○ 以前、はてなで流行していた「おすすめの漫画ベスト100をランキング形式で紹介する」記事を拝読するのが楽しみでして、いつかは自分でも漫画ベストを発表してみたいなと思っていました
○ ただ人にお薦めできるほどクオリティに拠った読書をしてこなかった為、本ベストはどこまでも完成度軽視の、個人的な思い入れ度合いによるベストとなります
○ 一部例外はありますが、基本的に一作家一作品まで
○ アフィを貼りました
○ ベストを選出した後で思い出した作品などは、潔く忘れます
それでは
100.吉田秋生『BANANA FISH』
ベトナム戦争の最中に使われた謎の言葉「バナナ・フィッシュ」
今再びその言葉が囁かれるNYのダウンタウン.ストリート・キッズのアッシュがマフィア・政府を相手取り、血濡れた道を往く。
一応BL的な相関図を持ちつつ、謀略とアクションに満ちあふれたノンストップ・サスペンス。少女マンガの主人公とは言えただの不良が抗争の延長上で人を殺しまくる姿も衝撃的。一気に読み終えました。
99.めいびい『黄昏乙女×アムネジア』
旧校舎の幽霊・夕子さんと共に学園七不思議の調査を引き受けた貞一は、怪談の裏に潜む人間の脆い心、そして夕子さんを死に追いやった人の業の悲しみに辿り着く。
見開きの残酷描写で子供たちにショックを与える悪趣味なタイトルが蔓延していますが、そうしたスタイルの作品群の中で清涼剤のように美しい怪談を全うした作品、という点に救いを感じました。
98.石黒正数『それでも町は廻っている』
探偵を志す女子高生・歩鳥が商店街を中心にして出くわす様々な謎を、神の視点でリミックス。あなたはこの時系列を整理しきれるか。
ほのぼの日常コメディなのに、時に本格ミステリ、SF、怪談が入り交じる。とは言え作者・石黒正数の構成の妙を堪能したいなら『外天楼』を一冊読めば良いのであって、本作はとにかく廻る町の住人たちがいとおしいのです。
97.石川優吾『スプライト』
高層マンションにひきこもる親戚のおじさんの面倒を見ていた女子高生・スーは、ある日マンションごと巨大な黒い津波に呑み込まれる。その波の正体は「時間」。不条理な時間移動を繰り返すマンションを拠点に、住人たちのサバイバルが始まる。
大元を辿れば『漂流教室』か、やがて『ドラゴンヘッド』『ザ・ワールド・イズ・マイン』等を経て今日では無数に粗製濫造されるサバイバルマンガの系譜に、人の良心を徹底的に詰め込んだイレギュラーな佳品。えらくホッとしたことを覚えています。
長年友達が出来ずにいた心優しい少女・黒沼爽子が、学年一の人気者・風早翔太に恋をした。やがて彼女は今まで知らなかった友情を、思い出を、そして恋心を、ひとつひとつ覚えていく。
王子役をゴールに設定して、むしろその過程でいかに同姓同士の友情を、繊細なコミュニケーションの大切さを描くかという少女マンガの主流の一つを定着させた記念碑。風早くんと付き合ってからは読んでいません。
95.山岸涼子『鬼』
チャラチャラした美大のサークルが民族研究と称して訪れた田舎のお寺。そこで奇妙な現象に見舞われた一向は、かつてこの地で起こった「飢饉」について調べ初め、余りにおぞましく哀しい歴史に触れる。
マンガ読んで一番ゾッとしたコマを含む短編。それはとてもシンプルな線で、ともすれば子供の落書きのように力のない絵なのだけど、一度読んだら絶対に忘れられません。
「この物語は南家3姉妹の平凡な日常を淡々と描くものです。過度な期待はしないでください。」
と、いう但し書き通りの内容です。過度な期待はしないでください。
おそらく多くの人が『よつばと!』によって開いたであろう新たな扉を、私は先に『みなみけ』で開きました。
超人的な完璧主人公めだかちゃんが、「上から目線性善説」によってすべての難問を解決し、すべての悪人たちを虜にしていく。人気小説家西尾維新原作のジャンプ漫画。
膨大な文字数を含む吹き出しと絵とのバランスが圧巻。西尾維新ワールド個人的に大の苦手だったのだけれど、そんな自分でも本作のキャラクター達への愛情は読み進めるごとに深まっていきました。
『ダンガンロンパ』や『ねじまきカギュー』のヒントにもなっているかもしれない。
92.柳田史太『トモちゃんは女の子』
体力バカの女子高生トモは幼なじみの淳一郎に恋をしていた。しかし淳一郎はいつまでも自分を男友達扱いし、異性として意識してくれない。業を煮やすトモは今日も友人たちのオモチャと化すのだった。
Web媒体のソフトにほとんど触れてこなかった為、ツイッター4コマという形式にハマったことが新鮮でした。
91.藤田和日郎『黒博物館 ゴースト・アンド・レディ』
英国ドル-リー・レーン王立劇場に棲みつく幽霊グレイは、自分のことが見えるひどく憔悴した女フローに自らを殺すよう依頼される。演劇を好むグレイは、「フローが絶望の淵に立ち悲劇の主人公として成立した瞬間」の殺害を約束。
やがてグレイはフローが成し遂げる偉業を見届けることとなる。
連作短編『黒博物館』シリーズ の一篇。『うしおととら』の変奏。英国の怪談「灰色の服の男」を通して描く異色のフロレンス・ナイチンゲール物語。そもそもの人生がフィクションを凌ぐ強烈な出来事で満ちたナイチンゲールの異形ぶりが、フィクションとなることで漸く腑に落ちました。
90.冬川基『とある科学の超電磁砲〈レールガン〉』
長寿ライトノベル『とある魔術の禁書目録』のスピンオフ。
科学的に子供たちの超能力が引き出され、能力に応じて生徒たちがランク分けされる「学園都市」を舞台に、学園に7人しか存在しない「レベル5」の御坂美琴と仲間たちが、学園の影に潜む陰謀に巻き込まれていく。
引き算の美学で丁寧にサスペンスを綴ることで、時折発せられる能力の地に足ついた実在感が伝わってくる。空間を意識した構図も巧みで、非常に映像的なマンガ。ただでさえ一つ一つのバトルは地味なのに、その闘った記憶すら誰もが忘れていく『大覇星祭篇』は屈指の傑作エピソード。
89.高橋ゆたか『ボンボン坂高校演劇部』
美少女・真琴に一目惚れした高校生・正太郎は、演劇部部長のオカマ・徳大寺ヒロミに目をつけられ、真琴からはヒロミの恋人と誤解される。しかも真琴は極度の男嫌いであり、誤解を解こうと近づく正太郎を殴らずにはいられないのだった。
子供の頃好きだったギャグ漫画の中からひとつ。あまり覚えていませんが、本作からラブコメのいろはを教え込まれたような気がしています。覚えていませんが。
88.よしだもろへ『いなり、こんこん、恋いろは。』
女子中学生いなりは、ひょんなことから神社に住まう神うか様と出会い、変身能力を授かる。憧れの丹波橋くんに近づくため能力を乱用し始めるいなりだが、そのことで周囲の人を傷つけてしまう。一方、うかは神としてあるまじき感情をとある青年に抱き始め……
京都を舞台にしたかわいいラブコメ。アニメは折り返し地点くらいで終わっていますが、非常に綺麗に完結したことを報告したかったのです。
ここは『ささめきこと』と入れ替え可。むしろ『ささめきこと』を推します。ん?
