第三の映画の採点

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Twitterを辿るのやや面倒なので、鑑賞直後の感想をまとめて残しておきたくて 備忘録として書き始めたシリーズでしたが、今回前半の感想がまとめて消えてしまって、鑑賞直後の感想を取り戻そうと取り繕って書き直しています、

 

『響 ーHIBIKIー』

【採点】

【監督】月川翔

【制作国/年】日本/2018年

【概要】小説誌編集部に届いた、謎の作家「鮎喰響」の手による天才的な小説。編集者・花井ふみは人気小説家を祖父に持つ女子高生・凛夏を介して響との遭遇を果たすが、立ちふさがる障害に平気で暴力を振るう唯我独尊少女・響はコントロール不能な存在で……。

【感想】

 絶対的長所である響というキャラを立て過ぎるあまりに多くの短所も内在してしまったアンバランスな原作を、おいしいところだけ切り取って響爆発のサスペンスで引っ張り、話のピークで綺麗に切り上げる。完全に実写化の大勝利。初めて作品を見た月川監督、カメラワークの愉快さに留まらず、平手友梨奈という飛び道具を活かすために、むしろ助演陣の魅力に力を注いでいる演出も心憎い。

 

『A GHOST STORY』

【採点】

【監督】デヴィッド・ロウリー

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】ある夫婦が暮らしている。旦那が事故で死亡する。旦那の魂は、シーツをかぶって目の部分に穴の開いた簡易な幽霊となって、家に留まる。やがて膨大な月日が、物言わぬ哀しげな幽霊の前を通り過ぎていく。

【感想】

 あまりに評判が高く、その監督の作品が好きなことも既に判っていて、好みと合致しそうな作品だったばかりに見るタイミングが遅れに遅れ、結果いざ鑑賞しても「なるほどねぇ」止まりになってしまう。そんな経験ありませんか。僕はあります。『アンダー・ザ・シルバーレイク』と本作です。ただ『アンダー~』は映画史には残らないと思うけど、本作は残ると思う。

 

『花に嵐』

【採点】

【監督】岩切一空

【制作国/年】日本/2017年

【概要】大学に入り、映画研究サークルに入部しようとした「僕」は、いきなり「カメラ」を渡され、自分なりに回すよう先輩に命じられる。何も説明されないままカメラを回す僕は、次第に画面の隅に映り込むとある少女が気になり……。

【感想】

 監督自身が露悪的な被写体となる白石晃士イズムのモキュメンタリーで大学サークルミステリー を描きながら、そこいらのメジャー邦画より遥かにクリアな映像と確信犯でトリッキーなカメラワーク、失敗気味だけどMGS的なステルスゲーム要素、ついでに無名ながら可愛い女優陣(監督マジで役得なんだよな……)と目に飽きがこないエンタメ度の高さ。あまりに調子に乗りすぎてエンドロール後のネタは蛇足。

 

Ryuichi Sakamoto:CODA』

【採点】

【監督】スティーヴン・ノムラ・シブル

【制作国/年】アメリカ・日本/2017年

【概要】坂本龍一の5年間を追うドキュメント。社会問題へのコミットやガンの闘病、世界的な映画への劇伴作りと、個人的な新作アルバムへ込めた実験性の模索などの様が綴られる。

【感想】

 主題が分かり辛いのは難点だが、説明しないのは美点だろう。前半、坂本が『惑星ソラリス』を鑑賞しながら、タルコフスキーの映画の自然音は実は調整されきった一枚のアルバムのようである、彼のようなアルバムを作りたいと野心を零す。そして自然の音を集め始め、映画全体が人生を音楽に集約するような音像を残していく。

 

L.A.ギャングストーリー

【採点】

【監督】ルーベン・フライシャー

【制作国/年】アメリカ/2013年

【概要】1940年代、ミッキー・コーエン率いるギャングに支配されたL.Aで、ジョン・オマラ巡査部長は警察組織にも内密でギャング壊滅の為のチームを結成する。暴力VS暴力、戦いの行方を豪華キャストで綴る。

【感想】

 ルーベン・フライシャー監督、天然で無垢なのか意図的に無垢を装っているのかギリギリのラインを渡ってきたこの人らしく、まるで気付かないような素振りであまりにも堂々と『アンタッチャブルごっこに興じ、不正と巨悪に真っ向挑む男たちを讃える。手放しで楽しいタイプの作品。豪華キャストを若干持てあましてる印象も。

 

ドラゴン危機一発

【採点】E

【監督】ロー・ウェイ

【制作国/年】イギリス領香港/1971年

【概要】親族を頼ってタイの製氷工場まで訪れたチェン。しかし、腐敗した工場長らは横領に気付いたチェンの親族を次々殺害していく。チェンの怒りの導火線に火が点くまでは、かなり長い!

