スタッフ
【監督】ジョエル・クロフォード
【脚本】ポール・フィッシャー、トミー・スワードロー
【原案】トミー・スワードロー、トム・ウィーラー
【原作】ジョバンニ・フランチェスコ・ストラパローラ『長靴をはいた猫』
【音楽】ヘイター・ペレイラ
【編集】ジェームス・ライアン
キャスト(吹替え)
【プス a.k.a.長ぐつをはいたネコ】アントニオ・バンデラス(山本耕史)
【ワンコ】ハーヴィー・ギレン(小関裕太)
【ゴルディ・ロックス】フローレンス・ピュー(中川翔子)
【ママ・ベア】オリヴィア・コールマン(魏涼子)
【ベイビー・ベア】サムソン・ケイオ(木村昴)
【ビッグ・ジャック・ホーナー】ジョン・ムレイニー(成河)
【ウルフ】ヴァグネル・モウラ(津田健次郎
【医者】アンソニー・メンデス(乃村健次)
【エシカル・バグ(おしゃべりコオロギ)】ケヴィン・マッキャン
『あらすじ』
愛くるしいモフモフにして、心はワイルドでダンディ、しかも剣を持てば、キレッキレのスゴ腕の、長ぐつをはいたネコ:プス。剣を片手に数々の冒険をし、恋もした。でも、気づいたら、9つあった命は、ラスト1つに。
急に怖くなり、レジェンドの看板を下ろして家ネコになることにしたが、「賞金首」であるプスを、刺客たちはほうってはおかない。そんな時、どんな願い事も叶う「願い星」の存在を聞き、再奮起。
命のストックを求める旅の道中、プスが出会ったのは、ネコに変装したイヌ:ワンコと、かつて結婚も考えた気まずい元カノ:キティ。プスを狙う賞金稼ぎや、「願い星」の噂を聞きつけた手強い奴らもモチロンやってきて、前途多難な予感しかない。
やれやれ、次死んだら、ほんとに終わりなのに。果たして、プスを待ち受ける「うっかり死ねない」大冒険の運命とは――!
(公式サイトより)
冒頭の、プスが今まで8回死んできた様をダイジェストで流す悪趣味かつ最高に軽快なノリと、そして「これ以上無茶したら本当にヤバイかも知れない」と、時間の有限性に気が付く普遍的な共感。身体にガタがくるとより骨身に沁みます。
この時点で「悪趣味な無茶による活劇」と「等身大の中年の心情を描く」ことが喧嘩せず両立する効率の良い、そしてワクワクの止まらない開巻。
『シュレック』は「2」までしか見ていないけれど、その「2」で初登場したプスはそこから主役のスピンオフ(前作)含めて皆勤賞で出演し続けているという。
そのキャラ付けは当然恐らくしかし確実に、声優を務めるアントニオ・バンデラスの代表作『デスペラード』と『マスク・オブ・ゾロ』を下敷きにしており、前作からその恋人として登場したキティを演じるサルマ・ハエックも当然『デスペラード』はじめバンデラスとラテン・アメリカンを盛り上げてきた筆頭役者だ。
シリーズの中での役と、役者のキャリアとが、モノ言わずともプスの「ここまで無茶をしてきたけれどもう後がない」という状況に自然な経年の深みを与えている。
本作から見てもまったく困らず面白いが、同時にシリーズ物の歴史があってこそ描ける題材にもなっている。
とても笑えない境遇からくる精神的混乱を痛ましいビジュアルで見せる「ワンコ」をコメディリリーフにしたり(マジでギリギリだから)、完全なる『死』の象徴であるウルフの存在と彼に見せるプスの怯えであったり、悪役ホーナーの今時珍しいほどの純粋悪っぷりであったり、すべてが加減なしのフルスロットルなのに破綻せず面白いのは、「願い星」が謂わば聖杯戦争の聖杯の役目を担い、誰にそれを手にする道理がある訳でもなくプス、キティ、ワンコ、ゴルディとベア一家、ホーナー、等しく群像劇としてそれを追い求める権利を持っているから、或いは持っていないから。
またプスに相対するそれぞれの役目も、ゴルディとベア一家=全力で競い合う「ライバル」(共にドラマを推進させる)、ホーナー=手段を選ばぬ圧倒的「障害」(逐次立ちふさがる)、ウルフ=追ってくる「死」という向き合うべき「恐怖」(テーマとしてプスの心に立ちはだかる壁)、と、巧妙にレイヤーを分けて飽きさせない。
ドリームワークスの培ってきた3DCGと、『スパイダーバース』以降のあえて細かくコマがオトされている*1ようなカクカクした感触でアクションのダイナミズムを伝える手法とが、交互に繰り出されるアニメの面白さ、ラテン語カバーのドアーズ(地獄の黙示録)からホーナーの部下の命投げ売り非道アドベンチャー、ラストの「やり過ぎ『続・夕陽のガンマン』」、そしてやはり一番ヤバイ造形だと思うワンコの繰り出す不憫ボケの数々。
もうずっと愉しかった。
バンデラスとサルマ・ハエックのキャリアに想い馳せつつ吹替え版で見たのだけど、ウルフ=ツダケンがいつにないほど適役だった他、宮野真守だと思って見ていたワンコが小関裕太で吃驚。
ホーナー役成河も「純粋に箍が外れている」ヤバさを出していてとても良い。
正直もうピーク時の鑑賞本数に戻ることはないだろうしその気もないのだけど、それでも昨年、十数年ぶりに失った映画館鑑賞熱を、今年もし取り戻せているとしたら、確実に本作が楽しかった記憶のお陰。
*1:語彙が無さ過ぎて知ったような言い方していますがどういう事?