アニメ映画の採点 その5

 

久しぶりとなりましたが、アニメ映画の採点第5弾、「映画の採点」シリーズとしては第19弾です。

 

簡潔にルール再確認。

・まず映画は採点などするものではない 採点するのはやめろ

・アニメ映画はアニメ映画内での採点基準でちょい甘め

・ルールとか気分次第

 

10年代の劇場版アニメは大体見てきたという自負があった為に、「見逃した作品を落穂拾いしていこう、でもどうにも見るの億劫な作品多いな」と思って自分に縛りを設けて一年半前に始めた枠組みでしたが、本記事で百本到達しました。

「もはや全然新作劇場アニメ見てない」「億劫だった作品はまだ半分くらい見逃してる」と、一年半前の自分でも想像付かない着地点におります。

劇場版アニメ、本当に多い。。。

 

 

 

Tokyo 7th シスターズ ─僕らは青空になる─』

【評価】B

【監督】北川隆之

【制作国/年】日本/2021年

【概要】アイドル氷河期2034年。『777(スリーセブン)☆シスターズ』は世話になった八角支配人のアイドル劇場(”箱スタ”)が、滑川コンツェルンの息子によって廃業に追いやられている事を知り、自分達の力で劇場を満員にして経営を継続させようと意気込む。しかし滑川の妨害は卑劣さを極め……。

【感想】

 覚えきれないアイドルを12人も紹介されたり、敵役の強引さによって無理矢理肯定させようとしてもこちらにはアイドルを応援するだけの定義づけ(後半では何重にもしっかり定義づけされる)を頂いてない状況だったり、序盤は失敗してると思うのだけど、そこから先の構成は気持ち良く決まっていった。何より、よく知らないコンテンツをよく知らない人たちが作っているのに画面がずっと崩れない安心感。

 

チョコレート・アンダーグラウンド

【評価】E

【監督】浜名孝行(図書館戦争 革命のつばさ)

【制作国/年】日本/2009年

【概要】「健全健康党」に支配された国。そこではチョコレートは悪と見做され、密売は厳しく取り締まられていた。子ども達は憤る、大人たちが選挙に無関心だからこうなったんだ(ドン!。ある日、中学生のハントリー、スマッジャー、ルイーズは地下で行われる「アンダーグラウンド・チョコレート・パーティー」の場に遭遇し……。

【感想】

 アレックス・シアラーのYA小説をアニメ化。本書をきっかけに作中出てくるトラブローネはじめ海外の駄菓子にハマった程思い入れがあるのだけど、このアニメ版凄いのが出てくるチョコが板チョコ、ポッキー、チョコがけのドーナツ…… そしてまったく美味しそうに見えないし見せる気もない。このタイトルでチョコひとつまともに描けていないということは、他の部分は推して知ってください。

 

蟲師 特別編 鈴の雫』

【評価】A

【監督】長濱博史(悪の華

【制作国/年】日本/2015年

【概要】蟲師ギンコは、旅の道中「山の主」に出会う。それは少女の姿をしていた。続いて妹のカヤを探す青年・葦朗と出会う。カヤは生まれた時から体から草が生える不思議な少女で、ある時を境にいなくなってしまったという。ギンコはカヤは山の主なのだと伝えるが、確かに家族として共に育ったのだと葦朗はカヤを諦めきれず……。

【感想】

 『蟲師』を見る時は音のボリュームを上げるルーティーンを数年ぶりに再現。その効果は抜群で、あぁだからこの話を劇場公開用にやりたかったのだなと納得。傍観者であったギンコが自然の法則と対峙しモノ言いをする、という異色の回でもあって、蟲師の最終回としての趣きも深い。

 志向性のピーキーな奇才・長濱監督の劇場用アニメ、という点でも貴重。

 

『STAND BY ME ドラえもん

【評価】

【監督】山崎貴ジュブナイル

    八木竜一(Friends もののけ島のナキ

【制作国/年】日本/2014年

【概要】情けない少年のび太の様子を嘆いた未来の子孫セワシは、のび太の元へ猫型ロボット・ドラえもんを送り込む。このままでは将来ジャイ子と結婚すると脅されたのび太は、憧れのしずかちゃんと結婚したくて奮起……するかと思いきや、ドラえもんの道具に振り回されて右往左往。一体のび太の未来、どうなっちゃうの~。

【感想】

 原作の話を繋いだだけなので最終的にジャイアンが三重人格くらいになる脚本のダメさ、ピクサーもどきの、けれど決してピクサー的な面白さを踏まえていないキャラのオーバーアクトのやかましさ、そうした弱点をつい誤魔化されてしまいそうになるくらいには、本筋と全然関係ないCGアニメの見せ場のカメラワークは面白かった。

