2016年劇場で観た映画トップ20

昨年は全劇場鑑賞作品をランキングに起こして非常に面倒臭かった。でもやりきった。そんな満足感があるので、今年はざっくりです。
ランキング作成にあたって、上映中居眠りしてしまった作品を改めて見返したのですが、完全にこちらの体調の問題でしたね。
自分が眠ったかどうかと作品の質とは大して関係ない。

 

こういう記事、来年に持ち越すのは精神的にあまり健全ではないので、あまり迷わずサクサクと選びます。

 

では。

 

1位 ライアン・クーグラー『クリード チャンプを継ぐ男』

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元旦に観た映画がそのまま1位は身も蓋も無いのですが、本作のインパクトを上回る作品とは出会えず。すべての場面が強烈なストレート。ロッキーがフィラデルフィアを歩いているだけのショットさえ不意に泣きそうになるのは驚きでした。シリーズへの思い入れ別にないんですよ。一作目しか見ていないし、特に感銘を受けた訳でもなかったのに。
痛快で、爽快で、けれど地に足の着いた活力を与えてくれる作品。実はクリード自身はかなり恵まれた存在なのに、普遍性を獲得出来ているのも相当な離れ業。
監督主演コンビの前作『フルートベール駅で』がささやかな作品なのは、作品の性質に寄り添ってあえて抑えていたのだなと。そんな若手を後継者に抜擢するスタローンの慧眼。ハリウッドの成熟を感じます。

 

2位 ロバート・ゼメキスザ・ウォーク 3D』

あくまで3D映画としての評価ですが、それこそゼメキスの望む評価である筈。彼はもはや映画という枠組みより新しい体験を生み出したい人なのではないかと思うのです。『ハドソン川の奇跡』と比べてみると『フライト』の異質さは改めて浮き彫りになるんじゃ。あれ大好きなんですよね。
巨大な劇場のほぼ中央で客席はガラガラ。という鑑賞状況にも恵まれ、前半はやや退屈ながら、いざ綱渡り作戦が決行されてからは本当に自らワールドトレードセンターに侵入して不安定な足場の上をさ迷っているような、いえさ迷うだけならまだ良いのですが、あいつら平気で飛び跳ねるから!
一回性の体験としての価値が強い作品だからこそ、儚さを讃えたラストが胸に詰まりました。映画という枠では語りきれない、刹那の芸術。

 

3位 ポール・キング『パディントン

ウェス・アンダーソンを一般化したような才能。それって凄くないですか。
あまりに予想外の大傑作。今年最大の衝撃。社会派の急先鋒。パディントン可愛い。騙されたと思って見て欲しいです。本当に良いから。

 

4位 ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ボーダーライン』

実写映画は本来カットが変わった瞬間に場面が切断する断片の芸術で、それをいかに持続した世界として観客に体感させるかがミソだと思うのですが、今年の映画で体感として「持続力」をもっとも感じさせてくれたのが本作。
その「持続力」が、本作のいわばオチというか真相の部分では途切れている。それさえも意図したものだとは理解しつつ、個人的にはオチの部分は余計でした。白状すればドゥニ作品はいつもオチで若干冷めてしまう。
いや、本作なんて特にラストが無かったら意味不明な映画なんですけど、意味不明なまま終わって欲しかったのです。そして本作にも通じる話が「意味不明なまま終わる」をやりきったのが、まさにリドリー・スコットの『悪の法則』だったなと思い至って、ドゥニ版『ブレードランナー』への興味高まるよね。

 

5位 山田尚子『聲の形』

明瞭なテーマだったり、正しい答えだったり、わかりやすいクライマックスだったり、そうしたものを排除した等身大の青春劇が、ポップさやルックの洗練も含めて「エンターテイメント」たりえているという、今まで洋画に出来て邦画に出来ない最大の欠落を不意に埋めてしまった一本。
「いや面白い青春映画は沢山あるよ」と反論を頂きそうですが、正直ここまで垢抜けたものには邦画で初めて出会えた気がします。内容もそうなのですが、ガワの部分でいたくお気に入り。

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6位 片渕須直この世界の片隅に

衝撃が大きすぎてうまく整理できなくって、「もてあそばれた」という言葉が一番しっくりくる。完全に感情をもてあそばれた。ひどい映画。
まだ映画を見てこんなに動揺することがあるんだ。素朴に見えていきなり洒落にならない剛速球をぶつけてくる感触は、木下恵介の尖った作品を思い出しました。
資金難から脚本を30分カットしていて未完成な映画と言えないこともないので、完全版が出来上がるまでの保留としてこの順位につけましたが、この映画がランキングの中に入って「収まりの良い位置」など果たしてあるのかと訝しんでいます。それくらい未知のエネルギーで殴り飛ばされました。
何位でもいいです。ランキングとか無意味だなぁとなる。

 

7位 新海誠君の名は。

特にこれといって残るものはなく綺麗に楽しく見終った一本。それもまた『聲の形』同様、何より邦画に欠けているテイスト。観客の目を見て妥協の無い映画を作れば、ちゃんと観客は映画館に足を運ぶ。そんな当たり前の力強い真実を業界に見せつけた点において、本作と『シン・ゴジラ』がもたらした余波が2年後か3年後か、いずれ一気に開花するのではないかと身震いしつつ、恐らくは無残なコスプレショーに終わる来年の邦画をなんとか乗り切っていきましょう。
それにしても、スマートなエンタメから一番遠く思えた新海誠監督がそれを成し遂げた感動。サインまで頂いておきながら心のどこかで馬鹿にしてたところもあったのですが、作り続けて頂点に到達したその姿勢に今は尊敬の念しかありません。
『聲の形』『この世界の片隅に』『君の名は。』どうしても並べたかった。

 

8位 フェデ・アルバレス 『ドント・ブリーズ』

これもランキングに納めることが不可能。何位だろうと不敵に鎮座する。まだ映画を見てこんな思いをすることがあるのかという動揺を引きずって、今もうまく整理できてない。
勿論死ぬほど怖かったけれど、この衝撃は恐怖からくるものだけなのかどうか。
そんな整理がつかないほどの衝撃作が今も映画館にかかっているのだから、つべこべ言わず『ドント・ブリーズ』を観に行ってくれという気持ちです。

 

9位 リッチ・ムーア/パイロン・ハワード『ズートピア

まずエンタメとしての完成度。流れるように楽しませるって一番難しいのだから。
そこに加えて主役コンビの関係性萌えも完璧。笑いも鉄板。小ネタは渋い。
優等生的なポリコレどうこうで揶揄されているけど、アメリカ社会が本作を必要としている背景、そしてつい十数年前を振り返ってもそこまで配慮の面で洗練されていた訳ではないハリウッドがこうしてPC的な成熟に至った歴史、その努力への敬意と想像力を忘れたくはないです。

 

10位 吉田恵輔『ヒメアノ~ル』

邦画が豊作だった2016年、実写映画で推せるのは圧倒的にこの一本。
君の名は。』同様、監督が得意技も駆使しつつ、自分の安全圏から一歩逸脱したエンタメへ踏み込んで、最高の成果を挙げた。
才能ある監督をこうした新境地へ押しやれる流れがこのまま定着してくれますよう。

 