【感想】

 ブルース・リー伝説の一本とは言え、現場の混乱が続き監督も定まらず時代設定さえ統一出来なかったという逸話もあるだけあって、いくらなんでも映画としての形を成していないように思う。見え見えのハニートラップに気付かず綺麗にひっかかる流れは逆に初めて見たので、滅茶苦茶面白かった。

 

死亡遊戯

【採点】

【監督】ロバート・クローズ/ブルース・リー(ノンクレジット)/サモ・ハン・キンポ-(ノンクレジット)

【制作国/年】イギリス領香港・アメリカ/1978年

【概要】トラック・スーツ姿の男が五重の塔を登り、一階ごとに敵を倒していく。この強烈なクライマックスだけ監督してブルース・リーが亡くなった。後を継ぐ男たちがなんとか一本の映画に仕上げたのが本作。

【感想】

 この無茶な企画にもかかわらず『ドラゴン危機一発』より余ほどバランスが取れて見えるのはゴールが見えているからなのか。しかし結果として、あたかもブルース・リーの死はウソであったかのように見えるロマンチックな錯覚が。

 

『蒼き鋼のアルペジオ ーアルス・ノヴァーDC』

【採点】

【監督】岸誠二

【制作国/年】日本/2015年

【概要】TVアニメ劇場版二部作の前篇。こちらはTVシリーズの総集編がメインとなる。地球温暖化の影響で陸地をほぼ失った人類の前に、旧大戦の軍艦の姿をした「霧の艦隊」が出現。少女の姿にも代わる彼女らの一人・イオナは人類の側につき、元海軍士官候補生・千早群像らと共に霧の艦隊に戦いを挑んでいく。

【感想】

 総集編部分をかなり手早くまとめて、オリジナル展開をスタートさせ、ここから本格的に新しい敵との戦いが…という部分まで。TVシリーズの時点で脱落している身なので面白がるにも限界はあるけど、サービス精神たっぷりなのだろうなとは伝わってくる。

 

『蒼き鋼のアルペジオ ーアルス・ノヴァーCadenza』

【採点】

【監督】岸誠二

【制作国/年】日本/2015年

【概要】霧の艦隊総旗艦代理としてメンタルモデル・ムサシが全人類に宣戦布告する。かつて慕っていた群像の父・翔像が軍人に殺された恨みを人類に向けているのだ。イオナと群像、そして戦いの中で増えていった仲間たちはムサシを止められるのか……。

【感想】

 こちらは完全新作。相変わらずお話にはノレないまま、でもバトル演出はそこそこ楽しめた。しかしクールな原作の印象が最後まで結びつかないアニメだ。声優陣がほぼアイドルマスターシンデレラガールズで声を聴く楽しさは〇。

 

『チャーリング・クロス街84番地』

【採点】

【監督】デヴィッド・ジョーンズ

【制作国/年】イギリス・アメリカ/1987年

【概要】第二次世界大戦後。NY在住の口うるさい女流作家が、ロンドン・チャーリングクロス街84番地にある古書店稀覯本を注文したことを機に、店主ら古書店の人々と文通を交わすことになる。いつかその店に足を運びたいと願いながら、夢は夢のまま時間が過ぎて……。 

【感想】

 往復書簡形式だという原作に忠実なのか、ドラマ的な波はなくひたすら手紙のやりとり、近況報告が続く不思議な構成の映画。でもその顛末のほろ苦さは冒頭で提示されている為、口の悪い女作家が文通を楽しむ様が儚く愛おしい。アン・バンクロフトの名演.そして若い(といっても老境にさしかかりかけてる)アンソニー・ホプキンス

 

関ヶ原

【採点】

【監督】原田眞人

【制作国/年】日本/2017年

【概要】豊臣秀吉が死に、五大老筆頭徳川家康が本性と野心を露わにした。今こそ理想の世を成す為、石田三成は名将・島左近、盟友・大谷刑部らと共に決起する。「不義が正義に勝ってはなりません!」。その頃、小早川秀秋が辺りをうろちょろしていた。

【感想】

 原田作品いつも感想同じだけど、「台詞が聞き取れない事を除けば面白い」ので誰かなんとか監督を言いくるめられないものか。もっと役名テロップ入れて良かった気がするな。伊賀忍者の暗躍を取り入れることで女優陣を単なるお飾りにしなかった采配は賢明。大谷刑部の見た目がひたすら格好イイ。クライマックスが弱いのは史実のせい。