87.萩尾望都『11人いる!』
宇宙大学の試験中、定員10名の宇宙船に11人いることに気づいた受験生たち。疑心暗鬼の中、異なる惑星から来た少年少女の宇宙漂流生活が始まる。
言わずとしれた名作。どちらかというと同文庫本所収の続編『東の地平 西の永遠』が好きです。ん?
86.羅川真里茂『ニューヨーク・ニューヨーク』
NYに勤める警官ケインはいつものようにゲイバーで金髪の美青年をひっかけるが、思いもよらず彼・メルとは真剣な交際に発展していき、多くの障害に直面する。時同じくして、金髪の男女ばかりを狙う連続殺人鬼が出没していた。
『赤ちゃんと僕』で号泣した後手に取った同作者による本作が、恐らく初めて読んだBL。ハードです。
85.高屋奈月『フルーツ・バスケット』
母親を亡くし野宿生活を送っていた女子高生・本田透は、土地の所有者・草摩家の居候となる。草摩家の人間は代々十二支の物の怪憑きであり、異性に抱きつかれると獣に変身してしまう秘密を隠し持っていた。透の純真でひたむきな心が、草摩家の人々の心の傷を癒やしていく。
どうにもラストが納得いかないというか、透くんがいい子過ぎて思い入れ過ぎて手放せない親のような感情を抱いてしまいました。そのくらい大好きなキャラクターです。
84.福本伸行『最強伝説 黒沢』
土木建設の現場監督・黒沢は、自分の人生がもしてかしてとても冴えないものであると自覚してしまう。誕生日を誰にも祝ってもらえなかったことをきっかけに、人に好かれようと悪戦苦闘し始めるが、思いはいつも予想外の結果を呼び寄せ--
ギャンブルに思い入れが無いためか、福本作品の中では断トツで黒沢が好きです。上記のあらすじを娯楽マンガとして成立させてしまう話術。『フルーツバスケット』の透くんか『黒沢』の黒沢か、応援したくなるマンガキャラTOP2。
日本一似ていない三つ子の姉妹・みつば、ふたば、ひとはを中心とした、変態揃いの小学生たちの日常コメディ。
『浦安鉄筋家族』イズムで子供特有のパワフルさ、我欲のえげつなさ、品の無さにスポットを当てる。大体オチで誰かが誰かからとんでもない変態だと勘違いされて終わる、そのコマの天丼ギャグが神がかってます。
82.日向丈史『あひるの空』
背の低いバスケット選手・空は、母親との約束「高校最初の大会で優勝」を果たすためバスケ部に入ろうとする。しかし当のバスケ部は荒れた部員たちや不良のたまり場となっており、バスケ自体始められる状況にはなかった。
切実な夢は叶わない。心を通わせた仲間の気持ちは移ろいゆく。闘いたかったライバルは親の都合で去って行く。
物語の理屈を、現実がまったく汲み取ってくれない。
それでも消えることない熱気が眩しすぎて、読むのがつらくなります。
81.松浦だるま『累』
亡くなった伝説の女優を母に持つ少女・累は、その醜い容姿から迫害を受け続けていた。しかし母親の口紅を塗ってキスした相手の顔を奪い取れる能力に気づき、時に相手の命を奪いながら女優としての栄光の階段を駆け上がり始める。
垢抜けたジョージ秋山のような画風で、古典的なまでのピカレスクロマンを描く。累に行き着くところまで行ってほしいと応援しつつ、累の正体を知る者たちの言動に息の詰まる思い。そして邪魔者が死んだ時の安堵感たら。無類の面白さ。
80.山本崇一郎『からかい上手の高木さん』
中学生の西片くんは、となりの席の高木さんにからかわれてばかり。
なんとかからかい返してやりたいところだが、常に高木さんのほうが一枚上手で…
ツンデレの西片が、実は西片くんを好きという気持ちを一切隠さずストレートにぶつけている高木さんに負け続けるというのは理屈。ひたすら可愛い。ところで5巻の巻頭についてた未来篇は必要でしたかね。
幼くして両親を亡くし、人でないものが見えるために周囲から疎まれていた夏目少年は、やはり若くして亡くなった祖母にして、いつも一人で見えない者たちを相手に過ごしていたというレイコの遺した、妖たちの名前を綴った「友人帳」を手にする。
強力な妖・ニャンコ先生を用心棒に、夏目は遠ざけていた筈の妖と、そして人と接していく。
最初期の、絵柄も話もキャラクターたちの一生もすべてが儚く感じられる淡い逢魔が時の感覚が好きで、今でも妖が最初に現れる一コマのJホラー的なぞっとする感覚がたまらないのですが、アニメはそこを巧くトレースしてくれていない気がします。
78.原泰久『キングダム』
春秋戦国時代・中国。後の始皇帝たる政の影武者として死んだ漂の友人・信は、政の右腕となり中国統一の夢を掲げ、壮大な戦へ乗り込んでいく
「壮大な戦」が本当に壮大なマンガはあるようであまりない。絵の熱量や迫力とは裏腹にシミュレーションゲーム的でわかりやすい戦術が、知らず知らず止まらない作戦に突き動かされる雑兵たちへの感情移入を誘う。
信と共に仲間の名もなき兵たちが成り上がっていく様が快感です。
77.森薫『シャーリー』
メイド・シャーリーの日常。
ふぇぇ……シャーリー。
76.尾田栄一郎『ワンピース』
海賊王になると繰り返し叫ぶゴム人間の話。
新世界編に突入してから本当に話が把握出来なくなりましたが、50巻から61巻あたりまでの流れは娯楽性が天元突破していました。
75.アサイ『木根さんの1人でキネマ』
30代独身OL木根さんが、バツイチ同居人の佐藤を巻き込んで面倒くさい映画トークに華を割かせる。
『トクサツガガガ』のフォーマットで映画版。あまり木根さんの映画観には賛同できないのですが(一昔前の映画秘宝読者っぽさ)、映画語りと各話のあらすじがリンクして綺麗にオチへと繋がるので気にならない。
スレンダーなモデル体型の小学生ユカちゃんは、その実異様な大食漢。周囲の恋愛事情をひっかき回すことが大好きだが、特に責任は持たない。そんなことより腹が減る。
東村アキコの連載デビュー作にして最高傑作。お洒落なマンガを志したという当初の意図がユカちゃんのファッションに華を与えつつ、やっていることはひたすらナンセンスコメディ。
500年に一度開催される世界のシャーマン達の戦い、シャーマンファイト。勝てば世界のシャーマンを統べるシャーマンキングになれるその日に向かって、ゆるい主人公・麻倉葉と仲間たちの冒険が始まる。
この作品が完結すればもうトーナメントバトル物は誰も描けなくなるんじゃないかと興奮して読み続け、その興奮がピークに達した時に突然の打ち切り。
後日談じゃなく、時間的にそのまま地続きな続編が読みたいです武井先生。
子供の頃はキャラが覚えきれずに脱落したのですが、昨年一気読みしたら滅茶苦茶面白かったですね。
