しちゃって。どうしましょうか」

飯塚の声「どうしましょうかじゃねえよ!、まだ妨害しようとしてるの?、ただのドジなの?」

充希の声(即答)「ただのドジです」

川島の声「こうなったらお前ら、鬼ミイラ主演でもう1度やるぞ」

あかりの声「ええ?」

角田の女声「望むところよ。私もこの役クセになりそう。私は鬼子。昼は主婦、夜はキャバ嬢」

飯塚の声「設定変わり過ぎだろっ」

 

   照明点灯。

   会議机で川島とあかり、中央でしゃがんだ飯塚、

   長椅子で角田がくたびれ、オニゾウが突っ立っている。

川島「いやー盛り上がったな、『泣くなオニゾウ』大反響だよ」

角田「やったなオニゾウ」

   角田、オニゾウの頭をはたく。

   あかり、FAXを読み、

あかり「どれも大評判ですよ」

角田「そっかあ」

   充希がスタジオから出てくる。

充希「皆さん」

川島「おう。盛り上がったな」

充希「はいっ、えへへ」

飯塚「だいぶメチャクチャでしたけどね」

   充希、頭を下げる。

充希「皆さん本当、ありがとうございました。私たち、ずっと逃げてました。どうせ無理なんだ、どうせ駄目なんだ、とか思って。でも、ちゃんと自分の見て欲しいものとか聞かせたいものを届けなきゃいけないなって、思い出しました」

あかり「ミッキー」

充希「だから、私、ちゃんと伝えます」

   あかり、察して立ち上がる。

   升野と豊本がスタジオから出てくる。

升野「いやー、UFIギリギリ間に合ったな」

豊本「我々豊本一族の力を使えば、こんなもの容易い」

充希「升野さんっ」

升野「あ?」

充希「私。升野さんが好きですっ」

升野「......えーと、え?、それは、君が、僕の事を、好きと言う事かな?」

充希「そうです」

升野「好き、には色んな解釈あると思うんだけど、その好きと言うのは、恋愛感情という意味での、好きと言う事かな?」

充希「そうです」

升野「それ間違いないのね?」

充希「はい」

升野「君が、僕に、好意を持っている。恋愛感情的に好意を持っていると言うことで、間違いないね?」

充希「そうです」

升野「それを今、伝えてくれたんだね?」

充希「そうです」

升野「わかりました。じゃあ今から気絶します、わー」

   升野、その場に卒倒して気絶。

飯塚「え、伝えたい事って、それ?」

充希「色々あったんですけど、でも、これもそうです」

あかり「ミッキー、気絶しますって言って気絶しちゃうような、こんな人でいいの?、後々後悔するよ?」

   角田、嬉しそうに割って入る。

角田「いやいやよくやったよ、ミッキー。勇気を出した」

   充希、角田をスルーしてあかりの前へ。

充希「いいんです。私、自分の気持ちを伝えたかっただけですから。それに、あかりさんも升野さんのこと好きなんでしょ?」

あかり「え、なに言ってんの?」

   角田、態度豹変。

角田「おい余計なこと言ってんじゃねえ、なに言ってんだお前はっ」

充希「え、違ったんですか?、てっきり嫉妬してんのかなとか思っちゃった」

あかり「まあ正確に言うと、嫉妬してたって言うか、升野さんは私のペット的な存在で、ムカつく事もあるけど、可愛いっていうか。だから、自分のペットが人になつくと、なんだかなーみたいな」

   升野、パッと体を起こす。

升野「おいっ、ふざけんな、誰がペットだ」

   あかり、舌を鳴らし手を差し出す。

   升野、ペットのように吸い寄せられるが、すぐ手をはたく。

升野「何してんだよ」

角田「俺はペットでもいいっ」

飯塚「ハウスっ」

   角田、長椅子にハウス。

   上手から江田島が現れる。

江田島「はい、どうも御苦労さまでした。(充希に)お前らのやった事は小さな反抗だったみたいだな。お陰さまでね、スポンサーが23時間テレビ非常に気に入ってくれて、身売りの話が上手くいきそうだよ」

   オニゾウ、江田島に走り寄る。

江田島「なんだなんだ?、おい」

   オニゾウ、江田島をぶん殴る、

江田島「痛たあっ、おい、何すんだっ」

   オニゾウ、客席に背を向け、江田島に向けて着ぐるみの頭部を外す。

   ハゲた男の後頭部が見える。

江田島「か、会長!」

飯塚「会長?」

江田島「この、みちのくササヒカリテレビの会長だ」

   会長、頭部を戻す。

飯塚「はっ!」

   会長の声(テープのナレーションと同じ)がする。

会長の声「オニゾウ。それは開局以来、この会社のトップの仕事だ」

飯塚「なんでだよ」

会長の声「私は、テレビの仕事を愛していた。それゆえ経営はあまり得意ではなくてな。切れ者江田島にすべて任せっきりにしたのが、間違いだったのかも知れん。しかし、今日君たちを見ていて教わったよ。好きならば逃げずに、戦えばいい。私は決めた。この会社は、身売りなどしない」

江田島「いや、でも」

会長の声「江田島。わしともう一度、やり直そうじゃねえか。この会社を今一度、立て直そう。俺たちなら出来る」

江田島「......会長」

   江田島、泣いて会長にすがる。

飯塚「いつまでオニギリ被ってるんすか?」

   角田、会長にすり寄る。

角田「いやいやいや、会長とはつゆ知らず数々の失言、大変失礼致しましたーっ」

会長の声「なに、お前の行いに腹を立てるような私ではない」

角田「流石心がお広い。ま、そんな変な事してないですもんね。じゃ、これか

らは友達と言うことでいきましょうか」

   角田、会長の肩を叩く。

   会長、その手を払い、パンチ。

角田「あ痛ってえ、何すんだオラっ」

   再び向かいかけた角田の髪を升野が後ろに引っ張る。

角田「あ、それは駄目」

升野「会長だって言ってんだろ」

角田「動かないで、ゆっくりやって」

   升野、髪で角田をコントロールして歩き出す。

升野「おいキャリーバッグみたいだぞ」

   明るいエンディングが流れ出す。

   角田キャリーバッグ、升野からあかり、あかりから充希へパス。

   ようやく解放される角田、大げさな顔してみんなにアピール。

角田「もっと大事にしてーっ」

   一同、思わず笑う。

角田「もっと、もっと、大事にしてーっ、冗談じゃないよっ」

   角田。スタジオの中へ。

   充希、オニゾウの前へ。

充希「おじいちゃんっ、私もっと頑張るね」

飯塚「おじいちゃん?、おじいちゃんなの?」

充希(即答)「そうです。私、会長の孫なんですよ」

飯塚「じゃ最初からそう言えばいいじゃん。おじいちゃんに、身売りしないでって」

充希「......そっか」

飯塚「そっかじゃねえよ」

   角田、戻ってくる。

角田「おい、ゴリナがゴールしてるぞ?」

飯塚「あ、忘れてた」

豊本(テレビ見て)「ゴリナのゴールがテレビで中継されてるぞ」

   一同、会議机のテレビを囲む。

飯塚「さすが升野さん、ちゃんと指示出してたんですね?」

升野「いや俺、なんの指示も出してないよ?」

飯塚「じゃ、誰が」

充希「あっ、うちのスタッフ達が映ってる」

飯塚「なんで?」

   BGM、ややメロウに。

川島「駆け付けたんだろう。当たり前だ、自分たちのテレビ局でこんな面白いものがやってるんだ、テレビマンとして血が騒がないわけないだろう。結局こいつらさ、自分たちのテレビ捨てること出来なかったんだよ」

   川島、席を立つ。

川島「よーし、23時間戦い続けたUFIに、『お疲れ様』言ってやるか」

飯塚「そうっすね」

   一同口々に「疲れたー」と余韻に浸り、江田島は会長を先導して、

   スタジオの中へ入っていく。

   画面が徐々に暗転していく。

   スタジオから慌てて戻ってくる一同。

川島「おいおいゴリナ、ゴール出迎え無かったってブチ切れてんじゃないかよっ」

   一同、逃げて上手へはける。

   画面、暗転。

 

                   了

 


ウレロ☆未公開少女

 

『ウレロ☆未公開少女』台本書き起こし(2)

   デジタル時計。

   19時台から一気に22時へ。

   照明点灯。

   長椅子にあかりと飯塚、会議机に包帯の取れた川島と豊本。

   上手から江田島が現れる。

江田島「いやー素晴らしいスピーチでしたね。川島社長、スポンサー大喜びですよ。すなわちこれ、私も大喜びですよ」

川島「いやいやそんな、たまたまですよ」

飯塚「たまたまですよね、本当の。何ちょっと『たまたまじゃない』みたいな顔で言ったんですか」

江田島「それに豊本さん。鬼相撲の決勝戦ね、チャンピオンを土俵際に沈めたあの瞬間」

   豊本、チャンピオンの証にツノの生えた王冠をかぶっている。

   仕切り板からボロボロの角田登場。

角田「冗談じゃねえよ、なんで最強チャンピオン『キックのムラサワ』さんがこれなくなったからって、代わりにその役俺がやんなきゃいけねんだよ。で、なんでお前(豊本)が勝ち上がってくんだよ......なんで本気で俺を殺そうとすんだよっ」