 原作を繋いで長編にするという試み自体が作り手の中では冒険で(観客としては他人の褌としか思えないが)、それで成立させるところで満足してしまったのでは。

 

『STAND BY ME ドラえもん2』

【評価】

【監督】山崎貴アルキメデスの大戦)

    八木竜一(STAND BY ME ドラえもん2)

【制作国/年】日本/2020年

【概要】今は亡きおばあちゃんの思い出に触れたのび太は、ドラえもんの助けを借りて過去にタイムスリップする。「のびちゃんのお嫁さんに会いたい」というおばあちゃんの願いを叶えようと今度は未来へ飛ぶが、前作の騒動を経て無事結婚式を迎えたはずの大人のび太は、式会場から逃げ出しており……。

【感想】

 やっぱり個別の話を無理矢理繋げている違和感が拭えない。

 ところで大山のぶ代のドラ達はこんな観客に媚びた芝居をしなかった筈で、うるさいだけで可愛げもないのび太達は【STAND BY ME】の問題なのか、もしかすると「わさドラ」全体が孕む問題なのか。わさドラ映画もうちょっと見ようかな。

 

アタゴオルは猫の森

【評価】A

【監督】西久保瑞穂ジョバンニの島

【制作国/年】日本/2006年

【概要】ますむらひろしの長寿漫画『アタゴオル』シリーズの劇場版CGアニメ。ヒデヨシ達が愉快に暮らすアタゴオルの森で、バラの闇の女王ピレアが復活する。ピレアを倒す鍵である輝宮彦は、復活して最初に目にしたヒデヨシを父と認識し懐くが、ヒデヨシは世界の危機など我関せず、自分の腹さえふくれればいい猫であり……。

【感想】

 カールスモーキー石井の音楽で綴るミュージカルアニメ。不条理な世界と輪をかけて不条理なヒデヨシのせめぎあい。スナフキン的なギルバルスの格好良さ。何よりもふもふしたCGアニメの完成度が高い。後年作られ失敗する数々の作品より遙かに早く、日本のCGアニメの到達点を一つ見せていたことに驚き(制作はデジタル・フロンティア)。

 

『デート・ア・バレット』

【評価】B

【監督】中川淳(劇場版 ハイスクール・フリート

【制作国/年】

【概要】『デート・ア・ライブ』スピンオフ。かつて災厄と呼ばれた精霊たちがいた世界、隣界。しかし今ここにいるのは準精霊ばかり。そこへ舞い込んだのは、何故か命を落としたらしい時崎狂三だった。その時、何者かの声がする。ここに集められた八体の精霊、準精霊の中で、生き残れるのはただ一人。存分に、殺し合ってください……。

【感想】

 数冊分の小説を、あえて一時間のバトルロイアルという形で大胆に再構築したものとの事。九割方失敗しそうな試みなのに、不思議と成功している。デトアラでは狂三が推しというひいき目抜きにしても、最初の頃見ていたTVシリーズより面白かった。

 デスゲームなのに露悪に陥らず、皆な魅力的に描かれているのも好感。

 

『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』

【評価】E

【監督】浜名孝行(チョコレート・アンダーグラウンド

【制作国/年】日本/2021年

【概要】『七つの大罪』の後日談。結婚を控えエリザベスと世界を旅していたメリオダスは、弟ゼルドリスとの再会を果たす。聖戦を終えて迎えた穏やかな日々。けれど好戦的な二代目妖精王ダリア、そして巨人族が大戦を始め、更に誰もが見過ごしていた「あの人」が全てを破壊する為に暗躍していた……。

【感想】

 序盤長々と新規もファンも喜ばないような紹介パートに割き、本編も「原作者ネーム」をそのまま起こしたかのような映画的感覚不在の弱さ(実際にそうなのかは知りません)。何より全編しつこく登場する必殺技のクレジットが、フォントから効果からタイミングから全てキマってない。なかなか映画に恵まれないタイトルですね。

 

『劇場版 新暗行御史

【評価】C

【監督】志村錠児(劇場版 どうぶつの森

【制作国/年】日本・韓国/2004年

【概要】大国・聚慎(ジュシン)が滅び荒れた世界。かつての暗行御史アメンオサ)だった文秀(ムンス)は、今は幽幻兵士(ファントム・ソルジャー)を召還して悪党や砂漠の怪物サリンジャーを倒しながら旅を続けていた。ある日、夢龍(モンリョン)という若者をサリンジャーの襲撃により目の前で死なせてしまい……。

