ぴ。-南半球の活動について-【harmoe Advent Calendar 2025 Day.10】

 

 

 

はじめに

昨年に引き続き、ぷるお様(@ple_starlight)主催のアドカレ参加させていただきます。

アドカレとは? 

――昨年参照.

pikusuzuki.hatenablog.com

pikusuzuki.hatenablog.com

今年のラインナップは以下のようになっております。

adventar.org

 例年のことながら、同時進行中の【少女☆歌劇レヴュースタァライト 遙かなる Advent Calendar 2025】と併せ、観客一人一人が否応なしに表現の現場に巻き込まれるスタァライト(含harmoe)界隈。半分観客であり半分舞台の上に立つ覚悟をしたルームメイト、舞台創造科の皆さんのクリエイター気質が爆発し、どれも読みでが素晴らしいです。

是非読んで回ってみてください。

 

当記事では簡潔に最近見た舞台感想でお茶を濁そうしているのですが――

主旨としてはこの秋のもえぴの舞台、大当たりじゃない???

という事実を声に大にして叫びたいという点あらかじめお伝えした上で、少し迂回。

「harmoeの南半球」こと小泉萌香さん個人の活動、そして八面六臂の活躍に改めて触れるところからまいりたいと思います。*1

 

ぴ。-南半球の活動についてー

美少女コンテンツ寄りのアニメ/声優ファンの間では「もえぴ」という愛称と共にじわじわと認知が浸透しつつある小泉さん。

出演本数で言えば圧倒的に

《 舞台 >>> アニメ 》

である為、本来もっとマニアックな存在であってもおかしくない一方、

メディア露出という点では以下の構図で特殊なポジションに。

《 数多のアーティスト/ユニット活動 >>> 舞台 》

同傾向の演者の中でもその多岐に渡る活躍ぶり、

わけても「多岐」の中身の「多岐っぷり」は突出してるのではないでしょうか。

彼女のキャリアが如何に特殊なのか。

その特徴を、把握しきれないあらゆる仕事*2の中からアニメ/ユニット活動/舞台に絞り、タイトルを列挙しつつ振り返ってみたいと思います。

 

メディアミックスの優 ー 継続するキャリア

出演アニメ

①『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(大場なな)

②『D4DJ』(笹子・ジェニファー・由香)

③『オッドタクシー』(市村しほ)

④『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(三船栞子)

⑤『NieR:Automata』(ダリア)

⑥『ポーション頼みで生き延びます!』(エミール)

⑦『異世界でもふもふなでなでするためにがんばってます。』(ベルガー・クリエス)

⑧『いずれ最強の錬金術師!?』(マー二)

⑨『うたごえはミルフィーユ』(藤代聖)

 

まずアニメ出演作ですが、こうしてタイトル別にすれば、メインからちょい役まで10本に満たない。アニメ供給過多の時代に、出演本数自体は決して多いとは言えません。

ですが、一本一本が代表的な役柄や仕事と密接に結びついている。

ここに、小泉さんのキャリアの特徴が伺えるのではないでしょうか。

それは個々の作品との継続した関わり。例えば上記アニメ出演作を振り返ると。

 

① - 舞台/映画/ライブ、ユニット活動/ゲーム/ミニアニメ

② - ライブ、ユニット活動/ゲーム/ミニアニメ

③ - 映画/ユニット活動

④ - 映画/ライブ、ユニット活動/ゲーム/ミニアニメ

⑤ - 舞台(『少女ヨルハ』)

⑥⑦⑧ - harmoeとしてタイアップ楽曲参加

⑨ - オーディオドラマ/ライブ、ユニット活動

 

作品との関わりが単体で終わらず、長い時間をかけて、媒体を越境して関連し続ける。

自身が大樹の幹となって、コンテンツの枝葉の系統図を拡げていく役割を果たす。

小泉さんの活動を追っていく内、自然とそんなイメージが思い浮かびます。

 

所属ユニット

ほぼ上記のタイトルに接続する形になりますが、所属ユニットを振り返ると。

メインで関わったアニメすべてでユニット活動をスタートさせている形となります。

恐ろしいのは、どの活動も明確なピリオドが打たれていない点。

×ジャパリ団は未だ思い出したように唐突にイベントを打ち、またこれは不意打ちでしたが今年10月に実施されたharmoeの北海道ツアーにて、二人のカラオケ候補にミステリーキッスの曲目が混ざっていました。

