久々の映画の採点

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アニメ映画、配信オリジナル映画を別枠としたので、ストックが溜まらずだいぶ久しぶりとなりました。

ではでは。

 

アクエリアス

【評価】A

【監督】クレベール・メンドンサ・フィリオ

【制作国/年】ブラジル/2016年

【概要】美しく色彩豊かなブラジルの海辺の都市レシフェ。どこを切り取っても絵ハガキのような世界で、アパート・アクエリアスに一人暮らすクララとこの部屋の歴史、そしてアクエリアスからの撤去を望む建築会社とクララとの水面下での熾烈な駆引きが描かれる。

【感想】

 あらすじは二の次で、カメラワークのマジックで境界線を容易に融解させる撮影、場の亡霊のようでもあり世界の主人公でもある人間の存在感、唐突な音楽の祝祭性、ドキュメンタリックな芝居の計算(アドリブではなく意図的に自然な瞬間を創出して入れ込んでいると思う)、1シーン毎にフレッシュな演出が引き込んでいく。

 その裏で表だって語られないアパートを売る/売らないの心理的な駆引きが蓄積していき、ラストに怒濤の決着へもつれこむ。ユニークなタイミングで挿入される「若き日々の愛の営み」なシーンで、女性の快楽がピークであろう性行為を思い出してるのもさりげに新鮮(従来なら男性主体のセックスがインサートされていた筈なので)。

 新年一発目に面白い映画を観た。

 

復活の日

【評価】A

【監督】深作欣二

【制作国/年】日本/1980年

【概要】米ソ冷戦の最中、極秘兵器として開発されていた新型ウィルス「MM-88」が各国の思惑の渦中に置かれていた。しかしこれを手に入れたマフィアがアルプス上空で飛行機ごと爆発。かくて「イタリア風邪」と呼ばれる新型ウィルスの猛威が世界を襲う。生き残った人類は南極極地に僅か。米国大統領は彼らに一縷の望みを託そうとするが……。

【感想】

 これを最初の東京オリンピックの年に書いていた小松左京が凄過ぎるでしょ。そして当然発売後十数年映画化は頓挫していたものを、金に物を言わせて国際的合作かのような大作に仕立てた80年代角川の勢いも。各国の登場人物が行き交い、日本は滅び行く描写のみ(しかも凄まじいスピード滅びる)と不思議なほどナショナリズムから距離を置いてるのはクリエイター達のクレバーさか時代の余裕の成せる技か。知人の子供と死にゆく多岐川裕美のジャンプショットのなんて潔さ。最後の最後にキリスト映画みたいな野暮ったい宗教画になるのも躊躇がなくて良い。

 どうしても南極基地での女性の扱いにグロテスクさは感じるが……。

 

『こおろぎ』

【評価】C

【監督】青山真治

【制作国/年】日本/2006年

【概要】お蔵入りとなっていた青山真治の作品が「幻の映画復刻レーベルGIG」に発掘された陽の目を浴びた形。脚本は岩松了。盲目の初老の男の世話をすることで必要とされる歓びを感じていた女。そこへ浮ついた若い男女のカップルがちょっかいを出し始め、初老の男の真の正体を匂わせてくる。それは……。

【感想】

 「まぁお蔵入りされるだろうな」という独りよがり感は否めず、洋画では自然な地域コミュニティとしてのソシアルクラブ的なバーがまったくもって不自然にしか見えず(不自然に見せてるのだが)、そのことが他の場面と大した結びつきを持ててない時点で全然ダメ。話としては『ゴールデンゴールド』を少し思わせると言ったらネタバレか。

 そんなことより「幻の映画復刻レーベルGIG」の存在を知れたことが大きい。確かにここ数年「あんなに気になってたのに見る機会の無かった邦画」がちょくちょくレンタルビデオ屋に置かれてて「あれ?」とはなってた。そういうことだったのか。

 

『アップグレード』

【評価】

【監督】リー・ワネル

【制作国/年】アメリカ・オーストラリア/2018年

【概要】交通事故に遭った後暴漢たちに襲われ妻を喪い、自身も四肢麻痺に陥ったグレイ。そこへ天才エンジニアのエロンが訪れ、グレイに高性能AIチップ「STEM」を埋め込む。STEMの力を借り体を自在に動かせるようになったエロンは、あの夜の暴漢たちに復讐を開始する。その超人的な力が辿り付く事件の真相とは……。

【感想】

 昨年のマイベスト第一位『透明人間』リー・ワネル監督作。「AIチップによって自分の体を動かす」というSF要素を、純粋にカメラが主人公と共に機械的に角度を変える、という技巧で納得させる。「アイデアでギミックを成立させる」点『透明人間』と重なり、このままずっとリー・ワネルには低予算映画を撮ってて欲しいと思ってしまった。

 

『サイトレス』

【評価】A

【監督】クーパー・カール

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】何者かに襲われた最後の記憶を瞼に残して失明したバイオリン奏者エレン。華やかな過去を持ちつつも今は身内は日本におり、頼りになる者はいない。介護士のクレイトンは優しくも厳しくエレンの面倒を看ることになる。そんな日々の中、聴覚が研ぎ澄まされてきたエレンは「毎日マンションの表通りの車が同じ時間にアラームを鳴らしている」と気付き……。

【感想】

 何言ってもネタバレになってしまうし、冷静に振り返ると細かい辻褄は合ってないというかやや強引な真相ではあるのだけれど、多少の粗を抱えつつも「映画という媒体が持つ特色」を見事に物語の芯に据えて、そのアイデア一本勝負で出来ているので嬉しくなってしまった。前半「この監督、こういう部分捉えるの上手いな」と感じた部分がそのままズバリこの映画の罠だったので「もお~」ってなる。

 

夏をゆく人々

【評価】A

【監督】アリーチェ・ロルヴァルケル

【制作国/年】イタリア・スイス・ドイツ/2014年

【概要】トスカーナで養蜂工場を営む一家。粗野で無骨な父、そんな父に愛想を尽かしつつある素振りの母、そして四姉妹。どこか世間と隔絶した閉鎖世界で生きる長女ジェルソミーナは、エルトリア古墳も埋まっているこの田舎の伝統に目をつけたテレビ番組との接近、少年院から更生プログラムとして訪れたドイツ人少年との出会いなどを通して、この日々に微かに居心地の悪さを覚えていく。

【感想】

 一夏の物語としてありえそうな展開を微妙にすかしていきながら、ジェルソミーナの「座りの悪さ」だけは一貫して画面に湛えられ、そんな彼女が特技として「蜂を顔に這わせる」場面だけ映像が弛緩しつい無心で見てしまう。消費され尽くした「ノスタルジィ」をまだこんな素朴に(素朴なフリをして)描ききれる映画があるのか。トトロのいない『となりのトトロ』と言おうか、平和な『ミツバチのささやき』と言おうか。

 序盤で出された情報の大体が集約するテレビ撮影の手前のくだり(こここそクライマックスなのでは)の、目の前で次々起こることに良い/悪い、嬉しい/哀しいの判断すらつかない混乱具合が凄い。でも現実はそうだから。

 

ショック集団

【評価】

【監督】サミュエル・フラー

【制作国/年】アメリカ/1963年

【概要】新聞記者ジョニーはピュリッツァー賞欲しさに、精神病院で起きた未解決殺人事件の真相を調査しようとする。知人の精神科医の助言を受け、「(妻が演じる)妹に欲情を抱く精神異常者」を演じることで入院に成功するジョニー。殺人を巡る三人の患者の証言を得ていく過程で、次第にジョニーの精神は混乱を来していく。

【感想】

 『シャッター・アイランド』の元ネタとされているけど、純粋に「このショットは」「この演出は」となったのは、女性患者にジョニーが襲われる場面がまんま『ゾンビ』の暴徒がゾンビに喰われる場面だったこと、ステージで歌い踊る妻の幻影がジョニーに重なる場面は『マルホランド・ドライブ』か何か、ともかくリンチが好きそうな演出だったことの二点。妻のステージが一曲フルで捉えられたり、本編はモノクロなのに回想で語られる外のシーンである「日本」「アフリカ」だけ唐突にカラーになったりといった異化効果によって、本編のソリッドな巧みさもジョニーの精神同様「実は間違っている」かのように錯覚してくる。

 患者たちを通して浮き上がるアメリカの、そして普遍的な病理。今見てもその切実さは変わらない。

 

『ブルータル・ジャスティス』

【評価】

【監督】S・クレイグ・ザラー

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】捜査中の横暴を記録され謹慎処分を受けた刑事ブレットとその相棒トニー。沢山の犯罪者を逮捕してきたのに給料も上がらず出世もできず還暦を迎えるブレットは、一方で妻の病気、娘の通学路の治安の悪さに頭を悩ませ、とある犯罪者が隠し持っているかも知れない金塊に目をつける。そして、「その場」にかかわる人々の人生が決定的に変わってしまう運命の日が訪れる。

【感想】

 『アウト・オブ・サイト』見たばかりだからか、個人的映画人生の始まりに『ジャッキー・ブラウン』や『ペイ・バック』があるからか、『トマホーク』ではどうも心許せなかったザラーをいきなり凄い身近に感じる。30分で済む話を2時間半かけて描く。でも「溜め」としての時間ではなくて、人の生活に密着してずっとカメラ回して、面白くなったその部分だけ切り抜いていくような説得力。それでいてショットは的確。クライマックスは『アウトロー』もちょっと思い出しましたね。

 

蛇の道

【評価】

【監督】黒沢清

【制作国/年】日本/1998年

【概要】男二人がヤクザを攫う。幼い娘を誘拐され、殺された宮下(香川照之)と彼を先導する不思議な数学教師・新島(哀川翔)。陰湿な精神的拷問でヤクザ達から強引に真犯人の名前を吐かせ、そこで名前を出されたヤクザを順にさらっては同じことを繰り返す。一向に真実が見えてこない中、誘拐と拷問を繰り返す宮下のテンションはハイになっていく。

【感想】

 Vシネ時代の黒沢清がジャンルに忠誠を誓っているとは言え、やはり小中千昭(DOORⅢ)や本作の高橋洋と組んだ方が引き締まっている。終盤ちゃんと廃工場のドンパチが続くのも嬉しい.哀川翔の正体は最後に明らかになるが、一方で『リング』の真田広之であり『カリスマ』の役所広司であるような、世界の法則を知っているかの如き序盤の女生徒とのさり気ない台詞から、やはりここに於いては「謎の男」であり、香川を誘惑するファム・ファタールである。

 

蜘蛛の瞳

【評価】

【監督】黒沢清

【制作国/年】日本/1998年

【概要】かくして新島は復讐を遂げる。そして日常生活を取り戻すが、妻との会話は必死に繕った白々しさに満ちている。そんな中、偶然出くわした旧友・岩松(ダンカン)に誘われ新たな仕事を始める。仕事仲間たちとは間の抜けた時間を過ごす一方、その業務には殺人も組み込まれていた。

【感想】

 続編であり全くの別モノ。前作であれほど謎だった哀川翔が別人かのように疲弊した男を演じる。けれどファム・ファタールである点は変わらずだったりする。ダンカンに香川照之を重ねて見ることは可能だろう。阿部サダヲが出てたりして、こちらでの裏話も色々面白い。あらゆる「追いかけっこ」が出てくるのだが、そのたびに大胆な撮り方を繰り出してまるで印象を変え、早撮り低予算映画とは思えない驚きをくれる。そして何より唐突に訪れる恐ろしい心霊ショット。

 本作の方が好き、という声が多いのもわかるのだけれど、自分は一方で本作に流れる日常を淡々と描きながら現実感がヨーロッパ映画的な乾いた空気で飛躍している感じ、90年代的、いや個人的観点からもっと広範囲で『その男、凶暴につき('89)』から『ドッペルゲンガー('02)』までの日本映画に流れていた空気はむしろ馴染みがあって、きっちりバイオレンススリラーをやりきっている『蛇の道』の方が新鮮だった。

 

『レプティリア』

【評価】C

【監督】トビー・フーパー

【制作国/年】アメリカ/2000年

【概要】落ちこぼれ大学生8人は湖畔のボートクルーズに遊びに来ていた。しかしお調子者のダンカンがブレイディの浮気をバラしてしまい、ブレイディは彼女クレアとぎくしゃくし始める。ところでこの湖畔の近くのホテルには恨みの感情によって人を殺す100年前のワニの伝説があり、案の定若者たちはワニに襲撃されるのだった。

