『スパイダーバース/アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年 アメリカ)
★★★☆☆
スタッフ
【監督】ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン 【脚本】デヴィッド・カラハム、フィル・ロード、クリス・ミラー 【音楽】ダニエル・ベンバートン
キャスト(吹替版)
アース1610(マイルスのバース)/アース65(グウェンのバース)
【マイルス・モラレス/スパイダーマン】ジャメイク・ムーア(小野賢章) 【グウェン・ステイシー/スパイダーグウェン】ヘイリー・スタインフェルド(悠木碧) 【ジェファーソン・デイビス/マイルスの父】ブライアン・タイリー・ヘイリー(乃村健次) 【リオ・モラレス/マイルスの母】ルナ・ローレン・ベレス(小島幸子) 【ジョージ・ステイシー/グウェンの父】シェー・ウィガム(上田耀司) 【ピーター・パーカー/リザード】ジャック・クエイド(岩中睦樹)
スパイダー・ソサエティ
【ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099】オスカー・アイザック(関智一) 【ジョン・B・バーカー/スパイダーマン】ジェイク・ジョンソン(宮野真守) 【ジェシカ・ドリュー/スパイダーウーマン】イッサ・レイ(田村睦心) ホバート・"ホービー”・ブラウン/スパイダーパンク】ダニエル・カルーヤ(木村昴) 【パヴィトラ・プラバカール/スパイダーマン・インディア】カラン・ソーニ(佐藤せつじ) 【ベン・ライリー/スカーレット・スパイダー】アンディ・サムバーグ(宮野真守) 【マーゴ・ケス/スパイダーバイト】アマンドラ・ステンバーグ(高垣彩陽)他多数
【ジョナサン・オーン/スポット】ジェイソン・シュワルツマン(鳥海浩輔) 【エイドリアーノ・タミーノ/ヴァルチャー】ヨーマ・タコンヌ(飛田展男)
マルチバース物多数と言っても作品毎にその取り扱い方、テーマとしての処理の仕方は千差万別なので、マルチバースを全部いっしょくたに語るのはアメコミ映画を全部いっしょくたに語るような無粋さがあると思う。
あるとは思うが、さて今回のマルチバースは、、、と解釈するの流石に脳が回転を拒否する。それは画面内情報量の多さからくる疲弊にも拠るもので、一作目で映像革命のランドマークを打ち立て後続が次々真似するようになったから、その上をいこうという力みが全編を覆って、すべて見せようとする為に展開の緩急が乏しくなってしまったのでは。
そしてこの一作目から二作目への変化と疲弊感、それでも一本丸々使って「フリ」に使われたので次回作は見るしかないやつ、、、完全に『マトリックス・リローデッド』じゃないですか。
あの時代にあそこまでの無茶が出来たのだから(ヒューゴ・ウィービング何パターン撮影したんだろう)、今のハリウッドならこのくらいやれるだろう。それでももはやあらゆるアイデアが出尽くしてしまったハリウッド映画で、映像そのものに未知の驚きを求めてワクワクする感覚、これは一体いつ以来かわからない。それこそ前作や『レゴムービー』に触れて以来で、フィル&クリスはどこまでこうした技術的な側面にも志向性を持っているのだろうか。
やたら長尺な割りに脚本の構成は「フリ」に終始しているので観客の生理があまり気持ち良くならないのは当然で、あの新しくもウェルメイドな前作の続きでこの洗練への背の向けようは戸惑うが、イチイチが長い気がする細部の中でも移民たちの屋上でのパーティーや、そこから逆さになって摩天楼を眺める二人のように、バトルじゃないシーンは気が利いていたりする。
半ばミスリードであるとは言えスポットという小物ヴィランに牽引させるのは流石に無理があったのではないか。キャラ立ては悪くないけれどヒーローとヴィランの間で展開して然るべき運命の表裏一体が今回はあくまでマイルスとグウェンの中で起こってしまっていて、更に終盤ではスパイダー・ソサエティからの逃走がメインとなってしまうので存在感が安定しない。
マイルスの物語、グウェンの物語、スポットとの闘い、スパイダー・ソサエティからの離反、それら全てが続編への引きの為にあって、シンプルに「今回はこういう筋のお話です」と把握しきれないスッキリしなさが残ってしまった。
それでも糖分多すぎなアイ・キャンディとしては味わったし、新たにスパイダーパンクという推しスパイディーが増えたのも嬉しく、お腹いっぱいになるくらいは楽しんだのは、確か。
『探偵マーロウ』(2023年 アメリカ/アイルランド/フランス/スペイン)
★★★★☆
スタッフ
【監督】ニール・ジョーダン
【脚本】ウィリアム・モハナン、ニール・ジョーダン