ミステリーキッスに関してはそれだけのことかと思われそうですが、一度関わった作品を風化させようとせず、隙あらばタイトルを口に出して延命を可能にしてしまう強みが小泉さんにはあります。

例えば小泉さんの2.5次元系舞台では珍しく、映像化されず、話題性にも乏しく*3作品との関わりが単発で終わりそうだった舞台『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…THE STAGE』。

こちら公演終了から一年後、YouTubeのカバーソングチャンネル『CrosSing』にて主題歌を披露する事で、20万近い再生数を獲得。結果として「もえぴは舞台版に出ていた」=「舞台版はめふらがあった」と、一部で改めて、小泉さんと紐づく形でその存在が記憶されました。

youtu.be

このまま埋もれてもおかしくなかった作品を、自身声優でありながらアニメではなく舞台版に出演した小泉さんが、声優カバーソングコンテンツの動画という形にして率先して記録に残す。この奇異な立ち位置と奔放な振舞。

ただ運が良くて継続する作品に恵まれている訳ではなく、意識的に個々の作品との繋がりを濃くしている姿勢が見えてくる場面です。

本当にキュートなので見て欲しい。

 

出演舞台

最後にゲスト出演等除く舞台出演作を振り返ると。(※太字=観劇青字=視聴

  • 『心は孤独なアトム』(2015年)
  • 劇メシ公演
  •  /『キツネたちが円舞る夜』(2016年)
  •  /『love Revolution No.3』(2017年)
  • 放課後戦記(2016年)※同役柄にて実写映画版出演
  • 『少女☆歌劇レヴュースタァライトシリーズ
  •  /『-THE LIVE- #1』(2017年)
  •  /『-THE LIVE- #1 revival』(2018年)
  •  /『-THE LIVE- #2 Transition』(2018年)
  •  /『-THE LIVE- #2 revival』(2019年)
  •  /『-THE LIVE- #3 Growth(2021年)
  •  /『-THE LIVE- #4 Climax』(2023年)
  •  /『-Re LIVE- 遙かなるエルドラド』神戸公演(2024年)
  •  /『-THE MUSICAL- 別れの戦記』(2024年)
  •  / 舞台朗読劇『遥かなるエルドラド・序章』(2024年)
  •  /『-THE MUSICAL- 遥かなるエルドラド』(2026年)※待機作品
  • 『ゲートシティーの恋』(2019年)※初主演
  • 魔法少女(?)マジカルジャシリカ☆第壱磁マジカル大戦☆』(2019年)
  • やがて君になるシリーズ
  •  /やがて君になる(2019年)
  •  / 朗読劇『やがて君になる 佐伯沙弥香について』(2020年)
  •  /やがて君になる Encore』(2022年)
  • 巌窟王 Le théâtre』(2019年)
  • 信長の野望-炎舞-』(2020年)
  • 朗読劇『さよならローズガーデン』(2020年)
  • 『誰ガ為のアルケミスト 聖ガ剣、十ノ戒』不惑の双刀編/不憎の呪術編(2020年)
  • 『少女ヨルハ Ver1.1a』(2020年)
  • 『双牙 ~ソウガ~ 新炎』(2021年)
  • 『Collar × Malice -笹塚尊編-』(2021年)
  • 朗読劇『女神降臨』(2021年)
  • 朗読劇『リクエストをよろしく』(2021年)
  • 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(2022年)
  • 『私立探偵 濱マイクシリーズ
  •  /『我が人生最悪の時』(2022年)
  •  /『遥かな時代の階段を』(2025年)
  •  /『罠 -THE TRAP-』(2026年)※待機作品
  • 『LIAR GAME murder mystery』(2023年)
  • 『トワツガイ』シリーズ
  •    /『Ⅰ』(2023年)
  •    /『Ⅱ』(2024年)
  • 朗読劇『WARAI-GOE』(2013年)
  • 『爆劔~源平最終決戦~』(2023年)
  • 朗読劇江戸川乱歩朗読劇 幻調乱歩2「自決スル幼魚永久機関」』(2023年)
  • 朗読劇私の頭の中の消しゴム
  •  /『15th Letter』(2024年)
  •  /『Final Letter』(2025年)
  • パリピ孔明(2024年)
  • 朗読劇若草物語(2024年)
  • 朗読劇『BLINK』(2025年)
  • 『ミュージカル信長~朧本能寺』(2025年)※『炎舞』の精神的継承作
  • 朗読劇『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2025年)

