ジャン=ポール・ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』

 訳:夏目大

 

 明日旅行なのに寝付けず深夜1時過ぎに書いております。

 6時27分くらいには出かけたい。

 

 小泉萌香さんが佐藤日向さんに去年の誕生日プレゼントとしてブックカバーか何かと一緒に贈っていた本。ずっと気になっていたもので。

 

 従来の「起承転結」から解き放たれた、でも一応起承転結も置いてあるが基礎構成はそれではなく「リズム」にある作品。

 主人公ギレンはパリ郊外にある本の「断裁工場」で働いている。そう、本だって処分されるのだ! 今まで思ってもみなかったがそりゃそうだ、放っておけば世界は本で押しつぶされてしまう。

 ギレンはその仕事がイヤで、だから断裁された本の中からせめて、切れ端を救いだして、そして朝の通勤列車で読むことで言葉を世界に救済している。因みにこの場合の「読む」とは「声に出して読み上げる」ことであり、ギレンと同じ車両に乗っている人たちは密かにその時間を楽しみにしている。

 

 一節一節が短く、毎日の通勤通学のお供にも最適です。

  そしてこの一節の短さが本作に日常のリズムを与えて、最初はただ本を読むギレン、そして彼が職場の断裁工場で共に働く同僚たちの個性が紹介されていくだけの何も起こらない物語に、少しずつ、ただ淡々と「変化」を与え、そして気づけば憂鬱なだけの筈だった世界のハズレの日常に、新鮮な息吹がそそぎ始める。

 

 ドラマトゥルギーから解放されているところに生じたドラマ。読者の日常に寄り添うとはこういう事ではないかという心地良い中編で、それは憂鬱を見つめながらそれを絶望として断絶しない、「日常を諦めない」作者の粘り腰の成せる業だったと思います。