江田島「角田さん。何はしゃいでるんですか?」

角田「はしゃいでる?!......まあまあ、見ようによっちゃ確かにちょっとはしゃいでるように……見えねえだろっ」

飯塚「ノリッツコミだ」

江田島「あんま巧くはないよね」

角田「で、例のアレは届いたのか?」

豊本「角田、お前が欲しがっているのは、この(王冠を脱ぎ)鬼相撲チャンピオンの王冠か?、力づくで奪ってみろっ」

角田「いらねえよそんなもん。FAXだよ、歌詞のFAXだよ。いっぱいあるじゃん、違うのこれ?」

   角田、ゴチャゴチャした会議机に手を伸ばす。

豊本「触るなっ、(凄んで)刻むぞ」

角田「......刻んだことのある奴の目だ」

川島「社長、すいません我々には次の準備がありますので」

江田島「あ、すいません。じゃあ、よろしくお願いしますね」

   江田島、上手からはける。

飯塚「なんか、出来る奴ぶってません?」

   川島、爽やかに微笑む。

飯塚「その顔やめろよ、ムカつくから」

   スタジオから升野と、升野に怒鳴られて充希が出てくる。

升野「ふざけんなお前、こんなん使えるかよ、没収だ没収。お前は」

飯塚「どうしたんですか升野さん」

升野「どうしたもこうしたもねえ、お前オンエア見てなかったの?、あの地元で有名な書道の達人の米俵白雲斎が来て、UFIと書道やる企画なのに、肝心の米俵白雲斎来てねんだよ、お前どうなってんだよこれ」

   充希、激しくどもる。

升野「お前さ、遅れるなら遅れるで何時に来るのかしっかり確認しろよ」

充希(どもって)「すいません」

飯塚「どっから声出てんだよ」

充希「すすすすす」

飯塚「すすすすす、じゃねえよ」

充希「すうー」

飯塚「すうー、やめろっ、唯一無事だったスタッフなんだからしっかりして?」

充希「はい」

升野「お陰で現場はさんざんだよもう。小学校低学年の習字の時間だよ、みんなで筆振り回してきゃっきゃきゃっきゃやって。見ろ、これ。こんなの」

   升野、巻物状にして持っていたUFI作の書初めを開く。

   象形文字のような出来栄え。

升野「悪戯描きだよこれ」

飯塚「もう幼稚園児以下じゃないすか」

あかり「でもこの絵、結構いい味出てますね。本来、絵ってこう心のままに、自由に描くもんじゃないですか」

升野「いやいや絵を描けっつってない、字を描けっつってこうなったの。お前がいっつもそうやって甘やかすからアイツらいつまでもガキなんだよ」

あかり「私が間違っているって言うんですか?」

升野「......」

あかり「私の、絵に対するっ......」

升野「絵の話じゃねえんだよ、字の話してんだよ」

角田「升野さんよお。アンタなんにもわかってねえんじゃねえか?」

升野「あ?」

角田「クイーンステージ・エンターテイメントだかなんだか知らねえけどよ。大企業の犬に成り下がってよ」

   升野、足首回して準備運動。

角田「大事なもん忘れちまったんじゃねえのか?、もっと人ってのはよ......」

   升野、角田に助走つけて跳び蹴り。

角田「うわーっ、クソーっ」

升野「お前は曲を書けっ」

角田「畜生っ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「まったくどいつもこいつも使えねえな」

あかり「この、わからず屋っ」

升野「あ?」

あかり「ふんっ」

   あかり、ふてくされて上手へはける。

川島「升野、そんな風に言うことはねえんじゃねえか?、あかりはな、忙しい仕事の合間を縫ってデザイン学校へ通い、絵を学んでな。なんと、今日がその学校の卒業式だったんだよ」

升野「まずあの、絵の話じゃないからね?、字の話なんだよ。(充希に)お前、もう一回行ってちゃんと念を押して来いっ」

充希「私も、絵のことは」

升野「絵の話じゃねえっつってんだよっ、早く行けよ」

充希「失礼します」

   充希、スタジオへ。

川島「あかりはな、事務所が一丸となって取り組むこの23時間テレビが大切だからと言って、卒業式には出ないことに決めたんだ。この番組を成功させようと、一生懸命にやってくれてんだよ」

升野「......」

川島「だからさあっ、そんなあかりの為にさあっ、もうこんな番組のこと一回忘れてさあっ、今からサプライズで祝ってやるってのは、どうだいっ?」

飯塚「いや、おかしいおかしい。本末転倒過ぎるわ」

川島「......どうだいっ?」

飯塚「どうだいっ、じゃなくて。テンション上がっちゃったんですか?、なんで今日なんですか明日じゃ駄目なんですか?」

川島「なーんーと。今日がその学校の、卒業式だったんだ」

飯塚「聞いたよそれ、新鮮に言うなよ」

   豊本、机を叩いて立ち上がる。

豊本「だったらっ」

飯塚「なんで熱くなってんだよ。もう社長、サプライズはやめときません?、この前それで大失敗してるじゃないですか」

升野「駄目だよ、今そんなわけわかんないこと付き合ってる時間ないの」

川島「じゃあ升野このままでいいのか。頭ごなしにあかりを責めて傷つけて、こんなギスギスした状態で我々は一致団結できるのか?」

升野「そりゃ悪かったと思ってるけどさ」

飯塚「ほら升野さんのせいで社長の言ってることがちょっと正論みたいになっちゃってるじゃないですか」

川島「それに、あかりが気分良くなればさ、みんなもバリバリ気分良く仕事に取り組めるだろう?」

飯塚「もう、やるしかないでしょう。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」

升野「どうやって気分良くさせるんだよ」

川島「まずは、お前らで一回あかりのことをボロクソに罵倒するんだよ」

升野「なんでだよ」

川島「それで、落ち込んでるところをちょちょいとやればさあ。(吐き捨てるように)イチコロだろう、あんな小娘よ」

飯塚「え、あかりちゃんの為にやるんですよね?」

川島「そして、あかりが落ち込んで凹んでるところを縛り上げて、目隠しをして、さらおうとする誘拐犯。助けてと叫ぶあかり。しかし誰も助けようとはしない。連れ去られたあかりが震えながら目隠しを外すと、そこにはUFIがいて、卒業を祝うプレゼントを渡す。完璧だろ?、よし、各自配置に就け」

飯塚「ひどいですよ」

   豊本、上手の様子をうかがう。

豊本「あかり、来ました」

川島「じゃあ俺、扉の前で待機してるから、ボロクソに凹ませたら合図しろよ?」

豊本「わかりました」

   川島、スタジオの中へ。困惑する飯塚・升野。

飯塚「ええ?」

升野「ちょちょちょ」

   升野がスタジオの扉に手をかけるも、向こうから閉ざされている。

升野「扉閉めるなって、スタジオ行けないだろ」

飯塚「もうサプライズどうにかしましょう。それしかない」

豊本「来た来た来た」

   上手からあかりが来る。

   平静を装う3人。

   あかり、頭を下げる。

あかり「さっきはすいませんでした升野さん。つい、ムキになっちゃって」

   升野、返答に困る。

   豊本、演技のスイッチON.