やはり――このこと自体は2.5次元系の役者では珍しいことではありませんが――、一度関連したシリーズに継続して出演されるパターンが多いです。

分けても白眉は『トワツガイ』シリーズ。

プレイアブルキャラとしては小泉さんのみ、ローンチ時から原作ゲーム/舞台版と同一キャストで出演しており、出演もオーディションではなくゲームのシナリオ監修を手掛けた舞台演出家・松多壱岱氏(『少女ヨルハ』『爆劔』)の指名に拠る。

媒体を越境して信頼を得てきた彼女のキャリアの特殊性を象徴するタイトルです。

 

さて上記の表をこと「朗読劇」にのみ絞って振り返ると、彼女のキャリアで珍しく継続したシリーズではない、その日その場限り、一期一会の物語の魅力を振りまく作品群とようやく出会えることにも気づきます。

 

音楽と物語はいっしょに歩く

 

小さなおとぎ話が一夜のステージで繰り広げられては泡のように弾けて消える。

harmoeのコンセプトにもし、舞台女優たる二人の普段の仕事との相似形があるとしたら、それは実は舞台ではなく朗読劇の感触が一番近いのかも知れない。

そんな事を、この秋の小泉さんの出演作の充実ぶりに触れて考えていました。

長い前段失礼。

 

秋の豊作ぴ祭り ー 単発のキャリア

継続するキャリアでは出会えない小泉さんの顔。

それが非2.5次元系の舞台、分けても朗読劇にある。

この秋出会った小泉さん出演作の感動を順次、簡潔に伝えられれば。

 

――と言いつついきなり「2.5次元舞台」の話からして恐縮ですが、

とにかく無類に面白かったので、まずは秋の入り口に出会った本作の感想から。

舞台『賭ケグルイ

【脚本・演出】西田大輔 【音楽】和田俊輔 【原作】河本ほむら尚村透

【キャスト】

蟹沢萌子(≠ME)/永田聖一郎・小泉萌香

音くり寿・河内美里・朝倉ふゆな・村山結香(≒JOY)・佐竹桃華

笹森裕貴/梅田彩佳

【アンサンブル】

KENTA・小石川茉莉愛・Okapi・石川凛果・

HARUYOSHI・石田彩夏・友松克太・宮嶋すみれ

【会場】シアターH

 

【感想】

 言わずと知れた『賭ケグルイ』。アニメ、実写、小説、スピンオフ、NETFLIX

 凡そ考えうる限りのメディアミックスは全てした*4鉄板コンテンツ、満を持しての舞台化作品。

 脚本・演出は西田大輔。

 小泉さんの西田作品登板は恐らく『濱マイク』シリーズ以来二作目。

 ですが、個人的に西田さんの名前が強烈に焼き付いたのはむしろ「harmoeの北半球」こと岩田陽葵さんを追って観劇した朗読劇『チル・モラトリアム』(2024年)に舞台『恋ひ付喪神ひら(『恋ひら』)』(2025年)、それら西田さんが代表を務めるDisGOONie(ディスグーニー)作品でした。

 二作とも役者のポテンシャルを限界まで高めようとする見せ場作り。キャスト各々が負う感情が拮抗する為にこそ展開するかのような作劇の畳みかけが印象深いです。

 舞台演出家が2.5次元系の舞台に職人として雇われた場合、基本的には我を出さず原作の再現、およびそのエンタメとしての装飾に手腕を発揮する傾向が多いことはここ数年なんとなく理解してきました。恐らく西田さんも『濱マイク』に顕著なように、原作に奉仕する職人としてのスタイルも選択できるはず。

 一方で『恋ひら』のような、役者の熱を開花させる作家としてのスタイルが『賭ケグルイ』とがっぷり四つを組んだら何が生まれるんだろう。なんなら本当に舞台上でキャストにギャンブルさせて上演時間4時間とか越えちゃうんじゃないか――。

 見知った筈なのに予測できない舞台。

 職人:西田か作家:西田か。裏か表かのギャンブル気分で観劇当日を迎えます。

 

 すると現前したものは、まさかの紛うことなきミュージカル!

www.youtube.com

 シンプルに話を追うだけならば既に見飽きてすらいる『賭ケグルイ』のゲームの数々を、キャスト陣が歌って踊り展開していく。

 特に一幕目でとめどなくナンバーが続き、蟹沢萌子さん演じる夢子と河内美里さん演じる伊月、あまりに長年慣れ親しんだ原作キャラクターそのまま、生き写しの二人が歌って競う様に至った時。グルグル回るステージのさらにテーブルの上、トランプを次々めくりながらその模様とナンバーを歌詞にして歌い上げる、舞台初主演のアイドルにありえん過重のレヴューが、しかし見事なまでに決まっていく。