11位 トッド・ヘインズ『キャロル』

味わい深い映画です。「レズではなく百合」とかいう価値観は全然わからないのですが、そういう昨今の流行りがお好きな方にも堪能して頂ける筈。
つまりシビアな時代背景を抱えながら画面はどこか生々しさを排除していて、メロドラマにしっとり浸れる空気作りが丁寧。
監督が以前に同様のことをやりたかったのだろう『エデンより彼方に』はまったく入り込めなかったので、やっと志向に実力が追いついたのだなという感慨もありました、

 

 12位 リドリー・スコット『オデッセイ 3D』

ザ・ウォーク』とは逆に3Dではなくても評価の変わらない、というか鑑賞時の仕様を忘れるレベルで3Dが大した効果を上げていない作品。
実のところ忘れかけていたタイトルなのですが、今年観た映画を一本一本振り返った時に印象のスマートさが突き抜けていて、まぁ、普通に超面白かったです。

 

13位 スティーブン・スピルバーグブリッジ・オブ・スパイ

これも普通に良く出来ていて普通に超面白いのでコメントに困る。サラッと傑作を撮ってはすぐ次へ向かってしまうスピルバーグの速度に映画ファンはもう振り落とされている気がする。

 

14位 ギャレス・エドワーズ『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』

前半の一筋縄ではいかなさ。特にキャシアンの言動全般の煮えきらなさこそが本作に大人の味を与えて、無邪気に勝利の道を往く正伝の影として自然と存在感を示せていた点が好きで、むしろ終盤は収まりが良すぎるのではないかくらいに思っています。

 

15位 小泉徳宏ちはやふる 上の句』

君の名は。』と合わせてこれもまたトップクラスの洗練されたエンタメ。こういう邦画にもっと生まれて欲しい。
個人的に評判良いアニメ版は原作序盤と比べて非常に「うるさい」という印象であまり好意的に見ていなかったため、実写版に軍配を上げたいです。

 

16位 三浦大輔『何者』

普遍的な自意識の問題をそのまま具象として映像に起こすツイッターという装置の利便性。
就活がテーマでもないし、今時の若者を描きたい訳でもないことは終盤のタネ明かしでハッキリしていたと思います。
そこで主人公の○○、いやもうバラしますが主人公の「裏垢」を暴いていることが主眼なのではなく、それを表現するために描かれた光景こそが主眼であり映画的真実なので、そこの解釈を違えると途端に評価は下がるかも知れません。
言ってしまえば本作の本質に原作は関係がない。

 

17位 山戸結希『溺れるナイフ

ただカッティングが早いだけじゃなくて、そのショットの選択と切り返しのタイミングと芝居とのマッチングが、よく比較される岩井俊二大林宣彦のそれより遙かに鋭い。それだけに終盤でテンポ感を手放してしまったことが残念でした。そしてラストの劇中劇は心の底から残念でした、、、『おとぎ話みたい』のMVだとか『5つ数えれば君の夢』のEDだとか、そういうところでこそ手を抜かない信頼の山戸監督でしたのに。

 

18位 ウ・ミンホ『インサイダーズ/内部者たち』

面白いけど盛り過ぎてゴールが見えない系韓国映画。普段はこの系譜の蛇行していくグルーヴを愉しむのですが、本作は「反骨」というテーマが一貫しているのでカタルシスがある。自分を何かに駆り立てたい時に見返したい映画。

 

19位 林祐一郎『劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』

単品ではない劇場版アニメから一本選ぶとするなら本作。綺麗に終わった傑作TVシリーズが下地にあるので、焦らず余裕を持って作画的な快楽の追求に全力を振っている。

 

20位 ピーター・ソーン『アーロと少年』

走る走る走る。それだけで映画を作ろうとしているような流れに身を委ねる快感。ズートピアの影に隠れてしまいましたが、せめてもう少し評価されて良いのではないかと思う応援枠。

 

 

対象作品は以下の通り。太字は全部ベスト。

来年はこんなに足を運べそうにありませんが、映画的には充実の一年でした。

 

ライアン・クーグラー『クリード チャンプを継ぐ男
スティーブン・スピルバーグブリッジ・オブ・スパイ
スティーヴ・マーティノ『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(吹替)
ポール・キング『パディントン
ロバート・ゼメキスザ・ウォーク 3D 字幕』
ロン・ハワード『白鯨との闘い』
ニマ・ヌリザデ『エージェント・ウルトラ
リドリー・スコット『オデッセイ 3D』
トッド・ヘインズ『キャロル』
クエンティン・タランティーノヘイトフル・エイト
ザック・スナイダーバットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生 3D』
レニー・アブラハムソン『ルーム』
トム・マッカーシー『スポットライト 世紀のスクープ』
ピーター・ソーン『アーロと少年』(吹替)
ウ・ミンホ『インサイダーズ/内部者たち』
カルロス・ ベルムト『マジカル・ガール』
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『レヴェナント 蘇りし者』
ドゥニ・ヴィルヌーヴボーダーライン
リッチ・ムーア/パイロン・ハワードズートピア
アンソニー&ジョー・ルッソ『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』
ジョエル&イーサン・コーエン『ヘイル,シーザー!』
ティム・ミラー『デッドプール
アレックス・ガーランドエクス・マキナ
ポール・フェイグ『ゴースト・バスターズ(2016)』
デヴィッド・エアースーサイド・スクワッド
クリント・イーストウッドハドソン川の奇跡
ギャレス・エドワーズ『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』
デヴィッド・イェーツ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(吹替え版)
フェデ・アルバレスドント・ブリーズ
中村義洋残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』
小泉徳宏ちはやふる 上の句』
小泉徳宏ちはやふる 下の句』
佐藤信介『アイアムアヒーロー
瀬々敬久『64 前篇』
是枝裕和『海よりもまだ深く』
吉田恵輔ヒメアノ~ル
黒沢清『クリーピー 偽りの隣人』
黒沢清『ダゲレオタイプの女』
白石晃士『貞子VS伽椰子』
庵野秀明樋口真嗣シン・ゴジラ
三浦大輔『何者』
山戸結希『溺れるナイフ
石浜真史ガラスの花と壊す世界
田口智久『PERSONA3 THE MOVIE #4 Winter of Reverse』
サンライズラブライブ! u's Live in Theater(応援上映)』
赤根和樹コードギアス 亡国のアキト 最終章 愛シキモノタチヘ』
佐藤卓哉『劇場版 selector destructed WIXOSS
菱田正和『KING OF PRISM by PrettyRyhthm』(応援上映)
水島努『劇場版 ガールズ&パンツァー
水島努『劇場版 ガールズ&パンツァー』(2回目)
高橋渉『映画クレヨンしんちゃん 爆睡! ユメミーワールド大突撃』
石原立也『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』
石原立也『劇場版 響け!ユーフォニアム ~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~』(2回目。ULTIRA上映)
柳沢テツヤずっと前から好きでした。~告白実行委員会~
瀬下寛之/安藤裕章『亜人 第2部 -衝突-』
林祐一郎『劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』
宮元宏彰『ワンピース フィルム・ゴールド』
新海誠君の名は。
新海誠君の名は。』(2回目。ULTIRA上映)
山田尚子『映画 聲の形』
山田尚子『映画 聲の形』(2回目)
山田尚子『映画 聲の形』(3回目)
山田尚子『映画 聲の形』(4回目)
山田尚子『映画 聲の形』(5回目。ULTIRA上映)
山田尚子【映画 聲の形】(6回目)
川村泰/さとうけいいちGANTZ:O』
片淵須直『この世界の片隅に

