舞台外のレヴュー - 舞台『パリピ孔明』観劇記

舞台『パリピ孔明』 | 天王洲 銀河劇場

【harmoe Advent Calendar 2024 day.11】となります。

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当記事執筆中に埋まりました。

 

今年のharmoeを語る上で良くも悪くも忘れられない舞台『パリピ孔明』のこと、記憶が完全に風化してしまう前に憶えている/メモを残している範囲で触れていこうと思います。

 

アレは一体なんだったんだろう?

舞台裏など知る由も知れる由もない、舞台外で右往左往している一般客のレヴュー。

 

 スタッフ

【脚本・演出】石田明NON STYLE

【原作】『パリピ孔明四葉タト・小川亮

 

 キャスト

諸葛孔明藤田玲【月見英子】岩田陽葵【久遠七海】小泉萌香

【KABE太人】高尾楓弥(BUDDiiS)【オーナー小林】なだぎ武

【ミア西表】立道梨緒奈【ファン1号】大野紘幸

赤兎馬カンフー】沖野晃司【唐澤】碕理人

《アンサンブル兼任》

【双葉】眞鍋杏樹(NMB48)【ミアのマネージャー】大澤信児

MASA】宮尾楓【TAKU】岩崎友泰【一夏】夏目桃佳【BB lounge ボーイ】水田達貴

【AZALEAスタッフ】浅野郁哉【秘書】木村真梨子/King boy(アケガラス)

《ラップバトル日替わりゲスト》

東京公演:DOTAMA/稲垣成弥/TKda黒ぶち/(輪入道、コロナ罹患で出演休止)

千葉翔也/MICRO(HOME MADE 家族)/盛山晋太郎(見取り図)

大阪公演:杉本青空(からし蓮根)/笹本はやて(ネイチャーバーガー)

 

【会場】

東京公演 天王洲 銀河劇場 5.3(金・祝)~5.6(月・祝)

大阪公演 サンケイホールブリーゼ 5.10(金)~5.11(土)

 

harmoeとしてのオファーではなく、それぞれのオファーが奇跡的に重なったという奇縁にして、二人が舞台少女として積み重ねてきたその結晶ともいえる舞台。

harmoe公式も本作をきっかけに、harmoe外の活動のこともharmoe公式内で積極的に名前を出していくと公言したことも印象深いです。

共演者にはかつて各々の舞台で観た方たちも多く並び、演出はもえぴも子供の頃から慣れ親しんでいただろう石田明

そして会場はスタァライト思い出の地にして三船栞子の聖地:銀河劇場。

 

すべてが二人の為にお膳立てされたご褒美のような作品になる予感がしていました。

以下、自分の感情を思い出す為にも当時のポストと交互に触れていこうと思います。

 

東京公演初日、5/3(金)。

ここまで、いかに自分が浮かれているかよくわかります。

 

そして会場のホワイエにまで入って初めて、このアナウンスを知りました。

舞台裏では恐らく寝る間も惜しんで様々な対策が取られ、その結果としての当日昼発表タイミングである事は想像に難しくありませんが、しかし寝耳に水の自分にとってショックは抑えられない。

この時点で握っていたチケットは3日と4日のみ。それでも経済事情的には大奮発です。

何より小泉さんの声は大丈夫なのだろうか。どうしてこの特別な晴れの舞台でこんな。

たしかに昨年の夏からharmoe延々交互に体調崩しているように見えたしなぁ……etc。

動揺は続きます。

それはそれとしてアクスタは揃えました。それはそれだよね。ありがとうフォロワー。

 

正直言って気持ちの切り替えは出来ていませんが、客席へ。

日替わりラップバトルゲストを迎え討つことになるラッパー役、King boy(アケガラス)がターンテーブルらしきものを弄り、劇場をクラブにして雰囲気を盛り上げる。

舞台初日を見守るという緊張感のお陰で、少し気持ちを盛り返してきました。

そして始まる本編。感想は――?