 

『おんなのこきらい』

【採点】D

【監督】加藤綾佳

【制作国/年】日本/2015年

【概要】「可愛い」にとりつかれた拒食症OLキリコの、かなわぬ恋と新たな出会いを、音楽ユニットふぇのたすが劇中世界に現われ演奏し寄り添う姿も込みで可愛く綴っていく。主演は森川葵

【感想】

 いや、今時ただ男に媚びるためだけにこれだけの「可愛い」を収集してる女の子一般的じゃないでしょ……普通、自己表現だと思うんだけど。主人公の人物像が明解なようで、実は偏見に基づいたふわっとしたものになってる。ポップに始めながら、終盤長回しで辛気くさく「本音らしきもの」を吐露する流れも安易過ぎる。森川葵が見事なキャスティングだけに、勿体なかった。

 日本のインディーシーン、岡崎京子の漫画で恋愛観が停止したままになってる気がするのですが。

 

『葛城事件』

【採点】

【監督】赤堀雅秋

【制作国/年】日本/2016年

【概要】次男が無差別殺人を犯した葛城家。絶対君主的な振舞で家族を抑圧し続けた父親を中心に、死刑制度反対を訴え塀の中の次男と結婚すると宣言する女弁護士を通して、葛城家の過去と現在が浮かび上がっていく。

【感想】

 地獄エンターテイメント。赤堀雅秋の人間観察眼がこれでもかってくらい人間の嫌な部分、直視したくない部分をえぐり出していく。ただ面白さ(と言ってよければ)がシーン単位で完結して、構成としては存在している映画全体のうねりに繋がっていかない、最近の邦画にありがちな物足りなさが少しあった。やはりどこか演劇的。

 

クレイジー・リッチ!

【採点】

【監督】ジョン・M・チュウ

【制作国/年】アメリカ/2018年

【概要】ハリウッドメジャーでありながらアジア人キャストで固め、NETFLIXからの誘惑も拒み、全米興行収入第一位を成し遂げた記念碑的作品。シンガポール華僑の息子と交際するニューヨーカーで中国系アメリカ人レイチェル・チュウが、シンガポールでクレイジーな金持ちたちとのカルチャーギャップに遭遇する。

【感想】

 その実績は讃えられるべきだけど、本編の半分ただ色んな人に出会っていくだけの単調な展開、決して巧いとは言えないし、アジア映画のロマコメの水準からしても微妙な出来なのに、これでハリウッドで絶賛されてしまう事がむしろ哀しいというか、「ハリウッドの中のアジア人」がやはり浮いた存在であることの証左のようだった。

 

『フェイシズ』

【採点】A

【監督】ジョン・カサヴェテス

【制作国/年】アメリカ/1968年

【概要】ジョン・カサヴェテスが私財を投げ打って作った映画。崩壊を迎える夫婦の36時間の出来事を描く。娼婦役の監督夫人ジーナ・ローランズは勿論、それ以上に重要な妻役でロバート・アルトマンの秘書リン・カーリンが熱演。

【感想】

 『オープニング・ナイト』は若干胃もたれしてしまったのだけど、本作は構成が明快で見やすい。役者の生っぽさ全開(それでいて表面的でない、というのはとても難しい)の姿を執拗に捉えるようで、狙い済ましたショットの挟み方、編集のメリハリがとにかく巧いんだなというのをようやく理解出来たかも。あの強烈な「咳」。

 

ご注文はうさぎですか?? ~Dear My Sister~』

【採点】C

【監督】橋本裕之

【制作国/年】日本/2017年

【概要】「木組みの家と石畳街」で喫茶ラビットハウスに住み込みで働いていたココアは、夏休みに母と姉の待つ地元のパン屋へ帰郷する。一方、残されたチノは過去のことを振り返っていた。花火大会の日、みんなは再び集まれるかな……?

