スタッフ
【監督】原恵一
【原作】辻村深月
【脚本】丸尾みほ
【ビジュアルコンセプト・孤城デザイン】イリヤ・プクシノブ
【音楽】富貴晴美
【演出】長友秀和
【美術監督】伊東広道
【美術設定】中村隆
【美術ボード】大野広司
【色彩設計】茂木孝浩
【CGアニメーションディレクター】牛田繁孝
【撮影監督】青嶋俊明、宮脇洋平
【編集】西山茂
【制作】A-1 Pictures
キャスト
【こころ】當真あみ
【リオン】北村匠海 【アキ】吉柳咲良 【スバル】板垣李光人
【フウカ】横溝菜帆 【マサムネ】高山みなみ 【ウレシノ】梶裕貴
【こころの母】麻生久美子 【喜多嶋先生】宮﨑あおい 【オオカミさま】芦田愛菜
【伊田先生】藤森慎吾 【養護の先生】滝沢カレン 【リオン(少年)】矢島晶子
【東条萌】池端杏慈 【水守実生】美山加恋 【真田美織】吉村文香
【あらすじ】
学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。
ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
期限は約1年間。戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。
そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う――。
果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか?
それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは?
(公式サイトより)
驚いた。
結構な棒立ちなのである。
元から原監督の劇場版しんちゃんに於いて原監督は引いた画で臨場感を見せることを得意とし、湯浅政明、水島努ら個性派アニメーターに作画の爆発するギャグパートを割り振ることでエンタメとして絶妙なバランスを取っていた。
しんちゃんを離れてからは原監督の謂わば地味演出が全面に出て、過剰なケレン味で動かし過ぎない、観客を受け身から能動的に映画に関与するよう促してくる淡々としたタッチがデフォルトとなる。
逆にしんちゃんでは線がシンプル過ぎてサービスを振りまかないと成立しなかったものが、作画に力を入れた単品劇場版だと、その芝居の、キャラの息づかいの、そして絵のディティールから滲み出る世界の生活臭によって、「地味だからこそ引き立つ情感」を抽出すること可能となったのである。
棒立ちだから生じる生命。
実写作品で木下恵介へのリスペクトを示した後、いよいよ「ディティールにおもねって肝心の話がわかんな過ぎる」『バースデイ・ワンダーランド』*1という珍作を経ての、最新作『かがみの孤城』。
驚いた。
結構な棒立ちなのである。
しんちゃん以降の原作品の「描き込まれた画面に棒立ちのキャラが放り込まれることで滲む情感」ではなく、「結構あっさりした作画世界の上で、棒立ちのキャラ達が並ぶ」世界。
能動的になど動けない「心」の痛みと世界への恐怖を抱えた子供たちは、豊かな世界になどいないから。
アニメが作画で描き込み過ぎてしまう日常こそが、そもそもリアルではない可能性。
その部屋には何も無かった。だから唐突に鏡かインターネットか、ともかく部屋の中から開く外の世界と繋がって、そこでもやはり棒立ちのまま見知らぬ仲間たちとコミュニケーションをかわす。
突然の冒険で身体性が目覚める*2なんて事すら経験出来ず、ただそれでも時間を重ねてフリースクール。。。じゃなかった、かがみの孤城で友好を深めていく。
棒立ちしたまま動けなくなったキミの心も、部屋の中で鏡に映りさえすれば誰かと出会えるかも知れない。だからどこにもいなくならないで。
本当に、「それしかない」という堅実で控えめな社会性の回復のステップが、ファンタジーのフィルターを借りて粛々と進められる。同時に、そうした機会に出会えて救われる子らの存在はそれこそファンタジーであり、実際に日本中に存在する数多の救われなかった子供たちに向けて、この映画の仕掛けは「言い訳」にも似た「可能性」を示唆する。
この「可能性」の具現として今なら大ヒット特典のオマケ映像が付いてくるのだが、このとても簡素なオマケのラストの一コマがあまりに良すぎて*3、これを本編に組み込んでいてくれたら文句なく傑作なのにと涙を零しながら少し惜しく感じた。
だから今すぐ劇場に駆けつけるのがお得です。
原監督が本来忌避している萌え的記号のヒロインのデザインが、むしろリアルな作画以上に所在なさげな寂寥感を見るものに与えるのは『ぼっち・ざ・ろっく!』のぼっちちゃんのよう。
ストーリー的には「そこは説明するけどもっと根本的な部分は説明しないんだ?」という仕掛けのあやふやさが少し気になったが、明かしてくれる部分に関してはタネ明かしださっさと判ってくれとばかりヒントを提示してくるカットの身も蓋も無さに苦笑。
敢えて簡素な描き込みを選んだのか、A-1がそこまでリソースを割けずに弱めの画面となってしまったのかはわからないが、結果こみ上げてくる終盤のEMOTION*4はちゃんと観客に届いている手応えを感じて、ともかく安堵しました。
ここで原監督のキャリアが終わる可能性も十分あったから、ともかくヒットして良かったというのが一番率直な感想です。