誕生日に映画の採点

 

近々に見た映画20本ずつまとめて採点していくシリーズ第22弾となります。

元来、映画は採点するべきではないと思っているからこそ敢えて簡単に分類しております。

一点突破出来てる作品には比較的甘め。

それでは。

 

アンビュランス』(アマプラ)

【評価】A

【監督】マイケル・ベイ(ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金)

【制作国/年】アメリカ/2022年

【概要】妻の手術の為に金が必要なウィルは、養子縁組の兄弟であるダニーに助けを請う。が、ダニーはウィルをLAで起こす銀行強盗の一味に誘うのだった。同じ頃、LAの街中を走る救急車には新人を指導するキャムが、やはりLAの街中を走るパトカーには同僚に促されて憧れの行員を口説こうと決意するザック巡査がいた。彼らの運命は救急車に詰め込まれ、LAの街を疾走していく。

【キャスト】

 救急車サイド

 ダニー:ジェイク・ギレンホール ウィル:ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世 キャム=エイザ・ゴンザレス ザックLAPD巡査=ジャクソン・ホワイト 

 その他

 モンローLAPD警部:ギャレット・ディラハント アンソン捜査官=キーア・オドネル ダズギグLAPD警部補=オリビア・スタンブーリア マークLAPD巡査 パピ=A・マルティネス

【感想】

 「映像生理が絶えず先行する」という意味でベイは圧倒的「映像作家」なのだが、同時に映像と「語り」が同期しないという点ではトニー・スコットのような「映画作家」にはならないのだ、と本作の序盤を見ていて相変わらず再確認していたのだけど(飛び交うドローンカメラがまるで効果的に位置関係を伝えない)、次第に話が救急車に集約されて走り続けるに従って、いよいよ映像と語りが合致してくる……瞬間もある。

 エピローグが長いのともうジェイク・ギレンホールのこういう演技お腹いっぱいなのはご愛敬だが面白かった。

 『バッドボーイズ2バッド』の霊柩車のくだり皆に褒めてもらえるの、やっぱり嬉しかったんだろうな。そこを二時間拡大したような映画でもありました。

 

エンゼルハート』(レンタル)

【評価】A

【監督】アラン・パーカーケロッグ博士)

【制作国/年】アメリカ/1987年

【概要】1955年、ブルックリン。私立探偵ハリー・ハウゼンに一件の依頼が入る。依頼人は謎の紳士ルイ・サイファー。依頼内容は、戦前の人気歌手ジョニーの捜索。エンゼルは第二次世界大戦後精神を病んだというジョニーの消息を辿り、やがてNYを離れてニュー・オーリンズへと向かう。魔術的な匂いの立ちこめる土地へと……。

【キャスト】ハリー・ハウゼン:ミッキー・ローク ルイ・サイファー:ロバート・デ・ニーロ マーガレット:シャーロット・ランプリング エピファニーリサ・ボネット

【感想】

 近所の蔦屋書店のレンタル部門が閉鎖されるとの事で、近所のGEOに無かった『ふしぎの国のアリス』(久しぶりに見たら悪趣味過ぎて笑う)と本作を。

 で、話はやはり『アリス』同様、もはやこれについて何を言っても意味はなく、ただ一つの邪悪な寓話として完成された一本道が強く延びて、その寓話を補強する為に丁寧な撮影が1つ1つ積み重なっていくのみ。感想自体が無粋だと思うの。

 ミッキー・ロークの色香だけでも堪能できる、スター映画としてむしろ良い。

 何重にも衝撃のベッドシーンを演じる黒人美少女リサ・ボネット、前夫がレニー・クラヴィッツで再婚相手がジェイソン・モモア(昨年離婚)、つまりゾーイ・クラヴィッツの母でそちらもまた衝撃でした。

 

ヘルドッグス』(NETFLIX

【評価】C

【監督】原田眞人

【制作国/年】日本/2022年

【概要】警官時代、スーパーでの強盗事件を見過ごした後悔と復讐から、裏社会で凄腕の男となった出月梧郎。今は警察の犬として、極道東鞘会に潜入捜査を行っていた。相棒となる室岡はその出自によって人として欠陥のある人なつっこい狂犬。極道に順応し人殺しも厭わない梧郎/現・兼高だったが、ある日を境に組織抗争が激化していく。

【キャスト】兼高/梧郎:岡田准一 室岡:坂口健太郎 恵美裏:松岡茉優 三神:金田哲 杏南:木竜麻生 熊沢:吉原光夫 大前田:大場泰正 典子:大竹しのぶ 阿内:酒向芳 土岐:北村一輝 十朱:MIYAVI 

【感想】

 いつも通り原田眞人らしい長所・短所両方溢れ返っているのだが、現代劇になるとやはり不自然で不要な箇所が悪目立ちする。面白いと言えなくもないけど、いつまでこのままなんだというストレスが最終的に買ってしまった。

 要らないでしょ。不自然な蘊蓄も、思いつきみたいなダサいニックネームの端役たちも、グルグル回ってワークショップを俯瞰してご満悦に入るみたいなカメラワークも。

 これはシンプルに削ぎ落として香港マフィア映画みたいにタイトな良さを得られる題材だったし、その為の男性俳優+大竹しのぶは揃ってた。

 「原田眞人の映画」にしようとするのが全ての間違いで、こっちは「岡田准一のアクション映画」が観たいんだよ。で、なぜ岡田のミニマルなアクションが心地良いのかの答えを突き詰めれば、原田映画の何が余分なのかも翻って気づける筈。

