このくらいのラインに ー 『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 NEXT SKY』感想

 

スタッフ

【監督・絵コンテ・演出】河村智之

【脚本】田中仁 【原案】公野櫻子

【キャラクターデザイン】横田拓巳 【コンセプトアート】ゆうろ

【デザインワークス・EDアニメーション絵コンテ・作画】めばち

美術監督】河合泰利 【色彩設計赤間三佐子

【CGディレクター】岩崎優香 【撮影監督】杉山大樹

【音響監督】長崎行男 【編集】小口理菜 【音楽】遠藤ナオキ

【EDアニメーション実写撮影・コンポジット・編集】福本達也

 

キャスト

【髙咲侑】矢野妃菜喜 【上原歩夢】大西亜玖璃

【中根かすみ】相良茉優 【桜坂しずく】前田佳織里

【朝香果林】久保田未夢 【宮下愛】村上奈津美

【近江彼方】鬼頭明里 【優木せつ菜】林鼓子

【エマ・ヴェルデ】指出毬亜 【天王寺璃菜】田中ちえ美

【三船栞子】小泉萌香 【ミア・テイラー】内田秀 【鐘嵐珠】法元明

 

【アイラ】東山奈央 【ペネロペ】各務華梨 【副会長】杉山里穂

 

【STORY】

 栞子・ミア・ランジュを加え13名となった『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』。他校も巻き込んだ祭典『第2回スクールアイドルフェスティバル』、そして同好会ファーストライブの開催ーー。進んでいく季節のなかで、メンバーたちはあるときはライバル、あるときは仲間として、それぞれの想いを胸に活動している。

 そんな中、2週間の短期留学を終えてロンドンから帰国した歩夢の隣には、スクールアイドルに憧れる短期留学生のアイラがいた。栞子をはじめとした同好会のメンバーたちは彼女の夢を応援するため、スクールアイドル体験プロジェクトを計画する。

 

 

 

 冒頭からつよつよのR3BIRTH最新曲が、なんと画面上映るはスクールアイドル達の姿ではなくフィルターのかかった背景美術と共に流れる。それがこの他愛なくも愛嬌に満ちた僅か30分の新作の、そしてアニメ虹ヶ咲が積み重ねてきた表現を、今存在している〈フィクションライン〉を物語っていると感じました。

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 という話をする前に新曲良すぎないですか? 

 Lo-Fi hiphop調のトラックにチルいラップ。OVAにフレジノいるとか言われてて虹ヶ咲でまさかと思ってたんですけど、1ヴァース目のミアやランジュが早口で捲るところ本当に瞬間KID FRESINOなんですよね。

 もしかして河村監督、この曲好き?

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 一周回って今Nujabes?みたいなトラックも、田我流もJJJだったかOMSBだったかも近年堂々とサンプリングしてるしなーとか。

 ともかく好きな女性声優追ってたら彼女が自分の好きな音楽をあちこちでやってくれるという状況ナニ、とは言えharmoeがダントツで好みだろうと思ってたのにだいぶR3BIRTH追い上げてきましただがVaVaちゃんのミステリーキッスも好き!

 

 閑話休題

 実は最終的にどれどころではなくなってしまい粗筋あまり覚えていないのですが、あくまで漠然とした印象の上で。

 パンフで大西さんも話していましたが、30分のOVAだけれど単なるファンサービスには留めず、アニメ第1期第1話でせつ菜から歩夢へと伝播したものが、歩夢から栞子へ、そして栞子からアイラへと伝播する。巷で言われるようにラブライブ!をスポ根モノと捉えるならば、『インビクタス/負けざるもの』や『THE FIRST SLAM DUNK』の様に自身のボールを隣りへ隣りへ回しながら、共感を伝播し連帯を育んでいくという、非常に地味なコンセプトが引き続き揺るぎなく継続している。

 そして2期でその伝播が新メンバーだけなく「チームの外側」にいる人たちにも拡がっていったように、今回は国を超えてアイラへ、最後にペネロペへと静かに浸透しそうな気配を見せるという、TOKIMEKIパンデミック進行形。

 

 、、、ではあったのですが、それよりずっと印象に残ってしまったのが『虹ヶ咲』という作品の特徴的な〈フィクションライン〉。

 アニメ世界内の〈リアリティライン〉ではなく、このアニメ自体が現実に対してどの程度浮遊した、あるいは密着した位相に存在しているのか。OVAの最後にその回答をお出しされた気がしました。