 

 

本日一度誤って消してしまい挫けかけましたが、なんとか年内に書けました。

 

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2016自宅で見た映画トップ50+簡単コメント

今年も面白い映画沢山見たよ。世の中面白い映画で溢れているよ。との政治的主張を込めて記録がてら作りましたTOP50。

ランキング作って驚いたのが、面白い映画が50本では収まらなかったこと。敗北を知りたい。
どれを見ても何かしら感性が磨かれる面、あると思います。

 

アニメは別枠。
Twitterで並べたベストとは若干異なりますが、ベストは基本日替わりでどうとでもなるものですからね。是非もないよネ。

 

ワーストはぶっちぎりで『劇場霊』・・・をさらにぶっちぎりで下回る『日々ロック』。
映画見てて「うるせえ黙れ」と役者をブン殴り台本を焼き捨てカメラをぶっ壊したくなったのは『ヒミズ』以来でした。

 

では。

 

1位 デヴィッド・ロバート・ミッチェル

   『イット・フォローズ』

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ずっと妄想していた「こういうホラー映画の一場面が見たい」というあれこれが映像化されてしまって驚いた作品。自分がホラー映画をあさりながら「こんなホラー見たいなぁ」と長年妄想し続けていたという事実も、回り回って本作の成立に影響しているはず。世の中そういうものだと思う。

 

2位 ジャック・クレイトン『回転』 

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『ダゲレオタイプの女』でもオマージュの捧げられた、水原の向こうに幽霊がたたずむシーンの美しさと怖さ。

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3位 アンドレイ・タルコフスキー『鏡』

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今年は個人的にタルコフスキー元年でした。子供の頃ずっと気になっていたのに見る手段が無かったタルコフスキー古今東西の色んな映画がレンタルですぐに見れちゃう現在を享受すべきだしみんなもっと映画見ればいい。

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4位 レニー・アブラハムソン『FRANK』

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社会のレールから外れてしまったものの悲しみ。そうした人に対してひたすら不寛容な今の日本で生きていると余計わびしくも愛おしい。 

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5位 ルイ・マル死刑台のエレベーター

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超オシャレ。

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6位 アンドレイ・タルコフスキーノスタルジア

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映画に出てくる温泉のベスト。『千と千尋』を越えたかも知れない。

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7位 増村保造『巨人と玩具』

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昭和30年代の映画なんですけど完全に今日びのブラック企業の話として通じてしまう。描き方は最近の邦画よりずっとソリッドでニヒル。

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8位 アレハンドロ・ホドロフスキー

   『リアリティのダンス』

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『エル・トポ』にせよ『ホーリー・マウンテン』にせよ、カルトなのはわかるけどカルト過ぎて引いてしまうのですが、いよいよ独自のマジック・リアリズムを「映画」に落とし込めた。まだまだこれからの活躍に期待したいおじいちゃん。

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9位 マーティン・スコセッシアリスの恋

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アリスとそのクソガキの圧倒的存在感。今年見た映画で一番生きた人間をそこに感じた。

 

10位 ジョン・ヒューストン、他

    『カジノ・ロワイヤル('67)』

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スキットというかコントというか。『オースティン・パワーズ』の元ネタですね。監督もバラバラだし一本の映画としてどうなんだと思うのですが、とにかく楽しいし超オシャレ。

 

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ここにTOP10の総括を一文入れたかったのですが、是と言って共通点が見当たりませんでした。

TOP50全体を総括するなら、「ホラー」「巨匠」「超オシャレ」。

中でもハマったのが、すっかり知った気になっていた巨匠の過去作を追いかける行為で、それぞれの作家の印象が少し変わった気がします。

 

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11位 ジェームズ・デモナコ『パージ』

 「めちゃくちゃな悪法がまかり通っている近未来SFモノ」の中で、その悪法がここまで効果的に機能している作品も珍しい。パッケージに反してかなりA級の佇まい。

 

12位 ダリオ・アルジェントサスペリア2』

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ずっと『歓びの毒牙』をベストに入れていましたが、本作の間違いでした。だって構成そっくりだから。ともかくオチでビックリする。

 

13位 スティーブン・スピルバーグ『続・激突!カー・ジャック』

アメリカンニューシネマの薫りが濃厚でありつつ、ギリギリで古くさくならない魅力。スピルバーグの映画的膂力を知れる。

 

14位 ロバート・ワイズ『たたり』

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ホラーの源泉。ただでさえ哀しい運命に囚われたヒロインが悪霊にとりつかれる悲劇が痛切で、単なる見世物映画の域を超える。

 

15位 マーティン・スコセッシ『アフター・アワーズ

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大きなテーマに挑んで微妙な出来になりがちなスコセッシの描く、たった一晩のドタバタ劇。やはり本質はコメディ。

 

16位 ダニー・ボイルスティーブ・ジョブズ

 ダニー・ボイル苦手なのですが、悔しいことに非の打ち所がない作品。

 

17位 ジェームズ・デモナコパージ:アナーキー

一発屋じゃなかった。一作目とはテイストを変えながら、引き続き芯に残る魂は熱い。

 

18位 ロマン・ポランスキーフランティック

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型どおりのサスペンスをしっかりと見せつけながら、ラストダンスが儚く印象に残る作りが粋。

 

19位 ジェームズ・キャメロン『アビス 完全版』

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ロマンが溢れて画面のこちら側にこぼれ落ちてくる勢い。

 

20位 マーティン・スコセッシミーン・ストリート

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後々作る悪党たちの無法な一生の、少し手前。すごい悪党というほどでもない、ちんけなチンピラ達の適度に悪い青春譚。可愛い。

 

 

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21位 周防正行『舞妓はレディ』

周防監督の最高傑作かもしれない。言葉が、所作が、カメラが、多角的に一定のリズムで世界を構築していく。今の邦画でこうした成果は珍しい。高嶋政伸と監督夫人それぞれの一部パフォーマンスがそれを壊してしまうのが難。

 

22位 ポール・トーマス・アンダーソンインヒアレント・ヴァイス

根岸吉太郎ヴィヨンの妻』を見た時に、特定の物語ではなく「太宰治の小説世界全般」がまるでひとつの宇宙かのように存在している作りに感動したのですが、そうした試みのピンチョン版。物語を追うのでは無く、ひとつの宇宙を知る。

 

23位 ニール・プロムガンプ『チャッピー』

プロムガンプの映画は全部懐かしい。

 

24位 F・ゲイリー・グレイ『ストレイト・アウタ・コンプトン』

ストレートに面白い青春劇。HIPHOPに興味が無くても大丈夫。

 

25位 イングマール・ベルイマン『ある結婚の風景』

6時間に及び、夫婦の非常に現実的な確執の数々をこれでもかとあぶりだす会話劇。人と人が共に居ることの地獄。「でも現場はすごい楽しかったの」とメイキングで語られていて、それはそうだろうなとも思うし、そこに救いがあった。

 

26位 スティーブン・スピルバーグ太陽の帝国

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日本軍占領下の上海で収容所に送り込まれた英国人少年の日々。『千と千尋』のような異世界探検譚にも見えるし、少し少年が羨ましくさえなってしまう。

 