 まず90分にまとめてほしい。 

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 原田監督。いや遊人でもいい。みんなYouTubeで何度も見るくらいこの場面好きだよ。ここにあって今の原田映画に無いもの探して。まず役者と役者がしっかり相対して、かつクドくならない芝居。今の原田映画みたいなクドくてクサい芝居をワークショップで覚えさせられた役者、他じゃ使いものにならないでしょ。可哀想だよ。

 

エイリアン:コヴェナント』(レンタル)

【評価】A

【監督】リドリー・スコット

【制作国/年】アメリカ・イギリス/2017年

【概要】『エイリアン』前日譚『プロメテウス』の続編。2104年、大規模テラフォーミングを目的に、冷凍休眠中の2000人の入植者を連れてプロメテウス号が惑星「オリガエ6」に向けて航行する。道中、ニュートリノの衝撃波で航行用エネルギーを運用するセールが破産、船長が事故死してしまう。2000人の命を預かる14名(内アンドロイド:ウォルター一体)のクルーは『カントリー・ロード』を歌う歌声を受信し、近くの惑星に降り立つが、まるで生物の気配がなく……?

【キャスト】ウォルター/デイヴィッド:マイケル・ファスヴェンダー

 コヴェナント号

 ダニエルズ:キャサリン・ウォーターストン オラム副長:ビリー・クラダップ テネシー"ティー”:ダニー・マクブライド ロープ:デミアン・ビチル カリン:カルメン・イジョゴ ファリス:エイミー・サイメッツ リックス:ジャシー・スモレット アップワース:キャリー・ヘルナンデス コール:ウリ・ラトゥケフ ローゼンタール:テス・ハウブリック レドワード:ベンジャミン・リグビー ハレット:ナサニエル・ディーン アンカー:アレクサンダー・イングランド マザーシップAI:ローレライ・キング ジェイコブ船長:ジェイムズ・フランコ

 その他

 ピーター・ウェイランド:ガイ・ピアース エリザベス・ショウ:ノオミ・ラパス

【感想】

 久しぶりに見返した『プロメテウス』が、エイリアンではなくリドリー流残酷な神話の語りとして見ると無駄に荘厳で非常に楽しめたので、その続編を漸く鑑賞。

 (こういう幕間の特別映像もあったんですね)

www.youtube.com

 前作も今作も(ついでに前作序盤の地球のスカイ島も)、ちゃんと舞台となる惑星の自然が神々しく荘厳に、言うなれば大仰に撮られていて、中で起こることは下世話な見世物ショーだけに神話的アプローチとのギャップがくすぐられるし、しかし同時に「大きな嘘を見たいんだ」というこちらの欲望に応えてくれる。

 その巨視的視点がもはや個々の人間がコマにしか見えないという、既に長年続くリドリー・スコットの癖が悪い方に出ていてクルーがエイリアンに襲われていく過程が消化試合、というあたりはもうそういうものと諦めました。だが人を殺す際のエイリアン達の凶暴性はグロテスクながら魅力的に撮影されている。

 神(エンジニア)のプログラムが産み落とした子供たちの反逆。そこに仕組まれた異分子たちからすれば、子供たちもまたエンジニアであり、そこに反逆する為に牙を剥く。

 何より人工知能でしかないマイケル・ファスベンダー一人二役キスシーンの奇怪なエロス。そこだけが神話からこぼれ落ちる、プログラムに無い、「生きたコマ」の行動となる。生命の限界まで戦い続けるエイリアンとヒロインもまたそうなのか。

 本作がトリロジーなのであれば是非完遂して欲しいなぁ。正直もっとどうでもいい三部作がいっぱい作られてるじゃん!

 2012年、タマフルポッドキャストで宇多さんが一言「『プロメテウス』俺は好き。下俗的でさあ」っていった言葉がずっと引っかかってて、「俺は全然面白がれなかったのに宇多さんが楽しんでる。なんか悔しい……」となっていたのだけど、今はシリーズ通して楽しめたよ宇多さん!

 

妖刀物語 花の吉原百人斬り』(東映時代劇YouTube

【評価】A

【監督】内田吐夢飢餓海峡

【制作国/年】日本/1960年

【概要】機織り商家の前に刀と共に捨てられていた、頬に大きな痣のある赤ん坊。商家の夫妻は彼・次郎左右衛門を跡取りとして育て、彼は立派な商人として成長する。仕えの者達にはその優しさから信奉されるが、頬の醜い痣のせいで見合いは失敗ばかり。やがて自分のことを初めて一人の人間として扱ってくれた遊女・玉鶴に入れあげるが、懐はどんどんと寂しくなり……。

【キャスト】次郎左右衛門:片岡千恵蔵 玉鶴(八ッ橋):水谷八重子 次兵衛:水野浩 栄之丞:木村功 越後屋:原健策 おまん:沢村貞子 太郎兵衛:三島雅夫 

【感想】

 ここまで登場人物に同情を寄せるなんていつ以来かくらい次郎左右衛門さんが不憫で不憫でしょうがない映画。

 生まれつきのハンデによって陰口をたたかれ続けただろう人生で、それでもお人好しで、人生でただ一人だけ自分に優しくしてくれた女性声優……遊女に騙されながらあらん限りのお金を注ぎ、けれど決して従業員のことだって忘れた訳じゃない男。

