極彩と闇空のParty ー 『劇場版 BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!』感想

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今年から劇場鑑賞した映画の感想はこちらに残そうかなと思いましたが、いつまで続くのかはわかりません。

とりあえず新年一発目。

 

スタッフ

【総監督】柿本広大【監督】植高正典(サンジゲン

【シリーズ構成】綾奈ゆにこ【脚本】綾奈ゆにこ・後藤みどり

キャスト

Poppin'Party

【戸山香澄】愛美【花園たえ】大塚紗英【牛込りみ】西本りみ【山吹沙綾】大橋綾香【市ヶ谷有咲】伊藤彩沙

RAISE A SUILEN

【レイヤ】Raychell【ロック】小原莉子【マスキング】夏芽【パレオ】倉知玲鳳【チュチュ】紡木吏佐

Morfonica

【倉田ましろ】進藤あまね【桐ヶ谷透子】直田姫奈【広町七深】西尾夕香【二葉つくし】mika【八潮瑠唯】Ayasa

 

 武道館ライブを成功させたガールズバンド達。次なるステージ、グァムに飛び立ったのはPoppin'Party、RAISE A SUILEN、Morfonicaの三組。

 それぞれに旅先の非日常を満喫してステージに備えるが、何気なく始まった香澄たちの弾き語りに感動したマスキングが、涙を見られまいと足を浸した海でナマコに噛まれてしまい……

 

 ブシロードの稼ぎ頭であるメディアミックスIP『BanG Dream』、スピンオフ含め数多のTVシリーズを作った後、昨年怒濤の劇場版攻勢を仕掛けた後2022年元旦に公開された最新作。

 昨年前後編で公開された『Episode of Roselia』では、いかにもソシャゲシナリオめいたストーリーの厚みの無さ(筋が悪いという事ではなく、ソシャゲ上で成立してしまう、動きの芝居に欠けたドラマである為)、何より日本の多くのCG会社がそうであるように、サンジゲンのセルルックCGアニメがまだ動的スリルを維持するフィルムとして未成熟である為に半ば事故のような、私見では映画未満の代物に感じられ劇場でいたたまれなかった。

 しかし本作では見違えるほどルックの輝きが増している。舞台が日常を離れなかった前作と違いグァムに飛ぶ為、画面上の情報量が絶えず賑やか。キャラクターの芝居の幅は『Roselia』と大差ないのかも知れないが、目を奪う南国の極彩色の立体的な展開を目で追っているだけでその場その時間は持続されうる。

 話は相変わらずアニメ業界が甘え続ける『映画 けいおん!』が(ロンドンへの取材旅行で当初の主目的がブレてしまった経験をそのままシナリオに置き換え)生み出したピーキーなフォーマットの軽率な引用であり、序盤のワチャワチャはアイデアや真に旅らしいハプニングの迫真性に欠けてまったく面白くないのだが(実際に海外イベントに駆り出される声優の話す海外珍事件の方が遙かに面白くない?)、中盤、バーベキュー場での「夜の闇」の濃さとランタンの仄か明り、これがメインの少女たちや現地の人々含む複数のテーブルに渡る距離感で成立した瞬間に、全て誤魔化されるほど旅情を生み出す。

 CGアニメは巧くいけばいくほど空間に立体感を、(錯覚だが)場面に奥行きをもたらす。一方で現実には無限の奥行きがある空間を捉えた実写映画に於いては、その中で限られた空間を切り抜いた限定性の方が強固になり、一枚のショットとしての映画的な強みをもたらす。

 つまりCGアニメは実はうまくいってもいかなくても映画的ショットの強度とは作り出す画面世界が噛み合わないのだが(うまくいくと、限定性が乏しく奥行きが印象づく/うまくいかないと、その空間そのものも不成立に感じる)、その新しい映像の質感に於いての、一つの可能性を見た気がする場面だった。

 ショットとして見るのではなく、この夜空の下で制限の無いフィールドにカメラが舞い降り、共に音楽を聴いて浸っている時間。明るい場面だとその異形性を主張せざるをえないCGキャラ達が闇の中では輪郭が不明瞭になり、途端に「そこに人がいる気配」を醸しだしたことも作用している。

 この場面の静謐な転調を活かす為に前半でもドラマを作った方が良かったと思うし(TVシリーズ未見なので、もしかしたら何かあったのかも知れないが)、ここでポピパのパフォーマンスに不意に感動してしまったRASのマスキングがナマコに噛まれるというハプニング一つで後半の障害を全部用意してしまう思い切りの良さは苦笑してしまったが、こうして「夜の闇」をモノしたお陰で、既に二度に渡る『FILM LIVE』で培った怒濤のCG LIVEシーンに突入し、ステージ終え圧巻の夜空を仰いでそのままエンドロールという気持ち良い鑑賞後感に誘ってくれる。

 ドラマほぼ不在なのは作り手も承知の上で、代わりに余りに唐突な映像的起点で盛り上がりを演出する。中盤に突然視界が拓け香澄が大平原でひとり夜空を見上げるシーンが、終盤で今度はPoppin'Party揃って見上げるシーンがインサートされる。どちらも恐らく夢の中なのだが説明はなく、ただ世界が広がった実感があり、そして予感でもあり、最後には同じ光景をグァムで出会った人々が(まるで映画館のように明度を落とした暗がりの中で)、ステージの観客が、そして映画館の観客が見上げる。

 このすべてが暗闇に溶けていく幻想的な「闇」をCGで創出出来ただけでもめっけめんの、『Roselia』二部作が至れなかった映画館的感触は濃厚な一本。

 

 ところでHPの情報が圧倒的に少なくて、振り返ろうにもよくわからない点が多かったのは引っかかりました。内輪に向けて作ってるのかと醒めてしまうので良くないと思います。