【感想】

 TVシリーズは世界観とリアリティラインが掴めないもどかしさと相俟って「何回見ても寝てしまう」因縁の作品なので、全部すっ飛ばしていきなり劇場版見ました。副監督にかおり監督も投入されて、完璧な可愛いを表現する豊かなアニメ世界はやはり凄い。

 『のんのんびより』の劇場版もそうだったけど、折角どんなに本編が起伏に乏しいゆるふわでも最後にそれなりの感慨をもたらせられる構成を用意してあるので、どうせならもっと中身も膨らませて長尺であれこれやればいいのになぁという勿体なさを少し感じる.『映画 けいおん!』の冒険に続いてくれないものかな……。

 

『CLIMAX クライマックス』

【採点】A

【監督】ギャスパー・ノエ

【制作国/年】ベルギー・フランス/2018年

【概要】1996年。舞踏団に参加した若きダンサーたちが、冬の雪山の合宿所に集まる。加熱する超人的なダンス。打ち明けられるセンシティブな思い。そして、みんなが食べるサングリアに密かに混入していたLSD。やがて一同に薬が効き始め、地獄のダンスパーティーが始まる。

【感想】

 一見やったもん勝ちのアイデアを好き勝手やっているようで、だったらもっと(これ以上に)露悪的にも出来たのに、終盤ののたくりうつようなカメラワークは実は観客の悪趣味とも一線を引いている。映画そのものが「人体の逆流」であった『アレックス』を例に出すまでもなく、そのカメラの導線にも意味はあると思うのだが。

 なので何を見せられているのか本当にわからない。わかってる人少ないんじゃない?

 

『ミッドナイト・ラン』

【採点】A

【監督】マーティン・ブレスト

【制作国/年】アメリカ/1988年

【概要】腐敗した警察にいやけがさし現代の賞金稼ぎとして生きるロバート・デ・ニーロが、正義感から賞金首となってしまった会計士の男を目的地まで届けるため、FBI、賞金稼ぎ、ギャング、あらゆる妨害に追跡されながらアメリカ横断逃避行の旅に出る。

【感想】

 いかにも80年代っぽい緩やかなノリでありながら、やはりいかにも80年代っぽい丁寧でウェルメイドな脚本。クライマックスの一斉問題解決の「わっ」となる瞬間やラストの幕引き等、色々と自分が見てきたハリウッド映画に影響与えてるんじゃないかと感じて、初見なのに他人の気がしない作品。

 

『灼熱の魂』

【採点】

【監督】ドゥニ・ヴィルヌーヴ

【制作国/年】カナダ・フランス/2010年

【概要】カナダで暮らす双子の姉弟は、母の遺言状を別々に渡され、それぞれ「兄」と「父」に渡すよう告げられる。彼らは難民の子供であった。そして母ナワルの物語が、内戦真っ只中のレバノンから始まる。そこに隠されていた想像を絶する真実とは。

【感想】

 大作作家になる以前のドゥニ印の、なんでもない場面でも欠かさない緊張感に振り回されていると、実はラストの意味がイマイチピンとこなかった。もしかして頭がそれを理解したくなかったのかも知れない。それほど「うへぇ」となるオチなのでかなり覚悟して見て欲しいのだけど、一方に難民たちと共存する現実があり、そこにレディオヘッドが平然と混入してくるカナダの成熟も知れる。

 

銀魂

【採点】C

【監督】福田雄一

【製作国/年】日本/2017年

【概要】空知和秋の人気ギャグ漫画を実写化。宇宙人=天人の襲撃を受け、過去と未来が同居するSF都市・江戸を舞台に、よろず屋三人組含むお馴染みの面々がドタバタギャグを繰り広げ、暗躍する辻斬りの背後に潜む陰謀に立ち向かう。

【感想】

 「銀魂を実写映画化するにあたってしなくてはいけない100のこと」があるとして、そのすべてに手を伸ばし、どれも10点満点中3点くらい、といった印象。100のうち30くらいにしか手を伸ばさない実写化が多い中で、それは美点だと思う。

 努力と工夫の跡は目立つも、しかしその工夫が足りていない歯痒さ。せめて予算が5倍あれば見栄えもよく、ギャグとの緩急も決まっただろうに(でも寒い効果音が台無しにしてるからどうかな)。1人除いて役者はみんなハマってる。菅田将暉は凄い.肝心の小栗旬は何言ってるか聞こえないし演技に照れがあってダメでした。

 例えば、なんでもない場面でも江戸の遠景にずっと都市部をCGで合成しておくとかだけでも免れたチープさはあったのでは。

 真撰組をキチンと紅桜篇でも活躍させている分、アニメ版新訳よりも脚色は良い。

禁密の映画の採点

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映画の採点第2弾です.

しばし続けようかなと思います.

ルールを設けていきましょうね.

・自宅鑑賞(とは言え最近では移動中含む.非劇場鑑賞作品)

・今回からネトフリ視聴作品も含む(間に合わなかった『その住人たちは』Aです).