【感想】

 旧トライガンや旧ベルセルクの気分で見れば荒涼とした世界、一匹狼、アクション作画、どれも満足のいく域。逆に「作画の良いTVアニメ最初の三話だけ」を見たようで、映画としての充足感に欠ける。2エピソードの数珠つなぎなので。ただ、こうした骨太系の日韓合作アニメまた見たいですね。藤原啓治主演映画があると思えば悪くない。

 

『HELLS ヘルズ』

【評価】

【監督】山川吉樹(ダンジョンに出会いを求めるのはまちがっているだろうか)

【制作国/年】日本/2008年

【概要】交通事故で生死を彷徨う女子高生:天鐘りんねの魂は、地獄にある「三途ノ川学園」に通う事になる。エルヴィスみたいなヘルヴィス学園長の規律の下、地獄のスケバン達と過ごすアナーキーな学園生活に突入したりんねは、一方でヘルヴィスに対抗する九頭龍らアウトロー軍団とも知り合う。この地獄に隠された秘密とは…?

【感想】

 2008年に東京国際映画祭でお披露目されて以来、長らくソフト化されていなかったという幻の一作。吃驚した、キルラキル』の雛形じゃん。山川監督にキャラデ&作画監督中澤一登で『B:THE BEGINNING』の座組。さらに「岸尾だいすけが演じる九頭龍という名前のキャラがいる」(『スーパーダンガンロンパ2』!)と、ともかくあらゆるミッシングピースが詰め込まれた一作。業界では有名なの?

 一本の映画でキルラキル2クール分に匹敵するかそれ以上の話が展開。正直このテイストなら90分くらいでコンパクトにまとめた方が良かったのではと思いつつ、この世には本当にまだまだ知らない面白アニメが沢山隠れてるものだと襟を正した次第。

 山川監督、あらゆるテイストに手を出しどれも一定の達成を見せながら、すぐに品を変えてしまうのでいつまでも評価も印象も代表作も定まらない人。

 

ルガーコード1951

【評価】C

【監督】高橋しんや

【制作国/年】日本/2016年

【概要】1951年、人類同士の戦争は終結したが、人類とルー・ガルーとの戦争が始まっていた。人狼(ルー・ガルー)同士の暗号「ルガー・コード」解読の為、平和を愛する天才少年テスタと厳格な軍人ロッサは雪の山小屋で捉えたルー・ガルー、ヨナガに接触する。しかし三人の軍人と共にルー・ガルーに包囲され……。

【感想】

 短編アニメの舞台立てとして「上手っ」、となる閉鎖空間、実態のわからないルー・ガルーのサスペンス、と話は十分面白い内容なのだけど、流石に『ラブ、デス+ロボット』の『秘密戦争』と比べはしないものの、渾身の短編として見るには各見せ場のアニメーションが物足りず。

 

『マイ・リトル・ゴート』

【評価】A

【監督】見里朝希(Pui Pui モルカー)

【制作国/年】日本/2018年

【概要】かくして母ヤギは、子供たちを食べたオオカミを殺し、その腹を割いて子供たちを救出した。けれど長男のトルクがどうしても見つからない。ただ胃袋で溶けた骨があるだけ。やがて母ヤギがトルクを見つけたと我が家に連れ帰ったのは……。

【感想】

 「『オオカミと七人の子ヤギ』の暗黒サイド」みたいな下世話な入り口から想像したホラー展開が、一気に卑近で現実的な恐怖に形を変え、それまで見ていたものさえ何か違った出来事に見えてくるマジック。

 センス・オブ・ワンダーを堪能しました。すごいや。

 

『ある日本の絵描き少年』

【評価】A

【監督】川尻将由(ステラ女学院高等科C3部)

【制作国/年】日本/2019年

【概要】絵描き少年シンジは、幼い頃お絵かきを褒められたことが嬉しくて絵を描き続けた。友達の障害者マサルが一緒にお絵かきしてくれたことも大きい。やがて絵を描き続けることがキモいと言われる年頃になっても、もはや引き返せなかった。いつか漫画家になるんだ。そんなシンジの夢に、年月は残酷な現実を突きつけていく。

【感想】

 キャラクターデザインとして映されるその時々のリアルな落書きの推移によってシンジの見てる世界、のみならず各キャラの見ている世界の違いが露わになる手法の発明が天才的。とは言え一人の青年の希望と挫折の物語としては正直凡庸で、『音楽』同様「凄いのはわかるけど」と思っていたところ、ラストの展開でやられた。