稀代の悪女・妲己ちゃんのキャラ造形すべてがツボです。
「本当にそれでいいのん? 太公望ちゃん」
すさまじい拾い物
閉鎖的な故郷・空守村を離れて東京での一人暮らしを始めた大学生・匡平の元に、空守村で神と崇められる「案山子」を操る「隻」の資格を持つ妹・詩緒が訪れる。それは、かつて村で惨劇を起こして幽閉された匡平の幼馴染・阿幾が脱走したことを伝えるためだった。
『いなり』同様、それなりに丁寧に作られたアニメがちょうど原作折り返し地点で終わり、もう1クールあれば綺麗に完結するのにという悔しさから愛着の沸くマンガです。
人類が謎の奇病に蝕まれ滅亡を待つのみとなった時代、選ばれし106名が隔離施設でコールドスリープにつく。しかし、目を覚ました彼らを襲う奇怪な巨大クリーチャー。生き残った者たちは、いつのまにかいばらで覆われた古城と化した施設で絶望的な逃避行を開始する。
日本のマンガ界隈、独特な絵柄や一点突破のアイデア物、あるいは雰囲気で押す作品が評価され易いのではという偏見を持っているのですが、個人的にはやまむらはじめ先生であったり岩原裕二先生であったり、絵柄もコマ使いも設定も物語も端正に整った作品のほうが惹かれます。
武器と戦争を憎む元少年兵ヨナは、武器商人ココ・ヘクティアマルのボディガードとなり、世界に武器を売り歩く旅に出る。
武器は嫌いだけど、ココは好きだ。
しかし、ココはどこかその行動の真意を隠しているようなそぶりを見せ--
タイトルでラストを示し、その言葉に説得力を与える為に逆算して置かれたエピソードをRPGのように辿っていく物語。それでいて、今となっては既にディティールは違っているだろう流動的な兵器世界のほんの一時期だけを切り取った刹那的な価値しか持たない。
とても尖った傑作。
亡くなった母親を蘇生させるため、禁忌の人体錬成に挑んだエルリック兄弟。その代償に兄エドワードは右腕を、弟アルフォンスは全身を「持っていかれ」、身体を器械で覆う鋼の錬金術師となる。それぞれの身体を取り戻すため軍属となった兄弟は、やがて巨大な陰謀の渦中にいる事に気づく。
端正に整ったマンガの最高峰なのでは。『封神演義』『ヨルムンガンド』同様、あらかじめ見据えられたラストに向かって綺麗に畳まれていく物語が気持ちいい。
公園でブランコを漕ぎながら、「キャップちんちん」って叫んで大爆笑していた小学校時代のクラスメイト女子2人(どちらも美少女)の姿を覚えてます。その時はまだ元ネタの本作を読んでいなかったので、「何その発想、ちんちん潰される、怖い」と青ざめました。
66.久正人『ジャバウォッキー』
絶滅を免れた恐竜は二足歩行に進化し、人知れず人類史の影で暗躍していた。
元英国スパイのリリーは、モンテ・クリスト伯をトップに頂く「イフの城(シャトー・ディフ)」に所属し、人類史の明日を救うために活躍する。
相棒にオヴィラプトルの末裔、サバタを従えて--
強烈な絵柄と端正な設定・物語とを兼ね備えた天才・久正人の世界。この方、何かのきっかけでFateか、あるいはアメコミ世界とのアプローチに成功すれば一気に爆発的人気を得ると信じているのですがどうでしょうか 。
日本最高レベルのエスパー少女・薫、葵、紫穂はチーム「ザ・チルドレン」として指揮官・皆本と共に日夜平和のため活動していた。彼女たちの前に立ちはだかるのは、エスパー軍団を率いる男・兵部。しかし兵部の目的は、薫たちをこそ自分たちのトップに据えてエスパーが人類に反旗を翻すこと。なぜなら兵部は実際に、とある能力によって「そうなる未来」を見ていたのだから--
長期連載の強みで、チルドレンや仲間たち、或いは敵たちが小中高と成長していく姿を見守れる親しみやすさ。スピンオフアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』から入りました。
地上を穢した人類は地表そのものを保護区と指定し、35000メートル上空に建設した巨大なリングの中で暮らしていた。上中下の層に分かれる格差激しいリングの最下層住人・ミツは、リングの外へ出る窓ふき職人の仕事を始める。
先輩に叱責されながらも危険な窓の外から地上を見下ろし、かつてここから落ちた父に思いを馳せるのだった。
柔らかい絵柄で優しさと厳しさの同居する岩岡ヒサエの世界が、ガッツリSFに挑んだ長編。階級社会の中で揺れ動き成長する少年の心模様に、どこかイギリスの青春映画を彷彿。
旅の行商ロレンスは、少女の姿に変身できる賢狼ホロと出会う。すでに超常のものは神話の中に押し込められている時代。ホロの正体をかくまいながら、時にホロの知恵や力を借りながら、二人はもう滅んでいるかもわからないホロの故郷ヨイツを目指し行商の旅を続ける。
ラノベのノベライズ作品の中でもビジュアライズの優美さと原作とのマッチングが最高峰。とにかく素直じゃないのにイチャイチャし合うロレンスとホロの、徹底した周りくどく含みを込めた台詞と思わせぶりな表情の乖離から生じる掛け合いの魅惑を、美麗な作画によってこれでもかと堪能できます。
どんな話でしたっけ、、、
『道士郎でござる』『天使な小生意気』『お茶にごす』とひたすら集中して読み切った時期がありました。西森先生の描くマンガ全般がとにかく好きです。登場人物全員すっとぼけてるし、絵柄はシンプルで、お話は抑制されてるギャグ漫画なのに、読んでいる間中ずっと胸が泣きそうにホロホロしている。
61.岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』
天狗信仰が未だ生き、事実天狗や天狗見習いが実在する町で、天狗の父と人間の母を持つ秋姫は普通の女子高生として恋に生きることを願っていた。そんな秋姫の日常を淡々と綴る。
狐につままれたようなまどろみの中にある日常。どこまでが狙いなのか、というか何を狙っているのか全然わからない。
割と序盤で「なんでそこで大ゴマになるの?」というわけのわからないシーンがありまして、ただそこでヒロインの気持ちとシンクロして不意に泣きそうになってしまった体験が強烈でした。
60.諌山創『進撃の巨人』
人類が「壁」の中に閉じ籠もっている世界。突如襲来した巨大な巨人たちによって母を食べられたエレンは復讐を誓う。それから5年。勇気ある兵士たちは壁の外に出て巨人の調査に向かうが、それは生存率極僅少な決死の作戦であった。
最初の数巻は正直何やってるのかもよくわからず、アニメ版で初めて色々把握できまして、そのあと時間差でじわじわハマりました。あれだけバラバラの出自を持つ104期兵が、ほんの一時期だけとはいえ肩を並べて同じ釜の飯を食べていたという、その刹那の青春群像劇がツボです。