27位 岡本喜八ダイナマイトどんどん

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野球で因縁にケリをつけることになったヤクザ達のドタバタ。生命力で圧倒してくる。

 

28位 ガイ・リッチー『コードネームU.N.C.L.E』

スナッチ以降完全に萎んでいた監督がまさかの復活。嬉しい誤算。

 

29位 ジェニファー・ケント『ババドック ~暗闇の魔物~』

ホラー映画は、恐怖とは別に、普段は孤独に噛みしめている「心細さ」を映画と、または映画を通して世界中の観客と共有できるところが魅力だと思うのですが、本作の母子の孤独は『仄暗い水の底から』フリークとしてはたまらないものがありました。

 

30位 アンドレイ・タルコフスキー『ストーカー』

正直眠たいのですが、眠たいかどうかなどお構いなしに圧倒的に存在する現実の果ての「ゾーン」がやばい。ゾーンはあると思う。
日本も軍艦島を筆頭に廃墟には事欠かないのだから、和製ゾーンをもっと創り出してほしい。

 

 

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31位 ダリオ・アルジェントオペラ座 血の喝采 完全版』

ランキングでは数少ないのですが、今年はひたすらアルジェントを見ていたので、様式美としてはこれが一つの頂点かなぁと。『インフェルノ』も変テコで好きです。

 

32位 スティーブン・スピルバーグカラーパープル

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ネイティブアフリカンの「ノリ」に敬意を表していて、人間性としては割と酷い描き方なのが面白いなぁと。

 

33位 ベネット・ミラーフォックスキャッチャー

見る時の気分によってシリアスにもコメディにもホラーにもなりうる、基本わびしい映画。それをトップスターを起用して作れてしまうハリウッドの懐深さ。

 

34位 スティーブン・スピルバーグリンカーン

前半はやや退屈なのですが、クライマックスはやはり魅せる。失われた政治。

 

35位 ジャン=リュック・ゴダール『ウラジミールとローザ』

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説明が面倒臭い映画なのでググってください。

 

36位 イングマール・ベルイマン『叫びとささやき』

『ある結婚の風景』が結婚の地獄、もしくは他者がいることの地獄なら、こちらは老いの地獄、あるいは人が生きることの地獄。『野いちご』が美しい晩年を描いた名作として知られていますが、あれ撮った時まだベルイマン若いんですよね。

 

37位 ジャン=リュック・ゴダールメイド・イン・USA

超オシャレ。ゴダールだと他にもスパイ疑獄と拷問を描く『小さな兵隊』も異色で良かったですね。

 

38位 スティーブン・ソダーバーグエージェント・マロリー

超オシャレ。殺陣としても『ザ・レイド』に負けない新鮮さを獲得しているので、アクション映画史的にも片隅に名前を記して良いと思うのです。

 

39位 M・ナイト・シャマラン『ヴィジット』

シャマランは『エアベンダー』以外全部好きなので復活したと言われても困ります。むしろ新境地。

 

40位 前田真人『テラスハウス・クロージングドア』

超オシャレ。スタジオ部分が個人的にはやはりどうしても映画として受け止められなくて邪魔なのですが、そんな「映画外」を持ち込みながら尚、今年見た邦画の中でルックが持つ力では頭一つ抜けていた拾い物。Twitterやっていなかったら見ていなかった。ありがとうございます。選曲が良いっていうのも凄く大事。馬鹿っぽい響きだとは思うけれど、邦画はもっと「オシャレであること」を重視してほしい。

 

 

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41位 ジョン・カーペンターゼイリブ

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やってやるやってやるやってやるぞー♪

 

42位 ジョン・カーペンターダーク・スター ディレクターズ・カット版』

ラストの切れ味! 何あれ!

 

43位 ジャン=リュック・ゴダール『ありきたりの映画』

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実際のデモ活動の実録映像にいつもの政治語りを重ねるだけなのに映画になってしまうおかしさ。

 

44位 山戸結希『おとぎ話みたい』

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エンディング後についてくるMVがむしろ本編。そこへ向けてのフリとして最高。

 

45位 黒沢清『地獄の警備員』

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松重豊ばかり注目されるけど、最初に殺人鬼と遭遇した時の長谷川初範のリアクションがあまりに格好いいことは特筆されるべき。本作が好きな人は、是非黒沢清もう1つのオフィスホラー『DOORⅢ』も見て欲しいです。

 

46位 イングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』

ベルイマン、意外と色んな映画撮ってるんですけど、一番奇抜で、これはもしかしてヌーヴェルバーグに感化されて「俺だってやってやる」と思って作ったのか、だとしたら可愛いなぁな一作。

 

47位 ロマン・ポランスキー『赤い航路』

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やってることは『フランティック』と同じで、要は謎でさんざん引っ張り回しながら、観客の目には最後のダンスさえ残ればいいとなってる。ロマンがある。

 

48位 ジョージ・A・ロメロサバイバル・オブ・ザ・デッド

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ダイアリー・オブ・ザ・デッド』の続編。ゾンビが蔓延する世界で、この期に及んでまだ長年の因縁に囚われ人間同士対立する孤島の住民たちの愚かな顛末を描く。どこか西部劇の趣き。巨匠衰えず。

 

49位 ビクトル・エリセ『エル・スール』

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とても静かな掌品。画面に充ち満ちた繊細さに息を呑む。ホラーばかり見てる訳じゃないですアピール。

 

50位 ホウ・シャオシェン『冬々の夏休み』

トトロのいないトトロ。90年代以降の邦画に与えた影響力は良くも悪くも大きいのでは。

 

 

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対象作品は以下の通り。

 