【感想】

 最初に若者が食べられる場面が完璧なインパクトで、しかしピークはそこ。「トビー・フーパーの外しの美学」と「低予算ゆえのCGやアニマトロニクス」が見事に噛み合わず、「なんだかわからない間」が後半につれどんどん増えていく。「面白くなりそうな要素やキャラをチラつかせつつ全く効果的に使わない」のは「わざと」だろうけど、しばしば訪れる「キャラが何に逡巡してるのかわからない棒立ち」は「事故」だと思う。

 それでも「汚い田舎の謎の小屋で暮らす狂人」「異常なほどのノイズ(今回は終始いくらなんでもうるさ過ぎるダンカン)」「チェーンソーあったけど使えない」といったフーパー印を残せる自由度も低予算ゆえなんだろうな。

 2000年というと『U.M.A レイクプラシッド』の頃だと思うけど、どちらもワニ映画の邦題にワニっぽさを出したくないという日本の配給会社の意図が不思議。サメならともかくワニじゃ売れないという判断なんでしょうか。

 

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』

【評価】

【監督】エドワード・ヤン

【制作国/年】台湾/1992年

【概要】1960年、台北。中国・上海から渡ってきた外省人の張一家。戦前の日本家屋に暮らし、屋根裏には日本軍が撤退の際に放置した日本刀が眠っている。次男のチェンこと小四(シャオスー)は中学の昼間部に合格できず夜間部に通っている。ある日、地元で有名なヤクザまがいの男ハニーの彼女である少女・小明と出会い恋に落ちる小四だったが、そのハニーに起こった悲劇をきっかけに、中学生同士の小競り合いはヤクザを巻き込んで血腥い日々へと突入。父にかけられるスパイ容疑、賭博を抜け出せない兄、キリスト教にハマる次女、プレスリーの物真似にハマる友人リトル・プレスリー、やはりヤクザまがいで地元を仕切る山東小明を奪い合う滑頭や小虎etc……。小四の日常はビビッドなディティールで満ち、そのイノセンスは少しずつ世界を照らしていくかに見えた。事件が起こり、すべてが終焉を迎えるその時までは。

【感想】

 長年見たくても見れずにいた映画を漸くの鑑賞。とても長尺の映画だが、『ヤンヤン 夏の想い出』がそうであったように、これからまた繰り返しこの世界に戻ってきたくなる映画だという気がする。「やっと見れた」より「初めまして(これからもよろしく)」。

 少年のいない場面も多いが、少年の察知できる範囲の輪郭として描かれていて、世界が瑞々しい。映画はこの先事件が起こるなんて知らないかのように振舞っている(というか事件そのものは色々起こるので日常の一部といった感じか)。『藍色夏恋』の1シーン先でこんな悲劇が起こっても不思議じゃないかのように。

 『花束みたいな恋をした』の二人は結局本作を二人してミニシアターで見たことはあったのだろうか。多分無い。もしあったとしても結末は変わらないだろうけど、苦々しくも甘美な体験として印象に残ったのだろうな。

 日本刀が残されていた事について目を逸らしてはいけない。

 

ウトヤ島、7月22日』

【評価】B

【監督】エリック・ポッペ

【制作国/年】ノルウェー/2018年

【概要】2011年7月22日、ノルウェーオスロ近郊のウトヤ島で起こった無差別乱射テロ。巻き込まれた少女カヤの視点で「銃声の続いた72分間」の恐怖をワンカット長回しで綴る。その日ウトヤ島には労働党青年部の若者たち700人が討論会を兼ねたキャンプに集まっており、その日起きたばかりのオスロの政府庁舎爆破テロに身内が巻き込まれたのではないかと気を揉んでいた。しかし銃声は海の向こうのオスロではなく、すぐ傍で聞こえる。60人を超える死者、100人近い負傷者を生むことになる地獄の72分間。カヤはただジッと息を潜めて耐えようとするが……?

【感想】

 先にNETFLIXポール・グリーングラスの映画『7月22日』を観ておくと、より事件の全容が伝わり易い。片や全容を伝える映画。片や巻き込まれた当人の、全容など知りようもない「耐える」時間。テロ再現映画がどうしたって持ってしまうアトラクション的な興味に背を向け、基本カヤは「少し動いて、ジッと耐える」を繰り返す。その行き詰まる緊張感を是としたい気持ちもあるが、しかし被写体がほぼ行動を抑え静止しようとし、時折カメラを振って近くを逃走する若者を捉える作業さえルーティーン化してくると、長回しであることが仇になって「このカメラ、誰視点?」と気になって集中を欠いてしまった。力作なのは確かだが……。海の中を往復する恐怖と疲弊、絶望感は凄まじい。

 

『赤線地帯』

【評価】A

【監督】溝口健二

【制作国/年】日本/1956年

【概要】溝口の遺作。売春防止法が制定された1956年の物語を56年に撮って公開する。このビビッドさとタイムリーさが今の映画には必要なんじゃないか。まさに国会で法が審議されているその時、吉原「夢の里」ではほとんどがとうが立った娼婦たちが、明日の我が身を案じていた。病気の夫と赤子を抱えるハナエ、器量よしで男を騙し大金を貯めるやすみ、離れて暮らす一人息子を想うゆめ子、ここを出て普通のお嫁さんになりたいと願うより江、そして若さに甘んじて消費の荒いミッキー。彼女たちの居場所はここしかない。しかし、ここは本当に居場所たりえているのか?

【感想】

 スタンダードサイズで切り取るならこうしかないとなぜか確信してしまえる路地と店内の織りなす狭い世界。矢継ぎ早に繰り出される軽口。その外側に一歩出れば容赦ない人生模様の苦さが待ち受けている。みんなを守るため政治家に文句言ってる風である店の主人も、結局は女を商品としか思っていない。

 非常に辛気臭い話なのだけど、「ここにこういう話があるが、どうか?」と見せつけるだけのラストの切れ味がカタルシスを呼ぶ。ふと『祇園の姉妹』はどう描かれていたか見返したくなった。

 

『最高殊勲夫人』

【評価】A

【監督】増村保造

【制作国/年】日本/1959年

【概要】大手商事「三原家」の長男、次男はそれぞれ野々宮家の長女、次女と結婚していた。次女の結婚式、続いて三男・三郎と三女・杏子を結婚させようという話が持ち上がるが、当人たちは断固拒否。無意識でどこか惹かれながらも、意地でもくっつくまいとする二人。次第に杏子の周囲に三人の男性が言い寄ってきて、三郎は時にその間を取り持つようになるが……?

【感想】

 和製スクリューボール・コメディの傑作。モダンで粋な会話、社会の習性に対して自分の意思を持って抵抗しようとする登場人物。当時の丸の内ロケーションの面白さ(東京駅!)。自然且つ巧みに行われる脚本の省略。同コンビの傑作『巨人と玩具』は作品目的そのものが社会風刺であったけれど、本作は観客には王道ラブコメを楽しませ、その上でその向こうに見える討ち滅ぼすべき何かを見据えており、それは本作の作りが洒脱であることで成立するものでもある。

 今に置き換えればサブカルに志と社会批評がしっかり備わってる感じだろうか。強い。

 ギャフンと言わせてそれで終わりでもいいはずの、抗うべき象徴でもあった姉が抱えているものを最後に吐露させる、この正しさ。その後、父の新しい勤務先の描写で女性社員に偉そうに「おい!」と命じる上司が背後に移っている。これがちゃんと「嫌だ」と感じるよう出来ている。説教臭くなく。

 

カイジ 動物世界』

【評価】C

【監督】ハン・イエン

【制作国/年】中国/2018年

【概要】福本伸行『賭博黙示録 カイジ』の中国版実写化作品。幼なじみのナースに迷惑をかけながら自暴自棄な人生を送っていたジョン・カイジカイジは幼い頃両親を連れ去りにきた借金取りのトラウマのせいで、頭の中でカートゥーンアニメの主人公・殺人ピエロが暴れ出すのを押さえられなかった。やがてカイジは親友に騙され、一発逆転目指して豪華客船デスティニー号に乗り込み、謎の富豪が催す「限定ジャンケン」大会に参加する……。

【感想】

 とにかくお金が有り余っている映画で、本題の限定ジャンケンが始まる前に主人公の妄想世界であらゆるど派手なアクションが展開する。原作の兵藤に位置するキャラはマイケル・ダグラスだし、エスポワール号ことデスティニー号のセットも豪華。「同時翻訳機」という設定のお陰で搭乗員も国際色豊か。

 だったら訳わかんない水増ししてないで限定ジャンケン以外のギャンブルも描けよ。という話なので、マジで企画の意味がわからなかった。露骨に続編へのクリフハンガーで終わる。たしかにこの予算規模での「鉄骨綱渡り」は見たい(日本の実写版での鉄骨綱渡りは合成丸出しで全然怖くなかった)。

 

『キュアード』

【評価】B

【監督】デヴィッド・フレイン

【制作国/年】アイルランド・フランス/2018年

【概要】ヨーロッパを襲った感染症メイズ・ウィルス。発症した人々は思考能力を失い周囲の人々を襲う。国連軍の介入でウィルスはようやく収まったが、収容されていた一部の患者たちが回復し、元の人間に戻るようになる。日常生活へ帰還する彼らを世間は許そうとせず弾圧の声が上がり、また「回復者たち(キュアード)」も自分たちの人権を確保するべく集会を開くようになる……。

【感想】

 「もし人間がゾンビから元に戻ってしまったら」という発想で、まだ新しいゾンビ映画が作れるのかと舌をまく。ウィルスキャリアへの差別は今後コロナ禍の世界で発生してもおかしくない(既にある?)ものであり、観客へのフィードバックが効くよう変に誇張せずリアルな生活下でのドラマにしたのも巧妙。ただそのテイストとジャンプスケアでビビらせてくる演出が完全に食い違っており、クライマックスも急にゾンビ物であることを思い出したかのようで中途半端だった。でもエポックな価値ある一作。

 

『ブロックアイランド海峡』

【評価】B

【監督】ケビン・マクメイナス、マシュー・マクメイナス

【制作国/年】アメリカ/2020年

【概要】小さな島の閉じたコミュニティの中で暮らす漁師のハリー。シングルマザーの妹が娘を連れてくる中、父親の異変に気をもんでいる。最近、魚や鳥の奇妙な死骸が見つかったり、父が吠える犬にやけに興味を抱いていたりする。バカな友人は陰謀論に夢中。この島の沖合で何が起こっているのかなど、今はまだ知らずに過ごしている。

【感想】

 全然知らなかったのに突然ネトフリに入りやたらプッシュされランキングも急上昇する系の映画大好きマンとして食いつかずにいられなかった一本。見終わってみれば「そんだけの話なのか」と唖然とするけど、その小さなアイデアをジワジワと地方の辺鄙な島の生活のリアリティと共に丁寧に綴り、ふざけず真面目に見せてくる姿勢に好感を抱く。

 A級の姿勢で撮ったB級。僕は好きです。

 

『ハウス・ジャック・ビルト』

【評価】C

【監督】ラース・フォン・トリアー

【制作国/年】デンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン/2018年

【概要】強迫神経症気味な男ジャック。膨大な芸術についての蘊蓄があり、自分で一軒家を手作りしたいと願いながら、何十人もの人々を殺め、自らの芸術作品に仕上げていく。彼と恐らくは彼の脳内にいる謎の男性との会話を通じて、彼の人生、そして彼の芸術(殺人)の数々が綴られる。

【感想】

 ぶっ飛んだ内容で目を引きながら自分の話を聞いてほしくて仕方ないおじいちゃんと化してしまったトリアー。性を暴力に変えただけで『ニンフォマニアック』と変わらぬパターンなので「ああ、またこれかぁ」と非常に眠たい。色々ジャックを突き放してるように見えるけど、本心ではおもっきり自分を仮託してることがモノローグからバレバレだし、話し相手にブルーノ・ガンツを召喚してる自己愛っぷり。主役が女性から男性になったところで女性への加虐趣味は増すばかりなのもさすがに閉口(ユマ・サーマンタランティーノの色々をバラしつつこういう役やってるの歪んでるなぁ)。