不死身の男・水島が送られた最も死に近い地獄の部隊・パッパラ隊。
そこに蠢く常識外れの人間たちのオモチャとなった水島は、残念ながら死ねないので永遠に遊び倒されるのだった。
とにかく笑った記憶だけあって、そういう意味で『ボンボン坂』と同じ心の引き出しにしまってあるのですが、ではなぜランキングでこれだけの差がついたのかというと、さすがに50位以下はそのくらいの精度で適当に思い出した順に付けてるランキングだからです。
他者への好意を、自己の感情に反した攻撃的な感情で表現してしまう人格障害「ヨーゼフ・ツンデレ博士型双極性パーソナリティ障害(伊藤計劃命名)」俗称「ツンデレ」の患者・百舌谷さん。
ひたすら悪態しかつけない自分に嫌気がさしていた百舌谷さんのストレスのはけ口として、イジメられっ子の樺島少年は目をつけられ……
近年「発達障害」が認知されていく過程を見るにつけ、このマンガが描いていたものがジワジワ理解できてきた気がします。
『みつどもえ』のような身も蓋も無さと、『聲の形』のような対人関係の息苦しさが同居してリアクションに困る唯一無二のコメディ。
57.押切蓮介『ハイスコア・ガール』
90年代。ゲーセン通いに明け暮れる少年ハルオは、無口で孤高に研鑽を積み重ねる美少女ゲーマー大野に出会い、コテンパンにのされる。家庭の事情で鬱屈とした思いを重ねる大野にとってバカなハルオとの出会いは救いとなるが、やがて別れの時が訪れる。
90年代に小学生だったけれど、実際にゲーセンに通ったりはしていなかった自分から見ても「あぁ90年代の空気がここにある」と思える不思議。少年期の記憶とリンクしてること、ラブコメ要素がメインであることで、過激さに走りがちな作者の他作品と比べても抑制が効いてます。
花火で燃え上がったご神体を救い出したことから、突然超能力を得た少女・美空と5人の仲間たち、そして愛猫。
能力を得たとはいっても、あだちテイスト満載ののほほんとした日々を過ごす彼女たちの前に、悪意ある能力者が現れ--
完全に打ち切り作品で、膨れあがったワクワクはすべて行き場もなく霧散する羽目になるので読んでもいいことないです。まったくお薦めしない。ただ読んでいる間の期待感がとても大きく、今でもあだち充作品と聞くと真っ先に思い浮かべてしまう。当然野球もします。
タンバルンで暮らす赤髪の少女・白雪は、ラジ王子の目に止まり愛妾となるよう迫られる。自らの髪を切り国を脱出した白雪が出会ったのは、隣国クラリネスの王子ゼン。
ゼンに惹かれた白雪は、彼のそばで王宮薬剤師として力になるため、異国で新たな生活を始める。
ハイ・ファンタジーの少女マンガの中で、ここまで洗練された絵柄のタイトルはそうそう無いのでは。時に活劇、時に政治劇、時に架空の草花で架空の薬を調剤する実験譚。
どう考えてもゼン王子といるよりボディガードのオビと過ごしている時間のほうが長いし彼との信頼関係のほうが素敵なのに、恋愛関係には発展しそうにない加減に身悶えです。
54.小川麻衣子『ひとりぼっちの地球侵略』
高校入学の朝、仮面をつけた少女に命を狙われる広瀬岬一(こういち)。少女は先輩の大鳥希。かつてこの町を宇宙船団が襲撃した際、自分の心臓をあげることで岬一を助けた異星人だというのだ。
やがて岬一は、ずっとひとりぼっちだった大鳥先輩の地球侵略に手を貸すこととなる。
漠然としたイメージと偏見ながら、サンデーの歴史をぎゅっと凝縮してスマートにしたような作画世界が目に優しい。かと思うとそこで起こる展開にはギョッとするような瞬間が多々含まれていて、何より大鳥先輩の感情がどこまで人間のそれと同じものなのか判断のつきづらい冷めた距離感もある。
詳しくはさいむさんのブログへどうぞ
53.桜野みねね『まもって! 守護月天』
一人暮らしをしていた少年・太助のもとに、中国を旅する父親から届いた贈り物・支天輪。中から現れたのは中国の星神を司る女神・守護月天シャオリンだった。シャオにとって平和な日本は己の居場所ではないような気がしたが、無欲な太助が何よりも寂しそうに見えて、居座ることを決意する。
美少女マンガの体裁を持った少女漫画。
シャオがいなかったら二次元美少女に興味を持たなかったと思います。
52.手塚治虫『ルードヴィヒ・B』
ベートーベンを憎む少年フランツの目線から、激動の西洋史とベートーベンの生涯を並行、そして絡ませながら描こうとしていた巨匠の遺作。
文庫本にして2巻で終わってしまう未完の作品なのだけど、こんなにも傑作の予感だけを滾らせた遺作があるだろうかという。読者の数だけ実際の史実と照らし合わせてオリジナルな「続き」を想像できる愉しみもあります。
51.くらもちふさこ『駅から5分』
花染町に住む人々の交錯する人間模様。
オムニバスなのだけど、各エピソードが割とがっつりリンクしていて、さらにスピンオフマンガ『花に染む』も続刊中。拡がりのある『それ町』。
お母さんが並んで買ってきたお弁当を家族は「いやいきなり買ってこられても予定あるし」と遠慮するのだけど、色々あって「やっぱ食べようかな」となる話が好きです。
50.こうの史代『長い道』
親が酒の席で勝手に決めた結婚。
遊び人の夫と、特に惚れている風でもないのにやけに貞淑に尽くす妻。
そんな夫婦の日常を時にほのぼの、時にシュールに綴るコメディ。
戦争の一切関係ないこうの史代作品ですが、才気迸ってます。
逃亡中の青年シンタローが流れ着いたのはパプワ島。島に住む唯一の人間パプワ、人語を話す生物(ナマモノ)と呼ばれる奇妙な動物達との交流を経てすっかり島に馴染んだ彼を、ガンマ団の変態刺客たちがつけ狙う。
たった7巻なんですね。子供の頃好きだったマンガを調べてとにかくどれも巻数が少ないことに驚きます。でも決して過不足は無かった。
革ジャン着たジャン似合わないジャン。
80年代、大阪の芸術大学。
自信と誇大妄想に満ちた漫画家志望だったりアニメーター志望だったりする熱血漢・ホノオモユルが、ライバルの庵野秀明が脚光を浴びていく過程を横目に、ただ売れたくて、チヤホヤされたくて、褒められたくて、でも楽がしたくてあがく青春物語。
笑えるけれど嘘がない。誠実に青春という季節の錯覚を描いている傑作。水島努監督でアニメ化希望です。
47.コトヤマ『だがしかし』
田舎町の駄菓子屋の倅・ココノツの前に現れた、異様に駄菓子に詳しい女・ほたる。
ほたるはあらゆる駄菓子うんちくを披露し、いやがるココノツに駄菓子屋を継がせようとする。