ルイス・ギルバート『007/私を愛したスパイ
ルイス・ギルバート『007/ムーンレイカー
ジョン・グレン『007/ユア・アイズ・オンリー
ジョン・グレン『007/オクトパシー
ジョン・グレン『007/美しき獲物たち
ジョン・グレン『007/リビング・デイライツ
ジョン・グレン『007/消されたライセンス
アーヴィン・カーシュナー『(007)ネバーセイ・ネバーアゲイン
ジョン・ヒューストン、他『(007)カジノ・ロワイアル』
デヴィッド・クローネンバーグ危険なメソッド
デヴィッド・クローネンバーグマップ・トゥ・ザ・スターズ
デヴィッド・クローネンバーグデヴィッド・クローネンバーグシーバース
デヴィッド・クローネンバーグ『ラビッド』
スティーブン・スピルバーグリンカーン
スティーブン・スピルバーグ『戦火の馬』
スティーブン・スピルバーグ太陽の帝国
スティーブン・スピルバーグカラーパープル
スティーブン・スピルバーグ『オールウェイズ』
スティーブン・スピルバーグ『続・激突! カージャック』
イングマール・ベルイマン『魔術師』
イングマール・ベルイマン『夏の遊び』
イングマール・ベルイマン『夏の夜は三たび微笑む』
イングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』
イングマール・ベルイマン『冬の光』
イングマール・ベルイマン『叫びとささやき』
イングマール・ベルイマン『ある結婚の風景』全6部
ジェームズ・キャメロン『アビス 完全版』
ジェームズ・キャメロン殺人魚フライング・キラー
ロマン・ポランスキーフランティック
ロマン・ポランスキー『赤い航路』
ロマン・ポランスキー『毛皮のヴィーナス』
ロマン・ポランスキーポランスキーの吸血鬼』
ロマン・ポランスキー『テス』
ロマン・ポランスキー『テナント 恐怖を借りた男』
ジャン=リュック・ゴダール『ありきたりの映画』(ジガ・ヴェルトフ集団)
ジャン=リュック・ゴダール『たのしい知識』
ジャン=リュック・ゴダール『ウラジミールとローザ』(ジガ・ヴェルトフ集団)
ジャン=リュック・ゴダールメイド・イン・USA
ジャン=リュック・ゴダール『小さな兵隊』
ジョージ・A・ロメロ『サバイバル・オブ・ザ・デッド
ジョージ・A・ロメロ『マスターズ・オブ・ホラー/ヴァルドマー事件の真相』
ダリオ・アルジェント『マスターズ・オブ・ホラー/黒猫』
ダリオ・アルジェント歓びの毒牙(きば)』
ダリオ・アルジェントオペラ座 血の喝采 完全版』
ダリオ・アルジェントサスペリア
ダリオ・アルジェントサスペリアpart2 完全版』
ダリオ・アルジェントサスペリア・テルザ 最後の魔女』
ダリオ・アルジェントジャーロ
ダリオ・アルジェント『デス・サイト』
ダリオ・アルジェントインフェルノ
ダリオ・アルジェントダリオ・アルジェントのドラキュラ』
ランベルト・バーヴァ『デモンズ』
ランベルト・バーヴァ『デモンズ2』
アレハンドロ・ホドロフスキーホーリー・マウンテン
アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』
フランク・パヴィッチ『ホドロフスキーのDUNE
ロブ・ゾンビマーダー・ライド・ショー
ロブ・ゾンビ『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショーⅡ』
ロブ・ゾンビ『ハロウィンⅡ』
ポール・トーマス・アンダーソンインヒアレント・ヴァイス
ポール・トーマス・アンダーソン『ハードエイト』
マーティン・スコセッシ『アフター・アワーズ
マーティン・スコセッシエイジ・オブ・イノセンス
マーティン・スコセッシニューヨーク・ニューヨーク
マーティン・スコセッシ『最後の誘惑』
マーティン・スコセッシ『クンドゥン』
マーティン・スコセッシミーン・ストリート
マーティン・スコセッシアリスの恋
アンドレイ・タルコフスキーノスタルジア
アンドレイ・タルコフスキー『鏡』
アンドレイ・タルコフスキー『アンドレイ・ルブリョフ』
アンドレイ・タルコフスキーサクリファイス
アンドレイ・タルコフスキー『ストーカー』
アンドレイ・タルコフスキー惑星ソラリス
アンドレイ・タルコフスキー僕の村は戦場だった
ギレルモ・デル・トロ『クロノス』
ギレルモ・デル・トロ『デビルズ・バックボーン』
ギレルモ・デル・トロクリムゾン・ピーク
ジョン・カーペンターゼイリブ
ジョン・カーペンターダーク・スター ディレクターズ・カット版』
ジョン・カーペンター要塞警察
ビクトル・エリセ『エル・スール』
ビクトル・エリセミツバチのささやき
ホウ・シャオシェン『黒衣の刺客』
ホウ・シャオシェン『冬々の夏休み』
ジェームズ・デモナコ『パージ』
ジェームズ・デモナコパージ:アナーキー
モンティ・オウム『RWBY Volume.1』
モンティ・オウム『RWBY Volume.2』
スティーブン・ソダーバーグエージェント・マロリー
クリス・ロフィング/トラヴィス・クラフ『死霊高校』
ニール・プロムガンプ『チャッピー』
ベネット・ミラーフォックスキャッチャー
ジョージ・ルーカスTHX-1138 ディレクターズ・カット』
ウィル・グラック『ANNIE/アニー』
リチャード・リンクレイター6才のボクが、大人になるまで。
レオス・カラックス『ボーイ・ミーツ・ガール』
デヴィッド・リンチデューン 砂の惑星 劇場公開版』
ティム・バートンビッグ・アイズ
ルネ・ラルーファンタスティック・プラネット
マイク・マッコイ/スコット・ウォー『ネイビー・シールズ
ピーター・ウィアー『キラー・カーズ/パリを食べた車』
イーライ・ロスグリーン・インフェルノ
ジェニファー・ケント『ババドック ~暗闇の魔物~』
M・ナイト・シャマラン『ヴィジット』
レニー・アブラハムソン『FRANK』
トニー・スコット『ハンガー』
ジャック・クレイトン『回転』
デヴィッド・ロバート・ミッチェルイット・フォローズ
クリント・イーストウッド『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』
トビー・フーパーツールボックス・マーダー』
ダニー・ボイルスティーブ・ジョブズ
F・ゲイリー・グレイ『ストレイト・アウタ・コンプトン』
アルノー・デプレシャン『あの頃、エッフェル塔の下で』
ルイ・マル死刑台のエレベーター
ロバート・ワイズ『たたり』
ジョン・ブアマンエクソシスト2』
ジョーダン・ルービン『ゾンビーバー』
フランシス・フォード・コッポラヴァージニア
ジャック・ドゥミ『ロバと王女』
ガイ・リッチーコードネームU.N.C.L.E』
ホウ・シャオシェン『黒衣の刺客』
黒沢清『地獄の警備員』
中田秀夫劇場霊
樋口真嗣進撃の巨人 エンド・オブ・ザ・ワールド
塚本晋也『鉄男 THE BULLET MAN』
岡本喜八ダイナマイトどんどん
池田敏春『人魚伝説』
増村保造『巨人と玩具』
入江悠『ジョーカー・ゲーム
入江悠『日々ロック』
周防正行終の信託
周防正行舞妓はレディ
瀬々敬久『ストレイヤーズ・クロニクル』
北野武龍三と七人の子分たち
原田眞人『駆込み女と駆出し男』
前田真人『テラスハウス クロージングドア』
三池崇史テラフォーマーズ
井口奈己『ニシノユキヒコの恋と冒険』
山戸結希『おとぎ話みたい』
横浜聡子『俳優 亀岡拓次』
田崎竜太『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4 DC版』
雨宮慶太『人造人間ハカイダー

 

来年も引き続き旧作を追いたいと思います。

 

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アンニュイな気持ちになる、アニメ・マイベストエピソード5選

当記事は、

以前『アウトライターズ・スタジオ・インタビュー』でも紹介して頂いた

ぎけん(@c_x)さんのブログ物理的領域の因果的閉包性の新企画

マイベストエピソード』に参加したものとなります。

 

● マイベストエピソードのルール

・ 劇場版を除くすべてのアニメ作品の中から選出(配信系・OVA・18禁など)
・ 選ぶ話数は5~10個(最低5個、上限10個)
・ 1作品につき1話だけ
・ 順位はつけない
・ 自身のブログで更新OK(あとでこのブログにコピペさせていただきます)
・ 画像の有無は問わない
・ 締め切りは8月末まで

 

掲げられたコンセプト「作品としてはベストに選ばないけど好きな話数」が非常に興味深いなと思いゆっくりと視聴履歴を振り返っていたのですが、話数単位で振り返ろうとすると好きな作品でさえほとんど思い浮かばないことに気がつきました。