 その初見時の高揚感は筆舌に尽くしがたく、観劇体験としては『チェンソーマン THE STAGE』ぶりの興奮を覚えていました。

 話の筋は原作を再現しているのに、目の前で展開する表現はキャスト全員のパフォーマンスを開花させる歌と踊り。知ってるけど知らない世界。引き裂かれる理解と視界。そのカオスを貫く耳触りの良いメロディーに抜群の歌唱力。

 西田さんの職人スタイルと作家スタイルの折衷のような。観てるだけで燃え尽きました。

 小泉さんが演じるのは鈴井くんと並ぶ『賭ケグルイ』」視点人物の一人、早乙女芽亜里。

 時系列過去となるスピンオフ『双(ツイン)』*5の主人公であり、当初は無暗に鈴井くんに頬赤らめたりしていましたが、時系列未来ではとある生徒会サイドのキャラクターと名タッグを組み、強靭なシスターフッド及び百合の花を咲かせています。

 芽亜里マジ好きだったので好きぴ×好きぴで、正直感想も何もなくずっと夢みたい。

 二度の観劇どちらも上手後方、芽亜里の客降りに恵まれて、ガラの悪い芽亜里ぴが鈴井くんのネクタイ掴んで引き連れていく様、しかと堪能しました*6

 芽亜里が最強に格好良い『債務整理大集会』のダイジェスト処理のみ心残りなので、いつか完全版を再演してくれないかなと願っております。

 

 気になった方へ。ぜひ円盤予約してください!

 

ここからなんです!

こうして9月に小泉さんのメインフィールドたる2.5次元舞台で大当たり捕まえた。

そして10月頭にharmoe初となるツアー、北海道中に参加し、harmoe成分も満喫した。

そこから先は、小さな朗読劇や舞台が続く秋。

どこか惰性のモチベーションでチケットを握っていた面もあると思います。

ですが、どれもこれも新鮮でいて、良い意味でこちらの予想を裏切ってきました。

 

VISIONARY READING『三島由紀夫レター教室』

【脚本・演出】大和田悟史 【原作】三島由紀夫

【キャスト】10月12日ソワレ公演回

井上麻里奈高橋広樹・小泉萌香・土田玲央小林竜之 【声の出演】津田健次郎

【会場】紀伊國屋ホール

 

【感想】

 三島由紀夫、個人的には『春の雪』に手を出して「この上なく美文であることはわかったが、俺には手ごわ過ぎる」と一度投げてしまった作家。

 観劇前に原作軽く読み始めたら、あまりに軽快かつ意地悪なウィットに富んだ面白さで夢中になりました。

 5人の登場人物の手紙によってのみ流れる時間。それぞれが精いっぱい自分の見栄と体裁、時に自虐を披露しては、その手紙を受け取った相手は文面の行間に秘められた書き手の下心を過剰なまでに読み明かしてマウントを取りにいく。

 誰しもそんな自分が好きで嫌い。三島自身の引裂かれるナルシシズムを俯瞰したら思わぬ喜劇が出来上がってしまった。太宰治坂口安吾もしばしば見せる、現代のラノベはだしのライトな笑いで満ちているのです。 

 これはさぞや大人の朗読劇になるだろうな――。

 

 そう思いきや、意外にも声優陣の朗読は非常に大芝居。

 でもそれが次第に腑に落ちていきます。

 「手紙」の「読み手」は他者の文面を読み解くもの。けれど「朗読」の「読み手」は当人が偽りの自分を口にするもの。

 この小説は朗読劇にした途端、原作と主客が逆転するのです。

 声優陣は自慢の声で各キャラクターの精一杯の見栄と体裁を演じながら、むしろその体で、表情で、本当はみっともなく狼狽えている人物をステージ上にさらけ出す。

 原作あとがきを読むと、このみっともなさは確かに本作執筆の意図に適っていることに気づかされました。

 

 小泉さん演じるのは、若さを鼻にかけて人生を謳歌するOLの空ミツ子。頭でっかちな貧しい演劇青年・炎ミツルにファンレターの代筆を依頼するが、見栄っぱり同士の二人は次第に惹かれ合い――。