 

『劇場版 Dance with Devils-Fortuna-

【評価】

【監督】吉村愛(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

【制作国/年】日本/2017年

【概要】2015年に放映されたTVアニメの総集編劇場版ミュージカル。四皇学園に通う立華リツカは、図書館で生徒会長・鉤貫レムら学園の人気者イケメン達に危険な歓待を受ける。その日、兄の立華リンドが帰国しており、リツカに警告する。リツカはサタン、ヴァンパイア、エクソシスト入り乱れる陰謀の、渦中の存在であるのだと。

【感想】

 1クールを一時間に、それも各キャラのテーマを歌い繋いでまとめる力業が、結果的にミュージカル的(棒立ち)な飛躍の楽しさで満ちている。普通に考えて一時間で描ける内容じゃないし描き切れてないと思うんだけど(無から生じて殺される親友)、それでも誤魔化されたような気がするマジック、それがミュージカル。歌詞表記も楽しい。

 

『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』

【評価】A

【監督】黄強華、王嘉祥

【制作国/年】台湾・日本/2017年

【概要】ニトロプラスと台湾の最新型人形劇「霹靂(ピーリー)布袋劇」が組んだ『Thunderbolt Fantasy』シリーズの劇場版第一作。異色ライトノベル作家・江波光則原作のスピンオフ『殺無生編』がメインであり、珍しく鬱展開を中和する側に回った虚淵玄自身による笑える一期ファンアイテム『殤不患編』もオマケで付く二本立て。

【感想】

 既に故人となったキャラを振り返るスピンオフでその故人をイジメるんじゃないよ!一応本編の主役らしい凜雪鴉に対してマジ許せない感情を抱くこと必至の一作。本編が割とストレートなエンタメな分、江波が放つ本物の鬱展開が酷い(褒めてる)。

 殤不患編はパロディ回ながら、ヒーロー物の後日譚として踏まえるとなかなか興味深いオチ。

 エンドロールのメイキングで人形劇の可能性を浴びせられる。

 

『Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌』

【評価】A

【監督】黄強華、王嘉祥、鄭保品

【制作国/年】台湾・日本/2019年

【概要】劇場版第二作。東離での冒険譚以前、西幽での前日譚。天使の歌声を持って生まれ落ちた浪巫謠。母はその歌声を武器に変えることに執心し巫謠を追い詰め事故死。歌声を武器に世を渡り歩く巫謠だったが、残忍な皇女・嘲風の目に留まり、音楽を用いたデス・ゲームに参加させられる。しかし、その最中で不思議な女と出会い……?

【感想】

 浪巫謠とはどういうキャラか説明すると「CV.西川貴教」なんですね。だから「ニトロプラスの深夜アニメ」×「台湾の人形劇」というかけ算にさらに「全編T.M.レボリューションのMV」が加わって何を見ているのかクラクラしてくる。話は一本調子に戦い続け、歌い続け、澤野劇伴が煽り続ける、クドい時のジョン・ウーみたいなノリ。

 ひたすら西川貴教東山奈央のデュエットに合わせて人形が宙を舞い雑魚をなぎ倒し、妲己みたいな釘宮理恵が「嗚呼、私のウグイス~」と嘆くという、そういう奇祭。

 

『アラーニェの虫籠』

【評価】

【監督】坂本サク(アムリタの饗宴)

【制作国/年】日本/2018年

【概要】『イノセンス』などに参加していた坂本サクが単独で生み出したフィルム。奇怪な殺人や心霊現象が多発する校外都市。超マンモス団地に引っ越してきた女子大生りんは、次第に気味の悪い虫が死体から飛び出す光景を目撃。目の錯覚かとも思うが、凶器を振り回した人間に突如追い詰められる。一体ここで何が起こっているのか……。

【感想】

 「Jホラー全部まとめました」みたいな意欲作。それはオマージュが目的ではなく、むしろ溢れ出るイマジネーションを既存の作品というガワで抑制している印象。監修に低予算ホラーを支えてきた福谷修監督を入れるしたたかさ。

 突如飛躍するリアリティライン、雰囲気や距離感さえ一変させる空間、意味不明な筈なのに映像としてはショッキングさが明瞭なイマジネーション。と、アニメーションならではの魅力に満ちている。

 たしかに終盤の展開を「どういうこと?」と訊かれても答えられないのだけど、それで本作の映画的な魅力は削がれないし、ホラーアニメというまだまだ未開拓のジャンルをこうして開拓している作家の存在が頼もしい。

 