  ただラストシーンからのエンディングはさすがに笑ったし、こういう部分的に変に若いところは押井守にも見習って欲しいかも。

「君は正しい文字を読むべきだったのに そうしなかった」

 

『スピリッツ・オブ・ジ・エア』

【評価】C

【監督】アレックス・プロヤス

【製作国/年】オーストラリア/1988年

【概要】昨年デジタル・リマスター版がリバイバル公開された、アレックス・プロヤスのデビュー作。荒野の果て、遠い壁に行く手を阻まれた一軒の家で暮らす、車椅子の兄と頭のおかしな妹。そこへ一人の放浪者が流れ着く。兄は彼と空へ飛び、壁を越えようと願う。妹はみんな兄に唆され死んでいった、空を飛ぶべきじゃないと反対する。はたして放浪者は、あの空へ飛び上がることが出来るのだろうか……。

【感想】

 『マッドマックス』1~3('79~'85)、『バグダッドカフェ』('87)、本作、『楽園の瑕』('94)、『スワロウテイル』('96)、『シックス・ストリングス・サムライ』(’98)。なんだか、全部同じ世界の話の気がするのは気のせいでしょうか。この映像世界の懐かしくも不思議な実存感。今この系譜の映画はあるんだろうか。

 この寓話的な物語のピュアさはなんなんだろう。純映画的な映画かと言えば全然なのだけど、80年代の映画に特に感じる隙だらけのピュアな寓話。シンプルな話からピュアさが奪われ「敢えてやっている」というエクスキューズをまとわざるを得なくなったのが、『タランティーノ以降』、という言葉の真の意味かも知れない。

 映画としてはやはり余りに退屈なのだけど、同時にやるせないくらい懐かしかった。

 

アニメ映画の採点 その2

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「映画の採点」第7弾、「アニメ映画の採点」としては第2弾となります。

前回こちら。

 

pikusuzuki.hatenablog.com

 

 10年分の見逃しアニメ映画を落ち穂拾いしようと始めて、流石に前回と合わせて40本も見ればそれなりにフォロー出来るだろうと思ったのですが、まだまだ終わりそうになく。

 採点は『アニメ映画の採点』シリーズ内での相対的なものなので、若干甘め。と言いつつ今回平均点低いのですが、つまりは長年スルーしてきた作品群で、あまり積極的に見たかった訳ではないタイトルが多いので、イコール日本のアニメ映画が凄く駄目ということでもないのです。と思いたい。

 

『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』

【採点】B

【監督】大森貴弘・伊藤秀樹

【制作国/年】日本/2018年

【概要】緑川ゆき原作、人気アニメシリーズ『夏目友人帳』初の劇場版。夏目の心中に様々なものが去来していた。嘘をつかれたまま別れた友人との再会、レイコを知る妖怪、レイコを知る人間との出会い。そんな中、タキが記憶を失い、ニャンコ先生が3つに分裂する奇事が発生。夏目はことの正体を探ろうとするが……。

【感想】

 シリーズを総括し夏目、レイコそれぞれの人生に触れ、(的場一門除く)オールスター映画にしつつと、いつもの『夏目』を一廻り大きな円(縁)で包んで改めて描きだす丁寧な劇場版.複雑に絡まってるように見えた筋が気付けばスッキリしている村井さだゆき脚本が光るけれど、もっと暴れてくれても良かったような。

 原作が持つ「妖が出現した時のゾワッとくる感じ」をアニメでも味わってみたいなぁと100回くらい言ってる。

 

『劇場版 はいからさんが通る 後編~花の東京大ロマン~』

【採点】

【監督】城所聖明

【制作国/年】日本/2018年

【概要】伊集院少尉の生存を諦めきれない紅緒は、正体が元日本兵だと噂の馬賊を確かめに満州へ向かう。しかしその正体は伊集院の戦友・鬼島だった。日本に引き返した紅緒は、次第に出版社の上司で女嫌いの青江冬星と惹かれ合う。そんな折、伊集院にそっくりな男がロシアからの亡命貴族として日本にいることが判明し……。

【感想】

 前作から監督が交代、脚色は引き続き古橋監督。前作は明らかに尺に合わない詰め込みっぷりで、だからこその異常なほどのメリハリが面白かった。今回は話そのものはすんなり飲み込める一方、「ただあらすじを眺めている」といった地味さが否めず。

 何より紅緒の「はいからさん」といった響きに相応しい快活さが、冒頭の満州を最後にあまり感じられなかったのが物足りない。

 

『パンドラとアクビ』

【採点】

【監督】曽我準

【制作国/年】日本/2019年

【概要】『モンスターストライク』に登場するパンドラと、『ハクション大魔王』に登場するアクビが共演する特別篇二本。保安官と盗賊団がいる西部劇の街、精霊と怪獣の噂がある街、2つの街をパンドラとアクビが旅していく。

【感想】

 タイトルを飾るにしては知名度怪しくないかという二人。実はタツノコプロのもっと有名なキャラたちが本編には沢山混ざっている。スタジオは違えど、クレジットされる見覚えある会社名からしてTRIGGERの一連の「懐かしいタッチ」のアニメのあのラインで作られてるんだと思う。

 丸くて柔らかくて愛らしいキャラがよく動くが、あまりにこの世界、この物語へのとっかかりがなく、「アニメらしいアニメをやってる俺たち」というスタッフの自意識以外に感じ取れるものがない。

 

『えいがのおそ松さん

【採点】C

【監督】藤田陽一

【制作国/年】日本/2019年

【概要】同窓会に呼ばれたおそ松さん達。二十歳越えて職歴ゼロでニートかつ童貞、実家暮らし。その事実がバレた途端同級生たちにバカにされ、悔しさから荒れる6人だったが、翌朝目ざめると高校時代の自分たちがいる「思い出の世界」に飛んでしまう。誰かの未練によってここにいるとしたら、それは一体誰の……?

【感想】

 意欲作であることは間違いないのだけど、面白いかというと非常に微妙で、まず冒頭のおそ松さんたちが見下されるターンの時点ですでに「これいくつの設定?」「他の同窓生みんな成功者なの?」「属性いじりやり過ぎてて同窓生よりスタッフの見識の方が怪しく感じて乗りきれない」といった欠点が続出。例えばトト子を「謙遜しない美人」として描くのにブスをバカにするって、実はトト子のことも描けてない、ということに気付いているのかとか。

 オチも、感動の為にそういうキャラの消費をするのは個人的に物語倫理が雑過ぎると思う。いくらでも濁しようはあったし、濁せてたとしても「もっとアナーキーなアニメだと聴いてましたが、普通ですね」となってしまう。

 それでも「アニメという偶像とファンの関係性」を描いた特殊な作品として記憶に残る。

 

『劇場版 艦これ』

【採点】C

【監督】草川啓造

【制作国/年】日本/2016年

【概要】深海凄艦との戦いを繰り返す艦娘の吹雪たち。その最中、敵地で「謎の声」を聴くようになり、かつて沈んだ筈の仲間・如月が生還する。姉妹艦の睦月は喜ぶが、加賀は自分たちが繰り返してきた戦いの仕組みに気付いてしまう。そして吹雪はこの終わりなきサイクルの中心に、「自分」がいることを突き止め......。

【感想】

 話なんか作りようのないゲームを物語に仕立てる為、物語世界内にまずゲーム的な「設定」があり、その設定にキャラ達が気付いてしまうことでメタ的に絶望し戸惑うという構成が面白く、それ以上突っ込むと原作の全否定になってしまうのでその手前で切り上げるのが物凄く消化不良ではある。

 想像以上に作画アニメで、手描きの爆炎の迫力に上がる。話としては『アルペジオ』より断トツ空虚だが、アニメとして好みなのはこっち。

 

『劇場版Infini-T Force / ガッチャマン さらば友よ』

【採点】D

【監督】松本淳

【制作国/年】日本/2018年

【概要】タツノコプロ70年代作品『科学忍者隊ガッチャマン』『新造人間キャシャーン』『破裏拳ポリマー』『宇宙の騎士テッカマン』揃い踏みのタツノコアベンジャーズとして制作されたTVシリーズ劇場版。ガッチャマン生みの親南部博士、ガッチャマンNo.2の男「コンドルのジョー」を相手に、ガッチャマンたちは己の正義を追求する戦いに挑む。

【感想】

 『ガッチャマンクラウズ』との双子的存在であるというTVシリーズは気になるも未見(スタッフも異なる)。とにかく和製CGアニメが苦手ですという身も蓋も無さを正直に告白した上で、アニメ見る時にある「作画が動くのを見る愉しさ」が得られない上に、せっかくヒーロー大集結の話なのに全然ユーモアが感じられず、元作品を知らないのでありふれたキャラが揃った以上の感慨はなく、また予算の都合か背景が限られているので印象が固い。話も頭に入ってこなかった。

 

『劇場版 黒子のバスケ LAST GAME

【採点】

【監督】多田俊介

【制作国/年】日本/2017年

【概要】『黒子のバスケ』後日談番外編『EXTRA GAME』をアニメ化した作品。アメリカから極悪ストリートバスケチーム・ジャバウォックが来日。その日本人への民族差別的な発言、挑発は度を超している。これを迎え撃つため、相田監督はキセキの世代に火神たちを加えた即席チームVORPAL SWORDSを結成。かくして日米決戦が始まる。

【感想】

 民族差別的な台詞を雑に描いた他国のキャラに雑に吐かせるという民族差別に対してあまりに無防備で呆気に取られる。バスケシーンもTV版(2期だけ見ました)の方が迫力あって面白い。このラストにするならもっと黒子と火神を前面に出した話作りが必要。赤司と敵リーダーの「未来視合戦」というトンデモネタを視覚的に面白く工夫出来てない辺りが全て。

 

『劇場版 七つの大罪 天空の囚われ人』

【採点】D

【監督】阿部記之西片康人

【制作国/年】日本/2018年

【概要】国王の誕生日を祝うため幻の食材・天空魚を探しにきた七つの大罪。しかしメリオダスは誤解から空を飛ぶ島「天空宮」に囚われてしまう。その頃、七つの大罪の前にはメリオダスそっくりな少年ソラーダが迷い込む。誤解が誤解を生む中、天空宮の禁忌の封印を解こうと「黒の六騎士」なる集団が暴れ出す。

【感想】

 王道少年漫画をストーリーテリングの巧みさで魅せていくタイトル、という印象だった『七つの大罪』。流石に映画では尺が足らず凡庸な話しか出来ず、決して満足はいかなかったヒロアカ劇場一作目に比べても作画的な見せ場はなく(平均すれば本作の方が丁寧だと思うけど)、A-1のアニメとしてもFGOのCM30秒に劣ってしまう。せめて話の独自性で勝負して欲しかった。何も悪くないけど、何も面白くない。

 

傷物語 Ⅱ 熱血篇』

【採点】B

【監督】尾石達也新房昭之

【制作国/年】日本/2016年

【概要】奪われた吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの体のパーツを取り戻す為、暦は三人のヴァンパイアハンタードラマトゥルギー、エピソード、ギロチンカッターと戦う事になる。しかしその決戦の場には悉く羽川翼が居合せ……?