豊本「おーう、あかり。なんかUFIがお前のこと嫌いって言ってたぜ」

あかり「へえ?、なんでですか」

豊本「それに、俺たちだってお前のこと嫌いだからな。(飯塚に)なあっ?」

飯塚「ふあっ?、お、おう……お前なんかこの川島プロにいらねえんだよ、コノヤローっ」

あかり「なんなんですか?、急に」

飯塚「急......だよなあ、これ絶対おかしい」

豊本「余計なこと考えるなよ。升野、お前からも言ってやれよ」

   豊本、升野の背中を押す。

升野「おい、あかり。お前なんかちょっと見ない間によ、ちょっと大人っぽくなってんじゃん......覚えてやがれ」

飯塚「ちょっと褒めちゃってるけど?」

升野「緊張しちゃって......」

   角田、仕切り板から出てくる。

角田「FAXまだ来てねえのかよお」

飯塚「角田さん、今ちょっと立て込んでるんで、後で」

角田「後で?」

   豊本がまた升野をせっつく。

豊本「升野」

   升野、再びあかりに絡む。

升野「おいおいなんだよお前よ、よく見るとなんか、髪つやっつやだなあ......ざまあみろ」

角田「何の話をしてるんだ?、これは」

あかり「なんなんですか、升野さんまで。クイーンステージに行ってからも、私にだけは、連絡くれてたじゃないですか」

   升野、動揺。

あかり「『最近どうだ?』とか、『風邪引いてない?』とか、そんな優しいメールくれてたじゃないですか」

飯塚(嬉しそうに)「え?、え?」

角田「えっ?、なんだっ?」

あかり「『月が綺麗だね』なんて、他愛のないことでもメールくれてたじゃないですかっ」

飯塚「うわキツいわあーっ」

   逃げる升野を、はしゃぐ飯塚が追いつめる。

飯塚「えっ?、升野さん待って『月が綺麗だね』ってメールしたんすかーっ、『月が綺麗だね』ってアレじゃないですか?」

升野「は?、は?」

飯塚「夏目漱石が『アイラブユー』を和訳した言葉では」

升野「はっ?」

あかり(喜色)「えっ?、何を和訳したんですかっ?」

飯塚「そんなことメールしてる奴が何言っても無駄だわーっ」

升野「ふざけんな、メールなんかしてねえ、ウソこいてんじゃねえよお前よっ」

あかり「......なんでウソつくんですか」

飯塚「『ウソつくんですか』ってっ、ウソなんじゃん送ってんじゃーん」

あかり「私、嬉しかったのに」

飯塚「『嬉しかった』って、えーっ、良かったなあーっ、おいっ」

升野「(あかりに)「お前ふざけんな、調子に乗ってんじゃねえよ、お前のことなんか別に、なんとも思ってないもんなっ」

あかり「......」

豊本「いいぞ升野、その調子だっ」

飯塚「ただの照れ隠しじゃないすかーっ」

   飯塚、ますますはしゃぐ。

角田「なに陰でコソコソ話し......」

飯塚「やかまし、こらあっ」

   飯塚、角田に跳び蹴り。

角田「えーっ?」

飯塚「今こっちだいぶ面白いことになってんだよ。引っ込んどけっ」

角田「もおーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

升野「今日だってさ。成長してんの図体ばっかかと思ったら、なんかいっぱしに色づきやがってよ。お前なんか、好きな人とか出来てよ、なんか仕事とか勉強とか手につかない感じになってんじゃねえの?。ちょっと言ってみろよ」

飯塚「いいねいいね、ちょっと探り入れてる感じがいいね」

あかり「そんなんじゃありません。手が回らなかったのは、新作漫画のことで頭が回らなくなってただけなのに」

升野「うん?」

あかり「そんな風に言わなくたっていいじゃないですか。私が、私がいくら留年したからってっ」

升野「?!」

飯塚「留年?!」

あかり「もう、最低っ」

飯塚「え?、あかりちゃん留年?」

   あかり、号泣して上手へはける。

飯塚「あかりちゃん留年?、不味くないすか、留年してるのに卒業おめでとうサプライズって最悪じゃないすか」

   升野、棒立ち。

飯塚「どうするんですか......ってメールの件まだ凹んでるんすか?」

   スタジオから、鬼の面を付けた川島が出てくる。

飯塚「社長!」

   川島、嬉しそうに面を外す。

川島「あかりは?、あかり来た?」

飯塚「いやちょっと、状況が変わったというか、話さないといけないことが」

升野「ちょっとUFIスタジオうえーん」

   升野、泣きべそかいてスタジオの中へ。

飯塚「升野さん?」

川島(嬉しそうに)「あかりは?、来た?」

飯塚「ちょっとお話ししなければならないことが出来まして」

   上手から江田島が出てくる。

江田島「川島社長。どうですか?、準備の方は」

川島「はい、もうバッチリです江田島社長」

飯塚「あなたも何か聞いてるんですか?」

江田島「いや同じ社長としてね、社員を想うその気持ち素晴らしい。見習いたい」

飯塚「いや、あのー」

江田島「そこで我々も何かお手伝い出来ないかと思いましてね。どうでしょうここはひとつ、ニャンコ先生へのサプライズを生放送しちゃうって言うのはっ」

川島「本当にいいんですか?」

   升野、スタジオから戻る。

飯塚「絶対駄目です、絶対駄目です」

升野「何が駄目って?」

江田島「実はね、今UFIの皆さんにね」

   江田島、テレビを点ける。

   モニターチェック。

江田島「チャレンジしてもらってる習字もね、卒業するニャンコ先生へ向けてのメッセージを書いてもらうよう言ってあるんですよ」

   スタジオ。

   ゴリナ除くUFIが習字を広げている(後ろ姿。顔は見えない)。

   『てんさいがはくあかりんに』

升野「え?、これ待って、もしかして」

   升野、先程持ってきていた象形文字のような習字を広げる。

升野「『天才画伯』って書こうとしてたってこと?」

   江田島、テレビを消す。

   照明点灯。

江田島「そして、目隠しされたニャンコ先生が連れて来られたその先は、なんとオンエア中のスタジオ。でUFIの皆さんにね、ニャンコ先生へのメッセージとプレゼントを渡して頂く。どうですか」

川島「素敵です、本当にいいんですか?」

飯塚「社長(川島)!、そして社長(江田島)!」

江田島「今、巷で話題のニャンコ先生が出てくれるんだから、視聴者大喜びですよ。そして更にニャンコ先生にはその場で、生で、今の気持ちを絵に描いていただく。テレビ出て絵描けんだからニャンコ先生も大喜びでしょう」

飯塚「やめませんか?、『テレビ出て絵を描けて大喜び』の意味もよくわかりませんし。社長(川島)、なんかね、言ってなかったことがあるみたいなんですよ」

江田島「あ!、気づかれましたか」

川島(喜色)「なになに、どういう事?」

江田島「実はこの事はもう、ラ・テ欄で予告しちゃってるんですよ」

   江田島、会議机の上のスポーツ新聞を嬉しそうにひけらかす。

飯塚「えーっ?」

川島「すっごいサプライズだよお♪」

   川島、嬉しそうに飯塚の背中を叩く。

江田島「川島社長大喜びだあ」

   升野、スポーツ新聞を開く。

升野「え?、『あのカリスマ作家がテレビ初出演。その腕前を披露』ってこれ、白雲斎のことじゃないんですか?」

江田島「いやいや、先生初出演じゃありませんよ。あの人基本テレビ出るの大好きだし」

升野「だったら今日もちゃんと来いよ」

川島「じゃあすぐに誘拐して、連れて来ますんで」

江田島「しっかり頼みますよ?、これは素晴らしいですよ。楽しみだなぁ」

   江田島、上手へはける。

飯塚「いやいや江田島社長、違う」

川島「これは盛り上がるなぁ」

   川島、嬉しそうにスタジオの扉へ向かう。

飯塚「いやいや川島社長、違う」

   充希が向こうからこっそり覗くスタジオの扉。

   そこをくぐろうとした川島を、飯塚が慌てて引き留める。

川島「なんだよ」

飯塚「流石に白雲斎先生に失礼じゃないすか?、これは。(充希に気づき)おお、ADさんちょっと来て」

   飯塚、充希を引っ張り出す。

飯塚「待ってれば来るんでしょ?、白雲斎先生」

充希「あの、さっき言えなかったんですけど。白雲斎先生も行方不明です」

升野「は?、じゃマジで別のカリスマ出さなきゃいけないの?」

充希「すいませんっ」

   充希、スタジオへ逃げ込む。

川島(嬉しそうに)「飯塚、もうこれは、あかりに出てもらうしかないな」

飯塚「それはちょっとやめてください。聞いてください社長、大変です」

川島(嬉しそうに)「大変だなっ、大変だよお」

飯塚「違う、そっちの意味じゃなくて。あの、ちょっと落ち着いて聞いてくださいね?」

川島「はい」

飯塚「あかりちゃん、留年してます」

川島「そう。じゃあさ、楽しくお祝いしてあげようよ、パアーっと」

飯塚「バカじゃないの?、留年ですよ、留年。あかりちゃん、卒業してません」

川島「......」

   川島、ようやく真顔になって。

川島「どういう事だバカヤローっ、卒業してないってことはお前、卒業してないってことじゃねえかよっ」

飯塚「だからずっとそう言ってるんです」

川島「聞いてないよ、俺はそんなこと」

飯塚「だからサプライズは中止です。江田島社長にも言って、全部中止にしてもらいましょう」

升野「いや、それは駄目だ。あの江田島社長のことだ、おそらくこのことも事前にスポンサーに触れ回って、それをダシにCM契約を取っているだろう」

川島「こうなったら無理やりにでもやっちまおうよ。無理やりにでも大人しくさせてさらっちまえば、後は黙らせて脅すなりなんなりして、こっちの要求呑んでもらうしかないだろ」

飯塚「それ、なんのサプライズなんですか」

川島「飯塚っ、勘違いするな......これはもう、ただの誘拐だ」

豊本「了解っ」

飯塚「了解じゃねえよ。それじゃ番組自体メチャクチャじゃないっすか。さっきのUFIのメッセージも何のことだかわからなくなりますし」

升野「それなら大丈夫だ。アイツらはあくまでも『てんさいがはくあかりんに』って書いただけだ。そこにあかりを連れて行って、なんとなくおめでとう的な空気にすれば、ギリギリ成立する」

