アニメ映画の採点

f:id:pikusuzuki:20201122214251p:plain


「映画の採点」第5弾。

自分で設けたルールを早速破りますが、今回は劇場版アニメ縛り。

数年分見逃した劇場版アニメが溜まっているので、重点的に観て行くぞと。

採点は最近見た劇場版アニメの中で相対化しており、比較的甘め。

今年はあまり劇場でアニメを観れなかったので、心が欲してたのかも知れません。

正直まだまだ未見の劇場版アニメは山積.改めてその制作本数に驚いています。

 

 

ムタフカズ

【採点】A

【監督】ギョーム・"RUN”・ルナール、西見祥示郎

【制作国/年】フランス・日本/2018年

【概要】ギョーム監督の同名バンド・デシネを日仏共同でアニメ映画化。L.A、ギャングと貧困の街ダーク・ミート・シティ(DMC)で生きる孤児のアンジェリーノは、ガイコツのヴィンス、半獣人(コウモリ)のウィリーとダラダラ生きていた。しかし少女ルナに一目ぼれしたその時から謎の集団に追われるようになる。

【感想】

 巧みに3Dと手描きを織り交ぜるSTUDIO4℃世界と木村真二の魅惑の背景美術を舞台にキャラクターが飛び回るバイオレンス・アクション、つまり『鉄コン筋クリート』の系譜。後半勝手に解決していくご都合集団の存在とか脚本は雑ながら、その雑な世界を動き回るアニメの楽しさが全てに勝る。

 西見祥示郎監督のキャリアかなり遡らないと見当たらないのですが、次回作はもっと早く観たい。吹替版では魅力半減なのでフランス語版での観賞推奨。

 

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 絆』

【採点】C

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】TVアニメ『Free!』2期総集編前編兼『ハイ☆スピード』と3期を繋ぐ架け橋。岩鳶高校水泳部三年に上がった遥。真琴や凛が進路を決める中、才能はあっても目標の無い、ただフリーを泳いでいたかっただけの遥は、次第に周囲の期待に押しつぶされてしまう。

【感想】

 3期以降要素が膨れ上がりオモチャ箱化した混沌を知っていると、まだ随分と話が整ってたんだなと懐かしい。好き勝手やってるようで内海紘子監督の統制は行き届いていた事も再確認する。ゆるふわアニメの性別を変えただけでマチズモ的ステレオタイプな男性性を持ち込まない事が新鮮だったFree!ながら、とは言え女の子メインのゆるふわでもシリーズの途中でちょっとした「気づき」の為にわざわざオーストラリアにまで行ったりしないので(その為だけに山田尚子渡航させたりしないので)、やはり面白い過剰さがある。

 

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 約束』

【採点】C

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】TVアニメ『Free!』2期総集編前編兼『ハイ☆スピード』と3期を繋ぐ架け橋。鮫柄学園水泳部部長となった凛。遥たちとの確執や父の死のトラウマを乗り越え、部を取り仕切る日々。再会した旧友・宗介も仲間に加わり岩鳶と切磋琢磨するが、宗介の態度に、そして彼の身体に異変を感じ……?

【感想】

 主人公として動かし辛い遥に比べて、凛視点になると途端に明瞭な青春劇になる。ただ『絆』と比較すると浮いてるのが冒頭と終盤の「文字」演出で、これはあまりに安易なのでやらない方が良いのではないか。京アニのお歴々が演出の遊戯として使っていたギミックを、河浪監督は割りと直球で説明に使ってしまっている点に危惧を感じた。

 

『特別篇 Free! -Take Your Marks-

【採点】B

【監督】河浪栄作

【制作国/年】日本/2017年

【概要】『Free!』新作四編がセットになった、2期と3期を繋ぐオムニバス。

東京に進学することになった遥と真琴の部屋選び。温泉へ行くことになった鮫柄学園のドタバタ。新入部員勧誘の方法を考える渚ら後輩組。そして勘違いから凛と百が水泳勝負に至るまで。

【感想】

 ゆるふわ回だけが平和に続く日常世界を、京アニクオリティの2時間近い新作映像で綴るこの感触、『映画 けいおん!』の衝撃を思い出す。すべてのアニメでこういう特別篇を作って欲しいくらい贅沢な「なにもない」時間。一話だけじゃなく、四話もあるのが嬉しいんですよ。

 

『BURN THE WITCH』

【採点】

【監督】川野達朗

【制作国/年】日本/2020年

【概要】久保帯人が放つ新作にしてBLEACH番外編、連動する映像化プロジェクト第一弾。ドラゴンが息づくロンドン裏世界「リバース・ロンドン」で、自然ドラゴン保護管理機関「ウイング・バインド」で働く魔女、二ニー・スパンコール、そしてニーハこと新橋のえるの騒々しい日常が幕を開ける。

【感想】

 先に原作読んでテンション上げての観賞。前日譚飛ばしてるのでバルゴの説明は不測。アクションはスタジオコロリドの丁寧な作画で盛り上がり、ロンドンの町並みも綺麗。ただ「漫画の丁寧な再現」に留まり、折角のお膳立ての元に映画を作れるのに欲が少なく、「原作読んでた以上の感想」が一切湧きあがらない。漫画表現の映像的な置換というものは必要。それはどのような形であれ、「時間芸術」と呼べるものになるだろう。

 

『薄墨桜 -GARO-』

【採点】

【監督】西村聡

【制作国/年】日本/2018年

【概要】雨宮圭太の特撮フランチャイズGARO】そのTVアニメ第二シリーズ『GARO 紅蓮の月』の劇場版。メインスタッフは一新し、『劇場版TRIGUN -BADLAND RUNBLE-』の西村聡監督×小林靖子脚本タッグが復活。ストーリーは一見でも理解できるよう、TVとの時系列を曖昧にしている点も『TRIGUN』と共通。