ゼーガペインADP

【評価】

【監督】下田正美魔法遣いに大切なこと

【制作国/年】日本/2016年

【概要】『ゼーガペイン』10周年を記念して公開された劇場版。本編のSF設定を逆手に取り、素材としては本編の総集編でありながら「ループしている前日譚」という異色のストーリーが展開される。千葉県舞浜南高校。海辺の都市で展開する、水泳部や自主映画撮影を中心とした眩しい日々。並行して繰り返される、崩壊した世界での絶望的な戦い。やがて高校生ソゴル・キョウは「真実」に気づくが――。

【感想】

 見終わるまで前日譚だと気づかなかった

 そのくらい本編の記憶が薄れているのもあるけれど、要は『ゼーガペイン』というアニメは曖昧模糊とした世界という不確かな印象の中で、唯一確かな胸の裡に宿る痛み(切なさ)という実存の話をしているので、全体像はフワッとしても成立するのだ。

 ビックリするほど展開が緩慢だし、主人公の大事な気づきのシーンがイチイチ省略されてるのでドラマとしても弱いのに、ありふれた日々の儚さは存分に伝わってくる。夜のプールサイド良かったな。

 正直ゼーガペインってOPとEDが本編だと思ってたので、両方使わなくてもちゃんとゼーガペインなんだなぁと感心していました(でも特殊ED『and you』は使うので余計前日譚だとは思えなかった)。

 見終わった後のフワフワした切なさ。後追い組ですが、それでも異様に懐かしい。

 

『映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ

【評価】A

【監督】宅野誠起(山田くんと七人の魔女)

【制作国/年】日本/2021年

【概要】同名TVアニメの前日譚『さよならフットボール』の映画化。子どもの頃は男子を率いてサッカーで活躍していた恩田希。だが成長するにつれ、女子には危険が伴うとレギュラーから外されていく。そんな中、自分よりうんと小さかった幼なじみの男子・ナメックが大きく成長してライバル校生徒として姿を現し、「女だから」と希に舐めた態度を取り始め……。

【感想】

 位置づけとしては『呪術廻戦0』なので単品映画として成立。同原作者の『四月は君の嘘』アニメ版はクオリティは流石なれど、難病という題材と感動モノローグの嵐に鼻白んでしまったのだけど、すべての演出がその真逆をいっている。作画は隙も余白も多いのに、その余白を埋めずに観客に託してある。プロの声優陣が「カリカチュアされ過ぎない」素朴な芝居をする良さもある。

 このあと主人公は女子サッカーの世界に進む訳だけれど、「男子の中で女子がサッカーすること」を現実的な問題から目を逸らさず、淡々と、しかし構成上はこの上なく何段階ものツイストを踏まえて描ききる後半、普通にサッカー映画として傑作の部類。拾いモノです。

 

『海辺のエトランゼ』

【評価】B

【監督】大橋明代(ギヴン うらがわの存在)

【制作国/年】日本/2020年

【概要】沖縄の離島、美しい海辺の民宿に暮らす小説家の卵・駿は、物憂げな島の男子高生・実央に惹かれる。しかし同性愛をカムアウトして実家を感動された身である駿は実央との距離を詰めきることなく、二人の再会までには三年の時を要する。やっと距離を縮めたかに見えたその時、駿の「婚約者」桜子が島に訪れ……。

【感想】

 一枚一枚がAORのジャケットのような紀伊カンナのイラスト世界が鮮やかにアニメ化されきっている事が地味に衝撃的な一作。もう漫画の絵とアニメの絵を区別しきれない時代。すべてが可愛いのに最後まで入り切れなかったのはゲイ同士お互いに向ける性的指向性への疑念がどうにも不自然に思えたからで、それは肉体関係をラストに置いて逆算する構成から生じた無理だったのではないか。

 

 

このシリーズは次で最後。なので、今から20本以内に、見よう見ようとしつつ見逃してた劇場版アニメはもう全部見ます。思い残しを残さない。

 

出来ればカテゴリー『映画の採点』から過去記事も辿って頂けるとご満悦至極。

不断の縦断 ー 『少女文學演劇(2) 王妃の帰還』感想

銀座・博品館劇場 3月20日(日)~27日(日)

配信:シアターコンプレックス

 

スタッフ

 

【演出・脚本】児玉明子 【原作】柚木麻子

【音楽】はるきねる 【メインテーマ・音楽監修】和田俊輔

【振付】井出恵理子 【美術】松生紘子 【照明】阿部将之 【映像】荒川ヒロキ

【制作】アプル

 

キャスト

 

