カラフルな扉を並べて ー  harmoe 1st アルバム『It's a small world』ファースト・インプレッション

 

     『 大きくなったら、あなたは素敵なあなたになるの 』

                 ー ルーシー・ペベンシー

 

 岩田陽葵・小泉萌香の二人からなる声優ユニット𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖は、『音楽と物語はいっしょに歩く』をテーマに掲げた珍しいくらいコンセプトの明解なアーティストです。

 1stシングル『気まぐれチクタック』は「不思議の国のアリス」、2ndシングル『マイペースにマーメイド』は「リトル・マーメイド」、3rdシングル『アラビアン・ユートピアン』は「アラジン」。

 その時々で既存の「物語」が主役となり、語り部たる𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の二人はむしろ透明な存在となってそれぞれの世界を反映していきます。シングルごとにボーカルディレクションのテーマが変わっている話も象徴的。

 単に古典をなぞる訳ではなく、一度は物語として整った世界の中へと、より自由な少女たちが舞い込んでその世界で遊んでいるような、エレクトロなダンスミュージックを軸とした楽曲世界。

 毎回キャッチーな表題曲、よりその世界に耽溺していくC/W曲、さらにシングルごとの世界観で遊ぶリリースイベント「𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖 camvas session」までがセット。

 まさに音楽と物語が一体化して、一冊一冊絵本を残していくような「触れられる音楽」を構築してきました。

 

 ところが1stアルバム『It's a small world』は一枚のアルバムで世界を一周し、地域ごとに全部で10曲のコンセプトが並ぶので、特定の世界に耽溺することはありません。ともすると雑多な内容。

 その上で、ビジュアル世界として作詞家:中村彼方さんの作り上げた物語「It's a small world」を構築し、今まで開いてきた世界もまたその中の1ピースだった、というパッケージングが施されているのですが、純粋にパッケージの内側にもシンプルな物語を感じたので、うまくその話が出来ればなと思います。

 

 ※ところで𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖ティーパーティーを見ながら書いているので、まとまりなかったらごめんなさい。

 

 最初に聴いた印象としては、想像以上にライト、という事でした。絶え間ない宣伝の施策や過去のシングルで作り込んできた世界観に対して、アルバムそのものはほとんど肩肘張らずにサラッと聴ける印象*1

 世界はその質量を持たず、いとも簡単に巡ることができる。

 一つ一つの世界に耽溺せず、まるでお洋服を次から次へと着替えていくように国を渡り、世界を渡り、物語を渡る。

 浮かんできたイメージは、先が見えないウォーク・イン・クローゼットの中を、𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の二人がカラフルなドレスを次々と着こなしては歩いて行く姿でした。

 

 ポニーキャニオン制作チームが𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の二人を起用するにあたって、当然二人が『少女☆歌劇レヴュースタァライト』を通して成長し、どのような物語も演じられる、どのようなドレスも着こなせる、無色透明な舞台少女としての実力を獲得していることを前提に置いているでしょう。

 

 ここに来て、今まで主人公だった個々の「物語」ではなく、たくさんの物語を演じることが出来る、その透明な少女たちこそが本当の「主役」で、実は個々の物語ではなく「彼女たちの物語」を見ていたのだと浮き彫りになる過程がこのアルバムなのだと体感で理解できました。

 

 音楽と物語はいっしょに歩く――それを身に纏う「あなた」が引き連れて。

 

 世界一周はメタファーでもなんでもなく、舞台少女たちの日常なのかも知れない。

 では過去のシングルのようなC/Wでディープな個々の世界へより深く耽溺する醍醐味が無いのかと言えば実はそんなことはなく、スタート地点「日本」をテーマにした「一寸先は光」の軽快さから、あくまでライトに各世界の扉を覗き込んでいるように思わせておいて、気がつけば『ククタナ』までの流れでサウンドそのものは相当にディープなところまで落とし込まれていきます。

 そして既発の『マイペースにマーメイド』のアウトロからシームレスに繋がる最後の曲『セピアの虹』で、やはりこの物語の主役は「物語を纏っていた透明な語り部」たる𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖に還ってくると宣言されるのです。

 

 「ひとつ ふたつ叶えてきた記憶」を振り返りながら、無色透明に近い色褪せたセピア色の中に虹を見る時、本人たちにとって、そして恐らく𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖のみならず岩田陽葵と小泉萌香の活躍を見てきた人たちにとって、ここまで透明な少女として彼女たちが纏ってきた物語のすべてが、その後ろに長い長い軌跡を描いているさまが思い浮かぶことでしょう。

 

 それは同時に、『セピアの虹』のモチーフである『オズの魔法使い』の主題歌の一節にして重要な「虹」が、いよいよ𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の物語のピースとして換骨奪胎して使われた、今まで並行してきた過去と現在が一つに繋がったような感慨を与えてくれました。

 

 ということが言いたかったんですね、このよくわからない呟きは。

 

 ところで𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の曲には古典の語り直し、エンパワメントの側面も強く、個々の物語の世界を越えて共鳴し合う言葉が溢れています。

 

不思議の国のアリス』の世界で「囚われの迷子はもう目を覚ます」

『リトル・マーメイド』の世界で「魔女も王子もいらないわ」

『アラジン』の世界では、タイトル通りヒロインのジャスミンが大暴れするその名も『Jasmine』なんていう曲まであります*2

 

 その延長上として新曲の数々を聴き込むことも面白くて、『ヘンゼルとグレーテル』をモチーフとした『HAPPY CANDY MARCH』の中の一節、

 「恐ろしい魔女は消えてしまったわ お菓子たちは命に目を覚ます」

 が白眉だなと感じました。

 

 セピアの虹=透明な私たちの輪郭を見つけることが出来た少女たち(年齢的な意味ではなく、永遠の舞台少女的な意味で)は、次はどんなステージへ向かうのか。

 かつて迷い込んだワードロープの向こうで大冒険に繰り出し、喋るライオンと出会ったあの少女のように、無数の物語の扉をノックし、カラフルなドレスを次々着替えながら歩き続ける𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の背中をこれからも応援し続けることが出来たなら、とても幸せに思います。

 

 

 ところで今回ダントツ通常盤より限定盤がお薦めで、ついてくるBDの中、theater stage Ⅰ でスタァライトの「fly me to the star」を歌う𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖の二人を堪能出来るのですが、その歌詞が不意にこのアルバムと響き合う時に、軽く泣いてしまいました。

 

 スタァライトのファンだけど𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖にはまだ手を出していない皆さん。今が手を出すチャンス。買うてや~。ライブツアーもあるで~。

*1:まず「あっという間に聴けるアルバム」ってそれだけでスゴい好感なんですけど自分だけですかね。

*2:ガイ・リッチーによる実写版『アラジン』で新規に追加されたジャスミンの力強いテーマとも共鳴していますね