【感想】

  平安時代を舞台に、前半は陰陽師モノ、後半まさかの怪獣映画へと変貌を遂げる野心作。『機動警察パトレイバー WⅩⅢ』を思わせるストーリーと、イリス×レギオンな怪獣に変身する巨大樹・薄墨桜のカタストロフィーが平安京で展開する新鮮さ。

 こうあって欲しい劇場版アニメ。

 2018年にして朴璐美ツンデレヒロインに萌える。

 

機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER』

【採点】A

【監督】松尾衛

【制作国/年】日本/2017年

【概要】OVA『サンダーボルト』総集編劇場版第二作。一年戦争終結後、サイコ・ザクを失ったジオン軍のダリルは地球でアッガイ小隊を率い、連邦軍のイオはジオンの関節も利用した新兵器アトラス・ガンダムの試乗を開始。そんなイオの前に趣味の合う快活な女パイロット・ビアンカが現れる。その頃、連邦は連邦を抜けた何者かが開設したらしき謎の宗教組織「南洋同盟」に警戒心を抱いており、ダリル小隊は偵察を開始する。

【感想】

 特に続編のアナウンスも無い「話の途中」という無責任な内容ながら、ひたすら描写が格好良い。MSデザインをフルに活かした戦闘ギミックの数々、そんなギミックすら一瞬で蹴散らされる兵器の暴力性。その危険な戦場をメインキャラが行き来する緊迫感と、次第に複雑な盛り上がりを見せ始める人間関係。そして菊池成孔の多彩な劇伴。サンダーキャットも褒めてた。

 ひたすら格好良いというシンプルな理由のみによって最高.早く続きが観たい!

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.1 罪と罰

【採点】C

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】サイコパスシリーズ、中篇劇場版オムニバス第一弾。2117年、公安の前に暴走車両が突入し、搭乗している精神錯乱を起こした女が何事かを訴える。彼女の素性が潜在犯隔離施設「サンクチュアリ」の心理カウンセラー・夜坂泉だと判明し、常守朱は監視官・霜月三佳に執行官・宜野座と弥生を付けて出向させる。霜月がそこで見た、「サンクチュアリ」が秘匿する事業とは……。

【感想】

 冲方丁不在だとこのテンポに戻ってしまうのか。人格変わったかな、逆にサイコパスかなというくらい霜月美佳が正義感を発揮して活躍。俺が見たかった霜月はもっと「個」としてシビュラのファシズムに同調し、次第に中枢へ近付いていく、朱にとっての負の合わせ鏡であって欲しかった……というかその為の2期だったんじゃないのか……という不満はともかく、中篇アクションとして一定の満足度。

 個人的願望とは違って、意外と主役ポジションでも霜月は輝く。

 サンクチュアリで秘匿されていた「それ」について突っ込んだ話を観たかった。

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.2 First Guardian』

【採点】B

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】2112年夏、沖縄。まだ国防軍に所属していた須郷徹平は、優秀なドローンパイロット「First Guardian」として特殊任務に参加していた。数ヶ月後、東京の国防省無人ドローンが襲撃し、多数の役人・軍人を殺害。刑事課から訪れた監視官・青柳璃彩と執行官・征陸智己は国防省の妨害をかわしつつ介入し、須郷の取り調べを開始する。事件の背後に、軍事作戦中に死んだ筈の須郷の元上司・大友逸樹の影がチラつき……。

【感想】

 過去篇にすることで死亡キャラ達の同窓会的な雰囲気に。アニメ1期では設定上だけ伝説の刑事でひたすら無能にしか見えなかった征陸さんがようやっと格好良い姿や渋みを見せてくれる。ただ「これが半分の上映時間で『攻殻SAC』の中の一話だったら傑作回だったんだろうな」となる、丁寧と言えば聞こえはいいが鈍重な演出が続き、結果真相は常に先読み出来てわかってしまう。作画の高品質が裏目に。

 世評はどうあれ、やはり2期のスピーディーさは大事だった。Case.1に続き、ドミネーターが黄門様の印籠みたいな良い仕事。

 

PSYCHO-PASS Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に

【採点】A

【監督】塩谷直義

【制作国/年】日本/2019年

【概要】咬嚙慎也は今もアジアを放浪していた。私怨の復讐を果たした身であり、日本に帰れば死刑だろう。やがてチベットらしき国で襲撃されていた難民バスを助け、孤児のテンジンと出会う。日本棄民の娘であるテンジンは両親を殺したゲリラへの復讐を誓い咬嚙に戦いの作法を習いたがるが、咬嚙は人殺しに反対。次第に打ち解けていく二人だったが、この国で行われている和平交渉の背後にある陰謀に気がついてしまう。

【感想】

 舞台は日本じゃないし、ドミネーターも出てこない。つまり今までで一番コパスらしさから離れながら、今までで一番オリジナリティを獲得した一篇(つまりコパスってオリジナリティの部分にオリジナリティが欠けるシリーズだったと思うんですよね)。

 即席のチーム物でもあって、中篇ながら先の長篇劇場版よりもクライマックスのアクションの満足度は遥かに高い。何より、初めて咬嚙が魅力的な存在に思えたのが個人的に大きい。征陸さん同様、1期だとすごく思わせぶりなのに無能だったから……。

 

『あした世界が終わるとしても』

【採点】

【監督】櫻木優平

【制作国/年】日本/2019年

【概要】クラフターによるオリジナルCGアニメ映画。元となるHuluオリジナル作品があり、キャラや一部バトルシーンは共通しながらも異なる物語とのこと。

 幼い頃母を謎の突然死で失った高校生シンと彼の面倒を見る幼なじみのコトリの前に、シンとそっくりな姿をしたジン、コトリを守ると誓うミコが現れる。この世界は裏側にもう一つの世界があり、最近多発する突然死も裏側の世界の同一人物が処刑されている為なのだという。そして裏世界「日本公国」を支配する公女は、もう一人のコトリで……。