 彼が謂わば悪い「システム」に絡め取られ、結局表面的な同情心しか寄せてなかった越後屋(最大の悪役である三島雅夫の心底憎たらしい人物造形があまりに見事なので陰に隠れるが、俺はコイツの方が嫌い)に侮蔑され、いよいよ「刀」を抜く。

 最後のブチ切れ次郎左右衛門シーンがもし黒澤時代劇ばりにスプラッターしていたら、映画史に刻まれる古典となったのではないか。

 屋形船が行き交う夜の河や、栄之丞が殺されるまでの一連のシークエンスでたっぷりと奥行き溢れるセットとエキストラの潤沢さで、これでもかってほど「圧倒的な世界の華と、そこからこぼれる陰」を映す一方、郭内のシーンは意外とくどくない。

 東映時代劇YouTubeの無料配信で見たのだけど、本作をセレクトした大友啓史監督が「演出も映像も芝居も本当にどっしりしていてチャカチャカせず、映像で全部伝えてくれる」と褒めていて、この人の中で自分の映画はどう映っているのだろうと不思議な気持ちになった(でも素敵なセレクトありがとう)。

 次郎左右衛門の気持ちに寄り添う一方、玉鶴から見た苦難というものがまた別にあったのだろうと彼女の気持ちからは距離を取っているところに深みもある。

郭の悪い奴出てこい! みんな殺してやる! 皆殺しだあ!

 

狂った野獣』(東映シアターオンライン)

【評価】A

【監督】中島貞夫沖縄やくざ戦争

【制作国/年】日本/1976年

【概要】平和な住宅街を運行する京都駅行き路線バス「京洛バス」。そこへ銀行強盗に失敗した谷村と桐野が飛び込んで来た! 野獣のように血走った目の桐野と、発狂して喚き続ける谷村。心臓の病を抱えながら食べる為にムリに働いていた運転手は顔面蒼白で事切れる寸前。乗客それぞれのストレスが沸騰する中、そこに不敵に佇む乗客・速水伸は救いのヒーローか、あるいは……? 暴走バスは平和な市街地を走り抜ける。

【キャスト】

 バス車内

 速水伸:渡瀬恒彦 桐野:片桐竜次 谷村:川谷拓三 女優志望:橘麻紀 カーラーを付けた女:中川三穂子 不倫主婦:三浦徳子 不倫教師:野口貴史 ペット連れの女:荒木雅子 老人:野村鬼笑 ギャンブル狂の男:松本泰郎 チンドン屋志賀勝、畑中怜一、丸平峰子 小学生・直樹:細井伸悟 小学生・茂男:秋山克臣 運転手:中田慎一郎(東映のロケバス運転手)

 バスの外

 岩崎美代子:星野じゅん 下坂巡査:室田日出男 北村刑事:岩男正隆 直樹の母親:松井康子 茂男の母親:富永佳代子 不倫教師の妻:星野美恵子 ラジオパーソナリティ笑福亭鶴瓶 フォークシンガー:三上寛

【感想】

 早すぎた『スピード』。『アンビュランス』が描いたような内容を半分の上映時間にギュッと圧縮し、人物誰も彼もが憤り、生命を爆発させる。バスと同時に一台のバイクもまた別箇所から駆動しており、あるキャラがバスから脱落すると本来邪魔である筈の回想シーンで「真相」を明かし、このキャラがバイクでバスに追いつき、窓から飛び込んで車内に戻って来ることで過去が現在に合流する! 映画が生き物だと知ってる脚本。

 渡瀬恒彦がこの映画の為に一週間で大型免許を取得し、ノースタントでバスを横転させた事で有名な一作。いや何故主演俳優がそんな無茶をする必要があったのかはよくわかりませんが、、、ともかくそういう野蛮な勢いが全編覆う。

 バスジャック関係なく登場人物全員に漲るバイタリティ。

 唐突に現れた機動隊員が橋の上から決死でバスに飛び降りる! 失敗! 一切話に関係なく血まみれでよろめき死ぬ! なんなんだ!

 『オトナ帝国』のバスチェイスは本作へのオマージュだったのでは。

 

101匹わんちゃん』(レンタル)

【評価】A

【監督】ケン・ピーターソン(総監督)、ハミルトン・ラスク、クライド・ジェロニミ、ウォルフガング・ライザーマン

【制作国/年】アメリカ/1961年

【概要】ロンドンの外れにあるフラット(アパート)で、売れない作曲家ロジャー・ラドクリフの飼い犬として暮らすポンゴ。ロジャーに恋人を作ろうと躍起になった結果、なんと自身もパートナー・パーディタと結ばれ、子宝に恵まれる。だが毛皮好きで強欲なパーディタの旧友クルエラ・ド・ヴィルがポンゴとパーディタの子供たちに目をつけ……。

【キャスト】ポンゴ:ロッド・テイラー パーディタ:ケイト・バウアー ロジャー・ラドクリフ:ベン・ライト(台詞)/ビル・リー(歌) アニータ・ラドクリフ:リサ・デイヴィス ナニー:マーサ・ウェントワース

 クルエラ・ド・ヴィル:ベティ・ルー・ガーソン ジャスパー:J・パット・オマリー ホーレス:フレデリックワーロック

【感想】

 トレスマシンの導入でアニメ史に残る転換点となった作品。でも、なのか、だからこそ、なのか。とにかくポスターアートのような美しい構図が前半までは無限に連なり、確実にノワールを通ってきた作り手たちがディズニーを担っていたのだとわかる中盤以降の救出作戦の、工程の順を追った段取りの犯罪映画的な匂いでワクワクさせ、最後はクルエラの強欲がスペクタクルの華を添える。無心でいつまでも見ていられる傑作。

 そして、気づきましたね。

 見た事あるつもりでいたけど『わんわん物語』と勘違いしていました。どおりで全然ミートボール食べないなーと思った!

