空隙を跨ぐ ー 舞台『チェンソーマン ザ・ステージ』感想

 スタッフ

【脚本・演出】松崎史也【原作】藤本タツキ

【音楽】和田俊輔【振付】HIDALI【美術】松生紘子【照明】大波多秀起

【音響効果】天野高志【音響】田中嘉人【映像】荒川ヒロキ【衣装】丁螢

【ヘアメイク】水崎優里【アクション監督】栗田政明【特殊造形】林屋陽二

【歌唱指導】宗田梁市【稽古】安藤菜々子【演出助手】小林賢祐

【インティマシーコーディネーター】浅田智穂

【舞台監督】須田桃李(DDR)【技術監督】堀吉行(DDR

【制作】ネルケプランニング

 

 キャスト

【デンジ】土屋直武【アキ】梅津瑞樹【パワー】甲田まひる

【姫野】佃井皆美【東山コベニ】岩田陽葵【荒井ヒロカズ】鐘ヶ江洸

チェンソーマン】夛田将秀・仲宗根豊【ポチタ(声の出演)】井澤詩織

【サムライソード】オレノグラフィティ・吉岡将真【沢渡アカネ】新原ミナミ

【アンサンブル/ダンス】

 舟木政秀・三枝奈都紀・阿瀬川健太・古屋敷悠・山咲和也

 キッキィ・啓・ゴリキング・Charlie

【岸辺】谷口賢志【マキマ】平野綾

 

【あらすじ】

 チェンソーの悪魔』ポチタと共に

 デビルハンターとして暮らすデンジ。

 親が遺した借金返済のため、貧乏な生活を送る中、

 裏切りに遭い殺されてしまう。

 薄れる意識の中、デンジはポチタと契約し、

 悪魔の心臓を持つもの

 『チェンソーマン』として蘇る――。

 

 2023年 9月16日(土) - 10月1日 天王洲 銀河劇場

     10月6日(金) - 10月9日 京都劇場

 

 9月20日(水)、前日にチケット取って突発的に観劇しましたチェンステ。

 場所は銀河劇場。

 舞台エーデルで初めてスタァライトの舞台を生で観劇し、そしてアニメ虹ヶ咲2期で三船栞子『EMOTION』のMVにも使用された思い出の地。

 銀河劇場含むシーフォートスクエアの内装からして大好きなので弾む心。

 着席してみればほぼ最後方のほぼ端っこというポジションで、その人気ぶりに吃驚しつつ、果たしてこの席でフルに満喫出来るだろかと少々不安だったのですが……?

 

 開幕、セットいっぱいに降りた紗幕に投影されたタイトルバックをチェンソーが真っ二つに切り裂くシーンから始まり*1、ゾンビが踊ること、チェンソーマンが変身前/後と役者二人重なるように暴れること、異形の悪魔たちはしっかりマペットで演じられること等々、本作の仕掛けが2.5次元の粋を凝らした多彩なものである事が次々明示されていく。

 

 そして何よりの衝撃である舞台機構。

 三階建ての、凸凹して多面的な足場が左右に2つ。

 この2つのセットがグルグルと移動し角度を変え、各階層の壁をこれまた多面的に使って小分けして小さなプロジェクションマッピングの投影壁として利用する。

 また、2つのセットが中央で重なれば当然三階建ての豪華セットとなる。

 そんな舞台機構に目を奪われていると、いつのまにか降りていた紗幕のフルスクリーンいっぱいにドォン!と投影される映像と演出の合わせ技で「わっ!」とのけぞるほど吃驚する。

 勿論お客さん声は発しませんが、見えない吹き出しで「わっ!」ていう巨大な驚きの擬音が書き文字で宙に発生したのを見逃しませんでした。舞台であんな吃驚させられる事あるんだ。

 

 舞台機構そのものが三階建てともなるとまず迫力で、三階に人が乗ったまま移動してこちらに迫り来るともはや大型遊園地のアトラクション。それでいて役者の芝居と各ブロックに投影される映像との組み合わせ。

 舞台全体が巨大なルービックキューブとなり、天才がパズルを崩しては揃え崩しては揃えていく荒技を絶え間なく眺めている気分。

 そして、この舞台機構をところ構わず走り続けるキャスト陣ーー

 

 吃驚するくらいアニメの声に似せつつ、しかしその動きのバイタリティはアニメ以上に原作の持つエネルギーを体現して暴れ回る。なんなら原作以上に暴れ回る。

 例えばこれだけの工夫を凝らしながら、アニメではカタルシスが原作に及ばなかった永遠の悪魔戦のラストの大暴れをデンジ、チェンソーマン2人の役者が全力で暴れて血飛沫の紙吹雪?をばらまく原初的な手法で表現し、祝祭的カタルシスが生じる。

 これは正に舞台じゃなければ、人のフィジカルがなければ出来なかった事。

 パワーの「そのまま」ぶり、アキの圧巻の殺陣、そして「こんなにもドラマとしての『チェンソーマン』の主人公だったんだ」と気づかせてくれる姫パイの存在感、コベニに憑依したはるちゃん*2の飲み会シーンにまで至る細かな仕草、表情の完成度、からのスピーディな体技、元気に存在を主張すればするほど儚い荒井、『巌窟王』でもそうであったように賢志さんが自分のあくの強さを抑制することでより強者のオーラを放つ岸辺。