【感想】

 何も知らずに見たので序盤の展開は結構面食らって面白く、必要最低限のキャラで回していく構成も、中盤での主要キャラ死亡もなかなか「おお」となる。それでも「誰に向けて作ってるんだろうこのアニメ……」という冷めた気持ちが消えなかった。なぜアヌシーはこれをコンペに入れたの。

 中盤までは整理されてる気がした構成も、終盤ひたすら萎んでいく。どこがクライマックスだったんだろう。

 

『ニノ国』

【採点】C

【監督】百瀬義行

【制作国/年】日本/2019年

【概要】足が不自由な高校生ユウは、幼なじみのハルとコトナの仲に疎外感を覚えていた。ある日コトナが交通事故に巻き込まれ、救助しようとしたユウとハルは異世界に迷い込んでしまう。そこは現実世界の人間の分身が暮らすファンタジー世界で、コトナにそっくりなアーシャ姫が重い病に冒されており……。

【感想】

 あれ? 『あした世界が終わるとしても』となんか、設定が…

 但し最小要素で描こうとした『あした』と日野社長がやりたい事全部詰め込もうとして例の如く感情の流れはブツ切り、後付け設定が無数に出てくる『ニノ国』だと全然印象が異なる。どちらが正解ということもないが、映画としては後者の方が楽しい。

 どうも倫理的に首をひねってしまうラストを大した考えもなく無邪気にやってる感には嘆息するが、そのアイデア自体は面白いし、聞いてた酷評ほど悪い映画とは思えず。

 

魔法少女リリカルなのは Reflection

【採点】B

【監督】浜名孝行

【制作国/年】日本/2017年

【概要】シリーズ劇場版第三作。惑星エルトリアが死に汚染されつつあった。父の病の進行を防ぐため、少女キリエは遺跡で出会った少女イリスと共に死の病を防ぐ「夜天の書」を手に入れようと地球へ訪れる。地球で「夜天の書」を持つ少女・八神はやてを急襲したキリエとイリスの前に、はやての友達にして魔導師、高町なのはフェイト・テスタロッサが立ちはだかり……。

【感想】

 前後編の前篇ということもあって、とにかくノンブレーキで重量感溢れる戦闘シーンがほぼ全編に渡って展開する、そのボリュームで圧倒。長井龍雪とある科学の超電磁砲』が溜めて溜めて放つあの重力感を、溜めも無しに浴びせられ続けるのに飽きが来ない不思議。

 時に一方的な迫力ある見せ場の乱打を浴びるのも映画の醍醐味で、本作にはそれが詰まってる。初登場時は謂わばDV被害者であったフェイトが、なのはとの絆とはまた別に居場所を見つけたことがサブプロットで描かれて一安心。

 

魔法少女リリカルなのは Detonation

【採点】B

【監督】浜名孝行

【制作国/年】日本/2018年

【概要】シリーズ劇場版第四作。前作から地続きの内容。闘いの真相を知り衝撃を受ける一同の中、なのはだけは再びその天才的な戦闘力で場を切り抜け、みんなが幸せに収まる方法を探しキリエに声をかける。事態の鍵を握る少女ユーリは管理局のみんなを吸収していき………。

【感想】

 話を収束させなければいけないので前作ほどのゴリ押しの楽しさは無いが、何重にも真相を仕掛けておいた展開でアクションを繰り出し続ける。前篇の重機、後編のメカと、作り手もアクションの重量感を主眼に置いてるのは明白。行き過ぎて最後には誇張抜きでなのはがガンダムに見えてしまった(戦闘服のせい)。

 ガンダム化したなのはに人間味を与えるため、最後に心理世界の話が出てくるのは唐突過ぎた印象。アルティメットなんとかさんみたい。

 

センコロール コネクト』

【採点】C

【監督】宇木敦哉

【制作国/年】日本/2019年

【概要】2009年の宇木敦哉個人製作アニメ『センコロール』が、10年後に続編『センコロール2』と併せて公開されたもの。片腕に謎の生命体センコを宿す少年テツが巨大な怪獣や同様の能力を持った少年少女に襲撃され、彼の非日常に巻き込まれた少女ユキと共に油断ならない、けれど穏やかな青春生活を送る。

【感想】

 「感触」そのものがアニメーション化したような独自の味だった前作に様々な人の手が介入することで、ただのヱヴァフォロワーのような、汎用的な味わいに変わってしまった『2』が少し残念。それでも独自の味わいはまだ生きている。果たして『3』は作られるのだろうか。映画デビュー作でもある10年前の素朴な「声」をなんとか再現しようとする花澤香菜の声が今聞くと新鮮で、まだこういう引出しあったんだ、と(だったら『かんなぎ』ドラマCDでのざんげちゃんの変わりようは一体)。

 

聖☆おにいさん

【採点】C

【監督】高雄統子

【制作国/年】日本/2013年

【概要】中村光の人気コミックをOVAと同スタッフ・キャストで映画化。立川で貧乏アパート生活を続けるイエス・キリストブッダの日常を綴る。キリスト役は森山未來ブッダ役は星野源。原作だと多数登場した神様関係者の出番は無く、商店街の人々の中で生きるイエスブッダの姿が四季を通じて描かれる。

【感想】

 豪華スタッフが揃い、アニメーションとしては滅茶苦茶豊か。で、あることが欠点になってしまう。ずっと懇切丁寧にギャグの説明を聞かされている状態で、笑うに笑えない。原作と手法が合っていないとしか。コンセプトを日常系に絞ったのだから、いっそ「日本で暮らす外国人」という部分からテーマを膨らませられないかと思った(実際そのつもりで描かれているよう見受けられるのだが、あまり伝わらず)。

 鈴木慶一の挿入歌、星野源のEDテーマと音楽面は充実。MVみたいなEDこそが本編かも知れない。このスタッフでもっと刺激的な内容の映画が観たい。

 