飯塚「いや、そうおめでとう的な空気にならないでしょう?」

川島「よーし豊本、お前は最近あかりの身の回りで起こった、なんとなくおめでとうと言えなくもない出来事を洗い出せ」

豊本「......『年が明けた』って言うのは?」

川島「最悪、それで行こう」

飯塚「3月だよ、もうっ」

   あかりの泣き声がする。

豊本「あかり来ましたっ」

川島「よし、もう1回ボロクソに言うところから始めるからな」

飯塚「ボロクソ言う以外何か方法ないんですか?」

川島「贅沢言ってる場合か。おい升野、頼んだぞ?」

   川島、スタジオへ隠れる。

升野「おお、おお。わかった」

飯塚「いや、さっき出来てなかったでしょ?」

升野「は?、めっちゃ言えてたし」

飯塚「ちゃんとやってくださいよ?」

升野「当たり前じゃん」

   上手から泣いたあかりが現れる。

   升野、いきがる。

升野「おい、あかり。お前何泣いてんだよ、泣いてんじゃねえよお前よ。泣いたらお前......マスカラ落ちちゃうだろうがよ」

飯塚「何してんすか。ボロクソ、ボロクソ」

升野「言ってんじゃん」

   升野、再挑戦。

升野「何調子くれて化粧こいてんの?、お前。あ?、すっぴんでも大丈夫なくせにビビってんじゃねえよっ」

飯塚「もうお前、次あたり告白するだろ。好きだろ、なあ。そっちでもいいぞ、俺。面白いぞ、それも」

   升野、またまたチャレンジ。

升野「お前よ、聞くところによるとあかりよ。お前なんか、留年したそうじゃねえかよ、どうしようもねえ女だな」

飯塚「え、それ言う?」

豊本「そうだよ、なに留年してんだよ」

飯塚「乗っかるな」

豊本「恥ずかしくねえのかよテメエ」

   升野と豊本、手拍子。

升野・豊本「留・年! 留・年!」

   あかり、泣きやむと顔を上げ、怒りの形相。

飯塚「やめろって。俺、知らないよ?」

   あかり、2人に強烈なビンタ。

飯塚「ホラあ」

あかり「人の気も知らないで、無神経なことばっか言いやがってっ」

   あかり、長椅子にすがる2人をタコ殴り。

飯塚「あかりちゃん落ち着こう」

   角田が仕切り板から出てくる。

角田「留年ってなんの話かな?、ははは。(手拍子)誰が? 誰が? 留年したの?」

   あかり、手拍子に合わせて角田の顔を蹴りあげる。

   スタジオから鬼の面の川島登場。

川島「あかりはどこだ、あかりはどこだ」

あかり(不機嫌)「はあ?」

飯塚「今じゃない、今じゃない」

あかり「誰なの?、アンタ」

川島「お前を誘拐しに来たぞーい」

あかり「どいつもこいつもバカにやがってっ」

   あかり、川島を殴り倒し、タコ殴り。

飯塚「社長っ、もうどうすんすかこれ」

升野「ああーっ」

   升野が構えに入る。

升野「ギャラクシー・パッション!」

   ギャラクシー・パッションの放出で、川島とあかりがひっくり返る。

   今だ、とあかりを押さえる川島と升野。

あかり「ええっ?、なに?」

飯塚「ひどい。今ギャラクシーパッションの出し時だった?」

   川島、ガムテープであかりを後ろ手に縛り、豊本がアイマスクを被せる。

飯塚「なんだこの生々しい絵面はっ?、見てられない」

升野「スタンバイさせてくる」

   升野、スタジオへ。

豊本「すまないあかり、俺たちは誘拐犯に脅されて、仕方なくやってるだけだ」

あかり「なんでーっ?」

豊本「黙れこのアマっ」

   豊本、テープであかりの口を塞ぐ。

   川島と2人であかりを運んでいると、

   スタジオから充希とオニゾウ登場。

充希「ええーっ?、何やってんすか」

川島「見りゃわかるだろ、今あかりを誘拐してるんだっ」

充希「誰か、助けるみたいなの無いんですか?」

豊本「ちょっと、そこどいてっ」

角田「何がどうなってんだよ、教えてくれって」

   豊本、すがりつく角田を投げ飛ばす。

豊本「後で説明するからーっ」

充希「この、くたばれ誘拐犯。行けオニゾウっ」

   オニゾウ、川島を投げ飛ばし、タコ殴り。

充希「ボッコボコにせよ、ボッコボコ」

飯塚「死んじゃう、怪我がどんどん悪化していく」

   飯塚、充希にすがり寄る。

飯塚「君も落ち着いて」

   充希、飯塚を振り払う。

充希「こんな時に落ち着いてられっか。お前さん方の血は何色だなすーっ、行けえっ」

飯塚(笑)「キレると凄い方言になるな」

充希「行けっ、もういっちょっ」

飯塚「とにかく、違うから」

充希「違う?……誘拐犯じゃねえのか?」

   オニゾウ、手を止める。

豊本「いや、誘拐犯!、誘拐犯!」

   オニゾウ、再び川島をタコ殴り。

充希「くたばれ誘拐犯っ」

飯塚「違うからっ、なんなの?、急なその正義感はなんなの?」

充希「お前らこそなんなんだ?、都会の人は冷てえ冷てえって聞いとったけど、ここまでとは知らなんだなあーっ」

   川島、あがいてオニゾウを転ばせ、上手へ逃げ出す。

充希「追えーっ」

   充希の檄で立ち上がるオニゾウ、会議机を回って豊本を殴り、

豊本「おわっ」

   角田を殴り、

角田「痛てえっ」

   川島を追って上手にはける。

飯塚「なんでわざわざ遠まわりして2人殴ったんだ?」

   升野、スタジオから出てくる。

升野「ちょっと、あかりは?」

   充希、あかりの拘束をほどく。

升野「あれ誘拐犯は?、なんで(あかり)寝てんの?、おい、あかりに絵描かせるスタンバイ出来てるぞ」

飯塚「何の絵描かせるんですかこの状況で」

充希「あかりさん、スタジオに行きますよ」

   あかり、まだ口にテープ。

   何かふがふが言っている。

充希「とりあえず、立って」

升野「どういうこと?」

   充希、あかりをスタジオに放り、飯塚たちに興奮して捨て台詞。

充希「お前たちみたいなの野放しにわーわーわーっ」

飯塚「はあっ?」

   充希、スタジオへ。

升野「何?、あいつ。あいつ、何?」

   升野も2人を追ってスタジオへ。

豊本「くっそ、あのオニギリ野郎め」

飯塚「どういう状況なの?、なんでスタジオ連れて行ったのよ。ちょっと、テレビ」

   飯塚、テレビをつける。

   照明薄明りに。

豊本「違う、違うんだ、さっき俺油断しただけで」

   豊本、会議机の上の王冠を手に取る。

豊本「チャンピオンはこの俺だ」

飯塚「やかましいわ」

豊本「OHシット!」

   飯塚、豊本の背中を蹴り倒す。

角田「なんだ、一体どうなってんだよ」

   飯塚、角田にビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「教えてよ」

   ビンタ。

飯塚「黙っとけ」

角田「全然ついていけないんだけど」

   飯塚、反対の頬もビンタ。

角田「あ、こっち駄目なんだよ痛いもう」

   飯塚、モニターチェック。

   2階の通路にUFIの後ろ姿。

   『てんさいがはくあかりんに』の習字を掲げている。

   そこへ充希が来て、しゃがむ。

充希「あかりさん、おねげえします」

   あかり、泣きながらボードを手に、

   習字の『に』の隣りへ走り出る。

飯塚「あかりちゃんだ」

あかり「皆さん聞いてくださいっ」

   あかり、高速でボードに筆を動かす。

飯塚「良かった、一応絵は描いてるみたいだ」

あかり「コイツが、コイツが私を誘拐しようとした男ですっ」

   ボードをめくると、鬼(川島)の絵。

飯塚「そっちかいっ」

あかり「この鬼のお面をかぶった男に、私はひどい目に遭ったんです。突然手足を縛られて、私は成す術もなく......」

   あかり、号泣。

飯塚「何このシュールな放送、後ろの『てんさいがはくあかりんに』の習字もまったく意味わからないし。これ、混乱するぞ?、視聴者」

   いつのまにか充希と共にUFIの脇で見守っていた升野。

升野「これしかない」

   升野、立ち上がると、UFIの習字を並び替えていく。

あかり「皆さん。皆さんの力が必要です」

飯塚「升野さん、何やってんですかもう。わけわかんねえよ」