一気にポストを続けます。

 

『舞台 パリピ孔明』初日(5/3)マチネ感想。

まず原作は非常に「コンセプトありき」でウェルメイドな作品。同時に今時珍しいくらい健全な精神を保った青年マンガでもあって、それがゆえにクラブカルチャー、はたまたhiphop等のストリートカルチャー全般をスポイルしてしまう、作品の志向性と扱う題材とに齟齬のあるタイトルという印象。

それがゆえに、アニメ化した際にはやはりクラブカルチャーやラップ描写などにその齟齬が見え隠れし、「EDがミヒマルGT『気分上々↑↑』という限界」に顕著な気がしました*1

 

これらの弱点が、恐ろしく2.5次元の利点に、化ける。

まず銀河劇場の音響が意外に良く、実際に音を鳴らしてしまうだけで生じる場の臨場感。冒頭からここでアンサンブルたちが踊っていて、ステージを一種のフロアに変えてくれる。またこうしたアンサンブルの多用によって、クラブやライブ会場での孔明の奇策が、そのままコレオグラフィーとして目に愉しく入って来る。

これまたアニメでよく居心地の悪さを覚える「人々を魅了する歌姫」系の設定、なかなか万人を納得させるのは難しいからなのだけど、ここもまた純粋に、本当に英子がそのまま原作から飛び出してきたような*2岩田陽葵さんの小柄な身体から発せられる歌の迫力で自然に納得。

舞台ではシンプルに声量がものを言うという最大の利点が、たしかにアニメならくすぐったい「カリスマ的歌手」という設定を力でねじ伏せてくれる。

 

そして客降りから入るKABE太人=楓弥くんの、hiphopのスキルを基礎教養としてマスターしてるだろう、現代アイドルの本領発揮。なんというか、「ちゃんとそれっぽい」のだ。

対して「お経じゃねえか」と言われる孔明の、「ラップ風語り」これまた声と本人の圧の説得力で不思議と惹かれる。

この二人のラップが成立してる時点で見せ場としてずっと楽しい。

更にいわば幕間にあたるラップバトル。

バトルMCらしいケンカ腰を吹っかけながら、自分を丸ごと差し出して相手に言い返す素材を与えているKing boyの振舞が巧いし、相対するゲストたちも乗せられてか意を汲んでか彼の隙を素材にして的確にdisり、ゲストが勝つことになっている(なだぎがゲロった)ラップバトルの面白がり方をちゃんと初見の観客に教えてくれる。

 

アドリブパートを与えられたアンサンブル達も初日はいきなり爆笑かっさらって、フェスのシンガーはいきなり大の字になっていたし、強烈過ぎる「酒声&方言の秘書」も「この人何者なんだ……」と会場ざわつくくらいインパクト大*3

さらにアンサンブルの影、暗転した細部で暗躍し続けるファン1号の動きと、目がいくつあっても足りない状態。*4

 

舞台を大きく英子編、KABE太人編、七海編と分けてみて、この第二幕まで完璧に進んでいたのです。

そしてこの日急遽発表された、声を使わない七海の登場。

アンダーの椎名朱音さんの声が流れ、それに合わせて小泉さんが芝居します。

また椎名さんの声が本当に小泉さんに寄せていてビックリするのですが、それまでダイレクトに飛び込んできていた舞台の面白さに、急に透明な見えない紗幕が何枚も降りてきたような、舞台と客席との距離が生じていた点は否めませんでした。

なにか異様なものを見ている――客席に緊張感が生じ、その緊張感を受け取ったのか小泉さんの表情が心細げに見えました。

ただ、だからこそ七海と英子の言葉のキャッチボール。小泉さんが発していない声に、岩田さんが役を越えた生の言葉としか思えない台詞を与え続ける。

もしかするとあの広い劇場でたった二人だけアウェイだったかも知れない空気の中、harmoeにだけ通じた何かが、(小泉さんもビックリしたという)七海の胸にカートゥーンみたいに体ごと飛び込んでいった英子の抱擁にありました。

harmoeが絆を深めた銀河劇場の一幕と、七海と英子が絆を深めた渋谷の夜が、虚実越えて混ざり合う瞬間。舞台は演者と観客の共犯関係で成り立つものだと思っていたけれど、戸惑う観客を遠巻きにした二人だけの時間があった気がするのです。

 

その日の自分は、感じすぎかもしれないけれど小泉さんの心許無い姿が胸に焼きついてしまい、モヤモヤを抱えたままでした。

余談ですが、最終的に盛山は悪かったです。

 

二日目にはアフタートークも予定されていたのですが、

わかっていたとは言え、この2公演だけしか見れないことでとても損しているような気分に。

 