・実写/アニメ 邦/洋を問わず、同列の基準上で採点.

・何を見ようが絶対に最低限一言の感想は残す.

・短編、場合によって中篇はスルー.

・当たり前のことなので、わざわざ「独断と偏見による」って書かない.

・一つの記事につき20作品まで.

・映画に点数を付けるべきものではない.

 

前回2本オーバーしたので、今回は18本です.ストックは沢山あるので第3弾も早いかも.

 

 

 

ブルーサンダー

【採点】B

【監督】ジョン・バダム

【制作国/年】アメリカ/1983年

【概要】極秘開発された攻撃用ヘリコプター『ブルーサンダー』。ベトナムでベトコンをヘリから落としたトラウマを持つ警察航空隊のマーフィーは、ブルーサンダーパイロットを務めながら、やがてこのヘリにまつわる米国政府の陰謀に気がついていく。

【感想】

 三宅隆太監督の『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』で逆バコ起こしが行われていた作品がネトフリに入っていたので観賞。無駄のない構成だけど、派手なシーンに挟まれて、三宅監督が指摘していたポイントの良さみは本読んでないと見落としてたかも。良い意味で、普通に面白い。

 

ノーベル賞殺人事件』

【採点】B

【監督】ベーテル・フリント

【制作国/年】スウェーデン/2012年

【概要】華々しいノーベル賞受賞式パーティーアメリカの女アサシンが現われ、堂々と銃撃。狙われた博士は無事だったものの多くの犠牲者が出る。巻き込まれた新聞記者アニカは、この事件がただのテロではない可能性を疑い、調査を始めるが……?

【感想】

 みんな大好きノーベル賞、すべてに意味がある関係者たちの証言、定期的に襲い掛かる真犯人、背景にある歴史の勉強、あとちょっとの社会性。俺たちの見たかった「北欧ミステリー」を地でいき、そこから一歩も逸脱しない。ジャンルに徹するプロの仕事を見た。

 

『鉄男』

【採点】

【監督】塚本晋也

【制作国/年】日本/1989年

【概要】伝説の自主映画。自身に肉体改造を施した「やつ」と、やつをひき逃げしてしまったサラリーマン。全身を鉄に蝕まれていく二人の男の、運命の邂逅とバトル。

【感想】

 今見るとこのテンションは流石にキツいが、80年~90年代の邦画に通底する都市性への眼差し、憧憬にも似た憎悪と妄執が最後に愛となって叫ばれる様は感動。編集の音ハメは気持ち良く、それだけでも拘りの細かさは知れる。でもキツい。

 

 キョンシー

【採点】

【監督】ジュノ・マック

【制作国/年】香港/2013年

【概要】清水崇プロデュースの香港映画。アーティストのジュノ・マックが脚本・監督を務め、キョンシー映画への愛を詰め込んだ一作。落ちぶれた元子役スターが辿り付いた貧乏アパートで、忌々しい恐怖が幕を開ける。

【感想】

 キョンシー映画のキャストを再結集させながら、キョンシー映画の持つユーモアを排し、ひたすらに寒々しく痛々しく禍々しい残酷美が展開していく。リメイク版『死霊のはらわた』のストイックさを更に膨れ上がらせたような快作。かつて見た悪夢への憧れが、すべて幻と消えるような虚無性。久々に映画でヤバいビジュアルを見た。

 

アイム・ソー・エキサイテッド!

【採点】

【監督】ペドロ・アルモドバル

【制作国/年】スペイン/2013年

【概要】上空へ飛び立ったその飛行機のCA達はゲイで、機長はバイ、副機長は自分にゲイの気があるのか興味がある。乗客は処女を憂う超能力女や怪しいメキシコ人etc……個性的な人々ばかり。そしてその飛行機の着陸システムが故障している事が判明して!?

【感想】

 アルモドバルでもこんな弛緩した映画を作る、という点で安堵する艶笑喜劇。『トーク・トゥ・ハー』を見て十数年経つのに主演俳優さんが出てきた瞬間「あの人だ!」って即座に判りましたね、顔の印象が強烈。

 

『滝を見にいく』

【採点】

【監督】沖田修一

【制作国/年】日本/2014年

【概要】ワークショップで集められた四〇歳以上の女性たちを主演に据えて描く異色作。それぞれの事情から滝を見に行くバスツアーに参加した7人のおばちゃんたち。しかし無能ガイドとはぐれ、深い山中でサバイバル生活を余儀なくされる……。