【感想】

  シャフトの空間連続性をブッタ斬っていく演出は大変苦手なのですが、『傷』は作り込んだ舞台美術を活かすので空間が断絶しない。それだけで大分見易い上、今回は計三回もバトルシーンが挟まれるので楽しめた(もっと見たかった)。話はお飾りに過ぎず、お飾りの映像を全面に出してくる人を喰った作りで、羽川との会話シーンとかは正直しんどかったけれど、映画館で観たらなかなか没入出来たのではないかと思う。

 

傷物語 Ⅲ 冷血篇』

【採点】

【監督】尾石達也新房昭之

【制作国/年】日本・2017年

【概要】かくしてドラマトゥルギー、エピソード、ギロチンカッターを迎え撃った暦。無事に満足な五体を取り戻したキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと束の間の平和な時を過ごすが、「吸血鬼を助けた」、自分がしたことの真の意味を突きつけられる。

【感想】

  奇しくも、「日本の独りよがりのオリンピック」という時代を先読みしたような虚しい映像万博が展開するクライマックス。原作にそんな匂いはゼロなんじゃないかと思うが、尾石達也の映像遊びが恐らくは偶然に意味を帯びてしまった面白さ。おっぱい云々のくだりが相変わらず気持ち悪くてドン引きするも、人体破壊ショーで取り返した。

 

『バジャのスタジオ~バジャのみた海~』

【採点】B

【監督】三好一郎

【制作国/年】日本/2020年

【概要】京都アニ自主制作アニメ『バジャのスタジオ』第二弾。アニメ会社「KOHATAスタジオ」で暮らしているバジャ、アヒルのオモチャのガーちゃん、アニメヒロインのココ、意地悪なギー。ここで働くカナコ監督たちスタッフに見つからないよう密かに遊んだりバトったりする一同だったが、ある日バジャはカナコが「海に行きたい」と嘆いているのを耳にする。

【感想】

 前作がアニメスタジオ賛美の自作自演的な空気で観客不在に感じられた一方、二作目にしてだいぶ複雑なメタ構造の話になってるのを、可愛いアニメでうまいこと誤魔化される。面白かったです。京アニのスケジュールもそれなりに闇だが『SHIROBAKO』ほどめちゃくちゃな状況にまでは陥っていなさそう、という塩梅がリアル。

 まずバジャ(マスコット)、ガーちゃん(リアルおもちゃ)、ココとギー(アニメキャラ)と、存在する位相がバラバラなので『トイ・ストーリー』とは似て超非なる。

 脚本がクレジットされてないのがとても気になるけれど、三好監督の照れ隠しだったのだろうか.

 

MUNTO

【採点】

【監督】木上益治(=三好一郎)

【制作国/年】日本/2003年

【概要】天空に浮かぶ浮島たちの世界。地上で生きる現代人には心の力「アクト」が無い為にそれを視認出来ないが、浮島でもアクトは枯渇しつつあった。結果、連合国はアクトを流出させている魔導島を襲撃し、地上へ落とそうとする。魔導国の国王ムントは、地上に生きながらアクトの力を持つ少女ユメミに協力を求めようと旅立つ。

 自分だけが幼い頃から空に浮かぶ島を見ていたユメミは、その夢だと思っていた世界から飛来したムントに動揺し……。

【感想】

  京アニプロジェクト第一弾として制作されたOVA。二年後に制作された続編『MUNTO 時の壁を越えて』と合わせて2009年のTVアニメ『空を見上げる少女の瞳に映る世界』の前半部分として再構成され、TVアニメの後半部分は『映画 天上人とアクト人最後の戦い』として劇場公開された。

 TVシリーズOVA二作目、劇場版も既に観賞済みで、およそ10年越しにやっと第一作を観賞(購入しました)。

 TVシリーズ見た時の「変な構成だなぁ」という謎がようやく解ける。

 空を見ていた少女と、空飛ぶ島の国王たる少年のガール・ミーツ・ボーイ。で、あるにも関わらず、物語序盤で最初の事件として描かれるのは、ユメミの友人で、少し頭の弱そうな少女スズメと隣り街の不良少年との駆け落ちの行方。

 このアンバランスがTVアニメの序盤としては謎であったが、一本のOVAのクライマックスとして見ると彼岸と此岸を渡るユメミの覚悟への後押しとして効果的で、他にストーリーの類例が思い浮かばない味わいがある。

 TVアニメにする際はやはりまずはユメミ視点でのみ物語を構成して、浮島が実在する!って驚きは後半にとっておくべきだったのでは? と思うけれど、OVAとしてはこれで正解だったんだなと、TV版より楽しめた。

 

名探偵コナン 紺青の拳』

【採点】

【監督】永岡智佳

【制作国/年】日本/2019年

【概要】シンガポール名所、マリーナベイ・サンズで殺人事件が発生。やがてその地へと秘宝「紺青の拳(フィスト)」を求めて怪盗キッドが、強敵ジャマルッディンとの勝負を求めて京極真が、真を応援して園子と付き添いのコナン達が訪れる。自分の素性を蘭にさえ偽ることになったコナンは不自由な状態で殺人事件の謎を追い、キッドは秘宝強奪を目論むが、裏では連続殺人を遥かに凌ぐ巨大な陰謀が動き出していた。

【感想】

 『純黒の悪夢』以降(それ以前のコナンをしばし見てないので違うかも)ハリウッド的というよりハリウッドでもやらないようなアニメ的嘘を用いたド派手アクションをいよいよ本格的に煽る演出で使い始めたコナン。

 「今後シンガポールを舞台にしたどんなハリウッド映画が出てこようが本作を越えさせない」という、邦画でこれだけのスペクタクルを見せてくれるなら大勝利でしょう。悪役の小物に「ナカトミ」を出してる割りにダイハード感は薄かったので、恐らく当初の脚本ではホテル内部でもあれこれアクションしたんじゃないか。

 3分の1くらい英語台詞なので、イントネーションを重視したキャスティングになってるのも嬉しい。『PET』の中国語とか『ゴールデンカムイ』のロシア語とか、露骨に日本人の発音になっちゃってるとちょっと冷めたもんね。

 

 『劇場版 薄桜鬼 第二章 士魂蒼穹

【採点】

【監督】ヤマサキオサム

【制作国/年】日本/2014年

【概要】伝奇ファンタジーの世界で新選組を描いた人気乙女ゲーム劇場版後編。生きた屍のような「羅刹」を従える鬼たちと戦う新選組は、少女・千鶴を守る為自らもまた命短い鬼と化す。次第に一人又一人と息絶える中、千鶴は土方歳三を追って五稜郭へ向かう。

【感想】

 台詞の中身、或いは順番を入れ替えていくだけで大分違うんじゃないか、そういう些細なバランスの崩れによってひたすらダイジェストめいており、気持ちの流れが生じない。唐突に寝返り唐突にでも裏切ってませんでしたとなって唐突に死ぬ山南さん(その後の後くらいの場面で本当に寝返ったフリしてただけだと判る)、そんな山南さんの死を再会した仲間に即座に伝えない平助、の辺りの段取りのグダグダさが本作の全てを物語っている。

 

『劇場版 「SERVAMPサーヴァンプー」 Alice in the Garden』

【採点】B

【監督】中野英明

【制作国/年】日本/2018年

【概要】執事(サーヴァント)のヴァンパイア「サーヴァンプ」には七つの大罪を冠する者たちとそのマスターがいた。怠惰のマスター真昼はある日、夏なのに雪が降っている不思議な現象の正体を探ろうと色欲のマスター御園に声をかけるが、屋敷から出てこない。御園の屋敷を訪れた真昼一行はその空間に捉えられ、「色欲」の業を巡る御園の家の物語を知ることになる。

【感想】

 全然知らないアニメの劇場版をいきなり見る。話も設定も知らないし、今公式サイト見てどうもスノウリリィと御国というキャラを混合して見てたっぽいと気付いたけど、じゃあつまらないかというと雪の降る都市の冒頭から『劇場版×××Holoc 真夏ノ夜ノ夢』を思わせる屋敷の異界描写と作画で十分魅せてくれる。マイナスに働きがちな一時間という尺もちょうど飽きない。

 七つの大罪というけれど「色欲」は罪なのか? レッテルとしてばかりその言葉を機能させる危険性は? という話も悪くない(でも「色欲」にかられた男女の説明が足りないのでボンヤリしてた)。

 

フレームアームズガール ~きゃっきゃうふふなワンダーランド~』

【採点】E

【監督】川口敬一郎

【制作国/年】日本/2019年

【概要】TVアニメの総集編。完全自立型の小型ロボット「フレームアームズ・ガール」を手に入れた女子高生あおは、様々なフレームアームズ・ガールと戦闘を繰り返して友情を築いてきた.そして今、不思議な箱の中身を覗いた一同は、小型ロボットなのに更にミニチュアサイズに戯画化されて、映画として投影される自分たちの過去を眺めるのだった。

【感想】

 総集編映画の中でキャラたちが総集編映画鑑賞会をしている体a.k.aキャラクターコメンタリー。新規絵も入ってるらしい。ライブシーンもある。映画としてどうというより『フレームアームズガール』というTVアニメを履修している感覚。

 『武装神姫』を思い出しますね! 『武装神姫』をどれだけの人が見ていたか知りませんが。なのにこれと言って『武装神姫』からパワーアップしてるような印象はなく、面白くなかった(『武装神姫』も面白くはなかった)。

 いっそ悪趣味なバトルロイヤルにすればまだ飽きずに見れたような。

 

PEACE MAKER 鐡 クロガネ 前篇 想道』

PEACE MAKER 鐡 クロガネ 後篇 友命』

【採点】B

【監督】きみやしげる

【制作国/年】日本/2018年

【概要】TVアニメ化された(『新選組異聞PEACE MEKER』の続編)『PEACE MEKAE 鐡』の劇場用アニメ化(TVアニメも同タイトルだが、厳密にはTVアニメ化した内容は前作の方らしい).市村鉄之助辰之助兄弟の視線から新選組を描きつつ、長州藩士の小姓・鈴なる男の新選組への執拗な憎悪も織り込む。劇場版は油小路事件後、仲間達を失った市村兄弟と山崎烝の迷走と別れを描く。

【感想】

 例の如く予備知識なしで観賞した為いきなり『進撃の巨人』がFinal Seasonから始まって、それも3rdシーズン後期のダイジェストが冒頭に着いてくる、ばりの訳のわからない映像が最初20分近く展開して大いに戸惑うも、固有名詞がわかってくると時系列が飲み込めてしまうので新選組って本当に便利。『薄桜鬼』が「ビジネス新選組」だとすると、こっちは本当にガッツリ歴史を飲み込んで咀嚼して活劇に仕立てようという、骨太な新選組愛を持った原作なのだなと伝わってくる。

 物語の途中で始まって途中で終わるので映画になってないのだけど、前篇も後篇も哀しい別れで終わってるので一応纏まりもある。ここでも中田譲治土方歳三

 

『ちえりとチェリー』

【採点】C

【監督】中村誠

【制作国/年】日本/2016年

【概要】ストップモーションアニメ。脚本に故・島田満さん。幼い頃に父を亡くし、ぬいぐるみのチェリーとの妄想の世界で生きる小学6年生の少女ちえり。父の法事の為に母と実家へ帰っても妄想の世界を手放さず意固地になるちえりだったが、チェリーと共に土蔵を探検し、猫やネズミとの会話を楽しんでいる内に抜き差しならない事態に巻き込まれる。

【感想】

 今公式サイトのあらすじ読んでちえりが小6だと初めて知ったのだけど、小6にしてこれだけ幼いという特徴が単なる教条主義の為に小さくまとまってしまうのが寂しい。『怪物はささやく』よりはまだ妄想の中の冒険が現実の命を助けるという展開にしている分マシなんだけど、どちらも子供に寄り添っているようで寄り添っていないと感じてしまう。『妄想』の力が弱すぎる。チェリーもあまりに「そのまま」だし。

 

『BATON』

【採点】D

【監督】北村龍平

【制作国/年】日本/2009年

【概要】横浜 開国博Y150に合わせて制作されたロトスコープアニメ。岩井俊二が脚本を手掛け、北村龍平が監督。アニメ制作は海外で行われた(ストーリーボードアーティストとして長濱博史監督の名前がある、その内訳もメイキングで教えて欲しかった)。人類が宇宙へ進出した時代、兵士たちの制止を振り切り宇宙ステーションから荒涼とした惑星へ跳び降りたアンドロイド。彼の残骸を拾った若い男女が見たものとは……?

【感想】

 「やあっ!」の掛け声と共にケイン・コスギが現れたり、大杉漣の顔がいくつも蠢いたり、00年代の日本映画のノリが懐かしくもキツい。全方位的に中途半端な内容ではあるけれど、明らかに本作の経験を踏まえて傑作『花とアリス殺人事件』はある筈なので、アニメ史的に無かったことには出来ない一作なのでは。お薦めはしません。

 

『俺ガイルFes.-FINAL-』イベント書き起こし

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俺ガイル.Fes.-FINAL-

 

2021年1月17日(日)習志野文化ホールで開催された『俺ガイルFes.-FINAL-』の備忘録、もとい書き起こしとなっております。

現地参加した際、個人的に今後振り返る際忘れず記録しておきたい発言が複数あった為、いっそ書き起こした方が早いだろうと思い配信アーカイブチケットを改めて購入し、要約を文字にして採録いたしました。

既に配信終了しているので記事にしましたが、もしFes.をご覧になれず内容が知りたくて当記事訪問された方おられましたら、実際には二時間半に及ぶ長尺、ここから省略されたニュアンスは数知れません.当然イベントそのものの映像を見た方が数倍楽しめること請け合いですので、現在アナウンスこそありませんが、今後もし円盤特典等にてイベント内容がソフト展開した際には、是非ともそちらをお買い求めいただければ幸いです。

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『俺ガイルFes.-FINAL-』開演.

