彼女が綺麗になった理由 ー 『WARAIGOE(8/22日公演)』感想

 8.22(火)新宿紀伊國屋ホール

 

 天津向プロデュース『WARAIGOE』初日公演を観劇して来ました。

 お笑い芸人が執筆した6つの脚本(1本につき30分)をシャッフルし、回によって入れ替わる出演者(声優×芸人)が一日に3本の朗読劇に出演する趣向の催し。

 同イベントの開催は2年ぶりとの事。

 

 いきなりですが長い前置きです。

 地元にあるイオンモール幕張新都心シネコンを利用しようとすると、エスカレーター上がって真っ先によしもと幕張イオンモール劇場の呼び込みで若手芸人たちが視界に飛び込んでくるんですね。あまつさえ声かけられたり。

 これから待ちに待った映画を観ようと楽しみにしてる時に吉本芸人に呼び止められるの、人によるでしょうが結構なストレスがありまして。

 ただそんなイオンモール劇場でも唯一、かつて天津向主催で声優×芸人の組み合わせのイベントを定期的に興行しており、『本渡上陸作戦』ファンだった身としてはそこだけなんとなく気に留めてはいました*1

 時は流れて――劇場版スタァライト、そして小泉萌香さんに沼り、声優イベントへ赴くのに一切の躊躇がなくなってから、今度は向プロデュースの声優イベントの方をイオンモール劇場で見かけなくなってしまったというすれ違いが。上手くいかないものです。

 

 そんなすれ違いの果てに、『トワツガイ』観劇後に焼き鳥食べながらトリの話をしていたらスマホ眺めてたフォロワーさんの口から突然飛び込んできた情報。向プロデュース、声優×芸人イベント、その初日に小泉萌香出演!

 

 すれ違いを繰り返してきた向と遂に向き合う日が来ましたーーいや向はもう見飽きてます。なんならアミュボファンミのMCしてる時はアミュボ情報に疎くてむしろ声優にフォローされたり、なんなら小泉萌香を「佐藤日向」と盛大に間違えて呼び込む絶対にありえない間違いを指折れろ。

 

 閑話休題。という訳で、心残りだった向プロデュースの「声優×芸人」イベントをやっと観ること叶いました。

 精確には作家としての向仕切りだった*2『オッドタクシーフェス』に次いで二度目なのですが、あのフェスの小泉さんがとにかく楽しそうで、ずっとテレビで見ていたというダイアン津田への活き活きとした絡みが非常に見ていて気分良かったものですから、YouTube好きの小泉さんがジェラードンとの共演ならさぞ張り切るだろうなという期待値もあり。

 

 

 初日は芸人サイド:ジェラードンニッポンの社長

 声優サイド:小泉萌香、洲崎綾山崎はるかの組み合わせ。

 

 開演は予定より準備が押して、ロビー開場で割とぎゅうぎゅうに詰め込まれ待たされました。コロナとか無い世界線なのかな?

 入場後、アナウンスで向・洲崎の夫婦漫才*3があり、少し待たされて本編へ。

 ちなみのこの押した時間の分、ぴょん(山崎はるか)さんとかみちぃの個別コント感想の時間が端折られてはいました。

 

朗読劇一本目 『跳べ! 鈍感少女』 脚本:ザ・ギース高佐

配役

かなこ/洲崎綾

ゆうた/ニッポンの社長:辻

店長/ニッポンの社長:ケツ

女性客/小泉萌香

外国人店員/ジェラードン:アタック西本

 

 ともかくライブの席ガチャ運が無い今日この頃、プレミアムチケット外れたとは言え上手四列目で、最初のコントでいきなり目の前に現れた小泉さんの綺麗さに、すっかり慣れたつもりでいたのに心臓バクバクいっていました。

 勿論27歳の大人の綺麗な女性である事は承知しているつもりでしたが、どんな役も背負うことなく素体としての「女優:小泉萌香」として人前に立つ小泉さんを見たの、いつ以来だろう。

 

 そして始まる朗読劇。

 中央にいる洲崎さんとニッポンの社長:辻の掛け合いが延々とループし、他のキャストは時折ボソッと一言こぼすだけの不思議な立ち位置。

 小泉さんは一言発するたびに小さな笑いが起こるおいしい役。

 その一言なのに一番大事な場面少しトチったのも余計こちらの緊張感に拍車を掛けて、久しく味わったことのないスリルのピークで、、、遂に、あるキャラがこのコントの意味をバラす時、やっと訪れた緊張からの緩和に劇場大爆笑。