好きで繰り返し見た話数。きっと沢山ある筈なのに、ほとんど思い出せない。

少し寂しいので、せめて今思い出せるものだけでも記録に残します。

カテゴリー「アンニュイな気持ちになる」は後付けです、すいません。

ただ、雨降る日にこの5選を続けて視聴したりすると、それはもうアンニュイな気持ちになれるのではないかと思います。

以下、あくまで「作品としてはベストに選ばない」タイトルの中から思い出した順に。

勿論、ベストに選ばないからといって嫌いな作品の筈も無いのですが。

 

では。

 


 

戦国コレクション COLLECTION-8

『Regent Girl』

脚本:金澤慎太郎 絵コンテ:柴田勝紀 演出:金子伸吾

 

たった一話あればアニメはなんでも出来る、と表明してのけた、異色のパロディオムニバスアニメ『戦国コレクション』の中でも、最大のインパクトを誇るお米の国の秀吉。

異世界から現代日本に迷い込んだ戦国武将・豊臣秀吉(♀)はお米が大好き。ある日、豊作祈願の舞を踊った山頂からおむすびを落としてしまう。おむすびを追いかけ穴に落っこちた秀吉は、米粒たちの暮らす不思議な世界に迷い込む。

転がるおむすびのように止まらず変転し続けるシュールな世界と、虚実を巡る禅問答が可愛いらしく綴られる。

奇異であることをさも奇異であると見せびらかしがちな深夜アニメの世界にあって、キッズアニメカートゥーンのように肩肘張らず、ただ気楽に奇異であることを満喫し、視聴者を異世界に誘ってくれる一篇。秀吉の飄々としたキャラが本話数の「自由さの強度」に一役買っている。

数々のパロディやダジャレでおふざけを装いながら、実は単に煙に巻く会話と突拍子も無い物語が展開している訳ではなく、「なぜ私達はフィクションを創り、フィクションを享受するのか」という究極の命題に向き合ってキチンと回答を示した誠実な30分。一言も無駄が無い。また、フィクション論であることによってオムニバス風の本作品全体を通したテーマ性をも語り得ている。

脚本の金澤はライトノベル作家水城正太郎の別名義で、やはり本作同様お米大好きなヒロインが登場し何重にもメタでニヒリスティックで抽象的な物語『いちばんうしろの大魔王』を執筆している。十数巻に及んで執筆した自作長編の要素をわずか30分に凝縮してみせた、謀らずか謀ってか氏の代表作とも呼べる一話。

柴田勝紀繋がりで作画の柔らかさと世界の抽象度は『輪るピングドラム』にも通じ、または早過ぎた『ガールズ&パンツァー』とも呼べる一幕も。

 

 

 

パパの言うことを聞きなさい!  第9話

ちょっとマイウェイ

脚本:あみやまさはる 絵コンテ/演出:池端隆史

 

二児の親であるバツ2の男と結婚した姉。彼女自身も旦那との間に娘をもうけ、幸せな家庭生活を送っている。そんな状況に祝福と歯がゆさを抱いていた大学生・祐太だったが、ある日、姉夫妻を乗せた飛行機が墜落して2人は死亡する。やはり幼くして両親を亡くし姉に育てられていた祐太は、遺された三姉妹がバラバラになることを恐れ、保護者として八王子の狭いアパートに3人を引き取る決意をするのだが、学生生活とバイトと子育てとで日々は多忙を極め---

ロリコン向けサービスショット満載で美少女お色気コメディの体裁を繕ってはいるけれど、とても不思議なバランスを保った『パパ聞き!』は、誰もが誰かのために無理をしながら、ギリギリのバランスで笑顔を保つ「作られた家族」の危うい幸福を肯定している。

そもそも三姉妹の母親がそれぞれ異なるため、祐太が介入しなくてもこの家族には元々つきまとっていたその「それぞれの無理」が根底にしかれており、この第9話では、本編中もっともスポットの当たることのない、いつも平然として家族のドタバタを見守り、だからこそその無理は人知れぬものがある次女・美羽(みう)の日常が描かれる。

姉の空と共に毎朝ダッシュで通学電車に乗り込む姿から始まり、小学校でもおすましをして自分を取り繕っている美羽の見栄(本編中、彼女が素の自分をさらけ出せる環境はどこにも無いのだ)も、満員電車で踏まれた靴の「汚れ」によってその背伸びを周囲に露見してしまう。

『パパ聞き!』は、基本的に登場人物が全力で意識的に「ドラマを起こさない 」ことを描いたドラマである(各話のタイトルが往年の連続ドラマから来ている皮肉がスパイス)。大きな展開は4人が同居を決める最初の3話で終わっており、そこから先は、それぞれの我慢によってここに残された幸せを守り切る、そう決めた子供たちの日常モノと化す。

だから、家庭でも学校でも無理をしている美羽が、よくあるシナリオのお約束通り感情を爆発させることはない。代わりにここに現れるのは、祐太の大学のサークル仲間である遊び人の男・仁村だ。

美羽は自分が仁村に同情されている事を知っている。仁村は美羽が背伸びしている事を知っている。だけど、互いにとぼけたフリして一日だけの恋人ごっこを行う。

美羽は自分の家庭の一歩外側で、祐太の友人がこうして見守ってくれていることを知る。私の無理も、きっと特別なことではないと。この一日を経たからといって、美羽の小学生にのしかかるにはあまりに重たい日々の苦労は今後も軽減することはないだろう。それでもあの家に帰ると決めた。

仁村とデートした池袋サンシャインシティーの屋上から、かつて過ごした家も今の家も同じ空の下にあることを目にして、美羽は今の日常を「選んだ」自分を再確認する。

怒鳴ったり泣きじゃくるばかりがドラマじゃない。怒鳴らないことで、泣きじゃくらないことで、こうして続いていく通奏低音のようなドラマがこの空の下には溢れている。脇役が脇役として日常に留まるために過ごしたささやかなひととき。そこに30分費やされる贅沢。

制作会社feel.の、わけても及川啓が係わるアニメの「夕焼け空」がいかに淡くて儚くて美しい空気を創り出すかは、『アウトブレイク・カンパニー』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』『この美術部には問題がある!』を見ればわかる通り。助監督として参加した本作でもそのマジックアワーの効果は最大限に発揮されている。

逝去された松智洋先生への追悼の意も込めて。

 

 

 

異能バトルは日常系のなかで 第7話

『覚醒』ジャガーノート・オン

脚本:樋口七海 絵コンテ:望月智允 演出:宮島善博

 

所謂ザ☆「声優の本気」として早見沙織の長台詞が有名な回。

以下、一部抜粋。

実際にはもっと長く、一息にまくしたてる。

 

わかんない...わっかんないよ
寿(じゅー)くんの言ってる事は一つも分かんない

ブラッティって何がカッコいいの?

血なんてイヤだよ痛いだけだよ

罪深いってなんなの?

罪がある事の何がいいの犯罪者がカッコいいの?

正義と悪だとなんで悪がいいの?

何で悪いほうがいいの、悪いから悪なんじゃないの!?

右腕がうずくと何でカッコいいの?

『自分の力が制御できない感じがたまらない』って何それただのマヌケな人じゃん!

ちゃんと制御できるほうがカッコいいよ立派だよ!

普段は力を隠していると何が凄いの?

そんなのタダの手抜きだよ、

隠したりしないで全力で取り組む人の方がカッコいいよ!