 

   堀井茶渡、『2021メガネ』を掛けた江口拓也登壇。

 

茶渡「はいはいはい」

江口「ねえ! この格好なに?」

茶渡「と言うわけで、開演前の諸注意など紹介する大役を仰せつかりました、『えぐちゃど』でございます」

江口「前説いる? だって本編じゃん。配信始まってんでしょ」

茶渡「まずいくつかお願いがありまして(中略)。このご時世ですから、接触確認アプリ『COCOA』が機能するように、BluetoothをONに設定していただくようお願いいたします」

 

   (感染対策説明。マスクしたまま、声を出さず拍手だけ)

 

江口「反応は無かったら無いで寂しいんです。なんか動きがあった方が『聞いて下さったんだな』と思うので」

 

   会場、拍手。

 

江口「助かります」

茶渡「そして俺ガイルの挨拶と言えば『やっはろー』ですけれども、今日は『やっはろー』の代わりに大きい拍手で返していただきたいと思っております。練習してもらいましょう。『やっはろー』の主、東山奈央さんからね、『こうです』と。『やっはろー』に合わせて、パン、パパンと手拍子を。最後に手、広げちゃってもいいですよ」

江口「合ったら気持ちいいですよね。じゃ、やってみましょうか。やっはろー」

 

   会場、パン、パパン。

 

江口「合った!」

茶渡「すげえ、すげえ」

 

   (ライブの諸注意)

 

茶渡「そしてですね、皆さんが出来るかどうか、開演前に試してみたいと思います」

江口「『開演前に』歌があるんですか!?」

茶渡「そうなんです。それではご登場いただきましょう、話題のスーパーアーティスト。MC、わたりーん!」

 

   渡航、2021メガネで登壇。

 

渡航「ヘイヘイヘーイ。大丈夫? みんな。この前説でね、、、前説ってなんだ? この前説で、手拍子バッチリ練習していきましょう」

江口「チュートリアルです」

茶渡「では皆さんが感染対策を守れるのかどうか、MCわたりんの新曲で試してみたいと思います」

江口「ここで新曲? ここでしか歌いませんから、わたりんは」

渡航「じゃあ、歌うにあたって、、、邪魔だからメガネ外すね」

 

   渡航、メガネを置く。

 

渡航「よし!」

江口「もう汗かいてない?」

渡航「もうね。さっきからずっと吐きそうで」

江口「めちゃくちゃ緊張してるって言ってたもんね」

茶渡「朝から言ってたもんね」

渡航「ううん。き・の・う・か・ら」

江口「いいですか?」

渡航(マイクを堂本剛風に構え)「それでは聞いてください」

江口「その空気、なに?」

渡航「『君がいるから』」

江口「なに?」

 

一曲目.MCわたりん(渡 航)with MCえぐ(江口拓也)&MCちゃど(堀井茶渡

  『君がいるから』

 

渡航「イヤッホー------ウ!!! もう皆さんね、サイリウムから手拍子から拍手から、最の高」

 

   会場、拍手。

 

渡航「もっとくれ。もっとくれ。もっとくれ」

茶渡「MCわたりん、ありがとうございました。

 、、、それではね。まもなく開演となりますので

江口「(笑)」

渡航「(笑)」

茶渡「ここまでは前説なので。それではね、前説を担当しました、『えぐ・わた・ちゃど』でした」

 

   暗転。

 

二曲目.やなぎなぎ『芽ぐみの雨』

 

茶渡「皆さん、改めましてこんばんは。『俺ガイルFes.-FINAL-』始まりましたよ。やなぎなぎさんの『芽ぐみの雨』からスタートしました。今日は声援の代わりに身振り手振りでお願いしますね。そして配信をご覧の皆さんは、コメントを書き込んでくださいね」

 

   スクリーンで配信視聴者からのリアルタイムコメントが流れる。

 

茶渡「自分のコメント流れちゃったなと思っても、後で皆さん見ますし、わたりんは全部見ると思います。それでは、メンバー集合!」

 

   江口、早見沙織東山奈央佐倉綾音小松未可子中原麻衣登壇。

 

茶渡「それでは皆さん、一言ずつご挨拶をお願いします。江口さんから」

江口「比企谷八幡役の江口拓也です。本日はよろしくお願いします」

早見「雪ノ下雪乃役の早見沙織です。最後まで楽しんでいってください」

東山「では皆さん、拍手で。さっき言ったやつですよ。『やっはろー』」

 

   会場、パン、パパン。

 

東山「わあ、完璧。盛り上がっていきましょう。由比ヶ浜結衣役の東山奈央です。よろしくお願いします」

佐倉「はい。会場のみなさん、こんにちは。そして配信のみなさん、こんにちはー」

 

   佐倉、カメラに抜かれてる体ですまし顔。

 

小松「(低い声で)うわあ

佐倉「久しぶりに皆さんにお会いすることが出来てとても嬉しいです。一色いろはの声を演じております、佐倉綾音です。今日はよろしくお願いします」

小松「皆さんお久しぶりです。戸塚彩加小松未可子です。わたくし、ファースト以来のイベント参加となります、よろしくお願いします」

佐倉「会ったことないよね?」

小松「会ったことないの。私、一回もあやねると喋ったことない」

佐倉「私とあなたはあるよ!」

小松「今日は色んな初絡みも見られると思います。ファイナルということで寂しいですけど、最後までよろしくお願いします」

中原「私も、たぶん最初出て以来? だと思うんです。なので今日はずっと楽しみにしていました、雪ノ下陽乃中原麻衣です。よろしくお願いします」

   ※小松さんは2013年にティファ有明で開催された一期イベント『総武高校文化祭2013』の話を、中原さんは2015年に今回と同じく習志野文化ホールで開催された二期イベント『俺ガイルFes!』の話をされていると思われます。

 

茶渡「そして司会進行は私、戸部翔役堀井茶渡です。よろしくお願いします。では皆さん、お席の方に」

中原「なんかすごい、残骸が」

 

   わたりんライブの紙吹雪など残骸を拾って遊ぶ一同。

 

茶渡「何かあったんでしょうかね?」

江口「夢でも見てたのかな?」

小松「『芽ぐみの雨』から始まったんですもんね?」

 

   一同、着席。

 

茶渡「俺ガイルがいよいよ完結を迎えてしまいましたね。TVアニメが始まったのは2013年の4月からでしたが、小説が発売されたのは2011年の3月なので、約10年の歳月をかけて完結いたしました」

江口「長いなぁ」

茶渡「江口さん、早見さん、東山さん、小松さんは、2011年11月に発売されました小説第3巻特装版にドラマCDが封入された時から声を担当しておりますが、当時の思い出、俺ガイルと出会った時の印象はいかがでした?」

江口「そうですねぇ。9年前、、、」

小松「私、忘れられないのが、このドラマCDで初めての現場だっていう石川界人くんに会った

江口「あー!」

東山「そうだ! カラオケ店員の役やってましたよね? 懐かしい!」

江口「『いらっしゃいませ』」

小松「それが初めての現場だって」

佐倉「界人くんにそんな時期があるんだ?

江口「誰しもね! 未だに言われますもん、界人くんに会うと。『あの時、声をかけて下さってありがとうございます』って」

佐倉「わあー、、、怖いですね」

江口「そう怖い。『ずっと覚えてるぅー』って思って」

小松「ねえー」

 

   一同、無言。

 

茶渡「、、、え。界人の思い出だけ?」

江口「あと『先生こういう人なんだ』っていう。ディレクションもね、最初はわたりん積極的に入って。なんなら、わたりんが席に座ってたことなかった?」

早見「あ! 一回くらいあったかも知れないですね」

東山「ディレクションの席に?」

江口「そう」

佐倉「、、、遊んでたんですか?」

江口「仕事です!」

東山「そのドラマCDで歌とか歌わなかったっけ」

小松「一番最後に歌が」

東山「『Bright Generation』じゃなかった?」

 

   ここで早見、記憶を辿り鼻歌を披露。

 

早見「~~~♪ じゃ、なかった?」

東山「そうだっけ」

早見「(笑)」

東山「『今日から始まる私のBrand new birthday♪』って、やつ」

茶渡「それです」

江口「だからこそのカラオケ回。歌うのに意味があるよって」

東山「だから界人くんいたのか」

 

茶渡「アニメ化決定した時、皆さんどう思われました?」

東山「ドラマCDがすごく面白かったから、アニメ化決定した時に『やっぱりそうなんだ』って」

早見「確かに。あっと言う間にアニメに足を進めたので、それくらい人気作品なのかなっていうプレッシャーもあったり」

東山「そうだね。会話がポンポンポンって」

江口「現場の熱量も高いですから。まあ、わたりんを中心にですけど。本当にOKが出るまで苦悩するんですよ、役者陣も」

東山「何テイクもね。だって、一期の時のアフレコって割りとてっぺん(深夜0時)近くまで」

江口「長かったですね。(佐倉に)『続』の時はあれでも巻いてるんですよ?」

小松「そうだった!」

佐倉「ええー?」

早見「一期は夜十時くらいまで」

小松「でも、男性陣そのあと呑みに行ってましたよね?」

茶渡「(笑)」

江口「呑みの席にはわたりんと茶渡さんはとりあえずいるから。あと近藤(葉山隼人役の近藤隆)さんとかね」

茶渡「檜山(材木座義輝役の檜山修之)さん」

江口「そう、檜山さんが出番ある時は、毎回僕が『今日は行かないんスか?』って言うと『わかったよ、行くよ』って」

小松「嬉しそうに」

江口「面倒臭そうにしながら結局来てくれて」

茶渡「結局朝までいるっていう。檜山さん、次の日朝から仕事あるんだよ?」

江口「男子チーム、元気だったな」

 

茶渡「ここで少しずつですけれど、それぞれのキャラのシーンを見ていきたいと思います」

 

   以下、それぞれのキャラの一期から『完』までのダイジェスト。

   (途中登場の一色いろはは二期から)

   陽乃のVTR。みんなで茶々を入れながら観賞。

 

中原「早口でね、台詞入れるのが大変で」

江口「いつもわたりんが感動してましたよ」

中原「でも一度も呑みにいけないまま、(世界が)こんな感じになっちゃったから、、、早く明けて、みんなと打ち上げいきたいね」

 

茶渡「一期から参加されてますけれど、陽乃の印象いかがですか?」

中原「本当つかみ所ないなって印象で、わからないままやってたと思います。

 本当に彼女がわかったなって思ったのって、最後の最後かな。『完』の真ん中過ぎくらい。ずっと訊いていいのか、いけないのかわからなくて。『答え』を知ってから演じた方がいいのか、いけないのか。

 それからお母さんと雪乃ちゃんとの間のバランス。一番怖いのはお母さんであって欲しいので」

江口「確かに最初の方は、雪ノ下姉妹本当に仲が良いのか悪いのか、好きなのか嫌いなのか曖昧にされてたから。最後の最後まで見ると、『こういう仲の良さってあるんだな』って」

中原「愛してるんだよね」

 

   戸塚のVTR。みんなで茶々を入れながら観賞。

 

小松「私史上、一番可愛いキャラをいただきました。これでもかってくらい可愛さを意識したキャラクターは戸塚くんだけですね」

茶渡「女性キャラを差し置いて?」

江口「本当に?」

小松「可愛いを意識するキャラって本当に無いんですよ。どっちかと言えば気が強いとか、最近は年齢が上の役も増えてきてるんですけど。戸塚くんだけは可愛いを意識しようと思って、『完』はプレッシャーでした。可愛いは負けたくないですね」

 

   いろはのVTR。みんなで茶々を入れながら観賞。

 

江口「やってんな、これは」

佐倉「やってますよ

小松「何を!?」

佐倉「やってんすよ、これは。『あざとい』をやってます」

 

