斜線堂有紀『詐欺師は天使の顔をして』

 

「元の世界に戻る方法は?」

「さあ、分かりません。そろそろ元の世界が私と和解してくれるといいんですが」

 

【あらすじ】

 一世を風靡したカリスマ霊能力者・子規冴昼が失踪して三年。ともに霊能力詐欺を働いた要(かなめ)に突然連絡が入る。冴昼はなぜか超能力者しかいない街にいて、殺人の罪に着せられているのだ。容疑は"非能力者にしか動機がない”殺人。「頑張って無実を証明しないと、大事な俺が死んじゃうよ」彼はそう笑った。冴昼の麗しい笑顔に苛立ちを覚えつつ、要は調査に乗り出すが――。(裏表紙あらすじ)

 

 ラブコブラ(仮)に備えて読み始めた斜線堂有紀二冊目。一冊目『楽園とは探偵の不在なり』と本作だいぶ似ていて、所謂『特殊設定ミステリー』の一種、「ファンタジックでアンフェアな世界観のルールを(多少世界を単純化してでも)敷いて、その上でフェアなミステリをする」事。

 加えてもう一点、「主人公はホームズだがワトソンを失い、その執着で生きている」事。むしろ本作は後者の方が圧倒的に主眼で、自分にとっては「完璧な相棒」である冴昼を失った事が異常な世界(解説だと街に迷い込むとあるが、実際には別世界へと彷徨してしまう)を巡ってでも彼を求め続ける要の心の比重を大分占めている。

 今、目の前にいるワトソンくんとまた離ればなれになるかも知れない。明日にでも! ならば彼を繋ぎ留めるまで、ホームズはその知恵をフルに発揮するだろう。

 

 この要から冴昼への思い、或いは第二幕から登場するもう一組のヴァンデラ(世界彷徨者)カップルである女性二人組、どちらもその感情を「執着」と語り、決して恋愛感情だとは定義しないあたりがどうもプラスティックでフィクショナルな匂い濃厚で客観的に読めてしまう要因でもあるのだが、そうして客観視できるから推理小説としても楽しめるのだろう。

 関係性としての「BL」を壁から眺めたい人には、たった一冊とは言え下手すると深い深い沼かも知れない。

 「人間」ではなく「キャラ」として見た方が楽しめるのでしょう。なるほど、たしかに古川知宏アニメの脚本家としては(奔放なイマジネーションにちゃんと意味不明ではない理屈を与えたくて推理小説家を起用したらしい)最適。

 

・「二人殺したら天使に捕まり地獄に落とされる世界(『地獄とは~』)

・「誰もが超能力を持っていて、手を使わず物を動かせる世界(本作第一幕)

・「死んでも幽霊として復活し、死が軽んじられる世界」(本作第二幕)

 

 そんな「特殊設定」世界で起こる殺人の、「フェア」な真相とは?

 そう思って触れると非常に気軽に楽しめるかと思います。

 

 続編あるのか? 非常に人工的なキャラなので入りこめはしないのだが、まるで漫画でも捲るように要と冴昼の追いかけっこと不思議な世界の彷徨、その世界独自のルールに則ったフェアな殺人事件をまだまだ読んでいたくなりました。