あかり「この鬼の仮面をつけた男を」

豊本「おいおい升野」

飯塚「おしまいだよ、もう」

あかり「もしかしたら、この近くをまだ逃げてるかも知れない。皆さんの身にも何が起きるかわかりません。だからみんなでコイツ(鬼)を捕まえましょう」

   升野、並び変え終えるとはける。

   習字は『さいあくはんにんてがかり』の並びに。隣りに鬼の絵。

あかり「この、最悪の犯人の手掛かりを、お待ちしています」

飯塚「すげえ升野さん、そっちで成立させた」

充希「はい、CM入りました」

あかり「怖かった、私怖かったー」

   あかりを抱き止める充希。

充希「あかりさん、頑張ったな。勇気出したな」

   飯塚、テレビを消す。

   照明点灯。

角田「一体何がどうなってんだよ」

   角田、疲れて仕切り板の向こうへ。

飯塚「いやでもなんかこれ、大事になっちゃってない?」

   上手から江田島が登場。

飯塚「あ、来た」

   飯塚、頭を下げる。

飯塚「すいませんでしたっ」

江田島「素晴らしい。感動しました」

飯塚「え、いいんですか?」

江田島「だって、ニャンコ先生、絵描いて披露してくれたでしょ?、あの犯人がどうとかこうとかって、演出なんでしょ?、私その前の流れ見てなかったんでよくわかんない」

飯塚「あ、そうすか。じゃ良かったです」

   角田、仕切り板から登場。手には原稿。

角田「よっしゃよっしゃ、今夜はよっしゃだっ、来たぞ来たぞ、歌詞のFAX一通目だよ。絵が浮かぶんだよ、ちょっと聞いてくれ」

    角田、弾き語りを始める。

角田「♪ 中肉中背のちょっと怪しげな男が

    テレビ局の方から 泣きながら走ってきました

   ......なあ?、絵が浮かぶだろ?」

飯塚「それ、犯人の目撃情報じゃないすか」

角田「はあ?」

飯塚(FAXを手に)「ウソでしょ、視聴者本気にしちゃってんじゃん」

川島「飯塚......俺、逮捕されんのか?」

飯塚「こっち来ないで」

   暗転。

 

   背景デジタル時計。早朝6時へ。

   角田、ひとり会議机でFAXを読んでいる。

角田「これも違うしよ。もう全然違うじゃねえかよ、もう来ないなこれ」

   飯塚、歯磨きしながら上手から登場。

飯塚「角田さん、ずっと起きてたんですか」

角田「なんだグッスリ仮眠ですか?、いい御身分だなまったくよ。いいよなお前達は、どのコーナーも結局評判いいみてえだしよ。あかりちゃんのだって反響凄かったんだろ?、それに比べて、これ全部(FAX)目撃情報だよ、やってらんねえよ。いいなあ、危機感のねえ奴らはよ」

飯塚「流石にこの時間は大丈夫でしょう、当たり障りのないコーナーでしたし。『幸せカップルさんこんにちは』でしたっけ?」

   飯塚、リモコンで音量を上げる。

角田「音量上げんじゃねえよ」

飯塚「なんすか」

角田「俺はな、ひとり徹夜で自分の仕事に集中してるんだよ」

   升野、スリッパ片手にスタジオから登場。

角田「幸せカップルの話なんか聞きたかねえんだよっ」

   升野、角田の口にスリッパを押し込む。

升野「徹夜してんのはお前だけじゃねえんだよっ、甘ったれんな喰えホラ、全部喰えよ」

   角田、激しく噎せる。

角田「吐いちゃうぞお前っ」

   角田、噎せすぎて涙目。

角田「スリッパは履くもんだ、口に入れるもんじゃないっ、覚えとけっ」

   角田、泣きながら仕切り板の向こうへ。

   飯塚、こみ上げる笑いが止まらない。

升野「飯塚。人間にスリッパを食べさせると、あんな顔になるんだな」

   飯塚、爆笑。

飯塚「升野さん、ずっと起きてたんですか?、眠くないんすか」

升野「ああ。俺は体中の気を脳に直接ギャラクシーパッションさせることで、3日くらいは起きていられるんだ」

飯塚「そんなことして大丈夫なんですか?」

升野「ただまあ、翌日の反動とか凄い。幻覚見えたり、口から涎が止まらなかったり、後ずっと瞳孔は開いてるけど逆にそれが気持ちよかったり。病みつきになるぞ?」

飯塚「すげえヤバそうじゃねえか」

升野「だってお前今のコーナー酷いことになってるぞ」

飯塚「幸せカップルさんの話聞くだけでしょ?」

   飯塚、テレビを見る。

飯塚「あれ?、資料だともっと、純情そうな微笑ましい感じのカップルじゃなかったですっけ」

升野「またなんだよ。また、来るはずだったカップルが連絡取れないんだよ」

飯塚(顔を歪め)「なんすかこれ、元ヤン丸出しのバカップルじゃないすか。コイツらとUFIでトークしてんですか?」

升野「そうだよ。コイツら、ほとんどパチンコの話しか、あとエロい話しかしないから、聞いててどんどんムラムラしちゃって、下半身がギャラクシーパッションしちゃってさ、仕事にならねえんだよ」

飯塚「下ネタに使うなよギャラクシーパッションを。だってUFIは一応アイドルですよ?」

升野「唯一互角に渡り合えそうなゴリナはマラソン行っちゃってるからさ、あと深夜だから年齢的にMCはももりん一人しかいないでしょ?、もうどうしようもないんだよ、好き勝手やられ放題だよ」

飯塚「あ!、コイツら生放送で何やって。あーあ、すんごいエロいキスしてる」

   升野、テレビを凝視。

飯塚「もう舌が、舌が凄いよ。ももりん下を向いて顔赤くしてるだけじゃないすか」

   角田、仕切り板の上から覗く。

   升野、腰を丸める。

飯塚「ちょ、何反応してるんですか。反応してるでしょ、升野さんも。いいから指示出して来てくださいよっ」

升野「ちょっとトイレで1回ゼウスしてくる」

飯塚「ゼウスをそういう意味で使うなよ」

   升野、ティッシュ箱を取って、スタジオへ向かう。

飯塚「な!、ティッシュ置いてけっ」

   飯塚、ティッシュを奪い返す。

飯塚「行けっ、早く指示をっ」

   升野をスタジオへ追い払う。

   角田が仕切りから出てテレビにかぶりつく。

飯塚「何をしてんだ、お前はっ」

   飯塚、ティッシュを角田に投げつける。

飯塚「何、音量上げようとしてんだお前は」

角田「ティッシュは投げるもんじゃない!、覚えとけっ」

   角田、必死の顔で引っ込む。

   飯塚、笑って膝から崩れる。

   なんとか立ち上がり、ティッシュを戻す。

飯塚「もう何もかも上手くいかねえよ」

   エレベーターが開くと、中であかりと充希が楽しげに笑い合っている。

あかり「いやいや、それはないでしょ」

充希「でも、あかりさんなら割とアリじゃないですか?」

   2人、笑って出てくる。

飯塚「何?、こっちはどういうことなってるの?」

あかり「カラオケオールして、始発まで徹夜でお喋りして来ました」

飯塚「どんだけ仲良くなってんだよ。君(充希)、ADだよね?」

充希(即答)「そうです」

飯塚「そうですじゃねえよ。仕事しろ、仕事」

充希「はい、えへへ」

あかり「いいじゃないですか。私が誘ったんです。因みに、社長と豊本さんは江田島社長を連れて3人で呑みに行ってます♪」

飯塚「なんでみんな普通に出かけちゃってんだよ。おかしいだろうがっ」

   角田、仕切りから出てくる。

角田「ADお前」

充希「はい」

角田「FAXまだ来てねえのかFAX」

充希「ああ、もしかしたらスタジオにまだあるかも知れない」

   充希、スタジオへ駆け込む。

角田「早くしろよ、お前。身体もたねえよ、曲作る前によ」

   飯塚、また笑ってしまう。

   充希、FAXを手に戻ってくる。

充希「えへへ、これで全部です」

角田(受け取り)「来てんじゃねーかっ」

充希「すいませーん」

角田「早くよこせよ、お前......本当によ(目を通す)。お、いいじゃねえか。えっと最初が、これか?」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 駅前のコンビニで見かけました

 ......なんかこれじゃねえんだよなぁ。

 (FAXをめくる)

   ♪ 寂しそうに土手を歩いていました」

   充希、ノリノリ。

   あかり、不機嫌顔。

角田「素人は所詮こんな感じかな、まあ。

 (FAXをめくる)