佐倉「色んなところで言ってるんですけど、一期からオーディションを受けて、全落ちして、結果この役に決まるっていう」

小松「そうなんだ?」

佐倉「折本(かおり)役もオーディション受けてるんですよ? 結果いろはすになって。資料にちゃんと『あざとい』って書いてあるんですよ。こんなに『あざとい』を全面に出した女子って。しかもエグくもあるじゃないですか。だからどこまでやっていいのかなって。やり過ぎると、、、『犬も食わない』みたいな(笑)。でも絵が可愛いから。顔がいいから。結構やってっても許されるんだなっていうのが『続』でわかって、そこから『完』の一番重要なシーンに臨むことが出来たので印象深いっていうか。『続』ではモノローグとかないじゃないですか」

江口「そうですね」

佐倉「何考えてんのか全然わかんない子で。そこから『完』のモノローグ読んだ時はたまらない気持ちになっちゃって。この子、こんな「人間、人間シーン」だと思っちゃって。最初はそんな好きじゃなかったんですけど」

茶渡「ほう?」

佐倉「段々好きになって、最後まで見届けたら大好きになってしまって。男性的に見たらどうなんですか? ああいう『あざとさ』は」

茶渡「男性的に見たらコロっといくじゃないですか、我々は。江口さん?」

江口「回避無理でしょうね。しかも距離感がある中で冗談を言ってくれるっていう。その冗談も本当か嘘かわからない。バラエティに近い関係性を築いてくれる」

佐倉「芸人さんのラジオみたいな感じ」

江口「学生の頃にいたらヤバいでしょうね」

茶渡「ダメージ負ってるでしょうね、こっちが勘違いで二度と思い出したくないようなトラウマを」

佐倉「へえー。まあ、『都合の良い女』はいいですよね」

江口「言い方よ」

 

   結衣のVTR。みんなで煩悶しながら観賞。

   『完』プロムの楽屋の場面にて、

東山「ここで(八幡の)頬赤くなってくれてるのが嬉しい」

   マンガ喫茶の場面にて、

東山「ここ優しい」

佐倉「でも残酷だよね」

東山「お兄ちゃん気質が出ちゃうんだよね」

   

   VTR終わり。

 

江口「おーい」

茶渡「ヤバいね」

東山(涙ぐみ)「ヤバいですね。『完』は特に結衣が沢山涙を流して、アフレコ中、茶渡さんがマイクの前に座ってらっしゃるんですけど」

 

   茶渡、何度も謝罪のポーズ。

 

東山「涙を堪えようとして鼻の気道が狭くなっちゃって、スンスン、スンスンうるさくしてるのが」

江口「めちゃくちゃうるさいんスよ、この人。『う、うう~』って嗚咽が録ってるすぐ横から聞こえるから、(ブースから)『今ちょっと本番中なんですけど』って」

茶渡「本当に申し訳ない。でもテストの時ね」

江口「『ちょっと出てます』って、本番出てったね」

東山「でも江口さんも早見さんも、本番『うう~(嗚咽)』って」

早見「呻いてたね、、、」

江口「呻いてた」

茶渡「『完』、二日前にも見直したんですけれど、結衣に何度泣かされた事か。恐ろしい」

東山「『恋愛』って一口に言えないというか。『奉仕部の三人で一緒にいたい』って気持ちが大きいし。『全部貰う』とか結衣は言ってましたけど、ゆきのんのお家に行った時に、写真見つけるシーン」

早見「はあ~(悶絶)」

東山「原作にも書いてあるんですけど、『可愛いなって思った』って。普通恋敵だったらモヤモヤしたり、マイナスな感情が働くところ、『可愛いな』って感想がまず出てくるのが結衣らしいなって思ったし、掛け替えのない関係性だなと思ったし、だからこそ凄く痛かった、、、」

江口「(唸る)う~~~~ん」

早見「(嘆息)あ~~~もう。(感染対策のアクリル)パネルを取りたいくらいです」

茶渡「抱きしめてあげたい」

 

   パネルごしに手を叩き合う早見、東山。

 

東山「大好きだよー」

早見「大好きだよー」

江口「ソーシャルディスタンス」

茶渡「さあ、それでは雪乃のVTRを見てみましょう」

早見「はあ~。この流れで見ると、なんとも言えない気持ちになっちゃうな、、、」

 

   雪乃のVTR。

   雪乃が奉仕部の鍵を手にしている場面を見て、

江口「君の横顔に~♪」

早見「(『ダイヤモンドの純情』の)八幡バージョンだ!」

 

   VTR終わり。

 

早見「凄い気持ちになっちゃいますね。今も映りましたけど、雪乃、一番最初の時って寄せ付けない、それこそ(アクリルパネルのように)こういうディスタンスが」

東山「時代を先取りしてましたね」

早見「それが段々面倒臭くなっていって、愛おしくなっていって、収録の帰りになんとも言えないモヤモヤした気持ちになってしまって」

江口「俺ガイルのキャラクターって、そのキャラクターにしかない愛らしさとか唯一無二感があるから。表面的なだけじゃない、、、なんていうんですかね? 素敵な部分が」

東山「生きてるって感じする」

江口「そう! 生きてたら色んな感情が」

茶渡「そうだよ。記号じゃないんだから」

江口「湧き上がるものだけど、血が通ってるなって凄い思いますもん」

茶渡「本当に、雪乃もそうだし結衣もそうだし、一期から『完』まで通して最初の印象が全然変わる。勿論、作中で成長してるからっていう面もあるんですけれど、それに驚かされたな」

江口「人生もそうですよね。普通に関わっている分には表の部分しか見えないけれど、付き合っていったらどんどん裏の顔が見えてきて、その人にしか感じられない部分が出てくる。それが『物語』というか。『ドラマ』してるなって」

 

   最終回VTR。

   「彼女がいる人好きになっちゃいけないなんて法律ありましたっけ?」

 

東山「いろはにしか出来ない慰め方だよね」

小松「こんなこと言うの許されていいキャラっているんだな」

東山「ヒロインの一人なのにね」

 

   「がんばって」を見守るいろは・小町の場面を見て、

 

佐倉「ここの二人おんなじ顔してるんだよね。ここ、いいのよ。私ここ凄く推してんのよ、『いろこま』」

 

茶渡「改めて皆さん、最終回振り返っての感想いかがですか?」

江口「いやあ~~~、、、、、、、、、、、、グッときますね」

茶渡「うん、うん」

江口「年数もそうですし、こういう着地点も。最後に『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』って言えたっていうのも自分の中では感慨深いですし。早見さんも仰ってましたけど、本当に色んな感情を貰ったなっていう」

早見「うん」

江口「平塚(静)先生がね、『好き』だけじゃ語れない、色々な感情があって、それが『本物』なんだっていう、、、今まで我々を苦しめてきた『本物』っていう言葉? 『本物』ってなんだ?って思ってたけど! 一言じゃいえない事が本物なんだっていう『本物』探しの着地を見た気がして」

早見「そうですねー」

東山「平塚先生の一言一言が本当良くて。グチャグチャにして、全部ひっくるめて君が『スキ』だよのくだりもそうだし、陽乃さんが言った『共依存の呪い』を解いたのも平塚先生だったと思うし。「そんな一言でくくるなよ」みたいな。なんかね、、、原作にいっぱい付箋が貼ってあります」

江口「凄いですからね、奈央ちゃんの持って来た原作の付箋の量」

東山「渡先生からね、『ページ数以上に付箋が貼ってある』って」

 

茶渡「話は尽きないところでございますが、改めまして皆さん、ここまでの応援本当にありがとうございました」

 

   出演者一同、観客に礼。

   観客、拍手。

 

   幕間。

   再び江口、茶渡渡航の登壇。

   関連情報告知コーナー。

   ゲーム版『俺ガイル。完(諸々未定)』用OVA、一部先出し。

 

   ※配信には乗っていませんが、ここで結衣の「まあ、クズなんだよね」発言で会場拍手起こりました。

 

江口「奉仕部の小町、熱いっすね」

渡航「良い絵面だよ」

茶渡「内容的には、読んだことあるぞ? という方も」

渡航「その予感は大当たりです」

茶渡「それを見れちゃうという訳ですね」

 

   グッズ紹介。

   ※受注期間 ~1月31日(日)23:59まで.

 

茶渡「そしてもう一つ。最新情報です」

江口「来たあ」

茶渡「こちらです!」

 

   スクリーンにタイトル。

 

  新プロジェクト決定!

  やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 』

 

渡航「『完』を作ったからには、『結(けつ)』を作ろうと。『結』がどうなるのか、これはもう私の口からは申せません」

江口「意味深だなあー!」

茶渡「超気になるよー?」

渡航「皆さん、凄いもうモヤモヤしてね、、、? 考察しておいてください。『どういうことだろう』って」

江口「マジでどうなるの?」

渡航「どういった形でかはまだわからないんですけれども、皆さんの元へまた新しいプロジェクトをお届けする気で、私はここ最近ずっと不眠不休でございます」

江口「寝て」

茶渡「寝ろ」

渡航「楽しみにお待ちいただければと思います!」

えぐわたちゃど「よろしくお願いいたします」

 

   ライブコーナー開始.

 

三曲目.由比ヶ浜結衣(CV.東山奈央)『Lの感情』

 

四曲目.雪ノ下雪乃(CV.早見沙織)『エブリデイ is パーフェクト』

 

五曲目.比企谷八幡(CV.江口拓也)『無様な青春を』

 

六曲目.一色いろは(CV.佐倉綾音)『今という未来へ』

 

七曲目.戸塚彩加(CV.小松未可子)『僕たちダイアリー』

 

八曲目.やなぎなぎユキトキ

 

九曲目.雪ノ下雪乃(CV.早見沙織)& 由比ヶ浜結衣(CV.東山奈央

    『Hello Alone』

 

十曲目.やなぎなぎ春擬き

 

十一曲目.雪ノ下雪乃(CV.早見沙織)& 由比ヶ浜結衣(CV.東山奈央

    『エブリデイ・ワールド』

 

   ライブ演出の雪舞うステージ。

   曲終えた昂揚とパネルから解放され、壇上でイチャつく早見、東山。

 

茶渡「あら。あらあらあら」

 

   一同、ステージ再登場。

   江口の全身に大量の『ぼっち』シールが貼られている。

 

江口「雪が、、、」

東山「雪も凄いけど江口さんも凄いんですけど!?」

早見「あれ!?」

江口「本当やめて貰っていいですか? 実はトークコーナー盛り上がっちゃって、『ぼっち王決定戦』っていうバラエティコーナー削ったんですよ。その為に作られた『ぼっち』シールが余っちゃったんですね? ええ。悪いのはみかこし・あやねるですね」

 

   佐倉、キョトンとした表情。

 

江口「『余ってるなら貼っちゃおうぜ』って言って、この二人(渡航茶渡)使って『そこ、そこ、そこ』って全身貼っていったんです」

東山「ポイントはどこになりますか?」

佐倉「まず横向いてもらっていいですか? パーカーとパンツの割り印として貼ったシールがお洒落。靴に貼ったシールもアシンメトリーでお洒落。そしてお尻に貼ったシールも、わたりんと茶渡さんそれぞれに貼ってもらって、一人ずつのお尻」

 

   江口、全身シール貼られた状態で横を向き、靴を見せ、尻を見せる。

 

早見「ランウェイ

佐倉「あと脇の下」

 

   江口、脇を見せ、片手上げてポーズ。

 

茶渡「カッコイイ」

佐倉「あとパーカーに記されたキャラ名の八幡のところに貼ったシールと、フードの下に貼ったシール。それから、そのまま顔洗っても紐ダランってならないように紐もシールで留めて、、、」

江口「この尺要らないから! いいコーナー始まるんだからここから」

茶渡「俺、なんか言いづらいんだけど、仕切り直しますよ? 『俺ガイル』シリーズは一旦終了となりますので、今まで自分が演じてきたキャラクターへの思いを、皆さんに綴ってきていただきました。そしてその手紙を読み上げてもらったあと、『俺ガイル缶』に詰めて、渡先生の自宅に飾ってもらおうと思います」

 

   とっ散らかった空気の中、ステージ中央に『俺ガイル缶』登場。

 

東山「俺ガイル完じゃなくて、俺ガイル缶なんだね?」

茶渡「それでは、まずは中原さんからお願いします」

中原「やりづらいわ!

