遅れてきた私たちへ ー 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The STAGE 中等部- Regalia』感想

 

スタッフ

【演出】市村啓二

【脚本】江嵜大兄

 

キャスト

【高千穂ステラ】青木陽菜

【大賀美詩呂】松澤可苑

【小鳩良子】深川瑠華

【海辺みんく】久家心

【森保クイナ】佐當友莉亜

 

亜細亜翠】原田くるみ

【満鳴美アルマ】森永さくら

犀川黒美】篠原ありさ

 

【雪代晶】野本ほたる

【鳳ミチル】尾崎由香

リュウ・メイファン】竹内夢

 

【える/アンドリュー(声)】佐倉薫

 

日替わりゲスト

【愛城華恋】小山百代 【夢大路文】倉知玲鳳 【胡蝶静羽】佐々木未来

 

会場:飛行船シアター

10/22(土)ソワレ アフタートーク:小泉萌香回、観劇して来ました。

 

・一度きりの観劇

・配信未見

・リピーター多め

 の舞台なので恐らく漠然としか理解出来ていないストーリーについて細かく語ると勘違いが数々浮上してきそうなので、キャスト毎の簡単な印象と、その後の総感に留めます。

 まずトータルの感動としては、ドチャクソ面白かったです。

 

〇開場

・いつだって初めての会場は楽しい。

・イイ加減学べよという話なのだけど、また思ってしまった。

 「ずい分と小さいステージなんだなぁ」

 当然のように、観劇終えた頃にはーー

 

〇キャスト

 

・ステラ

 開巻、いきなりオペラ『夜の女王のアリア』を芝居付きで圧巻の独唱。

 これを完全に口パクだと思い込んでましたが、終演後近くのお客さんが「録音かと思ったら陽菜ちゃんが息継ぎする声がしてビックリした」と熱く語っており、帰宅後HIBIKI Styleで確認したら青木さんの特技がオペラ! そして先ほど生放送で語っておりましたが「得意としているのはイタリア語オペラだが、大学の卒業試験に選んだのがドイツ語と『夜の女王のアリア』だったので完璧にマスターしていた」、との事。

 これを見せつけつつ、ドイツから連れて来た悪霊のような黒子たち(コロスじゃない!)に苛まされるステラ、という立ち位置が、主人公補正とは真逆の非常に不安定な感情線の中心、としての座長として、新しい始まりと作風を宣言(華恋や晶やさくらではなく、柳小春のタイプ)。

 何よりリアリティラインの違いも宣言された気がする。より純演劇的空間。

 

・詩呂

 そして開巻直後から異常な至近距離で何度もステラを抱える松澤さんが様になる。当初のパッと見の写真だと女形か男形で言えば女形タイプの、可愛らしい雰囲気の方だと思っていたので、ここまでイケメン造形で来るとは思っていませんでした。何もかも非常に涼しくこなすので、一番その実力が伝わりづらい役ではあると思うのですが、すべてのコントロールが出来上がっていたからこその淀みのない涼しさなんだと思います。

 間近で見てても、もうキスするじゃんという距離がずっと。

 ステージ上でもえぴや真矢や晶様が決め顔で低音を発した時に女性客が醸し出す、独特の空気あるじゃないですか(あるんですよ)。あれを今回詩呂の出番で濃密に感じていました。

 ところで終盤、ステラと良子の会話を柱の陰から覗く詩呂、というシーン。自分は下手前方だったので見えたんですけど、角度によって姿を現すまで全然見えないのでは? 

 そういう演出ってアリなんだって、とても昂揚した事を覚えています。

 

・みんく

 ちょっと上手く言語化できないので最後に飛ばします

 

・良子

 「響枠」というか、深川さんはそこまで上手じゃなくても仕方ないのかな、そういうポジションだしと思って始まる前からどこか舐めてかかってたんですけど、この絶妙に「役としての自信のなさとマッチングした弱々しい存在感」という綱渡りを崩すことなく、変身していく終盤でその役に合わせたリアルな進化を絶妙に演じきって「リアルタイムで成長を見守った」ような実感を与えてくれるので、これ全部計算で演技してるのだとしたら天才では??? となっていました。

 通い詰めてる方によれば、実は初演時は実際にだいぶ心許なく、公演重ねるにつれてその進化が役の進化と完全に重なっていったらしく、まさに「舞台少女未満」の成長を見届けたのだという感慨があります。

 ブーメラン登場時だけプロジェクションマッピングケレン味出すのズルい!