自分勝手な感情だとは思いますが、そうしてモヤモヤを抱えたまま訪れた二日目。

5/4(土)

 

舞台『パリピ孔明』二日目(5/4)ソワレ感想。

前半、舞台全般そうですがどうしても初日の笑いの瞬発力を持続するのは難しく、同時に役者の技量に委ねられた「本公演の遊びパート」が段々わかってくる頃。

圧倒的な台詞量(それも完全に高く作った声で)の孔明が若干咽てしまい、それを弄って笑いに変えるカンパニーの親密さも見えて来る。

ランドリーのシーンでの孔明とKABEのアドリブが断トツで長く笑えたのもこの回でした*5

とは言え第三幕に入るとまたあのいたたまれない空気が――と思って身構えていたら。

 

小泉さんが完全に椎名朱音さんとのリップシンクに慣れたのか、ただ観劇している自分の緊張が解けただけなのか、それまでの二幕のリラックスした空気とシームレスに楽しめる自分がいました。

そして本作の三幕目、「本当の自分を知っている」互いを見る英子と七海がharmoeに重なって見えた初日の感覚は、完全に必然で、そう仕組まれた構成になっていることにもようやく気付く。

舞台とharmoeを重ねて見ていいんだ、という、それまで抱えていた鬱屈に晴れ間が差すような解放感が残りました。

ただ一方で、これは可能性としても低いのですが二日目は英子の歌も録音に聞こえる箇所が多い気がして、なんだかイヤな予感は覚えました。

 

ところでアニメ主題歌が『気分上々↑↑』てと思っている話は先述しましたが、うっすらわかっていたとは言え舞台だと化ける。fullで聴くとカーテンコールによく見合うのですが(Cメロをミアが歌い上げるところの絶妙さ)、加えて二日目ソワレでは最高の演出が。

 

恐らく本人が言いだしたのでは?と思うけれど、登場人物が順に現れる中、ラップバトルもバチクソ盛り上げたTKda黒ぶちが、ここでも曲に合わせたラップを披露。

それだけでステージがゴージャスな空気を孕む。ここの完璧な「SHOW」ぶりがたまらなかった。

どこで誰がウルトラCを出しても良い、そういうエンタメとしての余白の配置が巧みな舞台だったのを改めて思いだしています。

 

アフトのレポは以下に。

 

さて3日目からもえぴの完全復帰が発表されました*6

 

ここまで面白い舞台。完全版を見ないと落ち着かない。

いよいよ観念して財布とスケジュールを絞り出して東京千秋楽を買ったところ、今度は3日目観劇にいったフォロワー達からこんな声が入ってきました。

 

「今度ははるちゃんの喉がやられてる」

 

もっというとフォロワーやお客さん達の中からも、「銀河劇場に入ると気道がキュッとしまって咳が出る」という声が。スモークの関係なのかはたまた……?

 

感情をどう持っていけばいいかわからないまま、東京千秋楽。

自分の観劇はここで最後でした。

 

舞台『パリピ孔明』東京千秋楽(5/6)ソワレ感想。

初めて知る、想像以上に掠れてもはや別人だったはるちゃんの声。

このハスキーボイスにも味があって悪くないと思えてしまうジレンマも抱えつつ、結局自分は一度も舞台『パリピ孔明』の「完全版」を観れないのかという煩悶とちゃんと向き合って、その上で今この時の舞台を目に焼きつけようと思いました。

それはきっと舞台上のキャスト・スタッフも同じ。

今出来ないことと今出来ることを適切に見極めて面白い選択を続けるライブ。

主演・英子の声がとっくに限界を迎えていることは明らかで、だからこそみんな自分の持ち場をそれぞれにピークまでもっていく。伸び続ける上演時間。飛び込み参加する演出家本人。増え続けるアドリブ被害者。絶対盛り上げようとする客席の熱気。

ショウ・マスト・ゴー・オンを肌で理解しました。

 

この日の印象的な出来事として、

・アドリブパートで初日の笑いを取り戻してきた。

・七海英子孔明に続き、秘書さんまで、やけに咽せていた。

・「はるちゃんが水を飲む」というお決まりの行為が、切実な意味を宿した。

・明らかに英子の休憩時間を稼ぐために、孔明が暴れ倒した。

・バトルラップで見取り図盛山が観客がしらけるネタを発し、ゲストで初めて敗北。

 カーテンコールでそのせいで負けたと自分で認めていたあたりに、

 今の吉本興業の追い込まれた空気を感じましたお疲れ二度と来るな。

 