 中年男女のみっともない意地の張り合いをメインとして、この若者同士の恋模様は比較的ストレートに成就へ向かっていく。カップルが成立すると二人は互いに読んでいた朗読台本を重ねて閉じ、舞台後方の新居(ソファ)で延々仲睦まじく。

 原作の取捨選択からも、演出家がこの若者達に希望を託したことが清々しいまでに明白で。二人のハイライトには原作まま、以下の手紙が用意されていました。

 

二人は今、未来へ向かってたくましく前進して行きます。人類社会の古き醜きものはことごく後ろへ投げ捨てられ、二人の行く手には、人間愛にあふれた新しい社会の曙光が、地平線上にかすかに兆を見せています。

 芸術を完成し、芸術の自由を証明する者こそ、人民によって建てられる未来の社会なのであります。末期資本主義的頽廃は、芸術を無限に崩壊させ、その自由をファシスト(たとえば三島由紀夫のような男)の手に売り渡す役にしか立たないでしょう。

 われらの未来万歳!*7

 

 しかし、ツダケンのアナウンスと共に徐々に暗転して後、始まる舞台。これはもう、、、わかりませんね。わかります。

 

朗読劇『瓶詰めの海は寝室でリュズタンの夢をうたった2025』

【原作・脚本・演出】末原拓馬(おぼんろ)

【キャスト】10月25日公演回

佐藤拓也山下大輝永塚拓馬西山宏太朗・小泉萌香

【会場】ピューリックホール東京*8

 

【感想】

 こちら本当にミリしらで乗り込んだ作品。

 会場ピューリックホールに向かうエスカレーターから見た光景の美しさに息を呑み、非日常へ迷い込む準備は万全。

 と、ロビーに原作脚本演出のみならずイラストまで担当された末原氏の姿が。

 ペンキにまみれたパジャマのような、所謂アーティスト感打ち出す格好でうろついておられ、一瞬良からぬ予感が過ぎりました。

 「これ『プペル』みたいなコンテンツだったらどうしよう…」

 しかし座席についても本当に良いぞピューリックホール。背もたれに頭つけてもそのまま眠れるくらい体にフィットする。

 会場の照明も幻想的で、このまま眠って夢を見るのにうってつけで……。

 開演直前。販売中の公演台本にはないアナウンスが末原さんの声で発せられる。

 曰く、『この劇は夢オチです。』

 『最後の台詞は「あぁ、いい夢だったなぁ」で終わります』、と。

 ――そこまで言い切って自信がある。

 このニュアンスだとコメディ系か、それとも相当に泣ける系か。結果は――。

 ・・・こちらは末原さんが亡きお父様に捧げられた作品。毎年のように演し続ける覚悟があるそうで、また毎年観劇されている方によると微妙に脚本も変化しているとのことで、詳細のネタバレは避けます。

 結論としては、この上なく個人的な琴線に触れて、激しく動揺しました。

 

 冒頭、主人公の老人トノキヨは70歳になる姉から電話で心配されます。

「私がいなくなったらどうするの。将来のことを考えなさい」

 これだけで「あらかじめ未来を失ってしまった者が如何に前を見るか」というテーマが否応なく全面にフィーチャーされる。

 以降、睡眠薬で自殺を図るトノキヨの部屋に不思議な少年クラゲが現れ、「海」をばらまいてしまうところから冒険が始まり――。

 『ピーター・パン』に『リトル・ニモ』、『リトル・マーメイド』に『スタンド・バイ・ミー』といった西洋の、主にアニメのようなイメージを渡りながら、次第に物語の底流に土着的な夏休みの匂いが立ち込めてきます。

 個人的に大好きでいてずっと囚われている、ジブリから『学校の怪談』、『水の旅人』『HINOKIO』等々経由しつつ細田守に到る、「夏休み東宝映画の匂い」が充満していたのです。

 明確には東宝系じゃなくてもいいんですけど、とにかく夏の映画館で繰り広げられる大冒険。子供が自分の身体をスクリーンの向こうに延長して、そこで実際に冒険を体感したような気になる、アレです。

 もう趣味過ぎる!いっそ『プペル』ばりにアニメ映画化して全国公開してほしい。

 