『ちいさな英雄 ーカニとタマゴと透明人間ー』

【採点】

【監督】米林宏昌・百瀬義行・山下明彦

【制作国/年】日本/2018年

【概要】スタジオポノック制作による短編集。【カニーニカニーノ】サワガニの兄弟・カニーニカニーノが、小川を舞台にスペクタクルな冒険を繰り広げる。【サムライエッグ】卵アレルギーが発症した少年シュンとその母は、食べ物に細心の注意を払って暮らしていく。【透明人間】透明人間の男は、人並みに生きている。けれど僅かなミスで空高く吸い込まれるように浮き上がり……。

【感想】

カニーニカニーノ】小さなモノの視点で世界を見上げたら子供はドキドキするだろうという点では正解なのかも知れないが、それ以外の意味が何もないし、小さな「家族」をここまで賛美することが今やることなのかと首をひねる。クレしんでさえそこら辺ちょっともう危ういのに。

【サムライエッグ】アシタカが自身の呪いと生きていく姿を宮崎駿は「生まれついてのアレルギーのような不条理」と語っていたが、正にそのようなものと生きて行くしかない母と子の姿が、希望はなくとも力強く描かれる。

【透明人間】透明であることをそのままズバリ孤独のメタファーとして描き、その表現が隅々まで行き届いてアニメーションの快楽と同時にもの悲しさが胸を打つ。大傑作。

 結果として、ポノックの看板である米林監督が足を引っ張る形に………でも3本中2本が傑作なのは凄いこと。次は山下監督の長編が見たい。

 

『劇場版 黒執事 Book of the Atlantic』

【採点】C

【監督】阿部記之

【制作国/年】日本/2017年

【概要】3度のTVシリーズOVAを経てアニメ版『黒執事』初の映画化。怪しげな死者蘇生の儀式が行われているという噂を確かめに、シエルとセバスチャンは豪華客船カンパニア号に乗り込む。そこには何も知らずエリザベスが家族と一緒に乗り込んでいた。何かあってリジーを巻き込む訳にはいかない。けれど気がつけば豪華客船は蘇生した死者の氾濫と氷山衝突による沈没の二大悲劇により阿鼻叫喚の地獄絵図。そこで暗躍する死神たちそれぞれの目的は……。

【感想】

 めちゃくちゃ惜しい。タイタニック+ゾンビという発想の妙。

 タイタニックのパロディを例の甲板だけでなく沈没パニック含めて全部やろうという心意気。中盤でのあるキャラの覚醒が本家タイタニックより進歩的な面も見せる。モブもゾンビも豪快に死にまくる。

 そうした題材の面白さと、実は番外編ではなく『黒執事』メインストーリーとして展開する、その如何にもマンガタッチな掛け合いの部分とが激しくミスマッチで、一本の映画を観ている気がしない。

 

『LUPIN THE 3RD 峰不二子の嘘』

【採点】

【監督】小池健

【制作国/年】日本/2019年

【概要】不二子が秘書として使えていた男ランディが暗殺者ビンカムに襲撃され、自宅に火を放ち死んだ。不二子はランディの息子で病気を抱えるジーンと共に逃亡を開始しつつ、ジーンの知る秘密を狙うビンカムの雇い主と5億ドルの争奪戦を開始する。ルパンと次元も参加するが、最強にして情緒不安定なビンカムは奇怪な術を使い……。

【感想】

 作画の魅力と裏腹に脚本が煮え切らない劇画調小池ルパン、今回漸く「お話」が機能した。古臭いジェンダー観の台詞がやたら不二子の口から出てくるのはわざとなのか天然なのか、しかし最後は不二子が男を「貫く」。全体的に旧007の緩い世界観を基にしているシリーズである事が今回のビンカム=ジョーズでくっきり。

 本作で小池ルパンが一繋がりの物語であることが明らかになったので、そろそろ長編をということなのかも知れない。脚本は高橋悠也さんから変えて欲しくもある。

 

『劇場版 FAIRY TAIL -DRAGON CRYー』

【採点】B

【監督】南川達馬

【制作国/年】日本/2017年

【概要】劇場版FAIRLY TAIL第2弾。フェアリーテイルのナツ達一行は、新たな依頼として世界を滅ぼすと言われる杖ドラゴンクライを手に入れる為、ステラ王国へ潜入する。国王アニムスの配下にして残虐なザッシュとその一味相手に苦戦しながら囚われの魔術師ソーニャと出会うが、ソーニャにはとある秘密があった。

【感想】

 ともかく一気呵成に見せ場だけで繋いでいく、見終わって特に残るもののないB級アクションとして、監督の名前からつい過度に期待してしまった前作『鳳凰の巫女(藤森雅也監督)』より面白かった。前半のお色気要素や残虐要素が浮いてる気がしたり、終盤原作のクライマックスに繋がるという「ナツのルーツ」の一端が明かされるのにそこへ至るテーマ的な伏線が前半に無かったり、脚本はお粗末な気もするが、90分以内に納めた勢いへの好感が勝つ。同じような姿勢ならば『スタンピード』や『ヒーローズライジング』の方が遙かに面白かったけどもそれはそれ。

盛夏の映画の採点

f:id:pikusuzuki:20200829083933p:plain

ショートターム/ウォールフラワー


 

見づらかったので、今回からBの色を変えますね.

B=黄色で自分の能が認識していたもので.