【前原範子a.k.a.ノリスケ】岩田陽葵 【滝沢美姫a.k.a.王妃】上西恵

【遠藤千代子a.k.a.チヨジ】伊藤純奈

【鈴木玲子a.k.a.スーさん】小嶋紗里

【リンダ・ハルストレムa.k.a.リンダさん】長谷川里桃

【安藤晶子(ギャルグループ)】清水らら

【黒崎沙織(ゴスグループ)】後藤早紀

【伊集院詩子(お嬢様グループ)】倉持聖菜

【クラスメイト】石田彩夏 梅沢鮎実 大久保胡桃 新橋和

村上恵理菜】佐藤日向

 

【ストーリー】

それはとある女子校の中等部二年を舞台に、グループ分けされたスクールカーストの中で繰り返される断罪と下克上の物語。

中世フランス史に憧れる、カースト下位:地味グループのノリスケは、密かにマリー・アントワネットに重ねて「王妃」と見做していたクラスのボス滝沢さんが、盗難事件をきっかけに没落する様を目撃。そして滝沢さんは地味グループの中に転がり落ちてくる。

あなたはもう貴族ではないのよ。それでも高慢な振る舞い方しか知らない滝沢さんは地味グループの他の仲間:親友のチヨジ、スーさん、リンダさんとの輪を乱し、目立たぬよう生きてきたノリスケの日常を激動に晒す。

それでもノリスケはこのワガママで頭のおかしな王妃の美しさ、気高さに魅せられてもいた。

地味グループはなんとかして王妃を元通りクラスの玉座に戻し、ヒエラルキーの修復を試みるが、すべては「クラスのナンバー2」である村上恵理菜の陰謀の上にあり……

 

学園イジメものでありがちなプロットを変革の嵐に見舞われた中世フランス史と重ね、狭い箱の中でめまぐるしく権力構造が変わり続ける激動の時代としてエネルギッシュに描く視点が新鮮な原作。

ネガティブで陰湿になりかねない全ての関係性が一瞬先には交換可能となる。立ちはだかる壁はイジメでも階層でもなく、めまぐるしさ。このアンチに基するテーゼ/主人公たち地味グループの目標が「イジメ撲滅」や「カースト撤廃」ではなく「元のヒエラルキーに戻すこと」であるのも納得。

 

原作の本質は「めまぐるしさ」にあり、これを舞台では段差状の美術の中を生徒たちが休みなく昇り降りし、台詞や葛藤の大部分もミュージカルで表現することで忙しなく体現する。いや「忙しなさ」をこそ主軸として再現する。

大人のキャラは声だけになったことで、いよいよ文字通りの「箱庭」がそこに顕現し、その混乱の中を駆け巡る中心、小柄な体躯にして見事な体幹と歌唱力で移動し続けるポテンシャルの岩田陽葵という存在そのものが、固定されたかに見えたカーストを縦横無尽に縦断する、カオスの中の「点」として引き立つ。

 

クライマックス、九九組対決でもあるノリスケと恵理菜のキャットファイトがステージ前面ではなく階段最上階で行われたのが象徴的で、この時、ノリスケ自身がクラスの命運を決する「王妃」となっている。

ここで滝沢さんが二人の仲裁に階段を駆け上がることで「王妃(へ)の帰還」第一幕を果たす。

そして後日談で地味グループとして、ノリスケは今度は階段中段に横並びになり、再びひとり階段トップに立った滝沢さんに呼びかける。

ここではノリスケが元の位置に戻る=第二の「王妃(から)の帰還」が果たされる。

そして王妃はノリスケに呼びかけられ、その頂きから姿を消して終幕。

 

本作で大事なのは「ヒエラルキーなどくだらない」というお題目ではなく、「その狭い箱の中で乗り越えるべき激動の日々」は確かにそこにあり、戦い方次第では誰もが王妃になれるのだという点。

その激動を繰り返し続け、絶えず問題点をあぶりだし、断罪し、贖罪し、時に舞い戻り、常態である混沌の中で民主主義を続けていくこと。

それこそがかつての歴史の延長上に勝ち取った、正常な社会なのだ。

 

と同時に、それは激しくも眩しい「女子校」という時代への見果てぬ憧憬なのだろう。

あの時、たしかにそこに王妃はいたのだと。

 

配信で見るとプロジェクション・マッピングの映像を改めて前面に出してくる加工がしてあり、せっかく作った映像なのだからという気持ちもわかるのだけれど、やはり狭い箱の中をめまぐるしく行き交う役者の身体をもっと見せて欲しいと思いました。それこどが何より本作の主題、舞台で演じる意味なのだから。

 

舞台創造科的にはおもむろにロッカーを開けて武器(モップ)を手に取り剣戟を始める佐藤さんが面白い。たぶん恵理菜はそこまでしないだろと思うので、完全に過剰演出なのですが。九九組には得物持って欲しいもんなあ?