うすた京介感がハンパない絵柄で、それでいて田舎と駄菓子がテーマ なので懐かしさの相乗効果。うすた絵が隠し味として持っていた叙情感を殊更にピックアップしていて、甘酸っぱさでコーティングする。
ユートピアにも地獄にもしない田舎の在り様も好感です。
知りたがりのぼのぼの、いじめっ子のアライグマくん、いじめられっ子のシマリスくんを中心とした動物たちの思索コメディ
1ケタ台の巻はまだ大人向けで淡々とし過ぎてるのですが、エンジンがかかってから本当に面白くなって繰り返しアニメ化できるようなポピュラリティーを獲得していきます。
ところで某キャラクターがある時を境にいきなりいなくなるのですが、「食べられてしまった」とも「家出した」ともとれるのでどっちなんでしょう。前者をやってしまったような気がして今でも怖い。長いこと読んでないのでしれっと再登場してる可能性もありますが。
お嬢様学校の憧れの生徒会長・マキは、おしとやかに振る舞いながら内面は恋愛への興味でいっぱい。やがて学校随一の男らしさで有名なリコを巻き込んで恋愛ラボをスタートさせ、的外れな事前練習を繰り返していく。
と、いうだけの初期のあらすじならば大してハマらなかったと思うのですが、女の子だけできゃっきゃと恋愛の練習をしていると、次第に主要人物それぞれにお相手となる男の子が現れて--という展開が、なまじ最初はジャンルが違っただけに、そこいらの少女マンガを軽く吹き飛ばすインパクトとときめきがあります。
伐採された地元の神木を使って、美術部用の木像を造っていた少年・仁。彼の目の前で、木像は美少女なぎに変身する。自分を堂々神様と呼んではばからないなぎに振り回されながら、仁は次第に思春期に突入し、面倒臭い「自分探し」に囚われ始める。
これも『いなり』や『神様ドォルズ』同様、特別なことはしてないけれど非常に端整に丁寧に描かれたストーリーマンガになっているので、もっと評価されてほしいなと思っている作品です。
43.西原理恵子『鳥頭紀行』
サイバラのルポ漫画だと『できるかな』でもいいのですが、最初に出会ったのがこちら。
今では残念なことになってしまったサイバラ漫画、振り返ると高須とか勝谷とかろくでもない奴ばかりイチ早く登場していましたが、実際ろくでもなく描かれているので嘘はなかったですね。
まだ鴨ちゃんの存在がスパイス程度でしか無かった頃が一番好きです。
42.施川ユウキ『バーナード嬢。曰く』
学校の図書室。一昔前の流行本を読むのが好きな遠藤、シャーロッキアンの長谷川、面倒臭いSFファンの神林を前に、なるべく本を読まずして読書ぶりたい町田さわ子が独自の持論を展開してはツッコまれる。
『サナギさん』の頃からファンだったのですが、一方で一番メジャーな匂いのする『サナギさん』でブレイクしないならもう無理だよと思ってた施川先生まさかのブレイクを呼んだビブリオギャグ漫画。
本が読みたくなります。
41.奥浩哉『GANTZ』
異なる場所で死んだ者たちの魂(或いは生体データ)を呼び寄せ、謎の異星人との戦闘を強要する黒い球体GANTZ。容赦のないデスゲームの中、参加者の胸に去来する思いとは。
不条理を可視化することで現実という最大の不条理を物語化する。オチがどうとかどうでもいいんですよ、ただ不条理にさらされた人が「なんとか言えよガンツ!」って叫ぶことで読んでいるこちらが救われる。評判の良かった『GANTZ:O』ですが、どうもここら辺のテーマを英雄譚に矮小化してしまったように感じて個人的には微妙でした。
「女の子みたいになりたい男の子」二鳥、「男の子みたいになりたい女の子」高槻、そして「みんな死ねばいいけど二鳥くんは私のもの」な女の子・千葉さおり。3人を中心に、自身の性に揺れ動く子供たちの成長を描く。
決して過激さに走らず淡い世界で描かれる、明確な区分さえ不明瞭なジェンダーのあれこれ。を、抜きにしても、どこかでこんな日々を過ごした子供たちが確かにいると信じてしまう不思議なリズム。
『青い花』も好きです
長雨で多くの仲間を失うも、生き残った昆虫たちと仲良く暮らしていたミツバチのバズ-。しかしスズメバチの襲撃から逃げ延びたミツバチが死の間際に託した「オーダイ」と呼ばれる謎の卵を手にしたが為に、わずかな仲間たちもスズメバチに惨殺されてしまう。
オーダイをミツバチのコロニーに託すため、バズーとスズメバチとの壮絶な戦争が幕を開ける。
つの丸先生最高傑作。本作が打ち切られ、テニプリやらNARUTOやらが人気になっていく様を見て少年だった自分は少年ジャンプを読むことをやめました(今ではNARUTO好きですが)。
単行本は加筆されて綺麗に完結しています。
38.うすた京介『セクシーコマンド―外伝 すごいよ!マサルさん』
本伝がどこにあるのかわらかないセクシーコマンド-の外伝。
わかめ高校のセクシーコマンドー部(ヒゲ部)に入部したフーミン(げろしゃぶ)は、部長の花中島マサルら怪しげな仲間たちと共に、セクシーコマンド-大会進出を決める。
『王様はロバ』とか『うめぼしの謎』とか『クマのプー太郎』とかもろもろ不条理ギャグを代表して。マサルさんのインパクトが大きすぎたためか、『ジャガー』の時にはもう笑えなかったし『ボーボボ』とか『銀魂』のエリザベスとか「まだこんなことやってるの……」となってしまいました。
37.天野こずえ『ARIA』
テラフォーミングされ水の惑星となった火星、アクア。
地球のヴェネチアを模したネオ・ヴェネチアで、ゴンドラ漕ぎの水先案内人・ウンディーネを目指す水無灯里の穏やかな日常を、魅惑の美景の数々と共に綴る。
最初に『AQUA』が2巻あって、その続きが『ARIA』シリーズ。
とにかくどれだけこの理想的な世界(実際に人類が理想を造形したと思われるので無理のないユートピア)に浸れるかで、現在発売中の新装版よりは、涼しげな表紙絵の数々がより多く楽しめる元の単行本のほうが良いような気がします。
パソコンで好きなことを検索して駄弁るだけ。そんな情報処理部でやくたいもない会話を繰り広げるゆずこ、唯、縁の日常。
4コマ漫画のフォーマット、「フリがあってオチがあって読者を笑わせる」がここにも当たり前にあるようで、やがて無いような気がしてくる。
この子たちはただお互いを笑わせるために会話していて、読者なんて知らない。
だから読者(4コマ目)よりも前に笑い出したり、何が面白いのか読者にはわからないようなポイントで4コマ目を迎えて、本人同士だけで吹いたりする。
ひそかな時間。