 

沓掛時次郎 遊侠一匹』(東映時代劇YouTube

【評価】A

【監督】加藤泰(真田風雲録)

【制作国/年】日本/1966年

【概要】1928年に発表された長谷川伸の名作戯曲『沓掛時次郎』八度目にして最後の映画化。沓掛から来た旅烏の時次郎は、既にやくざな世界に嫌気が差していた。しかし旅のやくざは「一宿一飯の義理」を暗黙に課せられる時代。渋りながらも気持ちの良い男・三蔵を一騎打ちで討ち果たし、遺言でその妻子への言伝を頼まれるが……?

【キャスト】沓掛時次郎:中村錦之助 おきぬ:池内淳子 六ッ田の三蔵:東千代之介 身延の朝吉:渥美清 お葉:弓恵子 おろく:清川虹子 安兵衛:阿部九州男 太郎吉:中村信二郎 昌太郎:岡崎二朗 八丁徳:明石潮 鴻巣金兵衛:堀正夫

【感想】

 「沓掛時次郎」という古典も「股旅もの」なるジャンルがある事も「一宿一飯の義理」というシステムが此程に不可思議なものであるかも全然知らなくて、何もかも新鮮。やくざ映画隆盛の影で廃れようとしていた時代劇最後の徒花として制作されたという意地が漲り、尋常じゃなくソリッドなメロドラマ。

 冒頭、旅に同行する渥美清演じる朝吉がクレジットと共に口上(「寅さん」の原型が既に完成してる)をまくしたて旅烏の風情を伝え、振り返るともう時次郎がいない。遠く砂浜に小さな人影4つ、一斉にかぶり物を宙に投げ、次の瞬間には時次郎が全員を切り倒す!

 実はここはまだ「導入の導入」に過ぎないのだが、しかし手練れと鮮やかさが過ぎる。この先も無駄なく、しかし着実に「人斬り抜刀斎が恋に落ち、やくざの因果に呑まれるまで」をスマートな情感で伝える。

 中盤の長回し。時間流れてここまでのあらましを時次郎目線で延々と語る――その緊張感の最後に気づく異変。そこからまた一気に終幕へ。

 加藤泰お得意だというローアングルで捉える斬り合いの、戦争映画のような無情感。

 超絶大傑作。

 

エスケープルーム2:決勝戦』(アマプラ)

【評価】B

【監督】アダム・ロビテル(エスケープ・ルーム)

【制作国/年】アメリカ/2021年

【概要】命を賭けたエスケープルーム(脱出ゲーム)に参加させられた前作の生存者。トラウマを抱えながらも犯人を見つけ出そうと躍起になっていたが、ひったくりを追いかけて飛び込んだ地下鉄で再び「それ」は始まってしまう。そこに乗り合わせた乗客たちは皆な、エスケープ・ルームの生存者達だった。。。

【キャスト】ゾーイ:テイラー・ミッシェル ベン:ローガン・ミラー ネイサン:トーマス・コッケレル レイチェル:ホランド・ローデン ブリアナ:インディア・ムーア テオ:カリート・オリベロ ???:デボラ・アン・ウォール

【感想】

 見終わってみれば三部作の繋ぎ的な気配濃厚だけれど、そんな正式な「続編」作るんだという驚きと喜び。というのも前作かなり好きな民なので。デスゲームが陥りがちなグロや露悪と距離を置いた、言うなれば軽い暴力の世界。特に色彩感覚のキッチュなプロダクション・デザインがポップさの造形に一役買っている。

 悪趣味じゃなくても(いや十分に悪趣味だが)、スリルは創出できる。特に罠の張られた床の上で酔っ払い聖職者ネイサンが勝手に動き始めるシーンの、あまりにテンポの良い、出し惜しみのない緊迫感は最高だった。

 結局、今回の犠牲者も誰が次回再登場するかわからない自由度の高さがあって、わざわざ全員分の惨たらしい死体を見せられるよりはそのくらいの方が楽しい民です。

 

ライトハウス』(アマプラ)

【評価】C

【監督】ロバート・エガース(ウィッチ)

【制作国/年】アメリカ/2019年

【概要】19世紀ニューイングランド。荒波が打ち寄せれば島ごと砕けてしまいそうな灯台しかない沖の孤島に、新人灯台守のウィンズローが着任した。今日から始まる先輩灯台守の老人トーマスと二人きりの生活。情緒が不安定で横暴なトーマスに、やはり情緒が不安定なウィンズローは次第に狂わされていき。。。

【キャスト】イーフレイム・ウィンズロー:ロバート・パティンソン トーマス・ウェイク:ウィレム・デフォー 人魚:ワレリヤ・カラマン ???:ローガン・ホークス

【感想】

 ロバート・エガースの前作『ウィッチ』同様、閉鎖環境に於ける人間の不安と混沌を容赦なくあぶりだすが、ともかくアニャ・テイラー=ジョイが可哀想だった前作と違い、キャスト陣の大芝居によってむしろ滑稽味を増していく。言い換えれば二人ともどうでもよくなっていく。それを見せきるには技量が足らない。モノクロ35mmで撮影された画面はもはや「スタイルの為のスタイル」といった虚構度の高さで、かと言って品はなく、映画館で観ていればまだしも自宅で鑑賞に堪える代物ではなかった。

 

呪詛』(NETFLIXオリジナル)

【評価】B

【監督】ケヴィン・コー(ハクション!)

