スター・システム ~鬼頭明里の抑揚編~ ー 『虚構推理 Season2』感想

スタッフ

【監督】後藤圭二 【シリーズ構成】高木登

【原作】城平京 【漫画】片瀬茶柴

【キャラクターデザイン・総作画監督松本健太

【デザインワークス】梶野靖弘 【美術監督】諸熊倫子

色彩設計】大塚奈津子 【撮影監督】関谷颯人

【音響監督】山田陽 【音楽】眞鍋昭大

【制作】ブレインズ・ベース

 

キャスト

【岩永琴子】鬼頭明里 【桜川九郎】宮野真守

 

【雪女】悠木碧 【室井昌幸】古川慎

【嶋井多恵】宮寺智子 【化け猫】杉田智和

 

【音無剛一】家中宏 【音無晋】内田直哉 【藤沼耕也】てらそままさき

【音無莉音】石見舞菜香 【吹雪】川田紳司

 

【紺野和幸】土屋神葉 【沖丸美】市ノ瀬加那

【梶尾隆也】高橋広樹 【十条寺良太郎】江口拓也

 

【桜川六花】佐古真弓

 

 片目片足を失う代わりに怪異たちの「知恵の神」となり、この世の――必ずしも『人間社会の』ではなく――秩序を司ることになった女・岩永琴子と、琴子に惚れられ、人魚とくだんの肉を喰い「不死」と「未来を決定する能力」を手にしている男・桜川九郎が人と妖怪が交わり生じた事件をあくまで現実に則した形で虚構の推理で収束させていく変則ミステリ、アニメ化第二弾。

 ボリューム的に仕方ない面はあるも第一期を丸々『鋼人七瀬』編に費やしてしまった前作は些か、いやかなり、アニメには向いていなかった。

 そこで話の土台を作ればこそそこから先の事件の数々が面白くなるのに、と勝手に残念がっていたので、まさかのSeason2の存在自体まずありがたく、そして作画的になんら尖った箇所も凝った箇所もない代わり、堅実に着実にミステリの面白さを多彩なエピソード連作で綴ってくれる大満足の内容に。

 

 話の縦軸としてちょっかいをかけてくる九郎の従姉にして九郎と同様の能力を持つ六花さんの存在がありつつ、怪異と人間の恋路を描く原作でも人気の雪女編、港町で化け猫と暮らす老婆:多恵編、そして財閥:音無グループに秘められた過去を暴く長編、いずれ異なった赴きで見応えある中編三編と、一話完結の短編が散りばめられる。

 

 原作がしっかりしていて、キャストの芝居の掛け合を信頼していれば、そこまで凝った作画でなくとも面白いアニメは出来る。勿論会話の場をただ成立させ続けることにこそ真の演出の腕は必要になるのですが、そこら辺何も気にせず見れたということは確かなプロの仕事に支えられてたのでしょう。

 

 『トニカクカワイイ』『虚構推理』あたりを続けて見た時、鬼頭明里さんの発話の独特のイントネーション、「抑揚の波」が少し引っかかっていたのですが、今回はむしろ、その為にこのアニメはあるかも知れないとまで納得させられる。

 

 基本的に会話劇、というより岩永琴子の独演場であり、小説で読む文には能動的に目で追えるが、ことアニメとなると彼女の喋りに耳を惹くだけの特色がないと飽きが来てしまう。

 そこであかりんの抑揚の、決して心から感情を最大に振っているように思えない、中音域で短い周波の波をずっと持続させるような口調が、リズムが、琴子というキャラを、ひいてはアニメ版『虚構推理』という世界を絶えず生起させ続ける。

 そこにアクセントとして宮野真守の抜けるような爽やかな声があり(彼お得意の芝居を封印し、あくまでサポート、「琴子のアクセント」に撤しているのはまも本人も意図的だろう)、彼女に反射してもらう為にゲスト達は「事件の概要」という声を発するが、二期は「雪女」「多恵さん」「六花さん」と、幾つか芝居面でも華が添えられるので、メインディッシュ以外に小鉢が添えられたようなお得感が漂う。

 

 思えば『トニカクカワイイ』の司、『シャドーハウス』のケイト、『まちカドまぞく』の桃、(言うまでもない『鬼滅の刃』の禰豆子も含めてもいい)、個人的に鬼頭明里ベストアクトだと感じる役は大概が半分人外の、視聴者が踏み込みきれない「独自の理」で生きてる者だらけで、彼女の抑揚の波の、こちらに踏み込ませてくれないマイペースさがぴったり合ってたんだなと思う。

 その極めつけが、人外ではないが混乱した心理でコミュニケーションに難を抱える地方の女子高生、『安達としまむら』の安達なんだろう。

 『虹ヶ咲』の彼方ちゃんは・・・半分寝ているようなものだから、やはり彼女の抑揚の波が合っていると結構本気で思う。

 

 急に話変わって、アニメ見始めた頃に田村ゆかりさんのラジオのアーカイブを延々聴くというオタクをしており、必ずCMではレーベルメイトの宮野真守水樹奈々堀江由衣が流れ、その状況からアニメを見ると露骨な「キングレコードの政治キャスティング」というものを意識せざるをえず、一つ大人になったものでしたが、鬼頭さんはポニキャだけど、『虚構推理』シリーズEDの、毎回唐突感を覚える宮野真守の曲の露骨なタイアップ感が「懐かしの深夜アニメ」感を醸してとても良いという話。

 すると九郎に半分、宮野真守が宿ってしまうのだが、そんな風に声優が役を喰って存在することはそんなに悪いことなんだろうか、実写では当たり前の話なのにと、鬼頭明里さんの芝居の独自性と、その独自性が役に合致した時の中毒性を見るにあたって、今さらながら考え直した。

 似たようなキャスティングのマンネリは簡便だけど、岩永琴子として鬼頭明里がしゃべり出した瞬間の「待ってました!」と声を掛けたくなる魅惑のようなものなら歓迎したい。

 

 さて原作はこの後、連作形式でありながらちゃんと一つの区切りを迎えるので、正直なぜSeason2が作られたのかもよくわからないくらいなので、このまま理由は謎のままにSeason3も作られてほしい、そこに芝居的にも最大の見せ場があるのだから(「キリン」編! 更に続く傑作『雪女を斬る』編)、と、願っています。

 

 肩肘張れず気軽に見れる「ちょうどよい」アニメだった。