【原作】ベンジャミン・ブラック 【撮影】ジャビ・ヒメネス
【編集】ミック・マホン 【音楽】デヴィッド・ホームズ
キャスト
【フィリップ・マーロウ】リーアム・ニーソン 【クレア・キャヴェンディッシュ】ダイアン・クルーガー 【ドロシー・クィンキャノン】ジェシカ・ラング 【セドリック】アドウェール・アキノエ=アグバエ 【フロイド・ハンソン】ダニー・ヒューストン 【ルー・ヘンドリックス】アラン・カミング 【バーニー・オールズ】コルム・ミーニイ 【ニコ・ピーターソン】フランソワ・アルノー 【リン・ピーターソン】ダニエラ・メルシオール
私立探偵フィリップ・マーロウのもとへ、運命の美女から捜索人の依頼が届く。マーロウは淡々と聴き込み調査を開始するが、人づてを辿れば辿るほどに泥沼にハマっていく。。。というフィルム・ノワールの掟を、ちゃんと肌でクラシックを知っている巨匠ニール・ジョーダンが適切な軽さで裁いていく。
バルセロナをカリフォルニアに見立てたロケーションのカラッとした陽気さが郷愁に距離を置き、いつしか過去のノワールと二重写しでありながら半身ほど新しい時代にズレている、現代映画としてのマーロウを魅せてくれる。
過去のハリウッド・バビロンに接近しようとする映画はここ数年だけでもずいぶん沢山作られたように記憶しているが、ちょっと他とは段違いで味があったのでは。良すぎないのも含めてちょうど良い、ということを自覚して引き受けている。
前半は淡々とした積み重ねに不安になるのだけれど、ジェシカ・ラングが乗馬したままマーロウと食えない会話を始めるあたりで映画が役者の芝居の生理に乗っていく、しかし譲りはしないという駆け引きがあって、ついマーロウが聴き込みする相手の証言に耳を傾けてしまってからはもう心地良く身を委ねられたと思う。
そして最後には郷愁にもオサラバするのがいっそ潔い。
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023年 アメリカ)
★★★★☆
スタッフ
【監督・脚本】ジェームズ・マンゴールド
【脚本】ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース
(デヴィッド・コープのクレジットも見た気がします)
【原作・キャラクター創造】ジョージ・ルーカス フィリップ・カウフマン
【音楽】ジョン・ウィリアムズ
【撮影】フェドン・パパマイケル
キャスト
【ヘレナ・ショー】フィービー・ウォーラー=ブリッジ(『フリーバッグ』の人)
【ユルゲン・ウォラー】マッツ・ミケルセン(リアクションの表情が巧い)
【レナルド】アントニオ・バンデラス(気づけなかった!)
【バジル・ショー】トビー・ジョーンズ(この人のアクション初めて見た)
【テディ】イーサン・イシドール
【クレーバー】ボイド・ホルブルック 【ハウケ】オリヴィエ・リヒターズ
【ウェーバー大佐】トーマス・クレッチマン
【メイソン】シャウネット・レネー・ウィルソン
【???】ナセル・メマルツィア
1944年。インディはナチスが略奪した秘宝【ロンギヌスの槍】を友人の考古学者バジルと共に奪還しようとする最中、ナチスの科学者フォラーが偶然見つけたもう一つの秘宝【アンティキティラのダイヤル】を偶然手に入れる。
時が経ち1969年。インディは旧友の娘ヘレナから話を持ちかけられたことをきっかけに、かつて手に入れてた【アンティキティラのダイヤル】の調査を依頼される。
同時期に生き残っていたフォラーもインディに奪われたダイヤルを取り戻すべく、ナチスの残党と共に動きだそうとしていた……。
あまり評判芳しくなかったのだが、話が過去編から現在に戻って以降、一気に乗れた。
研究室に押し込んでくる悪漢たちからの逃走、デモ行進の中の追いかけっこ、異国でのチェイス、これだけ見せ場を繋げても、あれだけ細かいカット割りがすべて適切に制御されて気持ち良く視覚情報を繋いでくれる。
飛行場で既に走り出した飛行機を一度画面から外してカッティングで人物同士を繋いだ後、そのまま人物とカメラが後方に振り返るとまさにこちらが把握している位置に飛行機が進んでいる場面だとか、細かいところ沢山、こうしたゴチャゴチャしたアクションを一貫して器用に撮り続けられる職人仕事が近年非常に珍しくなったと思う。
トニー・スコット、あまり好きではないけど細かなカッティングの中のショットに作劇的意味もこめられるポール・グリーングラス、少し違うけど独特の構成美があった『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』がしいて言えば上がるか。
マイケル・ベイを映画作家として持ち上げたくないのは結局そうした細部の繋ぎがイチイチ雑だからだ。