【制作国/年】台湾/2022年

【概要】これはルオナンが誰かに宛てて残したファウンド・フッテ―ジ。あなたはある経文を眺め、あるお経を耳にする。全てはルオナンの娘の為だという。養護施設から自宅に娘を連れ帰ったルオナンを襲う恐怖現象の数々。どうも彼女は身に覚えがあるらしい。すべては6年前、心霊調査団が興味本位で向かったある村の儀式に端を発し。。。

【キャスト】リー・ルオナン:ツァイ・ガンユエン シエ・チーミン:ガオ・インシュアン ドゥオドゥオ:ホアン・シンティン アードン:ショーン・リン アーユエン:阿Q

【感想】

 2021年、最初に予告編を見たときの「本気で怖いホラー映画の決定版が来てしまった」という衝撃は忘れられないが、実際観てみると「死ぬほど怖いし辛い現在」と「100%自業自得じゃねえか!な過去」のサンドウィッチ構成で次第に笑えてきて、久々に見たワンカットではないファウンド・フッテージ物の強引さも終始現実に引き戻してくる。

 なので思ったほど怖くはなかったのだけど、よくやりきったな、という達成感が残る。たしかにJホラーの意匠は色濃いし、日本語でTwitterしたりするケヴィン・コーは確実に影響受けてるとは思うが、同時に現在のJホラーはここまで全部てんこ盛りかつ器用に統御し世界に届けられる作品を作れはしなかった事からも、目を背けてはいけないだろうと思う。

 

左様なら今晩は』(アマプラ)

【評価】C

【監督】高橋奈月(正しいバスの見分け方)

【制作国/年】日本/2022年

【概要】同棲していた恋人に別れを告げられたサラリーマン・陽平の前に、可愛い幽霊が現れた。彼女はこの部屋の地縛霊、今まで恋人に気を遣って引っ込んでいたのだ。名前に「あ」と「い」が入っていた事しか思い出せない彼女に「愛助」と名付け、次第に打ち解けていく陽平。一方、彼を狙う同僚の果南は積極的にアプローチを仕掛けてくる。

【キャスト】愛助:久保史緒里 陽平:萩原利久 果南:小野莉奈 玲奈:永瀬莉子 みさき:中島ひろ子 不動産屋:宇野祥平

【感想】

 何も知らずアイドル映画として舐めてかかればとんだ拾い物で、愛着が湧いたかも知れない。地縛霊の物語でありながら屋内よりベランダから尾道尾道で幽霊ですよ大林監督)を一望するショットに「ここで共に見ている」二人の時間を刻印するセンスも良く、とにもかくにも久保史緒里に恋してしまう。

 久保史緒里に恋する映画という点では満点出ているのだけど(じゃあ良いのでは?)、そこに思うほど切なさが付いてきてくれず、オチに到ってはよくわからないままでモヤッとした鑑賞後感を覚えてしまった。大林映画を想起させるなら(だって尾道だし)『ふたり』や『あした』のような甘美な余韻もついでにおくれよと願う老害です。

 まったりし過ぎた間合いと終盤の尻切れトンボ等、高校生にして映画監督デビューしたという新鋭:高橋監督の今後を盛り立てていくのならこそ看過出来ない弱点も剥き出しで転がっていると思いました。

 脚本の穐山茉由監督は一昨年『シノノメ色の週末』を舞台挨拶付きで見た事があり、その作品もまたキャストは可愛くシチュエーションも魅力的なのにあと一歩の詰めが足りない気がして、そんな『シノノメ色』に比べても更に話の弱さを感じた。

 逆にラストでもっと心地良い余韻をくれたら評価は逆転したかも知れない映画。

 

セインツ ー約束の果てー』(アマプラ)

【評価】B

【監督】デヴィッド・ロウリー(ア・ゴースト・ストーリー)

【制作国/年】アメリカ/2013年

【概要】1970年代、テキサス。共に強盗を働いたカップル、ボブとルース。最後に警察に追い詰められ、ルースは警官を撃つが、ボブは妊娠している彼女の罪も被り、ひとり服役する。それから数年、娘と暮らすルースにボブが脱獄した知らせが届く。平穏に生きるかに見えたルース、そして必死に逃げるボブ、二人の心には、ずっと互いが在り続ける。

【キャスト】ボブ:ケイシー・アフレック ルース:ルーニー・マーラ パトリック:ベン・フォスター スケリット:キース・キャラダイン スウィーティー:ネイト・パーカー シルヴィー:ケンナディー・スミス&ジャクリン・スミス 通りがかりのドライバー:ラミ・マレック

【感想】

 流れるようなタッチで映画を運ぶ、風の作家ロウリーが最初に頭角を現した作品(なの?)。最初から破滅が約束されたような美女とチンピラカップルの「いるいる」という存在感や、闇の中で何も見えない銃撃戦がしかし適切な呼吸を伴っているあたりに流石ハスミン絶賛の新鋭だけあって豊かな感受性(を、どこまでも端的に収めきる抜かりなさ)は否めない。