 

GODZILLA 星を喰うもの』

【採点】D

【監督】静野孔文瀬下寛之

【制作国/年】日本/2018年

【概要】ビルサルドの裏切りに遭い、ユウコは脳死状態に。ハルオの処罰が待たれる中、メトフィエスは着々と信者を増やしていた。ハルオが唐突に現地人の双子の少女の片割れとセックスする間、メトフィエスは「ギドラ」を呼び覚ます禁断の儀式を進め……。

【感想】

 CGアニメである事が裏目に出て映画史に残る退屈を刻んでしまった一作目や、メカゴジラは都市であったという斜め上の設定の特徴をただの落とし穴としてしか見せられなかった二作目の破壊的なしょぼさに比べると、ギドラのデザインは初めてCGアニメであることが活かせて、尚克つハルオの物語としてのラストシーンには微かなカタルシスが。今までで一番マシ。

 難解な語彙が多いので眩惑させられるけど、シリーズ通して『映像だけじゃよくわからないと思いますが皆さん、今は驚きの事態が起こっているんですよ』という言い訳みたいな説明台詞が大半なのがそもそも問題で(虚淵さんこのパターン本当多い)、説明なしでも驚けるようなことが画面上大して起こっていないのだ。アニメなのに。

 

モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』

【採点】B

【監督】江崎慎平

【制作国/年】日本/2016年

【概要】「モンスト」のバトルに明け暮れる高校生のレンたち。異常事態発生により、物語は過去へ遡る。小学生のレンたちは怪しい研究所に迷い込み、ドラゴンを目撃する。失踪した考古学者の父がドラゴンを求めていたことから、レンは事件に深入りし、仲間たちと旅に出る。

【感想】

 『ストレンジャー・シングス』で世界に着火したかに見えたジュブナイルなノスタルジィブーム、日本からも何か出来ないものかと思っていたけど同時期にこういう作品があったのか。レンの気持ちにばかり寄り添うのでチーム物としての旅情には乏しいけど、東宝夏休み映画的な一定の満足感があった。

 

『ラストデイズ・オブ・アメリカンクライム』

【採点】D

【監督】オリヴィエ・メガトン

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】近未来アメリカ。人間の脳にチップを埋め込み犯罪を無くす、そんなディストピア法の執行を目前に控えた荒れた国で、犯罪者フリックが--弟の仇討ち? カナダへの脱走? 運命の女との恋? 銀行強盗? あらすじがなんなのかよくわからない。

【感想】

 必ずしも明確なゴールや演出のメリハリを持たない自由で曖昧な大作が観れるのがネトフリオリジナルの面白さなので、こういう映画も大歓迎なんですけど、それはそれとして擁護するにはあまりに面白くなかった。特に前半の主人公とヒロインのラブシーン、一回でいいじゃんw 演出のチグハグさによってクスクス笑える部分は多い。オリヴィエ・メガトン監督、折角のチャレンジだったのにネクストステージへ行きそびれるどころか馬脚を現してしまったのつらい。

 

『泣きたい私は猫をかぶる』

【採点】B

【監督】佐藤順一/芝山智隆

【制作国/年】日本/2020年

【概要】同級生の日之出賢人に猛アタックを繰り返す無限大謎人間ムゲこと笹木美代。日之出に何度冷たくされてもめげないムゲには秘密があった。とある夜以来、ムゲはお面をかぶることで猫のタロウに変身し、そうと知らない日之出に可愛がられていたのだ。家では継母に作り笑顔でしか接せられないムゲは、いっそこのまま猫のままでいいと願い……。

【感想】

 スタジオコロリドの美しい作画世界で岡田麿理脚本の全力青春劇が一気呵成に突き進む前半一時間の充実感が素晴らしかった。そこからクライマックスにかけてどんどん蛇足感が増していくのは勿体ない。あるいはいきなり猫島篇に突入しても良かったのでは。新海誠×野田洋次郎の数倍コロリド×ヨルシカの組み合わせによるケミストリーは発明だと思った。志田未来の声優業は完全に安定の域。ところでこの監督×脚本の組み合わせ、担当回とは異なるとは言え『ARIA』のケットシー回を思い出します。

 

イコライザー2』

【採点】A

【監督】アントワン・フークワ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】タクシー運転手として生計を立てつつ、ひっそり自警活動を続けていたマッコール。読むべき本のリストも残り一冊。静かな生活は充実していたかに思えた矢先、旧友スーザンが暗殺される。誰か知らないがマッコールさんを怒らせたらただでは済まない。おあつらえ向きの嵐の日、迎え撃つ用意も周到に、奴らとの決戦が始まる。

【感想】

 雨降る夜という観賞環境が映画のクライマックスに臨場感を与える幸運なタイミング。続編なのに、金かけて嵐の街を演出してまで「敵はたった4人」というこの地味な規模感がたまらなくちょうど良かった。一作目より好きかも知れない。『ランボー ラスト・ブラッド』に見せて欲しかったのはこういう映画だったのかも知れないなぁ。

 

『Us アス』

【採点】B

【監督】ジョーダン・ピール

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】アデレートは幼い頃、遊園地のミラーハウスで鏡の中の「もう1人の自分」に出会っていた。時は経ち、夫と2人の子供に恵まれたアデレートだったが、家族旅行であの遊園地があるサンタクルーズのビーチへ再び訪れることになる。怯えるアデレートの前に現われたのは、自分たち一家とそっくりの、赤い服着た4人の人間で……。

【感想】 

 ジョーダン・ピールって「とても上手くやってる松本人志」だと思うんですよね。松本がリスペクトしてたギャスパー・ノエもそうだけど、例えば本作ならベルイマンに目くばせをしたりどんなにシネフィルぶってみせても映画の活劇的興味よりも「アイデア」の具現化の方を優先している。自分はそこまで映画原理主義ではないので本作もシュールなコントの一篇として楽しみましたが、退屈と言われても否定できない。

 

『クロール ー凶暴領域ー』

【採点】A

【監督】アレクサンドル・アジャ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】大学で水泳に打ち込むもスカラシップを逃がしかけているヘイリー。地元に嵐が来るため、どうも旧家に向かったらしい父親を迎えにいく。自分に水泳しかないのも、今家族がバラバラなのも、あの父親のせいかも知れない。旧家の地下室で再開した父娘を、浸水とワニの二大ピンチが襲う。父娘はこの「ドン底」から脱出できるのか。

【感想】

 アジャの真価を『ヒルズ・オブ・アイズ』ぶりに観た気がする快作。バリー・ペッパーの主役級抜擢も嬉しい。『イコライザー2』と言い、嵐の中というシチュエーションは滾ります。どうしたって手作り感が表れるせいかも知れない。もしくは『フラッド』に植え付けられたフェティッシュ。限定空間での自在なアクション.素晴らしい。

 EDでSee you later alligatorがかかるジョークは『ゾンビーバー』オマージュです?