 

・クイナ

 やはり元舞台創造科代表として応援したい佐當さん。

 全体的にずっと演技が気を張っていて、なるほど演技の基礎がない上で特訓を重ねるとこうなるんだと納得と同時にハラハラするのですが、そのハラハラ感がクイナの意固地になったポジションと重なって役と一体化しているのは演出・脚本の妙なのか、そうした演技プランなのか。

 良子といいクイナといい、こういう「計算なのか演出なのかわからない」キャスティングの絶妙さに2.5次元の積み重ねの成熟を感じました。

 ハラハラしたが最後、そこに「そういうキャラ」の人が実在してしまう。

 

・みんく

 そして、みんく…… まだ無理だ もうちょっと後で

 

・翠、アルマ、犀川先生

 いや滅茶苦茶良くない? 滅茶苦茶良かった。

 役名が投影されるアンサンブルって初めてでは。眞井・雨宮の再臨かのよう。

 彼女たちがモブではなく、「舞台少女未満」であるステラ達と並列なのだと教えてくれる。それはつまり、私たち観客ともそう差の無い……?

 そして新「先生」である篠田さん格好良い~。華あり過ぎ~。

 この三人が観客を盛り上げる役を買ったり、かと思えばドイツから追ってくる悪霊として演舞したり。

 非常に「見世物」としての舞台の面白さを魅せてくれて、事前にチェック出来ていなかった分、予想外の三人の活躍に心沸き立ちました。

 

・晶、ミチル

 時系列的にこの後エーデルで少しメンタルが崩れるとわかった上で見る王者たちの余裕。ともかく「どっしり構えて絶対負けない強者たち(疑似ヴィラン)」として、ずっと格好良い。

 晶様のランス捌きが訳わからん事になってる。アフトの小泉さん、中等部、観客、配信視聴者、みんな口を揃えて『晶のランス捌きがどんどん早くなってる、どうなってるの???』と話題にするので自分の見間違いではなかったようです。人間の動きじゃない。あの華奢な体であんな大きな武器を俊敏に。

 その後でミチルが中腰で長剣(ツーハンテッドソード)を構えニヤリと笑ってゆっくり出てくる⇒対するは三人なのにミチルに腰が引けて出てくる(つまりまず三人が後ずさりして出てきて、後からたった一人ミチルがぬるりと登場)という、これもまた王道な「強い奴」の静的演出で、晶の動的演出の後でもの凄い「ナンバーツー」として映えるしこっちもニヤけてしまった。

 こんなのアニメじゃん!って。正しい2.5次元。それもエーデル以前は「けもフレの人」でしかなかった尾崎さんがここまで舞台少女として頼もしく。

 このミチルの登場シーンがもしかすると演出単体では一番上がったかも知れない。

 

・メイファン

 エーデルを経てメイファンのシーンでは笑っていいと伝わってる為か、登場からどんなにバタバタしても観客が笑いに包まれて非常においしい役。

 彼女が日替わりゲストを受け持つことにもなるのですが、その自由度でゲストを受け止めた上で「彼女のドラマ」が起動して、結果的にエーデルのメイファンにまで別の感情を読み取ることが出来る。この構造の妙がまたたまらなかったです。

 さっきまで笑って見てたメイファンがいきなりソロで切実な想いを吐露し熱唱するの見惚れました。本当にイチイチ観客の読みの斜め上をついてくる。

 Twitter通して竹内さんのお歌のファンになっているので、不意を突かれ恍惚としておりました。

 

・胡蝶夫人

 みころんもメイファン動揺、観客がエーデルを通して「笑っていい枠」だと思っているし、みころんももう最初から「笑わせていい枠」としての自由さを満喫して。いやそもそもエーデルの時からしてそうだったけど、やりたい邦題じゃない?

 「ゲスト」という響きが良い意味でしっくり。台本などなく好き勝手やってますと感じさせる軽やかなトリックスターぶりで、そんなキャラが「私も参加しちゃおうかしら?」と大鎌構えてラストバトルに参戦してくるの、上がらない訳ないじゃない……再開したHUNTER×HUNTERにお前みたいなピエロがいるんだよ。

 

・海辺みんく

 そして、みんく。何、この、久家心さんとかいう人。

 かねてより小山百代さんが「スタァライト以前から一緒に舞台に立っていた人(或いは後輩)」と紹介する舞台少女は全員ヤベえの法則がありましたが(野本ほたる、七木奏音、高橋果鈴)、その中でも更に群を抜いて本物来たなと。

 最初からアニメじみた発声が素でキープされること。小さな体が時に宙に浮いた錯覚さえ覚えるほどカートゥーン的な動きを表現出来ていること(まだMVしかアニメが存在していない中等部なのに、アニメのみんくがそこにいて動いているよう)。

 そうしていざ殺陣が始まった時の、あの、何? グルグルの輪っかの武器。初めはその外側で敵の武器を受けて、なるほどちょっとキャプテン・アメリカ風な? と理解していたのですが、殺陣が混み入ってくるにつれて、輪っかのグルグル回転を止めないし、それを回しながら手を持ち替えるし、手も輪の外と内を入れ替え、更には相手の武器をその中に受け止めて移動まで。

 特に格好良いのはグルグル回して相手の武器を受け止めた後で、その力をそのまま応用して回転を止めずに輪の内外で手を出し入れして持ち替えて再び前に持ってくるところ。

 いや、人生でこんな殺陣の感想を映画じゃなく目の前で見たものとして語るの初めてだよ!