 ただ、これそんな気取って撮るような話だろうか。昔バカやってた女のとこに昔のチンピラ彼氏がやってきて、という話だと父の脚本を息子が撮ったカサヴェテス父子の『シーズ・ソー・ラブリー』が非常に愛嬌があって好きなので、再会の遅延がサスペンスを生むのはわかるけれど、ドラマから逃げてるようにも見える。

 

眠れる森の美女』(レンタル)

【評価】A

【監督】クライド・ジェロニミ(指揮)

    ウォルフガング・ライザーマン(演出)

    エリック・ラーソン(演出)

    レス・クラーク(演出)

【制作国/年】アメリカ/1959年

【概要】ヨーロッパのとある国に、「夜明けの光」という意味を持つオーロラと名付けられた姫君が誕生した。しかし祝いの場に呼ばれなかった魔女マレフィセントがオーロラに死の呪いをかけてしまう。3人の妖精は死の呪いを辛うじて眠りと目覚めの呪いに変え、オーロラを連れて森の中に隠れ住む。3人はオーロラにブライア・ローズという仮名を付け、魔法を使わずに16年間彼女を育て上げるが……。

【キャスト】オーロラ姫/ブライア・ローズ:メアリー・コスタ 妖精フローラ:ヴェルナ・フェルトン 妖精フォーナ:バーバラ・ジョー・アレン 妖精メリー・ウェザー:バーバラ・ルディ マレフィセント:エレノア・オードリー フィリップ王子:ビル・シャーレイ ヒューバート王:ビル・トンプソン ステファン王:テイラー・ホームズ

【感想】

 この次にディズニーが手がける『101匹わんちゃん』との美術の方向性の差にビックリする、丹念に描き込まれた世界で優雅にバレエを踊るようなアニメーション。ともかく高級な良いもの見てるなという気持ちよさに浸れて、また新吹替え版にあたる三人の妖精:麻生美代子京田尚子野沢雅子の芸達者な声の競演が楽しい。

 プリンセスと王子の話は『白雪姫』の20年後に同じ話やってどうするんだとなるどうでもよさで、またスタッフもそこは別にどうでもいいと思ってそうだが、代わりに7人の小人ポジションである3人の妖精が、謂わば中年女性が3人で育児をしている訳で、そんな話をアニメで見れるという楽しさがある(実写でもなくない?)し、明らかに本作が描きたい部分もそこにある。

 長年未見の間自分の中で妄想が膨らんでいた『眠れる森の美女』は、城全体がいばらで覆われ百年の眠りにつく中へと王子様がやってきて、というものだったので、なんか思ってたのと違った。。。という寂しさは少しあった。確か母親からそういう話だと聞かされてたような。そこは『いばらの王』で埋めるか。

 

プレッピー・コネクション』(アマプラ)

【評価】B

【監督】ジョセフ・カステロ

【制作国/年】アメリカ/2016年

【概要】1984年、大学予備校生が30万ドル相当のコカインを密輸し逮捕された事件を基に映画化。1980年代初頭。労働者階級のトビーは苦労人である両親のプレッシャーを背負い、奨学金で名門私立高校に入学。そこではプレッピー(富裕層の令嬢子息)達が自由気ままに振る舞い、トビーはあっという間にイジメの的、最底辺に追いやられる。だがコロンビア出身の同級生フィデルのツテでコカインを入手した事から、いけ好かない奴らに一目置かれるようになる。中でもガキ大将エリスの彼女アレックスに恋したトビーは、次第に止まらない売人稼業に邁進し……。

【キャスト】トビアス・ハメル:トーマス・マン アレックス:ルーシー・フライ エリス:ローガン・ハフマン フィデル:ギジェルモ・アリバス ベン:ロバート・ゴリー ローラ:ジェシカ・ローテ デニス:ディラン・ブルー ジェニングス先生:サム・ペイジ マイク・ハメル:ビル・セイジ イングリッド・ハメル:エイミー・ハーグリーヴス

【感想】

 そうとしか動けなかった底辺層のサバイブの危うさを、それこそデヴィッド・ロウリーのように流麗な手つきで描く。流麗過ぎてピークが判りづらくサラッと流れてしまうので埋もれたのだと思うが、この小ぶりな掌品としての欲の無さは嫌いになれない。教師から麻薬を隠す、天気雨の降り始めたコロンビアの路地で逃げ惑う、こうした瞬間のスリルの切り取り方で即物的な確かさが光る。

 ありふれた青春譚とありふれた犯罪譚を合わせた、少し不思議な位置の作品。『ソーシャル・ネットワーク』や『BRICK』といった先行作品もあるにはあるが、外れクジを引いて生まれてきた人間の悪あがきはどうしても応援したくなる。

 

ブルークリスマス(アマプラ)

【評価】A

【監督】岡本喜八ダイナマイトどんどん

【制作国/年】日本/1978年

【概要】京都で開催された国際科学者会議の場でUFOの存在を熱弁した兵藤博士が突如失踪し、ビートルズの再来と目される4人組ロックバンドの来日で熱狂がわき起こる頃、国営放送JBCの報道部員:南一矢は新しい大河ドラマのヒロインに抜擢された女優:高松夕子について、その恋人から奇怪な噂を聞かされる。「血が青い」のだという。

 一方、UFO目撃情報を担当する事になった国防庁特殊部員の沖は理髪店店員の冴子と親しくなるが、同僚のパイロット:原田が死亡したと聞かされる……そして、冴子は何かを隠していた。