 そんなアニメ的な内容ですが、同時に本作は朗読劇の中でも稀によくある、「台本を持ったままキャストが全身で熱演する」タイプの作品で。

 5人の声優陣が全力でそこにない世界を演じ、もう大人の身体で子供に還り、「失った未来」を希求し続ける。

 現前するキャストの熱演が、劇中の絵空事を本当に変えてしまう。

 舞台が終わった後のアフタートーク

 まだ荒い呼吸の5人が、稽古着のような恰好で思い思いに腰を下ろし感想を語る様。

 その中の誰かの発した「今、本当にこの5人で冒険をしてきたみたい」というコメントがあまりにしっくりきました。

 私の身体をステージ上のキャストたちに重ねて、確かに「失った未来」を取り返そうとあがいていた夜。

 またこのような感慨をもたらすだろう事も含めてアフトにリラックスした空気のセッティングを施した末原氏、流石です。失礼な予見をしてごめんなさい。

 

 個人的なこと且つ上手く整理できないので本作の何がどう琴線に触れたのかは伏せますが、ちょっと泣きそうになりながら帰ったことを覚えています。視界がグラグラした、あの無防備で不安定な余韻はまだ胸に残ってる。 

 

舞台『月夜の人形』

【演出・脚本】生田輝

【キャスト】土屋神葉・七木奏音

小山百代・真野拓実/小泉萌香/甚古萌・田口実加/生田輝

【会場】横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール

【感想】

 生田輝さんが原作・脚本・演出を務め、出演者もほぼ身内で固め、実際あてがきしたという、スタァライト九九組が文字通りの「舞台創造科」に変貌した記念碑的舞台。

 裏方の賑わいを彷彿させるかと思いきや、驚くほど静謐が支配する作品でした。

 孤独な青年トニと、ほとんど微動だにしない人形イリス。

 主役二人から動きを奪い、その周辺人物もトニの友人アレンとその妹サラに絞る。他にはアンサンブル兼ダンサーの月の精霊たち。ここに超越者としての女神ルーナ、そして「作者」という物語の外側の人間が描かれるのみ。

 ですが、この実質3人の人間の回すドラマの中に人形を配置しただけで、人間の抱く多種多様な愛情が投影されていきます。恋慕、親愛、執着、嫉妬、逃避etc……。

 前方で観劇の皆様からイリス役七木奏音さんがまばたきの回数さえコントロールしてた事が評判に上りました。

 そこまで前方席ではなかった自分にはむしろ、他の人間達にスポットが当たり照明が外れても微動だにせず、ステージ上の暗がりで佇んでいる顔の見えないイリスにこそ、言いようのない背徳感を覚えてゾクゾクしたことを覚えています。

 女神の力でトニはイリスと会話できる。それが本筋ではあるけれど、こうして暗がりに放置されるとやっぱり人形はただの人形でしかなく、それぞれが勝手なドラマを投影しているだけなのかもしれない――。

 その時の自分の感想をこうして振り返り今、更にゾッとしました。七木さんが演じてると知ってるのに? 完全に「動かなくなった人形」と思ってそれを眺めていた?

 何回この人に驚かされれば気が済むんだろう。七木奏音と書いて「人の可能性」と読みます。

 

 このミニマルな人物関係の外側に置かれたルーナ。さらにその外側に「作者」。

 ところで私の席はフラット席最後列、センブロの下手端でした。

 終盤。ステージ上に残されたルーナを眺めていると、何故かお客さんの視線が私に振り返る。

(いや、このパターン知ってる。足音近づいているもん。さては来てるな?)

 振り向くと、通路口から歩いてきて自分の斜め真後ろに立った「作者」の姿が。

「ねえ、あなたはどんな結末が見たい?」

 こちらにルーナの呼びかける声。「作者」が自分の頭上越しにステージを見る。自分もまたステージに振り向くと、ルーナの視線が対角線上である私(の、後ろにいる「作者」)をガン見!

 「人間/女神/作者」というレイヤーを突き抜けるだけでなく、

 「物語(人間/女神)/作者」というレイヤーが不意に破壊された瞬間。

 この瞬間を、席ガチャの女神のイタズラにより、

 「物語(人間/女神)/俺/作者」という構図で体験してしまい、自分の立っているレイヤーが虚構なのか現実なのかわからずクラクラしました。

 多分ちょうど目安にしやすい位置なのでしょう。実は冒頭の作者登場時、そして最後の作者退場時も輝ちゃんの視線がずっとこちらにあって、このややもすると鼻につきがちなメタ展開を全面的に受け入れることができました。

 だって確かにあの人は「作者」だった。

 デビュー作で「作者」が出て来るデウス・エクス・マキナ。本来かなり気恥しいものがある筈なのに、人物を絞ったドラマの抑制が効いて、舞台上下手端に作者の立ち位置があってもしっくりきてしまう。絶妙なバランス感覚。