【感想】

 まったく知らないおばちゃん達がギスギスしたり愚痴り合ったりするだけなのに、不思議と面白く見れてしまう。これといってスペクタクルは起こさない、起こせないあたりの限界は少し感じた。このおばちゃん達、他の作品でも見てみたいな。

 

『劇場版 「K MISSING KING」』

【採点】

【監督】鈴木信吾

【制作国/年】日本/2014年

【概要】TVシリーズの劇場版。戦い終えて周防が散り、シロが消えた後。狗朗とネコはシロの姿を探していた。そんな街に狗朗を名乗る男・御杓神紫が軍勢を引き連れ暴れ始める。

【感想】

 最初にPVを観た時の興奮は忘れがたく、そしてPVがピークだったガッカリアニメとしても忘れがたいTVアニメ『K』の劇場版。よく憶えてないのもあって話は右から左へ流れていったけど、今見ても映像(作画というより映像)の美麗さは圧倒的で最先端といって過言じゃないもの。そろそろ映像に相応しい物語とマッチングしたGoHandsアニメが観たい。

 

『野火』

【採点】

【監督】塚本晋也

【制作国/年】日本/2015年

【概要】大岡昇平の小説を、構想20年、難航する資金繰りを経て漸く完成させた塚本監督渾身の一作。太平洋戦争末期、地獄のレイテ島で肺病から隊を追われた田村一等兵の地獄巡りを描く。

【感想】

 なんとなく見るのに腰が引け、気がつけば何年も経っていたことに少し己を叱責。見応えある力作で、塚本作品の近視眼的な強迫神経症カメラワークと、塚本作品では珍しい広大な引きの画とのギャップが新鮮。それでもこういう作品にちゃんとお金がかけられ、商業作品として作られる世の中であってほしい。やはり画面の手前でしか事が起こってないような安さを端々に感じてしまうのが悔しい……。

 

『エル・クラン』

【採点】

【監督】パブロ・トラペロ

【制作国/年】アルゼンチン/2015年

【概要】アルモドバル製作。1980年、独裁体制崩壊前後のアルゼンチン。富裕地区サン・イシドロで身代金目的の誘拐殺人を繰り返していたプッチオ家.その父の生粋の悪と、父に振り回され犯罪に加担する、ラグビーのスター選手でもあった息子の葛藤を描く。

【感想】

 重々しいシリアスな空気で『グッドフェローズ』的な軽快犯罪劇を描く、という矛盾した説明が実現している怪作。父の仕掛ける凶行に、音楽によって共犯関係に巻き込まれるのは息子か観客か。「有無を言わさぬ暴力の一員」であることの追体験。圧巻。

 

『あやしい彼女』

【採点】B

【監督】水田伸生

【制作国/年】日本/2016年

【概要】各国でリメイクされた韓国映画『怪しい彼女』の日本版。気の強い老婆が魔法の力で若返り、バンド活動に勤しむ孫に力を貸すことに。そんな姿が音楽プロデューサーの目に留まり…… 多部未華子倍賞美津子のW主演。

【感想】

 オリジナル版未見。リメイクであると同時に、日本の歌謡映画としてこの上ない設定。肝心のライブシーンのエキストラの演出が弱かったりするのは勿体ないけど、幕の引き方が本当に鮮やか。志賀廣太郎さんの代表作になったと思う。

 

『ファーザー・フィギュア』

【採点】B

【監督】ローレンス・シャー

【制作国/年】アメリカ/2017年

【概要】多くのコメディ映画を支え、昨年は『ゴジラKOM』『ジョーカー』とジャンルの幅も広げた名撮影監督ローレンス・シャーが自らメガホンを取ったコメディ。陽気なカイルと陰気なピーター、正反対のまま中年になった双子が、死んだと聞かされていた父が生きていることを知り、全米を横断して父親探しの旅に出る。

【感想】

 カメラマンとして撮ってきたコメディの数々でロードムービーはお手の物なので手堅く見せる一方、むしろ移動よりも次々顔を見せる豪華スターたちの演技を楽しげに捉えていく。ゆるいコメディだけど、意表を突いてくるオチにホロリとしてしまった。

 

『ジャケット』

【採点】B

【監督】ジョン・メイバリー

【制作国/年】アメリカ/2005年

【概要】湾岸戦争の後遺症を引きずり精神病棟に入れられたジャックは、歪んだ医師によるショック療法で拘束衣(ジャケット)を着せられ死体安置所のロッカーに何日も閉じ込められる。その恐怖が、タイムリープのトリガーとなってしまい……。