こうした技が使えなくなる中盤以降、いかにもパブリック・イメージとしての『インディ・ジョーンズ』っぽい謎ときや洞窟探検シーンはちょっと寝てしまい、マンゴールドは万能の人だと思ってたので少し「あ、そこまで冴えてない。。。」となってしまったが、『トゥーム・レイダー ファースト・ミッション』と言い、「洞窟探検を真剣に撮るのはなんか恥ずかしいのでこんなもんで」感が漂う最近のハリウッド映画寂しい。
傑作コメディドラマ『フリーバッグ』で名前のない主人公「私」を演じたフレッシュな女優フィービー・ウォーラー=ブリッジがその地力で引っ張る。
この手の映画でヒロインが死にキャラにならないというだけで監督の手腕はわかるだろう。
そして、シリーズのことをよく理解していないので面喰らってしまったクライマックスのあまりにあまりな展開。こちらの驚きを見事に引き受けてくれるマッツ・ミケルセンの「驚いた顔」が良すぎて「まあ、アリ!」と受け入れてしまう自分がいた。
最後の最後のワンシーンも過度にしんみりせず、気持ちイイ引き上げ方をしたと思います。
『RRR』(2022年 インド)
★★★★☆
スタッフ
【監督・脚本】S・S・ラージャマウリ
【脚本】サーイ・マッダヴ・ブッラー
【原案】K・V・ヴィジャエーンドラ・プラサード
【撮影】K・K・センティル・クマール
【編集】A・スリーカル・プラサード
【音楽】M・M・キーラヴァーニ
キャスト
【ビーム】N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア
【ラーマ】ラーム・チャラン
【シータ】アーリヤー・パット
【ジェニー】オリヴィア・モリス
【スコット・バクストン総督】レイ・スティーブンソン
【キャサリン・バクストン総督夫人】アリソン・ドゥーデイ
【ラーマの父】アジャイ・デーヴガン
【ラッチュ】ラーフル・ラーマクリシュナ
【マッリ】トゥインクル・シャルマ
実は『バーフバリ』も観ていないのでやっと話題に追いつけた感。
インド映画の、すごいことは知ってるし観たい作品も沢山あるけれど上映時間に尻込みしてしまう問題を経験で突破していきたい。
近年だと例えば劇場で観た『囚人ディリ』は、こうした過剰な内容が「たった一晩の物語」として無限に時間が引き延ばされて描かれるので頭がおかしくなるかと思いましたし、一方で『オー・マイ・ゴッド!』は「宗教の欺瞞」を暴き倒しながら、そんな主人公を神様が応援するというコメディの傑作、他方『あなたの名前を呼べたなら』は身分の差、貧富の差による静謐な恋模様をこの上なく王道でロマンティックな構造を用いて仕立て上げる傑作(この年のベストでした)で、
断片的にしか触れてなくてもそれぞれのジャンルを極めようとする貪欲さがひたすら頼もしいーーと、言うことは知っていたので、もしかすると巷ほどは『RRR』にも驚かなかったかも知れない。
古典的なドラマトゥルギー、相反する二人の人物の邂逅とすれ違い、そして共闘へーーこのシンプルな軸を危機、また危機で乗り越えていく。
『ナートゥ』や、ちょっとギョッとした拷問シーンなど、ただガムシャラに長いのではなく要所要所に味変要素を配置しているあたりも『囚人ディリ』に足りなかった(あれは一本調子だからこそ笑うのだが)バランス感覚が良くて飽きさせない。
また前半のクライマックスでこの上ない見せ場を作った反動か、長尺ではありつつ、後半では物語を省略したような跡が見えて、一応「無駄に長くはしないぞ」という工夫も感じられた。
ベタだとは言うけれど、それでもある人物とある人物が初めて接点持った瞬間の異様な高まりは、久しく忘れていた根源的な物語の強さ、人間性の魅力を思い出させてもらえたような感動がある。
でも本作、何より劇場体験として幸福な記憶となっていて、
『RRR』
— 鈴木ピク😈○◇👿 (@pumpkin_crack) 2023年7月16日
レンタル始まってるのにほぼ満席だったのもビックリしたし、これが沼落ちしたリピーター達かと思ったら場内明るくなった後で近年稀にみるくらいわああっと一斉に興奮して、楽しそうに笑いながら語り出して、どうも普通に初見の観客ぽいのもビックリした
「映画館体験」として幸福でした
#RRR
— 鈴木ピク😈○◇👿 (@pumpkin_crack) 2023年7月16日
終映後、普通にストリート系の若い男性グループが興奮して声大きくなってて、
「『君の名は』越えて俺のベストだわ」
「この映画にツッコミどころがーとかいうの野暮だよな!」
「役者の肉体のポテンシャルを全開まで使い切ってるんだよお!」
なんか嬉しくなっちゃった
まだ映画館がこういう場を提供出来るんだなぁという感動がありましたね。