どうして二つ名とか異名とか色々つけるの?

いっぱい呼び名があったって分かりにくいだけじゃん

英語でも何でもカタカナつけないでよ覚えられないんだよ!

ギリシャ神話とか聖書とか北欧神話とか日本神話とか

ちょっと調べたくらいでそういう話しないでよ!

内容もちゃんと教えてくれなきゃ意味がわかんないよ

教えるならちゃんと教えてよ!

相対性理論とかシュレディンガーの猫とか万有引力とか

ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ

中途半端に説明されてもちっとも分からないんだよ!

ニーチェとかゲーテの言葉引用しないでよ

知らない人の言葉使われても何が言いたいのか全然わかんないんだよ

自分の言葉で語ってよ!

お願いだから私が分かる事話してよ

中二ってなんなの中二ってどういうことなの

わかんないわかんないわかんないわかんないわかんなーい!

寿くんの言う事は昔から何一つこれっぽっちもっ 分かんないんだよっ!

 

勘違いして欲しくないのだけれど、ここまで切羽詰まって彼女=早見演じる鳩子が繰り広げているのは「中二病ラノベのテンプレート批判」ではなく、早見沙織の演技が素晴らしいのはこの長台詞を情感を欠かすことなく叫びきる技術力の高さによるものでもない。

鳩子自身も認識出来ていない彼女の本音を、ここに至るまでの丁寧な段取りと、この芝居場でのアニメーションと早見の演技と長い長い台詞が相俟って表現しているから。

それはただ一言、「私を見て」と。

 

中二病の少年・安藤寿来と彼を囲う少女たち文芸部一同の身に、ある日、本物の異能力が宿ってしまう。かと言って戦うべき相手が現れる訳ではなく、たまに異能力を使うだけの日常モノが続いていくのが本作の概要。

ここで実際に主人公・安藤を取り巻いているのは彼が好きな異能バトルではなく、彼にとっては興味の範疇外である美少女ハーレム。美少女ハーレムでいつだって割を食うのは、主人公と過ごした時間が長い分だけ、その焦りにより強い痛みが宿る幼なじみキャラで、そして鳩子はこの物語の幼なじみポジションに当たる。

オタク趣味を持ち合わせていない鳩子は安藤の中二病トークに加われないのだが、この日は久しぶりに安藤の家で夕食を作ることになった。家事という得意技でなら、自分は安藤の日常に寄り添える。

なのに、せっかく安藤家にお邪魔して台所で得意の肉じゃがを作っていても、安藤が気にしているのは部活仲間の灯代のことばかり。それには安藤なりの理由があるのだが、鳩子から見れば灯代はライトノベル志望作家。つまり、安藤とオタク趣味を共有できる女の子。

せめて灯代とどんなやりとりをしているのかやんわり聞き出そうとした鳩子に安藤から返ってきた言葉、

「どうせお前にはわかんねえだろ」。

肉じゃがを作る鳩子の手から、こぼれ落ちるお玉。

そしてあの長台詞が爆発する。

カメラもキャラもパースも動かしまくるTRIGGER制作でありながら、本話数の絵コンテは『絶対少年』を「フィックスだけでやりきってみたかった」などと語る志向の持ち主・望月智充

作画に潜在する躍動をショットが抑制してしまう本作全体に宿る不完全燃焼感がこの話数に限ってはプラスに働き、鳩子の中に沸々と溜まり続けるフラストレーションの顕在化に繋がっていく。

AパートとBパートの冒頭でそれぞれ「かつて鳩子が非常ベルを押してしまって学校にパニックを起こし泣きじゃくっていたら、安藤が助けにきてくれた」過去が繰り返されるが、Aでは鳩子の視点、Bでは安藤の視点で綴られる。鳩子にとっては長年の想いの蓄積の上にのしかかった「お前にはわからない」であったが、Aパートの終わりで鳩子の爆発を食らった安藤にとっては、Bパートで過去を振り返るまで、ただその場しのぎのなんでもない一言でしかなかった、ありふれた齟齬であったと示される。

このBパートで、鳩子を見失ってしまった安藤は友人の相模、そして逃げ出してしまった鳩子は桐生という不思議な青年と出会う。実はこの物語、非日常世界での異能バトルは実際に起こっていて、ただ肝心の主人公たちだけがそれに気づいていないというトリッキーな世界観の上に成り立っていたことがシリーズ後半で「視聴者にだけ」明かされていくのだが、その「異能バトルを非日常系で」展開している事を実は知っていたのが相模で、そしてむしろ異能バトル物の真の主人公とも言える中心人物が桐生なのだ。日常モノのテンプレートを一時期だけとはいえ破壊してしまった鳩子と安藤が、それぞれ日常の裏にひそむ非日常に一瞬の邂逅を見せる。相模は安藤と鳩子の関係性(つまりテンプレ「幼なじみ」設定)の不自然さを説き、桐生は鳩子が否定した「中二病テンプレートのWHY?」に対する回答を語る。桐生の語るそれは、イコール鳩子が本当に否定したかった「ハーレム物テンプレートのWHY?」への回答、つまり自分の本心へ至る回答にもなっているという、原作の功績も大きいのだろうが巧すぎる脚本。

人の幸せ。それは、『選ばれる』ことだ。

人は誰にでもなりたいんだよ、『選ばれる者』にな。

物語の中心にあるこのエピソードこそが、日常と非日常が反転しそうでしない本作における、何か決定的な亀裂が入りそうで入らないギリギリのスリルを見せた真のクライマックスだった。

 

 

 

神のみぞ知るセカイⅡ FLAG.7.0

『Singing in the Rain』

脚本:倉田英之 絵コンテ:出合小都美 演出:駒屋健一郎

 

傑作マンガのアニメ化としては決して成功したとは言いがたい作品。しかし原作が傑作となるにあたって本話数がフィードバックしていることもまた事実であろう、理想的な原作とそのアニメとの結節点。

現実の少女たちを自身の得意なギャルゲーの攻略ヒロインに見立てて、そのバロメーターを見極め自らとの恋に「落とす」ことで、少女たちの体に逃げ込んだ旧世界の悪魔を追い払う役目を負うことになった「リアルなんてクソゲーだ」が信条の孤高のオタク・桂木桂馬

彼を戸惑わせる最大のヒロインが「小阪ちひろ」で、当該エピソードはちひろ編の最終話にあたる。

今までは明確な悩みを抱えたヒロインの問題を颯爽と解決することでヒロインの心を解き放ってやればよかったし、桂馬自身が王子様役となることでヒロインを恋に落とすことも簡単だった。しかし、このちひろは何に悩んでいるのかもわからない。しかも次から次へと別の男に目移りして、ヒロインらしい矜持を守ってくれない。

仕方なく桂馬はちひろを落とすのではなく、ちひろが今片思いしている男を落とす為の攻略法を探る方向に切り替えるが、ちひろはその男にさえ真剣にならず桂馬の話を笑って聞き流す。ヒロインは純情であるべきだという固定観念に縛られた桂馬の苛立ちは募っていく。

アニメ版は渡辺明夫によるいかにもヒロインめいた目の大きなキャラデが最大の失敗を見せてしまってはいるが、原作におけるちひろはいかにも「モブ生徒」然としたキャラクターとして早々に登場しており、そんなモブ少女が最終的に主人公と対比される最大のヒロインと化していく過程が全体の中で大きな柱となっている。

