江戸川乱歩朗読劇『幻調乱歩2 自決スル幼魚永久機関』感想

 イイノホール 9/30日 夜の部.

 

 スタッフ

【演出】細川博司
【脚本】細川博司 鈴木佑輔
【音楽】仁詩 Hitoshi

 

 キャスト(Wキャスト/Day.1)

明智小五郎】中村宗悟【須永時子】日笠陽子【岩井三郎】立木文彦

【花崎マユミ】小泉萌香【縣ミドリ】椎名へきるシャオリン工藤晴香

【姫宮博士】速水奨

 

【あらすじ】

 昭和元年に失踪した名探偵・明智小五郎
 その14年後に現れた、明智のように考え、明智のように話す美少年シャオリン
 諜報員・縣ミドリは、シャオリンの正体に迫るため、かつて明智の相棒であった探偵・岩井を訪ねる。
 一方、姫宮博士もまたシャオリンのルーツを追って、日本に帰国。
 消えた明智、美少年シャオリン
 その謎の果てに姿を隠した変幻自在の怪人二十面相
 題して「自決スル幼魚永久機関」のお噂。

 

 実は若干の懸念を抱いた中での観劇でした。

 そもそも「乱歩題材の二次元よりコンテンツ」には裏切られ続けてきた事があり*1、文ストから『乱歩奇譚』まで何が乱歩のことあるねんとなってしまう。

 乱歩の小説に触れているときの、闇をジッと見据えた先に、口にするのは憚られる、けれど確かに自分の中にある一線を越えた欲望が、妄想がそこに具現しているのではないかという恐怖と切望。危険と隣り合わせの耽美さへの陶酔、余白ならぬ余闇への想像力。

 そうした、乱歩作品が持つちょっとわかりやすいほどの甘い幻想に誘ってくれない、名ばかり乱歩が多すぎた。

 特に『乱歩奇譚』に関しては明らかに同じノイタミナ枠で放映されていた『UN-GO』の、数字的にはともかく質的な成功を踏まえて制作されていただろうにも関わらず、作り手の原作への理解度、というより執着が雲泥の差で、落胆通り越して怒りすら覚えるタイトルであった為。

 あらかじめ、ファッション乱歩なのかどうかを見極めたくて、前作『幻燈の獏』を配信で予習。

 なるほど乱歩の怪しく倒錯で満ちたエログロ劇をモチーフにしながらより誇張し、更には史実を交えた野心作で、おそらく自分も気づいてない含蓄やリンクが沢山、乱歩成分に関してはきっとめちゃくちゃ詳しい方が書かれているのだろうなとその点は安堵を覚えました*2

 ただここで芽生えた別の不安が。

 ステージ手前にメインのキャスト。奥の下手に演奏隊、奥の上手にアンサンブル。

 という配置で進む朗読劇なのですが、ただでさえ夢と現、一人二役、現実と劇中劇、時制の乱れが交錯する内容なのに、役付きのアンサンブルさんの出番が結構多く、情報量に呑まれて何を追っているのかよくわからなくなってしまった。

 観劇経験を重ねるにつれてアンサンブルの重要さは承知しているつもりですし、もっと日の目を浴びてほしいとも思う一方、アンサンブルとして機能している人達が必要以上に出張ってくると、特に立ち位置の問題もあって、非常にアンバランスだなと感じてしまったんですね。単純にステージ上の情報量の、左右のバランスが気持ち悪い。

 結果、作り手がやりたい事に絶えず自分が一歩追いつけないまま話だけが前へ前へと進み置いていかれるようで、なまじ非常に好みの物語だっただけに惜しさ百倍。

 今作もあのバランスだとキツいぞという懸念を抱いてしまいました。

 

 で結果ですがーー完全に杞憂に終わった。

 一作目を経て見事な調整が入っていると思いました。今回も脚本は非常に入り組んでいるのですが、同時に非常に整理整頓されたカオスになっている*3

 終演後、前作を知らないし乱歩もよく知らないというフォロワーさん達が「面白かった」「そういうことかと気づいて気持ちよかった」と口々に感想を仰っていて、なんだか我がことのように嬉しくなった事を覚えています。

 