 

デス・ウィッシュ

【採点】C

【監督】イーライ・ロス

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】『狼よさらば』から続くデス・ウィッシュシリーズのリメイク(『狼よさらば』がシリーズ作品だったとは知らなかった)。外科医のポール・カージーは、もうすぐ大学へ進学する娘との別れを惜しんでいた。しかしそんな一家を強盗が襲い、妻は殺され、娘も昏睡状態に。やり場のない感情に悶々とするカージーだったが、偶然出くわした悪党を痛めつけたことから正義の暴力の快楽に目ざめ、やがて復讐を決行する。

【感想】

 復讐へ向かう怒りも苦しみも嘆きも全部足りないからカタルシスが無い。ブルース・ウィリスがミスキャストだったのか……と思うけど別に『狼よさらば』だってチャールズ・ブロンソンそんな演技巧者かな?と考えると演出力の差。

 主演ニコラス・ケイジならありだったかも。それただの『ヴェンジェンス』だけど.一般人巻き込みまくりのトイレでの攻防、黒幕かと思わせただ兄思いの良い人だったヴィンセント・ドノフリオが良い味.

 これ脚本ジョー・カーナハンなんですよね。カーナハンの演出で観たかった。

 

『魂のゆくえ』

【採点】

【監督】ポール・シュレイダー

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】小さな教会でシンプルな生活を過ごすトラー牧師は、妊娠した若い夫妻の相談を受ける。夫は地球の気候変動を憂う活動家で、この未来のない世界に子を産み落とすことに罪悪感を覚え中絶を願う。やがてトラー牧師の倫理観を何重にも揺さぶる出来事が続き、牧師は今この世界で生きる一人の人間としての己を見つめだす。

【感想】

 スタンダードサイズで質素な空間を切り取るシンプルさが、カメラが得てして豊かに切り取りがちなこの世界から本質の寂寥だけを切り取る。枠の外に神の存在を/枠の内に神の不在を証明する。ベルイマン『冬の光』の陰鬱さを現代のニューヨーク(とてもそうは見えない)に再現させて、私たち個人が余計な目眩ましなく社会や自身の諸問題と向き合うか合わざるべきかを突きつける、「個人的」な映画。大胆なラストを受け止め切れませんでした。映画に比べ自分がお子ちゃまだった。

 

チャイルド・プレイ('19)』

【採点】

【監督】ラース・クレヴバーグ

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】リブート版チャイルド・プレイ。下請け工場で解雇を言い渡された工員が、子供たちの友達となるAI搭載型人形バディの一体からあらゆるリミッターを解除してしまう。バディは自分の主人アンディの心が自分から離れるに従って、リミッターの効かないままに暴走を始める。

【感想】

 オリジナル版の愛きょうが無くなった代わり設定としてはむしろ今までで一番合理的なのに、いきなりチャッキーと名乗って中途半端だったり、最初の殺人が猟奇的過ぎて段階を飛ばしてるようにも見えたり(チャッキーが『悪魔のいけにえ2』の影響受けてるのは笑かす)、挙げ句クライマックスのスーパーへのブツ切りのような繋ぎ。どの方向性でも傑作になり得たのに、「スタジオが編集に口出しした痕跡」が透けて見えてしまって、ホラーとは別の意味で居心地が悪い。

 『アトランタ』のペーパー・ボーイが刑事役で登場。キース・スタンフィールド同様今後大量に出演作が待機中らしく、『アトランタ』の余波を知る。

 

『オールドガード』

【採点】

【監督】ジーナ・プリンス=バイスウッド

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】女戦士アンドロマケを筆頭とする少数精鋭の不死身の軍団オールドガード。新たに米軍の女性隊員ナイルが己の体の不死性に目ざめ、その仲間に加えようとする。一方、オールドガードの力をなんとか借りたい元CIAのコプリーは製薬会社CEOメリックに手を貸してしまう。実験目的のメリックの狂気がオールドガードに向けられ……。

【感想】

 アクション映画としては非常に緩いのだけど、長寿故の苦しみや歴史との関与が次々羅列されて、伝奇的な、いやハッキリ言う、FGO的な設定の魅力は抗いがたい作品。露骨にクリフハンガーで終わるので是非とも続編見たいところ。一番の見所はエンドロール。

 

『ラ・ヨローナ~泣く女~』

【採点】

【監督】マイケル・チャベス

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】『死霊館』ユニバースの一本。1973年、L.A。ソーシャルワーカーのアンナは、母親によって監禁されている児童二名を開放する。しかし、その子供たちが揃って溺死する事件が発生。母親はアンナを「人殺し、お前のせいだ」と罵り、アンナの子供たちのもとに奇妙な泣き声と共に白い女が現われ始める。

【感想】

 基本「そっちかと思ったらこっち」パターンがメインでジャンプスケア演出が次々起こり、本家『死霊館』ほど凝り過ぎない(ビニール傘の演出は良かった)。ただサービス精神豊富ゆえに、「そんなあの手この手使ってる割りに子供たちに手を出すの遅いなラ・ヨローナ……有色人種の子供はすぐ殺したくせに」と、久々にハリウッドの欺瞞を嗅いでしまった。アンナ、一言くらいパトリシアに謝ったら? パトリシアはお前のせいで子供たち殺されてんだぞ? 主人公のことが好きになれないと辛いよねという話。