   ♪ いかにも悪そうな人相でした

   これ全部目撃情報じゃねえかっ」

   角田、チャンチャンとカッティング。

飯塚「ただのギター漫談じゃないすか」

角田「どうなってんだよこれ、ちゃんと分けとけよ。目撃情報と、曲の歌詞とっ」

充希「あ、はい。すいません」

あかり「そうやって頭ごなしに怒鳴ることないでしょ?、飯塚さんからもなんとか言ってやってください」

飯塚「ちょっと今、それどころじゃないんだよ、こっち(テレビ)がさあ」

あかり「さっきからなんなんですか、その言い方。彼女は、私の命の恩人なんですよ」

飯塚「ああ、そっか、まあそうだよね。俺らもさ、犯人に脅されてあんなヒドイこと言わされて、辛かったんだよ?」

あかり「あの最悪な犯人の手掛かりが、こんなに集まって」

   あかり、ワナワナと震える。

あかり「それも全部......」

   あかり、ちょっと照れる。

あかり「ミッキーのお陰だよ」

   充希、ポカーンと呆ける。

充希「ミッキーって、私の事ですか?」

あかり「うん、充希だからミッキー。可愛くない?、私の事は、あかりんって呼んで」

   充希、嬉しくて笑いだす。

充希「いや、そんな恐れ多いですよ、そんな都会風のコミュニケーションは私には早いです」

角田「何がミッキーだよオラアっ、どぶネズミがあっ、働けドブネズミっ」

あかり「どうせテメエに歌詞の応募なんて一通も来てねえんだよ」

角田「いいや、来てるね、一通くらい来てる。じゃあお前アレだよ、もし来てたらよ、メアド教えろよ?」

あかり「なんで?」

角田「あっ?」

あかり「なんでっ?」

角田「ごめんなさいっ」

飯塚(テレビ見て)「あーあ、これカンペ出てるけど、ももりん絶対読めてない時の顔だよ。ちょっと行ってくるわ」

充希「あ、私も行った方がいいですか?」

飯塚「いい、いい。君はFAXの仕分けをしてて」

充希「はい......」

   飯塚、スタジオへ。

充希「私、やっぱこの仕事向いてないのかなあ」

角田「明らかに向いてないわなあ」

あかり「黙ってろ、このハゲ」

角田「はいはい、じゃあハゲは裏で育毛でもしてこようかなーっ」

   角田、仕切り板の向こうへ。

あかり「ミッキー、あんなハゲの言うこと気にすることない」

充希「ありがとうございます。あかりさんは、素敵ですね。凄く可愛いし、凄いお洒落だし」

あかり「そんな、凄く可愛いなんてことは無いよ。普通に可愛いくらいで、うん」

充希「それに、ニャンコ先生として、ちゃんとやりたい事もやっておられますし」

あかり「いや、やりたい事をやっているって言うか、ただ漫画が好きなだけって言うか。あ、そう」

   あかり、長椅子に置いたバッグに駆け寄り、中から資料を取り出す。

あかり「これ見て」

   資料を充希に渡す。

あかり「私が描いた、新作漫画の設定資料」

充希(めくって)「へえー」

あかり「『地獄大戦ヘルマゲドン』って言うんだけど」

   あかり、充希の表情を下から覗く。

あかり「どう?」

充希「うん」

あかり「ふふ」

充希「普通に......グロいです」

あかり「わかる?、いいよねグロいよね、これ」

充希「グロいです、明らかにグロいですね」

あかり「後で、感想聞かせて」

充希「はい、へへ......私も、あかりさんを見習わないと。私、小さい頃からこの、みちのくササヒカリテレビを見て育ったんです。素朴だけどあったかい番組がいっぱいあって、私も、大人になったらそんな番組作りたいなあって思って頑張って入社した......んですけどねえ」

あかり「出来るよ。ミッキーなら出来る」

充希「いやあ、ありがとうございます。あ」

   充希、巻いていたポーチからカセットテープを取り出す。

充希「これ、さっき言ってた、私が昔大好きだった子供番組自分で録音したやつなんですけど、もし良かったら、聞きます?」

あかり「いいの?、聞く聞く。(受け取って)凄い......メタルテープじゃん」

充希「そうなんですよ、やっぱ保存用はメタルですよね」

   充希、テンション上がって会議机のラジカセにテープをセットする。

   あかり、追って机のそばへ。

充希「ちょっと待ってください、今かけますから」

   充希、再生。

カセット「『泣くなオニゾウ』『好きなものは好き、の巻』」

   充希、あかりにパイプ椅子をすすめる。

   あかり、椅子に座る。

   カセットからBGMが流れ出し、充希はノリノリで踊る。

カセット「『ここは、鬼だけが住んでいる鬼ヶ村にある、鬼学校。今日も、オニゾウくんと愉快な仲間たちが、何やら騒いでいるようじゃ』」

鬼子の声「うえーん。うえーん」

オニゾウの声「あれ?、誰かが泣いてる。この泣き声は……」

   充希、嬉しそうにあかりに教える。

オニゾウの声「『鬼子ちゃん』」

充希「鬼子ちゃん」

鬼子の声「『飼っていた子犬が、いなくなっちゃったの』」

オニゾウの声「『ええ?、探してあげるよ。どんな犬?』」

充希「ふへへ」

鬼子の声「『じゃあ、口で説明するのは難しいから、絵で描くね?』」

   絵描き歌が流れ出し、充希がノリノリで身体を揺らす。

   あかり、遮るようにサッと立つ。

あかり「これって結構長い?」

充希「あ、一回止めます一回止めます」

   充希、俊敏にカセットを停止させる。

充希「......ここまで、どうですか?」

あかり「うん……オニゾウ可愛い、めっちゃ可愛いーっ」

角田「全然可愛くねえよっ」

   角田が仕切りから出てくる。

角田「静かにしろっつってんだよっ」

   スタジオからオニゾウ登場。

角田「なんだよ」

   オニゾウ、角田めがけてダッシュ

角田「来んな、来んなよっ」

   角田、仕切りの向こうへ。

   オニゾウも後に続き、照明は真っ赤な血の色に。

   角田がボコられている音と悲鳴。

角田「ごめんなさいっ、可愛いっ、可愛いですっ」

   オニゾウ、タオルで血を拭きながら出てくる。

   怯えるあかり。

あかり「ああ......(充希に)可愛いねっ♪」

充希「あははっ、そう思いますか?、じゃあ。じゃあじゃあ、これ」

   充希、テープを抜く。

充希「私、入社してから、台本を手に入れて、歌詞カードサイズになって入ってるんで」

   テープをケースに入れ、あかりに渡す。

充希「もし良かったら、お貸しします」

あかり(大げさに)「ええーっ?、いいのーっ?」

充希「いいんですよー、そんな」

あかり「ありがとう」

充希「もう、あかりさんくらいですよ、そんな風に味方してくれるのは」

あかり「そんな事ないって。それに、この番組、またミッキーが復活させて、人気番組にしちゃえばいいじゃん」

充希「......ああ」

あかり「あと、私の事は、『あかりん』でいいって言ったでしょ?」

   充希、照れる。

充希「いや、もう、私なんか全然駄目なんですよ、自分に自信なくて。キャラクターの着ぐるみも、ほとんど全部処分されちゃって、さっきのオニゾウくんくらいしか、もう残ってなくて。私ばっかりね、そこにしがみついてても、ねえ」

   充希、長椅子に座り意気消沈。

あかり「元気出して......ミッキー」

充希「へへ。それに、こんなんだと、憧れのあの人にも、バカにされちゃうと思うし」

あかり「えっ?、ちょっと待って何それ」

   あかり、はしゃぐ。

あかり「もしかして、恋バナ?」

充希「いやいやそんな、恋バナなんて大層なもんじゃないんですけど。ちょっと遠くで見てるだけで、カッコイイなーみたいな」

あかり「駄目だよ、そんなんじゃ。恋愛は早いもの勝ちだよ。通り過ぎた後じゃ掴めないんだよ」

   あかり、興が乗ってくる。

充希「いやでも、私なんかじゃ釣り合わないし」

あかり「大丈夫。ホラ、ホラ」

   あかり、充希を前に立たせる。

あかり「ミッキー超可愛いから、大丈夫。どんな人でもいける」

充希「何言ってるんですか、もう」

あかり「誰でも大丈夫だって。どんな人なの?、ねえ教えてよ。協力するからさあ」

充希「本当ですか?」

あかり「うんっ、もちろん。私が、恋のキューピッドになってあげるーっ」

充希「きゃあーっ」

   2人、はしゃいだ後で、

充希「......恥ずかしい」

あかり「教えてよ」

充希「誰にも言わないでくださいよ?」

   あかり、周囲を窺い、

あかり「誰もいない」

   充希、あかりに耳打ちしようとして、また照れる。

あかり「ちょっ、はーやーく」

充希「......有名な」

あかり「うん、うん」

充希「プロデューサーの人なんですけど」

あかり「ああ、同じ局の人かっ、でも局の人は食中毒でしょ?、じゃあ、お見舞い行こう」

   あかり、充希の手を引こうとする。

充希「いや」

あかり「ねえ、行こっ、行こっ、行こうっ」

   あかり、ピョンピョン跳びはねる。

充希「違う、違う。違って、今ここにいる人で」

あかり「うんっ」

充希「仕事が出来て」

あかり「うんっ、それでっ?」

充希「割かしコンパクトな感じで」

あかり「うんっ」

充希「大ファンなんですよっ、升野さん」

   あかり、硬直。

   露骨にテンションが下がる。

あかり「うん......」

充希「えっ、えっ、ダメですか?」

あかり(即答)「いや駄目でしょ、あの人は。いやー、なんか偉そうだし素直じゃないし、口悪いし」

充希「でも女の子に対して真面目な感じだし」

あかり「いや、そういうんじゃないんだよねアレは。それに、自分の必殺技にギャラクシーパッションなんて付けちゃう人だよ?」

充希「そうなんですよっ、(フリ付きで)ギャラクシーパッション!」

   充希、長椅子の裏から大きな色紙を持ちだす。

   『ギャラクシーパッション ますの』と毛筆で書されている。

充希「これ、これ」

あかり「......何?、これ」

充希「これ、あの升野さんのトークショーに行った時に、『ギャラクシーパッション』書いてくださいってお願いしたら、名前まで付けてくれて。直筆のギャラクシーパッション

あかり「......どうかと思うけどなあ」

充希「まあ、雲の上の人だってことはわかってるんですけど。でも、どんな人でも関係ないって、さっき......(勇気を出して)『あかりん』が言ってくれたから。だからちょっと私、がんばってみようかなと思って」