【感想】

 あくまで当人たちにしかその異常が共有されないミニマムさに世界の秘密が握られているのがタイムリープ物の面白さとは言え、ここまでその「矮小さ」を感じるうら寂しいSFも珍しい。ただ今見るとキャストは超豪華。倫理的にアウトだけどタイムリープなら許される(?)合法ロリコン映画でもあって、正直その部分は引いてしまった。

 

『ケイコ先生の優雅な生活』

【採点】C

【監督】城定秀夫

【制作国/年】日本/2013年

【概要】低予算邦画プログラム・ピクチャーを量産する城定秀夫のピンク映画。同僚や不良に体を求められると拒めない気弱な女教師ケイコと、彼女に憧れと嫌悪を抱く男子生徒とが、日常の倦怠を抜けだそうとする甘酸っぱい青春ポルノ。

【感想】 

 城定作品初めて観賞.効率の良い長回し長回しですよという強調ではなく、本当に語りに特化している)がコスプレ感溢れる学園場面にも有無を言わさぬ推進力を持つ。後半色々覆していくとは言えケイコ先生の人物像は古いと思うけど、ネーミングの意味には思わず膝を打った。ラブホの露天風呂の解放感。

 

『タイラー・レイク ー命の奪還ー』

【採点】C

【監督】サム・ハーグレイブ

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】ルッソ兄弟と共にMCUやそれこそ前の記事で書いた中国映画『戦狼/ウルフ・オブ・ウォー』などあらゆる重要なアクション映画を支えてきたアクション俳優サム・ハーグレイブの初監督作。バングラディシュを舞台に、インド人麻薬王の息子を守る為傭兵タイラー・レイクが壮絶な死闘に挑む。

【感想】

 アトラクション映画が大好物なのだけど、最初からテレビやPC画面で見るそれは引き込まれる体感には少し弱く、むしろ画面から引いて落ち着いて見れてしまう。実はNetflixオリジナルには不向きな傾向なのではないかと。『サムも出演している『アトミックブロンド』の長回しは痛々しくてハラハラしたけど、本作のそれは段取りに見えて長回しであることが緊張感を削ぐ。

 でもネトフリオリジナル大作はこのくらいで丁度良いというワガママな気持ち.

 

『最高に素晴らしいこと』

【採点】D

【監督】ブレット・ヘイリー

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】姉を事故で失い、茫然自失と毎日を生きていた少女バイオレット。自殺しそうな彼女を見かけた少年セオドアは持ち前の奔放さでバイオレットの憂鬱な気分を解放していくが、次第にバイオレットはセオドアの無邪気さこそ不安定で壊れそうなものだと気が付いていく。

【感想】

 「私をこんなに癒やしてくれる彼の心の闇に気付く」過程の捉え方が、繊細は繊細なのだけど最初からとても気持ち悪い交流に見えてしまっていたのでさしてギャップを感じない。距離感の緩急をより大袈裟にするくらいでもいいのかも知れないが、いずれにせよドラマを放棄した終盤は問題提起のつもりでも雑。

 

 『ウンギョ 青い蜜』

【採点】B

【監督】チョン・ジウ

【制作国/年】韓国/2012年

【概要】自身の老いを嘆く老詩人の下に、無邪気な女子高生ウンギョがアルバイトとして訪れる。あまりに大胆なスキンシップを平気で取るウンギョとの生活に活力が漲る老詩人だが、彼を慕う若きイケメン小説家はウンギョの存在が気に喰わず……。

【感想】

 山中の美しい家屋、詩人の夢、陽光の中でサービスシーンを繰り返す女子高生のエロス。言葉にすれば陳腐なロリータ妄想の数々が高度な照明/撮影で展開していく白昼夢に目眩がしてくる、傑作であり珍作。パク・ヘイルの老けメイク主人公のせいか、意外とエロスは生っぽくなく、戯画化された滑稽さも付きまとう。

 

『ファイ 悪魔に育てられた少年』

【採点】A

【監督】チャン・ジュナン

【制作国/年】韓国/2013年

【概要】強盗殺人や誘拐を繰り返す5人組「白昼鬼」に誘拐された少年ファイは、その後5人の犯罪者を父親として育ってきた。しかしとある凶行に巻き込まれたことから、自分の父親たちが許されざる悪人であることを直視せざるを得なくなり、反旗を翻す。

【感想】

 究極の「親殺し」の物語。ファイが敵対するのは明らかに血も涙もない外道の悪人たちだが、しかし悪人たちにとってファイだけは殺すに殺せない可愛い息子なのである。このジレンマが壮絶な復讐アクションに発展していく。先が気になって視聴を止められない。韓国映画でありがちなやや甘いエンドロールもハマったと思う。