 カーテンコールで作者がキャストを見送り、最後に客席にお辞儀する。それさえ台本の一部のような、終わっても終わらない時間。

 

 この舞台はキャストのみならず、会場となる「横浜赤レンガ倉庫」にもあてがきして作られたとのことでした。

 普段見ている賑やかな2.5次元との違いは圧倒的に静謐さにあって、観ていて少々ボンヤリしつつも、トニ達の暮らす港町に流れる波の音が効果音なのか、実際に横浜の湾から響いてくるそれなのか、次第にフィクションの輪郭が融けて判らなくなってくる。

 観劇を前後して赤レンガ倉庫周辺を巡ったり、本編でも触れられるアップルパイを食べたことも含めて、丸ごとこのお話の世界を歩き回ったなという実感が残っています。

 小泉さん演じるルーナの超越者としての説得力、やはり流石は仲間のあてがきだけあってハマり様がハンパではなく。無邪気な愛きょうを振りまきながら、どこか同じ感覚で同一線上に立っている気がしない、ふとした瞬間に畏怖の念が宿る存在。

 「たしかに、、、」としっくりきていました。

 また小泉さんといえばその魅力の一つにお辞儀の美しさがあると思うのですが、今年でいうと『信長ミュージカル』と『月夜の人形』では自身の衣装、及び役柄に合わせてひとりお辞儀の姿勢を変えていて、そのポーズもまた美しく。

 舞台に浸りたい身としては嬉しい工夫、眼福でございました。

 

配信がスタートしたよ!!!

 

朗読活劇『信長を殺した男2025』

【演出・脚本】岡本貴也 【脚本】江頭美智留 【原作】藤堂裕明智憲三郎

【キャスト】桔梗回

田中直樹(ココリコ)・小南広司・鈴木曉(WATWING)・西銘駿・小泉萌香

【三味線】山影匡瑠 【和太鼓】吉田貴博

【会場】1010シアター

 

【感想】

 今年の初夏、『恋ひら』『信長ミュージカル』とharmoeが連続して戦国時代を舞台上で生きる期間がありました。登場人物がだだ被りだった為に続けて見る面白さや、だからこそ見えてしまう舞台としての差異などあって刺激的だったのですが、まさか一年で三度もこの時代に引き戻されるとは。

 原作は明智家の子孫と目される作者の考証を基に、一次史料もなく人口に膾炙した俗説のまま人物像が流布してしまった明智光秀その人、彼の汚名をそそがんと歴史を語り直す、どこか偉人紹介マンガのような趣き。

 これを舞台は大幅に脚色し、出来事と出来事の間にドラマチックに明智を信じる周辺人物の想いを熱く滾らせ、俗説から離れ清廉にして理想に尽くす明智光秀像を浮かび上がらせていきます。

 

 この作品の面白いのは、なんといってもその語り口。

 信長(小南)のみ舞台高所から天下を睥睨し、4人のキャストは横並びになって、それぞれ見台の前に立っています。

 さらにここから光秀(田中)を除く3名のキャスト(鈴木、西銘、小泉)が講談師や活弁士が手にするそれ、「張扇」を片手に持ち、いくつか兼任する自身の役柄を離れると……歴史の語り部となって、勢いよく喋りながらこの張扇を見台に叩きつける!

お道具箱 万華鏡>講談の張扇 茨城県産和紙で自作:東京新聞デジタル

 カン!カン!

 どんどん巻き舌早口上になり、

 カン!カン!

 そのたび事態は風雲急を告げ、

 カン!カン!カン!

 どんなに美化されても光秀は光秀、

 カン!カン!カン!カン!

 その天下が終わる四日目がすぐそこにぃ!

 カンカンカンカンカカン!

 

 これが「朗読劇」ではなく「朗読活劇」の所以。

 また相当に力がいるのか、この張扇を上手く鳴らせる時と鳴らせない時があってハラハラ。そこへ三味線と和太鼓の生演奏がセッションの要領で絡み合い白熱!

