書けよ/書くぞ ー 『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』感想

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スタッフ

【監督/脚本/原案】ウェス・アンダーソン

【原案】ロマン・コッポラ、ヒューゴ・ギネス、ジェイソン・シュワルツマン

【撮影】ロバート・D・イェーマン

【音楽】アレクサンドル・デスプラ

 

キャスト

【モーゼス・ローゼンターラー】ベニチオ・デル・トロシモーヌ】レア・セドゥ【ジュリアン・カダージオ】エイドリアン・ブロディ【J・K・L・ベレンセン】ティルダ・スウィントン【ルシンダ・クレメンツ】フランシス・マクドーマンドゼフィレッリティモシー・シャラメ【ジュリエット】リナ・クードリ【ボリス・ショマーズ】クリストフ・ヴァルツ【ローバック・ライト】ジェフリー・ライト【警察署長】マチュー・アマルリック【誘拐犯】エドワード・ノートン【ネスカフィエ】スティーブン・パーク【エルブサン・セザラック】オーウェン・ウィルソン【司会者】リーヴ・シュレイバーエルメス・ジョーンズ】ジェイソン・シュワルツマン【女記者】エリザベス・モス【誘拐犯の女】シアーシャ・ローナン【アバカス】ウィレム・デフォー【若き日のモーゼス】トニー・レヴォロリetcetc…【アーサー・ハウイッツアー・Jr】ビル・マーレイ

 

凝りに凝ったコレクションであり、飛び出す絵本でもあるウェスの世界。今回は何度も繰り返される場面=『「壁」を取っ払う』ことに注力して、いつもの自閉した世界のおままごとと言うより、己の箱庭を外側に開放し、理想で世界を埋め尽くしたいといった欲望、次のフェイズを感じる。

話は架空の雑誌の架空のフランス都市にある架空の別冊冊子、その最後の記事の内容がオムニバスで綴られるもので、編集長ビル・マーレイの死によって今号を最後に廃刊となる事が冒頭で報される。

ウェス作品が得意としていた、並走し続けた小さなパーティーの冒険がその柱の喪失で終わるセンチメンタルがこのオムニバス形式によって散らされ、一つ一つの挿話のオチは少しアンニュイ(本作の舞台となる都市名)でありながら、映画そのもののラストは感慨少なくしれっと終わる。

次の記事を綴るのは誰だ。ライターを特別扱いし続けた編集長の意思が世界に伝播していくよう。

好きなスタイルの映画は見終わると自分も世界のピース、画面を構成するパッチワークの一つになった気分になれて、自らの一挙手一投足をやけに得意になって振る舞ってしまうのだが、本作はその先、何かを書いている自分のことも好きになれそうな余韻を与えてくれた。

ウェス作品、いつも最終的なカタルシスは覚えつつ画面の情報量が飽和して途中でうとうとしてしまうので、今回初めて最初から最後まで快適に楽しめた気がする。脇の脇まで有名人を使うのは少々ノイズだと思いますが、それはコネクションを見せびらかしたいのではなく、遍くウェス作品は全て併せて彼と彼の仲間たちの航海なのでしょう。

序盤、そのまんま『ぼくの伯父さん』な仕掛けの画面が出てきた場面はウッキウキしました。