『P's LIVE 05 Go Love & Passion!!』感想置き場

2017.11.26 @YOKOHAMA_ARENA

 

推し達を中心に見ます。

現状、確認出来る最古の九九組のパフォーマンス映像?

「全ては繋がっているんだなぁ」という感慨が押し寄せてきました。

 

1.竹達彩奈

Cagayake!Girls

・囓りかけの林檎

Checkmate!?

・Hey! カロリーQueen

・CANDY LOVE

 

スタァライトリアルイベント登壇者ほぼ最後のミッシングピース、叶美空役こと竹達さんから開幕。

〇『けいおん!』OPテーマでポニキャンの歴史を背負い、『だがしかし』OP/EDも披露。

 

2.KiRaRe

牧野天音鬼頭明里田澤茉純立花芽恵夢岩橋由佳、空見ゆき)

・リメンバーズ!

・Do it!! PARTY!!

・君に贈るAngel Yell

 

〇『虹ヶ咲』屈指のスター、鬼頭さん。

 

3.バンドじゃないもん!

鈴姫みさこ恋汐りんご七星ぐみ望月みゆ甘夏ゆず大桃子サンライズ

METAMORISER

・キメマスター!

・Q.人生それでいいのかい?

 

4.SHOW BY ROCK!!

稲川英里日高里菜野口瑠璃子

・ハートをRock!!

・放て!どどどーん!

・×旋律-Schlehit melodis-

・青春はNon-Stop

 

〇『連れカノ』ヒロイン、日高さん。

 

5.スタァライト九九組

小山百代、三森すずこ富田麻帆相羽あいな、佐藤日向、岩田陽葵、小泉萌香、生田輝

・舞台少女心得

・願いは光になって

・Star Divine

 

伊藤彩沙さんは足首の怪我によって出演辞退。プロジェクトお披露目の場であった横浜アリーナへの九九組揃っての再出演はつまり、二年後あのライブのあの瞬間までお預けだった。。。?

〇まだ黒髪の初々しい小山さん、早口で端的なMCは今と変わらぬスタイルなれど、ものすごい緊張していて、三森さんが心配そうな眼差し。

〇プロジェクト始動したてで告知が多いので、観客が微妙にレスポンスに困っているのが面白い。

〇ひいき目でしょうが、舞台用の飽きさせないフォーメーションで動くので、ここまでの中ではダントツで見栄えが良い人たちだなーと感じました。

〇今見ると、初期曲は既にラブライブ!Saint Snowとしての知名度も高い佐藤日向さんが主役になるようなパフォーマンスが目立つ。

 そしてみんな「年々ジャンプが高くなる」と語っているけれど、最初からめちゃくちゃ高いよ!

 

〇ところで古川知宏監督自身も実は作家としての表現欲やイマジネーションの発露はほぼカットして、あくまで作品に奉仕しているといった旨を語った『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』、そう聴くと「いや、デコトラは流石に個人的なイマジネーションでしょ(笑)どこから出てきたの(笑)」となっていましたが、

 

二段に分かれるステージの真ん中を階段で渡し、背景のスクリーンとステージ上を映像と照明でギラギラにデコったライブステージ、デコトラに見える」という発見が収穫でした。

 

6.ぽにきゃんぜん部

生田善子桃河りか広瀬世華桜木夕高橋菜々美近藤玲奈高橋朋伽、新田ひより、木野双葉、植田ひかる

・ラムのラブソング

・タッチ

 

7.アギラwithカプセル怪獣's

(アギラ役飯田里穂トークゲスト:キングジョー役三森すずこ

・上々↑↑GAO!!

・KAIJUハート

 

ラブライブ!、オッドタクシーの先輩方。ウルトラ怪獣の着ぐるみ達を率いて余裕のパフォーマンス。

〇そういえばこの日、よく見ると輝ちゃんが一年後に参加することになるデレマスの同僚アイドルが八名も。

 

8.七森中☆ごらく部

三上枝織大坪由佳津田美波大久保瑠美

・ちょちょちょ!ゆるゆり☆かぷりっちょ!!!