とにかく、舞台と客席一体となって(盛山以外)「最後まで走り抜け」と願いながら祭りが続く、忘れ難い熱狂がそこにありました。

七海ー! 英子ー! King boyー!などなど、二日目アフトでの石田の意を汲んで参加できる範囲でイチ観客として声も上げ続けたり。

 

そもそも舞台に完成形などない、一期一会の媒体だとわかってはいても、「完成品に会えなかった」という後悔が熱気と表裏一体で焼き付いた、忘れ難い四日間となりました。

 

最後に。

 

東京千秋楽での石田の言動を自分なりに面白おかしいものとして伝えようとしたところ、現場にいない人達から批難の声が上がり、ミニマムな炎上状態となってしまいました。

 

自分のフォローもすべて上記のポストに入っていますが、四日間ずっと何があったのかとモヤモヤしていたものが、開演前に石田がすべて自分の責として笑いを取ったことでひとまずリセットされたというか、改めてまっさらな気持ちで舞台と向き合えたのは確かです。

そして本人が言いだすまで、この一連の体調不良の連鎖を「演出のせいじゃないか」と訝しんでいた人なんてそもそもいないだろうと。恐らく演者自身の責を疑う声はあっても。

端から見れば軽薄すぎる言葉かも知れませんが、あの日あの場でとった演出家の選択として、個人的には今でも「正解の無い中での誠実な解の一つ」ではあったと。

 

舞台版『パリピ孔明』の美徳として「ヘイト役をただの悪役で終わらせず矜持を見せる」「アンサンブルを活かしたことにより、ファンが衆愚ではなく一人一人意志を持った存在に見える」という特徴があると個人的には思っていて。

それはパンフで石田自身が語っていた「(自分は追っかけの子に声かけられると嬉しいから)ファン一人一人に見せ場を作りたい」「(相方が言いたくない台詞ってわかるから)言いたくない台詞は言わせたくない」といった素朴な信念、そういう意志がカンパニーに伝播しているのではないかという気がしました*7

 

あのどこまでも胃がキリキリする現場が、今振り返ると最後は熱狂と共にある幸せな余韻で終わっている。

決して不幸なだけの舞台ではなかったと今も思っています。

 

 

harmoeのかすれた声を思い出していたら自分自身ものど風邪にかかってしまいまして、推敲もままならない駄文で大変失礼しますが、こちらでharmoe Advent Calendar 2024 Day.11〆とさせていただきます。

 

では終わり際も潔かった舞台『パリピ孔明』ラスト3行の台詞を残して。

 

七海「英子。またいっしょに歌おう」

英子「うん。絶対に歌おう」

孔明「天下泰平の計Vol.1。これにて完成です」 

 

Vol.2、はよ。

*1:パリピ孔明』アニメ化するなら細部ははちゃめちゃ手を入れて面白くアレンジすればいいのにと思っていたので。実は連ドラ版はそうしているらしいウワサは聴きます

*2:漫画『パリピ孔明』の魅力の一つ、シンプルに英子のリアクションの描き込みがマンガマンガしたクラシカルな魅力があるのは読み返しての発見だった。当然はるちゃんはその表情をちゃんと盗んでいる

*3:この人の声が聴こえるたびにクスクス笑いが起きたので、結果その後の兼役の台詞減らされてましたよね?

*4:配信で見るとアンサンブルの動きの推移の面白さは見切れていましたが、逆に別々の場所にいるはずの英子、ミア、孔明が同じダンスをシンクロさせている、といった細かな芸が

*5:やり過ぎだったのか、以降控えられてた

*6:後に視聴した配信された3日目、二人とも声カスッカスで痛ましく、涙が

*7:だからこそ「本人が着たくない衣装を着せる」唐澤は、そこにどんな信念があろうと役回りが悪役となる

【harmoe Advent Calendar 2024 Day.4】朗読劇『四月十一日を千二百回繰り返したと主張する男』感想

harmoe Adbent Calendar2024 Day.4にして、一つ前のこの記事の続きです。

 

pikusuzuki.hatenablog.com

もう半年前ですか.6.14(金)、

小山百代さん主演朗読劇『この色、君の声で聞かせて』

岩田陽葵さん主演朗読劇『四月十一日を千二百回繰り返したと主張する男』

観劇して来ました。イベントでも演劇でも初・ハシゴ体験。

どちらもスタァライトから離れた九九組たち。でも舞台少女。

ずっとこういう事がしてみたかったんだと思います。

 

