全体視する ー 「舞台『DOLL』」感想

 

 スタッフ

【演出】元吉庸泰 【脚本】小林雄次 【美術】土岐研一

【原作】玉梨ネコ『リタイヤした人形師のMMO機巧叙事詩

【音楽】栗山梢【照明】萱嶋亜希子【音響効果】天野高志(RESON)

【映像】O-beron inc. 【衣装】桃木春香 【ヘアメイク】成谷充未

【振付】西川卓 【殺陣】市瀬秀和 【演出助手】佐々木昌美・櫻井真優

【舞台監督】岩淵吉能(ステージワークURAK) 【宣伝美術】前山陽子

【制作進行】アプル 【企画協力】伊藤高史

 

 キャスト

【佐倉いろは】林翔太 【ズィーク】松本幸大

【ミコト】西葉瑞希 【9号】搗宮姫奈 【ナビドール】山下朱梨

【アンサンブル】大澤信児 小熊樹 郡司敦史

  /川村理沙 渡邊彩乃 明部桃子 神目聖奈 野田沙音

(スウィング)風間涼香

【レトロ】陰山泰 【サラ】岩田陽葵 【ディアベル藤田玲

 

『あらすじ』

 人形師の家系として将来を期待されていた佐倉いろは。最高傑作の人形をついに完成させ、人形師の日本一を競う品評会で優勝、高く評価された。ところが、いろはのアトリエは何者かの放火を受け全焼。一命を取り留めたいろはだったが腕に大火傷を負い二度と人形が作れない腕になってしまう。

 ある日、謎の差出人からDギアというVRマシンが送られてくる。

 それは『DOLL’S ORDER』という仮想世界で人形を戦わせ、最強の「DOLL」を目指すというものだった。初めは人形を戦わせることに躊躇ういろはだったが、なぜか執拗にいろはを狙うズィークという男が現れ次第に戦いにのめり込んでいく。

 そんな中、現実世界では放火犯の捜索が続いていた。
 ゲーム世界と現実世界、リンクする2つの世界でズィークの目論見が明らかになった時、いろは自身も気づいていなかったズィークとの因縁の戦いが始まる。
 その先に待つのは闇か、希望かーーー。

                    (公式サイトより)

 

 22.06.04(日)渋谷区文化総合センター大和田さくらホールにて.

 

 本当に初めて訪れた大和田さくらホールの雰囲気がバリ良くて、機械仕掛けの歯車が回っているかのような音が公演前もずっと一定のリズムで鳴っているところから舞台はもう始まっていた気がします。

 まだ京都公演を控えているのであまり具体的なストーリーには触れませんが、ゲーム内にログインして進展するラノベ系原作のあらすじは本当ならもっと無機質になるか、舞台を通してゲーム性を再現する事に注力しそうなところ。

 本作は『ゲーム』よりそのゲームの特色である『ドール』の存在感に舞台全体を覆わせ、無数の操り糸が垂れたようなセット、終始踊るようにパントマイムを続けるアンサンブルのドール達、そして彼らが手にする幾つもの「フレーム」が小道具として絶えず幾つもの効果を発揮し、時に扉となり、時にフィルターとなり、時に道を作る。

 ゲーム世界に飛び込んだというよりは、リアルとゲームの境目を越えて、あらかじめより大きな運命という舞台の上でいろはの苦悩とズィークの執念が操り人形のように互いを絡め取ってる袋小路が展開している。西葉瑞希搗宮姫奈の徹底したドール芝居は背徳的な退廃美を漂わせ、ズィークに虐げられながらもの言わず舞台を支配する。その怪しさで。

 本作に興奮したのは何より、これだけ活き活きと生身の役者達が動き続けながら、非生命である(そして劇中では虐げられている)ドール達こそが場を支配しているように見えていたその逆転の磁場。

 それこそはどのような運命に打ちのめされようと「創り出すこと」をやめられない人形師達の業の結晶でもあり、観劇している間ずっと耽美な「虚構の魔」のようなものに閉じ込められている。

 

 ところで舞台側としては本作、観客の数だけ(何を見るか)「選ぶ」物語になっている、という志向を売りにしているようだけれど、自分の理解が間違ってなければ、その点には忠実な観客ではなかったと思う。

 アンサンブルがさばく幾つものフレーム、キャラクターの主観映像が背後の円形モニターに映し出される仕掛け含め、「フレームから逃れられない映画のようにどこかワンショットを切り抜くのではなく、無数のフレームすべてと共に在る」舞台の特権を謳歌していると感じられたので、ラストシーンも、そのどちらかを見るのか「選ぶ」のではなく、「すべてを見る」状態で初めて得られるカタルシスがあったなと思いました。

 

 

 キャストみんなハマり役で、けれど彼らが熱演すればするほどアンサンブルとドール2名のモノ言わぬ芝居が引き立つ作り。特に【9号】に関しては劇中「あの人」と同じ役者として認識できず、脳の認知機能がバグを起こすほど。

 もちろんお目当てのはるちゃんも安心の可愛さ。パッと見の印象とは異なるキャラで、思い出したのは『H×H』のビスケだったりします。

 ディアベルも格好良かったな~この世にここまで声よしスタイル良しお芝居良しのイケメンがいるなんて、、、という事は舞台に興味持ってからよく痛感するようにはなっていましたが、それでも新しく出会うたびに衝撃を受けております。台詞がずっと心地良かった。

 

 ↑そして実はこんな事が。付け加えると自分の列が二人しかいないのに加えて自分以降の列も客は誰もいない状態だったので、そこにわざわざ案内されて座る女性、絶対ただ者じゃないという認識ではおりましたが、「でもまぁ俺の知らない業界人とかだろう」と。

 けれど、ねえ、新田恵海さんの気配(というよりゴソゴソ音)を感じながら二時間。

 本当になんとも貴重な二時間を過ごしてしまった。今までも例えば『舞台 濱マイク』で視界に林海象監督をお見かけしながら観劇したり、舞台シークフェルトのアフトで「もえぴあそこから見てたね」ってキャストが指さすところが自分の座っているエリアだったり、マダミスの二階席で自分以外ほぼ関係者じゃないかみたいな会話に囲まれていたり、他にもちょっと怪しい関係者を見かける事は多々ありましたが、こうしたハプニングの数々も観劇体験の面白さなんですね。