 時系列は三段階に分かれ、その合間に前作の事件も起こっているという非常に複雑な構成。 

 前作で観念的とさえ受け取れる存在になった事が明かされた明智小五郎に対して、今作では怪人二十面相もまたそのような存在として対になり完成を見る。

 どうとでもなりそうな液状の世界観が固定されて、固い盤面が改めて敷かれるような確かさを感じました。少女時代から淑女に至るまでの花崎マユミ(少年探偵団の少女)、岩井三郎(日本最初の実在の探偵。明智の師匠という設定)、そして明智シャオリンが二十面相を追う、シンプルな「少年探偵団」フォーマットが芯にあるので、バラバラに提示される点と点も最後には一つにつながるのだろうという安心感がある。

 まともに信頼のおけるキャラクターが不在だった前作の差はこの少年探偵団の安定感に拠るところ大きい。

 探偵チームと対を成す闇の側には、日本軍の人体実験という歴史の深い澱みが待ち構えているのだが、前作でモチーフとしたやはり史実の甘粕事件と重ねて、最後には本シリーズが何を射とうとしているのか、いやさ怪人二十面相が何を目的として動いているのか明示され、「芋虫」「幼魚」「赤マント」etc......なかなかのグロ表現の数々に端を発しながらも、最後には爽快感と共に幕を下ろすのだからしてやられます。

 前半でも普通に二十面相VS明智小五郎の見せ場として、誰もが心躍るだろうアクションシーンを用意してあるサービス精神。朗読劇なのに映画のように映像が目に浮かびました。

 

 帝都の闇に誘ってくれる生演奏に酔いしれーー生でアコーディオンを聞くなんていつぶりか思い出せず、その音色が逢魔ヶ刻の路地裏の闇へと怪しく手招きして蕩けてしまう。

 また必要以上に出てこないからこそ却って舞台装置として引き立つアンサンブル陣の頼もしさもあり、この舞台奥の上手下手から発せられる音の効果がバランス良くて美しかった。

 キャストは予習で見たばかりの続投組が嬉しく*4。速水ウルフウッド奨の低音の魅力にやられ、キャラと見た目が合致しまくりな立木ゲンドウ文彦の快活な芝居に口元がつい綻び、四肢と視界を奪われる日笠陽子の鬼気迫る怪演(目の前で、それはもう恐ろしかった)に息を呑み、事前のビジュアルイメージと打って変わって全体の半分で「おしゃま小学生」を演じるもえぴのロリボイスに耳が癒され。。。

 中でも、中央にでんと座る仲村宗悟明智小五郎が非常に様になっていて、全然想像と違ったにもかかわらず「明智小五郎ってこんな人だったかもしれない」という謎の説得力を与えてくれたのが嬉しかったです。カンバーバッチのシャーロックみたいな。

 

 「乳白色の幼魚の群れ」が織りなす人体生成という奇怪な光景をイメージしやすかったのは、個人的に脳内で『UN-GO』のシーンと繋がったからであって、数年越しに『乱歩奇譚』へのフラストレーションを癒してもらえました。

 お話はまだ続くようでーー花崎マユミ、まだ全然活躍できますよねーー楽しみしきり。

 

 9月は『爆劔』で若干の不完全燃焼した後に『チェンソーマン ザ・ステージ』の迫力に打ちのめされ「やはり資本なのか、、、」と思い知り、しかしシンプルな朗読劇である『幻調乱歩2』でチェンステに負けじの没入感を得ることが出来て。

 観劇体験の振れ幅を肌で感じることが出来た贅沢な月でした。

 

 

 そう、連番させていただいた効果がめちゃくちゃ大きいと思うのですが、カーテンコールでステージ上の小泉さんから直接アイコンタクトをいただくという実績を解除しました。普段、こういうとき絶対目合わないもん。

 長かった……良かった……。

 

*1:こと実写となるとむしろ当たりが多いのですが

*2:舞台が満州なこともあり、内容的には、ロケ地が中国だった映画版『魍魎の匣』をかなり想起

*3:脚本購入したのですけど、作者が二人いて一人が書いたものを別の方が整稿されている? そのスタイルが功を奏したのではないかと

*4:スタァライト組が3人揃うのですが、事務所的な繋がり薄く、恐らく偶然なのもエモです