 そんな一同から更に一次元異なるところから声を発し、圧を放つマキマの説得力。

 

 ーーそんなキャスト陣が、左右の舞台機構が合わさった時、その二階部分を全力で駆け抜けるのだけれど。

 この時、セットとセットの間に明らかに空隙が空いているのだ。

 私は駅のホームで「ドアとホームの間に大きく空いている箇所がございます」のアナウンスが怖い人間で、いつもあの空隙に落ちてしまいそうな気がするのだけれど、それよりも大きそうな空隙が2つのセットに空いたまま、キャスト達は足下を確認することもなくその上を素通りして走り、暴れ続ける。コベニなんて空隙を跨いで派手にひっくり返ったりする。

 その空隙を跨ぐ様をハラハラと見守っている内に、彼ら彼女らはメディアの違いを超越して、紙の上のキャラクターを受肉させた生身の存在として自在に活き始める。

 

 個人的には演出の驚きは第一部がピークで、第二部はよりストレートプレイ的に役者の芝居で見せるターンに入っていく事に少しだけ物足りなさを覚えたのですが(未来の悪魔はもっとあの照明演出を過多にして劇場をディスコに変えるくらいでも良かった)。

 それでも姫パイの見せ場と幽霊のマペットの巨大な不気味さ、マキマによる圧巻の虐殺シーン、何より終盤各キャストのアクションの見せ場の連鎖と、すでに心許した空間で祭りのようなショーが続き、そしてカーテンコールの代わりに本当の祭りが始まる怒濤のエンディングへ。

 あんなのいいの!? 

 アンサンブル陣が演じる脇役達もそれぞれ見事なハマりようで、みんながあの最後のお祭りの中で楽しげに揺れている様も愉しく。

 そして余計な挨拶はなく、コベニがちょこっと顔出しして観客に退席を促す。

 

 今後他の舞台もこのエンディング真似していくんじゃないかくらい合ってましたね。

 敢えてアニメ版で印象的な主題歌の数々を一つも使わず、舞台独自の音楽に託した英断の成せる技。

 

 さて超後方の端席で観劇した懸念だったのですが、、、

 この舞台機構を用いた演出の数々や三階分のセットの上で役者が迫り来る立体感、或いは紗幕めいっぱい使ったプロジェクションマッピングの驚きーー紗幕の映像の中でカメラアングルが真上に上がり、映像が終わり紗幕がはけると同時に舞台機構が縦に裂けることで「天井が破壊された」様に錯覚させる仕掛けなど、もはや平衡感覚すら失って舞台の世界に呑まれていく*3ーー正直前方席にいたら、全ては把握出来なかったと思います。

 前にいればキャラそのものな役者たちの躍動を、後ろにいれば舞台全体を使った特殊効果の数々をフルに浴びることが出来るので、座席はまったく問題なしでした。

 まったく食えない箇所がねーな、この舞台はよー、全部食べ尽くしてやるぜー*4

 

 それと客降りのターン。

 すぐそばの通路を怯えながら歩くコベニ。立ち止まる。姫パイが楽しそうになだめて先に進む、という件を目撃できて、スタァライト#2から続くまひる、涼の関係性、はるちゃん、皆美さんの関係性とが三重映しに見えて息を呑みました。

 

 飽くことなく仕掛けが作動し続けてもはや「ザ・ライド」であるという点では実は『舞台トワツガイ』も同様で、あの舞台の飽きのこなさも相当なものだったのですが、チェンステはそこに注ぐ金と仕掛けのケタが違ったかも知れない。スタァライトの脚本家・三浦香さんがこれはもう演出だけというより全セクションがすごいのだといった最高の賛辞を呟いてたのも納得です。

 個人的に演出の松崎史也氏について知ってる情報が、春の舞台マダミスに本作のはるちゃんや賢志さんと同じ回に役者として出演し、最初から役者陣にやたらイジられてて愉快な童顔の人、という印象しかなく。

 そこで力持ちの庭師である「イワタ」と、彼女に守られるアホなボンボンといった「フミヤさん」のカップリングが可愛く印象に残っていたので、そのイメージからケタ違いの迫力をお出しされて驚く一方、あの一回りは若いキャストからもイジられる柔らかさあってこそ各セクションの実力を引き出して、こんなにも複雑にかみ合わせること出来たのかも知れません*5

 

 有り難いことにコベニのアクスタも無事入手出来たし、舞台エーデルに続いて今回も同じ回をもえぴと一緒に見ていたことが判明したし。

 ちょっとここに来て過去イチ幸福な観劇体験に出会えた気がしました。

 

 面白かったな~。。。。。。

 

*1:未だにどうやってるのかよくわからない

*2:幼少期デンジとしてアバンも飾る

*3:これらの演出がちゃんとアニメ版も踏まえたからこそ存在するのも嬉しい。いやもっとアニメ版壊すくらいでも良かったと思うけれど

*4:逆に、使いようによってはこんなに広い銀河劇場を「巨大な階段」にして使い切った舞台エーデルの大胆さ、だからこそ出来た最後の大乱闘スマッシュブラザーズの面白さにも納得

*5:そう考えると、やはり特定の才能というより各セクションの本気が緻密に噛み合った劇場版スタァライトの凄さを思い出します