ありきたりで、ドラマもバロメーターもなくて、一途ですらない少女。

本話数Aパートでは、そんなちひろの登校風景が彼女の鼻歌と共にゆったりと綴られる。雨上がりの街。絶えず水たまりや曇り空が映り込むクリアではない景色の中、不要となった傘をもてあそんでうろつく少女。明確なドラマと出会えない、あてどない日常を生きるありふれた人。この時彼女が口ずさんでいる曲「初めて恋をした記憶」がこののち、原作でも最大の意味を持つ。

そのフィードバック部分が映像化されるまでには第3期の痛切な最終回を待たなくてはならないのだが、アニメは1期、2期で各ヒロインを丁寧に描きすぎたために原作の展開を追うことが出来ず、3期の冒頭で物語の大部分を完全にダイジェストとして省略してしまっている点からやはりアニメ化成功とは言いがたい。

言いがたいが、失策の数々に敢えて目をつむるとすれば、やはりアニメ化が意味を持ったとすれば本話数なのだ。

他の話数ではテンポの悪さや、原作の絵的な魅力を汲めていないのにパロディ要素だけはやけに踏襲する監督のセンスの無さが目について多少いらつきも覚えるのだが、アニメ版の間延びした作りがこの「雨上がりの街をただうろつくちひろ」という、何も起こらないのに全てが描かれる贅沢なシーンを生み出したのもまた確か。勿論、倉田脚本は確信犯で狙ってのことだろう。

「リアルなどクソゲー」を信条とする桂馬に対し、ヒロイン側の少女たちは誰もみな最後には「リアルを生きる」覚悟を決めていく、思えば今までの『神のみ』とはそんな話であったことを、このちひろ編を通じて桂馬も、そして視聴者も気づく。その強さの象徴として、冴えない街で傘をもてあますちひろの描写はある。

ちひろこそが誰よりも悩んでいたと桂馬は気づくが、それは実際にちひろが他のヒロインより深く悩んでいるということではない。ただ、桂馬にとって初めてリアルに共感しうる悩みだったのだ(その回答は続く「長瀬純」編で示される)。

ゴールすることも、クリアすることも出来ない、茫漠とした日常を生きるということ。

宙ぶらりんな世界で、虚空に傘を振り回すこと。

リアルはクソゲーだ。しかし、無意味な理想を手放す訳にはいかない。

存在しないゴールに向かって、バロメーターに目を凝らし続けろ。

二人にとって今後重要な意味を持つ、港に停泊した遊覧船の上で桂馬は改めてちひろを恋に落としにかかる。甲板の高低差を使った二人の立ち位置。ちひろの傘の使い方。ごく自然で作為を感じさせないが、男女の距離感を映像としてスリリングに伝える出合コンテの絶妙な手腕を堪能する上でも最高の一話。

 

 

みなみけ おかわり 4杯目

『片付けちゃっていいですか?』

 脚本:鈴木雅詞 絵コンテ:細田直人 演出:雄谷将仁

 

 両親不在、三姉妹だけで楽しく暮らす長女・ハルカ、次女・カナ、三女・チアキの三姉妹。彼女たちと、それぞれ通う高校・中学・小学校の仲間たちとの、楽しくドタバタ過ごす日々―――

人気シリーズ『みなみけ』の第2期。実際には2つのアニメスタジオに同時に1期ずつ作らせるという試験的な企画だったのだが、後に日常モノの雄となる太田雅彦監督がスタジオ・童夢で作り上げた1期が大人気を獲得した為に、ヒット作『SHUFFLE!』のシュールな画風を引きずった細田直人監督×スタジオ・アスリードによる2期は厳しい評価に晒されてしまった、、、と、聞く。後追いでまとめて見たので、放映時の空気は知らない。

ちょうどアニメを見始めた頃の自分にとっては、おそらく初めて触れた日常モノが『みなみけ』シリーズだったので、そうした問題にはまったく気づかず、なんなら今見れば露骨な作画の違い(なにせ、メインとなる南家の外観さえ違う)すらわからないで見ていた。

それより新鮮だったのが、1期では全編明るくライトで照らされているような、コメディとして割り切って見れる表層的な世界だったものが、冬の陰鬱な空気を全面に取り込んだこの2期では、一気に南家の生活がリアルに近いものへと転じたことだ。ショーウィンドウ越しのユートピアが、隣人の生活をのぞき見るようにグッと距離感を縮めてきた。

2期オリジナルキャラクターで、たしかに笑いには一切還元しないし、コメディ世界にひたすら泥を塗るような陰気な少年フユキの存在はしかし、2期を叩く視聴者たちの中にすら、自然と南家を「モニターの向こう側」の存在から「気になる隣人」へと変化させるのに一役買ったのではないかと思う。フユキへのヘイトの分まで、南家の「生活」への愛着度はより増したろう。

あえて断言すれば、みなみけシリーズの長寿化最大の功労者は、フユキであった。異論は認める。

皮膚感覚レベルでの天候や気温とは無縁に思えた1期の世界に対して、2期は絶えず街の気温をひしと肌で感じながらキャラクターたちが生きている。停電の日の雪合戦を描いた第6話の方が2期のテーマ的にもより重大なのだが、個人的に今でも忘れられないのがこの4話目。

普段は温厚で理想的な母性を持った長女・ハルカが、本話数の冒頭では単純にガミガミした母親同然に妹2人を叱り、隣りのフユキ君を見習いなさいと南家総出の町内清掃参加を決めてしまう。これにそれぞれの友人たちも巻き込まれて、真冬の早朝で寒さに凍えながら町のゴミを清掃するという、世にも地味な30分が展開する。

クライマックスは「川辺に不法投棄されていた、錆びて汚れた重たい冷蔵庫を開けるか否か」だ。なんだそれ。手はかじかんでいるだろう。こめかみのあたりもそろそろ寒さで痛くなってそう。うんざりだし疲れているから帰りたいのに、まだみんな残っているから帰るに帰れない。

もしかしたら何か面白いことが、まだ起こるかも知れない。

日常モノ」というフレーズから外されていた本来の「私たちの日常」が、その嫌になる作業の中にあった。

 

どのアニメにも出てくる決まり切ったイベントじゃない。

張り切って夕食を作っている最中につい怒りが溜まって温かい晩餐を台無しにしてしまうこと。

疲弊した学校帰りに商業施設に寄り道して屋上から街を眺めること。

雨上がりの街で目的もなく傘をもてあますこと。

冬の朝早く、町内清掃にかり出されてうんざりすること。

私が見たい「日常モノ」は、そんな「とても地味で、けれど他のアニメや他のキャラクターでは代えの効かない時間」を描いてくれるものなのだ。

と。

好きなエピソードを選ぶ内に、そしてここまで書く内に、ふと気がついた。

  


 

 以上です。久しぶりのブログ執筆でまるで筆が進まず、書いても書いても読めたものじゃなかったり、どうにもただ重大なネタバレをしているだけになってしまったりして、何度も書いたり消したりを繰り返す内に、当初選定していた10話とは1話もかぶらないこの5話が残りました。

ですが、こうして並べてみると成る程たしかに思い入れの強い5話だと気づかされるのです。

このような機会を与えて頂いたぎけんさんに感謝します。

長々と拙文にお付合い頂きありがとうございました。