 『アナベル 死霊館の人形』のペレス神父再登場。そして終盤急に登場する強キャラ、ラファエル神父が良い。戦闘能力高そう。今後ユニバースで活躍するんじゃないだろうか。

 

『トリプル・フロンティア』

【採点】A

【監督】J・C・チャンダー

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】民間軍事会社のポープは、かつてデルタフォースに所属していた仲間たちにコロンビアの麻薬王邸急襲、そして隠し資金の横領を持ちかける。人生に光を見失いかけていた男たち5人は作戦を決行するが、事態は予想外の方向へ。

【感想】

 序盤の坂道を使った追跡劇の勾配の捉え方、伝わる役者の息切れに「これは腕のある監督だ」と構えるも、しばしどういう方向性なのかわからない。やがて金に目が眩んだ男たちのはしゃぎようで、「あぁ、これは…」とジャンルが見えてくる。演出の映画。非常にお気に入りです。

 

『ホワイト・ボイス』

【採点】A

【監督】ブーツ・ライリー

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】HIPHOPバンドThe Coupのリーダー、ブーツ・ライリーの長年温めていた脚本による監督デビュー作。カリフォルニア州オークランドを舞台に、「白人の声」を使いテレアポでサクセスする貧乏黒人と、進む格差社会の中で起こる暴動を、ナンセンスな笑いで気だるく綴る。

【感想】

 キース・スタンフィールドが主演というのもあって『アトランタ』以降だからこそ成立するような内容、かつ今日の世界の運動とも繋がっているので、これは作られるべくして作られた映画だ、という感動があった。しかしそのシリアスな核の部分を、この上なくふざけたギミックで笑いに変えている為、まったく肩肘張らずに見れる。

 久しぶりに新鮮な感触の映画と出会えた。

 

『見えない目撃者』

【採点】A

【監督】森淳一

【制作国/年】日本/2019年

【概要】韓国映画『ブラインド』の日本版リメイク。警察学校の卒業を控えたなつめは交通事故に遭い、弟と視力を失う。その数年後、盲者として暮らすなつめの目の前で誘拐事件が発生する。半信半疑の警察や、もう一人の目撃者であるスケボー少年と捜査を進めるなつめだが、次第に猟奇的な事件の全容が露わになり……。

【感想】

 先に見た中国版リメイクがポップな余韻へ至ったのと真逆の、凄惨かつ硬質なサスペンス。いかにも邦画的な鈍重な芝居や説明的な台詞もあるのだけど、それらが全部終幕へと効果的に繋がっていくので感動してしまった。犯人の陰惨な儀式が犯人へのトドメの一撃のカタルシスに繋がったり、全編を覆う苦しさが主人公の一言の為に機能したり。見終わると勇気さえ沸くのだから、これは良作。

 

『ドゥ・ザ・ライトシング』

【採点】

【監督】スパイク・リー

【制作国/年】アメリカ/1989年

【概要】ニューヨーク・ブルックリンの一角。黒人街に佇むイタリア人父子によるピザ屋。その店員ムーキーの姿を中心に、周辺に暮らす貧しく傲慢な黒人たち、なあなあで全て見過ごす警察、そしてイタリア人店主の矜持などがユーモラスに綴られる。しかしその微妙な均衡は、ある日呆気なく崩れ去ってしまう。

【感想】

 発言のストレートさに反して複雑な映画の多いスパイク・リーの代表作。前半の「ここには全てがあるんだ」と言わんばかりの、老若男女溢れるストリートの日常描写の多幸感が既に一本の傑作分の満足度があり、その調和が崩れるクライマックスの「一体これをどんな気持ちで見ればいいんだ?」という複雑性に前半と正反対の質の充実がある。

 しかしこれを今の日本人が見ても(お前も日本人だろというツッコミはさておき)「やっぱり黒人は乱暴だ」の一言で一蹴されてしまいそうな怖さも感じる。『サマー・オブ・サム』の混沌、暑さに浮かれて狂う人々は本作の系譜だったのか。

 若きサミュエル・L・ジャクソンがストリートと一線を画すラジオブースの向こう側で「DJ」を演じているのも趣き深い。

 

モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』

【採点】C

【監督】錦織博

【制作国/年】日本/2018年

【概要】13年前、いきなり東京の一部が分離し、宙に浮かんだ。空の「旧東京」と地上の「新東京」に別れた時代。新東京で暮らすカナタは、死に別れたと思っていた母が13年前からずっと旧東京にいること、そして跋扈するモンスターの存在を知らされ、ストライカーと名乗る少女ソラ達と共に冒険の旅に出る。

【感想】

 オレンジのCGアニメの堂々とした質感、肉体と色彩のくっきりとした印象が、東京の実在の土地を舞台に派手なアクションを展開すると、広瀬アリスの棒読みはさておいて目に愉しい。出来れば終盤お決まりの収束に向かわせず、実写ではなかなか出来ない東京のあちらこちらでのアクションをもっと見ていたかった。地下鉄バトルで地下鉄そのものが龍のように動いて襲い掛かってくるシーンは、数多の映画の中でも初めて見たと思う。

 

『ショート・ターム』

【採点】

【監督】デスティン・ダニエル・クレットン

【制作国/年】アメリカ/2013年

【概要】問題を抱えた10代の少年少女を擁護するグループホーム『ショートターム12』を舞台に、施設のケアマネージャーのカップルに降りそそいだとある難題と、様々な心の葛藤を抱えた子供たちの息苦しさが淡々と、しかし真に迫る切実さで描かれる。

【感想】

 この一年で誇張抜きに死ぬほど見たキース・スタンフィールドの出世作。主演はブリー・ラーソンで、ラミ・マレックまでいる豪華な低予算映画。キース演じる、年齢制限のせいでもう施設を出ないといけない少年が歌うこのフレーズが全て。