【キャスト】南一矢:仲代達矢 沖退介:勝野洋 西田冴子:竹下景子 兵藤光彦:岡田栄次 南修:松田洋治 西田和夫:田中邦衛 兵藤夫人:八千草薫 高松夕子:新井春美 木所:岡田裕介 原田:沖雅也 五代報道局長(JBC):小沢栄太郎 竹入論説委員JBC):大滝秀治 沼田放送部長(JBC):中条静夫 代議士の側近:岸田森 代議士風の車椅子の男:天知茂

【感想】

 『北の国から倉本聰の渾身のオリジナル脚本を、ポスト・スターウォーズの只中にあって「特撮の無いSF大作」として作りたがった東宝田中友幸社長と、脚本読んで即クリスマスの実景を撮影しに走った岡本喜八が勢いで映画化し、後の東映社長:岡田裕介も出演しているという、何かとエポックな一作。

 田中邦衛が倉本作品に出たのは本作が初で(長い脚を大きく上げながら歩いてくる登場シーンからして印象が濃い)、アシタカこと松田洋治が子役で出ており、『踊る大捜査線君塚良一も影響を受けた作品として挙げ、何より本作のサブタイトル『BLOOD TYPE:BLUE』はエヴァにおける使徒の波長パターンに用いられている。

 UFOの存在するSF映画なので宇宙人の密かなる侵略モノと思いきや、実は陰謀映画として恐ろしい社会性を全面に押し出して強烈なラストに到る(ここもまたエヴァが某シーンでオマージュを捧げている事を思うと、岡本の写真を使いながら体制側におもねった『シン・ゴジラ』は岡本喜八への裏切りではないか)。

 突貫工事で作った感は否めず、もっとしっかり撮ってれば世界のSF史に燦然と輝く骨太映画になっただろうと思うが、その雑さによって海外ロケや戦闘機スターファイターコクピット映像、街中に突如「ブル-・クリスマス〈歌:Char)」が鳴り響くゲリラ的な撮影の魅力など、「世界規模で浸透している、普遍的な権力のやり口」の恐ろしさがより見えない恐怖として遍く空気にひた、と貼り付く。

 ほとんどを「は?」「はあ?」の台詞二つ、生返事芝居で乗り切ろうとする仲代達矢も凄いのかなんなのかだが、ここまで飄々として何も悪びれない悪:大滝秀治の芝居が良過ぎる。昔の邦画、「卑小な悪」のバリエーションが本当に多彩。それは現実と取っ組み合って闘ってる人たちにこそ見える姿なんだろうな。

 

美女と野獣(レンタル)

【評価】A

【監督】ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ

【制作国/年】アメリカ/1991年

【概要】森の奥にある城で、魔法によって野獣となった王子が孤独に暮らしていた。近くの町に住むベルはマッチョなガストンの求愛にうんざりする折、野獣に囚われた父の身代わりとして自分の身を差し出す。調度品たちに人格のある不思議なお城の中で、ベルは少しずつ野獣の心を開いていく……。

【キャスト】ベル:ペイジ・オハラ 野獣:ロビー・ベンソン モーリス:レックス・エヴァーハート ガストン:リチャード・ホワイト ル・フゥ:ジェシー・コーティ ルミエール:ジェリー・オーバック コグスワース:デヴィッド・オグデン・スティアーズ ポット夫人:アンジェラ・ランズベリー ムッシュー・ダルク:トニー・ジェイ

【感想】

 映画館で観れた実写版は本当に楽しい時間だったので話は大方知っていたけれど、それでも十分楽しい。ディズニークラシックの王道が「プリンセスと王子様の話を土台にして、脇役達を如何に愉快に動かすか」で王子様がほとんど機械仕掛けである事の真逆で、王子の苦悩と成長を主眼に据えつつ、やはりそのセットアップの中でお城の飾りや食器たちが愉快なミュージカルを綴る。色々と「これでいいのか」となった『リトル・マーメイド』の反省点を踏まえてしっかりアップデートしてる。

 何より、こんなに場面場面でアニメーターの個性みたいなもの、絵柄の違いが目立つディズニーアニメも珍しいのでは。前半のモブ達の顔とかカートゥーンぽさ全開で驚いた。

 ジェフリー・カッツェンバーグは本作のラストが気に喰わず、ディズニーを抜けた後に『シュレック』を作ったと言っているが、それはそれとして、最後「王子の顔の中に野獣の面影を見つけて安堵する」ベルの芝居が見事なので、個人的には呑み込めてしまった。

 

『シンデレラ』(レンタル)

【評価】A

【監督】ウィルフレッド・ジャクソン、ハミルトン・ラスク、クライド・ジェロニミ

【制作国/年】アメリカ/1950年

【概要】遠い昔、ある国にシンデレラという美しく優しい娘が住んでいた。しかしシンデレラを偏愛していた父親が死に、継母と二人の姉はシンデレラに厳しくあたる。そんな彼女を見守るのは、ねずみ達、それに犬に馬。動物たちはシンデレラをなんとか王子様の舞踏会に出席させようと奮闘するが、意地悪な猫ルシファーの妨害が入り……

【キャスト】シンデレラ:アイリーン・ウッズ/ヘレンネ・スタンリー(ロトスコープ俳優) トレメイン夫人(継母):エレノア・オードリー/同 ドリゼラ・トレメイン:ローダ・ウィリアムズ(同) アナスタシア・トレメイン:ルシール・ブリス(ヘレーネ・スタンリー ジャック(ねずみ)/ガス(ねずみ):ジム・マクドナルド ルシファー(猫):ジューン・フォーレイ ブルーノ(犬)アール・キーン 国王/大公:ルイス・ヴァン・ロッテン/同 プリンス・チャーミング:ウィリアム・ピップス/ジョン・フォンテイン/マイク・ダグラス(歌) フェアリー・ゴッドマザー:ヴェルナ・フェルトン