35.芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』
人類が衰退し、おそらく今も衰退し続けている夕凪の時代。
ロボットのアルファは、一向に帰る気配のないオーナーを待ちながら喫茶店「カフェ・アルファ」でわずかな客を相手に商売を続けていた。
ロボットであるアルファを置いて、客たちの年月はあっと言う間に過ぎ去っていく。
世界が滅びようとロボットは残されると考えるとなかなかに悲しい気もするのだけど、まぶされた様々な要素がうまいこと悲観から読み手の心情を切り離してくれる。
マンガのベストを選ぶぞと思ったあと、読み損ねた思い残しのある作品でなんとか読めたのが『エマ』と本作でした。
34.ゆうきまさみ『機動警察パトレイバー』
「汎用多足歩行型作業機械「レイバー」があらゆる分野で活用されるようになった時代、警視庁は対レイバー専門部署・特科車両二課中隊を発足させる。
パトレイバーの誕生である。
マンガ版と劇場版アニメ3作しか知らないという、偏っているけど多数派な接し方をしてきました。『踊る大捜査線』の元にもなった、特別な事件ありきではない公務員としての警察官の日常。
本作によって、「作品内リアリティ」を堅持する作品が好き、という性癖を鍛えられた気がします。
先日完結した最新作『白暮のクロニクル』も大傑作です。
33.鬼頭莫宏『ぼくらの』
夏休みの自然学校で謎の男と出会った15人の少年少女。
巨大なロボットに乗って異星人を倒す使命を託された彼らを待ち受けていたのは、冷酷にも程がある「ルール」だった。
アニメ版から入ったので、設定のショッキングさ含めインパクトを与えてくれたアニメ版が世間で言われてるほど嫌いになれない、というかアニメ版の主題歌を原作にフィードバックしてるんだから原作ageてアニメ版sageるのおかしいと思うんですよ。
アニメ版も大好きだぞと。
碁盤に宿る平安の天才棋士・藤原佐為の霊につかれた小学生・進藤ヒカルが、日本棋界に頭角を現していく物語。
『あやつり左近』でその美麗な作画に惚れた小畑先生の絵を眺めているのが楽しくて、最後まで囲碁のルールはわかりませんでした。
小学校時代、囲碁のために親元を離れ引っ越してきた天才少年が友人にいたので、非常にリアルに感じられたり(でもルールは覚えない)。
美少女キャラが本当に美少女なのに扱いがよくないのでもだもだしました。
未だに佐為が男性という事実が受け入れられない。
『いなり』のうか様って佐為の女性版ですよね。
一作家一作品の縛りから反則的に逸脱してますが、こっちも。
30.大島弓子『夏の夜の獏』
羽山走次の家に、青年は彼一人。家族で食卓を囲んでも、彼以外は子供だらけ。
実は彼は8歳なのだが、彼の目には人間が精神年齢の姿で映るのだ--
表題作も傑作ですが、トータルとして大島弓子の短編はどれも凄いぞと。
恐らくいつ読んでも古びることは無い。
29.貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン』
父さんがいきなりこれに乗れとかいうから僕はふざけんなと思いました。
健全なエヴァ。というと語弊があるけれど、色々な細部がくっきりした、勿論謎も多く残しつつ、ドラマとして不明瞭な部分はない、キャラの感情線に寄り添った丁寧なコミカライズ。
アニメ版より好きだったりします。
28.秋☆枝『恋は光』
大学生・西条は昔から人の周囲に奇妙な「光」が見えたので、それは人が恋をしている時に発する現象なのではないかと仮説を立てる。
そんな西条に向けて光を発するのは、恋とは何かしらとまだ理解していない天涯孤独の東雲嬢と、人が気に入っている男性をつまみ食いしてしまいがちな宿木さん。
ーー彼女たちは、俺に恋をしているのだろうか?
最近一番ハマったマンガです。
理想的なキャンバスライフの空気感と、誰も厭味にならないヒロイン3名の配置が絶妙。
完結まで残り僅か 追いつくなら今です。これは素直にお薦めです。
やたら声がデカくて底抜けに明るいアシベ少年と、彼が拾ったゴマフアザラシのゴマちゃん、そして彼らを囲む人々の日常。
『アシベ』もいいのですが『ここだけのふたり!』が大好きでした。
森下作品ほどキャラの立った4コママンガは他に思い浮かばない。
頭ひとつ抜けてると感じます。
有名マンガのあらすじをわざわざ書くという作業とても疲弊します。
なかなか強烈な残酷表現が長いこと続きますが、ちゃんと各章終盤のカタルシスがその不快感を浄化して感動にさえ持っていってくれるので、いつも最後に残るのは清々しさ。
最新刊、これ本当にベルセルクかってくらい可愛い絵柄で、登場人物もみんな楽しそうなのに、何十年もこの旅に付き合ってきた読者だけが「おいやめてくれよ、それは心が壊れるぞ(ガッツの)」と最悪の想像をしてしまう仕掛けが凶悪過ぎて思わず笑顔です。
荒涼とした砂漠の星。ラブ&ピースを掲げる賞金首ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、殺さずの一念を胸に、自由闊達に賞金稼ぎの数々を打ち倒していくのだが・・・・・・
まず『トライガン』が2巻あって、雑誌休刊によって『トライガン ・マキシマム』に続く『ARIA』と同じ展開を持った作品。
最初のノリ、もしくは『血界戦線』から入った人からすると戸惑いしかないような重苦しく切実な展開が後半に待っていて、ここまで真摯に「ラブ&ピース」を追求した物語があっただろうかとなります。
アニメ版も傑作ですが、あちらはほぼオリジナル。
24.ヤマシタトモコ『BUTTER!!』
ヒップホップダンスに憧れる夏が入部したのは、社交ダンス部。
勘違いからの入部とはいえ先輩たちの格好良いダンスに惹かれる夏だったが、共に入部したオタクくさい男子・端場はいつもブツクサと愚痴と言い訳ばかりして、夏の苛立ちを募らせていく。
コミ障な人間のコミュ障なしゃべり方をずっとビビッドに描き続けて、そのあやふやな言葉でちゃんと物語が進行していくのだから凄い。
ファレルかアッシャーか忘れたけど、たまたま夏が聴いてたMPプレーヤーの曲に合わせて最初にステップを踏み出す瞬間の、マンガにリズムがついて絵が動き出すかのような錯覚は忘れられません。
完全に頭のおかしい高校生カオルは、水泳部女子ソノコに一目惚れ。ソノコに呆れられながら一途なアタックを繰り返し、混沌と混乱と狂熱がカオルと一緒にいく うぅ うぅ うぅ
甲本ヒロトと真島昌利が張り付いていそうなヒリヒリ夏の匂いがするストーカー漫画。