茶渡「本当にごめんなさい」

中原「雰囲気作ってみてもらえると嬉しいです」

 

   会場にBGM。

 

中原麻衣さんから雪ノ下陽乃への手紙

 

『 陽乃さん 

 

  初めてあなたに出会ってから、そろそろ八年になりますね

  はじめは、あなたが何を考えているのか全然理解できなくて、

  絶対に友達になれないタイプの人だなって思ってました。

  でも、長い年月あなたと向き合ってきて、

  私の気持ちも徐々に変化してきました。

  あなたは、とっても可愛い人。

  大切な人にしか向けられない怖いくらいの愛情や、

  他人には理解できない天邪鬼っぷり、

  すべてが振り切っていて、見ていて気持ちがいいです、

  器用に見えて、実は不器用なだけなんだって気付いた時、

  そんなあなたが可愛くて仕方がないって感じている自分がいました。

  今では、あなたと出会えたことに本当に感謝しています。

  ありがとう。

  あなたがこの先どんな人生を歩んでいくのか

  とても楽しみです。 精一杯、幸せになってね。

  また、人生のどこかの時間を

  私と共有してくれる日が来ることを願っています。

 

                        またね 』

 

中原「まさかこんな流れで読むことになるとは」

江口「素敵」

早見「江口さん、その衣装で読むんですよ?」

江口「やだよー。時間巻き戻ってくれ」

早見「時を戻そう」

江口「時を戻そう」

 

小松未可子さんから戸塚彩加への手紙

 

『 彩ちゃんへ

 

  改めまして彩ちゃん 小松未可子です。

  実は俺ガイルのオーディションは

  彩ちゃん以外にも受けていたんだよ?

  そして彩ちゃんに決まって、結果を聞いた時は

  スフィアさんのLIVEの休憩中だったんだけど、

  トイレですっごい喜んだなぁ。

  そしてスフィアさんのLIVE最高だったなぁ。

  私史上最高に可愛い男子との出会いは、ここから始まった訳です。

  彩ちゃんを担当するに当たって、どう演じようか悩んだ時

  私の中学時代に実際にいた、めちゃカワ男子を思い出したんだ。

  ぐっちょんって言うんだけどね。

  それこそテニス部で、髪型も似ていて、華奢で、お肌の透明感凄くて、

  トニカクカワイイところが本当にそっくり

  ノートに猫みたいなゆるキャラの落書きしてくれるんだよ完璧かよ!

  私の中の、彩ちゃんの可愛い像は、

  そのぐっちょんからインスピレーションを受けています。

  そのぐっちょんも、もう32歳。

  Facebookで見たら、

  めっちゃヒゲの生えた男前になって結婚してました人生って凄いね!

  彩ちゃんがどんな大人になるのかとても楽しみ。

  大人になっても、声変わり、あんまりしないでね。

 

                      またね、彩ちゃん 』

 

江口「ぐっちょん、見てるかなぁ」

早見「彩ちゃんもそうなるのかな」

 

佐倉綾音さんから一色いろはへの手紙

 

『 親愛なる一色いろはさんへ

 

  もはや一人のキャラクターとしてではなく、一人の人間として

  あなたを受け止めてしまっている節があるかも知れません。

  それくらい、俺ガイルという作品の解像度は高く、

  沢山感受性を揺さぶられた作品でした。

  周りからの見え方は違うかも知れないけれど

  思考の本質は、あなたと私、少し似ている気がします。

  演じていて共感することも多々ありました。

  あなたの生き方だと、この先も悩んだり苦しんだりすることが

  多いかも知れないけれど

  これからもあざとく、気高く、進んでいってください。

  あなたの人生の一部を担うことが出来て、とても幸せです。

  大切な私の人生の一部になりました。

  いつか、

  (いろはの声になって)

 

  『あなたが私の声で、まあまあ幸せでした』

 

  って、飾らないあなたに言ってもらえる日が来たら、最高です。

  これからも、たまに混じり合いながら、共に生きていきましょう。

  八幡とか言う奴より良い男見つけような。

 

                   あなたの声帯 佐倉綾音より 』

 

   佐倉、手紙を缶に入れながら江口を一瞥し、

佐倉「あの男より

 

東山奈央さんから由比ヶ浜結衣への手紙

 

『 結衣

 

  結衣と初めて出会った時、私はあなたの事が

  大好きだなって思ったよ。

  一緒にいると明るい気持ちになれて、応援してあげたくなる。

  一生懸命なあなたがとても可愛くて、ただただ大好きでした。

  そして、長い月日を共にして今私が思うのは、

  結衣はとても凄い子だってことです。

  よく頑張ったね。

  いっぱい考えて、いっぱい涙を流してきた結衣を、

  私は心から尊敬します。

  これから色んな人に出会うだろうけれど、

  ヒッキーは結衣にとって、いつまでもたった一人の人なんだと思います。

  今は少し苦しいけれど、

  それくらい『好き』ってだけじゃ言い表せない人に出会ってしまったんだよね。

  でも、クッキーが上手く作れるようになったように、

  結衣はこれからも、誰も知らないところでだって頑張るんだと思います。

  そういう子はね、大丈夫だよ。

  ちゃんと神様が見ていてくれると思います。

  ヒッキーもゆきのんも、いろはちゃんも優美子たちも

  みんな感じてくれています。

  (少し涙をのんで)

  あなたはとても愛されている。

  大切な青春、大切な恋に一緒に向き合わせてくれてありがとう。

  結衣。幸せにならなきゃだよ。

 

  また『やっはろー』って言い合えますように。

                           奈央より 』

 

早見「なんかどんどん、どんどん降り積もっていきますね」

 

早見沙織さんから雪ノ下雪乃への手紙

 

『 雪ノ下雪乃さんへ

 

  こんにちは こうしてお手紙を書くのは、

  記念日に家族に手紙を書くようでなんだか少し不思議な気持ちです。

  雪乃さんと最初に出会ってから、もう十年の月日が経つのですね。

  第一印象は、才色兼備、孤高の人

  でも知れば知るほど、面倒臭くって、最高に可愛くて

  歓び、哀しみ、切なさ、悔しさ、いとおしさ

  時には目を向けるのに勇気が要るようなものも含めて、

  色んな感情の扉を、一緒に見つけていけた気がします

  私の声が、声帯が、

  雪乃さんの繊細で複雑な心をどれだけ形に出来たのか

  私としては、まだまだもっと足りないと思うところもあったけれど、

  それでも、あなたとシンクロ出来た一瞬一瞬は、

  魂が震えるような気持ちだったし、かけがえのない宝物です。

  ありがとう。 私の元には沢山の、あなたへの思いを語る、

  俺ガイルファンのみんなからのメッセ-ジが届いています。

  いつか、一緒に並んでそれを見られたらいいなぁと思います。

  そして、どうやらこれからも、嬉しいことにまだまだ、

  あなたと、俺ガイルと共にある日々は続くようです。

  今後ともよろしくお願いします。

 

  あなたが大好きよ。雪ノ下雪乃さん。  

                          また明日 』

 

江口拓也さんから比企谷八幡への手紙

 

『 比企谷八幡

 

  小寒の候、まだ来ぬ春が待ち遠しく感じられますが、

  如何お過ごしでしょうか。

  僕が俺ガイルに、八幡に出会って、もう十年。

  十年弱。九年? 八、九年経ちました。

  早いものです。時間が経つのってあっと言う間ですね。

  僕は八幡を演じることで、良かったなと思うところと、

  悪かったなと思うところがあります。

  良かったところは、客観的に物事を捉える術を教えてもらったところ。

  今でも人生に於いて、とても役だっています。

  悪かったところは、客観的に物事を捉え過ぎて、

  他人を信用しなくなったところ。

  その結果、ぼっちが加速したところ。

  ハッキリ言って、プラマイで言うと、マイナスです。

  でも、だからこそ、大切なことに気づけました。

  それは、そんなマイナス人間にも普通に接してくれる、

  善い人たちが判るようになったところです。

  僕に関わってくれる人は、みんないい人だ。

  だから、そういう人たちを大切にしよう。そう思えました。

  八幡は確かに面倒臭いし拗れているけれど、

  自分の心の半径に入った人間を物凄く大切にする、

  めちゃめちゃイイ奴です。

  わたりん、そんなイイ奴に僕を選んでくれてありがとうございます。

  これからもよろしくお願いします。

  最後に

 

  寒さ厳しい折、これからもご自愛ください。 』

 

茶渡「これで皆さんのお手紙が缶の中に入りました。渡先生、如何ですか?」

渡航「本当に、なんと言いますかね。こんなにキャストさんがキャラクターのことを愛してくれる作品は他に無いんじゃないかというか。ちょっとごめんなさい」

 

   渡航、込み上げる。

 

茶渡「わかるよ。これはリハしてないからね」

渡航「あのー、、、(江口を見て)何て格好してるんだお前は

佐倉「合ってましたけどね」

小松「『ぼっちが加速して』のあたりピッタリでした」

江口「確かに加速しとるわ、吃驚した」

渡航「本当に原作者冥利に尽きる、幸せな現場でした。この缶はですね、子孫代々、伝えていこうと思います、、、子孫が出来るかは別の話ですが、最悪自分の墓場にそのまま入れるつもりでおりますので」

茶渡「いいんだよ、それは。ではですね、そろそろお別れの時間が近づいてまいりましたが、ここでもう一曲、聴いていただきたいと思います。はやみん、奈央ちゃん、お願いできますか?」

 

   コソコソ話していた早見、東山、すでに込み上げてる涙を拭きつつ、

 

早見「いや。今、渡先生の表情を見て一緒にね?」

東山「ね」

早見「色々思い出して」

東山「胸がいっぱいで」

早見「ですが、いきますか」

東山「いきましょう。万感の思いを込めて届けよう」

早見「じゃあ、歌わせていただきます」

茶渡「それではよろしくお願いします」

 

   いつのまにかステージには早見、東山の二人きり。

 

早見「呼吸を整えないとなかなか」

東山「みんなの心の奥底に触れた。『本物』のね、気持ちを」

早見「グルグルしてる、今」

 

   ステージ暗転。スポットライト。

   早見、東山、向き合う。

 

早見「やっぱり『完』に於いてのこの曲は、一緒に歌いたいねっていうところで。じゃあタイトルを一緒に言って、始めましょうか」

東山「うん」

早見・東山「『ダイヤモンドの純度』」

 

十二曲目.雪ノ下雪乃(CV.早見沙織)& 由比ヶ浜結衣(CV.東山奈央

     『ダイヤモンドの純度』

 

   全員、ステージ再登壇。

 

茶渡「本当に時間が経つのは早いですね。ついに時間が来てしまいました。

 皆さん、『俺ガイルFes.-FINAL-』如何でしたか?」

 

   会場、拍手。

   登壇者一同、今までの応援へのお礼とメッセージ。

 

やなぎなぎ「今日、難しい状況の中、会場にいらした皆さん、そして配信でご覧頂いている皆さん、そしてキャストの皆さんと一緒に『俺ガイルFes.-FINAL-』を楽しめたこと、とっても光栄でございます。

 『俺ガイル』は私の音楽活動の主軸と言っても過言ではないくらい、長くご一緒させていただいて。国内は勿論海外でも、俺ガイルの曲を歌い出すと『わあー』って歓声をもらって、とても嬉しいことが沢山ありました。

 今日もすごく楽しいんですけど、原作者の方が歌うイベントってなんなんだろうって」

江口「(爆笑)」

 

   会場、拍手。

 

渡航「な、なんなんでしょうね(笑)」

なぎ「それだけ生み出した作品を愛して、そして皆さんを巻き込んでいることも素晴らしいことだと思います。

 作詞をさせていただく時、いつもリクエストをお訊きしていたんですけど、『やなぎなぎの思うままに』って言っていただいて、信頼していただいていることが嬉しくて。原作を読み込んで。俺ガイルから、自分の中には無かったインスピレーションを沢山頂きました。

 アニメ完結だよって聞いて、歌詞書き終えたらもう終わっちゃうと思って寂しかったんですけど、『芽ぐみの雨』にも書いた通り、物語は一度生まれたら、目に見える形じゃなくてもどんどん成長したり、続いたりするものだと思いますので、『ユキトキ』『春擬き』『芽ぐみの雨』と共に、皆さんの中で物語がどんどん続いていったらなと思います。