あかり「......ああ。うん」

   あかり、作り笑い。

あかり「応援するっ」

   仕切り板から顔を出す角田、ニヤリ。

あかり「恋愛の神様は、なんとかってね」

充希「じゃあ私、頑張ってみますね」

あかり「うん......」

   へとへとの升野、スタジオから登場。

升野「あー疲れた。もうなんだこの番組は」

   疲れて長椅子に倒れ込む。

   充希、その裏に色紙を隠す。

升野「ちょっと誰か、お茶ちょうだい、お茶。喉がカラカラ」

充希「チャンスの神様。あ、升野さん、私がお茶、淹れてきま……」

   あかり、ビシッと挙手。

あかり「私が淹れてきます」

充希「え?」

升野「いや、どっちでもいいから、早くしてくんないかな」

あかり「升野さん、濃い目が好きでしたよね」

升野「え?、ああ」

あかり「ちょっと待っててください」

充希「あかりん?」

   あかり、会議机で充希に手招き。

   充希、あかりのそばへ。

あかり「こういうのには、段階ってものがあると思うのよね。早過ぎると思うの、ミッキーには。危険」

充希「でも、恋は早いもん勝ちだって」

あかり「あーもう、恋はケースバイケースなの。悪いようにはしないから、私の言うこと聞いて。わかった?」

充希「はあ」

あかり「うん」

   升野、クリップボードをめくる。

升野「あ、ちょっとADさんさ、こっち来てカンペ作るの手伝ってくんない?」

充希「あ、はい」

   充希、嬉しそうにあかりを見る。

充希「わざと二人きりに......私に出来ることであればなんでも」

   あかり、ダッシュで2人の間に割りこむ。

あかり「待って」

充希「ええっ?」

あかり「やっぱり、お茶はあなたに任せた」

充希「あかりん?」

あかり「あなたの本気に、懸けてみたくなった。思い切り淹れてみなよ、お・茶」

升野「あのさ、お茶早くしてくんないかな」

あかり「ほら、チャンスの神様には前髪しか生えてないんだよ?」

充希「でもさっきケースバイケースって」

升野(テレビ見て)「あ、ヤバいもうCM明けてんじゃん、行かなきゃ。お茶、淹れたらスタジオ持ってきてっ」

充希「あ、はい」

   升野、スタジオへ。

充希(嬉しそうに)「これって、私が淹れて持って来いってことだよね」

あかり(冷たく)「どうだろうね」

充希「え?」

あかり「そこら辺は、ケースバイケースじゃないの」

充希「あかりん、どういうこと?」

あかり「あ、いや」

   あかり、笑顔を取り繕う。

あかり「最初はもちろん、2人きりにしてあげようって思ってのことだったよ」

充希「うん、うん」

あかり「でもさ、最初から2人じゃ、ミッキー緊張しちゃって喋れないでしょ?」

充希「うん、うん」

あかり「だから、私がいた方が、色々サポートできるかなって」

   充希、頭をかいてパニック。

充希「あかりんのサポートの仕方が複雑過ぎる。ねえ、これが都会の恋のやり方なの?」

あかり「ああもう、考え過ぎちゃ駄目。頭でっかちになってても前には踏み出せないっ」

充希「ごめん、ちょっと静かにして」

   あかり、大声で充希の腕を揺さぶる。

あかり「ミッキーっ、ねえ聞いてっ」

   角田、嬉しそうに出てくる。

角田「どうしたあ?」

   オニゾウにやられたアザがある。

あかり「角田」

角田「どうしたミッキー、よくないぞ?、せっかくこうしてあかりんが言ってくれてるんだから、そんな言い方ないだろうが」

充希「いや、でもちょっと、騙されてるのかな、とか思っちゃって」

あかり「いや。そんなことないよ」

角田「(大声)そんなことないよ、ねえーっ?、あかりんは友達思いの、とっても優しいイイ子なんだからあ」

あかり「そ、そうだよ、そうに決まってんじゃん」

角田「『誰かにとられたくないから邪魔をする』、そんな事は考えないよねえーっ?」

あかり(作り笑顔)「はははは」

角田「だってそもそもよ?、あかりんは升野さんの事なんてなんとも興味ないんだから。むしろね、(大声)嫌いなんだよねえーっ」

充希「そうだったんですか?!、だからさっき升野さんの事、悪く」

   充希、頭を下げる。

充希「すいませんっ、なんか私、変な勘繰りしちゃって」

あかり(作り笑顔)「ああ、うん」

角田「あははは、(充希に)良かった」

充希「良かった」

角田「(あかりに)良かった」

あかり「良かった」

角田「誤解が解けて良かった、あははは」

   充希、あかりの前へ。

充希「ただ、これだけはあかりんにわかって欲しいの。あかりんは升野さんのこと好きじゃないかも知れないけど、でも升野さんにはいい所がいっぱいあるの。だから、升野さんのこと嫌いにならないであげて。もっと、好きになってあげて。ね?」

あかり(作り笑顔)「うん。ふふふ」

   充希と角田がはしゃぐ隅で、

   赤いライトの当たるあかりの顔が憎悪で歪んでいく。

   飯塚、スタジオから出てくる。

飯塚「なんなんだよあのバカップルはよ、さんざんノロけたかと思ったら今度は痴話げんか始めやがってよ」

あかり「あの女が憎い」

飯塚「ええーっ?、さっきまであんな仲良かったのに?」

充希「あ私、ちょっとお茶淹れてきまーす」

角田「行ってらっしゃーい」

   充希、上手へはける。

角田「くっくっく。飯塚、俺にもチャンスが巡ってきたぞ、おい」

   あかり、角田を睨みつける。

角田「これが上手くいけば、俺の恋のライバルはいなくなる」

飯塚「は?」

あかり「この卑怯者っ」

角田(高笑い)「はははははっ、あかりいーっ、皮肉なもんだなーっ、どうだーっ?、自分で自分の首を絞める気分はーっ」

あかり「クソ野郎っ」

飯塚「めんどくさい匂いしかしない」

角田「まずは俺のイメージを上げる事よりも、敵を減らす事の方が先決なんだよ。友情?、愛情?、はかりにかけるのは難しいですよねーっ、ならばどうでしょう?、両方とも壊してしまえばーっ」