 

 日本に溢れる数多の風説・俗説・フィクションの影響下、巷で口々に「語られ/騙られ」てきた明智光秀像。

 もしその人物像が時の権威や人々の気儘によって不当に仕向けられた誹りだというのなら、また今度は「語り/騙り」直してやればいい。

 景気の良く鳴り響く張扇の音、威勢のよい役者たちのこの「声」で。

 

 言葉が声が時代を作り、伝説をでっちあげ、真実さえ捻じ曲げる。

 その力を逆説的に証明するような小さな抵抗。非常にロマンチックな演出でした。

 

 劇の終わりに、果たしてあれは煕子としてなのか玉/ガラシャとしてなのか、小泉さんが舞台センターに一人出てきて、この北千住から春日局に会いに行く道を観客に教えてくれます。とある歴史の仮説と共に。あの終わり方も小粋で良かったな。

 

まとめ

以上がこの秋、継続するキャリアに塗れた「harmoeの南半球」こと小泉萌香さんが続けて出演してくれた単発のキャリア、一つ大きな2.5次元舞台挟みつつの、小さな舞台や朗読劇の数々の感想でした。

 

数えきれない無数のメディアの越境で「続くコンテンツ」と並走する温かみや、「巨大なステージ」で万人と共にライブにはしゃぐ醍醐味をくれると同時に、

こうした単発やそれに近い形態の小さなステージで、ほんのわずかな時間、誰かの夢や泡沫に消える歴史の幻を共有して、すぐに過ぎ去る、そんな豊かなさびしさもくれる。

 

この二層の面白さをここまで際立って与えてくれる役者さんが他にいますか――?

 

ええそうです。いますよね。「harmoeの北半球」岩田陽葵さんもそうですよね*9

そうなんです。

harmoe沼にポシャれば、二人の過去作品を掘るだけでも数多の線で「継続したキャリア」を追う楽しみを満喫できるはずです。

そしてそこから更に一歩踏み込むとこれら単発のキャリア、もしかしたら何も形には残らないかも知れない、小さなステージの、泡沫の幻にも出会えます。

 

最後に何が言いたいかというと――。

 

今年はまだあるよ朗読劇! 皆で平日の劇場埋めてもえぴ吃驚させようぜ。

そしてイブにはharmoeのアコースティックライブ、昼の部まだ残席あるのでこちらもよければいかがでしょうか。

昨年のアコステは本当に素敵な、完璧といって差し支えない内容でした。

会場まで足を向けるのが億劫な方にはこちら、今週末スタァライトライブの配信もございます!

 

よれよれの長文にここまでお付き合いいただきありがとうございました。

久しぶりのアウトプット楽しかったです。もっとブログ書こう。

*10

 

明日のアドカレ担当は、もえぴいるところこの方のお名前あり*11、「Fuji-K」さんです。楽しみ!

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

*1:harmoe1stアルバム並びに1stライブのコンセプトに置いて、harこと岩田陽葵さんは北半球。moeこと小泉萌香さんは南半球でした。は?

*2:日本のめぼしい巨大コンサート会場、大体立ってるのではないでしょうか

*3:後にヒプステで大ブレイクされる太田夢莉さんの天才性が遺憾なく発揮された点だけでも観る価値は大アリなのに

*4:残るはマダミスと脱出ゲームでしょうか

*5:原作漫画がともかく美麗で格好良いのでおススメです

*6:またアニメ見て以来、「CP萌え」に目覚めてしまった皇豆を最高のアングルで堪能できたのも僥倖。思えば『やが君』から定期的にお世話になっていた河内美里さんに感謝の気持ちもこめて、先週バースデーイベント足を運びました。

*7:実は今年、観劇の感想は時折ファンレターにしたためており、正直いうとどの作品も手紙にこそ率直な気持ちを吐き出した為、記憶は既に曖昧です。この記事を読んでも全体的に「そんな舞台だったっけ?」と疑問に思われる方いたとしたら、おそらく貴方が正解です。ですが、本作に出会えたことで手紙を書く行為自体が楽しくなってしまい、引き続きファンレターを書く手を止められそうにありません。

*8:この日から一週間後、東京国際映画祭のプログラムで、ポール・シュレイダーの『MISHIMA』がなんと公開から40年かかってようやく日本初上映されました。ぴが三島朗読劇と三島朗読劇の間に入ったここ、ピューリックホール東京で

*9:なんなら私の今年のベスト舞台はほぼ確で岩田さん出演の『インサイド・ウィリアム』です。

*10:ところで、とあるDJの方が今年harmoe縛りで曲を流す中、なぜか『チ。-地球の運動についてー』の主題歌であるサカナクション『怪獣』を流しフロアをぶち上げていました。どう考えても関連性が見いだせないなと思っていたのですが、もしかして地球=harmoe(北半球/南半球)ってことですか???

*11:具体的にいうと単独のフラスタにて