 言ってしまえば一足早く小泉さんがヒントを口にし、ニッポンの社長・ケツがそれを大々的にバラすという流れで、そこから先は今までの緊張感をフリとして笑いが起こり続けるのですが、恐らくもっとサラッと言っても成立するだろうその起点となる台詞をケツが全力の大声で我鳴ったことで、この日の観客のテンションに火が点いたような気がします。

 慣れない朗読劇ということでニッポンの社長は二人ともパブリックイメージになく緊張して、ぎこちなくも熱演しており、この熱演が劇場の空気を引っ張った。大声で笑っていいんだ、と思わせてくれた。同時に「苦手な微妙なニュアンスに賭けるくらいなら、力業で絶対に笑いを取る」という芸人の技巧も垣間見えました。

 

 朗読劇としては、よくある『そして、くりかえす』『ハッピー・デス・デイ』的なアイデア、、、と思わせておいて視点を変えたもので、タネ明かしをする前の引っ張り具合が勇気ありすぎてドキドキする。

 「笑いの方向性」がわかるまでの緊張感、洲崎綾の声優力に9割くらい拠っていること、そして何気に「会場に一体感を生む」構成、WARAIGOE一発目の台本としては確かに相応しい作品でした。

 個人的にはコンビニの外国人店員が片言である事を笑いたくないので、そこは気持ちの上ではノイズでしたが(その前に下のローソンで外国人店員からクレープと珈琲買ってるんだよ、お世話になってるのに笑えないよ)。

 

 一本目終えると向仕切りで洲崎、辻が出て来て挨拶。ずっと喋り続ける洲崎も大変だが、繰り返すことに意味があるので「ボケられる訳でもなく台詞を噛む訳にもいかなかった」辻が息も絶え絶えに汗だくで登場。辻、『悪魔のいけにえ』シャツがずっと目立っていて(あれ欲しい)、そこはなんかこの人の尖ったイメージ通りで良かったです。

 

朗読劇二本目 『1日100時間世界』 脚本:ラブレターズ塚本

配役

ゆき/小泉萌香

ひろき/ジェラードン:かみちぃ

さや/山崎はるか

たける/アタック西本

 

 ちなみに朗読劇が一つ終わってから幕間に向が登場し、そこで初めて作者の名前が明かされるので、先入観なく楽しめる構成。

 同時にタイトルも本編中で適宜表示される作りなのですが、この二本目に関してはアバンで一掛け合いあってからタイトルが明かされた瞬間の、「ああ、そういう話なのか」という感嘆で、一本目で笑って一度崩れたかに思えた緊張感を一瞬で取り戻したあたりは痺れました。

 「コントの朗読劇」ではなく、「朗読劇」そのものと向き合うよう姿勢を正される。

 これはもう素直に脚本の力が強く、また演出の方も脚本の力を信じて、段差も使って本格的な舞台の配置で展開するSF朗読劇に。

 小泉さんの綺麗さにドキドキしていた事がここで一気に作品の中で生きてくる上に、途中のある事実でその綺麗さに「意味」まで生じてくるので(しかもそういうくだりが二度訪れる)、、、もうマジで観に行けてよかった~~~!

 

 西本がずっと奇人役を演じることで「ギャグ」も生じているのですが、本質の部分は「観客が持ってる常識が相対化されて起こる笑い」なので、めちゃくちゃ良質な、知的なコメディになっている。

 特に最終盤、大オチの一歩手前、これが単にコントであれば回収する必要のない伏線回収で、最初に生じていた僅かな違和感が解消され、そのことが小泉さんの慈愛に満ちた芝居と符号して30分の作品に一本の線が通る際の感動。

 明らかに傑作で、WARAIGOEに抱いていたハードルを遙か頭上高く飛び越して、こんな感動を味わうことが出来るんだ、、、と余韻に浸ること出来ました。

 

 幕間挨拶は萌香ちゃん、西本。

ぴ「さすが芸人さん。もうずっと面白い事してるから笑い堪えるの大変で」

西本「見てくるから! そんなこと台本に書いてないのにあなたが顔見てくるから何かしなくちゃって!」

 ぴシリアスな役なのに笑い堪えて大変そうだなと思ってたけど、自爆しにいってました。

 オッタクフェスでも明らかにダイアン津田からはもう何も出てこないのに萌香ちゃんが絡んでくるので津田が何かせざるを得ず、結果萌香ちゃんが全部持っていくという強い一幕がありましたが、今回も人への好奇心の強さが窺えてほっこり。

 ぴとぴょんさんが友人同士でカフェにいる「絵」の良さ、完全に役者に撤したかみちぃの佇まいの説得力、演劇的な空間遣い。良質な朗読劇はしばしば手元の台本が視界から消失して記憶されるものですが、まさに記憶の中で「手元の台本」がなく、短編映画を観たような余韻が残っています。

 