『四月十一日を千二百回繰り返したと主張する男』

スタッフ

【演出】水島精二 【原作】小川哲

 

キャスト(初演・6月14日編成)

蘇我慶太】浦和希 【千葉菜々】岩田陽葵 【船橋彰】吉永拓斗

映像キャスト

蘇我慶太】橋本祥平 【千葉菜々】本西彩希帆 【船橋彰】前川優希

 

【あらすじ】

午後六時、私の部屋のインターフォンが鳴った。恋人のアキラ君が予定より早く来たのだろうか? モニターを見ると、見覚えがあるような、ないような男が立っている。

「突然すみません。蘇我慶太です。僕のこと、覚えていますか?」

中学時代の同級生で、サッカー部のキャプテンで、生徒会長を務め、定期テストはいつも満点、県内で最も偏差値の高い高校に進学した蘇我君。
現役で東大に進学して、在学中に司法試験と医師国家試験に合格して、論文で何かの賞を受賞して、当時は天才としてテレビなんかにもよく出ていた。卒業後はしばらく研究者をしていたようだったけれど、三年前に投資会社を設立して、そこでも成功して上場したらしい。

でも、彼とは十三年間一度も会っていない。なぜいきなりうちに?
「僕は、あなたを救いに来た」驚く私に蘇我君は、「僕は二〇二二年の四月十一日を約千二百回繰り返しています」と告げた――。

半信半疑の私をよそに、蘇我君は誰も知らないはずの私の秘密を次々と言い当てていく。何度も私を助けようとして、その度に私は死んでしまったという。この男を信じていいのだろうか、そして私は死んでしまうのだろうか?

不思議な、けれど途方もなく長い夜が始まった。

 

会場は池袋シアターミクサ。普段、池袋での観劇前にブシログッズ漁っていたあの建物の上にこんな劇場が? という構造に少しときめきました。

 

この舞台は新プロジェクト【Staging!!】の第一弾。

その記念すべき初演に選ばれた岩田陽葵さんの晴れ舞台と思うと、観て損は無かったですね。

『Staging!!』=ひとつの物語を「素材」として、声優:神谷浩史を案内人に迎え、様々な演出家が独自の解釈とキャスティング、演出により自由に「料理」する朗読劇企画。

 

この直前に見ていた『この色、君の声で聴かせて(イロコエ)』が情報ゼロ故のサプライズと感動を多く与えてくれた一方、こちらは事前に中途半端に小川哲先生の代表作の一つ、小説『ゲームの王国』を読み始めていたことが仇になりました。

 

ステージ上には蘇我と菜々が左右の指定位置に並び、そして背後のスクリーンに部屋の様子や、玄関のモニターホンから覗き見える光景が映し出され、菜々の彼氏・船橋も中盤で姿を現す。

プロジェクションは静止画、連続する写真で、豪華な2.5次元俳優がマネキンのように無機質に配置され、ゾクゾクする不気味さがありそれは少し面白かったです。目の前で棒立ちで「声」を発する役者のことは人間に見えるのに、映像の中で物語の舞台に映っているにも関わらず動かない役者は「人形」に見える。

『イロコエ』に続いて、声と身体、どっちがより情報として強いのだろうという実験を見ているような気もしました。

『イロコエ』では身体が、『四月十一日』では声が勝つ。

 

ちなみにあらすじからどう展開するというより、このあらすじの情報をどこまで信じればいいのかという心理劇がメイン。クメール・ルージュを芯に据えてカンボジアの虐殺の歴史を辿る『ゲームの王国』のイメージのまま来た身としては、あまりに話が小ぶりで拍子抜けしてしまったというのが率直な感想です。

それもオープンエンド。だからこそ異なる演出家が演出する醍醐味もあるのでしょうが、一度しか観劇に来ないお客さんは勘定に入っているのかな。

 