原作のテンションを完全に反転させた実写映画も良かったです。
陽性の青春譚を描かせたら望月先生が一番だあと思ってます。
22.井上智徳『COPPELION』
わずかに残る痕跡から推測される生存者たちを救出するため、日本政府が派遣したのは放射能耐性を持つ遺伝子操作で生み出された子供たち・コッペリオンだった。
もはや過激でもなんでもなくなってしまった基本設定の切実さを見失わないまま、どんどんアクションが荒唐無稽化していき、最終的に世界各国の恐竜ロボットと各種超能力者たちが廃墟東京を舞台に壮大なバトルロイヤルを繰り広げる。
おそらくこれ以上続いたら破綻する寸前で綺麗に完結した点も含めて、もっと評価されてほしい傑作。スタジオカラーによる完全アニメ化を希望したりしてます。
「魔王がいる世の中に生まれたお前は幸せだ!」
父親の滅茶苦茶な言い分によって、無理やり冒険に放り出された少年ニケ。
彼が出会ったのは禁断の魔法「グルグル」を操る少女ククリだった。
子供の頃にこういう漫画を読めたことは本当に幸せだったなといえるシリーズ。
終盤すごくグダグダしたまま終わってしまった悲しみをずっと引きずっていたので、今になって新装版が出たり続編が始まったりオリジナルがアニメ化されたり(!)、ありがたいです。
20.冨樫義隆『レベルE』
SFオムニバス
未読の方の為にもこれあんまり設定バラしちゃいけないのかなと。
『幽遊白書』でもいいんですけど。
というかどう考えても『幽遊白書』のほうが好きだし思い入れあるんですけど。
ただ本作との出会いのお陰で、どれだけ新しく多くのシワを脳みそに刻めたか。
19.乃木坂太郎『幽霊塔』
100年以上にわたって、特に日本で、繰り返し翻案されてきたタイトル『幽霊塔』の最新型がマンガの姿をして現れた。
昭和29年、高校時代のマドンナと再会した文士崩れの天野は、うだつの上がらない現状を打破するため、美貌の少年テツオの誘いに乗って「時計塔」の謎に挑む。
ミステリ、ジェンダー、怪奇、猟奇、エロス、様々な語り口から評されるべき意欲作なのだけど、すべての要素が耽美的なビジュアル世界の中で綺麗に収まっている客観的完成度の高さに見惚れます。
18.浦沢直樹『MONSTER』
86年、チェコ。天才脳外科医・テンマは瀕死の双子を治療し、その命を救う。
10年後、殺人犯としてテンマの前に現れたのは、あの日救った双子の少年ヨハンであった。
ストーリー漫画の一つの金字塔ではないかと。
大作の常として終盤でこぼれ落ちるものが目立ちがちだけれど、とある村の中で起こる事件に集約させた手口は鮮やか。
ボードレールを読み耽り、自分は特別なのだという自意識の塊であった中学生・春日は、出来心から憧れの佐伯さんの水着を盗んでしまう。
その姿を見ていたはぐれ者の女子・仲村は春日を脅迫し、いいように操っていく。
翻弄される春日の心に、徐々に薄暗い悦びが芽生えはじめ……
スキャンダラスな導入から、最終的に地に足の着いた非常に切ない終幕へ。
社会から異端扱いされる者たちが本質的に儚く弱い存在であることを仲村さんを通じて描ききった作品で、もう春日とかどうでもよくなると言っては暴論でしょうか。
美少女ゲームの神・桂木桂馬は本当の神と勘違いされ、小悪魔エルシィに駆け魂(脱走した古い悪魔)討伐のパートナーに任命される。桂馬はギャルゲ-で培った知識(?)を元に、駆け魂にとりつかれた女の子たちを「攻略」することで悪魔を捕まえていく。
単純に余白が多いのに綺麗に整ってる漫画のスタイルが非常に好みなのですが、それ以上に読了後全体を振り返った時の構成が綺麗過ぎてゾクゾクする。
オムニバス風に始まる物語が、そのオムニバス部分も含めて綺麗に折りたたまれる。
どんなマンガも作者の構想通りに描き切れたら、こんな綺麗な全体図を持てるのだろうかとか考えます。
小学校に転入した聴覚障害者・西宮硝子は、次第にクラスで浮いた存在となる。
好奇心旺盛なガキ大将の石田将也は率先して硝子をいじめるが、いつしかイジメの矛先は自分に向けられ--
テーマはイジメからスライドしてコミュニケーションの終わらない難題へ突入していくのだけれど、きっとどう描いても誰もが納得のいく回答などない話。
そこであがく人々をどれだけそこに懸命に生きている存在として描き出せるか。
最終巻のファミレスのシーンで、どうしようもなくこの子たちは今もどこかの街角に生きている、そう思えた瞬間の感銘がすべてです。
寄稿しましたこちらの批評誌も宜しくお願いします。
アニバタ Vol.16 [特集]聲の形 | アニメ・マンガ評論刊行会
14.市川春子『25時のバカンス』
天才海洋学者の姉と、カメラマンの弟。弟は幼い頃の怪我で目が赤く、姉は新発見の海洋生物を身体に宿している。秘密を抱えた二人を包む海辺の研究所は、やがて世界の異変にさらされていく。
短編集2作目。1作目含めどれも面白いのですが、本巻の表題作がちょっと圧巻ではないかと。明確な物語があるようでなく、でもないようであるテーマはエロティックでルナティック。すべてのコマが世界の欠片として機能している。
サブカル受けする漫画とはどうも性が合わないのですが、本作は別でした。
オリヴィエ・アサイヤスに映画化して欲しいんですよね。
オタク趣味を隠れて愉しんでいたような笹原は、大学入学後オタクサークル「げんしけん」に入り、オタク趣味全開で生きている人間たちにカルチャーショックを受ける。
そんなげんしけんに、イケメン幼なじみを追いかけてきた完全にオタクと真逆の女・春日部さんが入部したことからオタクたちに動揺が走り・・・・・・
気づけば長大になってしまったオタククロニクル。
大学経験が無いので、本作を通して仮の大学生活を過ごせたような気がします。
春日部さんが好き過ぎて、最近のアニメに出てくる「オタク趣味に理解のある美少女」がとても苦手になってしまうという後遺症が。
12.今井哲也『ぼくらのよあけ』
今と見える景色も起こる問題も大差ないけど、AIロボットが日常化した近未来。
小学生ゆうまのお世話をするオートボットのナナコが、ある日異星人にのっとられてしまった。
魅力的な団地を舞台にした、生活感溢れるSF譚。
上下巻というボリュームも程佳く、こんな風に映画一本かテレビ1クールで終わりそうなサイズの話を、作者の思い描くとおり描ききれるマンガがもっと読みたいです安西先生(百万畳ラビリンスしかり)。
少年誌とかも積極的にそういう試みしてほしいです。