 ラブレターズ塚本、寡聞にして存じ上げず、これから注目していきたいです。

 向さんはこの才能をもっと自身のコネクションでフックアップしていく義務があるのではないか。育てよう第二のバカリズム。具体的にいうとガガガ文庫で何か書かせてみたり出来ないでしょうか。

 

朗読劇三本目 『Shame on you』 脚本:天津向

配役

笹塚凜/山崎はるか

大木瞳/洲崎綾

松橋日葵/かみちぃ

須藤真由佳/小泉萌香

一条光/辻

綱手京史郎/ケツ

 

 『SAW』的シチュエーションから大喜利に突入していく、これぞお笑いイベントといったシナリオ。掛け合いのラノベっぽさ、シリアスな台詞の微妙に気恥ずかしく説明的な感じなど、「向脚本だ」ってすぐ判るのが面白かったです。それは欠点ではなく作家性という事なので。

 この日、帰りに台本セットを購入し、本当は二本目目当てでついでに三本目も購入したのですが、読んでみて驚いた。

 「大喜利を振られてからの、しばらくの流れとボケ」も全部書いてあった事。

 こうやって笑いとキャストの魅力を担保し、また観客の空気をコントロールするのか。完全にアドリブだと思っていた部分が作られていた、というより「大喜利を前にした時のキャストのフワフワした空気」と混ざって虚実の境目が曖昧になっていること。だから観客もアドリブだと思い込んだこと。

 このことで、一見アドリブと思えた部分が話の収束部分に作用していく(あるキャラが一番スベったと思われる空気じゃないと成立しない話なのに、アドリブの筈が確かに「そうなる」)不思議な展開の秘密が少し解ったような。

 そこからは本当の大喜利対決。

 マジで「もえぴ、芸人の前で野原しんのすけはやめて。得意のポケモンやろうよ」と願い続け、それだけがこの日の懸念だったのですが、台本で事前に野原しんのすけを封印するのはさす向。台本にも書いてあるのに萌香ちゃんが「あぁ~ダメか~」という顔したのがおかしかったです。

 ニッポンの社長からの無茶ぶりに応えた(アホアホ大学校歌)ぴ、根がウェイなので合コン盛り上げてるような陽性のノリで場を醒めさせないぴょんさん、そして堂々とスベり続け「私は面白いと思ってる」と言い張っていくあやっぺ、二本目で笑いを封印した反動で人気持ちキャラの如月マロン風に振りきったかみちぃ、みんな光る良い大喜利になったと思います。

 ちなみにこの大喜利のターンで第三の壁が破れるのですが、つまり「劇場版スタァライト」のあの場面を小泉萌香が演じる、その目の前に位置することが出来た体験の貴重さといったらありません、向マジありがとう。

 同じこと何度も呟いてますが小泉さんに惚れた決定打が朗読劇だったので、こうして日に三本も、特に新機軸と言って過言じゃないおしとやかな大人の女性から得意のオラオラ系キャラまで演じさせてもらえたのも、何目線なのだという話ですが心底ありがたいです。

 カラマリからharmoeにハマってくれた女性ファンが意外といたりするので、こういう場所も新規さん開拓に繋がるかも。

 

 三作品とも「掴み」で場を整えるのがめちゃくちゃ上手くて、これはプロの脚本家にもなかなか追いつけない芸人の技巧だと感じました。

 

 それと、一本目を書いたザ・ギース、二本目を書いたラブレターズ、どちらも人力舎から独立したASH&Dコーポレーション所属で、初日にして吉本臭を消して、適材適所の配置で始めている賢明さ。よしもとアレルギーを起こしていた自分がすんなり楽しめたのも助かりましたね。

 

 また同じ役者の現場に通い続けたからこその発見なのですが、「舞台での芝居」と「朗読劇での芝居」完全に技巧が異なるのだなというのも肌で感じました。

 

 

 この3日後、アニサマで何も見えないアリーナ後方席を引きしんどい思いをするのですが、この日至近距離で見た萌香ちゃんの記憶で補完して頑張れた。

 素敵な舞台をありがとうございました。

 また、事前に抱いていた「ナメ」があった点否めず、ここは反省しております。声優のみならず芸人にとっても緊張の場であるという事も意外と行ってみないとわからない事だった。もっとお客さん入っていいイベントだ。

 

二時間くらい前。この時点で誰もいなくて焦った。

RTキャンペーンのステッカー貰えたりしつつ

 

*1:今は『どうワレ』に浮気し、乗り換えました

*2:ダイアンのYouTubeで裏側が映っていた

*3:洲崎と向、洲崎の夫:伊福部崇と向はそれぞれ一緒に番組をやっているので内輪の呼吸が出来上がってるのに、あくまで一定の距離を保とうとする向が面白い