本編は一時間程度で、その後キャストと共に水島監督が登壇。

どのような意図で演出し、また演じたかといった目論見が披露される構成。

朗読劇の可能性について示唆する企画となった筈で、初日体験だけで企画自体の賛否を表明するのは難しいのですが、ことこの一夜の公演をして感想を述べれば、非常に不完全燃焼でした。

 

また朗読劇の可能性と言えば、この日観劇していた『イロコエ』がまさにそれです。

プロジェクション・マッピング、セットチェンジ、光源との距離を駆使したシルエットの工夫、最初からステージ上に堂々提示されるネタバレ要素etc……

様々な試みが絶えず行われており、比べると、本作のスタッフにどれほど朗読劇への知見があったのか首をひねってしまうのが正直なところ。

 

未知の試み、その始まりに立ち会えた緊張は味わえましたが、果たして演出家の調理ひとつでそこまで内容の変わる話だったろうかという疑問もあります.

『三番テーブルの客』がしたかったのかな。

 

ただーー。

等身大の大人の女性を演じるはるちゃんの、纏っていたオーラを脱いだ非常に弱弱しい小柄な姿が素敵だったので、狭いステージの二階席から、(すぐ背後の席にはるちゃんのマネージャーさんの気配を感じつつ)、ぼんやり見守る時間は贅沢でした。

作品のもつ余白、悪く言えば食い足りなさが、冷静に話の内容から距離を置いて「役者」を眺める余裕をくれる。

 

さあ、菜々はこの先「どちら」の結論を選ぶのか――。

 

ようやく前のめりになった辺りで話は終わってしまいました。

このブツ切り感は、しかし演出の思惑通りだったのかも知れません。

 

このまま「ロマンス(ハッピーエンド)」か「サイコスリラー(バッドエンド)」か、観客の頭の中でどちらかへの選択を許される作品。

この後の水島監督の話で面白かったのが、この日の会場のお客さんやはるちゃんは「ロマンス」だと解釈したけれど、稽古中に男性陣はみんな「サイコスリラー」だと解釈していたという話。

「ははーん。みんな、そっちを演じたいんだな?」

 

プロジェクトに対して「そんな何度も足を運べない」という気持ちと、観劇後はる球団の皆さんが翌日のharmoe神戸フリーライブの為に続々と西へ向かう背中を見て、あるいは最新のリアルライブエンタメを接種する為には通い続けるくらいのバイタリティは必要なのかも知れないとも。

 

以上です。harmoeからだいぶ話はズレましたが、しかしharmoeを語る上でもよの存在も欠かせず、もよはるDayの記憶を残させていただきました。

スタァライトでもharmoeでもない、演劇人としての九九組の晴れ舞台。もっとマルチに追いたい。てんで追いつけない。

 

このくらいの記事でいいなら私だってサクッと書けるわと思っていただけたどなたか、

アドカレの枠、まだ余ってますよ。よければ是非。

明日はもえぴとBump of Chickenの最前オタク:いけさん(@aco_guitar_BOC)です。

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朗読劇『この色、君の声で聞かせて』感想

 

もう半年前ですか.6.14(金)、

小山百代さん主演朗読劇『この色、君の声で聞かせて』

岩田陽葵さん主演朗読劇『四月十一日を千二百回繰り返したと主張する男』

観劇して来ました。イベントでも演劇でも初・ハシゴ体験。

どちらもスタァライトから離れた九九組たち。でも舞台少女。

ずっとこういう事がしてみたかったんだと思います。

 

『この色、君の声で聴かせて』

スタッフ

【演出】田邊俊喜 【脚本】平野杏奈

 

キャスト(チームVOICE14日マチネ編成)

【伊吹翔太】狩野翔 【渡来夢】小山百代

【野中アミ】西尾夕香 【君塚俊人】濱健人

【宗谷千波】駒形友梨 【伊吹和也】長谷川芳明

【美術教師】中澤まさとも

 

【あらすじ】

⾼校生の伊吹翔太は、学校の屋上で独り、絵を描いている同級生、渡来夢の姿を見つける。不愛想で言葉を交わそうとしない夢であったが、そんな彼女に独特の魅力を感じる翔太。

はじめは暇つぶしで美術部へ入部した翔太であったが、次第に夢の持つ絵やその感性に触れ、惹かれていく。夢もまた、明るくまっすぐな翔太に興味を持ち惹かれていくのだが、彼女には翔太へ隠している秘密があって……。

同じ物を見ても、同じ色を見ても、同じ気持ちを抱いているわけではない。

⾔葉を簡単に交わすことができない二人が、その“色”に見たお互いの気持ちとは……。

 

会場は『爆劔~源平最終決戦~』ぶり、渋谷CBGKシブゲキ!!