【感想】

 「プリンセスと王子様の話を土台にして、脇役達を如何に愉快に動かすか」。シンデレラに於いては動物たちが主役で、宿敵テックス・アヴェニーのルーニー・チューンズのノリをディズニー風に描いたらどうなるかといった挑戦のようにも見えた。

 メインは完全にネズミたちの前に立ちふさがる猫のルシファーという障害。シンデレラ? ほらさっさと幸せにおなりよと唐突に登場する妖精のおばあさん。

 正確に言えばルシファーにトレメイン夫人という二重の障壁があるからこそ面白いのですが。しかしディズニークラシックに出てくる「息子を結婚させたがってる忙しない国王」本当にイヤな存在だな。。。

 ふわふわし過ぎな白雪姫やオーロラに比べれば、シンデレラはそれなりに芯が強く、少し好感度が上。

 

『アテナ』Netflixオリジナル)

【評価】A

【監督】ロマン・ギャヴラス

【制作国/年】フランス/2022年

【概要】警察署が燃える。一人の少年が警官達に殺された動画が拡散し、少年の身内が暮らす団地の若者達が警察に突入したのだ。彼らはのろしを上げてマンモス団地である地元に凱旋。集う賛同者たち。包囲する国家権力。少年の兄であり警官でもあるアブデルはこの争いを止める為、団地に乗り込む。しかしやはり兄弟であるカリムは暴動を指揮し、その怒りはもう止められない。それは紛れもなく、戦争だった。

【キャスト】アブデル:ダリ・ベンサーラ カリム:サミ・スリマン モクタール:オウアシニ・エンバレク ジェロームアントニー・バジョン 

【感想】

 苛烈な長回しに継ぐ長回しで、巨大団地を巡る暴動を豪華なアトラクションとして綴る。長回しだからこそ暴力を俯瞰せず、「どちらにも正義がー」とか外野の無責任な物言いでは踏み込めない、怒りと痛みの只中にある者たちの行き場のないフラストレーションが花火となって激しく燃えて散る。

 スタッフ・キャストは本作とまるで関係ない、暴動が起こる正にその時までの団地の姿を丸ごと描こうとした『レ・ミゼラブル(2019)』の、意図せずして生まれた奇跡の続編といって過言ではないほどの自然な繋がり。だから『レ・ミゼラブル』と続けて見てください。同時にアトラクション的な長回しの混沌の中に、登場人物たちが置かれた状況の切実さを与えた『トゥモロー・ワールド』のライン。

 Netflixだと本編後にメイキングも見れるのだけど、実際に団地の住人が大量に撮影に参加し「誰がスタッフでキャストで住人かわからない」状態だったという撮影を踏まえると、今崩れ落ちようとしている(舞台となる団地は解体が決まった)「団地」そのものの最後のエネルギーが満ちている。

 偏見を助長するカス共は、いつだって現場から遠く離れた森の中で嘲笑っている。

 

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(アマプラ)

【評価】A

【監督】フレデリック・ワイズマン(パリ、オペラ座のすべて)

【制作国/年】アメリカ・フランス/2014年

【概要】ロンドン、トラファルガー広場にある世界最高峰の美術館ナショナル・ギャラリー。名だたる世界の美術館の中では小さな方だが、190年の歴史と伝統を誇るその館内には様々な西洋美術の至宝が飾られている。30年の念願を経て、巨匠ワイズマンのカメラはそこで働く人々の姿をカメラに収めるーー。

【キャスト】ナショナル・ギャラリーで働くすべての人々 ナショナル・ギャラリーを訪れるすべての人々

【感想】

 開巻、モノ言わず佇む名画の前で、清掃作業員が一人黙々と掃除機を掛けている。歴史と今の間の圧倒的な断絶。その断絶を翻訳し、今に伝えようとひたすらに言葉を紡ぐ学芸員たち、資金繰りにあくせくする経営者たち、丹念に絵画の姿を取り戻そうとする修復士たち。

 『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』がより切実に公共の場から世界を回復させようと努める人々の不断の努力を繋げたのと同様、人類の紡ぎ上げてきた芸術史を、その間に横たわる断絶を知りながら少しでも理解し、また次代へ繋げていこうとまくし立てる人々の姿を、ワイズマンは何も言わずにただ捉える。

 絵画とそれを語り、見る人々との間にある断絶が、映画とそれを見ている私との間にも存在している事が次第に立ち上ってくる。

 同化はできない。きっと理解も出来ないその「作品」に、少しでも近づこうと想像を巡らせ、手を伸ばす。「鑑賞する」という行為へのモヤを掴むような不確かさにそっと身を正す。

 ワイズマンにはそこまで明るくないので、近年の作品でひたすら被写体が「饒舌に喋ってくれる」場所を選んだその意図に思いを馳せる。

 もう猶予は無い。誠実な人の営為を讃え、繋げていくのだと。

 

 以上です、今までありがとう近所の蔦屋書店のTSUTAYA

 

「映画の採点」タグで過去記事も読んでいただければ幸いです。

このダジャレにはとっくに飽きてるのですが、継続が大事だと思うので、続けます!