あかり「うわあーっ」

   あかり、髪かきむしってパニック。

飯塚「これは関わっちゃまずい」

角田「今からミッキーがお茶を持ってきます。升野さんがそれを受け取る。その時触れ合う手と手。そう言うところから、恋って始まるんじゃねえのかなあ」

   あかり、髪振り回してパニック。

   悲鳴を上げてしゃがみ込む。

   あかりに覆いかぶさるようにして高笑いを浴びせる角田。

角田「はっはっはーっ、あかりーっ、苦しめーっ」

   お茶を淹れた充希が戻ってくる。

充希「あの、お茶淹れてきました」

飯塚「ありがとう、じゃ俺これ持って行くね」

   飯塚、湯呑みを受け取る。

角田(パニック)「おーいっ」

飯塚「え、何?」

角田「触れ合えなーいっ」

   角田もしゃがんで発狂する。

   あかり、奇怪な笑い声を上げて立ち上がる。

あかり「うははははは、うははははは」

   そして充希に振り返る。

あかり「ついてなかったね?、ミッキー」

角田「くっそーっ」

飯塚「何このアングラ劇団」

   角田、立ち上がる。

角田「元気出せよ、まだチャンスあるぞミッキー。何しろミッキーには俺たちがついてんだから、(あかりに)なあー?」

   あかり、超無理やりに笑顔を作る。

あかり「......ファイトぉ」

角田「なあー?、あはは。そうだミッキーさ、やっぱり想いを届けるには、歌がいいよ」

充希「歌?」

角田「うん。俺がね、ミッキーの想いを歌にして、升野さんに届けてやるよ」

充希「え、本当ですか?」

あかり「ちょっ、余計なことしないで」

充希「あかりん?」

あかり「あ......や、自分の想いは、自分の口から伝えた方が、価値があるんじゃないのかな?、って」

   充希、しばし考える。

充希「......そっか!、じゃあ私、自分の口から、ちゃんと歌って伝えます」

角田「よく言った、頑張り屋さんだ。うふふ、頑張ろう」

あかり「......」

角田「歌だから、発声練習やっとこうか」

充希「はい」

   2人、前を向く。

角田「♪あー」

充希「♪あー」

角田「♪今夜はー」

充希「♪今夜はー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田「♪昨日もー」

充希「♪昨日もー」

角田「♪よっしゃだー」

充希「♪よっしゃだー」

角田・充希「♪明日はどっちだー」

   2人、満足して笑い合う。

角田「いいじゃん」

   あかり、苛立って床を踏み鳴らす。

あかり「そーもーそーも、そんな事してるヒマあるならフィナーレの曲作りなさいよ」

   エレベーターが開き、へべれけ状態の川島と豊本が出てくる。

川島「あーっ、帰りましたよーっ、いいお酒でございましたーっ」

豊本「ございましたねーっ」

   あかり、川島に泣きつく。

あかり「社長いいところに、聞いてくださいっ」

川島「おお?、どうしたオニゾウくん」

あかり「......あかりです」

川島「あかり。はい」

   あかり、角田を指さす。

あかり「あのハゲ。やらなきゃいけない曲作りもしないで、全っ然作る必要のないどーっでもいいようなラブソングなんて作ろうとしてるんですっ」

充希「あかりん?」

   あかり、充希には笑顔を作ろう。

あかり「そりゃもちろん、私たちにとっては凄く大切なことだよ?、でも」

   角田、代わって川島のもとへ。

角田「違う違う社長、我々、僕とあかりちゃんがですね、彼女の恋の応援をしていまして、で彼女が愛の告白をする際に、どうしても、ラブソングが必要なんでありますっ」

川島「わかりましたっ」

角田「あははは」

川島「いいね。応援でしょう?、頑張れよ」

角田「さすが社長」

あかり「それでいいんですか?、だってまずは、フィナーレの曲作ってからでしょう?」

角田「残念ながらな、歌詞のFAX全然来てねーんだよ、ざまあねえなっ」

あかり「笑うとこ間違ってますからね」

川島「おい、歌詞だったらこの届いてるFAXの中から適当に選んじゃえばいいんじゃねえの?」

あかり「そうですね、無いなら無いなりに頭使って作ればいいんですよ」

川島「俺が適当に選んでやるからさ、それを告白のラブソングみたいにすりゃいいんだよ」

あかり「え?、そっちですか社長」

角田「なるほどねっ」

充希「しゃあっ、あかりん、私覚悟さ決めた。升野さん呼んできてもらっていい?、呼んできてもらえるよねっ?」

   あかり、勢いに気圧される。

充希「ねっ?」

あかり「うん」

充希「行ってっ」

あかり「うん」

   あかり、恐る恐るスタジオに向かう。

あかり「あーっ、痛い痛い」

   突然その場に倒れ込んで足首を押さえる。

あかり「持病の痛風があー」

充希「つ、痛風だったの、あかりん?」

あかり「一歩も動けなーいっ」

充希「大丈夫?」

角田「じゃ、俺が代わりに呼んで来てやるからな」

   スタジオへ向かう角田。

   あかり、立ち上がって角田を止める。

充希「あかりん、痛風は?」

あかり「治りましたーっ」

   あかり、角田を投げ飛ばす。

   そして倒れた角田の腕を痛めつける。

角田「痛てて」

   スタジオから升野が出てくる。

充希「升野さん」

升野「......あかりと角田がギャラクシーパッション

あかり「いや、違います。違うんです」

   川島、充希にFAXを渡す。

川島「これ歌えー、歌え歌え」

充希「あ、はい」

升野「歌?、歌ってなに?」

充希「私、今から歌うんで」

あかり「ぎゃあーっ」

   あかり、叫んで止めに入ろうとするが、

   角田に足を掴まれて倒れる。

角田「そうはさせねえぞっ」

升野「何イチャイチャしてんの?」

充希「あの、私の秘めた想いを今から歌います。聞いてください」

升野「想い?」

   充希、FAXに目を通す。

充希「駄目こんなの恥ずかしくて歌えない」

   角田、立ち上がる。

角田「代わりに」

   あかりの背中にとどめのパッション。

角田「パッションっ」

あかり「ぐわあっ」

角田「歌ってやるからな」

充希「この人が、私の代わりに歌います」

   角田、パイプ椅子に置いたギターを構える。

   あかり、息も絶えだえ体を起こす。

あかり「私の、代わりに......」

充希「私の代わりに」

升野「誰の代わりに?、ねえ」

   充希、角田にFAXを向ける。

角田「歌うぜっ」

充希「はいっ」

   角田、弾き語り。

角田「 ♪ 川ちゃんがくれた

   限界まで軽量化したパンティ 」

   川島、慌てて紙を奪い取る。

   別の用紙を差し出す。

川島「こっち」

升野「で、君はそういうの履いてるの?」

充希「履いてません」

升野「あかりが履いてるの?」

あかり「いや履いてないですよ」

角田(川島に)「告白こっちなのね?」

升野「なに?、告白って」

   充希、改めてFAXを角田に向ける。

あかり「実は」

   角田、弾き語り。

角田「♪ 今日のUFIライブを中止にしないと 大変なことになる 」

あかり「え?」

   充希、歌にノッている。

角田「♪ 場合によっては死者も出るかも知れないが

   それでいいのか 犯人より 」

   角田も充希も「?」とFAXを覗く。

川島「やー、いいぞ角田―」

角田「ちょっとこれ、脅迫状って書いてあるけどっ?」

   升野、FAXを受け取る。

川島「適当に選んだからわかりませーん」

升野「こんなFAX届いてたのか」

あかり「升野さん、実は、私たちが告白したかったことは、このことだったんです」

充希「え、え?」

あかり「たーいへーん。ミッキー、恋の話は、後回しだよ」

充希「あかりん?」

あかり「しょうがない。まずは、この話を解決しないと。うふふ」

充希「なんでそんな嬉しそうなのかがわからない」

   飯塚、怒りながらスタジオを出てくる。

飯塚「なんなんだよ、あのバカップルよお。なんで今、このタイミングで浮気発覚してんだよ。なんか怨みでもあんのか?、こっちに」

あかり「飯塚さん、大変なんです」

飯塚「あ?」

あかり「UFIを狙って、妨害しようとしてる奴らが」

飯塚「UFIを妨害?」

あかり「はい。これはすべて、仕組まれていたんです」

飯塚「アイツら......そういう事かあーっ」

   飯塚、スタジオへ乗り込む。

あかり「あ、飯塚さんっ?」

   川島、へべれけで充希に絡む。

川島「告白する前にもう浮気かい?」

充希「いや、違います違います」

升野「なに?、告白って」

あかり「ああーっ、もうだから、それは今テレビに出てるカップルの話です」

川島「おーなんだそれ、面白そうじゃねえか。テレビを点けろ、豊本っ」

   会議机に寝ていた豊本、ハッと起きる。

豊本「ここはどこ?、シットは誰?」

川島「テレビを点けろ」

豊本「テレビ?」

   豊本、リモコンを点ける。

   モニターチェック。

   2階通路にバカップルの彼氏(人形)が座っている。

   そこへ飯塚が走って登場。

飯塚「テメエふざけんじゃねえぞオラアっ」

   飯塚、顔から彼氏に蹴りを入れる。

飯塚「おいコラーっ」

   次いで投げ飛ばす。

飯塚「こっち来いよオラ―っ」

   彼氏を引きずる。

川島「おい飯塚出てきたじゃねえか、なんだこれーっ」

   川島、嬉しそうに盛り上がる。

升野「コイツ何やってんの?」

飯塚「テメエさっきから黙って見てればそういう魂胆だったのかコラっ」

充希「もしかして、カップルがUFIを誘拐しようとして妨害したんじゃないかって、勘違いしてるんじゃないですか?」

飯塚「言ってみろ、お前らがぬけぬけと隠し通してたその、本心を言ってみろっ」

升野「急に知らないオッサン出てきて暴れ出したら、見てる人わけわかんねえぞ」

飯塚「あ?、やっぱり彼女のこと愛してる?、なんだよそれ。目が覚めました、これから大事にします?、当たり前だろっ」

   飯塚、熱くなって彼氏と角突き合わせる。

飯塚「大事なものを守る。それが男ってものだろう。うちの大事なあーっ」

   スタジオに拍手。

飯塚「なんの拍手だよ。見世物じゃねえぞオラアっ」

   飯塚、彼氏を片手で掲げ上げる。

飯塚「ウラアっ」

   飯塚、そのままはける。

   照明点灯。

升野「結局、なんやかんやで上手くまとまったって事なの?、これは」

川島「いいぞ飯塚、良かった」

充希「私感動しました、自分の気持ちをちゃんと伝えようと思います」

   あかり、跳びはねて妨害。

あかり「いいぞ飯塚あっ、感動したっ、ちょっとミッキー」

   あかり、充希を隅へ連れて行く。

あかり「もうこれは、飯塚さんに乗り換えるべきじゃない?」

充希「あかりん?」

升野「何か言おうとしてたよ?、なに」

あかり「升野さんっ」

   あかり、升野に詰め寄る。

升野「なに?」

あかり「大変っ、脅迫状だなんて、私こわーいっ」

升野「なんだお前?!」

   暗転。