安いし近いし良い小屋です。アニメの『渋谷事変』で破壊されてた。

 

さて「ハシゴ体験がしたい」という目的が先行してチケットを取った為、

前情報なしで臨んだ観劇。スタァライト以外でお芝居する小山さんも初。

すべてが未知数でしたが、それが結果功を奏した気がします。

ちなみに再演らしく、大きなネタバレ要素が2つある内容。

観劇ファンで未見の方は、今後の再演に推しが出る可能性に備えて回れ右が吉です。

 

 

【以下、ネタバレあり】

 

 

ベタかもしれない、謎めいた美術室の美少女:夢の一挙一動に振り回される、

朗読劇にして視覚を稼働する体験。

「全然もよ台詞言わんやん」というその違和感を知覚できるかできないかの頃に、

明かされる設定――夢は聴覚障碍者である。

 

『朗読劇の世界に、発話出来ない者は存在していないのか?』

この当たり前の疑問に自分が今までまったく思い当たらなかったことにこの時気づき、

もしかすると作り手の意図を越えて大きく衝撃を受け、

自身の不明を恥じるを地で行く感情に囚われていました。

 

翔太の記憶にある幼少期に見た海の夢。翔太が挫折した水泳のプールの光景。

夢が描く海や空の絵。美術室から望む空。煩雑なSNSの声。そして夢の手話。

朗読劇なのに視覚に訴えて来るディティールを繊細なプロジェクションが、

そして小山さんの身体が発する声が伝える、ちゃんとお芝居に対峙するような身体感覚の要求*1

 

観客の死角を突き、声なきものの声を拾い上げようとするテーマ。

その芯の部分以外は、特に脇役の造詣などかなりベタベタなのだけど、

こちらは明かしませんがもう一つのネタバレ要素によって後味もキレよく、

終演後退場時に配られる特典が本編の余韻を引き立てる趣向も粋*2

 

振り返ってみても――

開演時から2つのギミックがセッティングされていたことになる訳ですが、

どちらも最初から堂々と観客の前に提示されているので、

別に本作はミステリではないけれど、こんなにフェアな「嘘」もないなと思います*3

 

しかし改めて、声優陣からなる「VOICE」公演で身体表現を求められる「夢」役、

これはもう舞台少女たちを置いて他にいないだろうと、

愛城華恋の溌剌さから一転、儚い空気を纏った小山さんのお芝居見事でした。

ひとり「身体」の芝居を引き受けた小山さんと対となる、圧倒的な「台詞」の芝居を一身に引き受けた翔太役の狩野翔さんの安定感も本当に素晴らしく、実はsideMでよく見た人だなどとは気づかず感心しきりでした。ともかく負担が大きかったのに終始滑舌が滑らかかつ大きくて、「声優」キャストとしてはこの日頭一つ抜けていた。

逆に他の声優陣は教師役の中澤さん除きやや不慣れさが目立ち、声優キャスティングの良し悪しを同時に感じる舞台でもありました。

 

終演後は急遽追加されたお見送り会が。

男性陣にウケたいという欲が出てしまい、力強いハンズアップをしたところ狩野さん、濱くん二人に喜んでもらえて、つい気をよくして指をそのままにしていたらハートマークと勘違いした小山さんがハートの片割れを合わせようと。

「あっ違う! なに!??? その指なに?」と混乱してて可愛かったです。

さっきまであのお芝居してた人に、一人一人こんな対応しなくちゃいけない特典会付けなくてもいいのに……と少し。

 

そしてこの日はもよはるDay。

もよちゃんを背にし、そのまま池袋のはるちゃんに会いに行きました。

こんな事がしょっちゅう出来る東京とかいう勝ち組の街が憎い。

『四月十一日~』の記事に続きます。

*1:途中から夢のモノローグ加わりやや余計な気がしたが、説明されない手話もある

*2:なので、間にお見送り会挟んだのは一長一短だったかもですね。嬉しかったけれども!

*3:「障碍」を「ネタバレ」要素として扱うことへの可否はまた一考の余地アリですが