今や死語の子役アイドル「チャイドル」として売れっ子小学生の紗南は、今日もテレビで学校で大騒ぎ。しかし、気づけばクラスをいじめっ子の羽山が支配し、先生さえ脅迫を受けていることに衝撃を受ける。
紗南は羽山に宣戦布告するが、羽山は悪魔のような小学生だった。
それぞれに過酷な過去を抱えた子供たちの衝突。ただ悲嘆にくれるのではなく、自分の立場を武器にした機転を利かせていく紗南の強さが魅力的。子供時代を生き抜くということがどれだけ綱渡りであるか、『惡の華』『聲の形』と併せて読みたさです。
百年戦争最中のフランス。
自分の目につく範囲で争いを見たくないマリアは、魔女なのにサキュバスを使って平和を導こうとしていた。しかし人の世に介入したことで大天使ミカエルの怒りを買ってしまう。
作者はいつもシニシズムへの怒りのようなものを、遙か斜め上のユーモアでくるむことで描いてきた人だと思っていて、その意思が一番ストレートに表明された作品ではないかと。
アニメ版さあー、あの台詞はみんなに向かって叫んでこそ気持ちいいに決まってるのにさあー、どうして改変したのです……
人類が宇宙開発を進めた未来 宇宙にはスペースデブリが溢れていた。
サラリーマンのハチマキはデブリ回収業に従事する傍ら、いつか自分の宇宙船を持つ夢を持っている。
しかし今も続く地球の問題の数々はそのまま宇宙にも影響を及ぼし・・・・・・
夢の先にある現実。というテーマ性をビジュアルとして提示した4巻部分が苦しく胸に迫って、実は傑作であるアニメ版ではそこまで映像化していないので、どちらも併せて触れて頂けたらと思っています。
横浜に遊びに来た少年・八坂一は、喫茶店のウェイトレス・小夜子に一目惚れする。
しかし一が小夜子に触れた瞬間、2人は何十年も昔の日本にタイムスリップしてしまう。
それは小夜子が生きていた時代。そう、彼女は幽霊だった。
幽霊、タイムスリップ、喫茶店。少し古風なお膳立てのもと繰り広げられるドタバタコメディは、やがて生前の小夜子を襲った死の影ーー横浜大空襲の日へと近づいていく。
ほとんど詐欺じゃないかというくらい壮絶な展開を迎えるマンガですが、本作と非常によく似た構成を持つ『この世界の片隅に』が受け入れられた今こそ、改めてスポットが当たらないものですかね。
7.岩永亮太郎『パンプキン・シザーズ』
大きな戦争が終わって3年。これは目に見える戦争が終結して尚社会に、人々の心に残り続ける戦火の終わりに向き合おうとする、戦災復興部隊パンプキン・シザーズの活躍を描いた物語。
限りなく1位に近い7位です。現在進行形で連載中であることと、物語の着地点がどこにあるのかまだまだ見えないことから、現時点で評価を確定するのは勿体ないと感じてここに置いてみました。
このランキングはお薦めが目的ではないと言いつつ、もしこれから手に取る方があれば「カルッセル編まで読んでください」とだけは涙ながらに訴えたい所存。
旧日本軍がタイに放置した軍港は、今や世界中の無法者が集まる犯罪都市ロアナプラとして悪名を轟かせていた。会社に命を見捨てられた日本人商社マン・ロックは、自らを誘拐したラクーン商会の一味となって、狂った日常に身を投じていく。
まだまだ全体像が見えたというには早そうなパンプキンシザーズとは逆に、ロベルタ復讐編で全体の構成が綺麗に見えたような気がして、それがまた具体的に市街戦の描写の中にビジュアルとしても提示されている様が圧巻でした。
5.相田裕『ガンスリンガー・ガール』
ありえたかもしれないもう一つのイタリア。地域間対立による半ば内紛状態が続いた国家で、政府は身体や精神に障害を負った少女たちに特殊な義体と暗殺の技能を仕込んでいた。少女たちは頑丈さと引き替えに寿命を、そして日に日に薄れていく記憶を失ってしまう。
胸糞の悪い設定ながら、露悪的にはならない繊細なバランス感覚によって、目を背けていたい辛い話にずるずる引きずり込まれていきます。読み終えた時の、哀しい筈なのに充実した余韻が忘れられず。
小学校に編入してきた新に感化され競技かるたを始めた綾瀬千早。やがて新と離れ、高校に進学した千早は、そこで競技かるた部の設立に燃える。
千早に思いを寄せる太一。福井でかるたを諦めようとしていた新。そして現役女子高生のかるたクィーン・詩暢。多くの出会いが、 千早を最強の道へと突き動かす。
色々なイメージがついてしまった今となっては想像が難しいのですが、まだ映像化が果たされる前、最初期の本作を読んでいる時の、静謐な空気がピンと張り詰めて、一切の雑音を排した中でコンマ数秒の動きが勝敗を決する緊張感は、他に類を見ないものでした。
クラス全員美少女! 突然30人もの女子中学生の担任教師となることになった、新米魔法使いのネギ少年。とある目的と魔法の存在を秘匿しながら、なんとかお色気ハプニングだらけの毎日を乗り越えていくネギだったが、次第に生徒たちの中にも不思議な存在が紛れていることに気がつき……?
手前にあるお色気サービスでお茶を濁しつつ、背後に広がる舞台や設定や展開の何もかもが壮大なスケールを持っていて笑うしかなくなる。最終的に処理しきれなくなるのだけれど、少なくとも学園祭編だけは完璧に巨大なスケールの物語を描ききっていて圧巻。
続編の『UQホルダー』もまた要素と設定を詰め込みすぎて全然処理が追いついていないのですが、それでもこれだけ徹底した異世界へと誘ってくれるだけでフィクションとしては文句なしです。
麻帆良学園祭編の完全映像化が悲願です。
あらすじ書こうとwiki覗いたのですが、待ってください「北海道編」? が予定されている……?
技の真似をしたし、女性キャラにも男性キャラにも憧れたし、食べ物が美味しそうで、キャラが所持しているものが欲しくて、コマの一つ一つどれだけ眺めても飽きませんでした。
必殺技を食らって死んだり潰れたりしている悪役の顔すら魅力的で見入るという経験。
少年時代の大切な思い出。
言わずと知れた劇場用アニメの、監督本人によるマンガ版。
映画で描かれた箇所はこちらだと序盤に過ぎず、『スターシップ・トゥルーパーズ』を先取りしたような凄惨な戦争描写や、一転して思索的な心象世界へ等、ダイナミックな叙事詩が綴られていく。
作者本人も認めているように、特に序盤は日本のマンガの文法としては非常にいびつ……らしいのですが、いや個人的にはまったくそんな違和感は覚えませんでした。
コマの隅々まで眺めて、生理的にぞわあっとなる気持ち悪さがたまらない。
上位30タイトルくらいまでならどれが1位でも良いのですが、収まりの良さとしては『ナウシカ』が一番でした。
現場からは以上です。ここまでお付合い頂き、ありがとうございました。