ゆるゆりんりんりんりんりん

・いぇす!ゆゆゆ☆ゆるゆり♪♪

・ゆりゆららららゆるゆり大事件

 

〇『ゆるゆり』も三森さん出てませんでしたっけ。

 

9.MICHI

・I4U

Cry for the Truth

創傷イノセンス

・BRAVE HEART EXTRA

 

10.讃州中学勇者部

照井春佳三森すずこ内山夕実黒沢ともよ長妻樹里

・ホシトハナ

ハナコトバ

・勇気のバトン

 

スタァライト同様、全作詞を中村彼方さん。

 

11.O × T

オーイシマサヨシTom-H@ck

・Go EXCEED!!

BLOOM OF YOUTH

 

〇後々までお世話になりますお喋りクソメガネ兄さん。

 

12.内田真礼

ギミー!レボリューション

・グローリー!

・モラトリアムダンスフロア ゲスト:オーイシマサヨシ

・c.o.s.m.o.s

・Smiling Spiral

 

〇我らが『はめフラ』カタリナ様。最初と最後を田淵楽曲で挟む強さもさることながら、ここにきてライブ演出がいきなり本格化。ダンサー達を使った光の演舞も、曲の強さも、衣装に合わせて水色に染まる世界も、すべてがこの人のための舞台に染まる。

〇正直、ここまでは「推し達以外の時間ちょっと辛いな。。。現地いたら帰ってたかもな。。。」とか考えていたのですが、圧倒的なプロのライブを見せられました。

 この時からカタリナ様は推しに背中を見せてくれていたのですね。

〇個人的に『ギミー!レボリューション』が好き過ぎるので、思わぬ収穫でした。

 

13.三森すずこ

・エガオノキミヘ

・Colorful Girl

・ドキドキトキドキトキメキス♡

・ライスとぅミートゅー ゲスト:竹達彩奈

ユニバーページ

 

〇三森さん、今までの「役」の衣装から一転、上から虹色のグラデーションを白いシースルーで覆った爽やかなドレスで登場。

 

三森「今日、四回目の出演です。みんな今日、私がどこに出てたか憶えてますかー?」

(ぎこちなく数え始める)

三森「えー、まずは『レヴュースタァライト』神楽ひかり役、三森すずこ…… 続いて『怪獣娘』キングジョー役、三森すずこ…… えーっと? 『結城友奈は勇者である』東郷美森役、三森すずこ…… さあ、そして!」

くるりと翻り)

三森「――ただの、三森すずこです」

 

〇結果ほぼ三森すずこショーだったこのP's LIVE、実はタイトル命名も三森さん(ポニキャ50周年ということで、チアダンスで使われる可愛いフォントの「Go! Go!」を掛けてみたとのこと)と明かされ、ライブ限定のペンライトも『Colorful Girl』の観客参加パート「カラフルタイム」に対応したカラー配置になってると説明(このカラフルタイム、編集のマジックなのかも知れないけど、現場で参加したら本当に忘れられない光景になりそう)。

 本当に三森すずこさん、あなたが仕掛けあなたが演じるあなたのためのライブ。

 お見事ですわー。

〇カラフルな傘を持ったバックダンサー、照明、映像演出。『雨に唄えば』を想起させる世界へ。

〇『エガオノキミヘ』と『ユニバーページ』は後に𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖がtheater stageⅠでカバー。『トキメキス』は九九組が三森さんの結婚式で披露したという話でしたが(可愛い曲だけれど、振りは難解)、こうしてすべては繋がっているのだと思うと、𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖がP's LIVEに参加することで完成する円が一つあったのだなと、なるほど不参加になったことへの当人たちの悔しさが遅ればせながらより理解できたかも知れません。

 

14.ALL Artists

・Let's Go!! ~Sing For Tomorrow~

 

〇後に九九組、一柳組、Photon Maden、Peaky P-keyの参加したアニサマ2020-11 -CORORS-テーマソング『なんてカラフルな世界』の雛型のような全体曲(どちらもオーイシマサヨシ作)。

〇この後の観客前への挨拶周りも、退場も、九九組が一番最後なので、最後尾からひとつ手前の、まだド無名だったろうもえぴが大観衆を前にまったく臆さず全身で手を振り続けて、なんならちょっと最後尾の輝ちゃんも巻き添えくって残り続ける。

初々しいと呼ぶには大物の風格。

ここからこういう大舞台に無限に立ち続けるんだなと思うと、エモエモで尊みが深いです。

 

まとめ.

初々しい九九組の姿も貴重ですが、横浜アリーナをほぼ男性オタクが覆い尽くす暑苦しい世界を爽やかな色で染め上げた内田真礼三森すずこそれぞれのターンに思いがけず魅入ってしまうライブでした。すべてが強かった。