「普通の人生が生きたかった、普通の人生が生きたかった、普通の人生が生きたかった、普通の人生が生きたかった……」

 どうかこの痛みを知って欲しい、これ以上は押しつけないから。こういう子たちがいると知って欲しい。そんな、実体験を基に本作を制作した監督の想いが伝わってくる。

 

『プロジェクト・パワー』

【採点】

【監督】アリエル・シュルマン、ヘンリー・ジュースト

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】その謎の薬「プロジェクト・パワー」を使えば5分間だけ超人能力を使えるか、体内が発火して爆死する。そんな秘薬を巡り、誘拐された娘を探す元兵士アートは暴力によって、街の異変に立ち上がる警官フランクは合法的に、ニューオリンズの街を駆け回る。やがて二人は同じ少女ロビンに辿り付き……。

【感想】

 『ラストデイズ・オブ・アメリカンクライム』と微妙に被ってるし、設定もアクションもルックもまるで新味に欠ける退屈な映画である一方、このテのヒロインとしては珍しい太った黒人の貧乏で犯罪者でもある少女ロビンをエンパワーメントしようという裏テーマがラストのラストで明確に浮き上がり、そう思って振り返ると贔屓したくなる作品。「この映画を見て鼓舞される観客は確実にいるだろう」という確信を持てることはそう多くない。良いことだ。

 

『ウォールフラワー』

【採点】

【監督】スティーブン・チョボスキー

【制作国/年】アメリカ/2012年

【概要】ベストセラー小説を原作者自ら映画化。いつも誰かわからない「ともだち」に向けて手紙を書いている、高校で友達のいない「ウォールフラワー(壁の花)」くんことチャーリー。「でもお姉ちゃんいるし…」と思ってたけど、姉にも一緒にいることを嫌がられてしまい、学食で一人で過ごすみじめな日々が続く。けれどある日、少しの勇気を出して話しかけた先輩パトリックと、パトリックの義理の妹サムと出会えたことで、彼の青春はめまぐるしく色を変えていく。

【感想】

 これぞ青春映画というベタを繊細で優しい人間観察で我がことのように感じさせてくれる愛おしい作品。でもそれだけで終わらない哀しみにも最後には触れていく。エマ・ワトソン(吹替え藤井ゆきよ様とのことで、吹替え版も見たい)とエズラ・ミラーというハリポタユニバースの共演にもワクワク。

 

 

2017年映画ベスト/2010年代映画ベスト100への道⑧

この年の秋からNETFLIXに加入しました.まだNETFLIXプリペイドカードも近所に売っていなかったんですよね.

ランキング入りこそしませんでしたが、『オクジャ』『デスノート』『ヒットマンズ・ボディガード』あたりのネームバリューに惹かれてなければネトフリ入らなかったのです.

 

候補作は135本.

 
1位.LOGAN/ローガンジェームズ・マンゴールド

2位.沈黙 ーサイレンスー(マーティン・スコセッシ

3位.パーソナル・ショッパーオリヴィエ・アサイヤス

4位.ドリーム(セオドア・メルフィ

5位.ナイスガイズ!(シェーン・ブラック

6位.SING/シング(ガース・ジェニングス)

7位.アトミック・ブロンドデヴィッド・リーチ

8位.女神の見えざる手ジョン・マッデン

9位.エル ELLEポール・バーホーベン

10位.ハードコア(イリヤ・ナイシュラー)

 

11位.ザ・ベビーシッター(マックG)

12位.マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)(ノア・バームバック

13位.クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的(アレックス・デ・ラ・イグレシア

14位.新感染 ファイナル・エクスプレス(ヨン・サンホ

15位.キングコング 髑髏島の巨神(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ

16位.わたしは、ダニエル・ブレイクケン・ローチ

17位.夜明け告げるルーのうた湯浅政明

18位.この世に私の居場所なんてない(メイコン・ブレア)

19位.昼顔(西谷弘)

20位.ジェラルドのゲーム(マイク・フラナガン

 

 好きな監督をTOP3に並べられるのは気持ちいいですね.

それぞれのスタイルが物語にしっかり寄与して昇華されていました.バーホーベン『エル ELLE』や、もしかしたらガース・ジェニングス『SING』も.演出だけ先走ってキャラの生活が無いのもそれはそれで寂しい.逆に演出の映画として、実はそこまでヒューマンではなく「走る」「歩く」動作そのもので全編を彩った『ドリーム』は野心作であったと思います.

『ナイスガイズ!』はこれが巧い映画だの見本みたいだなと、そういう映画じゃないのにちょっと泣きかけましたね.

マックGがNETFLIXにあまり綺麗に収まった『ザ・ベビーシッター』も何気に衝撃作でした.

後に傑作『ドクター・スリープ』を生み出すマイク・フラナガンのネトフリ映画『ジェラルドのゲーム』が変則サスペンスというジャンル物を通して描いたものも、今の世の中決して見過ごせないと思います.

 

以下、ベスト候補です

 

美女と野獣
ベイビードライバー
マイティ・ソー バトル・ロイヤル
サバイバル・ファミリー
レゴバットマン ザ・ムービー
帝一の國
美しい星
22年目の告白ー私が殺人犯ですー
ジーサンズ はじめての強盗
ジョン・ウィック:チャプター2
ノーゲーム・ノーライフ ゼロ
スパイダーマン:ホームカミング
ワンダーウーマン
劇場版Fate/kalaid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い
新感染 ファイナル・エクスプレス
散歩する侵略者
ダンケルク
アフターマス
亜人
劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~
Fate/stay night [Heaven's feel.] 第一章「presage flower」
バリー・シール/アメリカをはめた男
ブレードランナー2049
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
予兆 散歩する侵略者
gifted/ギフテッド
勝手にふるえてろ
ありがとう、トニ・エルドマン
A GHOST STORY
Death Noteデスノート
花に嵐

 

響け!ユーフォニアム ~届けたいメロディ~』は総集編のようでTVシリーズの換骨奪胎映画として賑やかな快作.