 冗談抜きで『チョコレート・ファイター』のジージャー初めて目にした時のような感動が、より生々しく発動していました。

 これからアクション映画の殺陣の見方も変わりそうなくらいカルチャーショックを覚えた。

 

〇ミュージカルパート

 どこにまだそれだけのスタミナが。

 本番で久家心さんの魅力に文字通り殴られてしまったので(憧れるとか可愛いとかじゃなくて、素直に実力で殴られた感じ。推しという言葉ほどロマンチックでもなく、怪物を見るように見ていた)𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖ブレードをみんく色にして振ってましたが、思いがけず佐當さんからものすごいファンサをいただけました。

 位置的にここら辺の観客へのファンサのターンと決めてあるんじゃないかなーとは思いますが、ガンくれるようなまなざしでこっち見ながら背中を反っていくという振付け。カッコイイ~。心の中の乙女が発動して射貫かれました。

 

〇終演後

 ーー当然のように、観劇終えた頃には。

 印象の中でそのステージの奥行きが果てしなく長く延び、

 「え。こんな小さいステージだったっけ?」

 と、驚愕する羽目になります。いつものパターン。

 でも、それにしても、その落差がいつになく大きかった。

 下手から見ると斜めに設置された階段が正面から見えるので、勝手に立体的な錯視を起こしていたのかも知れません。「ステージ窮屈そうだったな」という感想も見受けられるのですが、もしかすると正面から見ると窮屈だったかも知れない。

 その狭さを逆手に取った見事な美術配置だったと思います。

 

〇改めて、総感

 

 スタァライト舞台の面白さは複数のラインで因縁を深め、もうどうにも話が収集つかなくなった時に突如始まる「レヴュー」での対決、というより自己表現の解放によって不意にすべてが吹っ切れた(かのように錯覚する)痛快なカタルシスにあると思うのですが、本作はスタッフがいつもと別ラインのチームになった事もあり、非常にしっかりと話の筋を追い、レヴューとは異なる部分で感情をぶつけ合いドラマを演じ、その上で立ちはだかる先輩達に決死の抵抗を試みる。

 いつもの煙に包まれたような錯覚は、だから本作では覚えない。何故なら彼女たちはそのイリュージョンが出来る「舞台少女」にすら到らない、このとても狭い飛行船シアターで私たち観客が座っている客席のごく延長上にいる、ほんの少しステージが高いだけの、「舞台少女未満」の存在だから。

 今回実はもしかするとアニメ/舞台通して初めて?、がっつりと舞台のレッスン風景そのものが描かれる。それも題材は『ロミオとジュリエット』。そしてその芝居の違いによって新キャラクター達を紹介していく訳だけれど、この時点でもうリアリティラインがいつもより現実に寄せてあり、以降もそれが崩れることはなかった。キリンも登場しないし、走舵先生の口上もない。彼女たちは本来のオーディションにさえ立ち会えない。

 えるとアンドリューが声だけ登場し、そのことによって一気にスタァライトの世界の「横」の線が通る感動は深まったけれど。

  壮大な『劇ス』や『アルカナ・アルカディア』を終え、多くの舞台装置たる我々観客が既存のスタリラメンバー、青嵐、舞台キャラ達の展開を待ち望んでいる今、敢えて新キャラ達を舞台発で送り出す選択はあまりに困難な道としか言いようがない。

 その不安定でぎこちない一歩の実感として、この飛躍のない物語の中で立ちはだかる先輩に挑み、そして敗北する。この「遅れてきてしまった宿命」の物語が、しかし劇ス以降にスタァライトに入った私にはあまりに自然に浸透してきたのです。

 敗北を知りながら追っているんですよ、スタァライトだってもえぴだって!

 遅いもんだって。もう5年は早くファンやってたかったもん。

 でも、でもやるんだよの精神で。

 

 やったれ中等部。

 

 ここまで入ってきやすいスタァライトの舞台もしかしたら初めてかも知れないので、宣伝方法もうちょっとなんか、、、でも舞台の宣伝なんて知らないし、、、とモヤモヤしております。