 

 『ラブライブ!』と言えば舞台のモデルとなる聖地との相互作用。

 無印の神田・秋葉原は些か強引に思えて当時は少し引いていたのですが、その後『サンシャイン!』で一気に静岡・沼津というローカルを舞台にして、そのローカル性も物語内に受け入れた事で土地と生きる覚悟が決まったと思います。

 本編(?)シリーズ最新作の『スーパースター!!』では青山・表参道・原宿。個人的に諸用でこの近辺によく足を運んでいたこともあり、未だかつてなくアニメ的誇張と無理なく融合する背景の使い方で、どちらかがどちらかを引き上げるのではなくWin-Winな関係を築けた幸福なタイトルだなと感じていたり。

 比べると虹ヶ咲のお台場という聖地はどうにも生活臭に乏しいというか素っ気なく、虹ヶ咲学園というマンモス校の設定もだいぶ無理あるなー、なんてハマる前は苦笑していたのですが。

 

 そうした個々の聖地とのタイアップ企画が無数に重ねられ、またこちらも実際のライブへと足を運んで虚実が混合する聖地巡礼体験を重ねて、いよいよ当初は無機質とさえ思えた「虹ヶ咲」の世界の気配をその物量によって次第に感じ始めていたんですね。

 特に、当初はアニメ化の予定はなかった=サンライズの中に十分なラインは確保されていなかったと思しき虹ヶ咲は、敢えて聖地やキャストのトリビアに纏わるイースターエッグを無数に画面に散りばめて、作品内情報が半分作品からこぼれ出て現実とリンクし、それらを視聴者が各々脳内で補填することで成立していた、そういう意味での2.5次元作品なので。

 

 次第に、素っ気なく思えたお台場周辺の光景が、その素っ気なさ故に、現実の景色とアニメの中の景色で情報量に大差ない接近を果たしていることに気づいて、『虹ヶ咲』という単語からイメージする風景がアニメなのか現実なのか曖昧になってくる。

 

 今回も前述のようにアイドルではなく実景トレースの背景美術(たぶん)で始まり、劇中では土産屋?*1で神田、沼津へも目配せし(他校の先輩スクールアイドル達を見せるのではなく、各聖地そのものがキャラクターアイコン化している)*2、そして最後にあのエンドロールへ。

 

 もはやアニメではなく実景の映像そのものが映り、そこに疑似ポラロイドカメラ風のめばちイラストが(誰かの手元映ったっけ?)かざして映される。

 

 ここ。このくらいの〈フィクションライン〉に『虹ヶ咲』はいるんだという得心がストレートに決まって、ニッコニコになってしまった。実風景とは別次元にある絵の中ではなくて、実風景の中で写真のように持ち合わせたイラストをかざして見てる、そのくらい近しいこのアニメ世界のこと。

 だからこそリアルでのキャストのパフォーマンスとアニメの中の世界を、半ば重なったほぼ同じ位相のものとして愉しめるんだ。

 そうした作品は近年増えているのだろうとは察するけれど、このエンディングにはそれを具体的に「こういう事」と見せてくれた抜けの良さがあった。

 

 さてエンディング後には、ファンから寄せられた、それぞれが今がんばっていることのメッセージが流れ、スクールアイドルからエールが贈られる。

 私の名前、ありました。

 文章は一瞬だったので読めませんでしたが、送った時のことは覚えているので大体想像つきます。

 

 記憶の中ではアイラとペネロペに応援してもらってる気がしていましたが、円盤で確認したフォロワーさんによると栞子さんが応援してくださっていたようです。

 三船栞子さんその節は本体にありがとうございました。気を引き締めて頑張る所存です。

 

 「実風景に手持ちのイラストをかざしたくらい身近な距離」に虹ヶ咲のスクールアイドル達はいて、やはりその〈フィクションライン〉に彼女たちに勇気づけられている鈴木ピクさんがいて、メッセージを送ったのだろうと理解すると、自分も作品の一部になったようでめちゃくちゃワクワクしますね。流石にキショいですか???

 

 トドメを差すように、終映後開いた入場特典でフィニッシュでした。なにが貰えるのか全然知らなかった。

 

 栞子メインで始まる新作MVと言い、たった30分、されど30分。もう一回見てこようかなーと迷うくらいには満喫いたしました。

 

 

*1:この世界の肖像権どうなってるんですかアクスタ

*2:奇しくもサ終するスクスタへの餞のようでもあった