 本当に長い間関わらせていただいて、ありがとうございました」

 

中原「キャスト、原作者、スタッフ、お客さん、配信視聴者の皆さん、愛に包まれたイベントに参加出来たことが凄く幸せでした。

 お家に帰るまでがイベントです。私たちも気をつけて帰るので、皆さんも気をつけて帰って下さい。今日は本当にありがとうございました」

 

小松「一番最初のイベント以来の参加だったんですけど、十年ずっと続いていた作品という訳ではなくて、時々みんな離れて、また一瞬再会して、会う度にみんなが強く、絆が強くなっているのはとても素敵な作品だなと思いました。

 物語はどんどん複雑になってしまうけれど、そういう感情をみんなで共有、共感して、たまに『違うな』って思ったり、そういう色んな気持ちがあったからこそこうしてみんなが愛して、色んなものを見つけにここへ来てくれたのかなって思います。

 私もこうして一つの、間違った青春を非常に楽しく過ごさせていただきました。

 今後も彼らの人生は続いていきますので、何かまた、あるんでしょう。

 『結』ですか。何の『結』かさっき我々話していたんですけど、二つくらい解釈あるんですけど、、、言いません」

 

佐倉「十年続くって、本当に選ばれた作品だけが成し得るものだったりするのかなって思ってしまいます。その間を学生時代駆け抜けた、場合によっては追い越した人、もしくは最初から追い越してる人もいるかなと思うんですけど。もしくは最初は小学生だったのが完結をもって八幡と肩を並べる人がいるんだなって。

 私はあんまりのめりこみ過ぎると役者は危ないので、しないようにしようと思っているんですけど、「本当に実在してるかも」って。「この世界のどこかに彼女たちがいるのかも」って思うと本当にたまらない気持ちになるし、学生時代に『俺ガイル』に出会ってたら人生ダメになってただろうなって思うので。

 でも本当に人生を動かされた人もいるくらい、心のある作品だったなと思います。

 私は嬉しい『完結詐欺』だなって、『結』を思うようにして。

 だって『結』だっていつ出るかわかりませんもんね?」

茶渡「(渡航に)言われてるよ?」

佐倉「千葉に来て歌われたりしてますけど、マジ仕事しろ。いろは的にはね。皆さんで完結詐欺に巻き込まれながら、楽しい日々を紡いでいきましょう」

 

東山「1コーナー飛ばしてもみんな気持ちを語りきれなくて。こういうご時世だったので作品が完結しても打ち上げが出来なかったりして。スタッフさんにお礼を言う機会もなかなかなかった中、こういう機会を頂けて、一緒に盛り上がることが出来て、本当に幸せだなって思いました。

 舞台袖で『ユキトキ』を聴いて当時の気持ちを思い出したんですよ。

 私、声優活動十周年って言って去年駆け抜けてきたんですけど、俺ガイルと私のキャリアはずっと共にあったと言っても過言ではなくて。

 ユキトキ』を聴いていた時はこれからどんな、笑って、笑って、笑って笑って、の作品との日々が続くのかなと思っていたら、『続』『完』と来て、随分遠くまで感情が来たなって思って。難しいお芝居が続いたんですけど。台詞以上に空気感みたいなものが俺ガイル世界にはあると思っていて、それを演じることが出来るのは役者冥利に尽きるなって思いました。

 色んな最終回がありましたけど、みんなで盛り上がったり、泣いたり、色んな現場があるんですけど、最終回終わって、(早見)さおさんと固く握手をして、そういう風に終わる作品って俺ガイルだけだったんで、それが全てだなって。

 これからも人生の宝物にしていただけたら嬉しいなって思います。

 また『やっはろー』って言い合いましょう。ありがとうございました」

 

早見「十年っていう長さを雪ノ下雪乃さんと歩いてこれて、本当に幸せな気持ちです。『俺ガイル』のラジオをやっていると、メールを送ってくれるリスナーさんが本当に様々な世代の人、そして皆さんの十年の移り変わりを感じるなと思っていて。

 そして世界全体も、まさか、あの時はこんな風になるなんて誰も予想していなかったし、どんどん時代は移り変わっていって、私たち自身も変わるところ、変わらないところ、いっぱいあると思うんですけど、それでも『俺ガイル』の中には本物があるなと私は思っていて。

 確かに人間不信になることもある、自分の見たくないものを見せられることもある作品なんですけど、だけどもう一回、、、もう一回だけ、誰かを、人を、信じてみようかなって思える、そういう作品だと思うので」

 

   早見、涙堪え、

 

早見「あれ? こんな感じになるつもりでは無かったんですけど。これからも、皆さんが帰ってきたい、本物に出会いたいって思った時に、この作品に帰って来て下さい。また続きでお会いしましょう」

 

江口「渡航先生と僕同い年で、今まで見てきたものも同じで、近くで物を作ってる姿をずっと見てきたんですけど、物凄く愛があるんですよ、作品に」

 

   江口、涙堪え、

 

江口「これだけ愛を以て作品を書いてくれて、やなぎさんも曲を作ってくれて、アニメーターさんが描いてくれて、役者陣がぶつかり合えて、皆さんが応援してくれて、嬉しかったです。すいません、まとまりません。ありがとうございました」

 

渡航「俺ガイルFes.これが最後ということで、、、これで私も、普通の男の子に戻れます」

 

   渡航、涙堪え、

 

渡航「誰一人欠けても、こういう結果にはならなかったと思うので。演者さんも、スタッフさんも、そして皆さんも、君がいるから俺ガイル、という。その感謝の一念だけでございます。本当にありがとうございました」

 

   茶渡も若干涙堪え。

   ここで渡航にサプライズの花束とアクリルプレート贈呈。

 

渡航「ああ。こういう時に上手くリアクション取れない」

東山「本当に、宝物を生み出してくれてありがとうございました。お体、大切に。『結』待ってます」

 

   渡航から逆サプライズ。メインキャストへの手紙。

   渡航、メインキャスト三名、司会の茶渡も? ずっと涙腺緩んでいる状態。

 

渡航から東山奈央さんへの手紙

 

『 東山奈央

 

  今から十年ほど前 2011年の事です。

  最初にあなたの声を聴いた瞬間、手元の赤ペンで大きく丸を書いています。

  印象的だったのは、声音ににじむ明るい笑顔でした。

  このお手紙をしたためるにあたって過去のデータから発掘したオーディション当時の自分のメモ書きには、

  『一番イメージに近いかな。アホっぽくて嫌いじゃないぜ。しっとりもいける感が。前向き感、好きだなぁ』

  と、あります。どこの誰?って感じのコメントなのですが、個人的なメモなので。

  声とお芝居から受ける第一印象は明るく天真爛漫、けれどしっとりと思慮深く、下を向いてもまた前向きに歩き出す、そんな感じでした。

  実際にお会いして、そのイメージはますます強まっていった気がします。恐らく誰よりも一番多く質問をしに来た方なのではないでしょうか。

  アフレコが始まる前や休憩時間終わった後、いつもまっすぐな視線でそのまま倒れ込みそうなほど前のめりにお話するあなたはとても眩しく、また恐ろしい存在でした。質問されるたびに私は思いました。

  、、、もっと苦しめ、もっと悩め、もっと曇れと。

  もっと上手く僕がお伝え出来れば良かったのですが、足りないピースをいつもあなたが埋めてくれました。あなたほどひたむきにキャラクターと向かい合う人を他に見たことがない。なんなら怖い。

  でもですね、

  あなたの苦悩が由比ヶ浜結衣という少女を少しずつ大人にしていき、一緒に流してくれた涙が暗い影を落とし、だからこそ輝くような青春を照らし出したのだと思います。

  あなたが悩んで苦しんでくれたから結衣が存在しています。

  本当にありがとうございます。

  由比ヶ浜結衣という女の子をあなたに演じていただいて本当に良かった。あなたに託して本当に良かった。あなたを選んだ人は本当に天才だと思います。

  収録で私を泣かせた役者はあなた唯一人です。十年近くに渡り、本当にお疲れ様でした。

 

  またいつか、『やっはろー』と元気な声が聴けることを願って 』

 

渡航から早見沙織さんへの手紙

 

『 早見沙織様 

 

  かれこれ十年近くお仕事ご一緒させて頂く中、あなたには未だに驚かされ続けています。

  オーディションでこれ以上ないと確信したにも関わらず、1シーンごと、1テイクごとにその確信を更新していくあなたに、私は恐怖していました。

  オーディション当時の私の個人的なメモには、

  『バカウマじゃないですか。優しさをちゃんと出してくれそうなのがいいな。あの文章でちゃんと印象を摑んでる』

  率直な感想だった思います。驚きと納得、それ以上に恐怖が滲んでいます。

  オーディション用の台本や資料は限られた状態です。キャラクターの裏も、先もわからない状況です。なんなら俺もわかってなかった。

  だというのにその芝居を聴いた時、私の中にしか存在していなかった筈の雪乃像を読み解かれた。端的に換言すれば、このままではキャラクターが負けると思いました。記号的なキャラクター、単純な表現では太刀打ちできないと。その時、私の覚悟が決まったような気がします。

  雪乃へのリテイクは独特の緊張感があります。

  だって合ってるんだもん! 正解なんだもん、百点なんだもんと、そう思いながらもリテイクを出したくなる。あなたが七兆点を出す人だと知っているからです。

  朗らかな微笑みを浮かべながらも台本に視線を落とし、つぶさに文字を拾っていく姿に、私はいつも期待を寄せずにいられませんでした。第三期にいたっても尚、たった一言で鳥肌が立つ。その瞬間のなんという幸福なことか。

  あなたがいなければ、雪乃はあんなに素敵な女の子にならなかった。

  引き出したものを更に越えてくれるという、絶対の信頼がありました。

  雪ノ下雪乃の多くの魅力をあなたが引き出してくれました。

  きっと十年先も二十年先も何十年先も、私はあなたの芝居に驚かされ続けると思います。雪ノ下雪乃を生み出してくれてありがとうございました。

 

  また、冷たくも愛らしい芝居でもって、柔らかに罵倒していただける日を、心待ちにしています。 』

 

渡航から江口拓也さんへの手紙

 

『 江口拓也くんへ

 

  特にないです。

 

  、、、改まって何かを伝えるのはどうにも照れくさく、ちゃんと言おうととするととんでもなく長くなってしまいそうです。

  思えば君との距離感は、いつもそんな感じだった気がします。

  遊び場でも居酒屋でも家でも、どこかに遊びに行っても。

  最初の頃はもっと距離を詰めていったほうがいいのかと思っていましたが、いつしかあなたとはヌルっとした時間を過ごすようになっていました。そうした空気は気付けば仕事場でも感じるようになった気がします。

  それは江口拓也が座長として、この現場で作り上げてきてくれたものなのでしょう。君が現場の中心から60センチほど外れた場所で、まとめるでもなくまとめてきた雰囲気。それが十年たった今でも変わらず存在してくれていることが、私はとても嬉しい。時間が空いてもヌルッと『完』の収録が始まることが出来たのは、君のスタンスが変わらなかったからだと思います。

  正直に告白すれば、八幡役のキャスティングは本当に悩みました。

  江口か? 違うか いや江口か? そんな自問自答をしていました。

  アフレコが始まってからは江口拓也の芝居に悩むことになります。

  君は「いや、そうはならんやろ」、そんな芝居も平気でも持ってくる。「ちょっと変えて」というだけで何もかもを変えてきたりする。かと思えば一発でドンピシャの芝居を持ってくる。ドンピシャ過ぎて逆にテストの時の方がいい。なのに、聞こえないんじゃないかというくらい情けない声がハマった時は、泣きそうになる。

  一緒にやっていてこんなに楽しい役者もそうそういない。

  君が沢山間違えてくれたから、私はこの作品の正解を導き出すことが出来たのだと思います。 

  格好悪い芝居が、こんなに格好良い役者は他にいない。

  本当に、俺ガイルを、八幡を、一緒に作れて良かった。

 

  これからも座長として、まだまだ情けなくて格好悪いところを、沢山見せてください。 』

 

茶渡「それでは皆さん、本日は誠に」

一同「ありがとうございました!」

 

   一同、観客に向けて礼。お辞儀をして、去って行く。

   紙吹雪と雪の跡。

 

 

                   『俺ガイルFes.-FINAL-』閉演.