 

『映画 としまえん

【採点】C

【監督】高橋浩

【制作国/年】日本/2019年

【概要】としまえん全面協力ホラー。大学生の早希は高校時代の仲良しグループととしまえんに訪れる。そこでいつか盛り上がった「としまえんの呪い」を実行してしまったその時から、一人また一人と友だちが消えていく。そしてここにはいないもう一人の友だち、由香の影がチラつき……。

【感想】

 器用な映画だけど、手練手管だけ見せられてるようで、魅力に欠けるヒロイン同様とっつき辛かった。『ラブライブ!サンシャイン!!』の黒澤ダイヤが幽霊となって襲い掛かるが、こちらもまたこれといって特性が無い(いや、オチはなるほどと思うのですが)。ゴールとしてのメリーゴーランドとかもっと活かせたんじゃないか。としまえんから校舎への移動が一番グッとくる演出だった。

 

 

2016年映画ベスト/2010年代映画ベスト100への道⑦

想定外でした.

2016年と言うと『シン・ゴジラ』『君の名は。』のヒットに始まり、『映画 聲の形』『この世界の片隅に』と続いた和製アニメ系タイトルのビッグヒットイヤーという認識が自分の中に強くあったんですけど、純粋に映画界全体が大当たりだったんじゃないかという.20本に絞り込むのが至難の業.個人的に刺さった映画が大量でした.

 

候補作は109本.確実に観賞本数は減っているのに、充実感が反比例してます.

 

1位.イット・フォローズ(デヴィッド・ロバート・ミッチェル

2位.パディントンポール・キング

3位.シング・ストリート 未来へのうた(ジョン・カーニー)

4位.君の名は。新海誠

5位.映画 聲の形山田尚子

6位.浮き草たち(アダム・レオン)

7位.ドント・ブリーズフェデ・アルバレス

8位.キャロル(トッド・ヘインズ

9位.ザ・ウォーク 3D(ロバート・ゼメキス

10位.インサイダーズ/内部者たち(ウ・ミンホ)

 

11位.この世界の片隅に片渕須直

12位.テキサスタワー(キース・メイトランド)

13位.スティーブ・ジョブズダニー・ボイル

14位.ちはやふる 上の句(小泉徳宏

15位.オデッセイ(リドリー・スコット

16位.溺れるナイフ(山戸結希)

17位.ブリッジ・オブ・スパイスティーブン・スピルバーグ

18位.ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリーギャレス・エドワーズ

19位.ヒメアノ~ル(吉田恵輔

20位.何者(三浦大輔

 

かなりオールタイムベストに近い『イット・フォローズ』か『シング・ストリート』かで迷いに迷った挙げ句、間に『パディントン』を挟むことなんとか落としどころとしました.で、『君の名は.』にしろ『映画 聲の形』にしろ、実はアニメ映画という括りを越えて、『イット~』『シング~』、続く『浮き草たち』『ザ・ウォーク』『ちはやふる 上の句』『溺れるナイフ』も含む青春映画の並びに納めた方がしっくりきますね.

1タイトル1タイトルが屹立して強い中、『何者』だけは割りとショットの重みが不在のまま突き進みつつ、ある一点でカメラがビシッと決まる、その1カットのマジックだけで惹かれました.

 

以下、ベスト候補です

 

PERSONA3 THE MOVIE #4 Winter of Rebirth
白鯨との闘い
残穢 -住んではいけない部屋-
ヘイトフル・エイト
マネー・ショート 華麗なる大逆転
アーロと少年
ズートピア
あやしい彼女
テラフォーマーズ
シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
64-ロクヨン-前編-
10 クローバーフィールド・レーン
貞子VS伽椰子
クリーピー 偽りの隣人
ヤング・アダルト・ニューヨーク
ダゲレオタイプの女
劇場版 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAM-
エクス・マキナ
劇場版 selector destructed WIXOSS
亜人 第2部 -衝突-
GANTZ:O
サラリーマン バトル・ロワイアル
最後の追跡
紅き大魚の伝説
XOXO
バッド・ラップ
HUNT・餌
淵に立つ
ロストシティZ 失われた黄金都市
父を探して

 

個人的に、配信映画に触れる前の年.ここまでは「一つ前の時代の映画」という印象が、今となっては生じつつあります.

(後から見た『浮き草たち』も『テキサスタワー』も配信が無ければ出会わなかったのでしょう)